ぬいぐるみと射撃手
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■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:4
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月10日〜12月15日
リプレイ公開日:2008年12月18日
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●オープニング
冬の色合いが本格的に濃くなり始めたノルマンでは、パリを中心に、多くの場所で冷え込みが厳しくなって来ている。
そんな中、パリから20kmほど離れた場所にあるアトラトル街と言う街では、役員達が話し合いを行っていた。
来る聖夜祭に多くの観光客を呼び込む為、祭りの前にどのようなイベントを行うか、と言うお題目だ。
「冬って言ったら雪しかなかろう。ここは一つ、雪だるまをどれだけ大きく作るかと言う『伝統芸能雪だるま式』を」
「ふむふむ。だが私としては、雪のように白い肌の魔法淑女を募集する『美白美人魔法淑女コンテスト』を推したい」
「ふむふむふむふむ。悪くない意見だが、私は――――」
以前と比べたら随分と穏やかな話し合いになっており、意見も活発に出されるのだが、どうにも決定打に欠けているのも事実。
会議は暗礁に乗り上げていた。
「祭と言えば、景品」
そんな中、一人の男が突然ポツリと呟く。
彼は、聖夜祭イベント実行委員会の一員であり、同時にこの街のアイドル射撃手と言う何とも不可思議な役目を担う、クッポーと言う青年だ。
「よく聞け愚民ども。欲に際限などない。一度同じような催しをしたからと言って、それを除外するなど愚の骨頂」
その言葉は、何処までも辛辣。
されど、それを聞く実行委員会の面々に不快感は欠片もない。
それどころか、明らかに皆、頬を緩めている。
何故なら、クッポーのその声はまるで少女のように甲高く、その顔は愛玩欲求を何処までも満たす愛くるしいものだからだ。
身長も、150cmを僅かに割っている。ちなみにパラではない。
「で、では、再び射撃大会を‥‥?」
「ククク。随分と浅慮な奴だ。この季節に弓を引くなど、素人に出来る訳がない」
聖夜祭のイベントは、できる限り多くの人に参加して貰うものが好ましい。
が、かじかむ手で素人が矢を射ろうとしても、上手く行く可能性は低い。
「むう。だが、それでは先ほどの言は」
「だから浅慮と言うのだ。良いか、あくまで重要なのは景品だ。射撃に拘る必要などない」
クッポーは円らな瞳をぱちぱちさせながら続ける。
「景品を様々な場所に配置し、それを一定の場所から雪玉を投げ、落とす。落ちた景品はその投手の物だ」
「なるほど! それなら子供達でも参加できる!」
「名称は‥‥そうだな、『雪玉当て』とでもするか。童でもこれなら理解できよう。子供部門、大人部門、特級部門に分けて行えば雑魚でも喜んで参加するだろうな」
「よし! 早速まとめるぞ!」
こうして、アトラトル街では聖夜祭向けイベント『雪玉当て』が行われる事となった。
「後は適当にまとめておくんだな。ククク‥‥」
不敵なようで愛らしい笑みを残し、クッポーは部屋を出ようと扉を開けようと手を伸ばす。
しかしその扉は彼が触れる前に開き、物凄い勢いで部屋に入って来た女の子達に次々に体当たりをくらい、倒されて踏み潰された。
「ひぐっ‥‥」
「ああっ! お前ら何て事を!」
「クッポーさんはジャイアントの鼻息でも倒れてしまう繊細な方なんだぞ!」
慌ててクッポーを起こし、埃を落としている委員会の面々を尻目に、二人の女の子は泣きそうな顔で慌てふためいている。
「あーちゃんのぬいぐるみがいぬにとられた!」
「ぬすまれたー! うわーん!」
混乱する子供達――――レベッカとアネッテの話をまとめると、広場でおままごとをしていた時に、アネッテと言う女の子のぬいぐるみが野犬に持っていかれたらしい。
ちなみに二人とも実行委員会の一員の子供だ。
「うーむ、野犬が何でそんな物を‥‥」
「いぬのぬいぐるみだったの。咥えて行った後、ぬいぐるみに乗っかって‥‥」
大人達は少女達のそれ以上の発言を強制的に止めた。
「まあ、運が悪かったと思って諦めろ。またいつか買ってやるから」
「待て」
実行委員の父親が慰めている最中、クッポーはそれを制し、女の子二人に近付く。
「童女ども、野犬如きに己が宝物を奪われたままで良いのか?」
「よくない!」
「ならば、数日後に開催される『雪玉当て』に出場するんだな。もっとも、簡単に貴様らに景品が獲得出来るとは思えんが‥‥ククク」
そう言い残しクッポーは去った。
「?」
尤も、女の子達には意図が伝わっていなかったが――――
尚、大会概要は以下の通り。
●日程
・開催日は依頼の最終日
●ルール
・参加費は無料。
・景品は、所定の位置から5m〜50mの間に沢山立てられた杭に乗っている。
・雪玉を投げ、杭に乗った景品を落とせばゲット。
・雪玉の中に石を入れるのは禁止
・投げる雪玉の数は5個まで。自分の顔の大きさまではOKとする。
・杭は高さ2m、半径30cm。
●景品一覧 ※( )内は投擲場所からの距離やサイズ、重さを考慮した落としやすさ。
・スターサンドボトル(易)
・玩具の木彫りの舟(易)
・イースター・ラビットの人形(易)
・サンタクロース人形(易)
・駿馬の被り物(易)
・ハーブワイン(易)
・聖書(易)
・強烈な匂いの保存食(易)
・香油(易)
・岩塩(普)
・口紅(普)
・ラッキースター(普)
・銅鏡(普)
・ソルフの実(普)
・狐浴衣(普)
・エチゴヤブーツ(普)
・不思議なぬいぐるみ(普)
・スノーマン人形(難)
・山小人の小石(難)
・写本「海の魔物」(難)
・秘酒『オーディン』(難)
・シェリーキャンリーゼ(難)
・銀塊(極難)
・鉄人の鍋(極難)
・エチゴヤ親父の石像(極難)
●リプレイ本文
●1
大会まで後4日。
一大イベント『雪玉当て』は、思いの外参加者が集まっていなかった。
「当たり前。目玉がないよ、目玉が」
大会実行委員会の会議室で頭を抱える役員の元を、諫早似鳥(ea7900)を先頭に複数の冒険者達が訪れる。
「しかもこの景品一覧、割れ物ばっかりだけどさ、対策してんの?」
「いや、えっと‥‥雪が降ってくれたらそれがクッションになるかなー、とか」
「自然に任せないで、自分らで『しろ』」
似鳥のもっともな意見に、役員達は慌てて頷いた。
そんな彼らの目の前にあるテーブル上に、ドカドカと荷物が置かれる。
「よかったら、これも景品にしてよ」
「私もご提供。ジャパンの物だから、この国だと結構珍しいと思うよ」
「聖夜祭向けの物だから丁度ええやろ?」
似鳥と共に訪れていたレオ・シュタイネル(ec5382)、フェリーナ・フェタ(ea5066)、ジルベール・ダリエ(ec5609)が、それぞれの持ち物の一部を景品として贈与すると言うのだ。
寄せられたのは、レオの提供したラブスプーン2つ、フェリーナの雲間の透扇と椿の単衣、そしてジルベールのヒイラギのブローチ、クリスマスキャンドル、まるごとリースだ。
更に、そこに独楽、ブラッドリング、そして――――魔弓「ウィリアム」が上乗せされた。
「へぇ、似鳥良い弓もってるなあ。良いの? こんなの出しても」
「愛用の弓は別にあるからね。目玉、これならイケるだろ?」
レオにそう答える邪笑混じりの似鳥に、役員達は困惑を隠せない。
「いや、それは勿論‥‥でも、我々にはこんな沢山の物を買い取るようなお金はとても」
「お金なんて要らない要らない。ねえ?」
「それはそうや。これでお金取ったら押し売りやろ」
フェリーナとジルベールが笑い合う中、役員達は恐縮しつつアイテムを籠の中に入れる。
それを尻目に、クッポーは冒険者達に視線を送っていた。
「随分気前が良いようだが、肝心の投擲はどうなのだろうな‥‥ククク」
「あんたが噂のアイドル射撃手かい。アイドル射撃手‥‥ムカ付く響きだね」
「ええー。可愛いよ。ほら、パラの俺よりちっちゃいし」
不敵なようで愛くるしい笑い声を上げるクッポーと似鳥が対峙する中、レオとジルベールは好意的(?)な視線を向ける。
「なあ坊や、実はおにーさん達、ぬいぐるみを取られたって言う女の子達に会いたいんやけど、居場所わかるかなー?」
「冒険者の割に要領が悪い連中だな。付いて来い」
とても高い声で言い放ち、クッポーが会議室を出る。
「うにゃっ!」
何もない廊下でこけたらしい。悲鳴が聞こえた。
「‥‥いけ好かないねー」
似鳥がこめかみを押さえて廊下に出る中、他の3人は苦笑交じりにそれに続いた。
●2
大会まであと3日。
冒険者達の追加アイテムの告知がなされ、役場には人だかりが出来ていた。
そのリストに、本日また一つ加わる。
それは、足に水掻きのある不思議な馬の木彫品だった。
「ほう‥‥随分と珍しいですね。何処に売っていたのですか?」
「僭越ながら、私が作ったものです」
「なんと! もしや、名のある彫刻家の方でしょうか?」
ナイトのコルリス・フェネストラ(eb9459)は、微笑混じりに役員の言葉を否定した。
「確かに良い出来だ。これなら希望者もまた増えるだろうな」
自身も木工の心得があるエイジ・シドリ(eb1875)が太鼓判を押す。
役員達が集まる役場は、現在大会運営の為の準備で大忙し。
一部ルールの見直しも検討されている為、かなり大慌てで会場設営も行われている。
「私はこれから例の子供達の所へ行きますが、エイジさんはどうなされます?」
「ん‥‥俺か? 街の中を適当に歩く予定だが」
そう答え、二言三言言葉を交わした後、エイジは役場を出た。
目的は、妹エフェリアへの土産を買う事。
古い物を探して露店や古美術商を回るが、予算内で手に入りそうな物は中々ない。
結局、土産になりそうな古い品は50C以内ではなかった。
聖夜祭を前に露店で賑わってはいるものの、その殆どは食品を売る店だ。
「お、エイジさん‥‥やったよな。どうもー」
その中の一角、牛肉と野菜の串焼きを売っている出店の前で、ジルベールが肉を頬張っている。
直火で炙る程度に焼いており、肉汁が滴るその串焼きは、この辺りで最も人気が高い一品だ。
「ジルベール・ダリエ、だったか」
「んー。エイジさんは子供達のお世話はしないんかな?」
「投擲の指南を俺がすると言うのもな‥‥適任者は他にいるようだしな」
ジルベールを眺めつつのエイジのその言葉に、当の本人は苦笑を浮かべる。
その後、暫く雑談をしながら男達は緩やかな時を過ごした。
●3
大会まであと2日。
「てやーっ」
レベッカとアネッテは今日も中央広場で雪玉を投げている。
「もう少し脇をしめた方がいいんじゃないかな?」
「足はしっかり前に出した方が良いですね」
「的を良く見て、雪球が描くラインをイメージしつつ投げてみよっか」
レオ、コルリス、ジルベールの言葉に、少女達は何度も頷き、投げ方を変えている。
ここ3日間、子供達は突然現れた大人達に言われるがまま、投擲の練習をしていた。
『雪玉当て』が開催される事、そしてそのルールと景品を聞き、参加して景品のぬいぐるみを得ようと頑張っている。
そして、目的はもう一つ。
「これでいぬをたおすぞーっ!」
野犬を撃退するつもりらしい。
しかし、その声にレオが反応を見せる。
「ダメダメ。やり返したら、またやり返されるよ」
「えーっ」
「こんな時は、別の武器を使うんだ」
レオは含み笑いを浮かべつつ、2人の少女に耳打ちする。
すると、少女達はコクコク頷き、広場でフェリーナと雑談しているエイジの元に駆け寄った。
「成程、キエフはこの時期大変なんだな‥‥ん?」
「じーっ」
上目遣いでじっと見つめられたエイジは、その意図を汲もうと洞察を働かせる。
女性の上目使い。それは――――
「‥‥何か頼みごとでもあるのか?」
エイジの言葉に2人はコクリと頷いた。
「ああ、この人にぬいぐるみを取り戻して欲しいんだ」
「えー、俺には頼まんのー? 少しショックやわー」
その様子を見ていたフェリーナが笑い、ジルベールが大げさに項垂れる。
「おにーちゃん、やさしそうだけどあんまりつよそうにみえないもん」
「そっかー。じゃ、おにーさんはやさしさをあげよなー」
そう唱え、ジルベールは桜餅風味の保存食とアップルジャム入りクッキーを取り出す。
「どっちがええ? 好きな方選びー」
「わーい!」
2人が喜んで各々の好きな方を選ぶ中、広場に似鳥が戻ってくる。
「例のブツ、わかったよ。この子のお手柄」
「わー、いぬさんだー!」
似鳥と共に訪れた犬の小紋太に、子供達が突撃する。
彼女はこの3日、奪われたぬいぐるみの在り処と野犬について調査していた。
雪上の足跡、匂いの追跡の結果、町を出て直ぐの野原に群れになっている野犬と、一部が見事に破けているぬいぐるみを発見したのだ。
「ありゃ、相当しっかり修繕しないと厳しいねー。大丈夫かい?」
「実物を見ない事には何とも。取り敢えず行ってみよっか」
フェリーナの言葉に、他の冒険者達も帯同の意を示した。
●5
雪が舞う、大会当日。
『雪玉当て』の会場となるアトラトル街の郊外にある広場には、思いの外多くの参加者が押しかけてきていた。
景品の追加が大きかったようで、中でも魔弓の効果は絶大だった。
「魔弓「ウィリアム」か‥‥クックック」
運営委員だが参加予定のクッポーは雪玉を片手に、天使のような笑顔を見せている。
それに役員一同が癒されつつ――――大会は始まる。
ルールは至って単純。所定の位置から顔の大きさ以内の雪玉を5つ投げ、杭の上にある景品を落とすというだけだ。
一度に5つ投げてはダメで、1球ずつ順番に投げ、それを5順繰り返す。
景品は1種類に1つのみ。
尚、割れ物に関しては、布に包んで木箱に入れてある。
落ち難くなった事にブーイングも起きたが、置く位置を杭の中央から後ろにずらした事で調整。
選手宣誓も終わり、いよいよ本番開始だ。
投げる順番はくじ引き。その結果、フェリーナが2番目、コルリスが6番目、似鳥が8番目、エイジが10番目、レオが14番目、ジルベールが17番目となった。
参加者は全員で24名。
ちなみにレベッカとアネッテも参加しており、レベッカは1番目、アネッテは24番目と言う極端な順番となった。
クッポーは9番目だ。
「微力ですが、大会の盛り上げに協力させて頂きますね」
コルリスが妖精の竪琴で高揚感を誘う情熱的な音楽を奏でる中、第一投擲者のレベッカが位置に付く。
「ベッキー、がんばれ!」
「やっ!」
その1投目は、狙いのぬいぐるみから大きく逸れていった。
「はうう」
がっくり項垂れるレベッカを、フェリーナが屈んで慰める。
そして、次はそのフェリーナの投擲。
彼女の第一希望は香油だ。
壷を布で包み、『これ香油』と書かれた木箱に入れられ、4m先の杭の上に置かれてある。
フェリーナは雪玉を片手で持ち、狙いを定めて投げる。
――――木箱の上部に直撃!
ぐらりと箱が傾き、杭の後ろに落ちていった。
景品を入手し、フェリーナは満足げに戻って行く。
その後、アーチャーっぽい連中が連続で魔弓を狙う。が、当たっても全く微動だにせず雪玉は霧散する。
「うわ、無理っぽいなあ。『オーディン』狙った方が良いかな」
レオが呟く中、6人目のコルリスが投擲。
ラッキースターを狙い、難なく落とす。
「ありがとうございます」
笑顔で頷き、景品を受け取った。
次のむわっとした人はスターサンドボトルを狙い、ゲット。
そして、8番目は似鳥。
「さーて、適当にやるかね」
そう言いつつ、拳大の大きさの雪玉を掌で転がす。
そして、やや大きめのそれを、しなやかな動作で振り被り、オーバーハンドで投げた。
――――口紅に直撃!
軽い口紅は凄い勢いで吹っ飛び、雪の中に沈んだ。
似鳥は無造作にそれを拾い、指の上でくるくる回す。そしてエイジの横をすれ違いがてら、ニッと微笑んで見せた。
「悪いね。使うなら貸すけど?」
「今回の依頼では必要ない」
「今回、ねえ」
2人が雑談する中、クッポーは魔弓を狙って外していた。
次はエイジ。
「‥‥」
アイドルなのに美少女ではない涙目のクッポーを眺めつつ、所定の位置へ。
毛糸の手袋をはめた手で拳大の雪玉を固め、小さいモーションで投擲。
狙ったのは、イースター・ラビットの人形の下部。杭に当てるつもりで投げたその結果――――本当に杭の最上部に当たった。
が、固めに作っていた事もあり、雪玉は霧散せずに上下に割れる。その上部が人形にあたり、ぐらりと後ろに倒れた。
その後数人が投げ、レオの出番がやってくる。
幾つか候補はあったが、狙うのは魔弓一点。
ここ数日、彼は少女達に助言する傍ら、雪玉をとことん研究していた。
あらゆる硬度、形状、寸法を試し、どの飛距離でどの重さの物にはどう言った雪玉で何処に当てるのがベストか、綿密に計算し、それを検証する。
そんな地道な作業を続けた結果、長さ1mの魔弓を落とすには、先端を小さい雪玉で狙い、杭の中央からずらしていくのが最良と判断。
「それっ」
彼の投じた雪玉、は弓を当初の位置からずらす事に成功した。
そして、17番目のジルベールが登場。
「わー、おにーちゃんかわいー!」
レベッカとアネッテが喜び拍手する。
と言うのも、彼は『まるごとるどるふ』を着込んでいるからだ。
そして、その格好で落ち込んでいるクッポーの元に立ち寄る。
「クッポーさん、実行委員やろ? 一緒に盛り上げようやー」
そして、明るくサンタローブと真っ白な付け髭を差し出した。
「‥‥ククク、そこまで俺が必要なら仕方がないな」
あっさり立ち直り、了承。
そしてトナカイの格好をした青年はあっさりと所望していた狐浴衣をゲット。
歓声に笑顔で応えていた。
その後、冒険者達はそれぞれに希望の景品を取って行く。
ジルベールは適当に落とした駿馬の被り物などを観客席に投げ入れていた。
そんな中、大会の焦点は2つに絞られる。
1つは、魔弓「ウィリアム」を落とす者が現れるか。
そしてもう1つは、2人の少女がぬいぐるみを落とせるか。
参加者は空気を読み、ぬいぐるみは狙わずその懸命な姿を見守っていた。
「はうっ」
レベッカの5投目がぬいぐるみを掠めるも、直撃には至らず。
当初はまともに前に投げる事も出来なかった中、格段の進歩を遂げていたが、流石にここが限界だったようだ。
残るはアネッテの1投のみ。
だが、その前に弓争奪戦が佳境を迎える。
「そう言えば‥‥4日前に占いをして貰ったんだけど、『魔法の弓が背丈の小さい者の元に渡る』とか言ってたような」
フェリーナが呟く中、投擲に向かうのはサンタの格好をした、小柄なクッポー。
見物人から歓声が上がる。
「ククク。最後は結局この俺が持って行く事になるか」
レオが4球使い、弓を上手く杭の端に移動させている。
しっかり当てれば、落ちる可能性は十分ある! けど外れた。
「‥‥うわーん!」
泣きながら退場する小さいサンタを多くの見物人が慰めに向かった。
その後もラストチャンスを活かせない者が続く中、レオの番がやってくる。
「‥‥」
大きい目を細め、狙いを定める。
そして、弓の末弭を目掛け、拳より小さく固めた雪玉を投げた。
――――直撃!
弓はくるりと回り、重量のある胴の部分が外側に向く。
そして、バランスを崩し‥‥杭からゆっくりと落ちた。
「あ、本当に取れちゃった」
レオが驚き半分、喜び半分で呟くと同時に、見物人から怒涛の歓声が起こる。
こうして、目玉の景品はレオがゲットした。
そして、最後の見せ場となるアネッテの投擲。
全員が『神様仕事しろ!』『雪の精霊空気読め!』的な祈りを捧げる中――――
雪玉は、ぬいぐるみの横を通り抜けていった。
●えぴろーぐ
大成功に終わった大会が終わり、見物人達は満足げに帰宅する。
夕日が沢山の影を作る中、アネッテの影には、彼女以外の影が重なっていた。
景品ではない。先日までは彼女の物だったぬいぐるみだ。
「わー、すごい! きれいになってる!」
大会前日、似鳥、ジルベール、レオは小紋太の見つけた野犬軍団をスクロールやら手裏剣やらヴァジュラナーヴァやらで蹂躙‥‥もとい、威嚇。
無事ぬいぐるみを奪還したものの、とある箇所が著しく破損しており、フェリーナが丸一日かけて修繕していた。
問題箇所には可愛いアップリケが付けられ、取り敢えず問題なし。
こうして、少女達はぬいぐるみを取り戻すと共に、新たな優しさに触れ、幸せな気持ちに浸ったとさ。
めでたしめでたし。
尚、数多の同情を獲得したクッポーはアイドル射撃手としての地位を更に固めたとか。