シフールの施療院
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■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 57 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月10日〜10月16日
リプレイ公開日:2008年10月18日
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●オープニング
奔放な存在とされているシフール。
その羽根で大空を舞うその姿は、見る者の羨望を集めて止まない。
しかし、中には地に足を付けなければ生きられないシフールもいる。
例えば、身体が弱く、飛ぶ事が出来ないシフール。
もしそれが怪我に起因する一時的なものであれば、魔法やアイテム、或いは教会で祈りを捧げる事で、回復の兆しも見えるだろう。
しかし、生来の素養によるものであるならば、瞬間的に癒す事は出来ない。
適切な診断を行い、それに基づく薬の処方と治療計画が必要だ。
長年に渡って根気強く体力を付けなくてはならない。
そしてその後、更に飛び方を学ばなくてはならないだろう。
シフールが飛行する事は、人間が歩行する事と難易度的には大した違いはない。
が、生まれてこの方一度も大空を羽ばたいた事のないシフールであれば、体力さえ回復すれば直ぐに、と言う訳には行かない。
そういった面のケアもまた必要なのだ。
現在、シフールの世界にはそういった専門的な治療を施す機関は存在していない。
施療院にしても、人間サイズの種族の施設を利用しているのが通常で、治療をするのもシフールではなく普通の医者だ。
当然、サイズの違いや身体の構造上の問題もあり、十分な治療が出来ない。
ベッドもシフールには大き過ぎる為、大きめの篭に清潔な布を敷くなどの対応をしている所も少なくない。
それでは、余り寝心地も良くなく、自宅休養を余儀なくされるシフールも多いようだ。
「おはよう、リーナ」
パリから80kmほど離れた森に囲まれたエルフの住む集落『ルシエル』にいるリーナ・セバスチャンも、その一人だった。
土地に縛られる事の稀なシフールではあるが、飛び立てないリーナはずっとこの地のエルフと共存している。
「おはよ」
リーナは生来から身体が極度に弱く、空を飛ぶ事が出来ない。
よって、地に足を付けて生きていかなくてはならない。
それに同情した『ルシエル』の住民エルトゥール一家が、彼女を自分達の家に専用のベッドをこしらえ、住まわせているのだ。
「今日も良い天気よ。良い一日になりそう」
「うん」
早朝からリーナに声を掛けに部屋を訪れたのは、この家の主オスカー・エルトゥールの伴侶、パウラ。
活発で明るい彼女の性格が、リーナには眩しくもあり、ありがたくもあった。
彼女には、2つ年上の兄がいる。
名はルディ。現在、彼女とは離れて暮らしている。
身体の弱い妹をほったらかしに‥‥と言う訳ではない。
リーナが強引に兄をこの地から遠ざけた。
リーナにとって、自分の所為で兄が一所に縛られる事が我慢できなかったのだ。
「おはようございまーす、お手紙届けに参りましたー!」
いつものシフール飛脚の少女が元気良く訪ねてきた。
名前はワンダ・ミドガルズオルム。
同じシフールの女の子と言う事もあり、リーナにとっては唯一の友人でもある。
「いつもご苦労様」
「いえいえ。リーナ、おはよ」
「おはよう」
それから二言三言言葉を交わし、ワンダは仕事に戻る。
この僅かなやり取りが、リーナにとっては数少ない一日の中の楽しみの一つだ。
そして、もう一つ――――
「あ、お兄さんから手紙来てるよ」
パウラの一報に、リーナの青白い顔が綻ぶ。
身体が弱いのだから、せめて本くらいは読めるようにと、リーナは幼少期から文字の読み書きを勉強していた。
それが、月に一度の割合で届く兄の手紙を読むと言う数少ない楽しみに役立っているのだ。
「何て書いてあるの?」
パウラは興味津々と言った面持ちで尋ねる。
最近の手紙によると、ルディは冒険者を目指していると言う。
その報告と成長譚を読む事が、妹リーナにとって今一番の生きがいかもしれない。
「‥‥」
リーナは、兄の手紙を食い入るように読んでいた。
そして――――
「はは」
小さく、本当に小さく、そして泣きそうな顔で笑った。
それを見たパウラは驚きを禁じえない。
リーナが笑ったのを見たのは、彼女を住まわせてからたったの2度しかない。
3度目がこの瞬間だった。
「お兄ちゃん、おかしな事書いてる」
「へー‥‥どれどれ」
パウラはまだ少々顔を引きつらせたまま、その手紙を受け取る。彼女も字は読めるのだ。
そこには、短く近況のみが書かれていた。
『僕は今、施療院を作ろうとしています』
一方――――その兄。
「ええとぉ、私には何とも」
「宿屋ならわかるけど施療院はちょっとねえ」
冒険者ギルド内で話込んでいる従業員フィーネとその友人カタリーナに、施療院の作り方について聞いていた。
「何にしても、何かを作るのならお金が必要よ。それもかなり」
「幾らくらい?」
ルディが尋ねると、カタリーナは小首を傾げて指を頬に当てた。
「全然わからないけど、多分1万Gとか掛かるんじゃない?」
「え」
ルディの羽根が力なく羽ばたきを止め、その身体がポトリとギルドの床に落ちた。
「‥‥もしかして、僕とてつもなく難しい事をしようとしているんだろうか」
Chapitre 1. 〜シフールの施療院〜
●リプレイ本文
●R.1 〜教会訪問〜
ジーザス教[白]を信仰するエルディン・アトワイト(ec0290)は、パリ近隣の施療院を併設している[白]の教会へ赴き、その責任者にシフールの専門治療の重要性を説いて回っていた。
シフール専門の医療に対して理解を求め、その上で施療院の見学や、シフール雇用の可能性、教会管轄区域の空き家の確認と借入が可能かと言う事の伺いを立てる為だ。
エルディンは、ノルマンでも実力者と認められているクレリック。教会としても、彼の訪問を無視する事はできない。
そんなエルディンの訴えに対し、それでも、全ての教会の司教、司祭と言った責任者達が、真剣に耳を傾けた訳ではない。
まだ復興してそれほど長い月日が経っていない事もあり、教会でも人材が不足しているのだ。
(困ったものですね)
心中で呟きつつ、エルディンは街を渡り続ける。
「首尾は如何かしら?」
そんなエルディンの背後から、同じ依頼を受けているレリアンナ・エトリゾーレ(ec4988)が話し掛ける。
その隣には楠木麻(ea8087)も立っていた。
「見学に関しては協力的ですが、シフール専門の治療に関しては‥‥」
「ボクの方も同じですね。種族を特定する治療への理解を求めるのは難しいみたいです」
教会は積極的に慈善治療を行うべき機関なのだが、種族別の治療となると、そう簡単にはいかないようだ。
「諦めずに根気強く、ですわ」
エルディンとレリアンナの言葉に、麻も頷く。
「ボクはこれからシフール通訳とも接触してみますね。施療院の見学は全員参加でしたよね?」
「明後日に行う予定ですわ」
レリアンナの答えに麻は会釈をし、それぞれ次の訪問先へと足を向けた。
●R.2 〜シフール飛脚〜
一方、ラテリカ・ラートベル(ea1641)とジャン・シュヴァリエ(eb8302)、そしてルディは、パリの隣接区域にあるシフール飛脚ギルドを訪れていた。
ルディの妹リーナの知人でシフール飛脚のワンダ・ミドガルズオルムに会って、便宜を図って貰う為だ。
ルディは直接ワンダとの面識はないが、リーナを介してその存在はお互い知り得ている。
「あー! 貴方がリーナのお兄さんですか!」
友好的なワンダの対応に安堵しつつ、シフール飛脚の責任者に取り次いで貰う。
ジャンとラテリカは、その責任者であるギルド長に様々な提案とお願いをした。
まず、自分達の目的の説明。
そして、シフール飛脚のお抱えの医者や医療機関の確認。
また、シフール医師の有無と評判の確認。
更に、自分達の建てようとしている施療院を関連施設には出来ないかという打診。
加えて、出資者として力添えして貰えないかと言う懇願。
そして、ギルドが助力するメリットの提示。
ラテリカの表現力、ジャンの建設的見解によって、それらの話はしっかりとギルド長に伝わった。
シフールの施療院をシフール飛脚が支援するメリットは、幾つかある。
まず、シフール飛脚自体、職業柄怪我をしやすいと言う事。
気候条件による自然の驚異は勿論、モンスターのいる区域にも届ける場合、或いは長距離移動による疲労など、体調を崩したり怪我をする可能性は高い職業と言える。
シフールの、シフールによる、シフールの為の医療は、彼らにとっても大きな利となる事は間違いない。
また、営利目的の場合は金銭的な見返りも期待できるし、それでなくとも、相応の利益を得る事は可能。
エルディンいわく、例えば宣伝や薬草の提供。方法は幾らでもある。
人材発掘の場になる可能性もあるだろう。
そして、何より――――
「お空を飛べる喜びを一番に知っているのは、やっぱり、シフールさんですもの」
空を飛べないシフールに対して、その喜びを提供するのは、やはりシフールであるべき。
ラテリカの言葉は、ギルド長の表情を確かに動かした。
結局その場での即決とは行かなかったものの、確かな手応えを残し、3人はワンダに手を振り、ギルドを後にした。
「皆様、御苦労様でした。どうでしたか?」
そんな彼らを出迎えるように、ギルドの直ぐ傍にアマーリア・フォン・ヴルツ(ec4275)とリディエール・アンティロープ(eb5977)が並んで立っていた。
アマーリアは町役場などの行政機関、リディエールは薬草師の伝手を使って民間の施療院にそれぞれ見学の許可を貰いに行き、了承を得て来た帰りだった。
「それなりに手応えはあった、かな」
ジャンはラテリカ、ルディ双方と顔を見合わせ、笑顔を見せた。
●R.3 〜施療院見学〜
依頼開始から3日目の朝。
まず彼らが訪れたのは、パリの直ぐ近くにある街の[白]の教会だった。
その教会の一室が施療施設となっており、一同はそこへと向かう。ジャンは帽子を目深に被り、口を噤んでいた。
「必要資金はどのように集めているのでしょうか?」
「運営体制や人材、設備の調達などに関してもお教え願いたいのですけど‥‥」
まず、リディエールとアマーリアが、司祭にそれぞれの質問を行う。
司祭によると、この施療施設における資金は、全て教会が負担しているとの事だった。
施設は充実しており、ベッドのシーツひとつをとっても清潔感がある。
もし教会主体でシフールの施療施設を建造できたら、かなり充実した施設が期待できそうだ。
「ありがとうございます。次に、具体的なお話になるのですが‥‥」
アマーリアの質問は続いた。
募集や斡旋、空き治療院情報の確認。
研修が可能かどうかの確認。
シフール治療施設の調査および、現存している教会への専門病棟の設置の可否。
この全ての質問に対し、司祭は言葉を濁した。
そして、協力要請。
司祭は『弱者救済の為なら協力を惜しまない』と言う聖職者の言葉を紡ぎ、話を締め括った。
次に彼らが足を運んだのは、別の街の、[黒]の教会の施療施設。
この教会でも、やはり施療が行われている。
ただ、少し違うのは、ジーザス教[黒]の信者のみを受け入れていると言う点だ。
全ての[黒]の教会が同じと言う訳ではないが、この教会ではそうしていると言う事らしい。
「施設建設および運営に関する法律について、お聞きしたい事がありますわ」
ここではレリアンナが聞き手を務める。
施設の建設に関しては、一般的な建造物との差異はなく、施療院に特定した法制限はないとの事だった。
それは営利、非営利どちらでも同じで、どう言った形態を取るにしても、特別な制約はない。
申請に関しても義務付けられてはいないらしい。
ただし、教会、領主、その地域の代表者および役人に対しての報告は、怠ってはならないと言う回答を得た。
そして、次は民間。
リディエール、アマーリアが許可を得た施療院にそれぞれ全員で向かう。
民間と言う事もあり、見学と言う形では少し難色を示されたので、慰問と言う方法をとった。
その為の用意として、ラテリカがまるごとふぇれっとを着用。
「ラテリカさん、可愛いです」
「細身の体にしっくりと馴染んでいますね」
「‥‥あ、愛らしいですわ」
麻、エルディン、レリアンナが患者やスタッフに混じって拍手で迎える中、ラテリカは即興で作った『ふぇれっとのうた』を歌い上げる。
その歌声に合わせ、ジャンの友達のケット・シー『アリス・リデル』が陽気に踊る。
フェレットと猫のコラボレーションに、治療施設特有の淀んだ雰囲気は消し飛び、暖かい空気に包まれた。
「素晴らしい光景ですね‥‥」
それを遠くで見ていたアマーリアが祈りのポーズで感動を露わにしている。院内の書物を熟読していたリディエールや、医療道具のスケッチをしていたジャンも作業を一旦止め、暫し目と耳を癒していた。
●R.4 〜展望〜
施療院見学を終えた一行は、その日の夜、宿屋『ヴィオレ』の一階で食事がてら話し合いを行う事にした。
ここ数日の調査と見学でわかった事。
それは、『シフール施療院』と言う試みが、思いの他難しいと言う事。
まず、施療院と一言で言っても、かなりの格差が見られた。
素晴らしい設備を持つ所もあれば、布一つとっても不衛生な所もあった。
格差は施設だけではない。食事や患者の表情にも表れていた。
ただ、施設の充実と患者の英気は比例していなかった。
硬いベッドでも笑顔でいられる患者もいれば、見栄えの良い食事にも顔をしかめている患者もいる。
これだけでも、施療院運営の難しさは十分わかる。
加えて、彼らがここ数日の間回ってきた施療院、教会、幾つかのギルドにおいて、打診を行ってきた感触は、必ずしも良い手応えのものではなかった。
『見学は良いが、それ以上は期待しないで欲しい』
多くの教会や行政機関は、そう言った反応だった。
しかし、中にはそれ以外の反応を見せた所もある。
シフール飛脚ギルドとシフール通訳だ。
シフールの医師は、世界的に見てもかなり稀有だと言う。彼らの情報網は今後の探索に大きな力となってくれるだろう。
また、麻の調査により、シフール通訳の場合は、そのギルドを通してよりも、冒険者ギルドで働いている通訳達の方が話が通しやすい事がわかった。
より危険と隣り合わせだからかも知れない。
大きな山を動かす前に、まずは彼らと力を合わせ、施療院を開院する。それが一先ずの結論となった。
現時点において、施療院を開設する為に障害となる法律はないと言う事がわかっている。
よって、必要なのは施設の建設場所、人材、設備、そして資金。
「んー‥‥お金をどうするか‥‥難題だね」
ジャンが目を線にして思案を練っている。そして数分後――――
「そうだ! 副業なんてどう?」
腕組みをして宙に浮いていたルディにジャンが提案したのは、薬売りの副業だった。
シフールはこと移動力に関しては他の追随を許さない。天然の上質な薬草を無料で見つけ、それを売る。
或いはより強力な薬に加工する。
それによって、施療院の建設費用を貯めると言う案だ。
冒険者にとって、慢性疾患、疾病、外傷に効く薬草および薬は必須アイテム。
上手く行けば、施療院の開設および運営を行う資金を得る事ができる。
「薬草に関しては専門分野です。もしその案が採用なら、手助けができると思いますよ」
リディエールの笑顔での申し出にルディが首肯すると、エルディンもそれに続く。パリの裏地図を取り出して、それを見せた。
「この地図、覚えていますか? これには薬草についても載っているのですよ。写しを作りますから、それを参考にするのも良いでしょう」
徐々に、話がまとまりつつある。そんな中、アマーリアがその優しい眼差しをルディに向けた。
「ここまでを踏まえた上で、改めてルディさまの夢、或いは目標をお聞かせ願えませんか?」
それは、一度ジャンと共に彼女が初日に尋ねた事。
その時、ルディは返事を保留した。
彼なりに見定めるものを見定めた上で、宣言したかったのだ。
「僕は‥‥妹を治したい。それだけだよ」
その羽を休め、スープの皿が並ぶテーブルの上に立つ。
「色々難しい事や、大変な事があるって皆のお陰でわかった。僕、何にも知らなかったんだ。人を治す事がどう言う事か」
治療。
冒険者ならば、アイテムひとつ、魔法ひとつで簡単にできる事。
しかし、その問題が人生にも匹敵する重さとなる者も決して少なくない。
権利問題、種族問題、人材問題、資金問題。
問題は山積みだ。
「それでも、僕は妹を治したい。その為には、まず薬草を見つけて売る事から始めるよ」
ルディはそこまで言い、自信なさげにアマーリアの方に視線を送る。
目標は一つ。夢も一つ。そして、想いも一つ。
アマーリアは無言で何度も頷き、ルディの言葉を認めていた羊皮紙を畳んだ。
これ以上記す必要はない。ただ、胸に手を添えれば良い。やるべき事は、そこにある。
第一の目標は、これで果たされたと言えるだろう。
「ふう‥‥」
幾つか言葉を紡いだルディは、その場に寝転んだ。
「何か、真面目過ぎて疲れちゃったよ」
その心からの発言に、全員が破願する。
「確かに、少々真剣になり過ぎましたかね」
「真面目な時は徹底的に真摯に、息を抜く時は思い切り抜く。それで良いのですよ」
エルディンとリディエールが談笑する中、レリアンナがじーっとラテリカの方に視線を送っていた。
「え、えと、なんでしょか?」
「ラートベル様、慰問の際の催し、もう一度ここで披露して貰えませんかしら?」
「あ、ボクも賛成です。最近のパリの流行には少し疎くて‥‥」
スープを飲みつつ、麻もラテリカをじーっと見る。
「はわ‥‥あのあの、あれは流行とかでは‥‥」
「何ー? 盛り上がってるねー」
オロオロしているラテリカの前に、宿の看板娘カタリーナがやって来た。
「ところで皆、私の新作食べてくれない? 友達からは『ゴールドなんとかと瓜二つ』って言われたんだけど意味わかんなくて」
彼女の持ってきた創作料理とやらに、全員冷や汗を流してお持ち帰りを提案した。
●R.5 〜希望の種〜
その後、冒険者達は更に目的を絞った行動に移った。
ジャンとラテリカは、幾度となく赴いている村おこし中の村へ。
施療院建設場所の候補の一つとして、修道院を使わせて貰えないかと言うお願いをしに行ったのだ。
結果としては、空き室を利用する分には構わないとの事。
ただ、施療院としての機能を考えた場合、ここでは中々立ち行かないのではと言う助言を貰った。
麻とアマーリアはパリ近辺で建設場所を探索。
酒場や公共浴場で一般人から、商人や役場で専門家からの話を聞く。
今のところ、空き家や空き地は結構あり、逆に候補を絞り難い状況となっていた。
エルディンとレリアンナは、教会の伝手を頼りに、使えそうな幼児用のベッドを探索。
快く提供してくれる家庭を地図に記して行った。
リディエールは、ルディに対しての薬草講座と、シフール用の医療道具作成の為の人材の探求に尽力。
実際にルディに薬草のある場所へ赴かせ、採取させるなどの実践的な指南を行った。
人材探索に関しては、途中からジャンも合流し、イラストとしてまとめた道具をシフールサイズで作れる職人を探した。
が、これが中々難しいらしく、期日中に見つける事はできなかった。
そして、ルディは――――宿の窓から夜空を見ていた。
浮かぶ月に思い描くは、もう大分会っていない妹の顔。
つい先日袂を分かった友人の顔。
そして、これまで世話になった冒険者達の顔。
なけなしの報酬に対し、余りある恩。
ルディは月を見るのを止め、それらの一部を見つめた。
窓辺には、麻から貰った熊の肝と薬用人参が置かれてある。
そして、その隣には、リディエールから提供された、木の実を埋めた植木鉢が佇む。
芽を出して、何者かになれるのか。
永遠に眠ったままなのか。
その鉢に己と妹を投影し、ルディはそっと夢の欠片に触れた。