はじめてのぼうけん 〜ララ&ルディ〜

■ショートシナリオ


担当:UMA

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:4人

冒険期間:08月05日〜08月10日

リプレイ公開日:2008年08月13日

●オープニング

 ルディ・セバスチャンと言うシフールがいる。
 生まれてから十数年、ノルマンの地を離れた事のない、ある意味箱入りとも言えるシフールだ。
 そんな彼は、シフールにしては珍しく、内向的な性格をしている。
 だから友達も殆どいない。自分から声をかける事もなく、本来なら空を飛び回って活発に空中遊泳を楽しむ為に神から授かった筈のその羽は、滅多に広がる事はない。
 だが、そんな彼にも大事に思う者がいる。
 妹のリーナだ。
 彼女はシフールでありながら、身体が弱く、思うように飛び立つ事が出来ない身体だった。
 そんなリーナは現在、ノルマンのとある地域にある自宅で療養している。
 ルディはもう、何年もそこには戻っていない。
 それでも、彼女を想う心に変わりはない――――


「ララー!」
 夕刻。
 自室で本を読んでいたララ・ティファートの元を、ルディが訪れる。ララが窓を開けると、ルディは珍しく破顔しながら入室して来た。
「どうしましたか」
「ララ、確かパンが好きだったよね」
「はい。好きです」
「今、パリでパンが流行ってるんだって」
 近所を飛び回っていたルディの耳に、パリで珍しいパンが流行っていると言う噂が飛び込んできたとの事だった。
「詳しく聞かせてください」
「うん。あのね‥‥」
 身を乗り出してくるララに、ルディは立ち聞きならぬ飛び聞きした内容を話す。
 それは、つい最近、とある村からパンを売りに来た村人たちの話だった。
 なんでも、自分たちの村で作った珍しいパンを、パリまで馬車で運んで来て、それを売っていたとの事だ。
「こう言うの移動販売? って言うのかな。それが大盛況だったんだってさ」
「変わったパンと言うのは、どう言うパンですか」
「えっと、チーズやお豆が乗ってるのとか、蜂蜜が入ってるのとか」
「お豆‥‥」
 ララは豆類も好物だった。
「食べたいです」
「うん。移動販売はもう終わったみたいだけど、直接村に行けば買える筈だよ。パリから半日くらいで行けるって」
「わかりました。では早速行きましょう」
 即答しつつ、ララは早くも荷造りを始める。
 その荷物は、明らかに自力での移動を想定してのものだった。
「え?、あのさ、ララのお父さんに連れて行って貰うように頼んで‥‥」
「ダメです」
 キッパリと言い切ったララに、ルディは思わず嫌な予感を覚える。
「私たちは冒険者なのですから、私たちだけで行きましょう」
「えー‥‥」
 それはしっかりと的中した。
 確かに、一月ほど前にそう言う話が出て、実際にそのような事になった。
 今この二人は、冒険者志望と言う肩書きが乗っかっている状態だ。
 実際に冒険者たちと触れ合い、冒険者がどう言うものなのかについて、いろいろと教えて貰っていた。
 まだどのような方向性の冒険者になるかと言う事も決まっていないが、冒険者と言えば冒険、と言う思考に則り、自力での移動を主張しているようだ。
「けど、正式には『冒険者を目指してるかも』な二人だよ?」
「用意できました」
「聞いてないよ‥‥聞いてよ人の話をさ」
 それすらも聞かず、ララは荷物をまとめた皮袋を持ち、ルディに強いのか弱いのか良くわからない瞳を向ける。
「では、道案内をお願いします」
「いや、僕も村の場所までは知らないし」
「何故ですかっ」
「知らないものは知らないよ‥‥まあ、パリで聞けばわかると思うけ」
「では行きましょう」
 話を最後まで聞かないまま、ララは部屋を出て行った。
 が、直ぐに戻ってくる。
「日が暮れてしまいました」
「今日は無理だね。せめて日を改めようよ」
「そうします」
 力なくそう呟き、ララはふて寝してしまった。
 その様子に嘆息しつつ、ルディは部屋の扉の方から視線を感じ、その隙間から廊下に出る。そこにはララの両親の姿があった。部屋での話を立ち聞きしていたのだろう。複雑な表情をしていた。
「えっと‥‥止めた方が良いのかな」
「何も言うな。我が娘の性格は嫌と言うほど知っている」
「お目付け役、お願いね」
 両親からお願いされてしまい、ルディは頷くしかなかった。
「一応、冒険者ギルドに護衛の依頼を出しておくから、数日ほど時間稼ぎを頼む」
「う、うん」
 自信なさげにルディは頷いた。

●今回の参加者

 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb1875 エイジ・シドリ(28歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3512 ケイン・コーシェス(37歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb4683 円 旭(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec4179 ルースアン・テイルストン(25歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec5347 オサーン・マルボロ(20歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

リチャード・ジョナサン(eb2237)/ 明王院 月与(eb3600)/ リディエール・アンティロープ(eb5977)/ レア・クラウス(eb8226

●リプレイ本文

●冒険の基本 〜Beginners Side〜
 出発日――――午後。
「‥‥ふう」
 ララとルディは、8時間ほど歩き続け、ようやくパリに辿り着いた。ここまで一度も休憩せずに来た為、ララの足は棒のようになっている。ルディも疲労の色を滲ませていた。
 ララは、妙に行動力のある女の子だ。事あるごとに家を飛び出し、街を彷徨った経験は一度や二度ではない。だが、長時間荷物を持って歩き続けた事はない。ルディも同様だった。
「疲れたね‥‥今日はもう休もうよ」
「いえ。直ぐ村の事を聞いて回りましょう」
「えーっ‥‥」
 以前来た事のある冒険者ギルドで休憩していたララだったが、早くも行動再開の為に立ち上がった。
「やはり冒険者たる者、休憩なんてするより突き進む方が良いだろう、そうに決まってる」
 そんなララの真横から、ぶっきらぼうな言葉が届く。二人同時に視線を送ると、そこにはテーブルにつき、会話している女の姿があった。一人は、小柄ながら大人びた顔をしているエルフの女性。もう一人は、精悍な顔つきながら、どこか頼りなさげにしている人間の男性。いずれも冒険者と思しき格好だ。
「失格。それでは立派な冒険者にはなれなくてよ?」
 どうやら、まだ駆け出しの冒険者と思しき男性を、熟練者の女性が指南しているようだ。
「ララ、ちょっと聞いとこうよ」
 冒険者のイロハを話している二人の会話に、ララとルディは暫し耳を傾ける事にした。

●冒険の基本 〜Experts Side〜
「変われば、変わるものだな」
 遠巻きにその様子を眺めていたエイジ・シドリ(eb1875)は、感心した様子で理美容用品一式を仕舞っていた。
「女性は化ける生き物ですから」
 エイジの隣で柔らかに笑みながら、ルースアン・テイルストン(ec4179)が呟く。彼らが話しているのは、ララ達の傍で会話をしている女性――――ラテリカ・ラートベル(ea1641)の事だった。エイジの施した化粧によって、元来の可愛らしい容姿が大人びた雰囲気に様変わりしているのだ。或いは、10年後の彼女が化粧によってその顔を覗かせているのかもしれない。
「成程、今後の参考にしておこう」
「それにしても、こう改めて並べられると、改めて冒険者は大変な職業だと再認識させられますね」
 ラテリカと、その対面に座るケイン・コーシェス(eb3512)の会話は、冒険者が留意すべき基本事項を熟練者が駆け出しの冒険者に指南するという形式で進められていた。
 無論、ケインは駆け出しなどではない。既にパリにその名を轟かせる冒険者だ。ララ達にわかりやすく聞かせる為、このような演技をしているのだ。
「水なんて、現地調達で問題ないだろう?」
「ダメ。水は生き物にとって欠かす事の出来ない大事なもの。常に数日分携帯しておかなくては」
 中々堂に入った演技で、指南劇は進む。ラテリカは口調も劇的に変えていた。
 内容は、休憩や水の必要性に始まり、日が暮れた後の行動、荷物の適切な量、お金の管理方法、天候への心配り、危険生物や山賊と遭遇した場合の対処法、道中の落盤や橋落ちなどの問題、装備の是非、怪我の際の処置、体力の配分‥‥と、円滑に進んで行く。
「それにしても、あんたの格好は少々野暮ったいな。ああ言う綺麗な格好をしたらどうだ?」
「私だって素敵なドレスで居たいの。でも、お金持ちだと思われて誘拐されたら困るでしょう?」
 微妙に板に付いて来た二人の話を、ララ達はじっと聞き入っていた。
 冒険の基本をさりげなく教えると言う目的は、しっかり達成できそうだ。
「この辺りに不審な人物の気配はありませんね」
 そんな中、見回りをしていた円旭(eb4683)が戻ってくる。旭は聞き耳頭巾を身につけ、薬草取りに扮し、出発時からララ達の護衛をしていた。途中、リチャード・ジョナサンのサポートもあり、ここまでは円滑に護衛できている。
「ご苦労さん。俺はそろそろ看板作りに戻るとする」
「お願いします。彼女達が宿を取ったらお知らせしますので」
 ルースアンの言葉に、エイジは片手を軽く挙げて応えた。

●閑話休題
 この日の夜。
「‥‥」
 冒険者ギルドの前に、何時間も佇む人影があった――――

●目的地へ 〜Beginners Side〜
 冒険とは、一つの形態に留まる事はない。例え全く同じ依頼内容であっても、その為の行動は冒険者によって様々だ。
『珍しいパンを売っている村に行く』と言う目的の場合、その場所を知っているかどうかによってまず行動は変わってくる。
 そして次に、その場所をどうやって聞くかを知っているか否かでも、やはり変わってくる。
「あの」
「すいませーん」
 冒険2日目。
 冒険者としてはまだ何の経験もないララとルディは、当然冒険者としての道の聞き方などは知らなかったので、普通に道を聞いて回っていた。
 しかし、その村へ行った事のある者はいないのか、要領を得た答えは返ってこない。
「困りました」
「んー‥‥」
 しゅんとしつつ、ララは荷物の中にある革製の水筒を取り出し、水分を補給する。
 昨日の教訓から、朝一で水筒を購入したのだ。
 ルディも水を口に含み、暫し休憩を取る。
「珍しいパン売ってるですよー」
 そんな二人に、僥倖とも言えるそんな声が聞こえてきた。同時に顔を見合わせ、声の方へ向かう。
 そこには、銀色の髪のほんわかした雰囲気の女の子がいた。
 薄く切った木材で作成したと思しきビラのような物を配っている。
「宜しければいらして下さいです‥‥はわっ」
「これは、どうもご丁寧に‥‥あうっ」
 そのビラを渡した女性と、受け取ったララが同時にお辞儀をし、頭をガチンとぶつけ合った。
「うう、ごめんなさいです」
 涙目で額を押さえる女の子と何度も会釈し合い、ララはその場から離れ、受け取ったビラを眺めた。
 そこには、珍しいパンのある村までの地図が書かれていた。
 ララは『目的地への地図』を手に入れた!
「あ、ララー! 看板があるよー!」
 そんなララがルディの声に振り向くと、『珍しいパンが食べられる村はこちら→』と記された看板が立てられていた。
 その看板と地図を比較してみる。どうやら間違いないようだ。
「行きましょう」
「わっ、待ってよ。ちゃんとペース考えないと」
 トロンとした顔で張り切るララを、ルディは昨日得た知識を使って諭すのだった。

●目的地へ 〜Experts Side〜
 冒険とは危険がつきものだ。
 例え一日もあれば辿り着けるような距離であっても、ただ宿屋に泊まる、と言うそれだけの事であっても、危険と言うものは常に牙を剥いている。
 よって、冒険を護衛すると言うのは、ある程度経験を積んだ者であっても、何かと神経を消費する。
「異常なし、と」
 先日とは違い猟師の格好をしている旭は、得意の隠密スキルを使い、気配を断ったままララ達を追行していた。
 護衛は彼だけではない。
 ララ達に先行して、ペットの駿馬アシュリーに乗ったルースアンが先に待つ危険を逐一チェックしている。
 エイジは一定の距離をとった前方で隠れながら待ち構え、ララ達がそこを通過すると再び先回りすると言う行動を繰り返す事で、ララたちの周辺の危険確認と、先行しているルースアンと後方への伝達係を務めていた。
 そして後方からは、先日絶妙なコンビネーションを見せたケインとラテリカが注意深く彼等の背中を見守っている。
 ちなみに、ラテリカは昨日施していた化粧を落とし、素顔になっていた。
 既に早朝、ルースアンがエイジの作った看板を設置するのと同時に、村までの道の安全確認をしているので、危険な物は見当たらない。
 ルースアンが常に前方に、ラテリカとケインが常に後方に陣取り、その間をエイジと旭が移動し、連絡を密に取り合う。
 そして、唯一顔を知られておらず、最も隠密スキルに優れた旭が、最も二人に近い場所で護衛を行う。
 リスクが少なく、非常に効率的な護衛だった。
 だが――――それでも、冒険に危険はつきもの。
 そして、その危険とは、必ずしも外的要素とは限らない。
「!」
 ララの様子を見守っていた旭が、傍で待機させていたペットの柴犬を吼えさせる。
 それは緊急時のサインだった。
 ただし、『落石』や『獣注意』と言った、外的要因の危険を知らせるものではない。原因不明の、対象者の変化に対してのものだった。
 後方のケインとラテリカも、直ぐその異変に気付く。
 ララがいきなり転倒したのだ。
 慌てて駆け寄ろうとする二人だったが、距離を縮める中で、その異変の要因に気付く。
 道上に、大きな窪みがあった。それに足を取られ、こけてしまったのだ。
 その様子を遠巻きから確認したルースアンは、大事に至る出来事ではないと安堵しつつも、徐々にその顔を曇らせていく。
 ララが蹲ったまま立ち上がらないのだ。
 転んだ後に母親が手を引くまで待つ子供のような年齢ではない。
 恐らくは、足を負傷したのだろう――――全員がそう推測した。
『助けるべきでしょか‥‥?』
 ラテリカがテレパシーを前方の冒険者に送る。
 しかし、ルースアンもエイジも旭も、一様に首を横に振った。
「骨折くらいの怪我だったら、もっと大騒ぎしてるだろう。このくらいは耐えて貰わないとな」
 ケインもそう言いつつ、ラテリカの頭の上にポンと手を乗せる。ただ、その表情は明らかに心配そうだった。
 1分‥‥2分‥‥ララは立ち上がらない。その頭上で、ルディが何度も声をかけている。
 もしかしたら大怪我なのでは――――そんな懸念が、冒険者達を襲う。
 もしそうなら、一刻も早く施療院に連れて行くべきだ。
 果たして――――
「あ!」
 思わずラテリカが声を上げる。
 ララは、自力で立ち上がった。
「治療をしていたのですね‥‥」
 その様子を見ていたルースアンの目に、あて木を布で足に結び付けたララの姿が映る。これは、昨日ラテリカとケインが行った『冒険者指南』の中に話題として出ていた、捻挫の際の応急処置法だった。
 それは、ルースアンが出した案だった。
「お手柄だな」
 エイジのその言葉に、ルースアンは首を横に振る。
「しっかりと学び、そして覚えていた、あの子達のお手柄です」
 それは見守る者の紡ぐ、心からの優しさに他ならなかった。

●はじめの一歩 〜Beginners Side〜
 明らかにペースが落ちる中、それでも二人は歩いた。
 ルディも、『飛ぶ』ではなく『歩』いていた。
 パリから目的地までは、通常大人が歩くペースで半日はかかる。当然そのペースでは無理だ。
 幸いな事に、中継地点に村があったので、そこで一泊する事ができた。
 ララの足は、少し腫れていた。
 それでも、定期的に水で冷やし、固定した状態で引きずるように歩いていく。
『もう止めよう』
 ルディは、その言葉を封印していた。
 それは、珍しいパンに対しての執着――――ではない。
 今はただ、初めての冒険を達成したい、達成させたい、ただそれだけだった。
「ララ。もう少しだよ、ララ」
「はい‥‥っ」
 通常の汗と冷や汗を交えつつ、ララは歩く。
 無理をするような旅ではない。
 立派な何かを成し得るような冒険ではない。
 それでも、ララは一切後ろを向かず、歩いた。
 好奇心などよりもずっと強い力で。
 そう。
 それは。
「あ、あそこ‥‥ララ!」
 それは――――

●はじめの一歩 〜Experts Side〜
 珍しいパンを売っている村は、裕福では決してない、小さな村だった。
 しかし、現在村おこしの真っ最中で、その規模はこれから徐々に大きくなると言う事らしい。
 何でも、近々冒険者酒場に自分達のパンをメニューのひとつとして置いて貰おうと言う計画もあるとか。
 もし成功すれば、今以上の賑わいを見せる事は間違いないだろう。
 そんなこの村を訪れた事のある者、既に深くかかわっている者、初めて来た者‥‥今回の依頼を受けた冒険者達は、それぞれの立場を胸に、皆入り口に立っていた。
 無論、目的はひとつ。既に護衛の必要もない距離にまで迫っている、小さな来訪者達を出迎える為だ。
 怪我しても尚歩き続けているララの姿に、ケインとラテリカは少しうるっと来ている様子だ。
「冒険者たるもの‥‥良く使われる言葉だが」
 まさかあのような少女の姿にそれを見るとはな、と続け、エイジは小さく息を吐いた。
 そうこうしてる内に、二人は直ぐ傍まで近づいている。
 顔を知られていない旭以外には、もう気付いている事だろう。
 ならば、そろそろ。
 掛ける言葉はそれぞれに決めていたが、発せられたのはほぼ同じ意味だった。
 この場へ辿り着いたその時を。
 自分達の領域へ踏み入れた事を祝し――――

『ようこそ!』


●エピローグ
 ルディ・セバスチャンは、自分を情けないシフールだと認識していた。
 周りと違い、どうも陽気になれない自分が惨めだった。
 虚弱な妹を守る事もできず、家を飛び出した自分が情けなかった。
 そんな自分を責め続ける中、彼は一人の女の子と出会った。
 人間の少女だった。
 名前はララ・ティファート。怒る事も笑う事もない、変わった女の子だ。
 ただ、驚くほどに芯の強い子だった。
 密かにルディはその強さに憧れていた。
「だから、僕も‥‥と思って」
 パンを買い、村を見学し、子供達と遊び、お土産を貰い――――
 村を満喫し、宿屋の一室ですやすや寝息を立てているララの傍で、ルディは自身を語っていた。
 ルースアンら冒険者達は、親身になってその話を聞いている。
「妹は‥‥リーナは、珍しいものに憧れてたんだ。多分、ずっと同じ景色を見てるからだと思う」
 飛べないシフール。それが、ルディの妹に課せられた宿命だった。
 少しでも勇気付けたかった。
 だから、この村へ向かう事を提案したのだ。
 珍しいパンを贈る事で、喜んで貰いたくて。
「でも、ちょっと違うのかな、って思って」
 ルディは小さく笑った。
 優しさとは、そう言う事ではないと、気が付いたのだ。
 ルディは非常に視力が良い。
 そして、護衛がいる事は予め知らされていた。
 だから、冒険者達の存在も、その意図も理解していた。
 同時に、自身の浅はかさを嘆く。
 別に贈り物をする事が浅はかと言うわけではない。
 それで満足感を得ようとしていた自分自身に対して。
 そして、それで優しさを与えられると信じていた事に対してだ。
 本当の優しさとは、直ぐ手を差し伸べる事ではない。
 それを、彼は学んだ。
 妹のリーナが、笑顔で空を見ている。
 そんな光景を実現させる為に、自分は何をすべきなのか。
 ルディは、それを学んだのだった――――