暗殺者志望の女の子を止めろ!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:UMA

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月09日〜04月14日

リプレイ公開日:2008年04月15日

●オープニング

 冒険者には、様々な仕事がある。それは、例えばドラゴンの牙を出来るだけ傷を付けずに手に入れてくれ、と言う無茶なものから、逃げた家畜を捕まえてくれ、と言う近所の暇人に頼んでくれよと言ったものまで、本当に多種多様だ。
 だから、中にはこう言った奇妙な依頼もある。
『暗殺者志望の女の子の面倒をみてくれ』
 実に意味不明である。しかし、冒険者にとって、未知の依頼と言うものは時として名を上げる絶好の機会となり得る。

「まあ、その可能性はないとは言わないよ。限りなく低いがね」
 ギルドの斡旋係は脱力感たっぷりに呟いた。明らかに皮肉げに。
「実は、ひっじょ〜に困ったことになってんだ」
 斡旋係の説明は、思わず眉をひそめたくなるような内容だった。
 その主役は、この辺りを統治している領主の遠い親戚。その者は、まだ十代前半の女の子で、余り社会の仕組みや倫理、観念などについて深く考えない型の人間らしい。その子が、事もあろうに、暗殺者に憧れたと言うのだ。

 ここは、パリから丸一日歩いた先にある、手工業と商業が発達した大きな町。交易も盛んに行われており、大都市へと移動する人々の中継地点として、或いは商人の集いの場として、活気ある賑わいを見せている。夜になると、彼らを護衛する冒険者や、美味しい話を求めてさまよっている騎士崩れの戦士など、やや物騒な連中が酒場で宴を開く光景が散見される。と言っても、治安が悪いと言う事はなく、住人は和やかにこの地で暮らしている。

 そんなこの町では、現在、義賊にまつわる逸話がちょっとした流行として一般市民の間で広がっている。その流れで、暗殺者をやたら賛美している話が、彼女の耳に届いてしまったらしい。まがりなりにも、身分の貴い者が暗殺者に憧れを抱くなどもっての外なのだが、彼女は既に将来の進路をそこに絞ってしまったようだ。
「で、家を飛び出し、暗殺稼業に明け暮れようとしているらしいんだ」
 家出の際に持ち出した金品を推算すると、家が一つ買えそうな額だと言う。勿論、それまで悠々自適に生活して来た女の子が金の力だけで暗殺者になどなれる筈はないのだが、放っておいたら何をするかわからない。
「子供や孫なら、領主が総力を挙げて探索し、連れ戻すんだろうがな」
 それほど近しい者でもないので、冒険者にこっそり依頼し、大事にせず解決したいとの事。
「基本的には、その女の子を見つけて、ここに連れてくる、ってのがこの依頼の成功条件だ。ただ一つ、条件の提示がある」
 それは、彼女が暗殺者になりたいとは思わなくなった状態で連れ戻して欲しい、と言う事だ。無理に連れ戻しても、再び同じ事を繰り返すだけだと言う思慮の元に出された条件だろう。或いは、自分たちでは手に負えないと言う意思表示かもしれない。
「勿論、殺しなんてさせちゃならねえし、怪我させてもダメだ。武器を持たせるなんて無茶もいけねえ。あくまでも、まっさらなまま御帰還して頂く事が必須条件だ」

 暗殺者に憧れを抱く女の子。彼女に人殺しをさせず、もう二度とこのような行為に出ないような状態で自分たちの元に返して欲しい、と言う事らしい。依頼主は領主ではなく女の子の親だが、その後ろには当然領主がいる。遠い親戚とは言え、血縁者がその手を汚したり、暗殺者に憧れを抱いているなどと言う噂が流れようものなら、その権威を傷付けかねないのだ。その為、報酬はそれなりの額が用意されていた。ただ、直接領主に頼まれてる訳でもなく、隠密での行動を課せられているので、名声は期待薄だ。
「方法は任せる。どうだ? 引き受けちゃくれないか」

 護衛でも単純な探索でもない、妙な依頼。厄介なのは、彼女の後ろに領主の存在がある事。下手に説教でもして無理矢理連れ戻したら、どんな報告をされるかわかったものではない。無理に連れ戻せと言う依頼ならばそれも可能だが、今回はそうではない。あくまでも穏便に、と言う事だ。説得も難しい。それができるなら、家を飛び出すまでには発展していないだろう。彼女に暗殺に変わる血生臭くない代替的行動を起こさせ、もういいやと思わせる、或いは、安全な恐怖を与える事で、暗殺者の『あ』の字も見たくないと思わせる事が必要だ。

 非常に面倒な依頼だった。それでも、依頼は依頼。冒険者たちは、半ば呆れつつ頷いてみせた。

●今回の参加者

 eb0488 卜部 ひびき(27歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec4275 アマーリア・フォン・ヴルツ(20歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec4318 ミシェル・コクトー(23歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ec4441 エラテリス・エトリゾーレ(24歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

●迷える子羊
「由々しき事態と、言わざるを得ないでしょう」
 冒険者が集う宿屋の一室にて、アマーリア・フォン・ヴルツ(ec4275)は、その精錬たる双眸を閉じ、静かに嘆いた。
 依頼を受けたその日、彼女は依頼主の元へ訪れた。その際に得た情報は、少女の置かれている状況の深刻性を物語っていた。依頼主である少女の親によると、少女は相当な額に換金できる金品を持ち出している。だが、彼女は換金する術を知らない。つまり、悪人にとっては格好の標的と言える。
「ボクも同感だね。事態は一刻を争うと思うよ」
 アマーリアの危機意識に、エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)が同調する。
 エラテリスは昨日、少女に遭遇していた。道標無き少女は、暗殺者を探す手立てとして、占いに頼る。そう読み、占い師に扮装して彼女の立ち入りそうな酒場の近くで待っていたのだ。扮装は、ウセフと宿から格安で調達した布で衣装を調え、ミシェル・コクトー(ec4318)に化粧して貰うと言う簡易的なものだったが、夜の闇は細部の粗を綺麗に隠してくれる。占術用品一式を持っていたのは、或いは神のお導きか――――
「思い込みの激しい子のようですね」
 ゲルマン語を解さないミシェルの言葉を、エラテリスが聞き、それを通訳する。同時に他の二人も頷いた。
「さて、どうしようか? 力ずくで、って訳にもいかないし」
「ボクは最悪それでも構わないと思ってるよ。暗殺者になんて、絶対しちゃいけない」
 依頼主の意思を尊重し、遭遇時に無理矢理連れ戻す事をしなかったエラテリスは、卜部ひびき(eb0488)の言葉を一瞬諌めようとした。 が、彼女の表情を見て思い留まる。暗殺者の醜悪さを知る彼女から、それ故の揺ぎ無き意思を感じたからだ。そんな二人に対し、ミシェルは微笑を携え、エラテリスに通訳を促した。
「提案がありますわ。とても有意義で、皆が笑顔になれる」

●闇に舞う四連符
 翌日――――夜。
 人々が寝静まり、酒場が賑やかになる頃、闇は動き出す。
 闇の名は、二つ。この町を蹂躙せんと企む邪教集団『ヴァールハイト』の幹部、黎明の魔女。そして、魔女と契約せし暗殺者、闇の鷹。その両名が、これまでの様々な噂とは違う町外れの屋敷跡に現れ、儀式を行う――――そんな情報が真しやかに流れたのは昨日の事だった。噂は少女の耳にも入り、彼女は何の疑いを持つ事も無くその地へ赴いた。
 そこには、確かに二つの人影があった。少女は瓦礫の影から二人の様子を覗き、様子を伺う。
 しかし――――次の瞬間、その中の一人の目が少女を捕らえた。同時に、口の端が釣り上がる。
「我は闇の鷹。蒼ざめた死への誘い手。そなたの魂を今宵我が物にせん!」
 それを聞き、少女の心が躍動した刹那――――
「危ない!」
 鬼気迫る掛け声と共に投じられたダーツが、闇を二つに引き裂く。それを合図に、闇の鷹がダーツを投げた女性に切り掛かる。彼女は闇に歯向かう義賊だった。瞬時に忍者刀を構え、襲い掛かる三日月剣を防ぐ。
「邪魔をするか、義賊よ」
「この街は、ボクが守る!」
 義賊は威勢良く暗殺者を睨む。が――――
「そこまでだ、義賊」
 若干抑揚を欠いた声と同時に、魔女の手から光が放たれる。義賊はその魔法をすんでのところでかわしたが、魔女の狙いは魔法を当てる事ではなかった。
「あっ!」
 目的は、義賊を少女から引き離す事。孤立した少女を、魔女は悠々と捕らえた。
「卑怯だぞっ!」
「何とでも言いなさい」
 闇の鷹が、その名に恥じぬ身のこなしで一旦後方に飛ぶ。そして、攻撃性を殺がれた義賊へ向けて鮮やかな突きを放った。義賊は身体を捻り回避を試みるが、赤い飛沫と共に地面に倒れ込む。
「覚悟」
「くっ・・・・っ」
「そなたの魂、貰い受ける!」
 義賊の喉元に突きつけられた三日月刀に力が篭る。その光景に、少女は絶句していた。自分が憧れたものが、このような陰惨な光景と結び付くとは、夢にも思っていなかったのだ。
 少女は救いを求めた。自らの浅はかな思慮と行為を呪い、この状況を好転してくれる存在を望んだ。
 そしてそれは、現実のものとなる。
「何者っ!?」
 魔女の叫びと同時に、少女の目に飛び込んできたのは光。その後光を背にした馬上の『希望』は、一瞬にして少女と奪還し、義賊の元に駆け寄った。
「闇に名乗りし御名は持ち合わせておりませぬ」
 言葉と同時に下馬し、傷付いた義賊に手をかざす。発光と同時に、義賊の身体に生気が戻った。
「この子を頼みます」
 義賊は一つ頷き、状況が飲み込めず呆然としている少女を易しく抱き上げ、馬の上に乗った。
「こいつは・・・・聖騎士! 闇の鷹よ、この者を討て!」
「朽ちなさい。黎明の魔女」
 接点は一瞬。聖騎士の一薙ぎで、魔女は地に伏す。闇の鷹はそれを顔をしかめ睨んでいた。
「私と対極にある者、か」
 鷹が舞う。それを正面から受け止めた聖騎士は、淀みなき眼で闇を見据える。まるで、包むかのように。
「いたずらに命を奪うは、友なる者の笑顔を消し去る愚行。息切らし走る道を血の色に染める背徳」
 鍔迫り合いをしながら聖騎士が唱えるその言葉に、馬上で義賊に抱かれる少女が目を見開く。それはまるで、自分に向けられている言葉のようだと、胸を痛めながら。
「それを、貴女は平気で行うのですか?」
「そうだ! 友も家族も要らぬ! 私には必要ない!」
 思わず逸らした少女の視線が、魔女の躯へと向く。生気を失ったその肢体は、少女に死を教えている。貴女の憧れた者が生み出すものはこれなのだ、と。義賊は少女に自分の方を向かせ、優しく抱きしめた。
「ですから、奪うのですか」
「それの何が悪い!」
 力の均衡が崩れる。圧し勝ったのは闇の力だった。体制を崩す聖騎士に、鷹がその爪を向ける――――
「その命、貰い受ける!」
「命は貴女の物ではありません。闇の鷹よ。命は・・・・」
 しかしその爪は、虚空を薙いだ。聖騎士の身体はその遥か上――――そこから振り下ろされる軽やかなる一撃が、鷹の翼を削ぎ落とす。
 そして、闇の鷹は、大地に堕ちた。
「命は、そこにあるもの。誰のものでもないのです。与え賜う神ですら」
 言葉を紡ぎながら、聖騎士は懐から小瓶を取り出す。その一挙手一投足を、少女は食い入るように眺めていた。
「無論、私のものでもありません。私に、貴女の命を奪う権利などないのです」
 跪き、小瓶の中の水をその額に灌ぐ。魔女に対しても同様に行った。すると、二人は息を吹き返したではないか。そして、その顔には、これまでのような闇の色は微塵もなかった。
「私は・・・・間違っていました」
「神は全ての者に平等です。祈りましょう、共に。許しを請いましょう」
「うん、ボクも、間違っていたよ」
 一瞬、何かが凍る。
 しかし、憧憬の眼差しで聖騎士を見つめる少女が、それを感じ取る事はなかった。
「迷える子羊よ」
 それを安堵の表情で眺めつつ、聖騎士は慈しみの笑顔を向けた。
「貴女の探し物、それを見つけた時、貴女の本当の運命を知るでしょう」

●その邂逅に、挨拶を
「あはははははっ!」
 翌日。宿の一階に笑い声が響く。
 冒険者四人は依頼達成を祝い、お茶会を開いていた。宿屋の主人の好意により、貸切となっている。何でも少女のファンと言う事らしい。
「危なかったよね、あの時。エラテリスさん、微妙に棒読みなんだもん」
「仕方ないじゃないか。ボクは皆ほど器用じゃないんだ」
「ふふ・・・・でも、ミシェルさんは凄いよ。ゲルマン語の台詞を一時間で覚えたんだって?」
「ええ」
 ミシェルの提案――――それは、演劇の開演だった。
 少女を健全な憧憬へといざなう為に、一芝居打ったと言う訳だ。ひびきが『暗殺者が今夜街外れの空き地に出没する』と言う偽の噂を5Cほど使って各方面に流して貰い、少女をその場へ誘い込み、それを見せるという手筈だ。万が一官憲が動かないよう依頼主から領主に働きかけて貰い、魔女の躯として粗忽人形、攻撃魔法の代わりにライト、血の代わりにワインまで使った。尚、配役は、義賊がひびき、聖騎士がアマーリア、闇の鷹がミシェル、そして噂の魔女がエラテリスとなっている。
「それにしても、エラさんの演技は独創的でしたわ。思わず噴出しそうでしたもの」
「もう。あんまりしつこいと、あの事バラすよ? コクトーさん」
「う・・・・痛い所つきますわね」
 ゲルマン語を使わないその会話には、とある秘密が隠されていた。
 それは一昨日の事。ミシェルはエラテリスから全ての台詞のゲルマン語を『徹夜で』習っていたのだ。授業料として強引に5C支払ってまで。エラテリスが微妙に棒読みだったのは、そのレッスンが深夜まで及び、殆ど眠れなかった所為もある。その上で、粗忽人形と入れ替わるなどの細かな作業もこなしていた。そう言う意味では、今回の陰の立役者は彼女だと言える。
「久し振りの桜餅・・・・ああ、おいしっ。幸せ」
「よろしければ、お土産にも差し上げますわ」
「ボクの雛あられも食べてね。あ、このお菓子はどうしたの?」
「アマーリアさんが買ってきてくれたんだよ。ワインはボク」
 皆が出し合い、皆で笑い合う。優雅で、柔らかな一時。
「そう言えば、アマーリアさんは?」
「あの子を呼びに行ったよ。昨日はぴったりくっ付かれたまま眠ったんだって」
「懐かれてますわね。それじゃ、私とエラさんはお先に失礼しますわ」
「改心したと言っても、昨日の今日だからね。それじゃ」
 微笑みながら、二人が席を立つ。それぞれの再会と、少女の健やかなる未来を願って。
 暫くした後、アマーリアが少女を連れて二階から下りてきた。
「これから、彼女を家まで送り届けます。ひびき殿も御一緒にどうですか?」
 ひびきはにっこり笑い、頷く。
「さ、御挨拶を」
 そう促された少女は、おずおずと前に出て、はにかみながら頭を垂れた。
「ララ・ティファートです。この度は、本当にありがとうございました」