そして、恋花の郷へ 〜れっつ村おこし〜
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■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:7人
冒険期間:12月02日〜12月09日
リプレイ公開日:2008年12月10日
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●オープニング
収穫祭から10日が経過した、ある日の事。
リヴァーレの村長宅の庭に、一人の人物が現れた。
帽子を目深に被っており、性別も種族もわからない。
その人物は、庭でしゃがんで土の上で絵を書いている村長の妹の孫娘ルイーゼと、遊びに来ている村おこし村の少年アルノーに、ゆっくりと近付いて行った。
「誰?」
アルノーが険しい顔で警戒心を露にする。
しかし、帽子の人物は意に介さず、アルノーの前でしゃがみ、目深に被った帽子をそのままに語り掛けた。
その声は、男声だった。
「この村と、君の住む村が、仲良くなって欲しいかい?」
「うん!」
相手への警戒はどこへやら。アルノーは力強く返事する。
「それならば、指輪を探すといい。指輪とは、こう言うものだ」
そう語り掛けつつ、帽子の人物は自身の持つ指輪をアルノーに見せた。
様子を伺っていたルイーゼも、指輪を見ようと前に出る。
丸みを帯びた銀色の指輪に、小さな緋色の石が埋め込まれている。
「これと同じ指輪が、ずっと前にこの村で無くなったんだ。だから仲が悪くなったんだよ」
「そうなの?」
「そう。だから、見つければ直ぐに仲直り」
頷き、帽子の人物は腰を上げる。
そして、そのまま何も言わずに去って行った。
それから――――二人の子供は指輪を探した。
一日中かけて探し、その後もアルノーが遊びに来る度に探した。
しかし、子供達にとって、一つの村は余りに広大な空間。
そして、それに対し指輪は余りに微小な装身具。
例えどれだけ探しても、見つかる筈もなかった。
だが、子供はそれでも納得しない。
見つからない理由は無限にあると言うのに。
「本当は、ないんじゃないの?」
「あるよ! もっと探そうよっ!」
根拠のない懐疑と、根拠のない確信。
それは、永遠に溶け合う事のない二つ。
次第に険悪になった二人は、ほんの些細な事を切欠に、ケンカを始める。
土に描いた絵を、アルノーが間違って踏み消した。それだけの事。
「‥‥酷い」
「違うよ、わざとじゃないよ」
小さな言い合いの後、アルノーはリヴァーレを離れた。
謝罪の言葉もなく。
「あら、どうしたの?」
初めての、友達とのケンカ。
アルノーはどうして良いかわからず、一番身近な異性――――自身の村の村長の孫娘であるミリィに相談を持ち掛ける。
しかし、中々要領を得ない。
子供は理論的に説明をする事が出来ない。
断片的に語られるアルノーの言葉は酷く曖昧だった。
それが余り伝わらないもどかしさと、ケンカをしてしまった悲しさから、アルノーの目に涙が浮かぶ。
零さないのは、男の子としての意地。
そんな少年を、ミリィはいじらしく見つめていた。
その後、どうにかアルノーの話を理解したミリィは、村長のヨーゼフが帰宅するのを待ち、その話をする。
「指輪を探している‥‥だと?」
不振な帽子の男が現れた事より、ヨーゼフはその点に食いついた。
意外に思うミリィに、ヨーゼフは何も言わない。
ただ思案顔のまま、腕組みをして座り込む。
その表情に険はない。
孫娘であるミリィですら殆ど見る事のない、この場所ではない何処かで空を仰ぎ見るような顔。
その顔のまま、ヨーゼフは口を開く。
「私の親父が御袋にやった指輪の話はしたな」
「ええ。曾お祖母ちゃんの結婚指輪の話でしょ? リヴァーレに友好の印として捧げた‥‥」
かつて、この村とリヴァーレには、共に村の宝を交換し合い、それを預ける事で和平の証としていた。
その宝として、当時の村長であるヨーゼフの父が妻に贈った指輪を進呈したのだ。
「‥‥え? もしかして、その指輪を‥‥」
「その話から考えられるのはそれだけだろう。もっとも、遥か昔、60年前に紛失した指輪など見つかる筈もない」
つまり、アルノーがしている事は――――
「‥‥無駄にはしたくないものだな」
何かに抗うように、ヨーゼフが呟く。
そして意を決し、立ち上がった。
かつて、どうしても許しがたい事件があった。
友好の証で贈られた指輪が、リヴァーレから紛失したその日。
ヨーゼフは犯人として疑われ、その結果、二つの村は長きに渡って絶縁関係となった。
「指輪を作るぞ。新たな友好の証をな」
「え?」
「明日朝一で村人全員に伝える。リヴァーレに提携を申し出る、とな」
ならば、仲直りは自分から。
それが正しい筈だから。
そして、それが子供達に見せるべき姿だから。
輝かしい未来。
その輝きが、色々な路に通じるように――――
◆現在の村のデータ
●村力
680
(現在の村の総合判定値。隣の村の『リヴァーレ』を1000とする)
●村おこし進行状況(上記のものほど重要)
・隣村リヴァーレとの提携を検討中(村力700以上で可能)。
・収穫祭の大成功により、観光客増加中。パン職人は随時募集中。
・冒険者酒場のメニューに村発のパン『シトロン蒸しパン』『炭焼きチーズパン』が採用。
・デートコース『恋の花咲く小径』完成。デートイベント開催中。
・村娘がダンスユニット結成を計画中。
・修道院をシフール施療院に使用すると言う話がある。
・山林地帯に遺跡あり。現在調査凍結中。
・月に二度パリまでの移動販売を慣行。
●人口
男134人、女94人、計228人。世帯数78。
●位置
パリから50km
●面積
15平方km
●地目別面積
山林75%、原野20%、宅地3%、畑2% 海には面していない
●リプレイ本文
和解と言うものは、まず言い出す事が何よりも難しい。
相手を赦して歩みよると言うのは、簡単ではないのだ。
「その決意と想いは、必ずや村の未来を明るく彩ると思いますわ」
エレイン・アンフィニー(ec4252)の言葉に、村長のヨーゼフは照れ臭そうに首を振った。
依頼を受けた冒険者8人は、まずギルドで各々の役割を決め、それぞれの受け持つ場所へと赴いている。
その内の5人はこの村に集い、幾つかの案を提示した。
まず、パン職人学校の設立。
パンの村としての知名度を更に引き上げ、尚且つ人材を確保する一石二鳥の作として、学校を作って自前で育てようというのだ。
生徒には格安、若しくは無料で家を貸し出し、村で生活しつつ学んで貰う。
先生には現在職人を引退しているリンダ・カルテッリエリが推薦されていた。
パン職人の数に余裕が出来れば、彼らにも先生をお願いする事になる。
「空いてるお家の数はだいじょぶでしょか?」
ラテリカ・ラートベル(ea1641)の問いに、ヨーゼフの孫娘のミリィが首を捻る。
「一つの家に4人住んで貰うとして‥‥多分、大丈夫かな?」
この後、ラテリカは家の状態を見る為にミリィと空き家へ、エレインはエチゴヤ親父のパンを持ってアルノーの家へと向かった。
そして、シャクリローゼ・ライラ(ea2762)、レア・クラウス(eb8226)、パール・エスタナトレーヒ(eb5314)の3人は、ヨーゼフを交えて指輪に関する話し合いを行う事となった。
一方、レティシア・シャンテヒルト(ea6215)とジャン・シュヴァリエ(eb8302)、そしてアリスティド・メシアンの3名は、リヴァーレの村長パウル・オストワルト宅の庭を訪れていた。
パウルがレティシアから貰った土産を抱えつつ不安そうに見つめる中、天使の額冠を頭に乗せたアリスティドがパーストの魔法を使う。
帽子の男の映像をもし捕まえられたら、それを見たアリスティドにレティシアがリシーブメモリーを使用し、ジャンが絵に起こす―――予定だったが、接触時間の短さもあり、上手くは行かなかった。
無理もない。それは雲を掴むような確率だったのだから。
それでも無念さを表情に出していたアリスティドの肩を、レティシアがぽんぽんと叩く。
「パウルさん。指輪の話や帽子の男に心当たりはありますか?」
ジャンの問いに、パウルは首を捻った。
指輪に関しては彼の幼い頃の話で、今更それを蒸し返すような人物がいるとは思えない、と言う事だ。
「それじゃ、正式に帽子の男の捜索許可を頂けないかしら。それと、ルイーゼを呼んできて貰えると有り難いのだけれど」
レティシアの言葉にパウルは頷き、家の中に入った。
それを尻目に、ジャンは思案顔で庭の地面を見つめている。
「帽子を目深に‥‥僕のお仲間かな」
ジャンがそう呟いたところに、パウルに連れられてルイーゼが現れる。
レティシアは詩人らしく、言葉ではなく歌で思いを伝える事にした。
その歌は、少年時代に妖精を見たと言う友達の少女を嘘吐き呼ばわりし、それを老人になっても後悔し続けていた男の物語だった。
ちょっとしたすれ違い。
それが、何十年も続く未来に影を落とすと言うその歌を、レティシアは簡潔な言葉で優しく唄った。
そして、唄い終えた後、ポツリと呟く。
「‥‥この物語は、どうすれば幸せな結末を迎えられたのかしらね」
それは、果たして誰に向けられた言葉なのか――――
「仲直り、したいよね?」
ジャンのその言葉にルイーゼがコクリと頷くその傍らで、パウルは眉間に皺を寄せて瞑目していた。
その翌日。
シャクリローゼは、村の男衆を引き連れて郊外の巨大な壁の前に足を運んでいた。
男衆が採掘道具を下ろし、一息付く中、シャクリローゼは彼らの面前に向かう。
今回の依頼で最も重要な事案である、指輪の調達。
様々な案が出される中、シャクリローゼは村人の尽力なくして和解の証とはなり得ないと判断し、その材料となる鉱石を掘るよう訴えたのだ。
幸いにも、半年ほど前に突如現れた鉱石を多数含むその壁は、未だ健在。
既にパリで採掘許可も得ている。
「自分達の未来は自分達で作るのです!」
シャクリローゼの号令を合図に、男達は雄たけびを上げ、スコップ片手に壁に向かって突撃を始めた。
熱気が漂う壁付近を背に、シャクリローゼは汗拭き用の布を準備する。
それから数時間後――――
「しっふしふ〜♪」
「ライラお姉さん、ご苦労様です」
そこに、パールとその愛馬ベリィを引いたジャンが駆け付けた。
「聖夜祭に向けての試作品を届けに着ましたよー」
二人は前日の午後からパン工房を訪れ、カールらパン職人と共に新しいパンの開発を試みていた。
持ってきたのは2種類のパン。
にんにく、生姜を乗せてラードで揚げた『にんにく揚げパン』と、中央をくり貫き、そこにシチューを注いだ『あったかシチューパン』だ。
まだ暖かさの残る二つのパンは、寒さと戦う男衆に大きな力を与えた。
更に村では今、卵を多めに使い、アーモンドクリームを包んだ庶民的なブリオッシュと、お酒を混ぜた生地に、白色の花びらを蜂蜜漬けにし、雪に見立てたものと果実をトッピングした『聖夜の誘惑』も開発中だ。
男衆はものの数分で全てのパンを食べ終えた。
「皆さん、もう一踏ん張りですわ! 頑張って下さいませ!」
シャクリローゼが応援のダンスを踊る中、採掘は続く――――
依頼開始から4日目。
「おーい、こっちだよ☆」
パリの広場に、エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)の元気な声が響き渡る。
そこに、ラテリカ、レティシア、レア、ジャンの4人と、ハンナ・カルテッリエリをはじめとした4人の村娘が合流し、沢山のパンを載せた台車を置いて輪を作った。
村から遠征してきた目的は2つ。
一つは村の宣伝も兼ねたパンの移動販売。
その為、売り子担当のラテリカはまるごとウサギさんを、レティシアはメイドドレス「アリス」、ふりふりエプロン、サンタクロースハットを着用。
行き先はエラテリスの良く知るアトラトル街や、レティシアが以前訪れたマルシャンス街など、かなり多くの所を予定している。
エラテリスのウェザーフォーノリッヂによると、今日と明日は快晴。
パリで一泊すれば、問題なく回れそうだ。
だが、その前にこのパリで大きなイベントを行う予定だ。
そしてそれが、もう一つの目的でもある。
村娘4人によるダンスユニット『フルール・ド・アムール』のデビュー公演を、この場で行おうと言うのだ。
衣装はラテリカとその知人セフィナ・プランティエが発案し、動物に扮した物を作成。
ダンスの内容に合う動物の物を着る、と言うコンセプトだ。
今回は陽気なダンスと言う事で、子犬をモチーフにした衣装となっている。
「さー、みんな準備できた?」
「はい! 先生!」
ここ数日ダンスの指導をしていたレアの号令の元、4人の村娘は物怖じする事なく堂々と並ぶ。
とは言え、流石にいきなり本人らから、と言うのは厳しすぎるので、まず『まるごとかたつむりさん』を恥ずかしそうに着用しているエラテリスとレアが、前座として楽しい踊りを披露する事になっている。
「そうだ、折角だからジャンも‥‥」
レアがジャンを誘おうと振り向くと、そこにはジャンはいなかった。
いたのは、帽子を被った細身の女性。
すらりと伸びた手足とは対照的に、雰囲気は甘えん坊のそれを醸し出している。
「はい、喜んで参加します!」
「‥‥ま、何でも良いわ。始めましょう」
「え、えっと、シュヴァリエさん、なのかな?」
動揺するエラテリスを尻目に、レアがラテリカに合図を送る。
曲は既に作成済み。
ラテリカは速いテンポの情熱的な曲を妖精の竪琴で奏でる。
それに合わせ、3人の冒険者達が楽しそうに弾ける。
あっと言う間に人集りが出来た。
そして、パンも売れ出す。
「ありがとうございました。ん、ボクありがとう」
ラテリカが演奏の為不在ながら、レティシアが押し寄せる客を次々と捌いて行く。
普段抑え気味の笑顔もフル回転だ。
そして、前座の踊りが終わった所で、『フルール・ド・アムール』の4人が前に出る。
リーダーのハンナは、耳につけた舞踏のピアスに触れ、ラテリカの方に視線を送った。
目が合い、共に笑い合う。
一方、ジャンは聴衆の方に注意深い視線を送っていた。
例の帽子の男、若しくは最近形を潜めている黒ローブの男が現れると踏んで、警戒しているのだ。
もし見つかれば、ケット・シーのアリス・リデルと協力し、捕まえるつもりでいた。
しかし、その影はないようだ。
「みなさーん! 私たちのダンスを見ていって下さーい!」
ハンナの大きな声が、パリの空にこだました。
2日後。
ヨーゼフと冒険者達、そしてアルノーは、満を持してリヴァーレの村長パウル宅を訪れた。
無論、目的は和解と提携の申請だ。
だが、その前に一つ問題を解決する必要がある。
まるで双方の村の縮図のような、小さな亀裂。
「さ、行ってらっしゃい」
「うん」
エレインに促され、アルノーは先に庭へと向かった。
エレインは男性がどうあるべきか、女性に対してどう接すべきかを教えていた。
だが、実際に彼の中から芽生えなければ、それは意味を成さない。
「上手く行きますよに‥‥」
ぎゅっと両の手を合わせ、ラテリカが呟く。
それから暫くして――――
「うん! いっしょにあそぼ!」
そんなアルノーの嬉しそうな声が聞こえた。
安堵の顔を浮かべつつ、改めて家を訪れる。
「子供でも出来た事なのだ。大人達が出来なくてどうする」
ヨーゼフは自分に言い聞かせるように、中で待っていたパウルと対峙した。
「‥‥提携、か。儂らにそれを受ける理由は?」
「うむ。ここに記してある」
ヨーゼフは懐から畳んだ数枚の羊皮紙を取り出し、それを並べた。
そこには、提携するに当たっての双方のメリットを書き連ねてある。
まず、職人同士の交流による技術の上昇。
そして、パリと両村の位置関係における、観光客の流れ。
更には、余剰気味な材料をそれぞれに提供し合い、加工する事で新たな商品とする相互扶助。
エレイン、エラテリス、ラテリカが提示したそれらのメリットが、まず示されてある。
次に、ジャンが提示した『新しい出会い』。
村同士の交流があれば、それまで出会いに恵まれなかった者も、友人、或いは伴侶となる相手を見つけられるかもしれない。
レティシアが弾き語りをしながらリヴァーレの村人達に聞き込みを行ったところ、それを望む村人はどちらの村にも多かった。
これも大きなメリットだ。
そして、今後の展望も、綿花の栽培、ポプリの作成、パン職人の学校設立や体験教室、求人など、かなり細かく記されていた。
後は、パウルの判断次第だ。
「お互いの村が何か在った時、支えられるよにできないでしょか。お風邪を引いた時、看病してくれる‥‥お母さんみたいに」
ラテリカの柔らかい言葉が、パウルの背中を押す。
だが、当然そう簡単に決められる事ではない。
「一日待ってくれ。村の衆と話し合いを持ちたい」
「当然だ。貴様だけで決められる事でもなかろう」
パウルが微笑を浮かべると同時に、ヨーゼフが腰を上げた。
彼に出来る事は全て終わったのだ。
果たして、結論は――――
最終日。
村おこしによってパンを始め、様々な分野で栄えつつあるこの村に、リヴァーレの村人達が数多く赴いている。
それは――――提携のお祝いの為だ。
その宴を行う為、数多くの村人達が広場に集合していた。
「みなさーん、ちょっと集まって下さい」
宴の前に、冒険者達はミリィに呼ばれ、全員集まる。
「村の皆でこんな物を作ってみました。貰って頂けますか?」
苦笑交じりにそう唱えつつミリィが全員に手渡したのは、この村の貢献に協力してくれた証。
村の名誉勲章だった。
この村には、例外なく優しい冒険者が集う。
それが村人にとって、どれほどの支えになった事か。
その感謝が詰まった勲章は、『親交』『苦難に耐えて』と言う意味を持つカモミールの花を模したものだった。
冒険者達は皆、にこやかにそれを受け取った。
そして。
「それでは、2つの村の仲直りにかんぱーい!」
シェリーキャンリーゼを提供したパールが村長二人の間で羽ばたきながら唱え、宴会が始まる。
ラテリカ、ジャン、ハンナの3人が談笑する中、ノーザンミトンで手を包んだミリィが鍋を運んで来る。
その傍ら、エレインとエラテリスはアルノー、ルイーゼら子供達を連れ、指輪の形に花を植えた花壇を眺めていた。
これと同じものが、リヴァーレにもある。
例えこの花壇の花が枯れたとしても、もう一つの村で種を植え、育てて行く。
「大切なのは、そう言う事なんじゃないかな?」
エラテリスの言葉に、子供達はコクリと頷いていた。
そして、その光景をやや遠めから眺めている女性が一人。
「何見てるの?」
そのレティシアに、レアが近付く。
「ん、別に」
レティシアの手には、ジラルティーデ・ガブリエの描いた看板が握られている。
移動販売の宣伝に使用する為に作って貰った物だ。
「へえ、良い絵じゃない。でもこの絵の娘、ルイーゼって子でしょ? こんなに笑わないでしょ」
「良いの。これで」
レティシアは小さく息を吐き、その絵を見つめた。
楽しそうにパンにかぶりつく、笑顔の少女。
アルノーの隣で花壇をじっと見つめる、すまし顔の少女。
同じなのだ。どちらの顔も。
その絵の上空では、2人のシフールが星を眺めている。
「ところで、そろそろ指輪の話を煮詰めませんか?」
「ですねー。後は石だけですよね?」
台座とデザインに関しては既に決まってある。
銀のリングに、それぞれ片翼の模様を入れると言うものだ。
片方が折れても、もう片方が支える。
新しい関係の象徴だ。
そして、石に関してはアルノーとルイーゼに決めて貰う事になった。
村の男衆が採掘した鉱石の中から一つを選び、その石とシルバーリング、そして小さなサシェを持って、レティシアの知り合いの鍛治師のところに加工を頼みに行く予定となっている。
シャクリローゼとパールに促され、2人は同時にそれぞれの思う石を指差す。
それは、奇しくも同じ石だった。
心を通わせた2人が選んだのは、ローズクォーツ。
見た目はそれほど派手ではないが、その淡い薄紅色は何処までも優しく、そして暖かい。
何よりこの石には、愛情や恋愛を成就させる効力があると言う。
花の名を持つ、恋愛成就の指輪。
そして、その指輪を形取った、村の花壇。
この日、村にはそれらにちなんだ名前が付けられた。
「こんなのはどうかな?」
ジャンが提案した、その名前は――――