消える家畜大捜査線

■ショートシナリオ


担当:UMA

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月15日〜10月20日

リプレイ公開日:2008年10月23日

●オープニング

 パリからは徒歩数時間で移動可能な位置にある、交通中継点の街、リアン街。
 多くの商人で賑わうその街は、収穫祭と言うノルマン全土で行われるお祭りに向けて、普段以上の活気で賑わっている。
 収穫祭は、様々な地域ごとの行事が行われる祭り。
 射撃大会を行う所では弓と矢が、秋の果実の収穫を行う地域では蜂蜜などの調理に使用する甘味が需要を大きく増やす。
 このような催しが目白押しのこの時期は、多くの商人が色めき立つのだ。
 同時に、それは『浮かれている』と言う描写も可能。
 よって、この時期は盗難被害も多い。
 つい先日も、この街に訪れていた宝石商の泊まる宿『エストマ』で、宝石が大量に盗まれる事件が起こったとか。
 しかし、こう言った事件はリアン街では日常茶飯事。この街は盗賊が多いからだ。
 特に最近は、宝石を専門に狙う少女が良く話の種となっていたりする。
 珍しい事ではない。

「けど、こっちの方は相当な変り種だぜ」
 パリ郊外に位置する小さい街の小さい酒場『シャレード』では、今日もまたマスターの変わった話を聞きにバードの男性マンソンジュが訪れていた。
 まだ若い風貌の男だが、エルフ故に実年齢を外見で推し量るのは難しい。
「そのリアン街からちょっと離れた村‥‥名前は『リシャス』だったか。そのリシャスって村で、面白い事件が起こっているらしい」
 その村では、収穫祭に行われる祭りの準備で忙しいらしい。
 何でも、馬101頭を一斉に放し、それを追いかける祭りを行うとの事。
 当然馬は何処に向かうかわからないので、村の外にも多数の馬が押し寄せていく可能性もある。
 その際、他の村などに混ざってしまってもすぐわかるよう、たてがみに大きなリボンを付けて『リシャスの馬』と直ぐわかるように工夫を施している。
 馬はその前日から餌抜きの状態で興奮させている為、結構危険な祭りだ。
 だが、毎年の恒例で、日取りも決まっているので、事前に注意を促す事もあり、参加者以外から怪我人が出る事は滅多にない。
 何度か予行練習も行っており、その際にはリアン街やパリにまで走り及んだ馬もいるらしい。
 その際に約一名ほど轢かれた者がいたが、大事には至らなかったようだ。
 そんなイベントが行われる村なので、当然たくさんの馬が普段から飼われているのだが――――
「そいつらが、日に日に消えていってるんだってよ。村から」
 村人達の話では、脱走している形跡もないという。
 馬が盗まれると言う話は田舎では珍しくないが、馬のような大きな家畜が連続して消えていくと言う現象はまず起こらない。
「モンスターの仕業、かもしれませんね。以前、ホワイトイーグルが家畜を襲って、自身の子供の餌にしていたと言う話を聞いた事があります」
 マンソンジュはグラスに注がれたワインを一口含み、目を細めて回答を待つ。
「かもな。だが、現時点ではそう言う目撃証言は入っていない。神隠し、って噂もある」
 ターバンを巻いたマスターの言葉に、マンソンジュは自分の笑みをグラス越しに眺めつつ、呟いた。
「中々ロマンのある話ですね。良い詩が作れそうです」
 そして、ワイン代とその数十倍の情報料をその場に置き、店を後にした。

 その数日後――――パリの冒険者ギルドに、リシャス村から調査を要望する依頼が出された。

●今回の参加者

 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3087 ローガン・カーティス(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec2332 ミシェル・サラン(22歳・♀・ウィザード・シフール・フランク王国)

●リプレイ本文

●情報収集 〜レティシア・シャンテヒルト(ea6215)〜
「‥‥つまり、この祭りはもうずっと昔から行われている伝統行事、と言う事?」
 レティシアの問いに、村長は震える右手を押さえながら頷いた。
 レティシアは依頼を受けると同時に、まずこの依頼に必要なのは情報収集と考えていた。
 犯行が外部の者なのか、内部の人間の仕業なのか。
 それを出来るだけ早い段階で確定させなければ、犯人を特定するのは困難だからだ。
 その為には、少しでも判断材料が多いほど良い。
 そこで、まず村長に依頼内容の確認ついでに、馬祭りの歴史と由来を尋ねていた。
「うむ。この村では、この時期に馬を放逐する事で、一年の間に村内で溜まった邪気が外に逃げる、という言い伝えがあるのじゃ。もうかなり昔から行われている行事じゃ」
 村長の話によれば、今回のように馬が連続的にいなくなる、と言う事は全くなかったとの事。
 例のない事態と言う訳だ。
 そうなれば、当然そこには明確な理由、そしてその理由が生まれるに至った切欠が存在する筈。
 それを導き出す為には、更なる情報が要る。レティシアは参加予定者を確認する為、名簿を借りる事にした。
 祭りは全員参加が義務付けられている訳ではないが、邪気払いと言う村全体に関連する行事である為、男は殆ど参加していた。
 こう言った祭りには、儀式的な意味合いだけでなく、度胸試しの要素も多々含まれるので、男の参加は空気的に義務に近いものがあるようだ。
 その後、事件によって馬を失った馬主の名前を聞き、名簿に印を付けていく。
 これで、ここで行う情報収集は終了。
「ありがとう。出来るだけ送球に真相に迫れるよう尽力するから、余り心配しないで待っていて」
 レティシアは村長の身体を気遣い、その家を後にした。
 次に行うのは、村民からの情報収集。それと平行して、村全体のマッピングを行う。
 その為の羊皮紙は村長が用意してくれた。
 まず集めるべき情報は、馬の消失した時間帯。
 後、参加予定者の恋模様。
 恋愛は人を狂わせ、愚行に走らせる事もある。
 場合によっては、詩に出来る何かがあるかもしれない。
 ただし、あくまでも依頼達成が最優先。
 その為、被害にあった馬主の元を全て回る。
 このリシャス村は馬が多い事もあり、やたら広い。
 もしこのような事件がなければ、文字通り牧歌的な風景が見られたかもしれない。
 レティシアはそれを憂いつつ、セブンリーグブーツで全ての馬主の元を訪れた。

●情報収集 〜ミシェル・サラン(ec2332)〜
 2日目の朝。
 ミシェルは、上空から祭り前最後の予行練習の風景をじっと眺めていた。
 その予行練習自体に、真相解明の手掛かりがあるかと言うと、その可能性は余り高くないだろう。
 ただ、もし明らかに消極的な人間がいれば、それは判断材料となり得る。
 ミシェルは、今回の事件を人の仕業だと推測していた。
 神隠しなどのような人智を超越した現象でも、モンスターによる仕業でもない、と言う事だ。
 モンスターが原因であれば、その痕跡は確実に残る。ホワイトイーグルの仕業なら白い羽が残るだろうし、ウルフなどであれば血痕も残るだろう。
 また、馬の消失は深夜限定らしいが、それでも馬のけたたましい悲鳴が上がれば、誰かしら気が付いたり目を覚ましたりするだろう。
 しかし、そう言った事実は確認されていない。神隠しと言う検証不可能な事象を除けば、人為的犯行の可能性は高い。
 ミシェルはそれを踏まえた上で、一つ仕掛けを打っておいた。
 予行練習前の馬に、リボン以外の特徴として、全ての馬の後ろ足の内側にペイントを施しておくよう頼んでおいたのだ。
 もし他の村が盗んでいた場合、リボンなら解いてしまえば隠蔽できる。
 しかし、目立たない場所のペイントであれば、証拠隠滅はし難いだろう
 それを見届けたミシェルは、更なる情報収集を進めようと、予行練習中の村人に面会を試みた。
「馬が101頭でなければならないと言う事実はあるのかしら?」
「ねえな! 偶々だ! うひょおー興奮するぜー!」
 村人の一人は暴走する馬に囲まれながら走り去っていった。
 宙を浮けるミシェルだからこそ生の声を聞く事が出来るが、馬が次々に駆けて行くこの状況では興奮する者も多く、中々情報収集は難しいようだ。
「‥‥?」
 そんな中、ミシェルは一人の若者を注視した。
 馬が雪崩のように駆けて行くその波から離れ、樹に寄りかかって座り込んでいる。
 視力の良いミシェルは、その顔色の悪さも直ぐに把握できた。
 近付き、その男に声をかける。
「大丈夫かしら?」
 しかしその若者は何も答えず、走り去って行った。

●情報収集 〜ローガン・カーティス(eb3087)〜
 予行練習を終え、村人達が戻ってきた馬の世話をしている中、ローガンはその手伝いを買って出た。
 村人も感心する程の手つきでブラッシングを行いつつ、ローガンは木製の指輪『インタプリティングリング』に念じ、オーラテレパスを使用する。
 馬から目撃証言を得る為だ。 
『ヒヒィィン』(夜、目、見えない。何も見てない)
『そうか。では、収穫祭の行事に関してどう思っているか聞かせて欲しい』
『ヒヒィィィン』(ストレスの解消、なる。楽しい)
『ありがとう。参考にさせて貰う』
 礼を言い、ローガンは報酬として人参を与える。その馬は嘶きながらそれを食していた。
 他の馬にも話を聞いてみたが、皆同じ旨の発言を行っていた。
 尚、予行練習に出ていた馬は全て帰って来ていたようだ。
 牧場を離れつつ、ローガンは一つ疑問を覚えていた。
 馬は夜目が利く動物だ。暗がりの中でも苦もなく歩き回る事が出来るくらいの。
 動物に詳しいローガンはその事実を知っていた。
 つまり、馬の証言は、虚偽の可能性があると言うことだ。
 仮に嘘を吐いているとしたら――――何故そのような事を?
 可能性は二つある。
 一つは、自身の為の嘘。
 もう一つは、他者の為の嘘。
 とは言え、馬が意図的に嘘を吐くだけの知能を持っているかと言うと、それはかなり怪しいと言わざるを得ない。
(取り敢えず、人間の話も聞いておくとしよう)
 ローガンは推論を一時凍結させ、情報収集を続けた。
 目撃者に関しては皆無だったが、一つ興味のある意見をとある村人から聞く事が出来た。
 それは、馬が消える事件が勃発し始めた頃、とある若者が牧場の周りをウロウロしていたと言う目撃証言だ。
 ローガンは確かな手応えを感じ、仲間と待ち合わせしている村の酒場に向かった。

●真相 〜或る村人の願望〜
 収穫祭にリシャス村で行われる、馬追い祭。
 村の邪気を追い出し、豊作を祈願する為と言う儀式的要素と、度胸試しと言う娯楽的要素を含有した、村人にとっては一年で最も盛り上がる行事だ。
 それだけに、この祭が近付くに連れて、村の男達は馬に対して好戦的になる。
 徐々にその馬たちが宿敵に見えてくるのだ。
 無論、それは競い合う相手としてであって、本当に憎い筈もない。
 馬は彼らにとって大きな財産。そして、共に暮らす仲間だ。
 しかし、中にはその雰囲気を余り好まない人間もいる。
 ここにいるハンジと言う若者もその一人だ。
 この馬追い祭は、村人に多くの怪我人を出す。
 そして、馬自体も身体を痛めてしまう。
 どうして、そのような事をしなければならないのか。
 邪気を祓うなんて口実だ。要は皆で楽しみたいだけだ。
 それなら、勝手に酒でも浴びれば良い。馬を痛めつける必要があるのか。
「‥‥」
 深夜。
 動植物のいずれも眠りに付き、月が雲に隠れ、闇の衣を背負う時間。
 ハンジは、牧場にいた。
 その指には、夜闇の指輪が幾つも嵌められている。闇に視界が遮られる事はない。
 更に、これだけ騒ぎになっているのに、この日は警備が緩い。
 ハンジは行動の時と確信し、歩を進めた。
 彼は、馬を守りたかった。
 だから、少しずつ馬を逃がしていた。
 その村にとって大きな損失となるが、そんな事はどうでも良かった。
 ただ、少しでも傷付く馬が減ればそれで良い――――彼の行動理念はそれだけだった。
 しかし、思想と理想は結び付いても、想到と行動は結び付かないもの。
 深夜に誰に気付かれる事もなく馬を逃がすのは、難しい。
 松明やランタンを使えば誰かに気付かれる可能性が高いし、馬は火を過剰に恐れる。
 殆ど何も見えない暗闇の中で、馬を嘶かせる事なく外に逃がすのは困難を極めるだろう。
 この指輪があって、初めて行動に移せる。
 これを手に入れたのは偶然だった。
 偶然、協力者が現れたのだ。
 その出会いも偶々だった。
 リアン街には買出しの為に定期的に訪れるのだが、その時に寄った酒場で、リシャス村の馬を調査していると言う少女に声をかけられたのだ。
『リボンしてる馬って、知らない?』
 それから話はトントン拍子で進んだ。
 少女は村の馬を一頭でも多く提供して欲しい。
 ハンジは村の馬を一頭でも多く逃がしたい。
 利害は一致し、少女はハンジに指輪を贈った。
 そして、今日も実行に移している。
 最初は少しずつ。
 慣れてきた今日からは、10頭単位で。
 全ては手筈通りに――――
「随分と迂闊なのね。闇夜の盗人さん」
 そんなハンジの思考が、ノイズによって乱される。
 月明かりのような、透き通った声。だからこそ、今の彼には雑音となる。
 慌てて振り向いたそこには、美しい銀色の髪を風に靡かせる、少女の外見をした人間がいた。
 しかし、子供とは到底思えないその堂に入った佇まい。
 そして、容貌とは正反対の、魂まで凍てつかせられそうな瞳。
 ハンジは怯えを禁じえず、離脱を試みようとする。
「逃げたら氷で固めて村の広場に飾るわよ。観念しなさい」
 冷たい声がハンジを陵辱する。
 それは、眼前の少女のものではなく、耳元から発せられた声だった。
 闇に浮かぶ碧の小さな瞳と言葉が、ハンジに更なる恐怖を植え付ける。
 そして、羽ばたく音が牧場に薄く伸びる中、短い草を掻き分ける足音がそれに重なって行く。
「ローガン、警戒は解いて良いみたい」
「そのようだな。どうやら普通の村人のようだ。指に嵌めている物以外は」
 手にしていたスクロールを仕舞うローガンの元に、梟のフィロンが戻ってくる。
 これで、全ての警戒を解いた事になり、同時に犯人の確保に成功した事を意味していた。
「……違う。違うんだ。僕は……」
「話はゆっくり聞いてあげる。貴方がした事総て、時間の許す限り‥‥ね」
 レティシアの何処か邪気を匂わすような微笑に、ハンジは項垂れた。その顔の傍にいたミシェルが、くるりとその頭の周りを一周し、肩に留まる。
「解決、ですわね」
「ああ。上手く事が運んで何よりだ」
 ローガンのその言葉を合図にしたかのように、月が顔を覗かせる。
 家畜消失事件は、こうして幕を閉じた。


 冒険者達の行動は、合理的且つ慎重、それでいて迅速だった。
 一日半の情報収集で、内部の犯行と読み、怪しい人物を特定。
 3人とも一人の人物に目を付けた。
 ハンジと言う若者だ。
 更にミシェルがリアン街の酒場で情報を得た事で、確信を得る。
 その後、レティシアの案によって敢えて警備を緩くし、牧場に犯人が入りやすいような状態にしておき、行動の時を待った。
 ミシェルがサウンドワードのスクロールで不審な足音を警戒し、その網に掛かると同時にレティシアの作った地図で移動場所を推測。
 馬小屋から定期的にテレパシーを送っているレティシアに知らせ、ローガンにも連絡を取って貰い、包囲網を敷くと言う徹底振りだった。
 仮にこれがある程度の戦闘力を有した相手だったとしても、問題なく捕えられただろう。
「まあ、やり方は良くなかったが、馬を思う気持ちがあってこその行動だ。情状酌量の余地を与えてやって欲しい」
 犯人捕縛後、冒険者達は動機とやり口を聞き出し、他の村人達に対して温情を訴えた。
 それは単にハンジに対して同情したと言うだけではない。
 少なからず、この馬追い祭に疑問を抱いていたからだ。
「こういった動物愛護の精神は大切にすべきだ。馬自身は楽しんでいるようだが‥‥」
 ローガンは馬が怪我しにくいよう、ルートの整備や前日の餌抜きを提案した。
 また、馬の毛並みコンテストなどの代案も提供しつつ、あらゆる可能性を考慮するよう薦めていた。
 更に、ミシェルも競馬や馬術競技も提案。
 単に馬を放し飼いにするのではなく、しっかりした競技場を作ってそこで競わせる事の美しさと楽しさを説いた。
 そして、レティシアは十分に反省の様子を見せていたハンジが身につけていた指輪を一つ手に取り、じっと眺めていた。
 ハンジの証言では、この提供者の特定は出来ず、結局馬の隠し場所もわからなかった。
 冒険者の間でも、一握りの者しか手にする事が許されない夜闇の指輪。
 それを数個、簡単に手渡す事が可能となると、かなりの財力があり、普段から夜に活動する機会が相当多い者に限られる。
 指輪を手渡し、事件を補助した少女とは一体何者なのか。
 冒険者達の見上げる空に、その答えは――――