究極の鍋 vs 至高の鍋
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■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月18日〜12月23日
リプレイ公開日:2008年12月25日
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●オープニング
パリ冒険者ギルドの直ぐ近くに、『ヴィオレ』と言う宿がある。
4ヶ月前まではうだつの上がらない宿屋だったが、スープなどの料理を出すようになった事で、多くの宿泊客が訪れるようになった。
しかし、料理担当で看板娘のカタリーナ・メルカは料理に関しては初心者。
基本的な料理しか出せず、徐々に飽きられて来た事もあり、段々と売り上げは元に戻って来ていた。
そして、半月ほど前から、更にお客が遠のき始め、聖夜祭を目前とした現在、宿は閑古鳥状態となっている。
「これは『ヴィオレ』始まって以来の大ぴんちよっ!」
カタリーナは危機感を露わにし、緊急対策本部を設置。
『ヴィオレ』存続の為の会議を開いていた。
場所は、冒険者ギルド。
太陽が沈み、殆どの冒険者がギルドを後にする中、冒険者ギルド従業員フィーネ・プラティンスと宿屋『ヴィオレ』の一階で薬草を売っている居候シフールのルディ・セバスチャンは自身が会議に参加する意義を見出せず、途方に暮れていた。
「あのぉ、こう言う事は家族の方とした方が」
「だよねえ」
2人が同時に嘆息する中、カタリーナはそれらの言葉を無視し、テーブルをドカッっと叩く。
「お客様は元々減ってたけど、ここ半月の減り方は尋常じゃなかったの。何事かと思いきや、『ユニック』が冬季限定の料理を始めたって言うのよ!」
『ユニック』とは、これまた冒険者ギルドの近くにある宿屋。
『ヴィオレ』からも当然近い為、ライバル宿と言う事になる。
規模は『ヴィオレ』よりも大きく、元々料理も出している事もあり、『ヴィオレ』にとっては目の上のタンコブといった存在だ。
「と言う訳で、今から『ユニック』に偵察に行くの。ちょうど夕食時だから料理が出てる筈だしね」
「行ってらっしゃいですぅ」
「当然、あんたらも来るのよ。どんな料理出してるか確認して、それに対抗する為におんなじ種類の料理を作るの。協力してよね」
「私は自分の仕事が‥‥」
カタリーナの言葉に反論しようとしたフィーネだったが、引きずられる様にして連れて行かれる。
二度目の嘆息をしながら、ルディも後を追った。
――――1時間後。
『ユニック』の一階で鍋料理をつついた3人は、それぞれ満足げにお腹を抱え、幸せな笑顔で部屋に入って行った。
翌日。
「ダメじゃん!」
朝一番、カタリーナは頭を抱えて大声で叫ぶ。
ちなみに、彼女が現在いるのは『ユニック』の客室だ。
「なんて事‥‥あんまり美味しいから、つい普通に食事して普通に泊まってしまった」
「ふあぁ、おはようございますぅ」
同室に泊まっていたフィーネが幸せそうに挨拶する。
ルディも窓から入ってきた。
「凄い美味しかったね。出汁も上品で、匂いも良くて、お肉も柔らかくて、野菜も噛めば噛むほど甘みが出て」
昨日3人が頼んだメニューは『至高の鍋』と言うもの。
その夢のような味を思い出し、ルディとフィーネはほわーっとなる。
「くうっ。ま、負けていられない! 私だって冬季限定鍋料理でお客様を魅了してやるっ!」
カタリーナは駆け足で宿に戻り、鍋料理の創作を開始した。
とは言え、彼女の腕ではまともに作っても勝ち目はない。
奇を衒おうと考え作った試作品一号『熊手鍋』は見た目的にNGを出され、試作品二号『豚の丸鍋』は鍋のサイズが合う物がなく挫折する事になった。
「ダメだ‥‥このままじゃ『ヴィオレ』は潰れちゃう」
普段めげる事のないカタリーナだが、今回ばかりは心が折れかけていた。
宿屋『ユニック』の『至高の鍋』に対抗できるだけの鍋料理を作って、遠のいた客を呼び戻す事が出来なければ、『ヴィオレ』は消滅してしまうかもしれない。
流石に不憫に思ったフィーネとルディは、自腹でこっそり依頼を出すのだった。
●リプレイ本文
鍋。
それは何処までも単純で、何処までも奥深い料理。
そんな事は、恐らく殆どの者が理解している。
或いは、意識せずとも認識しているだろう。
しかし――――
「鍋料理はとーっても奥が深いザマスのよー。あーた聞いてるザマスか?」
「え、ええ。とても参考にさせて頂いています」
パリのマダム達が集い、パリのあるべき姿を保持する為に進んで地域交流や平和活動を行っている自称『麗しの婦人会』会長宅に、ローガン・カーティス(eb3087)は単身乗り込んでいた。
鍋と言うものは、意外と料理人よりも一般家庭の主婦の方が美味しい料理法を知っているもの。
それを考慮し、ローガンはパリの主婦の代表とも言えるかの人物を尋ね、料理に詳しい人を紹介して貰おうと試みていた。
しかし、上辺だけの料理論ばかりが語られ、一向に話が進展しない。
それは、かつて別件で一度訪れた際と同じ展開だった。
問題はそればかりではない。
ローガンは、『麗しの婦人会』会長が放つ『隙あらば喰らってしまおう』と言う精神攻撃と必死で戦っていた。
会長は専業主婦。故に刺激に飢えている。
そこに知的な青年が現れた日には、決して点いてはならない火も点くと言うものだ。
「あーた、前に来た時もそうだったザマスが、見所あるザマスね。どうザマス?」
「ど、どうとは、何の事でしょう」
『麗しの婦人会』会長の顔が蛇のように見えてくる。
思わず本当にデビルか何かなのでは、と疑わずにはいられない程に。
ローガンの精神は消耗し切っている。既にフレイムエリベイションを酷使しているにも拘らず、だ。
「もちろんあーた‥‥ひ・あ・そ・び・ザマス」
ついに直接攻撃に出てきた!
だが、それは逆に好機。これまで幾度となく繰り返されてきた中年女性のアピールと比較すれば、逆に対処がしやすい。
ローガンは献身の指輪と無我の指輪を嵌めた左右の手の指を絡め、静かに呟いた。
「奥様‥‥私は火の精霊魔法を操るウィザードです。火遊びにはもう興味を持てないのです」
「あらあ。あーた上手い事言うじゃないの。で?」
「いや、で? と言われても‥‥」
ローガンは逃げられない!
「ワタクシ、つい先日香水を購入したザマスの。よかったら、付けてくださらない? ちょ・く・せ・つ」
「い、いや、それは‥‥」
心に一つ大きな傷が増える中、不毛な時間は続く――――
その日の夜。
依頼を受けたジャン・シュヴァリエ(eb8302)、エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)は、偵察の為に宿屋『ユニック』を訪れていた。
ちなみにローガンも同行しているが、一切言葉を発する事はなく、食事の席でもテーブルに突っ伏したまま動く気配もない。
「え、ええと、カーティスさん、大丈夫かな‥‥?」
「少しでも回復すると良いけど‥‥あ、来た来た」
エラテリスとジャンが顔を見合わせて心配する中、『ユニック』の女性従業員が猫のミトンを使って持ってきた鍋が、テーブル上に置かれる。
鍋は非常に分厚い陶器製の土鍋で、かなり保温効果が高そうだ。
更に、その鍋が可愛い刺繍付の布で覆われている。
「冷めない内にお召し上がり下さいませ」
鍋を持ってきた従業員が丁寧にお辞儀し、その布を取ってその場を離れる。
ジャンがその女性にお礼を言っている傍ら、エラテリスは待ちきれない様子で鍋の蓋を開けた。
すると、高温の湯気が彼女の顔をもうもうと包み込む。
「あちち‥‥えへへ、火傷する所だったよ☆」
「成程、かなり保温されてるみたいですね。食べ終わった後、鍋をちょっと調べてみましょっか」
「えっと、食べてもいいのかな? あ、その前にカーティスさんを起こさないとだよね」
「ローガンさん、お鍋来ましたよ。よそっておきますね」
「すまない‥‥」
どうにか顔を上げたローガンが、言葉少なに感謝の意を示す。
余程酷い目にあった事は誰の目にも明らかだが、ジャンとエラテリスは敢えてその件には触れず、黙々と鍋の具を小皿に取った。
『至福の鍋』と呼ばれるそのメニューは、鶏肉と野菜、キノコ、そして海草がふんだんに使われていた。
スープはやや白濁がかっており、非常に食欲を誘う濃厚な香りがする。
「いただきま〜す☆」
まずエラテリスが先陣を切って、陶製のスプーンでお肉を頬張る。
「‥‥すすす凄い美味しいよ?!」
思わず絶叫するほどの味だった!
「ふむふむ、酸味が利いてますね。柑橘系かな? でも全然邪魔してない。上手く鳥の甘みと出汁が包み込んでる。凄い、噛めば噛むほど味が増えていく!」
ジャンも絶賛するその鍋料理を、ローガンも食す。
最初はスープを一口含み、徐々にその頻度が増え、更に具へと手が伸びる。
「これは‥‥初めての経験だな。驚いた、身体の内から力が溢れ出して来るようだ」
淡々とした物言いながら、ローガンは興奮を覚えていた。
消耗し切った筈の心が潤ってくる。
まさにそれは、至福の名に相応しい鍋料理だった。
翌日。
カタリーナと冒険者達は、宿屋『ヴィオレ』の一階にある厨房内で、今後の方針を話し合っていた。
昨日の経験から、至福の鍋はそう簡単に超えられる一品ではない事はわかっている。
「そこで考えたのが、単独の料理で対抗する必要はない、って事なんだ」
「数打てば当たる、みたいな感じ?」
カタリーナの言葉に、3人は頷いてみせる。
それぞれに自分で案を練ってくれていたようで、3種類の新たな鍋料理が提案された。
まずは、エラテリスの案。
鍋料理である以上は、お肉はやはり欠かせない。
出汁も良く出るし、肉自体も美味しく食べられる。
鍋料理の花形的食材だ。
問題は、何の肉を使うかだが――――
「色々入れてみると良いと思うんだ☆」
あえて特定せず、豚、羊、鶏をはじめ、ドジョウ、ザリガニ、ナマズ、亀なども用意できれば入れてみようと言う、非常に懐の深い鍋を提案した。
野菜もカブやニンジンをはじめ、盛り沢山。
エラテリスらしい賑やかなその鍋は、『元気鍋☆』と名付けられた。
「あ、でもお肉の臭みはしっかり取らないとね☆ にんにくで消えるかな?」
幸い、にんにくと熊の肉は宿屋のストックにあったので、試してみる。
しかし、余り上手くいかない。
「酒も使ってみたらどうだろう?」
「あ、お酒も臭みを消すんですよね」
ローガンの提案をジャンも肯定し、実際に試す。
酒と刻んだにんにくを入れた木製の容器に熊の肉を入れ、数十分放置。
その結果、鮮やかに獣臭さが取れた。
「これで大丈夫だね☆」
後は肉の選別を行うだけだ。
とりあえず、『元気鍋☆』は完成の見通しが立った。
次は、ローガンの提案する鍋『雪見鍋』。
冬の限定メニューである事が名前にも反映されているその鍋料理は、昆布で出汁を取るというジャパンで行われる方法をとり、そこに具材を入れる、和風の鍋料理だ。
「ジャパンの江戸に1年ほど滞在した際に食した物の応用だ。上手く作れると良いが」
具材の候補としては、魚のつみれ、鶏肉の団子、豆腐、そしてニンジンとアスパラガス、リーキなどの野菜。
白、赤、緑と言う彩りが楽しめる鍋となっている。
では、雪と言うのは何を表しているのか。
「大根を摩り下ろしてみる、と言うのはどうだろう」
ローガンの提案は、凹凸のある調理器具を用意し、それで大根を摩り下ろし、鍋に入れるというものだ。
摩り下ろした大根を雪に見立てると言う事だ。
大根の甘みと苦味が出汁と混じり、さっぱりとした味になると期待してのものだ。
そして何より、もう一つ。
「大根には消化作用を助ける効果がある。すっきりと食べられる鍋料理になるだろう」
摩り下ろす道具や、ノルマンでは中々調達が難しい豆腐に関してなど、幾つか解決すべき問題はあるが、健康に大きな貢献をもたらす鍋料理になりそうだ。
食す際は柑橘類の汁に付けて食べる事で、更にさっぱり感を出す。
エラテリスとは逆にコンセプトの鍋だ。
「なるほど。エラテリスさんのは男性向け、ローガンさんのは女性向けね。うん、良い感じ」
ターゲットがわかりやすい料理は、選びやすい。
これなら、お客も注文してくれるだろう。
勿論、味を気に入って貰えるかどうかも重要だが、まずは注文して貰わない事には始まらないのだ。
「それじゃ、最後は僕の『死海鍋』ですね♪」
「な、何か物騒な名前なんだけど、大丈夫なの?」
カタリーナが懸念を隠さずに顔をしかめる中、ジャンは楽しそうに自身の案を語り出す。
「勿論。クレオパトラも愛した究極の鍋料理です♪」
死海鍋――――それは、ノルマン南部の食卓に並ぶ、スープ・ド・ポワソンと呼ばれる料理を改良した鍋料理だ。
これは沢山の魚介類を具材にし、たっぷりのハーブを使って臭みを消し、尚且つ味付けと香り付けを行う。
濃厚な黄色のスープが特徴で、コクはあるがさっぱりと食べられる料理だ。
それを下地に、土鍋を用い、貝、海老、ヒラメやカレイなどを具材とし、そこにハーブ、クラゲを加えたのが死海鍋だ。
「ク、クラゲ? たた食べられるのかな?!」
エラテリスの問いに、ローガンがゆっくり頷く。
「ノルマンの風習にはないが、ジャパンでは食料として一部のクラゲを加工する事もある」
「へー。あんなのがねえ」
カタリーナが感心する中、ジャンは説明を続ける。
「つけ汁には、ゴマとクルミをつかいます。摩り下ろして、出汁と合わせましょう。柑橘類の汁もお好みで」
魚介類には、味そのもの以外にも美肌効果、老化防止効果が期待できる。
ゴマも同様だ。
髪の艶を出すのにも、効果があるらしい。
「かのクレオパトラも、痩身や美肌を維持する為、ゴマや魚の寄せ鍋を愛好したらしいです。ローガンさんのコンセプトと近いですけど、薬膳鍋と言う感じですね」
これで、3つの鍋の案が出揃った。
が、肝心の料理担当者がいない。
果たして実際にその鍋を作る事が出来るものか――――
「あの、『麗しの婦人会』の御紹介でやって来た者ですが」
そこに、救世主が現れた。
突然『ヴィオレ』を訪れたのは、『麗しの婦人会』会長の娘、ジル。
会長お気に入りのローガンに協力するようにとの命を受け、調理器具一式を持ってやって来たのだ。
「驚いたな。まるで似ていない」
アナコンダのような顔の会長と血が繋がっているとは思えないような可憐な女性に、ローガンは驚きを隠せない。
訪問時には一度も会った事がなかったのだ。
「何とかなりそうですね。ジルさん、助太刀宜しくお願いします」
「一緒にがんばろう☆」
「はいー。私に出来る事ならば何でも」
ジャンとエラテリスの言葉に、ジルは笑顔で尽力を約束する。
いい娘さんのようだ。
「こ、これなら行ける‥‥見てなさい、至福の鍋! 私達の究極の鍋が最後には勝つ!」
新たな助っ人に、カタリーナは燃えていた。
ジルがカタリーナに料理指導しながら鍋を作成していく間、冒険者はそれぞれの行動を粛々と行っていた。
エラテリスは食材探しに市場へ。
朝一のパリ市場で新鮮なお肉と野菜を探す。
アンクレット・ベルの音が小気味良く鳴り響く中、市場の喧騒へと溶け込んでいった。
一方、ローガンとジャンはカタリーナが指導を受ける時間帯は宿屋の雑用を行い、それ以外の時間は近隣の山などで食材探しを行っていた。
エラテリスのウェザーフォーノリッヂによると、幸いにもこの日は晴天が続く予定。
厳しい寒さを運んでくる北風も、今は全く吹き込んでいない。
そんな中、シフールのルディが上空から沢山の草を抱えて飛んで来る。
「ハーブ、要るんだよね? はい」
薬草の収集を日課としているルディは、この辺りに関してはかなり精通している。
その後、山だけでなく森や川、市場へも赴き、沢山の食材を入手した。
そして、それぞれに帰還。
「ただいま☆ 凄く美味しいお肉が手に入ったよ☆」
レミエラで料理の知識を通常より高めていたエラテリスは、茹でても比較的柔らかく美味しい鶏肉を入手することが出来た。
更に、新鮮な猪の肉やにんにくもゲット。
鍋に必要な食材は揃った。
「日が暮れてしまったな」
「カタリーナ、やってる?」
ローガンとジャンもほぼ同時刻に宿に戻る。
すると、カタリーナが頭を抱えてテーブルに座り込んでいた。
「‥‥やってしまった」
何でも、彼女の作った試作品三号『闇討ち鍋』で本当に討たれてしまったらしく、ジルは奥の部屋で寝込んでいるとの事。
「な、なんて事を‥‥解毒剤を!」
「だって! 私だって自分で何か独自の物作って人気を得ないと、次はない、って思って‥‥」
解毒剤を持って駆け出したジャンも、そして誰もカタリーナを責める事は出来なかった。
そんな中、解毒剤でどうにかジルは回復。
「大丈夫ですよー。気を取り直して、お鍋を完成させましょう」
「ううう、貴女良い人だー」
だーっと涙を流すカタリーナを、ジルが抱きしめる。
その後、冒険者達も協力し、闇討ち鍋以外の3つの鍋の作成が行われた。
そして――――
「さー、いらっしゃいませ。本日から『ヴィオレ』は究極の鍋メニューを始めました」
「是非お試しして欲しいですぅ。健康で美しいお肌つるつるになれるお鍋ですよぉ」
数日後、宿屋『ヴィオレ』の前では、シフールとギルド従業員が宣伝をしていた。
多くの冒険者や近隣の住民が訪れ、『ヴィオレ』は久々の盛況を見せる。
味だけでなく健康や美容に良いと言う究極の鍋は、『ユニック』の至福の鍋とはまた違った魅力があり、うまく差別化が図れそうだ。
結局カタリーナは期間内に鍋の作り方をマスターする事は出来ず、料理は暫くジルに任せる事となった。
当然お給料を支払うと言う申し出でお願いしたものの、ジルはそれを固辞。
「私、料理人を目指してるんですー。只で食材を使わせて貰っているんですから、それで十分ですよー」
凄く良い人だった。
そんな訳で、ジルが料理を担当する間、カタリーナは冒険者が発案した企画に尽力。
聖夜祭の日には、ローガンの提案した『チーム対抗大根摩り下ろし大会』や、ジャンの発案『聖夜祭フェア』を行う事となり、摩り下ろし器具の追加やカップル向けの小鉢を探して奔走していた。
一方、冒険者達はジャパン商品を扱う店に来ていた。
豆腐の調達が可能かどうかの確認、『聖夜祭フェア』で使う火鉢の探索。
そして、ジャパンにもいる魚を教えてもらうためだ。
現在、3人は釣り船の上にいる。
「ん、掛かったんじゃないか?」
ローガンの言葉通り、エラテリスの釣り糸が大きく揺れる。
「大物じゃないですか? 何かそんな予感がします! エラテリスさん頑張って!」
ジャンが興奮気味に応援する中、エラテリスは力いっぱい、しなる釣竿を引き上げる。
「それーーーっ☆」
エラテリスが真後ろに倒れこむ中、大きなカレイが暴れながら宙を舞った。