グランディング・フィナーレ

■ショートシナリオ


担当:UMA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月20日〜01月30日

リプレイ公開日:2010年01月28日

●オープニング

 パリにある宿屋『ヴィオレ』。
 冒険者ギルドの直ぐ傍と言う、かなり恵まれた立地条件であるが故に、逆に激戦区に呑まれた格好で、これまで幾度となく経営危機を迎えて来た。
 しかし、鍋料理や薬草、香水など、様々なアイディアを出して来た結果、どうにか持ち堪え、今年の冬もどうにか越せる目途が立った。
 とは言え、忙しい日と言うのはなかなか訪れず。
 その『ヴィオレ』の看板娘カタリーナ・メルカは、今日もカウンターに突っ伏し、平坦な一日を過ごしていた。
「あ〜。暇〜」
 そしてそのまま、カウンターの上をゴロゴロ転がる。
 もし客がそこに入って来たら、その行動の意味不明さに思わず出て行く事だろう。
「ごめんください‥‥」
 そんなカタリーナに、非情な声が掛けられる!
「わわわ!? 違うんですこれは違うんです! 逃げないでどうか逃げないでーっ!?」
「相変わらずダレてるなあ」
「お久し振りです」
 だが、幸いにも訪れたのは知人だった。
「ルディとララちゃん!? あー良かった‥‥って言うか、久し振りねー」
「うん。今日は泊まりに来たんだ。部屋は空いてる?」
「勿論‥‥とか言いたくないんだけどね。それじゃ、ここにサインお願い」
 シフールの冒険者ルディとフィールドワーカーの人間ララは、チェックインを済ませて二階へ向かった。
 それと入れ違いで、別の客が訪れる。
「あら? ハンナっちじゃない」
「やっほー。空いてる?」
 パリの南にある恋花の郷と言う村の踊り子、ハンナ。
 カタリーナは何度かその村を訪れており、ハンナもパリの興行の際には良くこの宿を利用してくれるお得意さんだ。
「勿論。って、言わせないでよこんな事!」
「にゃはは。ところで、ウチの村のフレイくんとはその後どーなのよ?」
「‥‥聞くな。乙女の人生にゃ語るも辛い悲恋が一つや二つやって来るものなの。おっと、安い同情ならいらないぜ。もうとっくに乗り越えたさ」
「おかえりカタりん! 待ってたよー!」
 花の独り身コンビ、ここに復活。
「うう、また傷の舐め合いかあ」 
 結成した覚えのないカタリーナは不本意ながら、友人の気の利いた励ましに感謝していた。
「ハンナお姉様〜。何処に消えてしまったのですか〜」
 そんな中、宿の外からか弱い女性の声が聞こえてくる。
 ハンナを(色んな意味で)慕う、ダンスユニット『フルール・ド・アムール』の一員だ。
「げっ、もう追いついて来た! カタりん、早く部屋、部屋!」
「‥‥なんか複雑そうね、そっちは。それじゃ『3』の部屋」
 苦笑しつつカタリーナが部屋を指定すると、ハンナは踊りながら二階へ向かって行った。
 更に、間断なく客が訪れる。
「空いているか?」
 それは、この宿を訪れる客の中ではやや異質だった。
 危険な香りを全身から発している男。
 とは言え、冒険者ギルドが直ぐ傍にあるこの宿には、時折このような人種も訪れたりする。
 カタリーナは特に気圧される事もなく、署名を求めた。
 その男は『ルートヴィヒ』と記し、指定された部屋に足音もなく上がって行った。
 その後も、猫を足元に何匹も従えた中年の男や、武器屋の男、靴職人の男、精悍な騎士、貴族夫人――――と、立て続けに客が訪れ、カタリーナは暫くぶりの忙しい時間を過ごした。
「ふ〜。労働の後の一杯は美味しいねえ」
 そして、ようやく一段落した所で、ハーブティーをすする。
 ふと、カウンターの上の2つの香水が視界に入った。
 元冒険者ギルド従業員の友達の為に作った香水。
 その友達は今、遠くにいる。
 結婚を期にパリを去ったのだ。
 渡した香水は、もう使い切っただろうか。
 それとも、ずっと持っていてくれているのだろうか。
 それを空想し、思わず微笑が零れる。
 どこか懐かしい、昔を思い出すような香り。
 そう、丁度こんな――――
「‥‥?」
 カタリーナは思わず鼻と目を疑う。
 香る筈のない香り。
 そして、目の前には――――
「カタリーナさん、久方振りですぅ」
 その友人――――フィーネがいた。
 隣には、伴侶と思しき男性を連れて。
「フィーネ‥‥本当にフィーネなの?」
「カタリーナさんのお顔が見たくてぇ、帰省の途中に寄りましたぁ」
「ああ、その間延びした声は間違いなくフィーネ! 会いたかったよー!」
「カタリーナさぁん!」
 抱き合う2人。
 必然的にカウンター越しとなる。
 その拍子に、香水が2つとも倒れて落ちて陶器の瓶が割れてしまうのは、まあなんと言うか、お約束だった。
「あああ!?」
 宿屋『ヴィオレ』が香水の匂いに蹂躙される。
「そんな‥‥思い出の香水が‥‥」
 当の本人によって踏み砕かれた。
 カタリーナはぷるぷる震え、首を何度も横に振る。
「あ、え、ええとぉ‥‥お部屋、空いてますかぁ?」
「‥‥帰れーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「すす、すいませぇ〜ん!」
 その匂いすら吹き飛ばしかねない、看板娘の怒号。
 宿屋『ヴィオレ』は、今日も元気に営業中だ。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3087 ローガン・カーティス(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb8302 ジャン・シュヴァリエ(19歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec0290 エルディン・アトワイト(34歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec4252 エレイン・アンフィニー(25歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ec4988 レリアンナ・エトリゾーレ(21歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)

●サポート参加者

エラテリス・エトリゾーレ(ec4441

●リプレイ本文

「ぷはっ!」
 ノルマンのとある場所。
 ピュール湖から、ミカエル・テルセーロ(ea1674)は蒼白の顔を出す。
 そして、息も絶え絶えに畔の薪の前に倒れ込んだ。


 −Episode 1 ”オモイ”−


 摘むと愛が報われる水中花が、水底に――――このピュール湖には、そんな伝説がある。
 ミカエルがその話を思い出したのには、理由があった。
 その理由を認めた手紙を眺め、空を仰ぐ。
「わかってた、よ」
 伝説は伝説であって、事実とは限らない事も。
 あの村の、懐の深さも。
 だからこそ、こう言う生き方になってしまっていた。
 人はそれを優しさと言ってくれる。
 しかし、そうではなかった。。
 或いは――――それを確かめたくて、冬の湖に飛び込んだのかもしれない。
 ミカエルは、虚空に手を伸ばした。
 その先に存在るのは――――人間の女の子。
 好きだと言ってくれた女の子。
 ミカエルは呟く。
 どれくらいの年月が必要かも想像出来ない、途方もない目的。
 一緒にいれば、苦労に押し潰される。
 補う為の幸せを与えられる自信もなくて。
「僕は、ちっぽけ、だから」
 呟く。
 風に乗せて。
 届くでもないのに。
「けど、好きで。ほしくて」
 一緒にいたいのは、自分も同じ。
 けれど、傷付くのを見たくなくて。
 怖くて。
「そんな、我侭の為に、どうか待っていてと、願って‥‥良いかい?」
 静かに。
 風が止む。
「‥‥何やってんだろう」
 ミカエルは自嘲気味に呟き、力なく立ち上がった。




 宿屋『ヴィオレ』の食堂には、香水の香りが立ち込めていた。
「よぉし、今日こそ、透の母親になるわよぉん!」
 その匂いを全身に浴びつつ、エリー・エル(ea5970)は両の手をグッと握り、息子の大宗院透(ea0050)を待つ。
 実の母であるにも拘らず、エリーは透に母と呼ばれた事はない。
 そう呼ばれる事が、今日の目標だ。


 −Episode 2 ”親子の容”−


「全く、何故、私に関わってくるのでしょうか‥‥」
 現れた透は、あからさまに不機嫌だった。
 いつもの事でもある。
「ほらぁ、これまでぇ、親子で会話とかぁ、ちゃんとしてなかったでしょぅ? 今回はオールで話そうってねぇん!」
「私はもう大人です‥‥それに、育てられた覚えもないのですか‥‥」
 そんな不快感を隠そうとしない透に対し、エリーの明るい表情は全く変わらない。
 それが透を更に苛立たせる。
 ともあれ、料理到着。
 並ぶのは、牛肉のワイン煮と3種類の鍋料理。
「あらぁ、とっても美味しそうだねぇん。透、どの具が食べたいのぉん?」
 エリーは小皿を手に取り、陶製の匙を鍋に入れる。
 しかし、透は無言で首を横に振った。
「で、何か話があるのですか‥‥」
 代わりに、一刻も早くこの時間を終わらせたいと言う意思表示を行う。
「そぉねぇ、えっとぉ、そうそう! あのねぇ、私ちょっと前までぇ、ルーアンに行って来てたのぉん。そしたらぁん――――」
 それに対し、エリーは自分の近況を伝えたり、最近聞いた面白い話などを身振り手振りを交えて語った。
 時に大げさに、時に擬音を交え、大声で。
 そんな折、エリーの肘が小皿に当たり、テーブルから落ちた。
 皿の割れる音と、飛び散るスープ。
「あ‥‥」
 流石のエリーも硬直してしまった。
「全く‥‥いい大人が何をしているのですか‥‥」 
 溜息を付きつつ、透は割れた皿を片付ける。
 そして、その皿の破片をエリーの前に置き、告げた。
「私とあなたの関係は今も昔も、冒険者同士なので‥‥母親としての使命など持たなくて結構です‥‥」
 一度壊れた物は、もう元には戻らない。
 その残骸を前に、エリーは思わず俯く。
 息子の前での失態、そして説教。
 母親らしさとは対極の行動に対しての自己嫌悪が、胸を締め付ける。
 ――――昔から、ずっと。
「ごめんなさい‥‥」
 その声は、普段の間延びした声とは違っていた。
「私が母親らしい事をしていない事も、それが人として罪深い事も、わかってるわ」
 透は、微かに目を見開く。
 普段と違うのは、声だけではない。
「結局、私が透への贖罪をしているだけ。透に迷惑を掛けているだけね」
 唇を震わせ、エリーは呟く。
「安心して。もう、会わないから」
 そして――――力なく立ち上がった。
「幸せになってね」
 ゆっくりと、踵を返す。
 遠くなる背中。
「待って下さい‥‥」
 透は、努めて冷静にそれを引き止めた。
「特にあなたが私を捨てた事など罪と思わないで結構ですし、恨んでもいません‥‥」
 その言葉に、エリーは振り向く。
「それに、あなたは私の上司の様なものですから‥‥母親として接してたいのなら。そう命じて下さい‥‥”お母さん”」
「あ‥‥ありがとぉん!」
 冷たいとも、暖かいとも取れる言葉。
 それが、どちらだとしても。
 少し照れながら、俯きがちにそう言ってくれた息子に、エリーは全力で抱き付いた。

 エリーが透の育児を放棄せざるを得なかったのは、本人の意思ではなく、周囲の強制だった。
 エリーはそれを一切、口に出していない。
「ほらぁ、野菜残しちゃダメよぉ。おっきくなれないわよぉ?」
「いい加減にして下さい‥‥」
 そして透は、その理由を聞かない。
 そう言う――――親子だった。




 親子の喧騒に沸いた宿屋『ヴィオレ』の翌日。
「カタリーナさん。いるだろうか」
 ローガン・カーティス(eb3087)が、ヴィオレを訪れた。


 −Episode 3 ”立つ鳥‥‥”−


「それなら、お二人で作ってみてはどうだろうか」
 カタリーナに事の顛末を聞いたローガンの判断は早かった。
「作り方は私が把握している。全く同じものは作れないかもしれないが、挑戦する価値はある」
「了解! フィーネを呼んでくるね!」
 勢い良く2階へ。
 暫く待つと、降りる足音が聞こえて来る。
「あれ、貴方は確か‥‥」
 しかし、その主は女性ではなかった。
 武器屋トートの主人。
 かつての依頼主だ。
 なんでも、以前お見合いで訪れたこのパリで武器商人と懇意になり、今度パリに出店する事になったらしい。
 ローガンの祝いの言葉に頭を下げ、トートは宿を出て行った。
「あ、ローガンさん」
 その背を見送るローガンの後ろから、シフール施療院の建設を達成したルディが現れる。
 祝詞と笑顔。
「私も治療方法の模索が旅の目的の一つだ。共に頑張ろう」
「うん。またね!」
 そして、ルディは揚々と飛び去った。
 その姿に、ローガンは幼い頃に父親から聞いた話を思い出す。
『旅人の一歩は別れの一歩ではなく、出会いと再会の為の一歩なのだ』
 ローガンは既に、それを踏み出していた。
 けれど、伝えたい事はまだ沢山ある。
 空色の感想箱を設置し、経営の一助としたり。
 カタリーナに負担を掛け過ぎないよう、両親に料理を覚えて貰ったり。
 直ぐ近くにある巨大モミの木の伝説をフィーネに教えたり。
「お待たせしましたぁ」
 そのフィーネの声が聞こえる。
 ローガンは静かに2人を待った。
 最初の一歩の、その途中で。




 マルゼルブ街の場末にある酒場の扉が、鈍い音と共に開く。
「エドガーさん‥‥」
「こんばんは、また飲みに来ましたよ」
 極上のスマイルで手紙のお礼を述べ、エルディン・アトワイト(ec0290)はカウンター席に腰を下ろした。


 −Episode 4 ”エルフの夜に”−


「シルヴィア、ですか。予想通り美しい名前ですね」
「フフ。お上手ね」
 少し酔いの回った身体を傾け、エルディンは目を細める。
 ここに来た目的の半分は、既に達成されていた。
 後もう半分は――――
「この街の精霊信仰について、お聞きしたいのです」
 或いは、それを知る人物。
 それを知る事だった。
 シフール施療院で眠る少女リタを救う為の鍵が、ここにある。
「精霊信仰は、このノルマンでは禁忌。私の口から言える事はないの。御免なさい」
「そうですか。答え辛い事を聞いてすいませんでした」
「‥‥やっぱり、おかしな男性」
 期待外れの回答に対し逆に謝罪し、それを得た後も帰らない。
 そんなエルディンに、シルヴィアは苦笑と微笑を入り混ぜていた。
 一方、エルディンは酒場の雰囲気を堪能しつつ、今後の行動を思案中。
 結果、もう一度あの地下へ潜るべきと言う結論に至った。
 中の住人も気になる。
 明日にでも――――
「‥‥?」
 そんな思考に浸かっていたエルディンの前に、一本の瓶が置かれる。
「このワイン、ジンって言う御爺様から頂いたの」
 シルヴィアは説明しながら、瓶口を開けた。
「年代ものよ。この街の歴史そのもの」
 それで、エルディンは全てを悟る。
「最高の女性です。貴女は」
 そして、注がれた杯を掲げ。
 にこやかに乾杯した。




 恋花の郷。 
 ジャン・シュヴァリエ(eb8302)とエレイン・アンフィニー(ec4252)にとって、この村は特別な場所だった。
 第二の故郷。
 馴れ初めの場所。
 冒険者としての舞台。
 そしてこの日――――全て塗り替えられる。


 −Episode 5 ”恋花”−


「ありがとうございます!」
「ありがとうございますわ♪」
 村長ヨーゼフの承諾を受け、ジャンとエレインは共に座ったまま一礼し、感謝の意を伝える。
 この時をもって――――ジャンの常任教師就任が決まった。
 住居はエレインの家を予定しており、今後は村の大工に依頼し、アトリエの増築や家具の調達を行う予定だ。
 その設計図を見たエレインは何度も感心し、未来の我が家を想像しては微笑んでいた。
「では、改めてこの村を宜しく頼む」
「はい。僕達に出来る事なら何でも。ここは、僕達の故郷になるんですから」
 ジャンの言葉に、エレインは目を潤ませながら、再び一礼した。

 その後、学校に赴き、報告。
 エレインに続きジャンも常任教師となる事に、子供達は大いに喜びを露にしていた。
「これからは、ずっと一緒だからね」
「いつでも私達のお家に遊びに来て下さいね♪」
 2人の挨拶に、子供達は元気よく返事をする。
「ねーせんせー、しつもーん」
 そんな中、子供の1人ティアナが元気良く手を上げた。
「せんせーたち、まいにち『ちゅー』してるの?」
「こら! ティアナちゃん、めっ!」
 教師マリーが慌てて質問を遮るが、他の子供達も目をキラキラさせていて。
「‥‥してるの?」
「ああっ、ルイーゼちゃんまで‥‥」
 そんな光景も、これからは日常。
 2人はずっと笑顔のまま、それを眺めていた。

 その翌日。
 2人は新婚旅行に出かけていた。
 行き先は、かつてジャンの叔父が訪れた、月竜の棲む山奥の秘湯。
 濃い湯煙に包まれており、直ぐ隣にいる者の姿すらはっきりは見えない。
「とても暖かいお湯ですわね」
「う、うん‥‥」
 それは不幸だったのか、或いは幸いだったのか――――エレインと共に湯に浸かるジャンは、逆上せた頭でそんな事を考えていた。
 そして、その帰り道。
「どうだった? 初めての温泉」
「とても気持ちよかったですわ♪ 動物さんとも仲良くなれましたし」
 小高い遺跡の丘に立ち寄った2人は、身を寄せ合い、遠くの郷を見下ろす。
「エレイン‥‥」
 突然、ジャンが顔を近付ける。
 木漏れ日が揺れる中、2人はもう何度目かわからない口付けを交わし、暫し見詰め合った。
「もう、いきなりはダメですわ」
「ごめん。我慢、出来なくて」
 諌められ、ジャンは赤面しながら頬を指で掻く。
 もっと大人にならなくては――――そう思い、今後の自重を検討した。
 思い描く、幸せな未来の為にも。
「でも、そう言う所も‥‥」
 エレインも頬を紅潮させ、俯く。
 頼もしさの中にある、不安。
 エレインに、そして村に魔の手が忍び寄った時――――ジャンは躊躇なく、その脅威に立ち向かうだろ。
 それがエレインは怖かった。
 そして、それを伝える。
 不安があるとすれば、その一点だと。
「大丈夫」
 エレインの手を、ジャンはぎゅっと握る。
 離さないよう、強く。
「郷の新しい挨拶、言ってごらん」
「‥‥おかえりなさい」
「うん。ただいま。だから何度でも、僕は君の所に帰ってくる」
「それなら、私は何度でも貴方におかりなさいを言います」
 エレインはそう言うと――――自ら顔を寄せ、唇を重ねた。
「帰りましょう。子供達の待っている、あの村に」
 暫し惚けていたジャンは、そんなエレインを担ぎ上げ、お姫様抱っこをする。
「きゃっ♪」
「帰ろう。子供達に『ただいま』って言いに」
 最高の幸せを胸と未来に。
 ジャンとエレインは、恋花の郷土へと帰って行った。



「ぴーくにっく、ぴーくにっく、らんらんらん♪」
 子供達の長閑な歌声が、パストラルの空に響き渡る。
 本日は、恋花の郷の村校の遠足日だった。


 −Episode 6 ”共に”−


「かわいーっ」
「うわっ、なんだこいつ! こえーっ」
 パストラルに着いた子供は、早速この村の新名物であるヤマネやビジョンフラワー等を喜び勇んで見学中。
 一方、レリアンナ・エトリゾーレ(ec4988)はエラテリス・エトリゾーレを連れ、村長とクロフォードの家に挨拶回りを行っていた。
 その2人と並び歩くのも、また2人。
 ララとルディだ。
 シフール施療院に寄った帰り、偶々会って今回の件を話した結果、ついて来る事になったのだ。
 丁度話したい事があった為、好都合ではあった。
「そっか。あの星違うのかー」
「残念です」
「でででも、目の付け所は良かったと思うよ☆」
 意気消沈する二人を、エラテリスは焦りながら慰める。
「あ、ララさん☆ そう言えば、黎明の魔女さんがこの村に来てるんだって☆」
「本当ですかっ。探して来ます」
 ララは目を輝かせ、飛んで行った。
「お姉さまも中々やりますわね。でも、この村の地理はわかっているのかしら?」
 珍しく感心しつつ訊ねて来るレリアンナに、エラテリスは元気良く頷く。
 そして、おもむろに一枚の羊皮紙を取り出した。
 この村の地図。
 手作りだ。
「フィールドワーク、考えてみようかなって☆」
 少し驚いた様子のレリアンナに、エラテリスはキッパリとそう発言した。
「おーい。レリアンナー」
 そんな中、遠くからアンネマリーの呼ぶ声が聞こえ、レリアンナは手を振る。
 この後、羊飼いの技を教えてあげる予定だ。
「お互い、ご友人に恵まれて何よりですわ」
「あはは☆ ホントだね☆」
 自然と共に在る村、パストラル。
 そこには、今日も沢山の出会いが溢れている――――




 数多の出会い。

 数多の別れ。

 冒険者ギルドは毎日、その堂々巡りの中にある。

「おう。ご苦労さん」

 挨拶もそこそこに、綴った記録を提出し、一息。

「あんたに届け物だ。マーガレットだと」

 すると、徐に花苗を手渡された。

 その花言葉は、確か――――

「‥‥」

 花苗を受け取り、ギルドを出る。

 既に日は暮れていた。

 帰路、すれ違う数多の人影。

 覚えている。

 笑った顔。

 泣き顔。

 怒った顔。

 拗ねた顔。

 照れた顔。

 全部、覚えている。

 だから明日もまた、楽しく綴り続ける。

 この花苗の隣で。

 彼らの、そんな顔を。