ねこさんたちのクーデター
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■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月25日〜09月30日
リプレイ公開日:2008年10月03日
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●オープニング
パリから40kmほど離れた位置に存在している『ラングドシャ』と言う街は、非常に困っていた。
ここ数ヶ月の間、泥棒猫が急増してしまったのだ。
家の中に入って保存している食料を盗むのは当たり前。
中には、夕食中こっそりと近づいて、家族の団欒の最中にその食事を掠め取っていく大胆な猫もいた。
当初は然程事態を重く見ていなかった役場の人間達も、徐々にその異質さを認める事となる。
その認知を決定付けたのは――――ケット・シーの存在。
レア故にその存在を知る者が少ないケット・シーだが、偶々モンスターに詳しい者が目にした事で、その存在が明るみになった。
そのケット・シーがこの『ラングドシャ』で視認され始めた時期と、泥棒猫が急増した時期が、ぴったり重なったのだ。
しかも、その数少ない目撃証言によると、ケット・シーは明らかに人間に対して敵意を向けていたと言う。
状況から、このモンスターが野良猫を指揮して泥棒を繰り返しているのは確実だ。
『ラングドシャ』の役場は、重い腰を上げ『泥棒猫対策本部』を設立。
目撃証言からケット・シーの絵を作成し、捕まえるよう街の人々に訴えかけた。
しかし、本部設立から2ヶ月が経つ今もなお、ケット・シーは捕まえられていない――――
『ラングドシャ』の郊外にある廃屋の中に、数十匹の猫が屯している。
元は美術商だったが、現在は潰れてしまい、人の出入りは皆無。変わって猫たちが支配する空間となっている。
その中心で、他の猫からマッサージを受けている体長1mを超える大きな猫こそ、この『ラングドシャ』の猫界を支配するケット・シーだった。
(くっくっく‥‥雑魚どもが何匹束になっても同じことよのお)
名は『フェリックス』。
このフェリックス、通常のケット・シー以上に知恵の働く猫又だった。
彼が街に現れて2ヶ月。普通の猫がケット・シーに対抗できる筈もなく、当時のボスが倒された事で、街の猫達の殆どは彼の手先となってしまった。
猫が取ってきた食糧の殆どは、このフェリックスの餌となっている。
まさにやりたい放題。独裁者そのものである。
そんなフェリックスに当初こそ従っていた猫達だったが、徐々に不満の芽も出始めていた。
圧倒的な力を持つ彼に表立って逆らう事はできないが、寝首を刈ってやろうと目を光らせている猫も少なからずいる。
現在、『ラングドシャ』には新たな勢力図が生まれようとしていた。
「ひっく‥‥畜生‥‥ひっく」
数ヶ月前にこの街に引っ越してきたマルク・アンドレは、失意の酒に溺れていた。
引っ越してきて直ぐにケット・シーを目撃し、そのモンスター知識に一目置かれ『泥棒猫対策本部』の一員となった彼は、率先して猫の安全な捕縛を試みた。
彼は、動物が何よりも好きだった。
その精神から、できるだけケット・シーが傷付かないようなやり方で対策を練ってきたのだ。
しかし結果的には全く捕まえられない惨状。敢えなく『泥棒猫対策本部』から外されてしまった。
このままでは、街はケット・シーを追い出すため、手段を選ばなくなるだろう。
もしかしたら、見境のない猫狩りが行われるかもしれない。
「お客さん、飲み過ぎだっつーの。ほらもう帰った帰った」
とは言え、今のマルクは酒場のマスターにまで足蹴にされて追い出される始末。
できる事などある筈もない。
「無力‥‥俺はどこまでも無力‥‥」
動物愛護の精神と言うのは、時として市民を団結させる力を持つ。
もっとも、それはレアケース。大抵の場合は、人間に都合の良い解釈の元で語られることが多い。
要は、金だ。
愛玩動物は金になる。だから人は動物を愛する。
つまり、金にならない、そして害を及ぼす動物に対して、人間は抵抗なく排除を慣行するのだ。
そんな人間を数多く見てきたマルクは、絶望の淵に立っている心境で、千鳥足のままに夜の街を彷徨っていた。
「ふぎゃぎゃーっ!」
そんなマルクの耳に、猫の悲鳴にも似た鳴き声が聞こえてくる。
ランタンでその方向を照らすと、その明かりに複数の猫が映し出された。
巨大な猫に、数匹の猫が挑んでいるようだ。
数的不利にも関わらず、巨大な猫の方が明らかに押している。
その猫とは――――マルクの記憶と見識が正しければ、お尋ね者のケット・シーだった。
「っ!」
すっかり酔いの醒めたマルクが、全力で駆け寄ろうと試みる。
しかしそれを察知したケット・シーは、あっと言う間に姿を消した。この俊敏性こそが、ケット・シー最大の武器だ。
宿敵を目の前にしながらあっさり逃げられた事に、マルクは失望を禁じえず、膝を突いて項垂れる。
「みゃ〜お」
そんなマルクの足元に、ケット・シーに戦いを挑んでいた猫たちが集まってきた。
「フッ‥‥お前達‥‥慰めてくれるのか。この情けない私を」
そう解したマルクは、集った3匹の猫を抱き寄せようと手を伸ばす。
すると――――
「きしゃーっ!(邪魔すんじゃねえ人間風情が!)」
「ふかーっ!(折角逆転の目が見えてきた所だったのに!)」
「ぎにゃにゃーっ!(空気読めこのボンクラ!)」
3匹が一斉に襲い掛かって来た!
「ぎゃああああああああ!! ぎゃあああああああああ!!!」
その日未明――――1人の動物好きがこの世から消えた。
翌日。
「失礼します」
全身に噛み傷と引っ掻き傷と打撲を負ったマルクは、杖を付きながら『泥棒猫対策本部』の集会に訪れた。
「ど、どうしたのかね!? と言うか、君はもうここの‥‥」
「私が間違っていました。今のままでは生温い。パリの冒険者ギルドに依頼し、この街の猫を一匹残らず追い出して貰いましょう」
本部の役員達が目を丸くする中、マルクは無表情でこれまでと真逆の主張を始めた。
「ぼ、冒険者って君、それは大げさじゃ」
「じゃかしゃあああ! あのクソ猫ども、あの手この手でぶっ殺す!! きしゃーーーーっ!」
「ま、マルク君が錯乱したぞっ!」
「医者だ! 医者を呼べ! ここらで一番の医者を呼べ!」
この後、マルクはやや特殊な処方を行う施療院に入院した。
さすがに全ての猫を――――と言うのは論外としても、『打倒ケット・シー』が街の人間だけでは困難な事は事実。
このドタバタ劇の数日後、正式にギルドへ依頼が出される事となった。
●リプレイ本文
●ラングドシャの猫達
ラングドシャの外れにある広場へと続く道が、猫行列のような状態になっている。
餌の匂いに釣られての事だ。
現在、広場ではちょっとしたパーティーのような催しが行われていた。
「随分寄って来ましたわね」
木箱に納められていた氷付けの小魚を解凍しているリリー・ストーム(ea9927)の視界に、広場の入り口付近に殺到している猫達の姿が映る。
尚、魚は予め冒険者ギルドにいた男連中の『親切』によって凍らせて貰い、尚且つ運んで貰った物だ。
ユリゼ・ファルアート(ea3502)がクーリングで定期的に冷気を与えた事で、ここまで腐る事なく運ぶ事が出来た。
「取り敢えず、計画通りですね」
焼き魚パーティーの手伝いをしていたジャン・シュヴァリエ(eb8302)も、納得顔で頷いている。
冒険者達が考えたプランは、以下の通りだ。
まず、ラングドシャの野良猫達を集め、リリーとアーシャ・イクティノス(eb6702)のオーラテレパス、ユリゼのテレパシー(スクロール)で事情徴収。
そして情報を集めた後、『フェリックス』の居場所を突き止め、成敗すると言うものだ。
しかし、計画はそれだけには留まらない。
自分達でフェリックスを退治するのではなく、上手くフォローし、愚王の失墜を街の猫達に達成させると言うシナリオだ。
これによって、部外者による排除ではなく、自然界のあるべき姿、つまりは正常な猫世界を取り戻させる、と言うアーシャの意見が採用された形となった。
この計画には、幾つかのポイントがある。
まず、どうやって猫を集めるか。
猫と上手く打ち解け、情報を得られるか。
次に、フェリックスをどうやって猫達に退治させるか。
これらの点を達成できた時、ラングドシャに平和が訪れるだろう。
今のところ、第一段階はクリア。
問題は、ここからだ。
「では、私がまずお話をしてみますね」
猫耳と尻尾を模したロープを装備し、キャットレディと化したアーシャが、四つん這いになって入り口で警戒中の猫達に近づいて行く。
「なりきってるねー」
その様子に感心しながら、ユリゼは香草を整理していた。
『皆さん、こんにちはー。私の声が聞こえますか?』
アーシャが優しく声をかけると、初めは威嚇を見せていた猫の大群達も、徐々にその息を抑えて行った。
――――が。
「おらこの猫どもおおっ! ズタボロしてやらあああっ!」
そこに、施療院を抜け出してきたマルクが乱入!
猫達は一斉に散っていった。
1日目――――マルク乱心によって益なく終了。
●猫心あれば‥‥
2日目。
昨日の事もあったので、役割分担をしっかりする事となっていた。
「ふぅう〜‥‥」
厳つい身体を膨張させ、目を光らせながら、エセ・アンリィ(eb5757)は闘気を吐いていた。
彼の役目は――――そう。教育。
「ひぃぃっ、すいませんでしたあぁぁ。昨日は錯乱していたんでしゅぅぅ」
エセの迫力に心底怯えるマルクは、服従のポーズで頭を地面に擦り付けている。
ちなみに二人がいるのは、宿の個室。
助けを呼んでも誰も来ないよう手配されてある。
「‥‥猫だ」
「はぁい?」
「猫になるのだ、マルクよ。昨日貴殿が怯えさせた猫となって、彼らの気持ちを知るのだ!」
「えええ〜っ!」
斯くして、冒険者の宿ではマルクのへの教育(主に猫への愛情の回復?)が行われる事となった。
一方、広場。
エセを除く冒険者達は、再び魚を焼いていた。
幸いにも、全ての魚を焼いていた訳ではなく、数にはまだ余裕がある。
ただ、昨日の事もあり、集まった猫の数は半数以下。人間への警戒心も増していた。
「どうします?」
猫耳をパタ、と畳んだアーシャが、そんな猫達を眺めながら呟く。
実際、警戒している猫を相手にする場合、近付くのも困難。
厄介な状況だ。
「ここはまず、この子達に任せてみない?」
そんな中、ユリゼが提案したのは――――彼女が愛しそうに撫でている三毛猫のアーモンドをはじめとした、冒険者達の飼い猫に任せる、と言う案だった。
通常の状態ならキャットレディ達でも会話は可能だが、今の状況では難しい。
ならば、まずは本物の猫で‥‥と言う訳だ。
「それが良いかもしれませんわね。万が一引っ掛かれたりしたら‥‥夫に心配かけてしまいますから」
リリーも賛同する。
彼女は予め猫蚤用のハーブの束を購入しているなど、猫を可愛いと想いつつも、しっかり対策を施している。
が、流石に殺気立つ猫相手に近付くのは得策ではないと言う判断があった。
『ヘルム、お願いできる?』
魚を焼くリリーの足元でゴロゴロ転がっていたヘルムヴィーゲは、快く了承の意を唱えた。
「それなら、この子も行かせましょう。ほらハイネ、恥ずかしがらずにね」
ジャンが白猫の背中を軽く押す。ハイネは少し抵抗を見せつつも、他の猫と無事合流。
更には、エセの老師も加わり、4匹の猫を交渉猫として差し向ける事となった。
一同が息を呑んで見守る中、年長猫の老師がまず広場入り口の猫達へと近付く。
『にゃふ』(この中に代表はおるかの?)
『うなー』(オレだ)
すると、右目を切り傷で塞がれているドラ猫が前に出て来た。
『ふぉふぉふぉ』(色々お聞かせ願えぬか?)
『なおー』(ケッ、何言ってやがる。昨日の事を忘れた訳じゃねえだろな? 勘違いするんじゃねえぞ。オレらは別に匂いに釣られて来たわけじゃねえ。余所者の様子を見に来ただけだ)
明らかに尺がおかしいが、そんな事は問題ではない。
明らかに敵意を剥き出しにしたその迫力に問題がある。
一触即発の状態だった。
老師の後ろのハイネ、アーモンド、ヘルムヴィーゲの3匹も、思わず怯える。
そして、構わず睨みつけるドラ猫に、他の野良猫も――――
『ふにゃー!』(心配しないで下さい! 我々は敵ではありません!)
『にゃにゃーっ!』(貴女方に危害を加える愚か者はここにはいません!)
『にゃっほーっ!』(何なりと申し付け下さいお嬢様方!)
一切同調せず、己が代表を踏み潰して3匹の愛らしい猫達に話しかけ出した。
『ぎにゃーっ!』(貴様らっ! 飼い慣らされやがって‥‥ぐふっ)
代表は背中に多数の足跡を残し、失神した。
●光と影
3日目。
広場では、猫達の和気藹々とした姿が確認できた。
上品にブラッシングされ、赤いリボンをつけ、キャットニップを漬けて香水仕立てにした水を振り掛けてある、上品におめかしされたアーモンド。
美味しそうに魚を平らげ転がり回る、幼い姿のヘルムヴィーゲ。
そして、猫見知りする内気なハイネ。
それぞれタイプの違う猫達によって骨抜きにされたオス猫どもから情報を得る事は、余りに容易かった。
「やっぱり猫は猫同士が一番ですね。少し残念ですけど」
獣耳をパタパタさせながら、アーシャは小さく息を吐いていた。
「では、彼らの提供してくれた情報をまとめますわね」
猫情報によると、フェリックスのアジトは郊外にある廃屋との事。
ここに集まっている猫達は、フェリックスに従う振りをしつつ、クーデターを企てている組織の猫らしい。
『にゃー』(先日、私達の中でも指折りの精鋭が暴君に戦いを挑んだのですが、何者かに妨害されたらしく‥‥)
今、表立って争うのは得策ではないと言う事で、その精鋭達は姿を隠しているとの事。
「‥‥それって、マルクさんの事ですよね。どうします?」
「マルクさんには、私から話をしておくわ。エセさんが先に話をしているみたいだから、幾分かは冷静になってると思うし」
「では、できるだけ優しく伝えてあげて下さいね」
ジャン、ユリゼ、アーシャが話を進める中、ずっと沈黙を守ってきた重井智親(ec5199)が、その姿を現した。
「フェリックスに関して、少しお話が‥‥」
ケット・シーの更生のみを目的としている智親は、その意欲を目の奥から滲ませている。
忍者にとって、猫とは生死を共にする友であり、相棒。
忍者である彼にとって、この町の現状、そしてフェリックスの横暴には思うところがあった。
「取り敢えず、落ち着きましょう」
その意気込みを、ジャンは諭すような口調で宥める。
「まずは街の猫さん達にクーデターを達成して貰います」
そうしなければ、自然の在り方から逸脱する。案を発したアーシャも後ろで頷いていた。
「その点に関しては同意しますが、問題はその後ではないでしょうか?」
失墜したフェリックスが、また何か企むとも限らない。智親はその可能性を指摘した。
「ですので、私は少々脅しを掛けてでも、お詫び行脚させて、更生を促した後にパリにでも連れて行こうかと思っています」
例え更生しても、暴君と言う認識をされているフェリックスがこの街に滞在する事は適わない。
智親としては、その後のケアもしておきたかった。
「わかりました、ではクーデター達成後のフェリックスに関しては、お任せします。ただ余り逸らないようにお願いしますね。少しだけ、彼らに時間をあげてください」
「はい。クーデターの邪魔をする事はありません」
一つ頷き、智親は決意を固めた。
それを確認し、ジャンはその場から少し離れたペットのケット・シー『リデル』に近寄る。
「‥‥ね、リデル。『街』を支配してみる?」
撫でながら微笑む主人に対し、リデルはただ目を細めていた。
●クーデター
4日目。
冒険者達は、クーデターを企てている猫達と共に、フェリックスのアジトの前に赴いた。
入り口を守っていた猫達は、当初こそ威嚇の姿勢を見せるが、直ぐに散り散りになる。
彼らなりに気が付いたのだ。これから何が起こるのかを。
そして――――廃屋内。
フェリックスは、逃げる事なくその場にいた。
彼もまた、気付いている。
ここで逃げる事は、即ち敗走であると。
無論、街の王がここでそんな失態を見せる訳には行かない。
フェリックスは、良く磨かれた長靴を履いた二本の足で直立し、レジスタント達を見下ろしていた。
『くっくっく』
そんな余裕の態度に対し、猫達は――――
『にゃー!』(アーたんの為にがんばるぞ!)
『うにゃにゃ!』(ヘルムちゃん、待っててね!)
『にゃおーん!』(ハイネに良いとこ見せてやるんだ!)
‥‥。
「ま、まあ動機は兎も角、これで勝ってくれれば」
アジトの外から中を見守るジャンの隣で、リリーが頷く。
「もしダメだった場合は私達の出番と言う訳ですわね」
「それはそれで楽しみですね」
キャットレディのアーシャは笑顔を見せていた。
その傍らで、ジャンの猫耳っぽい飾りの付いた帽子を借りたユリゼが複雑な顔をしている。
「って言うか、私はやらないんだからねっ! 不慮の事故で欠員が出た時の補充要員なんだから!」
「でも似合ってますよ♪」
ジャンの言葉にユリゼは照れつつ、帽子を目深に被った。
「あの‥‥と言うか、何故私まで?」
「馬鹿者! 語尾に『にゃん』をつけないか!」
その後ろに、何故かエセに怒鳴られる猫耳マルクの姿が。
どうやら教育が完了したらしい。
「何故私‥‥にゃん?」
「それに関しては、僕は管轄外ですので」
ジャンは正視するを拒み、明後日の方を向いた。
「とか言ってる間に、全滅です!」
アーシャが指摘した通り、気が付けば猫達は皆地に伏していた。
やはり動機がイマイチ良くなかったようだ。
「と、取り敢えず手筈通りに行きましょう」
ジャンの合図に、リリーとアーシャが頷く。
「皆さん、お立ちになって!」
「私達キャットレディが応援してます!」
ユリゼがミストフィールド&ランタンによって華麗な演出を施し、キャットレディ達が艶やかに登場!
『‥‥』
反応、なし。
倒れた猫も、フェリックスも、後ろにいるマルクも、驚きはしているがほぼノーリアクションだった。
「‥‥」
二人は頬を染め、退場。
しかし、彼らにはまだ奥の手があった。
『立ち上がれ! ラングドシャの勇敢なる猫達よ!』
後光を背に、アジトに現れたのは――――ジャンのペット、リデルだ。
『同じケット・シーとして、これ以上の蛮行を見逃す訳にはいかない』
『おのれ‥‥』
同属の思わぬ出現に、フェリックスの髭が震える。
『なおーう!』(何か強そうなの来たー!)
『にゃにゃーっ!』(勝機!)
その弱気を感じ取ったのか、猫達が立ち上がる。
その様子は、さながらズゥンビ‥‥もとい、サーガの中の戦士達のようだった。
『覚えてろーーーっ!』
フェリックスは知恵が回る。
それだけに、自分の不利を確認した場合、躊躇せずにその場を脱する。
斯くして――――暴君は逃亡。それは失脚を意味した。
『うにゃーっ!』(勝利のポーズ、決めっ!)
猫達はクーデターの成功に、ボロボロになりながらも喜びを分かち合っていた。
一方。
「御免!」
逃走したフェリックスは、インビジビリティリングを使用して待ち伏せしていた智親の奇襲に合い、転倒。
磨き抜いた長靴がスリップを生んでしまったようだ。
ただ、インビジビリティリング使用時には視界が覚束ず、智親も追撃は出来ない。
フェリックスは慌てて起き上がり、匂いと感覚で智親の位置を把握し、反撃を試みる。
そして、その爪が智親の肩を捉えた瞬間――――
「見つけましたよ〜!」
ジャンのブレスセンサーで位置を把握したアーシャが、ベゾムに乗って上空から突撃!
それをとてつもない瞬発力でかわしたフェリックスだったが‥‥
「うむ、そこまで」
その身体は、エセの腕の中にすっぽり納まった。
●その後
5日目。
色々とお灸を据えられたフェリックスは、エセのポーションで回復した智親に連れられてお詫び行脚に。
『調子乗ってー、マジすんませんしたー』
ぼろぼろの長靴を履いた猫‥‥の姿をした精霊は、そのままパリに連れて行かれた。
そして、平和の戻ったラングドシャでは、猫と人間の共存について話し合いが持たれていた。
『では、住民の皆様の家を荒らさないと言う事で宜しいですね』
『にゃー』(合点だ!)
『それでは、友好の証としてとっておきの大鮭をプレゼントしましょう』
『にゃっほー!』(にゃっほー!)
と言う訳で、猫の格好をしたリリーが泥棒猫対策本部の視線を釘付けにする中、無事交渉は成立。
猫達は最高のご馳走を得、満足そうに鳴き声をあげていた。
そして、あの動物好きのマルクはどうなったかと言うと‥‥
「言葉も通じなければ 生き方も考え方も種族も何もかも違うんだから。猫の心人間知らず、人の心猫知らずってね」
レモンバームの香草茶を飲みながら、ユリゼとジャンのカウンセリングを受けていた。
「人間同士以上に時間をかければ きっと‥‥ね」
「ですね」
ジャンは頷き、ハイネに撫で撫でをさせる。
「うう、にくきゅ〜」
マルクは、泣きながら猫への敵対心を浄化させたとさ。
この肉球の魔力が、いずれ世界の動物達を救う英雄を誕生させる事となったのだが‥‥
それはまた、別の話。