呪われし武器
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:UMA
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月22日〜04月27日
リプレイ公開日:2008年04月29日
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●オープニング
呪い。それは、いつの時代も人間と共にある。
古今東西、呪いが歴史を動かした例は数知れない。そして、その枚挙に暇はない。人々は何かと理由をつけては『呪い』を生みたがる。
そしてそれは、パリから徒歩で一日ほど歩いた先にある、武器と防具の店が多く立ち並ぶこの町も例外ではない。
『呪われしロングソードの調査をしてくれ』
ギルドの斡旋係は、どこかワクワクした素振りで内容を話した。どうも彼はこう言った類の話が好みらしい。
「依頼主は、その町で一番の武器屋『トート』の主人だ」
何でも、そのロングソードを仕入れて以降、受難続きとの事らしい。
その主人は、武器屋でありながら余り武器には詳しくなく、若さ故の勢いと商才だけで町一番まで上り詰めたと言う少々変わった男だと言う。売り方も変わっていて、仕入れた武器を直ぐ店頭に並べず、一週間ほど手元に置き、『何となく』良いと感じた物だけを販売すると言う形式を取っているようだ。要は勘と言う事なのだが。
「それが成功しちまうんだから、世の中わからねえよな」
そんな主人に受難が訪れたのは、例のロングソードを手に入れて三日目の夜。店を閉め、夕食を取り終えた主人が町中を歩いていると、いきなり空から岩の塊が振ってきたらしい。岩は主人の肩を掠めたものの、直撃はせず、大事には至らなかった。どうも近辺の建築物の二階から落とされたようだが、主人が慌てて視線を送った時にはもう人影はなく、故意かどうかすらもわからない。結局その場は偶然と言う事で片付けた主人だったが、その翌日には荷馬車に轢かれそうになり、更に次の日には強盗に押し入られたと言う。どうにか追い払い、事なきを得たものの、さすがに三日連続で危機を迎えた事で不安を覚えた主人は、その原因を考え、それがロングソードにあると思い立ち、前の持ち主を問い詰めた。
「すると、どうもそいつも連続して不幸な目に合ってたらしくてよ、気味悪がってそいつに譲渡したんだと」
更に、その前の持ち主も似たような状況だった事がわかり、主人は恐怖に慄きつつ、呟いたと言う。
これは呪われし武器だ、と。
「依頼内容は、この武器の調査だ。ま、呪いなんてものは大抵、蓋開けてみりゃ何かしらの説明が付くんだろうけどな」
本物の呪いなど、そうそう拝めるものではない。斡旋係はそれでも、言葉とは裏腹に笑顔で説明を続ける。
本件の主役であるロングソードは、外見上特におかしな所はなく、普通のロングソードとの事らしい。ただ、依頼人は武器に詳しくないので、本当にそうだと言う保証はない。
「ちなみに、その武器屋の主人、どうも他の武器屋から妬まれてるっつーか、良く思われてないみてぇなんだ。まだ若造で、武器に詳しくない癖に売上は一番となれば、そりゃ周りは面白くないわな」
それは主人も自覚しているらしく、その線での調査を第一に行って欲しいと言う指定が付け加えられた。また、町外れに住んでいる武器の専門家に現物を見せ、話を聞いて貰うようにも頼まれている。本人は呪いに怖気付き、外出もままならない状況らしい。
「メシや宿泊費なんかの経費は持ってくれるとよ。ま、何とかしてやってくれ」
呪い。それは、いつの時代も人間と共にある。
何故なら、そう呼ばれるものの殆どは、人の心が生みだしたものだからだ――――
●リプレイ本文
●呪いの謎
人通りの疎らな表通りとは対照的に、活気に満ちた賑わいを見せる酒場の一角に、冒険者達は各々の得た情報を持ち込んでいた。
呪いと言う形なき『敵』に対し、彼らが取った行動は、非常に合理的だった。それは、呪われしロングソードと依頼人を分断させる事。それによって、狙われている対象がはっきりわかる。本当に呪われし武器であったならば、ロングソードを所持している人間に不幸が訪れるので、その呪いの分析に力を注げば良い。依頼人が襲われた場合は、怨恨の可能性が極めて高い。
「結果は・・・・前者でしたか」
武器屋の警護を行っていた三笠明信(ea1628)が呟くと、剣運搬を担ったエルディン・アトワイト(ec0290)、セタ(ec4009)、トゥエニエイト・アイゼンマン(ec4676)の3名はほぼ同時に頷いた。武器と依頼人の分断、そして依頼人の希望である『専門家へ見せに行く』と言う希望に沿うと言う目的で、ロングソードを運びながら移動していた彼らを、何者かが襲撃してきたのだ。
「完全に素人でしたがね。あっさりと退却しましたし。とは言え、セタ殿の素早い察知とトゥエニエイト殿の盾がなければ、負傷者が出た可能性も否定できません」
エルディンの言葉に、トゥエニエイトはその屈強な胸を更に張って自慢げに何度も頷いて見せた。セタに軽く対抗意識を燃やしているらしい。それとは対照的に、セタは笑顔のまま話を聞いていた。
「しかーし、ミーの見識によると、これは呪いの剣とは思えないのであ〜る」
それには、他の冒険者も同感だった。専門家に見せた結果、これは只のロングソードとの事だった。実際、テーブルの上に乗せてある抜き身の剣に、奇抜な点は見当たらない。
が、問題がひとつ。
「専門家の方、妙にこの剣を買い取りたがっていましたね」
セタの呟きに、ローガン・カーティス(eb3087)が反応を示す。彼は武器屋警備班だったが、その任は愛犬のアスターに委ね、自らは武器屋界隈を歩き回り、情報収集に励んでいた。そのついでに軽い杖を物色したりしたのだが、カドゥケウス以上に軽い杖は置いていなかった。代わりに魔法少女の枝を打診されたが、丁重に断わっていた。
「実は、同じような反応を私も感じた」
彼の話によると、武器屋『トート』の仕入れたロングソードに対する反応は、真っ二つだったと言う事だ。それは、あからさまに毛嫌いするか、逆に過剰なまでにそれ欲しがるか。呪いの触れ込みはすでに各方面に出回っているので、通常ならば前者の反応が自然だ。
「怖いもの見たさにしては、反応が過剰でしたね」
「俺の方は、明らかに前者だったな」
七種鼎(ec4486)は、持ち前の隠密技能を駆使し、過去の持ち主について調査していた。その結果、持ち主は依頼主の証言通り、不幸な目にあっていた。
「だが、そいつらは自分の命を危険に晒された事はないらしい」
その情報に、三笠の温和な顔が鋭さを帯びる。
「ほう・・・・興味深い話です」
彼は、武器屋の専門家を疑っていた。彼が依頼人の成り上がりを諌める為に、裏で糸を引いている――――そう読んでいたのだ。ロングソードを引き取ろうと言う姿勢も、既に警告の意図は満たされた以上、事態を収拾するのにはそれが最良と言う意味で、辻褄は合っていたのだ。
「が、他にも欲しがっている人がいるとなると、話は変わってきますね」
「やはり、この剣自体に秘密が?」
「そうなると、彼がいてくれれば助かったのだが」
エルディンとローガンが同時に苦笑する。実はこの依頼にはもう一人、ドワーフの男性が参加する予定だった。しかし、やむを得ない事情で既にこの地を離れている。彼がいれば、武器を加工している場合の見分けが付いたかもしれない。
「どうします? 教会に持って行って、詳しく見て貰いますか? 専門家の見立て通りならば呪いの武器ではないのでしょうが、確定とまでは言えませんし」
エルディンの提案に対し、トゥエニエイトが待ったをかける。
「この鞘、怪しいのであ〜る」
外見上、おかしな所はない。しかし、トゥエニエイトは淀みなくそれを指摘していた。
「では、この鞘の方だけを再び専門家に見て貰いますか?」
「いや。それより確実な方法がある」
セタの提案を、ローガンが制する。
「何か妙案でも?」
「こう言う場合は、下手に動くより、招待した方が確実だ」
そう唱えつつ、視線を移す。
「ところで三笠殿、あなたはどうやって武器屋の警護を? 目立たないようにするのは大変だったろう」
「店員の真似事などさせて頂きました」
圧倒的な存在感を持つ三笠だったが、器用に『冴えない店員』を演じていた。
「成程。では、引き続きお願いしよう。万が一に備えて」
●真相は暗闇の奥に
冒険者達が武器屋の依頼を受けて、三日目の夕方。家内安全のお札が貼られた店内には、客足は全くない。そこにいるのは、大きな身体を小さくしながら商品を眺めている店員と、それを不安げに眺めている主人、そして犬。どこにでもある、平凡な武器屋の範疇を逸脱していない。
「あの・・・・本当に大丈夫なのでしょうか?」
主人が恐る恐る店員に話しかける。それは、通常の武器屋ではあり得ない光景だ。
「恐らく。まあ、ゆとりを持って待つ事です」
「すいません。この武器なんですが」
「ああ、いらっしゃいませ。これはですね、良い物ですよ。多分」
「・・・・多分?」
「本当に大丈夫なのでしょうか・・・・」
そんなやり取りから待つ事一時間弱。ローガンの愛犬アスターが、高い声で吠えた。
「来ましたか、ね」
三笠が、危機感のない声で呟き、一度店を出る。そこから店主もそれに付いて行った。
この武器屋の倉庫には、収納の為に外から出入りできる扉がある。三笠はその扉を悠然と開けた。
そこには、3人の盗賊を捕らえている冒険者達の姿があった。ローガンがバイブレーションセンサーでその存在を事前に察知し、エルディンがコアギュレイトで1人を足止めし、うろたえる他の二人をセタとトゥエニエイトがそれぞれの武器で制する。その所要時間、実に1分弱。完璧な連携だった。
「悪いことはできませんねぇ、セーラ様は見ておられます」
捕縛した盗賊に、エルディンは物腰柔らかにそう勧告した。
呪われし武器を倉庫に保管してあると言う噂を流し、その倉庫で犯人を待つ。至極単純ながら、確実な方法だ。仮に依頼人に直接在り処を尋ねに来たとしても、店員に扮した三笠が目を光らせている以上、問題はなかった。
「さて・・・・それでは、真相をお話願おう。何故この武器を狙う?」
「おおよその見当は付きます。黙っていては罪が重くなるだけです」
実際はそうでもないのだが、エルディンのこの発言には相手を早々に諦めさせると言う意図がある。それが功を奏したらしく、盗賊はあっさりと口を割った。
真相は――――鞘の中にあった。
肉眼では確認できないが、その鞘の奥には細工が成されてあり、二重になっていると言う。その僅かな隙間に、宝石が敷き詰められているらしい。振っても音は出ないし、重さもあまり変わらない。
「トゥエニエイト殿の読みが当たりましたな」
それでも鞘が怪しいと睨んでいたトゥエニエイトは、自慢げに胸を張った。その隣で、盗賊の喉下に小太刀を突きつけたまま、セタが朗らかに息を落とす。
「この中の財宝を巡って、奪い合い、嫉み合いが発生し、結果持ち主が不幸に・・・・ですか。呪いの武器、とはよく言ったものですね」
「だが、その為に持ち主を荷馬車で轢こうと言うのは、行き過ぎだったな」
ローガンの言葉に、盗賊が目を見開く。それは違う、と言わんばかりに。
同時に、外から物音が聞こえた。その数拍後、扉が開く。そこには、一人の中年の腕を取った七種がいた。
「ずっと大人しく立ち聞きしていたが、急に顔色を変えた。恐らく、そっちの犯人はこいつだ」
彼は情報収集後、依頼人にロングソードを譲った武器屋を尾行すると言う任を全うしていた。彼とエルディンが話を聞きに言った際の様子が少々おかしかったのだ。
その武器屋は、憎々しげに真相を明かした。
武器屋としての知識に乏しい人間が、この界隈で最大の売上を記録している。その事実が許せなかったのだ。その為、呪いのロングソードと呼ばれる武器を譲渡し、その呪いに乗じて彼を痛めつけようとしていたのだ。財宝目的の盗賊は、彼から武器を奪う事はあっても、痛めつける保障はない。だが、それに乗じて主人を襲えば、それは『不幸』として一緒くたにされる。それが狙いだった。
「回りくどい事を」
七種は嘆息しつつ、武器屋の腕を放した。もう抵抗する意思は見られない。脱力したまま項垂れていた。
「主人。この者を恨まないでやって頂けませんか? 憎しみは負の連鎖を生むだけです」
その様子に同情した訳ではないのだが、クレリックのエルディンが柔らかに告げる。
「ある呪いをかけた術者は、呪いの代償として対象と同様に血に染まり息絶えることになった。それはすなわち、人の心と同じ事」
ローガンも首肯しながらそれに続いた。幾多の不幸、数多の惨劇を目にして来ている冒険者達の言葉は、重く、そして強い。それを感性で感じ取った依頼人は、深々と頷き、項垂れる犯人に一声かけていた。
「賢明です、店主殿」
天竺浪人たる三笠が、にこやかに称える。トゥエニエイトもそれに続いた。
「ミーと同じく若輩でありながら、ユーは良い目利きであ〜る」
目利き。
それは武器の需要だけでなく、時として人の生き方、在り方をも占う。
依頼人には、その才があった。
正しき道、そして頼るべき者を選ぶ目利きの才が。