まるごとオールスターズ武闘大会
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■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:4
参加人数:4人
サポート参加人数:3人
冒険期間:11月25日〜11月30日
リプレイ公開日:2008年12月03日
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●オープニング
闘争。
それはジ・アースにおける風雲の歴史である。
修羅の道を突き進む者もいれば、裏街道でひっそりと血を飲み干すように生きる者もいる。
暴力は何も生み出さない――――それは詭弁だと叫び、武器を取る。
そして、再生と破滅が繰り返されるのだろう。
闘争は終わらない。
それは、例えノルマンが再生した今であっても。
「おらああああ! 死ねやコラあああ!」
「死ぬのは貴様だ戯けがっ!」
木造の壁で囲まれた、とある建築物内――――その中央。
ラージクルスハンマーとウェルキンゲトリクスの剣が鈍い音を立てて衝突する。
そのまま押し合意を続ける両者の形相は、滑稽なほどに全力。
それを周りの者は、固唾を呑んで見守っていた。
ここは、パリから20kmほど離れた場所に位置する街『ルッテ』。
元々は武器や防具の生産が活発で、多くの腕自慢が集う街として栄えていた。
その後職人達が減り、柄の悪い傭兵ばかりが屯するようになり、殺伐とした街になってしまった。
が――――つい先日、傭兵団の首領が謎の射撃手に射抜かれ、即死。
それを切欠に、街の住民が思い切った傭兵団追放運動を展開。
たまたま隠居してここに住んでいた元伝説の巨兵ゴットヴィーン=ピーケンハーゲン(52)の年齢を感じさせないバーストアタックが冴えに冴え、見事傭兵団を追い出す事に成功した。
しかし、そこで問題が発生。
街の経済を支えていた傭兵の消費が一気に消失した事により、宿屋や酒場、武器防具屋など、至る所が大赤字に。
それに加え、折角治安が良くなったと言うのに、近隣の街がとあるイベントによって観光客を急増させると言う状況になり、殆どの旅行者はそっちに流れてしまった。
どうにか巻き返しを図り、新生『ルッテ』をアピールしたい役場の面々は、一つの決断を下す。
この街が何で支えられてきたか――――それは、闘争。
だが、治安が悪くては意味がない。
そこで、発案されたのが――――
「がんばれ、クマさん!」
「負けるなはくちょうさん!」
まるごとシリーズの着ぐるみを着て、武闘大会を行うと言うものだ。
かつて練習場として建設された武道場で、一対一の模擬戦が行われていた。
模擬戦とは言え、対峙する二人は本気で相手を仕留めようとしている。
しかし、着ぐるみを着ているので全く緊張感は伝わらない。
周りで見ている子供も大喜びだ。
「それまでっ!」
制限時間の5分が終わり、クマさんとはくちょうさんは共に項垂れる。
結果は引き分けだった。
「くそっ、判定なら俺の勝ちだってのに‥‥」
「何を戯けた事を。勝者は揺ぎ無くこの私だ」
「ああっ!?」
クマさんとはくちょうさんはお互いに睨み合った。
自然界ではありえない構図だ。
「まあまあ。取り敢えず、こんな感じで宜しいでしょうか?」
役員の一人が仲介に入り、両者仕方なく離れる。
試演はこれにて終了。
後は数日後の大会本番を迎えるだけだ。
「決着は本番で付けてやる!」
「いいだろう。その間抜けな顔を更に間抜けにしてやる」
クマさんとはくちょうさんはお互いに唾棄してそっぽを向く。。
「クマさんー! 握手してー!」
「はくちょうさーん! こっち向いてー!」
「はっはっは、それじゃ立てに順番に並べよー」
そして、お互いファンサービスに努めた。
『第一回 まるごとオールスターズ武闘大会』。
近日、開催――――
●データ
◆武道会場
試合場内は縦10m×横10m。100人ほど動員できる観客席付き。
◆賞品
優勝 まるごとシリーズ特選5点セット
準優勝 とりさんセット4点セット
ベスト4 ねこさんセット3点セット
◆試合ルール
相手を殺す事、観客へ向けて攻撃する事は一切禁止。実行した場合は牢獄で臭いご飯を食べる日々を送る事に。
必ずまるごとシリーズを着用する事。
ファンサービスも必ず行う事。
己の技量を見せる事にこそ意義があり、相手を敬う心を忘れない事。
審判には逆らわない事。
トーナメント戦で、参加人数は16名を予定。
まるごとシリーズは無料レンタル可。
武器、魔法の使用を許可する。
勝敗は場外、気絶、審判の判断、降参によって決定。
◆出場者予定表(現時点)
・クマさん 22歳 男 人間 ファイター Lv.14 パワー型
・はくちょうさん 22歳 男 人間 神聖騎士 Lv.14 万能型
・ハトさん 29歳 男 エルフ レンジャー Lv.09 スピード型
・ウサギさん 16歳 女 パラ バード Lv.10 いやし型
・オオカミさん 21歳 男 人間 山賊 Lv.06 あらくれ型
・えんじぇるさん 14歳 女 エルフ ウィザード Lv.20 小悪魔型
・おーがさん 52歳 男 ジャイアント 町人 Lv.32 パワー型
・どらごんさん 36歳 男 ハーフエルフ ナイト Lv.01 大器晩成型
◆レンタル可能なまるごとシリーズ一覧
・まるごとトナカイさん
・まるごとメリーさん
・まるごとホエール
・まるごとおうまさん
・まるごとわんこ
・まるごとあざらしくん
・まるごとぐりふぉん
・まるごとすくろーる(文字、無地)
・まるごとすのーまん
・まるごとたーとる
・まるごとどんきー
・まるごとふるあーまー
●リプレイ本文
●1
第一回『まるごとオールスターズ武闘大会』前日――――
「では、フィニィ様はキエフから?」
「MMO(まるごと課外活動部)の一員としては、このような催しを見逃す訳にはいきませんから♪」
開会式を終えたところで、ミスリル・オリハルコン(ea5594)とフィニィ・フォルテン(ea9114)はそれぞれの活動地域について語り合っていた。
その一方、エイジス・レーヴァティン(ea9907)は自身の荷物の中をじっと眺めている。
「貴方も武器で迷っているのかしら?」
カサンドラ・スウィフト(ec0132)は苦笑しながらそんなエイジスに話し掛けた。
「貴方も、っては事はそっちも?」
「流石にこれで手加減はちょっと、ねえ。素手にしようかしら」
愛用のウェルキンゲトリクスの剣を握りつつ、カサンドラが小さく息を吐く。
その傍らでは、御陰桜が艶やかに微笑みつつ、フィニィの髪を梳いている。
更に、ミスリルの2年10ヶ月ぶりの帰還のお祝いに駆けつけたデュランダル・アウローラが、お祝いの品を贈っていた。
「それにしても、実用性が高いとは言えない防寒服にどうしてここまで人気が集まるのでしょうね」
フィニィの知人ヴィクトリア・トルスタヤが、研究の一環として皆に質問を投げ掛ける。
だが、誰もが黙して語らない。
この大会の中にこそ、その答えがある――――そう目で訴えていた。
「では、演出の用意がありますので私はこれで。明日から暫く、宜しくお願いしますね♪」
「私も用意する事が沢山あるので、ここで失礼します」
「あたしも観光に行くからこの辺で。よろしくね」
フィニィ、ミスリル、カサンドラがバラバラに散っていく中、エイジスは荷物の中にある一つのアイテムに目を向けた。
「これで良いか」
決戦の日、迫る――――
●2
大会一日目。
前日の対策を禁じる為、トーナメントの組み合わせはこの日の朝に決定する事になっている。
組み合わせはくじで決定。
尚、重複がないよう事前に誰がどのまるごとシリーズを着用するかは申請済みだ。
「あっ!」
ここで運営委員のオットマール氏が大声を上げる。
なんと、ウサギさんの使用者が2名いる事に今になって気が付いたのだ。
事前に打ち合わせしておけば、色や柄の違いで対応できたのだが、偶然にも同じ色のウサギさんだった。
「参ったなあ‥‥気付かなかったよ」
「注意力が足りないんだよオットマールさんは。だからカミさんに浮気がバレるんだよ」
「仕方ない。1回戦で当てちゃおう。真のウサギさん決定戦って事で」
と言う訳で、1回戦の組み合わせが決定。
「えー、では早速1回戦第1試合を行います!」
最初に会場に上がったのは、2匹のウサギさん。
ミスリル(ウサギさん) vs ウサギさん
果たして、どちらが本物のウサギさんなのか――――
「‥‥あう」
ミスリルと対峙したウサギさんは、明らかに動揺を露わにしていた。
気品溢れるホワイトドレス。
可愛らしさ満点のふりふりエプロン。
煌びやかで豪華な銀のトレイ。
まるでウサギ界のプリンセスのような女性が礼儀正しく観客へ向けてお辞儀をする様に、16歳のパラの女性は敗北感を抱かずにはいられなかった。
「く‥‥ちくしょーっ!」
始めの合図と同時にウサギさん(16)は逆恨みっぽく目を血走らせて突っ込んで行く。
その姿は、ある意味赤い目のウサギとしては正解だったのだが‥‥
「とっ」
その突進をミスリルは無駄のない横移動でかわし、同時に足をかける。
派手に転倒したウサギさん(16)は、そのまま場外へと転がって行った。
勝負あり。
「きれいなウサギさんがかったぞーっ!」
大歓声が会場を揺らす中、審判がミスリルの右腕を掲げる。
そして会場に一礼し、場外で丸くなっているウサギさんの肩にそっと手をかけた。
「勝負は時の運です。貴女はとてもかわいいまるごとさんですわよ」
「ですわよ〜」
同じくウサギさんを着込んでいる妖精のヒカリも、手を乗せる。
「ふえ〜ん」
かわいいウサギさんはきれいなウサギさんに慰められ、耳をピコピコさせて泣いていた。
続いて第二試合――――
フィニィ(きたりすさん) vs オオカミさん。
「あ、あれはまるごとベリーさんですよ。可愛いですね〜♪」
「ですね〜♪」
フィニィは介添の妖精リュミィと共に会場に集っているまるごと愛好家を眺めつつ、定位置に付く。
「ぐへへ」
「こちらは可愛くない‥‥ですね」
対峙するオオカミさんは、子供に悪影響を及ぼしそうな品のない笑みを浮かべていた。
「はじめっ!」
それに対し、フィニィは距離をとりつつ、妖精の竪琴を奏でる。
「♪やすらぎの中 眠りに就こう 楽しい夢が 見られるように 明日も元気に 遊べるように」
まるで旋律がそよ風のように、冬の色合いが濃くなった会場の冷たい空気を一掃する。
「けけけ、そんな歌でアピールしても、ここがお前の‥‥」
「♪月に揺られて 安らぎ眠れ」
その刹那――――オオカミさんの身体に得も知れぬ浮遊感が生まれる。
さながら、ゆりかごを揺らしてもらっている赤子のように、オオカミさんは満面の笑みを浮かべ、そのまま落ちた。
「ぐお〜っ」
豪快にいびきをかくオオカミさんに対し、審判は意識の確認を行うが、当然返事はなし。
勝者、フィニィ!
「皆さん、応援ありがとうございました♪」
「ました♪」
大歓声に沸く観客席に向けて、りすさんとメリーさんは何度も手を振っていた。
●3
エイジスとカサンドラも勝利し、冒険者4名は全員が1回戦進出を突破した。
しかし、ここからはそう甘くはない。
2回戦、ミスリルはえんじぇるさんの天使とは思えない悪辣な精神攻撃によって惜敗。
フィニィも優勝候補筆頭のおーがさんの絶好調バーストアタックの衝撃を殺しきれず、僅かに足が場外に出てしまい、苦杯を喫した。
一方、エイジスは未だ未完の大器であるどらごんさん(36)が未完のまま持病の腰痛を再発させ、ほぼ不戦勝。
「はに〜」
実行委員に担がれていくどらごんさんに手を振るはにわさんに、観客席のちびっ子達がまとわり付き、もみくちゃにされる。
全く体力を浪費せず準決勝進出を果たしたが、ファンサービスで微妙に疲れていた。
そして――――2回戦の最後を飾るのは、注目の好カード。
カサンドラ(だいなそあさん) vs はくちょうさん。
カサンドラにとっては、1回戦に続く鳥との対決だ。
「1回戦の動きは見せて貰った。貴女にこの翼をもぐ事は出来ない!」
はくちょうさんはその宣言と同時に、カサンドラの周りを高速で回り始めた。
素手のカサンドラに対し、はくちょうさんはウェルキンゲトリクスの剣を前方に突き出したまま距離を測っている。
リーチの差は歴然だ。
「あら、そんな事を言われたら、もいでみたくなるわね」
カサンドラは構わず、氷晶の小盾を掲げながら直進し、打撃を仕掛ける。
しかし、その鉄拳は空を切った。
一気に接近して殴打を仕掛ける戦い方を基本とするカサンドラは、1回戦のハトさん相手に少々手こずっていた。
負けず嫌いの性格から、速度で上回るハトさんをついムキになって追ってしまったのだ。
それを見ていたはくちょうさんは、カサンドラの性格を読み、相手に仕掛けさせ、その後カウンターを仕掛ける策を実行していた。
カサンドラは――――それを悠然と見抜いていた。
その上で自分から仕掛けたのだ。
理由は2つある。
1つは、敏捷性で劣っていても、相手の攻撃を防げる自信。
そしてもう一つは――――
「貰ったっ!」
はくちょうさんの突きが大トカゲの肩口を正確に捉える。
そのタイミングは、カサンドラの踏み込みと呼吸にしっかり合わせたもの。
回避は不可の筈。
が――――
「‥‥何いっ!?」
もう一つの理由が、はくちょうさんの攻撃を無効化した。
剣の腹を鉄の手袋で叩いたのだ。
防御より攻撃――――それが、カサンドラの信念。
そして、勝因だった。
「はっ!」
剣を弾かれ呆然とするはくちょうさんの腹部に、カサンドラの鉄拳が突き刺さる。
そして、それに悶絶する間もなく、上段の前蹴りが顎を直撃。
はくちょうさんはそのまま後方に一回転し、うつ伏せに倒れた。
そして、その背中に――――そっと手を添える。
「さすがに、子供達の手前もぐのは止めておいたわ。目に毒だものね」
勝負、あり。
昔、鳥さんチームの一員として遺跡観察ツアーに参加した際に見た恐竜の咆哮を真似、カサンドラが勝ち鬨を上げる。
「とかげさんつえー!」
「とかげじゃねーよ! あれはきょうりゅうさんだぞ!」
特に男の子からの絶大な支持を受け、カサンドラは準決勝へと駒を進めた。
●4
翌日。
準決勝――――第一試合。
カサンドラとおーがさんの戦いは、熾烈を極めた。
「‥‥このワシの打撃をここまで防ぐとは! 恐れ入ったぞ!」
こめかみの辺りを押さえたおーがさんが、満面の笑みでカサンドラを睨む。
共に素手での戦い。しかし、腕の太さには数倍の差がある。
カサンドラが数発入れても、その間に繰り出される剛拳によって、盾の上からでも衝撃によりダメージを受ける。
最早、回避するだけの瞬発力は残っていない。
「ならば、これを避けられるか!」
おーがさんの腕が更に肥大し、浮かぶ血管がはちきれそうになっている。
そして、その拳が届く距離まで一瞬でつめたおーがさんは、何ら躊躇なくその剛拳を突き出した。
「くっ‥‥!」
かろうじて盾で防ぐも、その威力は腕、そして全身にまで貫通する。
そこで、カサンドラの体力は尽きた。
ぱたりと倒れ、動かなくなる。
「勝負あり!」
審判がおーがさんの腕を上げる様を、第二試合を待つ二人はじっと眺めていた。
そして、第二試合――――
エイジス(はにわさん) vs えんじぇるさん。
はにわくんのエイジスが登場すると、子供から一際大きな歓声が上がる。
「はに〜、はに〜」
それに応えながら定位置に付いたエイジスの眼前には、天使の格好をした悪魔がいる。
えんじぇるさんは観客席に零れんばかりの笑顔を振りまき、それが一段落すると、エイジスの方を歪んだ邪笑で睨みつけた。
「フフフ‥‥どうやって私の虜にしてあげようかしら」
幻覚系、精神系の魔法を操るえんじぇるさんは、何を使おうかで悩んでいる。
一方、エイジスは担いで来たちゃぶ台を下ろし、正座して番茶をすすり始めた。
「へぇ、私の精神攻撃に対して平常心で挑もうって言うの?」
全くそう言う気はなかったエイジスだったが、特に反論するでもなく茶をすする。
「はぁ〜、やっぱりお茶は和の心だよね〜。君もどう?」
「うっ、なんて芳しい香り‥‥」
まるごとを着ているので寒さは問題ないのだが、割と重いので体力は消費する。
1回戦をずっと見ていたえんじぇるさんは、喉が渇いていた。
「い、頂きましょうか」
「はい、どうぞ」
試合前の和やかな一時――――
「はじめっ!」
「ジャパン三千年の奥義! 必殺チャブダイスマッシャー!!」
「きゃあああああっ!?」
エイジスは突然ちゃぶ台を持ち上げ、そのままスマッシュEXをぶちかました。
ジャパンにそんな奥義はないが、勝負あり。
「ひ、卑怯よ‥‥こっちが不意打ちする前に不意打ちするなんて」
「いや、審判の人がはじめって言ったし」
目をくるくる回して気絶したえんじぇるさんに、会場から健闘を讃える疎らな拍手が起こる。
こうして、決勝戦のカードは決定した。
●5
「皆さん、スープのお代わりはこちらです」
決勝戦当日。
試合を前にして集まった観客に対し、ミスリルは得意の料理を振るっていた。
ウサギさんが魔法まで駆使して丹念に作ったスープは大好評で、かなりの量を作ったにも拘らず、あっと言う間になくなってしまった。
そんな中、会場ではフィニィがレミエラを使った5色の光をまとい、まるごとさん達の歌を歌っている。
そのフィニィの周りを妖精のヒカリ、リュミィ、コロナが飛び回り、セレモニーを彩る。
「まるごとずーっと おともだち♪」
世界の歌姫の声は、スープで温まった会場中を更に温めた。
「それでは、決勝戦開始で〜す♪」
これまでで一番の歓声に包まれ、エイジスとおーがさんが入場する。
無論、武器はちゃぶ台だ。
それに対し、おーがさんは構える事無く、穏やかな顔でその様子を眺めていた。
そして、そのままの表情で口を開く。
「お主、ハーフエルフか。ワシと戦っても大丈夫か?」
「!」
戦闘時の緊迫感を体験すると狂化を起こす――――エイジスの持つ性質だ。
「多くのハーフエルフのアレは、戦闘が引鉄となるからな」
「‥‥」
はにわ姿のエイジスは、逡巡を露わにしていた。
緊迫するまでもない相手ならば、問題はない。
しかし、目の前にいるジャイアントは、とても朗らかに勝てる相手ではない。
もしこの会場で狂化を起こそうものなら――――
「それは、敗北よりも遥かに由々しき事態」
エイジスの心を読むように、おーがさんが告げる。
「はじめっ!」
このタイミングで決勝戦は幕を開けた。
「破ぁぁぁぁっ!」
同時に、おーがさんが猛烈な勢いで踏み込んでくる。
その巨体があっと言う間に拡大していく視界の中で、エイジスはその圧力に飲み込まれて行く。
戦らなければ、殺られる。
だが、その覚悟を視界の隅に映る子供達が鈍らせる。
そして――――
「‥‥あああっ!?」
おーがさん、足をもつらせ転倒。そのまま場外へと転がって行った。
勝負あり。
「‥‥え?」
優勝、エイジス・レーヴァティン。
その名は、第一回のまるごとオールスターズ武闘大会初代チャンピオンとしてルッテ街に刻まれた。
●えぴろーぐ
「おめでとう。最後は少し拍子抜けだったけど」
表彰式。
3位入賞を果たしたカサンドラが、賞品を受け取るエイジスに笑顔を向ける。
一方、エイジスは釈然としない面持ちで、まるごと5点セットを受け取っていた。
「‥‥あのおーがさん、わざと負けたんじゃないかな」
「わざと? さっきインタビューで『体力が回復しきれてなくて足がふら付いた』って言ってたわよ?」
齢52と言う年齢を考えれば、信憑性はある。
しかし、エイジスにはそれが真実とは思えなかった。
「どうした? チャンピオンが浮かない顔だな」
そんな彼の視界に、当の本人が現れる。勿論まるごとおーがさんを着込んだままで。
「申し訳ないと思って」
「足腰が弱っていたのは本当だ。仮にあのまま戦っていたとしても、負けていたのはワシだろう」
自身の足を叩き、豪快に笑って手を差し出すおーがさんに、エイジスは快く応えた。
「もし機会があれば、今度はちゃんと戦ってみたいな。愛用の『まるごとばがんくん』で」
「ワシもその刻を願おう。内なるものと戦う勇敢な戦士よ」
二人の握手が、大会の成功に花を添える。
こうして――――第一回『まるごとオールスターズ武闘大会』は幕を閉じた。