シフールの医師 〜シフール施療院〜
|
■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:11月11日〜11月18日
リプレイ公開日:2008年11月19日
|
●オープニング
シフールは、一つところに留まる職を持たない者の数が圧倒的に多い。
それはやはり、他の種族とは大きく異なるその体型が原因だ。
例えば、力仕事全般に関して言えば、シフールの需要は全くない。
農業、漁業、その他多くの職業では、力仕事が必要となる。
また、それほど力の要らない仕事でも、シフールにとっては重労働となるケースは多々ある。
社会に混じって生活することが最も困難な種族と言えるだろう。
それ故に、彼らは自由奔放な道を選んだのかも知れない。
ただ、逆にその小さな体を利用し、特別な職に就く者もいる。
「次の方、どうぞ」
例えば、医師。
体には幾つかの器官があるが、中には体の小さいシフールの方が診やすい箇所もある。
耳の穴や口の中、鼻の穴なんかもそうだろう。
そんな特需もあり、シフールの医師は世界的に見てもごく少数ながら、確かに存在している。
「実は、昨日から耳が聞こえなくなって」
「わかりました。少し横になってみて下さい」
そう話し、患者の耳の穴に顔を近づけ、じーっと穴の中を覗いているこの男性も、その中の一人。
名前はリュック・ソルヴェーグと言う。
このリュックは現在、パリから60kmほど離れた場所にある街の診療所で働いている。
数人いる医師の中の一人で、主に耳鼻関連を担当しているが、実際には内外いずれの医療も行うスキルを持っている。
しかし、やはりシフールと言う事で、どうしてもその需要は細部に関する診断や作業に偏らざるを得ない状況だ。
リュック自身はそれを不服とはしていない。
彼にとって、医療とは患者の命を護り、身体を護り、心を護るもの。
自身の技術の誇示など二の次だった。
「耳垢が大分詰まっていました。取り除いたので、もう大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。いつも先生にはお世話になって‥‥」
治療を終えたエルフの患者に、リュックは微笑を返す。
その人柄の良さもあり、リュックの人気は高い。
他の医者も、需要が重ならない彼に対して不穏な態度をとる必要もなく、人間関係は円滑と言って良いだろう。
信頼関係で結ばれた患者達の笑顔。
心から満足できる仕事。
全てが上手く行っていた。
一方――――
パリから40kmほど離れた位置にある『ラングドシャ』と言う街では、現在多くの猫が伝染病にかかって苦しんでいた。
「うなー」(もうだめだ‥‥)
「にゃーう」(生まれ変わったら一生になろうぜ、ハイネちゃん‥‥)
連日街中を闊歩していた猫達だったが、その殆どが体調を崩してぐったりしている。
幸いな事に死に至る猫こそいないようだが、今後の保証はない。
ラングドシャの役場は、重い腰を上げ『野良猫救済対策本部』を設立。
しかし、この街には獣医がいなかった。
「どうしようもないじゃないか‥‥」
責任者となったマルク・アンドレと言う男は頭を抱え、苦悩する。
しかし、いい案は浮かばない。
大好きな猫達が苦しむ姿を黙って見ているしかないのか――――
「酷い街だな。ここは」
そんな中、その男は颯爽と現れた。
左の頬に残る傷跡が痛々しい、筋骨隆々の身体をした長髪の男だ。
「俺を雇え。三日で全ての野良猫を治してやる」
藁にもすがる思いだったマルクは、ダメ元で彼に依頼。
すると――――本当に三日で全ての野良猫の体調が回復の兆しを見せた。
魔法やアイテムなどを使った訳ではない。普通の医療を施していた。
「ありがとうございました! まさか獣医の方が訪れてくれるとは」
「獣医ではない。医師だ。どんな種族でも診る、雑種のな」
男は爽やかな笑みを残し、ラングドシャを去った。
マルクの半年分の給料の請求書を残し。
そして――――パリ冒険者ギルド。
「ありがとうございましたー」
シフールの施療院を作るべく奮闘中のルディ・セバスチャンは、パリにある宿屋『ヴィオレ』の一階で薬草を売っていた。
冒険者が良く訪れるこの宿は、薬草を売るのにちょうど良かった。
しかも、看板娘のカタリーナとは知り合いと言う事で、話は簡単についた。
場所代は宿代、食事代と込みで、とても格安。
理想の環境と言える。
冒険者から貰ったパリの裏地図の写しに従い薬草を集め、教えて貰った通りに分類して打ってみた結果、ここ一月の間で2G以上の稼ぎを得た。
が、それは微々たるもの。
現在、彼の部屋には60Gもの大金が置かれてある。
少し前に行われた、パンで有名な村の収穫祭において、とある冒険者達が出店を出し、その収益を全て寄付してくれたのだ。
「それにしても、良い人達よねー。私も世話になったし」
カタリーナは自分に料理を教えてくれた面々を思い出し、ほうっと息を吐く。
「でも、使い道がイマイチわからないんだよね。僕の金銭感覚の許容範囲を超えちゃってるもん」
「まあね。って言うか、それだけあったらもう作れたりして。施療院」
「いや、流石に無理だよ」
ベッドに関しては、既に何時でも確保できる状況にある。
余った子供用のベッドを譲渡してくれる家が見つかったのだ。
しかし、施療院を作るには、建造物とベッドだけでは駄目だ。
医療器具と医師が最低限必要となる。
そもそも、まだ建てる場所も施療院の名前も確定していない。
「シフール用の医療器具が作れる人と、シフールをしっかり診てくれる医師‥‥大変ねー」
「まずは医師を探すよ。もしかしたら、この近くにシフールの医師がいるかもしれないしね」
「あんまり聞いたことないけど‥‥シフール飛脚の人達には聞いた?」
「管轄内にはいないって。別のところで聞いてみたいんだけど、場所とか全然わかんないし」
シフール飛脚は各地域ごとに組織を成しているが、その組織内の情報を逐一他に回している訳ではない。
そもそも、そんな機会も必要性もないのだろう。
「それでも、何とか探してみるよ。医師がいない事には、施療院なんて作れないからね」
後戻りなど選択肢にはない。
もう、種は植えられたのだから。
ルディは窓辺に置かれた鉢を見ながら、そっと口元を引き締めた。
Chapitre 2. 〜シフールの医師〜
●リプレイ本文
●医師探し
「ありがとございますです」
「ますですー」
ラテリカ・ラートベル(ea1641)と妖精のクロシュがぺこり、と丁寧にお辞儀し、五軒目の診療所を出る。
彼女は現在、引退した医師を探し、訪ねる為に施療院や診療所を巡っていた。
現役の医師はどうしても現在何かしらの仕事を抱えており、協力を仰ぐのは容易ではない。
一方、既に引退した医師であれば、知識を授けてくれたり、助言してくれる可能性が高いのだ。
診療所の多くは世襲と言う事もあり、引退した医師を探すのは難しくなかった。
診療所や施療院を巡り、その医師の父親の居場所を聞けば良い。
「んーと‥‥こっちですね」
ラテリカは彼らの元を訪れる為、教えられた住所を頭の中で反芻した。
一方、アマーリア・フォン・ヴルツ(ec4275)は冒険者ギルドでシフール通訳や他の冒険者に話を聞いていた。
シフールの情報はシフールに聞くのが一番建設的。
加えて、世界各国を飛び回る冒険者ならば、見聞は確実に広い。
そこで聞いた話によると――――特殊な職業に就いていないシフールの殆どは、普通の診療所や施療院を利用するようだ。
そして、多くの場所でその治療は粗雑だと言う。
身体の小さい者への医療術が整備されていない為、どうしてもそうなってしまうのだろう。
先日目が腫れてしまったと言うシフール通訳の一人は、生のまま磨り潰した薬草を無理やり小指で塗りたくられたらしい。
当然、顔中に薬草のエキスが刷り込まれる。
「想像以上に、杜撰な状況なのですね‥‥」
アマーリアはお大事に、と言葉を掛け、一礼した。
次に向かうのは、パリ近隣の役場と理髪師の組合。
役場では伝染病の情報を、医療機関と結びつきの強い理髪店では外科医療に関する問い合わせを行う為だ。
アマーリアの顔は、既に遥か前方を向いていた。
そして、レリアンナ・エトリゾーレ(ec4988)は動物を治す事が可能な医師を探し、パリ市内の医師協会を尋ねていた。
シフールと獣を同一視するつもりなど毛頭ない。
しかし、身体の大きさと言う一点において、シフールは人間やエルフなどの多種族と比較するより、犬猫などの方が明らかに近い。
羊飼いのレリアンナならではの発想。
大胆ながら、合理的な発案だった。
が――――パリ市内にそのような職業に就く者は確認されていない、と言う返答を得る事になった。
動物に対して治療を施す職業はある。
しかし、まだ普及には程遠く、見つけるのにはかなり苦労するだろう、との事だ。
「貴重なご意見を頂き感謝致しますわ」
レリアンナは礼を述べ、医師協会の建物から出る。
探すのは難しい。
しかし、ペットを飼う者はここ数年かなり増えており、獣医師と言う職業が成立する土壌は十分出来ている。
また、動物が生命線の農村などに存在している可能性もあるだろう。
レリアンナはその捜査網をパリの外にまで広げる決意をした。
●鍛治師との邂逅
一方――――
ジャン・シュヴァリエ(eb8302)、リディエール・アンティロープ(eb5977)、エルディン・アトワイト(ec0290)の三人は、エルディンの知人であるミシェル・サランの案内で、シフールの鍛治師がいると言うリアン街を訪れた。
余り治安の良くない街ではあるが、実力者四名が揃った事もあり、問題なく目的地の鍛冶場に到着。
そこには、ドワーフの鍛治師クーノと、彼を師事するシフールの鍛治師ミケ・ウェンデルがいた。
「‥‥と言う訳で、この方達にお力添えして頂けないかしら」
ミシェルに紹介されたエルディン、ジャン、リディエールがそれぞれに頭を下げる。
「クレリックのエルディンです。お噂はかねがね伺っております。お近付きの印にこれを」
そして、エルディンが一歩前に出、クーノには麦酒「エルルーン」を、ミケには甘酒を手渡す。
「僕も、彬叔父さんからお話は聞いています」
更に、ジャンも日本酒・どぶろくを差し出した。
先日世話になった冒険者の関係者と言う事もあり、邪推なく鍛治師の二人はそれらを受け取る。
「ありがたく収めさせて貰うとしよう。して、用件は?」
クーノの問いに、ジャンとエルディンが中心となって、説明を始める。
シフール専用の施療院を作っており、そこで使う小さな医療道具を、シフールの鍛治師がおり、尚且つ繊細な道具を作る事に長けたこの鍛冶屋で頼みたい、と言う事を熱心に伝えた。
実際、鍛冶場にあった完成品を見た三人は、その出来の良さに思わず感心していた。
「ふむ‥‥前例のない仕事だな。ミケ、どうだ?」
「どういう物を作るのか、良くわからないお」
「それなら、これを」
ジャンが以前スケッチした医療道具の絵を見せる。
「んー、難しそうだけど、がんばってみるお」
「だ、そうだ。無論ワシも協力しよう」
――――交渉成立。
「ありがとうございます。これで一つ難問が解決しました」
リディエールが安堵の表情を浮かべる。その傍らで、クーノは張り切っているミケの姿を楽しげに眺めていた。
「仕事を貰った以上、もてなさん訳には行かんな。近くの広場で酒盛りでもするか」
「良いですね!」
ジャンは乗り気だ。
一方、エルディンは思案顔で首を傾けている。
「野外ですか? 流石にこの時期だと少し気候的に厳しいのでは」
「月を見ながらの一杯がたまらんのだ。心配ならこれでも持ってけ」
そう言い放ち、クーノはエルディンに風邪を引き難くなるネックレスを投げた。
●拠点
それぞれ一仕事終えた冒険者達は、宿屋『ヴィオレ』の一階で持ち帰った情報の交換を行うべく、テーブルに着いた。
後ろの壁には、初日にジャンが貼った医師と看護士募集の貼り紙が並んでいる。
そしてテーブルには、スープと朝昼食用の小麦で焼いた何か(携帯用)が並んでいた。
「では、まず朗報から。鍛治師が見つかりました」
エルディンの言葉に、歓声が上がる。
「ルディさんも一度訪問してみては如何でしょう」
「うん。行ってみる」
リディエールの言葉に、ルディは直ぐに頷く。
「それじゃ、本題である医師の方に移りましょうか」
ジャンのその言葉を合図に、集められた医師の情報が記録係のアマーリアによって、羊皮紙に書き記されて行った。
まず、ラテリカが起立。
彼女は引退した医師と面談し、様々な話を聞いていた。
まず、施療院と言うものが、必ずしも街や村に歓迎されるとは限らないと言う事実。
通常であれば諸手を上げて喜ばれそうなものだが、施療院は無料の診察を分け隔てなく行う故に、評判の良くない冒険者や傭兵、或いはゴロツキなどと言った危険人物の温床になる可能性がある。
シフール専用の施療院となると、手癖の悪いシフールや、犯罪者などが集まってくる事もあり得るのだ。
「それだと、あの村は候補から外した方が良くない? 環境は最高だけど‥‥大事な時期なんでしょ?」
「そうだね。ちょっと様子を見ようか」
ルディとジャンが話しているのは、施療院の設立場所の候補となっている村おこし中の村だ。
新しい物を作ると言うのは、少なからず場を乱す事に繋がる。
良い方向に転がる可能性だってある。しかし、リスクもある。
「対策はしっかりするよに、何かあればまたおいで、と仰って頂いたです」
「ルディ、通ってみたら? 知識は自分だけのものだから、損はしないと思うよ」
微笑むジャンに、ルディはコクリと頷いた。
更にラテリカはその後、先日開放された月道を渡ってやって来た者の中から外国の医師を探し、パリを案内がてら話を聞いていた。
その医師はジャパンの者で、東洋の医術に精通しており、漢方や針治療についての造詣も深かった。
医師いわく、人体はとても奥が深く、そう簡単にシフールの専門医療など出来るものではない、との事だ。
「簡単に話に乗るお医者様は危険と仰ってたですよ」
「確かに、その意見はわかります」
例えば、シフールの身体にはどれだけの量の薬草が適切か、などの研究は現在なされていない。
薬草師の観点から、リディエールは相槌を打たざるを得なかった。
そのリディエールは、リアン街を離れた後、薬草師と言う立場を活かし、他の薬草師にシフールの医師がいないか尋ねていた。
彼は家で薬屋を営んでいる為、医療関連の情報はかなり入ってくる。
しかし、その中にシフールの医師に関する噂はなかった。
エルフの彼に、他種族の医師の話をする者はいなかったようだ。
それは他の薬草師に関しても同じだった。
「そこで、私の知人のヴェスル・アドミルさんと言うシフールの方に頼んで、同種族の方に話を聞いて頂きました」
港を中心に、様々な国のシフールと話をしたらしいヴェスルが言うには、シフールの医師と面識のある者はいなかったが、そう言う医師がノルマンにいると言う噂は耳にしたらしい。
「場所はおわかりになりまして?」
「はっきりとした診療所の住所などは、残念ながら」
レリアンナの問いに、リディエールは首を横に振った。
次はそのレリアンナ。
「動物の治療を専門にした方は、残念ながらこの近隣にはおりませんでしたわ」
そう報告するレリアンナの顔には失望感はない。続きがあるようだ。
「ですけど、動物を治せる医師の方はおられました。何でも、現在ノルマンを放浪していると‥‥」
「あ、その話僕も聞きました」
スープを飲み終えたジャンが起立する。
彼はリアン街を出た後、以前訪れたラングドシャと言う街に、愛猫のハイネ、リデルと共に赴いていた。
ハイネは街中の雄猫から壮大な歓迎を受け、リデルは最敬礼で出迎えられていた。
それを誇らしく思いつつ、ジャンは知人であるマルク・アンドレを尋ねた。
すると――――
『見てくださいよこの請求書! これからどうやって生活していけばいいのか‥‥』
大半は愚痴だったが、先日訪れた流浪の医者が、三日で街の猫の大半を治したと言う事実が彼の口から語られた。
「何でも、どんな種族でも診ると言っていたそうです」
「興味深い話ですね。そう言えば、酒盛りの翌日にリアン街で探していた女の子は見つかりましたか?」
「女の子ー?」
エルディンの言葉に、ジャンより早くルディが反応した。
「前に依頼で知り合った子がいるかな、って思って。結局見つからなかったけどね」
ジャンは苦笑しながら続ける。
「その代わり、行動力のあるずっこけ三人組の子供達に医師募集の写しを渡して、知り合いに配って貰いました」
「それは心強いですね。私の方も教会に呼び掛けておきましたが‥‥教会は優秀な人材を囲いますからねえ」
顎に手を当て、エルディンが呟く。
彼はリアン街で鍛治師達と別れた後、近隣の施療院や診療所、行商人や旅芸人に手広くシフールの医師について尋ねていた。
それだけでなく、シフール専門の医療の必要性について積極的に訴えた。
土壌を固めるにはかなりの時間が必要だが、下地を作っておく事は重要だ。
更に、彼の知人である呂明信も、パリ市内での聞き込みを行ってくれていた。
だが――――
「今のところはこれと言った手掛かりは掴めていませんね。教会にお願いした張り紙に期待、と言ったところです」
エルディンの言葉の後、アマーリアは文字を綴っていた筆を置く。
最後に残った自分の報告を行う為だ。
「実は、他区域シフール飛脚の方の中に、シフールの医師の所在を御存知の方がおりました」
「えっ! 本当?」
ルディが興奮気味にアマーリアの顔の前に飛ぶ。
以前、ジャン、ラテリカ、ルディが訪れた飛脚ギルドのワンダと言う女の子が、他区域のギルドを訪れ、施療院建設の話をしたらしい。
その時に、シフールの医師について知っている者がいたと言う。
「場所は、ここから50kmほど離れた街です。ただ、一つ問題が」
アマーリアが聞いた所によると――――そこにいる医師は、既に数多くの患者を抱えており、他へ移ると言うのは少し考えにくい状況らしい。
「人柄と腕はどうなのでしょうか」
リディエールの問いに、アマーリアは穏やかに微笑む。
「どちらも大変素晴らしい人物と伺っています」
「そうですか‥‥となると、理想的な人材と言えますね」
「問題は、来て頂けるか、と言うところですわね」
リディエールとレリアンナは同時に首を捻る。
実際、幾ら最適な人材でも、首を縦に振って貰えなければ意味がない。
「レリアンナさんとジャンさんが伺った言う流離っておられる方はどうでしょか?」
「無理に一本化する必要はないと思いますよ。皆さんにその旨を明かしつつお伺いを立てて、複数の方に承諾頂いた場合は、誠実に断りを入れれば良いでしょう」
ラテリカの言葉に、エルディンはそう示した。
「ただ、ある程度条件を絞る必要はあるでしょうね。私は医師に関してはシフールが望ましいと思っています」
指を口元に当て、リディエールが呟く。
「そうですね」
アマーリアは更に具体的な条件を述べた。
シフール医療の経験があり、長期勤務できる者。
そして――――
「リーナ様を診て頂ける方、でなければいけませんから」
「‥‥うん。ありがと」
ルディは微笑むアマーリアの右手の人差し指に手を沿え、小さく呟く。
「みんなも、本当にありがとう。一杯色んな所に行ってくれて、凄く嬉しいよ」
そして、様々な角度、切り口から情報を集めてくれた冒険者達に、深々と頭を下げた。
「楽しく動き回っていますよ。薬草師の私には得る物が多いですから」
リディエールが穏やかに微笑む。
「いろいろ難しいですけど、頑張りましょ」
「ましょー」
ラテリカも照れ照れで微笑むと、その頭上のクロシュは楽しそうにそれを真似ていた。
「いずれにせよ、焦って決断する事はない、と言う事ですわね」
「ええ。ただ、できるだけ早く直接お会いしておきたい所ではあります」
「お時間が取れると良いのですが」
レリアンナ、エルディン、アマーリアが話し合いを続ける中、ルディはぱたぱたとクロシュの所に飛んでいった。
「?」
お互いにずっと存在が気になっていたらしく、羽ばたきながら見詰め合う。
「‥‥医師、できる?」
「できるー」
「わあっ、大発見!」
ルディは自分の半分くらいの大きさの妖精の手を取って喜んだ。
「はわ、あのあの、この子は言葉の最後真似てるだけで‥‥」
「案外、本当に出来るかもしれないよ?」
ラテリカが慌てて説明する中、ジャンは穏和に破顔した。
結局、今回の期間内で医師と接触する事はできなかった。
とは言え、急ぐ必要はない。
ルディはその時に備え、面談する際の心構えや気配り、必要な作法を、エルディンとアマーリアを中心にみっちりと習った。
医師宛ての手紙の書き方も教えて貰った。
後は、送る相手とその居場所を完全に特定するだけだ。
夕日が街並みを染める中、冒険者達は次の場所へと向かって行く。
その背中が見えなくなるまで、ルディはずっと手を振っていた。