この夏は うだりうだって うだルンバ
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■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月09日〜08月14日
リプレイ公開日:2008年08月17日
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●オープニング
夏は、一年の中で最も何も考えたくない季節だと言われている。
要は暑くて頭が働かないからだ。
とは言え、一日を何も考えずに過ごすと言うのは、例え定職に就かず放浪の旅に出ている人間であっても、そう容易な事ではない。
しかし、中には実際に一日中何も考えずにいる者もいる。
それは――――
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
ただ、鉄を打つ事だけに集中し、日が落ちても尚、炉の前で鍛打し続ける者。
そう。鍛冶師である。
一言で鍛冶師と言っても、手がける鉄製品は様々だ。
剣や槍の制作及び修理を扱う者もいれば、指輪作成などの細かい作業を専門に行なう者もいるし、料理人の使う包丁ばかりを作る者もいる。
ただ、それらの鍛冶屋に共通して言えるのが、彼らは皆無心で鉄を叩くと言う事だ。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
そこに理由はない。
ただひたすら熱間鍛造に励むのみ。
尋常ではない熱気を放つ炉を前に、オレンジ色に輝くその物質を、時に繊細に、そして大胆に、愛用のハンマーで叩く。
出来上がった時、製品を依頼主に見せた時など、鍛冶屋が歓喜を覚える瞬間は幾つか存在しているが、最もその対象となるのは、鉄を打つその時だろう。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
パリの近隣のとある街で鍛冶屋をやっているアポロニウスと言う男もまた、その瞬間に至福を感じる一人だ。
唯でさえ暑い夏。
日中は熱気に包まれる夏。
その熱気に、更に炉の火熱と赤熱された鉄の火熱が加わり、鍛冶場の室温は呼吸すら困難なほどに上昇している。
通常の人間なら、気絶してもおかしくないような状態。
しかし、鍛冶師と言うのは、そんな場所で自己表現を行う職業なのだ。
鉄を叩く音に耳を傾け、槌を振り下ろす。
彼等の領域は、常人では計り知れないほどの――――
「アポロニウスさーん。あれ? アポロニウスさん? あ、アポロニウスさん!?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥ぐてぇ」
「きゃーっ、大変! お隣のアポロニウスさんが白目を剥いて完全失神してるーっ!」
‥‥あれ?
ええと。
んー‥‥
――――夏は、一年の中で最も何も考えたくない季節だと言われている。
「って、ちょっとペーター!? 師匠が倒れてるのにそんな所で何してるの!」
「いや、予定と違ったので初めから編集し直さないと」
「意味のわからない事言ってないで水持ってきなさーい!」
記録は、ここで途切れる‥‥
「‥‥鍛冶屋の仕事を記録?」
「はい」
舌を出して失神しているアポロニウスを施療院に運び終えたその弟子ペーターは、外で待っていた友人の婚約者マルレーネに事情を説明していた。
「鍛冶屋と言う仕事がどれだけロマン溢れるものか、ダイナミックなものか、そしてブリリアントなものかと言う事を一般の方にわかりやすく説明する為、師匠の仕事をする姿を克明に文章化していたのです」
現在、この街では鍛冶屋を目指す者が激減している。
その為、鍛冶屋ギルドが『鍛冶屋志望者倍倍キャンペーン』を実施する事になったのだが、その一環として、この街でも特に評判の良いアポロニウスの仕事を記録し、それを紹介して欲しいと言う依頼を受けたのだ。
「って言うか、そのキャンペーン名だと逆に志望者減りそうなんだけど」
「能無し連中の考える事なんて、そんなものです」
ペーターは堂々と同業組合の悪口を言い切り、帰宅の途についた。
それから数日後――――
「むうっ、ワシともあろう者が、よもや仕事中に『軽いめまい』を覚えようとは」
「明確なる失神です、師匠」
無事退院したアポロニウスは、不遜な弟子と共に、再び自身の職場である鍛冶場を訪れていた。
火は焚いていない状態なのだが、それでもかなり蒸し暑い。
「しかし参ったの。この街だけなのか、他もなのかは知らんが、今年の夏は異様に暑いようだ。このワシが仕事中『軽い軽いめまい』を覚えるほどに」
「完全なる失神です、師匠」
アポロニウスは震える指で自慢の白髭を擦りつつ、炉の前に腰を下ろした。
「このままでは仕事に支障がでるの。どうにかせんと毎日『極めて軽度なめまい』を覚えてしまう」
「大胆なる失神です、師匠」
「やかましゃ! わーっとるわい! 三度も言いおって!」
さすがに耐え切れなかったアポロニウスが怒鳴りつけるが、ペーターは一向に表情を変えず、腕組みをして炉の方に視線を送った。
「少なくとも五日分の記録を取ってくれと言われています。ですが、このままでは無理ですね。ある程度作業中の室内の温度を下げないと」
「つーか、そもそも記録なんてどうすんじゃ? 一日中鉄打っとるだけの記録なんぞ誰も見んだろに」
「何ですって?」
ペーターはゆらりと師匠に視線を送り――――次の瞬間、手に持っていた槌を思いっきり振り上げた!。
「どわっ!」
しかしすんでのところで回避。
「こら! 師匠を撲殺しようとしおっただろ今!」
「僕が手がける一大列伝『鍛冶の鉄人』を誰も見ないとは、どう言う了見ですか?」
「言葉のあやだろーがっ! 全く、このボケ弟子は‥‥」
そう言う弟子の気性は既に知っているので、お咎めはない。
非常に稀有な関係だった。
「‥‥と言うか貴様、ワシが『究極に軽度なめまい』を覚えている間も平然としていたと言う話だったが」
「驕暴たる失神です、師匠」
「しつこいわっ! 何じゃい、驕暴たる失神って」
そんな師匠を、ペーターは心から信頼し、慕っている。
多分。
「まあ、師匠なら倒れた所も絵になるかと思いまして。記録係の責任故です」
「絵じゃなくて文字だろが、書いていたのは‥‥全く、どうしたものか」
「じゃあ、こうしましょう」
ペーターの脳裏に浮かんだのは――――
「師匠が倒れたら、僕が代わりをすると言う事で。ついでにその瞬間からこの鍛冶場も僕が継ぐと言う事で」
「やっぱりそう言う魂胆だったかああああっ!」
ではなく。
結構何でもやってくれる、冒険者ギルドの存在だった。
‥‥多分。
●リプレイ本文
●扉を開くと
「うっ、何この熱気!?」
鍛冶場を訪れた瞬間、シフールのミシェル・サラン(ec2332)が悲鳴にも似た叫び声を上げる。その後に続くケイ・ロードライト(ea2499)、シルア・ガブリエ(ea4359)、オグマ・リゴネメティス(ec3793)も、明らかに別世界というような熱気に思わず顔をしかめていた。
「まあ、鍛冶にかける男の情熱って事にしておくとして……依頼主は何処かしら?」
「あちらのようです」
額に滲む汗を拭いつつ、オグマが指したそこには――――
「‥‥」
炉の炎を背に、まるで宿敵を睨みつけるかのような形相で、アポロニウスは依頼を快諾してくれた精鋭達を迎えている。
ギョロっとした目玉を血走らせている様は、貫禄よりもどこか切羽詰った感を醸し出していた。
「むむ、唯でさえ熱いのにこの雰囲気は‥‥なごませねばっ」
妙な使命感に燃えたシルアが一歩前に出る。
「どうも〜。教会税の徴収に伺いました〜」
「‥‥‥‥」
反応はない。
そして、何故かこの熱気篭る炉の直ぐ傍に寒風が吹き荒ぶ。
「お見事です」
その様子を見ていたらしきペーターが、手を叩きながら入室してきた。
「自らの教示を犠牲にしてまで、この熱気を沈静化させようとする‥‥中々やりますね」
「成程。確かに少々涼しくなりましたな。尊ぶべき神聖騎士に拍手を」
ケイの音頭で、その場にいる全員−1が手を叩く。シルアは明らかに目を泳がせていたが、空気を読み、手を上げてそれに応えていた。
一段落し、ケイが改めて一礼する。
「アポロニウス殿はこの地に名を馳せる鍛冶屋と伺っています。このケイ・ロードライト、その助力を出来る喜びに打ち震えておりますぞ」
「光栄ですね。どうぞ宜しく」
さも当然と言わんばかりにペーターが握手を求めてきたが、ケイも当然のようにその手を握っていた。
共に偉大な師を持つ者同士の共有感――――
「う、また熱気が‥‥」
ミシェルが顔を背ける中、他の二名もそれぞれに挨拶をしていた。
「えーと、シルア・ガブリエです」
「レンジャーのオグマと申します。よろしくお願いいたします」
それら全てにペーターが握手で応える。
「ところで、先程からアポロニウスさんが微動だにしないのですが」
「師匠は人見知りが激しいので」
「‥‥ワシ、初対面の人、苦手」
何故かカタコトだった。
「中々に先が思いやられますな」
「楽しそうですよねっ」
ケイとシルアが朗らかにする中、過酷な5日間は静かに幕を開けた――――
鍛冶屋の外は、その日も記録的な猛暑が続いていた。
街中の共同井戸には行列が出来ており、皆その衣服に汗を染み込ませている。
そんな中、オグマは井戸に赴く事なく水を発生させていた。
クリエイトウォーターという、手元の空間に水を湧き出させる魔法のスクロールの効果だ。
そして、オグマが生み出した水をバケツに蓄え、その中にケイが石を入れている。
無論、唯の石ではない。ミシェルがアイスコフィンでカッチカチに凍らせている石だ。
そして、冷水となったその水を、ペーターが全力で師匠にぶっ掛けた。
「どうですか?」
「お、おお‥‥! 夏が、夏が裸足で逃げて行く!」
満足そうだった。
「ちなみに、私が使える魔法はこれだけよ」
シルアがハイテンションで冷水を鍛冶場中に撒く中、熱対策の核となるミシェルが堂々と宣言。
「水魔法使いなのにですか?」
「‥‥いいじゃない、氷が作れるなら夏場には重宝するんだから」
ペーターの指摘に、ミシェルは少し拗ねていた。
「まあ、問題は持続性ですね。失礼ですがこの魔法は1日に何回ほど」
「年齢みたいな聞き方ね‥‥だいたい40回ちょっとかしら」
「十分です。15時間ほどぶっ通しで行うので、それならば20分に一度のペースで行けますね」
そのペーターの言葉に、オグマとミシェルが同時に目を丸くする。
「‥‥15時間?」
「そ、そんなに‥‥?」
驚く二人を尻目に、アポロニウスは黙々と用意をしている。
「鍛冶屋はの、鉄を叩いている間は余計な間などいらんのだ」
「せめて目を合わせてお話になっては」
「う、うるさいわいっ」
まだ慣れないようだった。
「まあ、流石に食事休憩くらい挟みましょうか。それ以外の空腹時は適当に時間を取って保存食でも食べていてください」
「はぁ‥‥ま、良いけど」
「わかりました。やってみます」
うだり対策本部の二名は覚悟を決めたようで、それぞれの暑さ対策の意見を交換し合っていた。
「さて、記録の方なのですが」
ペーターが振り向くと、シルアとケイがスタイリッシュなポージングで待ち構えていた。
「そちらは我々が手伝いますぞ」
「楽しそうですねっ」
と言う訳で、記録は交代制で行う事になった。
敢えて統一性を出す必要性もない為、それぞれの作風で描いて行くと言う手法が採用された。
●記録絵図
・一日目‥‥担当者:ペーター
『炎はゆらめき。火花はきらめき。鍛冶師とは、その一瞬を鉄の中に閉じ込める専門家なのだ――――』
鍛冶場の外には、数多のバケツが並べられている。
スクロール使用は魔力を消費する。オグマの場合、一日に使用できるのは七回だ。
1m立方の水を2時間に一度のペースで湧き出させると言う配分となる。
ただ、全ての魔力を水創造に使用している訳ではない。クーリングのスクロールを使用し、氷の作成も行っている。
氷は鍛冶場の冷却や、口に含ませるなど、利用機会は多い。
「水は井戸からも汲んで来れるので、その量次第ではクーリングを重点的に使った方がいいかもしれませんね」
ペーターの意見に、オグマが頷く。その傍らで、アポロニウスが延々と作業を行っていた。
鍛冶師の仕事は長時間に及ぶ。鉄を叩くのは、鉄を支配する事と同意。完全に制御するには、彼のような熟練者であっても、何度も語り合うように叩き続ける必要がある。
その集中力は、冒険者の目から見ても思わず息を呑むほどだった。
8時間ぶっ通しで作業を行い、食事休憩に入る。鍛冶場の近場は熱気が伝染しているので、隣のマルレーネの家を使わせて貰う事となった。
「思いのほか、食材が安く仕入れられました」
食事はシルアが担当。体力の付いて摂取しやすい豚肉のシチュー、豆のスープ、野菜のサラダ、そして凍らせたイチジクやブドウなどをどんどんテーブルに並べていく。
「これ、知人から預かっておいたスタミナ弁当。宜しかったらどうぞ」
それに加え、ウィルシス・ブラックウェルの作ったひよこ豆のサラダ、夏野菜のオリーブオイル煮、冷製ドルマデスが並べられる。
アイスコフィンで予め凍らせていたので、保存状態は万全だったようだ。
「ありがたいですな。明日からは私も釣りを行う予定なので、釣果に期待して下さい」
「イールが釣れるそうね。楽しみだわ」
夕食は和気あいあいと進み、後片付けを皆で行い、それぞれの就寝場所へと散って行った。
・二日目‥‥担当者:ケイ・ロードライト
『何かに打ち込む姿は美しい。そして鍛治師は文字通り、自身の技と尊厳を灼熱の鋼に打ち込むのである――――』
今日もまた、アポロニウスは炎の前で心臓に響く打音を響かせていた。
その鍛冶屋から数kmほど離れた場所に、イールの釣れる川がある。
ケイとシルアはそれぞれの目的でその場所を訪れていた。
涼しげなサマーシャツを来たケイは釣り糸を川に垂らし、シルアは対岸で皆の衣服をごしごし洗っていた。
「ご苦労様です。釣れますか?」
そこに、袋を抱えたペーターが現れる。ケイはまだ空のバケツを見せ、苦笑を浮かべた。
「では、この針を使ってみてください。昔趣味でやっていた頃の物ですが」
ペーターから釣り針を受け取ったケイは、満足気に礼を述べ、針を取り替える。それを確認し、ペーターは対岸のシルアに近寄って行った。
「せんたくせんたくらららららー♪ せーらさーまもごっしごしー♪」
鼻歌を交えつつ、丹念に洗っている。
「お疲れ様です」
「いえいえ。洗濯板があればもっとはかどるんですけどねー」
「そうかと思って、これを用意しました。出来たてです」
そう言ってペーターが袋から出したのは、クルスシールドだった。
「これを板代わりに」
「え? でも‥‥」
「神聖な盾には清潔な力が宿る物。きっと綺麗になりますよ」
「そ、そうですよねっ」
納得し、シルアは更に機嫌よく洗濯を続ける。
「おおっ、釣れましたぞ!」
その対岸で、イールが水飛沫と共に力強く飛び跳ねた。
一方、鍛冶場――――
「記録係がおらんぞおおおっ!」
「仕方ないですわね‥‥インタビュー形式でごまかしましょうか」
ミシェルの機転で滞りなく終わった。
その日の夕食。
ケイが見事吊り上げたイールの蒲焼が食卓に並ぶ。
「秘伝のタレがあれば良かったのですが」
「十分美味ですよ。素晴らしい腕前です。誰かさんとは違って」
「余計なお世話。全く‥‥」
マルレーネの嘆息に笑い声が上がる中、何かを抱えたオグマが厨房の方から出て来た。
「蜂蜜と岩塩を混ぜて湯に溶かしたものです。滋養に良いですよ」
「ありがたいですね。ではこちらの酒器にでも使いましょう。あ、一つ差し上げますよ」
昼間の熱気で消費した体力は、食事によって効率よく回復して行った。
・三日目‥‥担当者:ペーター
『鍛冶とは、鉄と人との戦いである。時に思いも寄らぬ反抗を――――』
「さすがに‥‥厳しいわね」
ミシェルの額には、大粒の汗が流れている。
体力回復を優先して、ベッドの質の良い宿屋に泊っているものの、流石に疲労が見え始めてきた。
「何か大きくて凍らせてもいいものある? 何でもいいわ」
「では、これを」
ペーターがミシェルに手渡したのは、昨日シルアに渡したのとは違う、小型の盾だった。ミシェルはそれを凍らせ、そこにぴとっと張り付く。
「はぁ〜、落ち着く‥‥って、あ、あれ? 羽が動か‥‥」
羽が張り付いていた!
「これはいけませんね。万が一羽が破れた時にはこれを」
ペーターは天使の羽のひとひらをミシェルに進呈した。
「代わりにはならない気がするけど‥‥まあ、貰っておくわ」
そんな小さいトラブルの傍らで、アポロニウスの髭が燃えていた。
「サラッと流す事じゃないわいっ! うぎゃぎゃーっ!」
「大丈夫、唯の火傷です」
どうやら火の粉が燃え移ったらしい。シルアがリカバーで回復させる。
その一時間後――――
「うぐぐ、目眩が」
「全然大丈夫、唯の疲労ですよ」
立ち眩みするアポロニウスを、シルアがメンタルリカバーで回復させる。
その一時間後――――
アポロニウスがぶっ倒れた。
「大丈夫大丈夫、唯の総合的衰弱による失神ですよっ」
リカバーとメンタルリカバーで回復させる。
「大丈夫な訳あるかいっ! ワシぼろぼろやんけっ!」
「セーラ様ありがとう! と心の中で叫ぶのです。そうすれば全快ですよっ!」
「ぐおーーーーっ! やってやるぁーーっ!」
何かスイッチが入ったのか、アポロニウスは咆哮と共に槌を振りかぶっていた。
「まるでズゥンビと死霊使いのようですね」
「‥‥師匠をズゥンビ呼ばわりって、どうなの」
ミシェルの冷たい視線に、ペーターは満面の笑顔で応えた。
・四日目‥‥担当者:シルア・ガブリエ
『その時、鍛治師の瞳は炎よりも熱く燃え上がった。鉄を支配出来るか否か、その瀬戸際にあって、伝家の宝刀が抜かれる。「燃え上がれ、わしのヒートハンドォ!」――――』
「‥‥いや、ワシそんな技使えんし」
「気合でお願いします。アポロニウスさんなら出来る筈っ!」
シルアの星の出そうな弾ける笑顔に、アポロニウスはその気になった。
「ならば燃え上がれえええ熱っちぁあああああ!」
その結果、燃えた。
「あーもう、このキツい時に余計な魔力を‥‥」
ミシェルのアイスコフィンで事なきを得た。
四日目ともなると、色々な問題点が生じてくる。
更に熱さが増す中、井戸の周りにはこれまで以上に人集りが出来ており、クリエイトウォーターのスクロールに頼る割合が増えてきた。
「ソルフの実がありますので、大丈夫です」
オグマの魔力がスクロール3回使用分回復し、水の確保はどうにかなりそうだった。
「記録係、替わりましょう」
「はいー」
バテ気味のシルアに替わり、ケイが記録を付ける。
半ばやけ気味に叩きまくるアポロニウスの鬼気迫る姿を、時に詩的に、時に情熱的に記した。
「もっとこう、鍛冶ってカッコイイ! みたいな表現にしたら?」
「私は物語風にアレンジしてましたから、出来ればその方向で継続して頂けると」
「ふむふむ」
様々な意見が飛び交い、ケイがそれに応える形で綴って行く。
オグマがスクロールを駆使し、熱気を軽減させる。
ここに来て、皆集中していた。
一つになって、この依頼を達成させようと、汗を滲ませながら作業に没頭していた。
それに応えるように、アポロニウスも気力を振り絞り、作業を続ける。
或いは、もう少し冷却に人数を割けるような状況が望ましかったかもしれない。
しかし、それを補うだけの働きを、彼らは見事に成し遂げた。
そして――――
・五日目‥‥担当者:ペーター
『全てが終わった。鉄は鍛冶師の前に忠誠を誓い、鍛冶師もまた鉄の潜在能力を最大限に引き出した。お互いが認め合い、称え合う。それは鍛冶師のみの知る事の出来る至福の世界だった――――』
ミシェルの案によって、表紙はケイの描いた光り輝く剣の絵が神々しく描かれる。
記録――――完了。
「皆さん、ご苦労様でした。では僕はギルドに届けてきますね」
全員が死力を出し尽くし、屍のように鍛冶場でぐったり倒れ込む中、ペーターは平然と外へ駆けて行く。
人々が協力し合う姿は美しい。
その結晶を手に、ペーターはギルドの門を潜り、それを受付に見せた。
「‥‥これ、所々汗で滲んでますね。書き直して貰えますか?」
「わかりました。やらせましょう」
冒険者達の夏は、まだ終わらない――――