冒険者ギルド最大の危機?
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■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月23日〜08月28日
リプレイ公開日:2008年08月31日
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●オープニング
世の中には、二通りの生き物がいる。
料理をできる者と、できない者。
この二極化は余りに乱暴だとお思いになる方が大半だろう。
「ああああぁ‥‥」
しかしながら、それが真理である事を、カタリーナ・メルカはなんとなく実感していた。
事の発端は、八日前に遡る。
カタリーナはパリの冒険者ギルドの直ぐ傍に住んでいる一般市民で、宿屋『ヴィオレ』の娘だ。
冒険者ギルドの近辺には数多くの宿屋がしのぎを削っているが、彼女の親が経営している宿屋は、その中でもイマイチ目立てない部類に属していた。
ベッドが堅かったり、挨拶が悪かったり、部屋が極端に狭いなどと言った理由ではない。
食事が出ないからだ。
宿屋は、朝食だけを出す所もあれば、三食全てを出す所もあるし、全く出さない所もある。
よって、料理を出さない事が大きなマイナスになる事はない。
しかし困った事に、メルカ家の宿屋の近くの食事処は、揃って評判が悪いのだ。
と言うか、明らかに酷い味な上に値段設定もボッタクリと言う、悪徳商法に近い店だった。
そう言う事情もあって、この宿屋を好んで選択する冒険者は余りいない、というのが実情だ。
そこで、一念発起。
宿屋の看板娘カタリーナは、食事を出す事を両親に提案した。
「でもなあ‥‥ウチのかあちゃん、メシ作れねえし」
「ごめんねえ」
カタリーナの父ビョエルンが嘆息交じりに呟く通り、母ヘレーナは一切料理のできない人だった。
「でも、今のままじゃこの宿潰れちゃうでしょ? 何かしないと」
無論、流行っていない宿に料理人を雇う余裕などない。
よって、自分らでどうにかするしかないのだ。
「よし! それじゃ私が作る!」
と言う事で、カタリーナは宿泊客に出す料理作る事を心に誓った。
「‥‥までは良かったんだけど」
特訓から八日――――宿屋『ヴィオレ』調理場。
絶対的な自信を持って完成させた『黄金スズキとウナギの飛竜昇天和え』は、試食係を請け負ってくれた友人フィーネ・プラティンスを死に追いやってしまった。
「ごめんねフィーネさん。貴女の犠牲、きっと無駄にしないから」
よよよと泣き崩れ、カタリーナはその躯の顔にそっと白い布を被せた。
「か、辛うじて生きてますぅ‥‥」
それはともかく。
カタリーナは自分の隠された料理人の才能が、もしかしたらちょっと無いっぽいなー、と言う事を軽く自覚していた。
どうも、世の中は料理をできる者とできない者に分かれているらしい。
先日は快く試食をしてくれたゲロルド・シュトックハウゼンと言う強面の男に全治二週間の軽傷を負わせた。食材を殺しきれていかったらしい。
その前は、両親から「お、お前は鬼の子だ!」「お願いだからもう止めてぇぇ」と言う類の断末魔の声を聞かされた。
さすがに、カタリーナも自覚せざるを得ない。
自分が、できない側の人間である事を。
「うーん、残念」
「もっと早く気づいて欲しかったですぅ‥‥」
白い布を自力で取っ払う事もできないフィーネは、ズゥンビのように寝転がったまま手足をもごもごさせていた。
それはともかく。
このままでは、宿屋『ヴィオレ』の命は風前の灯。
ついでに彼女の周りの人間の命も風前の灯だ。
尚、カタリーナは冒険者ギルドの従業員達に多くの知り合いがいて、フィーネやゲロルドもその中の一人だ。
何気に冒険者ギルド、最大のピンチでもあった。
「でも、諦めるのはまだ早い。比較的得意な魚料理に絞ってもうひと頑張り!」
「え、ええぇぇ‥‥」
「止めてくれええええ」
フィーネと、その隣で倒れている昨日たまたま試食を買って出て被害にあったパリ近郊の住人マックス・クロイツァー(24)の悲鳴を無視し、カタリーナは料理創作に励むのだった。
●リプレイ本文
生命は終える。
これは、1000を越える神聖暦の歴史においても、決して覆る事のない、純然たる定義である。
極めて自然な時の綴りなのだ。
だから、例えば宿屋『ヴィオレ』の厨房で数人ほど意識を朦朧とさせた半死人がいたとしても、何ら不思議ではない。
生命の在りのままの姿。その結晶がここには詰まっている――――
「去年死んだおじいちゃんが川のほとりで手招きしてますぅ‥‥」
「マルレーネ‥‥もう一度君の笑顔を見たかった‥‥がくっ」
この物語は、数名の尊い犠牲の上に成り立った感動巨編である。
●嘘です。
「これで大丈夫と思いますわ」
依頼を受けて駆けつけたセフィナ・プランティエ(ea8539)のリカバーとアンチドートで一命を取り留めた犠牲者二名が何度もお辞儀して帰って行く中、同じく依頼を受けた冒険者の井伊貴政(ea8384)とジュエル・ランド(ec2472)は、依頼主であるカタリーナ・メルカに事情聴取をしていた。
「‥‥なるほどー。紫色と緑色のキノコを炒めて」
「隠し味にジェリーフィッシュ? それはアカンやろ」
どうやら料理の基礎以前にまず生物が食すべき物の説明から必要のようだ。セフィナを含めた料理担当の三人は一様に頭を抱えていた。
その一方、犠牲者の一人やカタリーナ・メルカと顔見知りのローガン・カーティス(eb3087)と、人助けの為に依頼を受けたジャネット・モーガン(eb7804)は、まだ体調の回復しない両親に話を聞いていた。
「成程。では食材に関しては経費で落として構わない、と」
殺人兵器になりかねない物質を他人のお金で作らせる訳には行かないと言う、強い倫理観が働いているらしい。
「では、出来る限り廉価で仕入れるとしよう。近くに山があればそちらにも赴こう」
ローガンの気遣いに両親は涙を流して喜んでいた。人間、弱ると人情が染みるらしい。
「本来なら、民草の食材くらい全額負担するのが高貴なる者の務めですが‥‥そこまで言うのなら宜しくてよ」
ジャネットのそんな言葉にも、両親はありがたや〜と拝んでいたとか。
そんな訳で、レッスン初日。
まず刃物を持たせる前に、料理とは何か、と言う点についての解説から始まる。
厨房の隣の部屋に座ったカタリーナに対し、ジュエルが懇切丁寧に教えていた。
「料理を作るのやったら、まず自分で味見する。そして『美味しい』と思ったモノ以外は他人に食べさせたらアカン」
「うーん、味見‥‥料理って奥が深いのね」
しきりに感心している様子のカタリーナに、セフィナの顔に不安が一滴滲む。
「何と言うか、基本とか基礎とか言う以前の問題ですわね」
「まあ、幸い五日間もありますし、なんとかなりますよ〜」
貴政は楽観的に告げ、厨房へと向かった。そして自由に使って良いと言われている食材を壷の中から取り出し、テーブルに並べた。
鶏を鉄人の大包丁で瞬く間に捌き、タマネギをみじん切りに、ニンジンをぶつ切りにする。そして自前の鍋に油を注ぎ、炉に火を入れ、鍋を吊るし、切り分けた食材を入れる。
軽くお玉でかき混ぜた後に塩を適量振り、再び食材を混ぜる。
「へー、塩ってこんなちょっとしか入れないんだ」
カタリーナの問題発言に炉の炎が一瞬消えかけつつも、鍋の中に酒が投入される。
そして、鍋に蓋をし、待つ事20分。
「キノコ類が明らかに食材として使えないのは残念ですが、取り敢えず完成ですー」
鶏肉とニンジンのタマネギ煮込みが完成した。
「はー‥‥見事なお手前」
「鮮やかですわね」
料理に覚えのあるジュエルとセフィナも感嘆するほどだった。
「これが庶民の食ですのね。早速頂きますわ」
ジャネットが真っ先に料理の盛られた皿を手に取った。
そして、試食。
「中々やりますわね」
大好評であった。
それに続き、カタリーナも皿に盛られた鶏肉を食す。直ぐにその顔は幸福を示す表情になった。、
「取り敢えず、味覚は正常であると言う事はわかりました」
「なら尚更味見はしないとアカンな」
「はい、先生方!」
セフィナとジュエルに、カタリーナは気合の返事をする。
先は思いやられるものの、取り敢えず道筋は少し見えた。
●本当に?
レッスン二日目。
既存の食材では足らない為、ローガンは早朝から市場に買出しに来ていた。
費用は宿屋が持つと言う事になっているので、無駄な買い物は出来ない。
料理組と予め打ち合わせしていた通りの食材を過不足なく買っていく。
商人スキルのあるジュエルから聞いた品質の見極め方と、自分自身の動植物知識を総動員した結果、問題なく全ての食材を予算内で購入する事が出来た。
「‥‥お昼なのにお星様が見えますぅ」
そのローガンが食材を抱えて戻ってくると、厨房の出入り口でフィーネが転がっていた。その上を、ローガンのペットである妖精ターニヤが面白そうに飛び回っている。
尚、その妖精を含め、全員のペットの首には『食べられません』と記した木札がぶら下がっていたりする。
「ご無沙汰している」
「お久しぶりですぅ‥‥がくっ」
フィーネは再び旅立った。その傍らで、カタリーナが眉間に皺を寄せている。
「あれー? だってちゃんと味見したのに」
「なるほどー。味覚がおかしいと言うより、大らかなんですね〜」
「困ったもんやね」
朗らかに笑う貴政とは対照的に、ジュエルは嘆息していた。
取り敢えず朝食のみでの開始となった訓練一発目は、早くも犠牲者一名を出してしまった。
ちなみに、最初にカタリーナが着手したのは、魚のブイヨン。無論まだ料理と言う段階ではなく、その下地となる部分だ。
ブイヨンは単にスープの基本素材と言うだけではなく、あらゆる料理の根源に通じる。
料理と言う物は立体的に捉える必要がある。単に食材を切って焼いて調味料をまぶせば良いと言う訳ではない。
下地があって、そこに幾重にも味を重ね、初めて成り立つのだ。
「ローガンさん、お買い物の首尾は如でした?」
フィーネに駄目もとでリカバーをかけつつ、セフィナが問う。ローガンは首肯し、新鮮なマスやタラを調理台に並べた。
「気持ち悪い顔ですわ」
介抱用のバケツと水を用意していたジャネットが、魚の目を直視しながら顔をしかめる。しかし直ぐに高笑いを始めた。
「まあ、このお魚も私に料理されるのですから、思い残す事なく昇天出来る事でしょう」
「あれ? ジャネットさんも料理できるんだ」
「これから出来るようになるのよ。さあ、皆様方。従って差し上げるから指導なさい」
カタリーナがおーっと唸る中、ジャネットもブイヨンの作成に取り組んだ。
魚のブイヨンは、基本的に白身魚を使用する。
魚を水で念入りにさらし、乱切りにしておく。あれば香味野菜も同じく乱切りにする。
そして鍋で魚と野菜をソテーし、白ワインを適量加え、その後に水や香草を加える。
沸騰し始めたら、30分間灰汁取りに専念。そして煮込み終わったら、それを清潔な布でこす。
――――完成。
何故か灰色の液体に仕上がったそれが、ようやく体調の回復したフィーネの前に差し出される。
「有難く食すると良いわ。残す事は許さなくてよ」
「えぇぇぇぇ‥‥」
数秒後、この日二度目の断末魔がパリの街に響き渡った。
●お気の毒です
特訓は、計画的に行われた。
早朝には、料理の基本であるブイヨン作り。
「ブイヨンはお魚とお肉でこれだけ違いが‥‥って、黙ってエレクトリックイールを入れてはいけませんわっ」
「あうっ」
これは主にセフィナが担当。療養中(主に精神)のフィーネから拝借した猫足のサンダルでツッコミを入れつつ、根気良く基本を叩き込んで行く。
それが済んだら、次は簡単な料理の創作。
根野菜のサラダや燻製肉の味付け、ブドウを水と蜂蜜で煮詰めたジャム、そして事前に作ったブイヨンを元にタマネギのスープを作る。
「ぐはっ、ジャムが‥‥喉に絡まっ‥‥べべらっ」
「特殊な食感のモノも食べさせたらアカン!」
「は、はいっ」
こちらはジュエルが担当。カタリーナの天使の微笑みに騙されて試食を買って出たとある冒険者に若干被害を出すものの、恙無く進行した。
ここで一端特訓は中断。
カタリーナは宿屋の看板娘として満面の笑みをお客に分け隔てなく捧げ、冒険者達は食材の調達や見本となる料理の創作、宿の手伝いに時間を費やす。
そして、夜。
「刃物の握り方は沢山ありますから、まずは自分に合った握り方から覚えましょうか〜」
「ふんふん、こんな感じ?」
「先端を他人に向けないでくださいねー」
包丁やナイフなど、料理に使用する器具の使い方をゆったりと教え込んでいく。
これは貴政が担当した。
料理を上手く作れない者の行動は、大体定格化している。
器具の扱い方が悪く、材料を上手く切り分けられない。
料理を平面で捉え、短絡的な味付けをする。
好奇心に任せた食材を選ぶ。
そして、味見をしない。
程度こそ極端ながら、カタリーナもこの例に漏れず、やりたい放題だった。
つまり、ここさえしっかり是正すれば、十分改善の余地はある。
冒険者達は精魂を込めて、カタリーナの教育に当たった。
料理の教育は、何も調理だけとは限らない。
まず、大事なのはイメージ。
様々な食材、様々な料理の文献を見せる事で、想像力を膨らませ、創作力を向上させる。
「幸い、ギルド経由で料理の本を借りる事が出来た」
ローガンの見つけて来た本を、カタリーナは食い入るように読み耽る。
字を読めるものの、余り日常で本を読む機会はなかった為、元々豊かな想像力が更に膨張していた。
そして、技術を向上させる上で最も重要なのは――――競争相手だ。
競う相手がいる事で、頑張れる。
これはどの分野においても言える事だ。
「‥‥あら、料理が消し炭の様に」
「ふっふっふ、こっちは闇の使者の出来上がり」
「競う方向が間違ってますわっ」
「アカン、時間が‥‥って、ウチここに来て『アカン』しか言うてない気がするわ」
なし崩しの内にカタリーナと共にジャネットも習っている為、ツッコミの対象が二倍となり、セフィナとジュエルは対応に追われた。
「大丈夫ですよー。着実にお二人とも上達していますから〜」
「だと良いがな」
騒がしい厨房を尻目に、貴政とローガンはそれぞれの笑みを浮かべつつ、一服していた。
●果たして、成果は?
最終日、早朝――――
普段余り流行っていない宿屋『ヴィオレ』の一階には、試食目的の冒険者が大勢集っていた。
「料理が上達するコツは、食べさせる者が居る事よ」
と言うジャネットの案の元、完成品を冒険者に食べて貰うよう予め呼び掛けていたのだ。
幸い、被害にあった面々の口は堅かったらしく、今のところカタリーナの料理の悪評は流れていない。
とは言え、流石に一部訝しがっている者もいるようで、半分くらいは見物目的のようだった。
「本日は皆さん、私たち『ヴィオレ』の再生初日にお立会い頂き、ありがとうございます。遠慮しないで食べて言ってね!」
カタリーナの挨拶を、両親達はカウンターごしに震えながら聞いている。不安なのは無理もないが。
「では、始めましょうかー」
家内安全のお札が張られた調理場から貴政の緩やかな号令が掛かり、いよいよ料理開始。
本日作るのは、カタリーナが最も上手く作れた『鶏肉とタマネギのスープ』だ。
基本的には全ての工程を本人が行うべきなのだが、それだと時間が掛かってしまうので、彼女が指示を出し、それに貴政、セフィナ、ジュエルの三人が従うと言う形で創作する事となった。
なお、ジャネットとローガンは味見役。
「私も作りたかったけれど、今日はカタリーナさんに花を持たせてあげるわ」
「懸命な判断だな」
ローガンの呟きが歓声で掻き消える。カタリーナが炉に火を付けただけなのだが。
「いーぞ、カタリーナちゃーん!」
愛想の良いカタリーナは、何気に人気者だった。
とは言え、宿屋に泊まるのは基本的に流れ者のみ。地元の人間には自分の家がある。
看板娘の町での人気は、集客には中々繋がらない。
だからこそ、料理。
料理を出してくれる宿となれば、冒険者は喜んで宿泊してくれるだろう。
「セフィナさん、ジュエルさん、お鍋をお願い!」
二人はカタリーナの指示に従い、子猫のミトンを着けて鍋を持つ。
それを猫足のサンダルを履いたフィーネが祈るように守っている。あのミトンは、命を救ってくれたお礼にとフィーネが贈呈した物だ。
「貴政のおにーさん、汗!」
「はい〜」
宿にあった刺繍入りハンカチーフで、貴政がカタリーナの額を拭う。料理は汗一滴でも食材に混ざると、味が変わってしまうのだ。
実際にそこまで拘る程の細かい味付けが成されているかどうかは兎も角――――
「完成ー!」
2時間ほどの格闘の末、カタリーナとその仲間たちは、十数人前のスープを完成させた。
なお、必要経費は宿屋持ちなので、何気にこれが失敗作だと色々とヤバかったりする。
「じゃ、まず私が味見するね」
カタリーナが宣言し、銀無垢のスプーンで鍋の中のスープをすくう。
それを見たジュエルは、安堵の息を漏らし微笑んでいた。
それと同時に、ローガンとジャネットもスプーンを手に取る。
「一蓮托生、と言う訳ではないが」
「この私が最初に口に付ける事、光栄に思いなさい」
ここ数日で、それなりに通うものがあったのか。
二人は仮にカタリーナが咽た場合でも、美味しく飲み干すつもりでいた。
スープは例え味が良くても、咽てしまう場合がある。
それで印象を悪くする見物人もいるかもしれない。
その万が一の場合のフォローをしようと言うのだ。
「‥‥皆、ありがとう」
五人と自分の友人にだけ聞こえる声で、カタリーナはこっそり呟いた。
そして、試飲。
この瞬間――――
宿屋『ヴィオレ』の新しい一日が、冒険者達の我先にと詰め掛ける騒音で幕を開けた。