巨大風車塔の謎

■ショートシナリオ


担当:UMA

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月13日〜08月20日

リプレイ公開日:2008年08月21日

●オープニング

 パリより南西に50kmほど離れた地域に、非常に大きな洞窟があった。
 洞窟内には川があり、最深部にはその川の源流となる湧き水も見られた。
 『かつて山賊が盗んだ財宝を隠した』などと言った噂もあり、一時はかなり多くの冒険者が訪れていたと言う。
 今は既に調査され尽くしており、その洞窟は旅の通路として使用されている。
 中にモンスターが棲みついているという事もなく、安全の保障された、いたって普通の洞窟だ。
 そんな洞窟から僅か数百m離れた場所に、小さな集落があった。
 既に人は住んでおらず、川を挟むようにして出来たその集落には、かつて民家の壁面に使用されていたと思しき煉瓦が無残に転がっているのみ。
 だが、そんな人気のない集落にも、未だにそのシンボルは健在だった。
 それは――――巨大な風車塔。
 全四階と言う高さを持つその風車塔は、中も非常に広く、日光から逃れる事もできる為、本来の目的である揚水だけではなく、有料の休憩所として、あるいは倉庫として活用されていた。
 もっとも、洞窟の調査が終わった今、そういった使われ方をする事もなくなり、風車守もいないその風車塔は手入れもされないまま、その動きを止めてしまっている。

「そんな風車が、突然動き出したんだと」
 パリの郊外にひっそりと構えている酒場『シャレード』で、そのマスターが頭にターバンを巻いた何処かの富豪と思しき男に話し掛けている。その富豪は余り興味なさげに話を聞いていた。
「ま、それだけなら誰かが修理したで済む事なんだが‥‥どうも興味深ぇ話があってな」
 マスター曰く――――その風車が動き出したと同時に、川がキラキラと光り出したと言うのだ。
 そのような現象はこれまで一度もなかったとの事だ。
 更に、その風車塔の周りには、何人かのいかがわしい格好をした連中が屯していたらしい。
 目撃者は、それを幽霊かなにかだと思い、慌てて逃げ出したとの事だ。
 実際、その風車塔では、洞窟探索に出ていた冒険者が休憩中に小競り合いを起こし、死者も出ていたと言う。
 中には休憩中の冒険者を狙い、盗賊が出没した事もあったらしい。
 村が寂れた原因は、村のシンボルが血塗られてしまったからなのだ。
「そんな呪われてもおかしくねぇ風車が突然動き出し、川が光り出す。そしてそこに集合する得体の知れない連中‥‥面白そうだと思わねぇか?」
 かつて、財宝が眠っていると噂されていた洞窟。
 その洞窟を訪れていた冒険者たちが集っていた風車塔。
 突然動き出した風車と、それに呼応するかのように輝き出した川。
 そして、その地を訪れた謎の集団。
 何かの関連性があるのか。
 それとも、ただの偶然なのか――――
「確かに面白い。冒険者ギルドにでも調査依頼を出すとしよう」
 マスターの話を聞いていた富豪の男バルドゥル・グロックラーは口の端を吊り上げ、酒代より少し大目の金貨を差し出した。
 

 尚、風車塔のデータは以下の通りである。

●外壁
 煉瓦(レンガ)
●高さ
 15m
●階数
 4階建て
●羽
 4枚(直径25m)
●内部
・1階
 床面積50平方m 扉、窓あり 中央部に4階まで突き抜ける螺旋階段あり
・2階
 床面積42平方m 窓なし
・3階
 床面積36平方m 窓あり
・4階
 床面積30平方m 風車の手入れを行う為の出入り口あり
●役割
 揚水:
 羽根が風力によって回転し、その力を上部の歯車によって主軸に伝導させ、
 主軸の歯車を回転させる。その力で主軸下部の水車を回し、水を汲み上げる。
●その他
 風車塔は川のすぐ傍にあり、近くには風車守の家が健在。
 風車守は、冒険者を風車塔内で休憩させる際にお金を取っていたが、洞窟調査が終わり冒険者が来なくなった為に儲けがなくなり、出稼ぎの為村を出た。
 風車の役割は揚水のみ。
 かつて冒険者たちが有料休憩所として利用していた際は、1階と3階を使用していた。
 1階は休憩、3階は倉庫として使用。

●今回の参加者

 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3916 ヒューゴ・メリクリウス(35歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)
 eb5314 パール・エスタナトレーヒ(17歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb8664 尾上 彬(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec0290 エルディン・アトワイト(34歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 依頼を受けた六人の冒険者達は、それぞれ2人組のペアを作り、別々に調査する事にした。
 この依頼の核となる風車塔は、ヒューゴ・メリクリウス(eb3916)とセイル・ファースト(eb8642)が偵察と言う形で先行調査を行い、レティシア・シャンテヒルト(ea6215)とパール・エスタナトレーヒ(eb5314)が塔の周囲をくまなく調べ、尾上彬(eb8664)とエルディン・アトワイト(ec0290)は、まず風車守の家とその周辺、その後川の上流部にある洞窟を受け持つと言う事になった。
 パールを除く全員が高速移動可能の靴を持っており、彼女もレティシアのウィッチハットに乗っかっての移動なので、目的地への移動はかなり迅速。通常の半分程度の時間で到着した。

●調査 〜風車守の家〜
 調査を始めるに辺り、まずは近隣の人影を探る。そして怪しい気配がない事を確認し、夜になるのを待って、各々調査を開始した。
 風車塔周辺は整地されていない為、雑草が生い茂っている。羽虫が多く飛び交い、何処からか心地よい鳴き声が聞こえて来る。
「風情がありますね‥‥わっと」
 レティシアの足元を調べていたパールが、自分の顔くらいある虫に驚き、思わず上空へ逃げ出した。
 その様子を眺めつつ、レティシアは風車塔偵察組にテレパシーを送る。
『こちらレティシア。首尾はどう?』
『こちらセイル。今のところ大した物は‥‥んん?』
 セイルの声が途中で途切れる。
『どうしたの? 風車塔が自ら意思を持って動き出した、とかなら直ぐにでも合流するけど』 
『バードらしい発想だが、全然違う。大した事じゃないから合流は後回しだ』
 レティシアは不満気に肩を竦めつつ、虫相手にビカムワースを使おうか本気で考え中のパールに視線を送った。
「暫く外回り、みたい」
「なら、先に風車守の家に行きましょうか」
 異存なく、移動。
 風車守の家は風車塔から徒歩数分の位置にあるので、移動はあっと言う間だ。
「おう。来たか」
 出迎えた彬は浴衣姿だった。浴衣と言うのは、一見動きにくいように見えるが、通気性がよく軽量なので割と探索や調査には向いていたりする。何より、篭る熱を少しでも逃がす事が出来るので、集中力の持続には最適な格好だ。
「何か見つかりましたかー?」
 パールの声に、エルディンが苦笑いを浮かべて首を横に振る。
 風車守の家は木製で、部屋数は2つしかないものの、広さはそれなりにある。奥には棚や机、暖炉もあった。それらを眺めながら、レティシアがこっそりと笑む。詩人的には、外より実りがあると踏んだらしい。
「ここは私達が受け継ぐから、二人は洞窟をお願い」
「わかりました。幸い、地図を借りる事も出来ましたしね」
 調べたい事もありますし、と言い残し、エルディンが小屋を出る。彬も笑顔で二人に手を振り、それに続いた。
 その後、パールは主に部屋の隅を、レティシアは机をそれぞれ調査し始める。
「日記でもあればわかりやすいけど‥‥そう都合よくは行かない、か」
「レティシアさんはどう思います? 今回の件」
 話を振られたレティシアは、暫く動きを止め、幾つかの思案を並べた。
 ただ、いずれも確証のない事には口にすべきではないものばかりだ。
「ちなみに、エルディンさんは『川の一部を堰き止めて水を汲み出し、砂金を採っている』と推理してるようです」
「ありそうな話ではあるけど」
「ですよね‥‥あ、何か発見」
 背の高い棚の上を調べていたパールの視界に、羊皮紙を紐でまとめた物が映った。

●調査 〜風車塔内部〜
 同時刻。
「確か、ここを宿代わりにしていたようですから、その時の忘れ物でしょう」
 風車塔内で見つけた薔薇模様のブローチを掲げるセイルに、ヒューゴが持論を述べる。セイルもそれに同意した。
 塔内は、中央の螺旋階段で上り下りする構造となっている。
 1階は宿屋代わりに使われていた形跡が今も残っており、部屋の隅には朽ちた毛布が山積みになっている。
 2階には窓がなく、日当たりがない所為か、他の階よりやや涼しい。ブローチはここに落ちていた。
 3階は倉庫代わりに使われていた事もあり、整理されていない荷物が幾つか残っている。
 全体的に石造りと言う事で、床も壁も頑丈で、それほど傷んだ様子もない。
 そして、特に2階に関しては、清掃する人間がいないと言う割にはかなり整然としている。
 埃もなく、明らかに最近何者かが手入れしたような形跡が見て取れた。
「けど、人の気配はないな。例のいかがわしい連中とやらは、今日は集まらないのか」
「何者なんでしょうかね。悪い人達とも限らない訳ですが」
「悪人の方が楽かもな。蹴散らしてひっ捕らえれば、真相もわかりそうなもんだ」
「頼もしいですね‥‥おっと、言ってる傍から人の気配が」
 塔の外部から物音がする。セイルの殺気感知に引っかかる事もなかったので、少なくともモンスター関連ではない。
「ひとまず気配を消して観察するか?」
「ですね」
 緊張感は最小限に抑え、二人は上の階から様子を探る。徐々に近付いてくるその気配は、次第に輪郭を帯びてきた。

●調査 〜洞窟内部〜
 川伝いに上流へと向かったエルディンと彬は、予め仕入れていた過去の陰惨な事件を語り合いつつ、退屈する事無く洞窟に辿り着いた。
「洞窟は涼しくて良いな」
 ランタンを掲げる彬の足元には、フロストウルフの有希と、不思議な雪玉が付いて来ている。
 共に洞窟の気候を満喫しているようだ。
 ちなみに、ランタンに使う油は依頼人によって支給された。道楽依頼の利点である。
 洞窟内部は通路として使われている為、見通しも良く、無理に内部で寝泊りする程の深さもないようだ。
 ただ、中央を川が流れている為、幅は余り広くなく、エルディンのペットのセフィロスとヨルダは入り口で待つ事となった。
「結構深い川のようですね。砂金は‥‥流れてませんか」
 謎のキラキラの正体を砂金に絞ったエルディンは、夜闇の指輪を嵌め、主に川を中心に調査していた。
 今のところ水底の砂、岩石、水、いずれも変わったところはない。
「貴石や宝石の原石が混じってると可能性もあるかもな」
「ロマンに満ち溢れてますね」
 笑みを浮かべつつ、二人は源流の方へと歩いていく。
 その途中、通行人とすれ違った。
 ‥‥かなり訝しげな目で見られていた。
「一つ提案だ」
「何でしょう」
 背中に不穏な視線を感じつつ、彬が立ち止まる。
「こんな時間にも通行人がいる。余り俺らのような連中がウロウロしているのは考えものだ」
「法衣を着たクレリックと、浴衣を着た忍者‥‥妙な組み合わせとは思いますが」
「妙な連中もいるとの事だし、出来れば目立ちたくない」
「巡礼中の旅行者でも装いますか?」
 エルディンの提案に、彬は首を振る。
「何でも、この洞窟では妙な事件があってな。男ばかりのパーティーは、決まって帰る頃には呪われたかのように衰弱するそうだ」
「はあ。いや、何が言いたいかは大体わかりますが」
「さすがクレリック、悟ってるな。理美容用品がないのが残念だが‥‥」
 そして、あっと言う間に完成。
 聖☆エルディーナ誕生の瞬間である。
 説明しよう! エルディーナとは、エルディンの世を忍ぶもう一つの姿なのだ!
 とは言っても、髪型をちょこっと変えて、油の残りを睫毛と唇に塗った程度なのだが。
「あら、美形同士絵になるわねえ」
「きっと、あの風車塔を訪れたのね。カップルで」
 しかし、何しろ元が元なだけに、通行人の評判は概ね好評だった。
「大成功だな」
「本来の目的を忘れている気がしますが‥‥ん?」
 満更でもない様子のエルディーナの目に、源流地点が映る。ランタンを持ったまま走り、湧き水付近の水面に顔を近づけた。
「何だ、金鉱脈でも見つかったか?」
「そうかもしれません」
「何?」
 テンションを上げ、彬もエルディーナの傍に向かう。
 その川底には、ランタンの火に呼応するかのように光っている極小の物質が積もっていた。
「やはり砂金か?」
「少々わかりかねますね。見かけはそれっぽいのですが」
 周辺を詳しく調べた所、僅かだが親指サイズの塊も発見する事ができた。
「一応持って帰りましょう。確かセイル殿が鉱石には詳しかった筈」
 エルディーナと彬は収穫を仕舞い、油の残量から経過時間を算出する。まだ日は暮れていないようだ。
 二人は更に調査を続ける事にした。

●真相
 風車守の家の調査を終えたレティシアとパールが合流し、風車塔の調査が本格的に行われた。
 レティシアは地下の存在を考慮し1階を、ヒューゴが2階を、セイルは3階を、そしてパールは皆の手の届かない天井などをくまなく探索。それぞれに妙な物を発見し、4階に集合した。
「あの‥‥準備終わりました」
 その4階にある羽根に通じる出入り口から、どこか怯えているような目の男が現れる。
「彼は風車守だそうです」
 ヒューゴが経緯を説明する。
 彼とセイルが調査中に感じた人の気配の正体は、この風車守だった。
 彼に協力して貰い、風車の羽根の角度を調整し、可能稼動な状態にして貰う事にしたのだ。
 その後、風が吹くのを待ち、羽根の動きや揚水状況と川の状態との相関関係を見極める為に外に出る。すると、日の光に反射して、風車付近の川の水がキラキラと光り出した。
 その水をまずパールの飼い犬のトルシエに臭わせ、異常がないようなので桶で汲み、全員で目視する。
「こりゃ‥‥シトリンだな。水晶の一種だ」
 好物に造詣のあるセイルが、その砂状の光る物を分析した。
「砂金じゃなくて、水晶だったって事?」
「金は重くて沈むから、それを引き上げる為に風車での揚水を行った‥‥とエルディンさんは読んでいたのですが。外れでしたね」
「いや、そうでもないようです」
 パールの言葉を否定したのは、当の本人であるエルディーナだった。
「‥‥誰、とは言いませんけど」
 微妙に引きつった空気が流れる中、隣の彬は満足気だった。
 そして、その後ろから付いてくる連中は、それ以上の笑顔でエルディーナを見ていた。
「彼らは?」
「例のいかがわしい連中、だと思います」
 洞窟の通行人から色々と話を聞いた彬とエルディーナが仕入れた情報によると、何でもこの風車塔の傍を流れる川から砂金が取れると言う噂が最近流れていたらしい。
「それを又聞きし、一度離れたこの地に戻って来た‥‥そんなところだろう」
 彬の言葉を、風車守は肯定も否定もしない。が、顔は何故か青ざめていた。
「つまり、いきなり風車が動いたのは、この風車守が砂金を取ろうとして‥‥って事か」
 セイルの言葉にエルディーナが続く。実際にはシトリンだったが、砂金を取ろうとしていた事に変わりはなく、そう言う意味では彼の推理は正解だった。
「では、いかがわしい連中と言うのは一体‥‥」
 ヒューゴの視線を受けた連中が、身をくねらせていきり立つ。
「何でワタシ達がいかがわしいんのよっ!」
「身なりも言葉遣いも十分いかがわしいから」
 レティシアの半眼での指摘通り、連中は例外なくいかがわしかった。
 と言うか殆どオカマだった。
「何? 知らないのぉ? この風車塔の裏の顔」  
「ここの2階は、ワタシ達みたいな性質の連中が利用する宿だったのよ。勿論ただ睡眠を取るだけだから勘違いしないでよね」
「元々は冒険者の宿だったんだけど、まあ、洞窟にロマンを求めるなんて基本男ばっかだったから‥‥ねぇ?」
 オカマ集団は一斉にエルディーナの方を見た。
「私に振られても困りますが」
「なーに言ってんの。幾ら中世的な顔立ちで女っぽくしてても、ワタシ達にはすぐわかるの。貴方、男でしょう?」
 つまり、同類と思われたらしい。流石にショックだったのか、エルディーナは髪を元に戻し、油をふき取ってエルディンに戻った。
「で、結局あんたら何なんだ?」
 頭を抱えつつセイルが問う。
 何でも、風車が動き出した事で、宿が再開したと思ってやってきたとの事らしい。
 ちなみに、ここ数日の調査で幾つかのそういう系アイテムが発見されている。
 彼等の物ではないらしいので、調査の証拠としてそれぞれ持ち帰る事となったが、全員余り本意ではなかった。
「くそ‥‥折角砂金で借金が返せると思って戻ってきたってのに、またオカマの宿になるのか」
 どうやら風車守にとって、彼等の存在は不本意だったらしい。がっくり膝を落とす。
 なお、彼は風車塔を宿代わりにして儲けた金をギャンブルにつぎ込み、首が回らなくなってこの地を離れたらしい。家で発見された帳簿はその記録だったようだ。
 斯くして、謎は全て解けた。 
「何と言うか‥‥無駄に疲れたな」
「俺は楽しかったぞ」
 脱力するセイルの肩を、彬がポンと叩く。詩人的見地から塔で繰り広げられた過去の惨劇を想像していたレティシアも、ある意味想像以上の惨劇に嘆息を漏らしていた。
「暫く洞窟で涼んでから帰りますか」
 ヒューゴの提案に全員が頷き、風車塔を後にする。
 羽根の回る音は聞こえてこないが、その情景は内部とは裏腹にとても雄大だった。
「それにしても、どうしてシトリンの欠片なんて放流されたのでしょうね」
 エルディンと彬が調査したところ、シトリンを含む自然岩は発見されなかった。
 つまり、誰かが敢えて砕いてその川に放った事になる。
 そもそも、そういった岩があるなら、とっくに持ち出されているだろう。
「シリトンってのは、金運や財運を呼び込む石らしいぞ」
 何気ないセイルの言葉に、ヒューゴとレティシアが同時に立ち止まる。
「それが砕けて流れてくる‥‥」
「つまり、金運が逃げていったって事?」
 イマイチ要領を得ない。
 自らの金運を逃がすような事をわざわざ行う者が果たしているのだろうか?
「案外、風車塔宿を再開する為の話題作りに、あの風車守が自分でやったのかも」
「砂金があるって噂もあの男が‥‥確かに合理的」
 パールとレティシアのそのやり取りを発端として、それぞれに持論を展開しながら、一向は洞窟へと向かった。
 
 その数日後――――その洞窟の近辺で、何者かの遺体が発見された。
 遺体は白骨化しており、既にかなりの年月が経っていた。
 傍にあった遺留品から、この亡骸は近隣の宿屋の主人である事がわかった。
 その宿屋は風車塔が宿として利用された事で客を奪われ、経営難で宿は破綻。そして主人は蒸発し‥‥この姿で発見される事になった。

 今回の一件は、彼の亡霊が行った自己の人生の投影だったのか。
 それとも、自分を死に追いやった要因である風車守を誘き出す為の怨念だったのか。
 或いは、風車守の自演だったのか。
 若しくは、全く関係のない、別の何者かの仕業だったのか。
 
 答えは、永久にわからない――――