寂れた村に光明を 〜れっつ村おこし〜

■ショートシナリオ&プロモート


担当:UMA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:5人

サポート参加人数:5人

冒険期間:05月06日〜05月13日

リプレイ公開日:2008年05月13日

●オープニング

 そこは、パリから半日ほど歩いた先に存在する、小さな村。かつてはパンの匂いが充満し、村人には常に笑顔が溢れているような、牧歌的で平和な村だった。しかし、その村が今、存亡の危機に瀕している。
 
 ――――それは何故か?

 殺人鬼がうろついている訳でも、モンスターが頻繁に出現する訳でもない。
 流行り病が蔓延していると言う事実もない。
 理由は、ある意味もっと深刻だった。

「魅力が、ないのです」
 その村の村長ヨーゼフ・レイナは、覇気なくそう呟いた。余りの声の小ささに、冒険者たちは思わず息を潜める。彼は高齢の身でありながら、わざわざ場違いなギルドに赴いて来ていた。それくらい、真剣だと言う事なのだろう。
「私共の村は、かつてパン作りで栄えていました。粉挽き用の立派な水車小屋もあります。しかし、昔ながらのパン作りでは若者に受け入れて貰えず、職人も殆ど引退するか、村を去ってしまいました」
 パンは、どう言った階級の人間でも好んで食す人気食品だ。ただ、全ての地域で質の良いパンが作られている訳ではない。中には、挽きの粗い、黒いパンしか口に出来ない所も多く見受けられる。その中にあって、彼らの村では、職人が丹精込めて作った白いパンを作っていた。その質が認められ、最寄の町から仕入れて貰い、村の経済と存在価値を確立していた。また、焼き立てを食べたいと、わざわざその村を訪れる人もいたと言う。
 しかし近年、仕入先の町を含むこの辺りの地域では、変わったパンを食する事が流行となり、普通のパンはめっきり売れなくなってしまったのだ。コストの面でも、質にこだわり小麦を使用しているのと、やや離れた村から運搬する必要がある為、どうしても安上がりと言う訳にはいかない。そんな事もあって、それまで贔屓にして貰っていた店頭からも、この村のパンは消えてしまい、産業としては完全に廃れてしまった。
「かと言って、他に何がある訳でもありませぬ。このままでは、夜な夜なズゥンビがうろつく呪われた村になりかねません」
 冗談なのか本気なのかわからない声色で呟く村長の肩に、同行して来た孫娘のミリィ・レイナがそっと手を置く。10代後半の、素朴で柔らかい顔立ちの美しい女性だった。
「私達の家系は、おじいちゃんの親も、その親も、ずっとこの地で暮らして来ました。村長とその家族としての責任もあります。今更、村を離れる訳にもいきません。けど、このままじゃ生活すら行き届かなくなってしまいます」
 生産性のない村で生きて行く事は難しい。出稼ぎに出ている村の若者達も、すでに都会の色に染まってしまい、帰って来る事を拒んでいると言う。
「お願いです。少しずつでも村に活気を与えて、みんなを呼び戻すきっかけを作るため、知恵をお貸しください」
 冒険者は、様々な土地を練り歩く。そこで見るもの全てを記憶している訳ではないものの、人が集まる場所、魅力溢れる町には、どう言った要素が隠れているかと言う事を、一般人よりも熟知している。だからこそ、依頼しに来たのだろう。
「数日で活気ある村にしてくれなどと、おこがましい事は言いませぬ。せめて、せめて何かがある村にして欲しいのです。どうか、私たちの村に新風を巻き起こして下さい」
 二人して、深々と頭を垂れる。その深刻な様子を肌で感じ取った冒険者達は、二人の肩に手を置き、頭を上げるよう優しく諭すのだった。

 尚、村のデータは以下の通りである。
 
 ・人口
  男115人、女85人、計200人。世帯数70。
 ・種族
  人間100%
 ・年齢分布
  20歳以下10%、20〜40歳40%、40〜60歳40%、60歳〜10%
 ・面積
  15平方km
 ・地目別面積
  山林75%、原野20%、宅地3%、畑2%
 ・家畜
  ヤギ、ニワトリ、ウサギ、ウシなどの基本的な動物が少数。現状で商業として発展させるのは厳しい。
 ・作物
  農作物はライ麦が中心。商業用のパンに使用する小麦も作っている。
  家庭に出るパンはライ麦で作った黒パン。
  その他は、西洋ナシやリンゴ(拳ほどの大きさ)、豆類、キノコ、タマネギ、レタスなど。
  いずれも家庭用、若しくは村での売買のみに使われる程度の生産量だが、
  新たな特産品の材料として使う程度の量は確保できる。
 ・産業
  今はパン作りは一人の職人(カール・ハマン 19歳、男)が行っているのみ。
  腕前は並以下。引退した職人は今もその村にいる。
  その他の産業は、少数ながらバターやチーズ、ソーセージなどの加工が行われている。
  いずれも村で売る程度の量。
 ・主要施設
  武器屋×1、防具屋×1、道具屋×1(いずれも最低ランクの品揃え)、宿屋×1、酒場×1、
  その他食料品や日用品を売る店が少数
 ・備考
  村長の孫娘は美人。
  海には面していない。
  モンスターは今のところ出現していない。
  村長の孫娘は美人。

●今回の参加者

 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea2762 シャクリローゼ・ライラ(28歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea2954 ゲイル・バンガード(31歳・♂・神聖騎士・ドワーフ・ロシア王国)
 eb8302 ジャン・シュヴァリエ(19歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec4801 リーマ・アベツ(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

リアナ・レジーネス(eb1421)/ アリスティド・メシアン(eb3084)/ 水上 銀(eb7679)/ クァイ・エーフォメンス(eb7692)/ 元 馬祖(ec4154

●リプレイ本文

●れっつ村おこし!
 村に着いた冒険者一向は、村の様子を確認した上で、まず村の重役達と話し合いを設ける事となった。その最初の発言となるジャン・シュヴァリエ(eb8302)の言葉に、村人の目が集中する。
「やはり、パンで勝負してみるのが一番かと」
「しかし、それは‥‥」
「勿論、これまでのように、という訳ではありませんわ」
 村人の不安に対し、シフールのシャクリローゼ・ライラ(ea2762)は温和にそう告げた。
 冒険者達が掲げたテーマは、『堅実なる希望』だった。
 その為に、彼らは幾つかの種を撒いていた。
 リアナ・レジーネスがフォーノリッヂのスクロールで将来の展望を確認し、元馬祖が分析と情報収集を行い、アリスティド・メシアンがパリで現在流行っているパンを購入し、ラテリカ・ラートベル(ea1641)に預ける。更に、村おこしの為に必要な場所の調査をクァイ・エーフォメンスに請け負って貰っていた。
 そう言った『堅実』を行った上で、次は『希望』となる部分の提示だ。
 当然、これまでのパンでは太刀打ちできない。ならば変えるまで。パリで流行のパンは、その殆どが材料が入手の容易なものを使った物だった。それに対し、冒険者達は村で製作可能な範囲での、風変わりな材料のパンを提案した。
 上に豆やチーズ、洋ナシ、リンゴを乗せて焼くと言った、市場にはあまり出回っていないアイディアが次々と語られる中、村人が最も反応を示したのは、メッセージパンという物に対してだった。これは、例えば愛を伝えるならハート型のパンと言った風に、形状で自分の意思を相手に伝えると言うもので、祭りの日限定でそれを発売してみよう、と言う試みだった。通常とは異なる客層が望めると言う点で、非常に優れたアイディアと言える。
「メッセージパンはラテリカが考えたですよ」
「ほう‥‥」
 これを切欠に、村人の顔つきが変わった。斜に構えていた者も、思わず身を乗り出してくる。
「酒に合うパンも欲しいな。女性の売り子も必要だ。男を呼ぶなら、酒と女性は無視できない」
「では、そちらはゲイルさんにお任せしましょう」
「む‥‥面倒だが、仕方ないな。ミリィ殿、手助けを宜しく頼む」
「あら、私ではダメなのでしょうか?」
 ゲイル・バンガード(ea2954)とリーマ・アベツ(ec4801)のやり取りに、男性陣から笑いが起こる。いよいよ打ち解けて来た。
「それと、この村に来て思ったのですが、森林地帯には何か変わった物はありませんか?」
 シャクリローゼの問いに、村人達は顔を見合わせ、一斉に首を横に振った。
「では、そちらの調査も行うとしましょう。幸い、森林探索には覚えがありますので」
「それなら、僕もお供させて下さい。一人では危険ですから」
 シャクリローゼの申し出に、ジャンがナイト役を買って出た。
 話し合いは終始和やかに進み、その日の内にそれぞれの役割が決まった。

●森林デート
「ライラさん、気をつけて下さい。この辺り、木が多いですから」
 先を歩いていたジャンの声に、シャクリローゼが歩を緩める。今のところ、森林探索に進展はない。
「ありがとうございます。ジャンさまは紳士ですのね」
「ほ‥‥照れますね」
 別の意味での進展はあったかもしれないが。
 暫く歩くと、木の密度が減り、足場もしっかりしてきた。それまでの道なき道とは違い、明らかに人の通った形跡が続く。それを追うように二人して歩いていると――――小さな修道院を見つけた。森林の中を迂回するように歩いた結果、村の外れにあるこの場所に通じていたらしい。
「あら、このような場所に続いてましたか」
 シャクリローゼが意外そうに修道院を眺める中、ジャンは思案顔でポツリと呟く。
「デートコース、なんてどうでしょう」
「デートコース?」
「この修道院までの道のりを整備して、恋人や御夫婦がデートを楽しめるスポットにしてみたら、
 きっと沢山の人が訪れるかと思いまして」
 魔法探偵の脳が、一陣の風を舞い起こす。
「どう、でしょうか?」
「素敵です」
 それは、きっと誰しもが目を細める風となる。シャクリローゼはそう確信し、満面の笑みを浮かべた。その笑顔を紅潮した顔で眺めるジャンの指には、赤い糸の指輪が優しく光っていた。

●和やかパティスリー
 一方、村で最も大きい石造りの共同かまどがある作業場では、ラテリカが一生懸命パン生地をこねていた。
「んしょ、んしょ」
 ただアイディアを出すだけではなく、自分もやってみたいと言う志願の元、引退したパン職人から指導を受けていたのだ。当初は復帰に難航を示していた彼らだったが、冒険者達のアイディアと積極的な姿勢、更にはミリィの説得もあり、暫定ながら再びパンを焼く決意をしてくれた。男は皆、夢と努力と美人に弱い。
「ふぅ‥‥きついです」
「生地作りは力作業らしい。どれ」
 その様子を眺めていたゲイルが、代わって生地を練る。持ち前の器用さも手伝い、職人が思わず舌を巻くような出来の生地が完成した。
「ふわー、凄いです」
「こう言う時、男の方は頼りになりますね」
 ラテリカとリーマ、そして職人達がこぞって感心する中、その様子を遠巻きに見ていた若職人カールが、自分の練った生地と交互に見比べ、ガックリ膝を落とす。彼にはまだまだ修行の余地が多分にあるようだ。
 そんなカールの元に、リーマが向かう。
「カールさん。このサクラの蜂蜜を使ってみて下さい。もしかしたら合うかもしれません」
 その提案に、カールは目を丸くしつつ頷いていた。

●再建の前奏曲
 最終日。
 村の広場に、ジャンの呼び掛けによって集められた村人達が集っている。
 今回の依頼に対する最終報告をする為だ。
「それはいいのですが、これは‥‥?」
 その広場の中央にある、大きめの荷馬車がまず村人の目を引いた。唯の荷馬車ではなく、側面と背面に彩り豊かな花畑を描いた布が垂らされている。ジャンから借りた美麗の絵筆でゲイルが描いた代物だ。
「これは、移動販売の為の馬車です」
「なんと‥‥!」
 ジャンの紹介に、村人がざわめく。『実売』と『宣伝』を同時に満たす移動販売は、一度町に見限られたこの村には最良の販売方法と言えるだろう。
「パンだけではありません。さ、ついて来て下さい」
 村人を先導し、村の一角にある小さな空き地へと移動する。そこには、二つの切り株の間に木材を置き、橋をかけていた。その上を甲虫が二匹、ヨロヨロと前に進んでいる。
「昆虫レースです。ゆくゆくは馬のレースや、ボールを使っての競技なんかも行いたいですね」
 そう説明し、ジャンはそこで待っていたシャクリローゼと指と手でタッチした。
「ここからはわたくしが。さあ、どうぞ」
 今度は森林地帯に向かう。先日調査した際に見つけた、修道院に通じる道だ。
「ここは立派なデートコースになりますわ」
 小鳥が飛び交い、虫が高い音色を奏でるこの道は、人の心を潤してくれる。村で育った人間には、この魅力には中々気が付けない。
「着きました」
 シャクリローゼの言葉通り、修道院が徐々に現れる。その前に、キラキラと輝く飾りを持ったリーマが待っていた。シャクリローゼと指でタッチしたリーマは、手の中のホーリー・ミスルトゥをミリィに手渡す。
「デートの彩りに、こう言った物を作ってみては如何でしょう。宝石の代わりに木の実などを飾れば、かなりのものができると思います」
「ありがとうございます。やってみますね」
 お礼を言いつつ、ミリィは荷物の中から何かを取り出し、リーマに差し出した。
「これ、私の宝物なんです。お礼に」
 それは、玩具の木彫りの舟だった。金銭的な価値は殆どないが、稀に小型船舶を操縦するリーマには、お守り代わりにもなりそうな玩具だった。朗らかに例を述べ、受け取る。
 それと同時に、修道院から小瓶を持ったゲイルと、少し緊張気味のラテリカが出てきた。
「養蜂は修道院で良く行われてると言いますが、大当たりでした」
「貰い物だ。大事に使うが良い」
 ゲイルの差し出した瓶を、カールが受け取る。どうやら蜂蜜パン製造は彼の役目となったようだ。
「それでは、デートの最後に花を添えます」
 合流したジャンとシャクリローゼも見守る中、ラテリカが銀の淡い光に包まれる。そして――――
「なんと‥‥!」
 修道院の周りに、一面の花畑が咲いた。
「これは幻影ですが、実際に種を撒くか、花を植えれば、デートコースの締めとしては十分かと思います。どうでしょう?」
 ジャンの問い掛けに、村人は呆然としたまま頷いていた。どうやら、お気に召したらしい。
「素晴らしい‥‥依頼して本当に良かった」
 村長は涙ぐみつつ、何度もお辞儀していた。
 まだ上手く行くと決まった訳ではない。それでも、希望の光は確かに彼らの目の前に見えた。それが何よりうれしかったのだ。
「村を上げて、宴を用意しています。最後の夜、是非楽しんで行って下さい」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
 ジャンが笑顔で答える隣で、ゲイルに近付く男が一人。引退したパン職人の一人だった。
「あんたかい? 酒に合うパンを色々吟味してくれたのは」
「ああ」
「ありがとよ。どうもこの村は酒飲みには厳しくてな。自分の酒使い切っちまったんだって? じゃ、これ持って行きな」
 そう言って、祭り用のブラゴットを手渡してくる。ゲイルは礼を言い、それを受けとった。
「ラテリカ、お歌を歌いますです」
「わたくしは、それに合わせてダンスなど」
 その横では、早くも宴に備えて打ち合わせが始まっている。
「あの、呼び込みってどうすれば‥‥」
「そうですね。例えばこの『まるごとうさぎさん』を着て、そして‥‥」
 その日、陽が落ちてもずっと、寂れたこの村から歓喜の歌が止む事はなかった。
 そしてそれは、出発の歌でもあった。
 近い将来『恋花の郷』と呼ばれる事になる、この村の――――