それぞれのみち 〜ララ&ルディ〜
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■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:5人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月21日〜09月26日
リプレイ公開日:2008年09月30日
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●オープニング
ララ・ティファート。人間の女性。
ルディ・セバスチャン。シフールの男性。
共にまだ少年少女と言える年齢の二人が出遭ったのは、一年も前の事だった。
いつも一人で虚空を舞っていたルディ。
貴族の親戚の家と言う貴き身分故、余り遊ぶ相手に恵まれなかったララ。
理由は違えど、共に周りから隔離された者同士。
その出逢いは、神様のちょっとした親切だったのかもしれない。
刻は夕暮れ。
茜色に染まる空を窓越しにじっと眺めていたララは、宙に浮く寂しげな顔をしたシフールに、突然語り掛けた。
その言葉は、二人を結ぶ紐となり、今も尚心のどこかに引っかかり続けている。
慰み合い、支え合い。
どちらかが強風で吹き飛びそうになっても、どちらかが耐える事で地に足は着く。
それは、とても心強かった。
けれど。
羽を持つシフールは、徐々に気付き始める。
それじゃいけないんだと。
自分のすべき事を見つけたルディは、決意を固めた。
別れの決意を――――
それぞれのみち 〜ララ&ルディ〜
その日、ララはいつものように、自分の部屋で読書をしていた。
今、ララが目指しているもの。それは冒険者だった。
とは言え、今のところその目処は立っておらず、冒険者の体験談を綴った本や、以前お世話になった冒険者達に教わった事を書き記したメモを熱心に読み、頭に入れている毎日を送っていた。
ララは行動に出ると早い。
しかし、その行動に出るまでは、基本的にはのんびりとしている。
何かの切欠があれば極端なくらい積極的且つ奔放に動き回るのだが、それがない今は、静かに生活をしている。
そんなララの元に、やはりいつものようにルディが訪れる。
彼にとって、ララの部屋の窓は日課の象徴だった。
そこを潜れば、一日が始まる。
「ララ、ちょっと良い?」
「はい。大丈夫です」
ただし、今日はここからがいつもと少しだけ違っていた。
「今度、ちょっとお出かけしない?」
「お出かけですか。遠くにでしょうか?」
「うん、ちょっと遠出かな。パリまで」
ルディが外出を呼びかけるのは、一月ほど前の村おこし村への遠征依頼だった。
ララに断る理由はない。
「では、行きましょうか」
「早いね‥‥って言うか、目的くらい聞こうよ」
「冒険ではないのですか?」
ララは思い込みが激しい。
つい人の話を聞かず、自分の考えだけで判断しがちだ。
ルディはそれが心配だった。
「買い物しようかなと思って」
「お買い物ですか」
「いや、普通女の子だったら喜ぶところじゃないかな」
ぽーっとしたままのララに、思わずルディは脱力する。もっとも、この少女に『普通』を求める事自体が間違いである事は承知しているのだが。
「何を買うのでしょう」
「冒険に必要な物」
そのルディの発言に、ララは一瞬目を大きくし、コクコクと何度も頷いた。納得したらしい。
「でも、具体的に何が必要かって言うと、ちょっとわかんないよね」
「はい。難しいです‥‥」
冒険の為のアイテムは、世の中にごまんとある。
しかし、その中で自分達に必要な物は何なのか?
使いこなせる物は何なのか?
目的に応じた買い物の仕方とは?
そもそも、どの店にどの道具が売っているのか?
わからない事だらけだった。
「だから、案内を頼もうと思ってるんだ。パリの冒険者の人に」
「それは素晴らしい立案です」
ララは目を輝かせていた。
「出発の日取りは後で決めるから。それじゃ」
「今からではないのですか?」
「ん。ちょっとやる事があるんだ」
そう呟いて部屋を出て行こうとするルディを、ララは反射的に引き止める。
「今日のルディ、少し変です」
「え? そんな事ないよ。いつも通りだよ?」
本人にそう宣言されれば、それ以上の追及は難しい。
「そうですか」
ララはそう呟き、少し俯いた。
「それじゃ、帰るよ。またね」
ルディは窓を抜け、大空へと舞い上がる。
居心地の良い場所から、自分の器量を遥かに超えた空間へと飛び出すと、いつも不安が押し寄せてくる。それは今日も変わらない。
ルディは、ティファート家から離れる決意をした。
今回の提案は、自分がいなくなる事で最も苦労しそうな、或いは騙されてしまいそうな『買い物の仕方』を、自分のいる間にララに覚えて欲しかったからだ。
宙を舞うルディの脳裏には、初めてララと出遭った時の風景が蘇って来た。
その景色に、眼前に広がる空が徐々に近付いてくる。
日暮れは、近い――――
一方。
ララはいつもと少し違う雰囲気の友達が去って行った窓の方を、じっと眺めていた。
「冒険者に必要な物‥‥」
何となく、そう呟く。
それを手にした時、果たして自分はどうなるのか。
ルディはどうなるのか。
「‥‥」
ララは読みかけの本を仕舞い、机に向かった。
そして、二枚の羊皮紙を取り出す。
いつも書こうとして、躊躇している手紙がそこにはあった。
その日、ララはその手紙を書ききった。
それから数日後――――
二人の三度目となるパリ遠征の出発日が訪れる。
●リプレイ本文
ルディへ。
ルディとは、沢山の時間を過ごしました。
あなたと出会い、一緒にいた時間は、私にとって、とても楽しい日々でした。
特に、私が黙って外に出て行った時に、心配してくれた事をよく覚えています。
あの時はありがとうございました。
パリにも2度出かけました。
そして、このお手紙を書いている何日か後にも、またパリに出かけます。
先輩の冒険者の方々に、お買い物の仕方を教えてもらいます。
とても、楽しみですね。
もう準備も万端です。
『準備が終われば、冒険のはじまりです。それはきっと良い冒険なのです』
美しく澄み渡る青空の下に集いし冒険者達の前で、ララと、その肩の上に乗っているルディはほぼ同時にお辞儀する。
「はじめましての方も、お久しぶりの方も、どうぞ宜しくお願い致します」
「宜しくお願いします」
エルディン・アトワイト(ec0290)、レティシア・シャンテヒルト(ea6215)、元馬祖(ec4154)の3人は、それをそれぞれの表情で迎えた。
「私は前者ですね。クレリックのエルディン・アトワイトです」
「同じく。バードのレティシア・シャンテヒルトよ。宜しく」
「はじめまして、ララさん、ルディさん。ウィザードの元馬祖と申します」
3人の挨拶に、ララはお辞儀を1度ずつ返す。
「ララさま、お久しぶりです。私の事を覚えていますでしょうか?」
「もちろんです。聖騎士様」
そして、アマーリア・フォン・ヴルツ(ec4275)。
彼女は、ララが以前暗殺者に憧れ、家を出ると言う突拍子もない事件を起こした際、解決に導いてくれた神聖騎士だ。
ララが冒険者を目指す事になったのは、彼女の影響が大きい。
「ティファートさん、セバスチャンさん、久しぶりなのです」
「エフェリアさんもお変わりなく」
更には、もう一人の顔見知り、エフェリア・シドリ(ec1862)。
彼女とは以前一度パリに来た際に、一緒に報告書の閲覧をした仲だ。
「それでは、本日はお日柄もよく‥‥」
「良いから、早く買い物に行こうよ」
ルディに促されたララは、今一度先輩達に向けてお辞儀をした。
お買い物。
私が思いつくのは、食べ物とか着る物くらいです。
冒険者にとって必要な行動は何かと言うのは、以前冒険者の皆さんに教えて頂きました。
でも、具体的に何を買えば良いのでしょう。
こうして悩む事も、冒険者の第一歩なのでしょうか。
そう考えると、少しわくわくして来ます。
『今は冒険者目指してがんばっているのですね』
買い物初日は、まず街を歩きながら、それぞれの経験を踏まえてレクチャーしていく事となった。
「どんな依頼に出るのか、その依頼でどんな役割を担うのか。それによって、買い物は変わって来ます」
まずは冒険者が最も赴くお店『エチゴヤ』を目指しながら、エルディンが言葉を紡ぐ。
「基本は保存食、野営道具を揃えておけば問題ないでしょう。後は自身の生業に見合った道具、ですね」
「私はバードさんなので、楽器、持つようにしているのです」
エルディンの説明に、エフェリアも加わった。
「冒険者は、ある意味何でも屋です。選り好みする事も出来ますが、実際には依頼をこなして行く事になります」
「本当、色んな依頼をこなして行くから」
エルディンの隣で、レティシアが遠い目をしている。色々と思い出しているようだ。
「例えば、家政婦の潜入調査の依頼がある場合は、無論その格好で潜入します。衣装は自前で」
「ええと、その例は普通女性が挙げるものだと思うんだけど」
ルディの冷や汗混じりの言葉に、エルディンは聖者の笑みで答えていた。
「私はいつも、ナイフとロープ、持っているのです。筆記用具もなのです。あると便利なのです」
一方で、ララと並行しているエフェリアが、ロープを見せる。
「使いどころがわかりません」
「色々あるのです」
エフェリアは柔らかな顔つきでそう嗜めつつ、今度は美麗の絵筆を見せた。
「私は、絵を描くのが好きなので、羊皮紙と筆も持ち歩くようにしているのです」
それを聞いたアマーリアが、エフェリアに近付く。
「エフェリアさまは絵をお描きになるのですね」
「はい、なのです」
エフェリアが首肯すると、アマーリアは少し思案顔になって歩みを進めた。
「ところで、元さんは?」
ルディがララの肩の上から離れ、キョロキョロ辺りを見回す。
「彼女なら、治安状況を確認する為に官憲に話を聞きに‥‥ん、戻ってきたようです」
エルディンの視線の先に、馬祖の姿が映る。
「予め知人に協力を仰いでいたので、予定より早く済みました」
リーマ・アベツの協力もあり、現在のパリの治安と、冒険者がよく利用する店のリストアップが滞りなく完了したようだ。
その情報を、エルディンの持っているパリの裏地図と照合する。郊外の一部を除けば問題はないようだ。
「パリは優秀な先輩方が多いから、治安が良いのよ。私達も色々と教わったし」
レティシアはやはり遠い目をして呟いた。
「私が受け取ってきたものを貴方たちにも上手に伝えられたら、良いんだけどね」
彼女の呟きをルディが真剣な眼差しで聞き入ってる中、その視界の先にエチゴヤの看板が映った。
冒険と言うのは、辛いものです。
私はつい先日、それを知りました。
けど、きっと、それだけではないと思っています。
お世話になった冒険者の方々からも、楽しいお話を沢山聞かせて頂きました。
私は、海と言うものを見た事がありません。
一度、見てみたいですね。
その旅には、どう言った物が必要となるのでしょうか。
『お二人の冒険の旅が少しでもいいものである事を、一冒険者として祈っています』
エチゴヤを出たララの鞄の中には、裁縫セットと保存食が詰められていた。
一方のルディはポーションを5つと解毒剤3種。
ただ、ポーションは買い過ぎだったようで、少々かさばってしまったようだ。
その様子を見かねた馬祖がルディに近付く。
「そう言う場合は、仲間の方々に持って貰う事も可能ですよ」
荷物を持ちすぎると、移動に支障が出る。迷惑をかけるくらいなら、仲間に持って貰うのも一つの手だ。
彼女の知人コルリス・フェネストラも、持ち物、そして品定めの重要性を説いていた。
その傍らで、エフェリアが自分の飼っているドンキー『プルルアウリークス』を擦りながら、ララに近付く。
「荷物、運んでくれるドンキーさんがいる時は、沢山持てるのです。いない時は、ないとダメなものから用意です」
そこにアマーリアも愛馬『ジークフリート』と利発そうな狐『ヘイズ』を連れて来た。
「この子達がいるからこそ、私達は冒険する事ができるのです。ですから、ペットを飼う事をお勧めします」
「特に非力な者には、優秀な荷物持ちが必要ですね」
エルディンは幼い馬を2匹連れている。
ルディはそれぞれのペットの顔の前に浮かび、突付いたりして遊んでいた。
「さて。そろそろ宿探しをしましょう。明日は朝早くに市場へ行くから、早めに寝る事」
エフェリアの猫『スピネット』と戯れているララの肩に、レティシアがポンと手を乗せる。
「市場ですか?」
「面白いものを見せてあげる」
この前、パリに言った時の事、覚えていますか。
私が怪我してしまったばっかりに、ルディには迷惑をかけてしまいました。
それでも、ルディは私を必死に励ましてくれました。
お陰で、目的の村に着く事が出来ました。
あの日の事を、私は忘れません。
歩く事は、とても辛かったです。
でも、歩き続けたからこそ、あの喜びと、今も胸に残るこの幸せがあるのだと思います。
こうして、一歩ずつ立派な冒険者に近付いて行きたいです。
『わたしに歌われるような、立派な大人になるように』
翌日、早朝。
活気に溢れるパリの市場に一同は足を運んでいた。
「凄いです」
眠たげな目をしていたララが、思わず息を呑む。ルディも楽しげだ。
新鮮な空気に包まれるな中、地場野菜の競りが始まると、ララはその迫力に圧倒されていた。
「皆、日々を生きる為に必死なのよ。自分を家族を守る為に」
お金を稼ぐ事。その重要性は、恵まれた家庭に生まれ、過保護に育てられているララには、まだ実感する事が出来ない。
だからこそレティシアは説く。
「私達冒険者は、そんな彼らの生活の一部を分けて貰う事で成り立っている事を、覚えておいて」
いつか――――彼女がそれを受け取る時、そこに何かを感じるように。
「わかりました。覚えておきます」
「善し。それじゃ、次は多くの店を回りましょう」
レティシアは馬祖の作った買い物適宜コースを確認する為、エルディンの裏地図を広げる。
「私がこれまで積み上げて来た経験則から生み出された秘法の数々、伝授してあげる。とくと聞くように」
「はい」
それから、暫くレティシアの講座が続いた。
とは言っても、裏技的な技術や特別な手法を教えている訳ではない。
1Cでも安く購入する為にあらゆる店を回る事。
店や商人の評判を収集し、安全性を確保する事。
そう言った基本的な教えに、ララは時折感心しつつ耳を傾けていた。
それからの3日間は、主に店巡りで忙殺された。
エチゴヤ以外の武器防具を置いている店にも立ち寄り、品定めの練習などを行う。
「もし体力が無くても、レミエラを使えば装備を軽くする事も出来ます」
重そうな杖を手に取りながら、エルディンが囁く。
「ちなみに、福袋は初心者にはお勧めできないので、暫くは買い控えた方が良いと言っておきましょう」
「それで散財した冒険者は数知れず‥‥」
レティシアは何度目かの遠い目をしていた。
更には、パリの裏地図に記された美味しいレストランにも赴く。
「半年振りくらいでしたが、相変わらず良い食材を使っていますね」
尚、今回の依頼の全ての食事はエルディンの驕りだった。
適材適所。
それぞれに役割があり、成すべき事がある。そう言う事だ。
例えば、釣りが得意なら釣り道具一式、料理が得意なら調理器具セットを購入し、そう言った能力を活かせる依頼を受ける。これも重要な指南。
「穴を掘る時はスコップ、なのです」
「穴があったら入りたい時はスコップ‥‥ですね」
「ちょっと違うのです」
そんなこんなで、滞りなく買い物講座は進行していった。
冒険と言うのは、辛い事もありますが、とても楽しいです。
きっと、今度パリに行く時も、楽しい思い出が出来ると思います。
そういう思いが出来るから、私は冒険者になりたいと思えるのかもしれません。
まだ明確にこういう冒険者になろう、とは決めていないのですけど。
ルディはどうでしょうか?
ルディは、もう見つけたんじゃないでしょうか。
だとしたら――――
『どんな冒険者を目指します?』
依頼開始から5日目の夜。
冒険者達はララとルディを連れて冒険者酒場に集っていた。
「お二人の将来への豊富など、お聞かせ願えればと」
ララは、レティシアの勧めで敢えて頼んだ古ワインが届けられると、それを片手に語りだした。
まだ決め切れていない事。
そして、それでも冒険の楽しさに惹かれている事。
ずっと家の中で過ごしてきて、外の世界に対する憧れがある事。
例え甘いと言われても、彼女には立派な動機。
ララの目は真剣で、冒険者達は思う所がありつつも、話が終わると拍手を贈った。
「では、ルディ殿」
促され、テーブルの真上にルディが浮かぶ。
少し照れながら、口を開いた。
「僕には、妹がいるんだ」
その妹は、生まれつき身体が弱くて、飛ぶ事が出来ない。ルディは、彼女の事をずっと心配していた。
しかし、これまでは心配しているだけだった。
それでは、何も生まれない。
「妹を、治したいんだ」
だから、そう決意した。
「と言う事は、クレリックですか?」
馬祖の問いに、ルディは首を横に振る。
「施療院を作りたいんだ。シフール専用の」
現在、世界各国にはシフール専用の施療院と言う施設は公式にはない。
一般人の施療院を利用している。
しかし、やはりシフール専用の施設があった方が便利だ。
ルディは、それを作りたいと言う。
「素晴らしいと思います」
アマーリアの言葉に、ルディは表情を緩めた。
その時、ララは気付く。
ずっと感じていた最近の彼の違和感は、どこか張り詰めていた表情にあったと。
それが、この席では見られない。
何故なのか――――
「だから、先に僕が旅立つよ。ララ」
そう決心したからだ。
「ララと出会わなかったら、この答えには辿り着けなかった。今までありがとう」
ララは、ルディのその言葉と、これまで見せた事のない精悍な顔付きに――――驚くでもなく、一つコクンと頷くのみだった。
「それじゃ、最後に何かアイテムの交換でもしてみない?」
そんな二人に、レティシアが語りかける。
酒場には、アイテムを交換する卓がある。普段は希少な物、割安な物を手に入れる為の場所で、初心者にはリスクが高い。
が、身内同士ならば何の問題もない。
「お手本と言う訳ではないですが、まず私が。お二人に進呈しますね」
馬祖が率先してレーションリングと満腹豆をルディに、日焼け止めとハーブの束をララに渡す。
「では、私はこれを」
「僕はこれを」
それに対し、ルディは聖なるパンを、ララはハーブワインを進呈。
「はい、了承しました。交換成立です」
初めてのアイテム交換に、二人は顔を綻ばせた。
「今の要領でやってみて」
レティシアに促され、ララとルディは対峙する。
ララは、一枚の手紙を取り出した。
ルディは、一片の羽根を取り出した。
それが、どう言った意味を持つ物なのかは、本人にしかわからない。
二人は、それを黙って交換した。
「私からは、これをあげるのです」
その交換が終わり、今度はエフェリアが二人の前に立つ。その手には、丸めた羊皮紙が二つ握られていた。
「皆さんの絵を描いたのです」
アマーリアがこっそり彼女に依頼していたのだ。
元々機を見て描こうとしていたエフェリアだったが、正式に依頼された事で更にやる気になっていた。
絵は、ララを中心に、全員が並んで買い物に出かけている風景と、ルディを中心に皆がペット達と戯れている風景の二つ。
タッチは、リアル志向と言うよりは、柔らかで暖かく、カラーもパステル調。。
見る者が思わず顔を綻ばせ、目尻を下げるような作品に仕上がっていた。
「ありがとうございます。嬉しいです」
「大事にするよ。ありがとう」
羊皮紙に描かれたそれぞれの絵を受け取り、その絵の中の風景を暫し眺めている。
そこには、確かに笑顔に溢れた二人が、同じ空間に存在していた――――
もしかしたら、離れ離れになる日が近いのかもしれません。
ルディにはルディの生きる道が、あるのですよね。
私も、いつか旅立つ日が来ると思います。
きっとまた、巡り会う時が来ます。
二人とも冒険者ですから。
その日まで、お元気で。