暇な盗賊と宝探しをプロデュース!
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■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:11〜lv
難易度:やや易
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:09月07日〜09月12日
リプレイ公開日:2008年09月16日
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●オープニング
泣き声が聞こえる。
泣く声が聞こえる。
その声は自らの内側から染み出ているものだと、ニーナ・ルーベンスは自覚していた。
それは、遠い夏の日。
自身の存在価値を失った明確な日。
ニーナは、何もかもを一瞬で失った。
両親を失った。
帰る場所を失った。
記憶を失った。
笑顔を失った。
そして、それらは決して事故や事件によるものではない。
凶悪な殺戮者によってもたらされた破壊でもない。
彼女の住む、リアン街と言う街の政策によって、順当に行われた粛清だった。
無論、表向きにではない。
しかし、知る人は知る。
反乱分子に対する抑止力を生む為の、合理性だけによって成り立った法則が、彼女からすべてを奪った事を。
「おい、ガキ」
それを知る一人が声をかける。
そこは施療院でも教会でもない。ただの路上。
少女は右目の上の額を負傷していた。
しかし、彼女を癒す施設はこの街にはなく、ボロ布を巻いているのみ。
衛生上、治療としてはむしろ不適当と言える。
「立てるか?」
少女は見上げる。
「立てるなら、俺と来い」
陽の光のないその空の真下にいる男の、やはり光なき眼を。
「この街を守る為の『盗賊』にしてやる」
少女は、同じ色の目を持つその男の言葉の意味を理解できなかった。
それでも。
自分の前に差し出された手に、その小さな手を重ねた――――
晩夏。
残暑の厳しい中、ノルマンの人々はそれぞれの街で、それぞれの生活を過ごしている。
何しろ、暑い。
暑いと言う事は、あらゆる生物から活動意欲を奪い取る。
交易の盛んなリアン街においても、それは例外ではなく、普段と比較してこの日の歩行者の数は二割ほど少なかった。
そしてそれは、盗賊も同じ。
標的となる市民や商人が注意力を失う状況はかなりの好機の筈なのだが、盗賊自身のやる気や集中力も著しく低下している。
通常ならば夏場に増えるはずの盗賊被害は、今年はむしろ減っていた。
「あ〜つ〜い〜」
今、リアン街で最も有名な盗賊、カルラ。
まだ少女の面持ちを残した彼女もまた、ここ最近まともに稼動していない一人だ。
本来ならば、所属している結社の溜り場で綿密な打ち合わせを行うべきなのだが、そんな気分にはなれず、街の中心にある飲食店のテーブルで突っ伏していた。
ちなみに彼女、化粧も扮装も一切行っていない。
闇の中でのみ活動する彼女の顔を知るのは、ごく一部の官憲のみ。
街の人間の殆どは、少女の裏の顔を知らない。
「あら、ニーナちゃん。今日はお仕事休みなの?」
「ま〜ね〜」
店員の一人に声をかけられ、軽く手を振る。
一応、昼間は仕事をしていると言う設定だ。
もっとも、それが何なのかは面倒なので考えておらず、聞かれても適当にお茶を濁していた。
「暇だったら、ちょっと頼まれてくれない?」
「お店の手伝いだったらヤ」
「あはは、そんなのニーナちゃんに任せられる訳ないじゃない。そうじゃなくて、子守」
「子守‥‥?」
数十分後――――
カルラは郊外にある廃屋の中で、三人の子供に囲まれていた。
彼らは仲間だった。
‥‥宝探しの。
「なあ、なんでこんな事になってんの?」
「あはは、しらねーっ!」
飲食店の店員の子供と、その友達の遊びに付き合わされているのだ。
街中に名を馳せる盗賊と言えど、その身なりは普通の少女のそれなだけに、幼い子供と並んでも『ちょっと年上のお姉さん』としか見られない。
ある意味シュールであり、ある意味現実的な光景だった。
「おねーちゃん、暇人なんだな」
「うるせーっ! カル‥‥あたしは暇なんかじゃなくて暑いから涼んでただけだっての!」
「あはは、暇なやつ」
子供は人の話を聞かない。
それにカルラはカチンときた。
「上等だよ。あんたら、そこまで暇暇言うんなら、これからの数日間を地獄にしてやんぜ」
目に炎を宿し、子供らを睨む。もっとも、全く怯えられている気配はないが。
「この宝探しごっこ、チョー本格的にしてやっからな」
「なになにー?」
子供達の目が爛々と輝く。
カルラはこの廃屋を、数日かけて宝の眠った屋敷にする予定を延々と語った。
実際に宝を隠し、強力な戦士や魔法使いを配置して、幾多の困難と苦労の末にお宝を手に入れる、極上の『ごっこ』を作り上げると。
「おもしろそー!」
子供は乗った。
その後、もしそれが実現したら、暇人と言う言葉を返上すると言う条件を課し、カルラは子供達を家に帰した。
「さーて、こんな事仲間に協力させたら後で色々うるさいだろうし‥‥」
盗賊とレンジャーは紙一重。行動原理は背反するものの、内部構造に大差はない。
それ故に、ある程度の事は独りでもできる。
だが、ある程度人員を割かないと、計画通りの『宝探しごっこ』は完成しないだろう。
「仕方ない。適当に見繕うか」
幸い、この街には冒険者が数多くいる。
その数人に声をかけてみよう――――そう決め、カルラは街に繰り出した。
尚、廃屋のデータは以下の通りである。
●外壁
石
●高さ
8m
●階数
2階建て
●内部
・1階
床面積200平方m 出入り口の扉と壊れた窓、朽廃しかけの木材や大人が
スッポリ入れそうな箱が幾つも転がっている
・2階
床面積180平方m 階段あり。老朽化した棚や机が多数在り
●その他
元々は武器・防具・その他の道具をまとめて保管する為の倉庫として使用していた
●リプレイ本文
●廃城の物語
廃屋のある敷地に入った子供達は、廃屋だった筈の建築物が城の形をしている事に驚きを覚えた。
しかし、子供の好奇心は非常に移ろいやすい。
城壁に背中を預けた細身のエルフを視界に収めると、直ぐそちらに意識を集中させる。
「こんにちはーっ」
ノッポでひ弱なゴッツ、チビで元気なフーゴ、紅一点で夢見がちなジル。
三人の子供達が話しかけると、エルフは柔らかに微笑み、細い指先で竪琴の弦をなぞった。
「この城には――――」
エルフが詩を奏でる。彼の直ぐ後ろにそびえる廃城に関するサーガだった。
それは、異国の姫の哀しき物語。
一般人のエルフと恋に落ちた彼女は、駆け落ち同然で逃げ出し、魔女に匿って貰おうとこの城に赴いた。
魔女は二人を歓迎し、三人で暮らす事となる。
しかしその暮らしは、突如終わりを告げた。
魔女が、姫を殺してしまったのだ。
恋人の死に泣き叫ぶエルフは、魔女を憎み、刃を向ける。
そのエルフも、魔法によって猫の姿に変えられてしまった。
以降、この城はその姫と、宝目的で侵入し魔女に葬られた者の魂が恨めしそうに漂っている――――
「‥‥幸運を」
物語を紡いだエルフは、演奏を止めて瞑目した。
「あれえ? ここが例の城なのかな?」
そこに、毛糸の帽子を被った男性が一人現れる。
「やっぱりそうだ! よーし、早速お宝を見つけるぞ!」
大声で叫び、入ろうとする。が、その青年は自分をじーっと見つめる六つの目に気付くと、意外そうな顔で彼らに近付いた。
「君達も宝を探しに?」
子供達は顔を見合わせ、同時に頷いた。そして、先程エルフから聞いたサーガについて話し出す。
その内容は散漫で、まるで要領を得ない。しかし青年は唸りながらその全てを理解した。
「それなら一緒に行こうか。皆で行けば魔女なんて怖くないよ。お宝、見つけよう」
オタカラ。
その青年の言葉に、子供達はぱあっと顔を輝かせた。
●廃城の物語 〜裏〜
子供達が廃屋内に入ったのを確認し、アリスティド・メシアン(eb3084)は安堵の表情を浮かべた。
子供が理解できる内容のサーガを詠うと言うのは、かなり難しい。
実際理解しているかどうかは兎も角、取り敢えずは役割を果たす事はできた。
イリュージョンによって廃屋を廃城に見せる手法も上々。ここまでは何も問題はない。
『今朝は化粧の協力ありがとう。首尾はどう?』
そんなアリスティドに、レティシア・シャンテヒルト(ea6215)からテレパシーが届く。
『問題ない‥‥ん?』
返答するアリスティドの視界を、一瞬何かの影が横切る。
それが何なのかを認識しようと意識を前方に向けたが、そこには誰もいなかった。
●城内
扉を潜った途端、子供達の頭上に炎が灯る。
薄暗い城内が暖かな丸みを帯びる中、子供らの視界には、まるで盗賊のアジトのような、荒寥とした風景が広がった。
朽壊した木材が怪しげな雰囲気を醸し出している中、真っ直ぐ伸びた通路がおぼろげに照らし出されている。
「さあ、まずは‥‥あれ?」
青年が子供達に話しかけようと傍らを見たが、そこには誰もない。慌てて前方を見ると、既に奥の方に向かっている三つの背中があった。
慌てて青年はそれを追う。が、直ぐに追いついた。突然子供達が立ち止まったからだ。
彼等の視線の先には――――壁に掛かった絵画があった。
黒髪の女性と、銀の冠を被った小柄な女性、そしてエルフの男性の三人が仲睦まじげに並んで立っている姿が描かれてる。
「あれ、さっきのひととにてるね」
その中の男性を、ゴッツが指差す。
「確かに。偶然? いや‥‥きっと彼は‥‥」
子供達がじっと絵を見つめる中、青年は口元に手を当てて思慮顔で呟く。
しかし次の瞬間には、子供達は別の部屋へと走っていった。
「ま、待ってよ!」
集中力がないのは、子供の特権。嬉々とした足取りで奥の部屋に向かう。
「あれー?」
しかし、その部屋の扉は開かなかった。
ここで、何故開かない、と言う思考が働くのなら、暫く立ち止まるだろう。
しかし子供達は開かない扉を『壁』と同じような物と判断し、特に留まる事なく二階へと向かった。
●城内 〜裏〜
廃屋の奥にある部屋。
メグレズ・ファウンテン(eb5451)と天津風美沙樹(eb5363)の尽力によって扉が開かないよう細工されたその『控え室』に、レティシアとヒューゴ・メリクリウス(eb3916)の姿があった。
ヒューゴは適当にペンを回し、レティシアは事前にマッピングし倒して作った数枚の地図を眺めて暇潰しをしていた。
「退屈ね」
「それなら、テレパシーで『お兄さん』役に連絡を取ってみては?」
「怪しいお兄さんになってしまうけれど‥‥それも善し」
敢えてヒューゴに乗っかり、レティシアは青年役を演じているジャン・シュヴァリエ(eb8302)にテレパシーを飛ばした。
『こちらレティシア。首尾はどう?』
『あー‥‥実は』
ジャンは、これまでの経緯を簡潔に伝えた。
二階まで駆け上がった子供達は、そこで待っていたトラップ『闇に覆われてし通路』に驚き、三人揃ってコケてしまい、三人揃って大泣きしている最中らしい。
「中々厄介な事になっていますね」
『トラップテストの時にもう少し子供の心理を考えるべきだったかも』
用意した段取りとは違う方に流れているようだ。
「まあ、彼らが主役なんですから、物語も彼らに合わせるとしましょう。ある意味それも現実的ですし」
ゴースト役のヒューゴは早まった出番に嘆息しつつ、インビジブルを使用して控え室から出て行く。
「いってらっしゃい」
「いえ、そっちじゃなくてこっちです」
レティシアは虚空に向けてにっこり微笑んだ。
●番人
「わーっ、変なのが来たーっ!」
ワンワン泣いていた子供達は、不気味な様相のゴーストの出現によって、たちまち笑顔を取り戻した。
闇の消えた通路で、ゴーストは暫く経つとスーッと消え、そして再び現れる。それを繰り返しながら、二階の奥の部屋へと向かっていった。無論、子供達と青年はそれを追う。
ゴーストが誘った部屋の中には、更にもう一つ奥へと続く扉があった。その扉は開いており、奥には先程より遥かに豪華な宝箱が見える。
しかしその前に立ちはだかる者が一人。
鬼のような形相の、巨大な番人だった。
その身長は優に子供の倍はあり、手にはメイスを持っている。ここまでは少なからず『ごっこ』である事が頭に入っていた子供達も、この時ばかりはその圧力に圧倒され、顔を青ざめさせていた。
それでも、フーゴが一掴みの好奇心で侵入を試みる。すると、酷く緩慢な動作で番人が子供達に近付いて来た。
「わ‥‥わ‥‥わああああっ!?」
そんな番人をじっくり眺める事なく、子供達は逃げ去って行く。その余りの俊敏さに青年は一瞬呆気に取られたが、直ぐに追った。
子供達は実に外まで逃げ出していた。
「大丈夫? あれはきっと‥‥宝を守る番人だね。うん。でも、動きが酷く鈍かったし、君達が離れると直ぐ元の位置に戻ったよ。これってもしかしてさ、何者かに操られて、命令を受けて動いているんじゃないかな?」
大胆なまでの説明口調。
その様子を、入り口にいる竪琴を持ったエルフの青年が何故か息切れしつつ眺めている。
「‥‥あやつられて?」
それでもゴッツとフーゴは良くわかっていなかった!
「こわいひとのいうとおりにはたらかされているのです」
「ああ、うちのとおちゃんといっしょか」
しかし、ジルがフォローを入れた事で、他の二人も理解した。
「それじゃあ、たいへんだな!」
「そ、そうだね。だからきっと悪い人じゃないよ。助けてあげよう。そうすれば奥の宝物も貰えるよ」
青年の言葉に子供達が深く頷いた所で、ちょうど日が暮れた。
●番人 〜裏〜
「お疲れ様。立ちっ放しで辛くなかったかしら?」
子供達が帰宅したと言う報を受けた姫(亡霊)役の美沙樹は、番人役のメグレズに労わりの言葉を掛けていた。
「警護を生業としているので、そうでもありません。ただ、少々予定とは‥‥」
子供に洞察をさせると言うのは、中々に難しい。
ポーラ・モンテクッコリから子供達の性格等を聞いていた美沙樹は、何となくメグレズの苦労を想像し、思わず苦笑してしまう。
「大変ですわね。でも、形にはなっていると思うし、大丈夫ですわ」
「だと、いいですね」
メグレズにもその苦笑が伝染する。そして、コルリス・フェネストラと共に作った奥の宝箱を眺めながら、これを目の当たりにした瞬間の子供の笑顔を想像し、苦味を消した。
「では、そろそろ宿に戻るとして‥‥その前に食事かしら?」
「お供します」
その日の夕食は、中々に美味だった。
●謎と真相
宝探し――――最終日。
前日までに得た情報を元に、子供達はこの日の行動計画を自分達なりに練ってきた。
『でっかいひとをあやつってるこわいひとをさがす』
『たまにはおやすみをあげてください、とたのむ』
『おれいにたからものをもらう』
それを実行する前に、まずエルフのサーガを聞く事にする。
「宝を守護し強大なる守護者。彼の者を操るは館の住人の魂を弄ぶ魔女」
「ふむふむ。つまりあの大きな人を働かせているのは、お姫様の幽霊と言う事だね」
青年の翻訳を聞いた子供達は、魔女と対面する事を望んだ。しかし一筋縄ではいかない。
「魔女を囲いし魔法の扉。打ち破るは、彼の姫の抱きし三つの宝」
「つまり、怖い人と会うにはお姫様の持ち物を三つ集めないとダメって事だね」
「もちもの?」
「きっと、おとめのよめいりどうぐなのです」
ジルの言葉に良く意味もわからず頷く二人に青年は笑顔を向け、城内を探す事を提案した。
昨日は見て回っていない部屋をくまなく探す。
「うわーっ、かべからめが! こっちみんな!」
「わわっ、なんだこれ、ぬるってしてる。こっちにはこわいにんぎょうがっ」
「わらいごえがします! だれかがわたしたちのこうどうをあざわらっているのです!」
最中、様々な罠が襲って来る。他にも、宝箱を発見し喜び勇んで開けると、そこには凶悪なハサミを持ったヤドカリがいたりして、大騒ぎになったりした。
そんな中――――
「ごふっ!?」
青年が何者かに襲われ、その場に蹲った。
「おにーちゃんがわなにかかった!」
「うう‥‥これ予定には‥‥」
微かに視界に捉えた依頼主のあっかんべーが、ひらひら舞うカードによって隠れる。
そこにはこう書いていた。
『出番がないぞコンチクショー』
「僕に言われても‥‥がくっ」
「おにーちゃんがたおれた!」
「なもしらぬたびのかた、あなたのぎせいはむだにはしないのです」
子供達はそれぞれ祈りを捧げ、仲間の離脱を悲しみ、2秒後には次の部屋へと走っていった。
そして、数時間後。
『花柄下駄』『スターサンドボトル』『サンタクロース人形』と言う三つのアイテムの入手に成功した。
しかしその後どうして良いかわからず、城の中をうろつく。
そこで、ふと絵画のある場所に辿り着き、ジルが足を止めた。
「このえのひとたちはきっと、あのおはなしのなかのひとたちなのです」
夢見る乙女、ジル。
彼女の頭には、当初聞いていたサーガが浮かび上がっていた。
「このえのこと、えるふのひとにきくのです」
ダッシュで戻る。しかしそこにはエルフの男性はおらず、一匹の猫が鳴いているのみだった。
その猫がトコトコと城の中に入っていくのを、子供達は追い掛けて行く。
猫は二階へと上がっていき、階段の直ぐ傍にある部屋の前で、宙に身体をこすり付けるようにして留まった。
子供達も、その扉の前に立つ。
すると――――その扉がゆっくりと開いたではないか。
「よめいりどうぐだったのです!」
足元の花柄下駄を指差し、ジルが興奮して叫ぶ。他の二人もそれぞれ手にしたアイテムを掲げて1分ほど騒いだ。
そして、ついに魔女と対面。
「歓迎するわ、館の新しい住人達」
漆黒のドレスをまとい、骨の竪琴と杖を手にした魔女は、絵画の中の女性の一人だった。
「でっかいひとをやすませろっ!」
子供達の叫びに、魔女は口の端を吊り上げ、杖を掲げる。
物理的な攻撃は襲ってこない。が、子供達は得体の知れない恐怖に苛まれ、足を震わせた。
「一人、ここに残る子を選びなさい。そうすれば残りの二人は帰してあげる」
魔女の邪悪な笑みに、子供達は益々怖気付く。
だが、足が竦んで動かないのとは違う理由で、皆その場に留まっていた。
「あなたは、まじょさんなのです。どうしておひめさまをころしたのですか」
ジルの指摘に、魔女の顔に一瞬の蔭りが生まれる。
「昔の話よ。それより早く決めなさい」
「きめないよーだ!」
足を震わせながら、フーゴが叫ぶ。
「ぼくたちは、ずっとさんにんいっしょだ!」
ゴッツもそれに続く。
その姿が――――絵画の中の三人と重なった。
恐怖や奸智に屈しない、強い絆。
宝を守る事に躍起になり、嫉妬に狂い、魔女が失っていった大切なものが、そこにはあった。
「私は間違っていたと言うの?」
魔女が虚ろな顔で、子供達の後ろにいる猫を見つめながら、膝を付く。既に得体の知れない恐怖心は消えていた。
「私は、彼を愛していた。でも彼は私を見てなど――――」
魔女が自分語りを始める。
しかし、この辺りのくだりは子供には興味ないらしく、誰も聞いてなかった。
「‥‥」
魔女は若干拗ねつつ、杖を振りかざして呪いを解いたと宣言し、奥の部屋へ子供達を向かわせる。
そこでは番人が倒れていて、その傍らに絵画の中の女性の一人――――姫が、貴き者っぽく美しい指輪をその指に輝かせながら立っていた。
『ありがとう。お陰で、私の魂は解放されました』
番人に憑依していたその魂は、吹雪のように舞い落ちるバラの花びらに囲まれ、消えていった。
そして、姫のいた場に幾つかの遺品が現れる。
「おたからだーっ!」
が、当然子供の興味はそんな事より奥の宝箱にあった。遺品を素通りして奥の部屋に向かう。
宝箱の中には、『願いの短冊』『ふわふわぐろーぶ』『星空のカード』が入っていた。
願いの短冊の解説を魔女から受けた子供達は、迷う事なく『お兄さん』の蘇生を懇願。
何気に彼の存在は小さくなかったらしい。
願いは叶ったと言う魔女の言葉を受け、子供達は一階へ向かう。
すると、倒れていた青年の胸の上に、純潔な魂の如き金色の塊が発生していた。
そして――――
「あれ? 僕は何を‥‥」
青年が生き返ったではないか。
子供達は喜び、堂々と胸を張って城を出て行く。
すると、先程までいた城から、無数の光が天に向けて昇って行く光景が目に映った。
「魔女が呪いを解いた事で、魂が開放されたんだ」
青年のその言葉に、子供達は――――特に耳を貸さず、その幻想的な光景を純粋に楽しんでいた。
ちなみに。
カルラによって事前に手渡されたアイテムは、役に立ったとか立たなかったとか。