冒険者志望の女の子とシフールを指南せよ!
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:UMA
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月01日〜07月06日
リプレイ公開日:2008年07月09日
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●オープニング
ララ・ティファートと言う十代前半の女の子がいる。
彼女は、領主の遠い親戚に当たる、貴き血をその身に有したお嬢様だ。
子供の頃から裕福に育てられつつも、礼儀はしっかり見についており、少なくとも女装した男共を見て感心したり、人の身体的欠陥を指摘したりはしない。至って普通の感性を持った、上品で素朴な女の子だ。
しかしその一方、常識に関しては少々欠けている部分が多く、余り社会の仕組みや倫理、観念などについて深く考えた事はない。占いや噂話が大好きで、それに感化される事が非常に多く、親や使用人はいつもそんな彼女に振り回されていた。
「だからと言って、暗殺者になりたいって‥‥おかしいよ、そんなの」
そんなララの部屋の窓際で、小さな妖精が心底呆れ気味に溜息を吐いている。
彼の名前はルディ・セバスチャン。ララの友人のシフールだ。
ララと出会って一年ほど経っているが、ルディは彼女の傍を離れる事はなく、ずっとこの家に居候している。シフールとしては珍しい行動と言えるだろう。
更に、奔放な性格で知られるシフールの中にあって、彼の場合はどちらかと言うと大人しく、ララの話の聞き役に回る事が多い。いろんな意味でシフールらしくないシフールだ。
「そうでしたか」
「はぁ‥‥良く何事もなく済んだもんだよ、ホント」
四枚の羽を脱力させつつ、もう一度息を落とす。
「でも、これでもうわかっただろ? 噂とか、そう言うのに感化されちゃ駄目なんだって」
「はい。よくわかりました」
ララのその断言に、ルディは逆に嫌な予感を覚えた。
「ですから、これからは神聖騎士を目指そうかと」
「‥‥両極端すぎるよ」
三度目の嘆息。だが、これは単位時間内の回数としては、実はそれほど多い部類には入らない。要はこんな事はしょっちゅうあると言う事だ。
「ですが、お母様にそう言ったら、凄く喜んでくれました」
「そりゃまあ、暗殺者を目指すよりは良いだろうけどさ。多分無理だと思うよ」
「何故ですかっ」
ベッドに座っていたララが、握った両手を顎の下で合わせながら詰め寄ってくる。ルディは特に気にするでもなく続けた。
「神聖騎士ってのはさ、子供の頃からジーザス教の英才教育を受けた凄い才能のある人がなるんだよ、きっと。それに、ララは戦いとかできないでしょ?」
「争いは苦手です」
「じゃあ無理だよ」
納得したのか――――ララは落胆の表情でベッドに戻った。
「では、私は何を目指せば良いのでしょう」
「うーん‥‥普通に暮らせば良いんじゃない? お金には困らないんだしさ」
「それでは生きた心地がしません」
本来はこの状況で使うべき言葉ではないのだが、ある意味正しかったりする。
誰しも、生まれたから生まれたままに生きる、というのでは、物足りない。
生まれたままの姿に反発するのは、反抗期と同様、どのような種族の子供にも芽生える感情だ。
「わかりました」
「え、何が」
「私、これから冒険者を目指します」
「いや、何言ってるのさ‥‥ちゃんと流れに沿った会話しようよ」
四度目。これでもまだ珍しくはない。
「以前、お母様がこう言ってたのを今思い出したのです。『ララ。冒険者には常に敬意を払いなさい。彼らは素晴らしい人達なのですよ』と」
ララは以前、暗殺者になりたいと家を出て行った事があった。
もっとも、暗殺者と言うものがどういったものなのかについて深く考えた訳ではなく、単に暗殺者をやたら賛美しているサーガもどきのお話を聞き、それに感化されただけなので、彼女に猟奇的な一面があるとか、殺しの素養があるとか、そう言う事は一切ない。
話を戻すと、その際にララの身柄を確保し、暗殺者への道を優しく閉ざしてくれたのが、冒険者と呼ばれる人達だったのだ。だが、その事実はララには伏せられている。それでも感謝の意を込め、ララの母は冒険者を讃えるよう言い聞かせたのだ。
「お母様があれだけ仰ると言う事は、冒険者と言うのはきっと貴き職業なのです。きっと神聖騎士くらい貴いのです。ですから、私も目指してみようかと」
「うーん‥‥何と言うか、もうちょっとちゃんと考えた方が良いと思うよ」
「そうですか? でも私はもう決めてしまいましたので」
そう断言し、ララはお小遣いを貯めた袋を持って、部屋を後にした。
ララは、様々な事に感化されやすい。が、一度決めた事には妙に頑なだ。神聖騎士のように、明らかに無理だと判断した場合ならともかく、冒険者のような輪郭がぼやけているものに対しては、自身が納得しない限り追求し続けるだろう。
もし一度悪い人間に騙されてしまうと、そのまま悪に染まってしまいかねないタイプだ。
「仕方ない、僕も付いていくか。って言うか、何で僕あの子のお目付け役みたいな事してるんだろ‥‥」
きっと、そう言う結末を見たくないからだろうな、と心中では理解しつつも、ルディはそう呟いてしまうのだった。
家を出たララは、早速途方に暮れていた。
「冒険者と言うのは、何処に行けばなれるのでしょう」
「さあ‥‥」
ルディも、冒険者とは縁のない生活を送っている。よって、二人して途方に暮れる事となった。
「あの、もし」
しかしながら、ララは妙に能動的な性格をしており、余り人見知りはしない。お嬢様らしくないと言えばらしくない、らしいと言えばらしいその行動力で、数人の庶民に冒険者について聞いて回っていく。
その光景を、ルディは少し羨ましく思いながら眺めていた。
「わかりました」
息を切らし、ララが戻ってくる。
「冒険者ギルドと言う所に行けば、冒険者の皆様とお会い出来るようです」
「そうなんだ。でも、会ってどうするの?」
「弟子入りします」
「‥‥えー」
意外とまともな将来設計に、ルディは何となく骨を抜かれた。
実際、もし弟子入りが実現してしまうと、彼女は本当に冒険者になってしまう。
それは果たして良い事なのだろうか?
領主の遠戚である彼女が、まだ十代前半の彼女が、冒険者と言う職業についても良いものなのだろうか?
だが、冒険者についてよく知らないルディには、その判断はできなかった。
仮に冒険をする人と言うのであれば、家を離れる訳で、それは両親にとっては寂しい事だ。
そもそも、一旦決めた事を簡単に覆すララではない。
ルディは、決意した。
「じゃ、行ってみようか。どんなものか確かめよう」
諦めさせるにしろ、背中を押すにしろ、冒険者と言うものをその目で見てから判断する。
この瞬間、冒険者を志す者が二人に増えた。
●リプレイ本文
●それは、そうでしょう
冒険者にとって、パリの街は憩いの場所だ。雄大なセーヌ川が母なる海に還る風景は、依頼を果たし傷付き疲れ切った彼らをいつも優しく抱きしめてくれる。
「冒険者になりたい‥‥と言う事なのでしょうか?」
そんなパリの冒険者ギルドに集ったリーディア・カンツォーネ(ea1225)、ロート・クロニクル(ea9519)、エイジ・シドリ(eb1875)、ルースアン・テイルストン(ec4179)の四人は、その小さな依頼者達をじっと見つめていた。
「うん。ただ僕達、冒険者について何も知らないんだ」
「‥‥何も?」
エイジが聞き返すと、ララは特に狼狽えるでもなく、コクリと頷く。
「冒険者は尊き職だと母から聞いておりますので」
「尊き、か。確かに彼女のようなクレリックはそうかもしれないな」
「いえいえ、そんな。私などまだ未熟で」
謙遜するリーディアの傍らで、ウィザードのロートが口元を引き締める。そしてその視線をララに向けた。
「確かにそう言う冒険者もいる。そいつは間違いない。けどな、その一面だけ見てても駄目だ」
ロートが説いたのは、冒険者が必ずしも一括りでは表せない、何とも厄介な職業であると言う事――――だけではない。
何事にも、様々な見方があり、そこには別々の価値観がある。それらを正しく認識するには、まだララは純粋すぎると言う事だ。
「それでは、まず冒険者について教えて頂けないでしょうか」
そんな趣旨を理解しているのかいないのか、ララは中々に難解な要求を訴えて来た。
「それでは、依頼書や報告書を見て、実際に冒険者がどう言ったお仕事をしているか確認してみましょうか」
そのルースアンの提案は的確だった。彼女らが口で説明するより、冒険者の一つの成果が形として残されている報告書の方が、彼女に満足感を与える事が出来るだろう。
「では、妹に案内させよう。今日まではここにいる筈だ」
セイジがおもむろに席を立つ。その数分後、ララと同世代の女の子を連れて戻ってきた。
「はじめまして。エフェリアと言います」
「はじめまして。ララです」
「では、案内するのです」
非常に緩やかなやり取りの後、ララは報告書の閲覧できる場所へと移動した。
それから、数時間が経過し――――斜陽がパリの街をオレンジに染め上げる頃。
「もう夕刻だが、家に帰らなくて良いのか?」
セイジの指摘に、報告書を読み耽っていたララが静止する。その数秒後、ゆっくりと振り向いた。
「そうでした」
「確か、馬車が出ているのでしたね。そこまでお送りします」
微笑むリーディアの隣で、ルースアンが思案顔をララに向ける。
「ところで、冒険者になりたいと言う事は御両親には‥‥?」
その問いに、ララは再び数秒ほど静止した後、首を横に振った。微妙に反応が悪いのは、思考を切り替える作業が余り上手くないからだ。
「ま、言ったら止められるだろ。その気持ちもわかるしな」
苦笑交じりにロートがララの読みかけの報告書を元の位置に戻す。御辞儀するララの傍で、リーディアは心配そうに首を捻った。
「ですが、家族に隠し事をしていては‥‥お話になられてはどうです?」
「わかりました。そうしてみます」
今度は即答だった。
「素直だな」
「良くも悪くも、だけどね。そのくせ意固地なとこもあるし‥‥」
「成程な。そう言う事だったら、一つ提案がある」
ルディの発言に感じるものがあったのか、ロートはララの方を向き、若干目を細める。
「野宿なんてどうだ?」
「野宿、ですか」
「冒険者になったら野宿なんて日常茶飯事だからな。冒険者がどう言うものか、その一端は知る事ができるだろ」
冒険の厳しさは、至る所に存在する。その中でも、野営は一つの関門と言える。それを経験するのは、一歩目としては最適と言えるだろう。
「野営道具は俺が用意しておこう」
「でもでも、その前に」
早くも話を進める男性陣に、リーディアが慌てて待ったをかけた。
「まず御両親の許可を得ない事には」
「では、そちらの方もまとめて、私達が同行してご説明差し上げましょうか?」
「お願いします」
ルースアンの微笑みに、ララは素直に頷いた。
その日の夜、一行はララの家を訪れた。
彼女の両親は最初こそ訝しげだったものの、パリ防衛記念メダルなどの記念品を見せ身分を証明してみせると、すぐに応接室へと丁重な案内をされた。元々冒険者には良い印象を持っているようだった。
移動中、馬車の中で寝静まったララを母親が寝室に運ぶ中、一向は父親に事情を説明する。彼女の意思や、子はいつか親元を離れると言う一般論を交えて。父親は当初驚いた様子を見せていたが、取り乱す様子もなく、静かに話を聞いていた。
「‥‥本当は、ずっと自分の傍に置いておきたいのですが」
しかし、親だからこそ、子供の性格はよく理解している。既に幾度となく騒動を起こしてきた彼女が、この決して狭くはない家に何時までも留まる事はないと、親なりに悟っていたのだろう。両親の顔には、諦観に近い微笑が浮かんでいた。
「お任せします。ただ、野営はこの家の近くで、一日限定と言う事でお願いします」
話はそこでまとまった。
「あの子が何を選ぶにしても、暗殺者よりは‥‥ですから」
最後の母親の呟きに、全員が納得の苦笑を浮かべていた。
●え、そうなの?
野宿は四日目に回す事になり、それまでは体力作りも兼ね、パリの街やララ達の住む街を歩いて回る事にした。
「パリの街並、好きなんですよねー」
ウィンプルを取り、南風に髪をなびかせながら、リーディアが呟く。
活気に満ちたこの町を離れがたく思っている冒険者は、事のほか多い。
そんな都を、ララは漫然と巡り回った。
そして、四日日の夜。
彼女の家から1kmほど離れた空き地で、野宿が敢行された。
エイジの用意した野営用のテントを張り、辺りに落ちている木の枝を集め、火打ち石で火を焚く。その上に鍋をつるし、水を注ぐ。これだけの作業を手伝っただけで、ララはへたり込んでしまった。
「野営って大変なのですね」
「そりゃそうだよ。冬はもっと大変なんだから」
「寒いのは大変です」
枝を火にくべているルディに、ララは余り表情を変えずに頷いていた。
「ララさん、保存食を食べてみます?」
リーディアに手渡された保存食を礼を言って受け取り、口に運んでみる。
「‥‥普通です」
「身も蓋もないなあ」
ルディの脱力感溢れる声と同時に、それぞれが火を囲んで座る。食べ終わったララは満足げに一息吐いた。
「お泊り会みたいで楽しいです」
「そう言うお遊戯的な気持ちじゃダメなような‥‥」
「皆さんに質問があります」
「唐突だねっ」
ルディの叫びを無視し、ララは続ける。
「皆さんはどうして冒険者になりたいと思ったのですか?」
至極純粋な質問だった。
それに対し、まず最初にリーディアが答える。
「動機は‥‥困ってる人々を救えるように、誰かの幸せそうな顔を見れるように、と言う願いでしょうか。後、冒険が楽しそうだったと言うのもありますが」
模範とも言えるような言葉に、自然と拍手が起こる。照れるリーディアの隣に座っていたエイジがそれに続いた。
「好きな事が出来るからだな。好きな時に気になる依頼を受けて、それを成功へと導く。ついでに、その過程で美しい女性と接する事が出来れば尚良い」
「冒険者って、何気に美女率高いよな」
笑いながら頷くロートが、それに続く。
「俺は、知識を得る為、ってとこか。何事も、まず知る事が大事だからな」
「私も、見聞を広める為ですね。ふふ‥‥ウィザードはそう言う所があります」
ルースアンもそれに同調し、それぞれの動機が語られた。
無論、これが全てではないだろう。彼らなりに、他人には言うべきではない秘めたる動機や目的はある筈。だが、生まれたばかりの冒険者志望の少女に聞かせるものでもない。その代わりに、ルースアンは聞かせるべき言葉を補足した。
「人助けをしたいと言う人もいるし、ご自分の趣味を究めたいという人もいるでしょう。いろんな冒険者がいますよ」
「妹は10歳で冒険者になっている。年齢も気にする必要はない」
エイジの妹を思い出しているのか、ララは数秒ほど固まり、その後に深々とお辞儀した。
「大変参考になりました」
「って言うか、もう『なる』気でいるの? それで良いの?」
動機を参考にすると言う事は、そう言う事だ。ララはどこか朧げな瞳で、ルディの小さな瞳を捉えた。
「ルディは、自由に空を飛びまわれますよね」
「え? そりゃそうだよ。シフールだもの」
「私はずっと、空を見ていました。ずっと」
呟き、青の消えた空を見上げる。
「それは、翼が欲しいからだと、ずっと思っていました。届かない場所に行けるようにと。でも、少し違うような気がしてきました」
彼女が欲しかったのは、自由の象徴ではなかった。
自由の意味だ。
もしかしたら、本能的に感じたのかもしれない。
それを知る者こそが、冒険者なのだと。
「ララさんは、どんな冒険者になりたいのですか?」
ルースアンの優しい問いに、ララはまたも固まる。その様子を見たリーディアがどこか楽しげに微笑んだ。
「私はクレリックなんかお似合いだと思うのですよ」
「クレリックですか。私にその格好が似合うでしょうか」
「いえ、外見ではなくて‥‥」
頬に汗を滲ませるリーディアに代わり、今度はロートが提案を出した。
「ウィザードなんてどうだ? 色々教えてやれるし」
「私にその筋肉がつけられるでしょうか」
「いや、これは俺が特別なだけでな‥‥」
言い淀むロートを見ながら、ララはほうっと感心したように息を漏らした。
「冒険者、奥が深いです」
「今のやり取りだけでそう思える方が、ある意味深いよね」
ルディの嘆息交じりの言葉に、笑い声が上がる。遠くに聞こえる虫の鳴き声が一瞬止んだ。
それから暫く、各々の体験談に花を咲かせ――――
「すぅ‥‥」
「くぅ‥‥」
結局、見張りを経験する事無く、二人とも寝入ってしまった。
それでも、その胸に幾つかの経験と選択肢が宿った事は間違いない。
それがどう芽吹くのか――――それは、意外と近い将来判明する事になるのだった。