ノエルの輝石
|
■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 46 C
参加人数:5人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月23日〜12月30日
リプレイ公開日:2008年12月30日
|
●オープニング
聖夜祭。
それは、ジ・アース全体が一年の間で最も輝きを放つ期間である。
独特の浮遊感が世界を包み、艶やかで煌びやかな彩りに誰もが酔いしれる。
街には子供達の手作りの飾り付けが溢れ、村では多くの芸術家がその筆を取り、白く染まったその視界に頬を緩める。
誰もが、何ら隔たりも抵抗もなく、無我夢中に、純粋に楽しめる祭り。
それが聖夜祭なのだ。
そんな充足感溢れるパリの一部の地域で、つい最近、実しやかに囁かれている噂がある。
その噂は、各地域によってそれぞれ内容が異なっている。
ただ、集約される所は同じ。
その噂とは、何か特殊な力を持った石がつい先日空から降ってきた、と言うものだ。
その石は、いつからか『ノエルの輝石』と名付けられた。
これは――――そんな得体の知れない石を探そうとする人々の物語である。
●或る盗賊の場合
「‥‥ノエルの輝石?」
パリ郊外にある小規模な酒場『シャレード』で、バードの男性マンソンジュに対して話されたマスターの話。
それは、世界にたった一つしかないという、余りに稀有な宝石『ノエルの輝石』に関する情報だった。
空から降り注いだその宝石は、何でもパリから南西に50km程進んだ所にある【風車塔のある集落】に落ちたのでは、と言う噂が立っている。
ただ、その集落にある風車塔は現在、盗賊団『ジズー』の根城になっていると言う噂もあり、調査する者もいないようだ。
「ジズー? あの鼻垂れ盗賊団じゃん。楽勝楽勝」
マンソンジュの隣に座り、ミルクをぐびぐび飲んでいる少女ニーナがケラケラと笑う。
ニーナとマンソンジュ。
この2人には、別の名前がある。
パリから20kmほど離れた場所にあるリアン街でその名を轟かす宝石専門の盗賊カルラと、武器防具を主に専門とする盗賊ラルバトス。
どちらも、盗賊としてはかなりの腕を持っている。
「ダメですよ。盗賊にも盗賊なりの流儀があります。他の盗賊団の領域を侵してはいけません」
「えーっ! 折角美味しい獲物があるのに指咥えて見てろって言うのか!?」
「『我々は』手を出せないんですよ、ニーナ」
マンソンジュは薄く笑う。
しかしニーナはその意図をわからず、頭上に三つ『?』を立てていた。
「貴方以前、困った時に何を利用しました?」
「あ、あーっ。そう言う事か」
「ただし、盗賊として依頼してはいけませんよ。あくまでニーナ個人として、です」
「そっか。よし、早速パリに行って来る」
ニーナは残りのミルクを飲み干し、セブンリーグブーツを荷物から取り出した。
●或る村の場合
「‥‥ノエルの輝石?」
パリから半日ほど南に歩いた場所にある『恋花の郷』と呼ばれる村では、現在聖夜祭の準備が行われている。
純白に彩られた広場には、村の子供達が思い思いの飾り付けをしており、花を摘んで作った花飾りや、ヒイラギの木で作ったリースなど、拙いながらも賑やかな色合いを見せている。
また、村の入り口に飾られた村長の石像の隣には、それ以上に大きい雪だるまが作られていた。
そんな村の村長の孫娘ミリィは、友人のハンナから『ノエルの輝石』の話を聞いていた。
「私も遠征先で小耳に挟んだだけなんだけどね。なんでも、その石を持ってると、運命の人との出会いがあるんだって。パリから200km以上離れた【ローウェル村】って所に落ちたらしいよ」
「ふーん」
ミリィは然程興味のない返事をし、フラワーリースの作成を再開する。
「気のない返事ねー。運命の人よ? もっとこーグッと来る反応できない?」
「そんな事言われても‥‥」
「この前の収穫祭の時、ちゃっかりお見合いイベントに参加してたじゃない。出会い求めてるんじゃないのー? えー?」
「あれは参加者が少ないからって無理やり‥‥」
ハンナに肘で突付かれ、ミリィか顔を赤らめる。
そんな反応に満足したハンナは、含み笑いを見せながら立ち上がった。
「よっし。そんな素直じゃないミリィの為に、私が一肌脱いだげよっかな」
「え?」
「ま、楽しみにしててよ」
ハンナはミリィの怪訝そうな顔を楽しみつつ、小袋の中の小銭を数えていた。
●或るシフールの場合
「‥‥ノエルの輝石?」
パリから遠く離れた、とある街のシフール飛脚ギルドで、ルディ・セバスチャンはシフール飛脚のワンダ・ミドガルズオルムから石の噂を聞いた。
ルディは現在、施療院を作る為に様々な金策を試みている。
冒険者から貰った裏地図の写しで薬草の在り処を探し、それを集めて売ったり、シフール飛脚や通訳に提携を持ちかけたりして、シフールの為の医療を施す施療院を作ろうと飛び回っているのだ。
それは、身体が弱く飛ぶ事ができない自分の妹を、どうにか飛び立たせる事ができるように、と言う思い出の行動だった。
現在、シフール飛脚との提携の話はまだ進んではいないが、情報収集や挨拶がてら、隣の地域の飛脚ギルドを訪れていたのだ。
「うん。手紙のお届け先で聞いたんだけど、何でも『沢山のお金を呼び込む金運向上の石』なんだって」
「金運‥‥それって、本当なの?」
「さあ。噂なんて玉虫色だから、案外他の場所では別の噂が流れてるかもね。ちなみに、パリから南東に40kmくらいの所にある【不良トレントとやさぐれアースソウルのいる森】に落ちたって」
「どう言う森なのさ‥‥」
「あはは。一応モンスターがいる森だから、もし行くなら冒険者でも雇った方が良いかもね。まあ大丈夫とは思うけど」
ワンダがケラケラ笑う中、ルディは本気で石の捜索を検討していた。
●或る石工の場合
「‥‥ノエルの輝石?」
パリの近隣にある『マルシャンス街』と言う街に、一人の石工がいる。
その名はマックス・クロイツァー。
ノルマン1不幸な男である。
そんなマックスに、まさかの僥倖と言うべき情報が舞い込んできた。
何でも、絶大な幸運を呼ぶ奇跡の石が、つい最近このノルマンの地に降って来たというのだ。
「ほ、本当かペーター!」
「親友を疑うとは何事ですか?」
情報を提供した鍛治師見習いのペーターが、にこやかに槌を振りかざす。
それをマックスは興奮気味に白羽取りの要領で止めた。
「この俺の不幸を取り除くアイテムかもしれないんだな!?」
「どうでしょうね。今まで如何なるラッキーアイテムを灰や屑にして来た貴方ですから」
振り下ろした槌をマックスに止められたペーターは、不満そうに呟く。
彼がとある温泉街で聞いた話によると、何でもその石はパリから100kmほど離れた、とある山のふもとに落ちたらしい。
半年ほど前までは『モンスターパーク』と言うモンスターを安全に見学できる区域として、観光が行われていた場所だ。
今は廃業となり、【モンスターパーク跡地】となっている。
「遠いな」
「馬車を貸してくれる御者もいませんしね、貴方の場合」
この街では、最早彼の不幸は一種の名物。
そんな男に大事な馬車を貸してしまうのは、馬車を棄てるのと同じ事だと言う認識らしい。
「どうしても探したければ、足のある方を雇う事ですね。冒険者の方とか」
「うーむ、つい先日世話になったばかりだが‥‥」
マックスは腕組みして、自身の不幸体質を改善させるかもしれないその石に思いを馳せていた。
――――噂は生き物。
常に変遷し、姿を変える。
果たしてどれが正しいのか。
聖夜の下、各々それぞれの噂を耳に、それぞれの目的を胸に、ギルドへとその足を運んだ。
●リプレイ本文
聖夜祭の準備に追われるパリの街並みに、一迅の風が吹く。
巻くように、撫でるように、その風は落ち葉を舞わせ、空へと吸い込まれていく。
星の光る夜。
果たして、その中に夢はあるのだろうか。
誰もが見上げる未来の虚像図に、笛の音が折り重なるようにして、時が静かに流れて行った。
−1日目−
指笛が聞こえる。
大勢の騒ぐ声をその耳に吸収しながら、ヒューゴ・メリクリウス(eb3916)は2時間程度で風車搭のある集落に辿り着いていた。
既に一度訪れている場所なので、ある程度勝手は知っている。
問題は2つ。
本当に、この集落に『ノエルの輝石』なる石があるかどうか。
そして、この風車搭に住み着いていると言う盗賊団『ジズー』の存在だ。
『ノエルの輝石』がこの集落で見つかったのならば、かなりの確率でその盗賊団が入手しているだろう。
その石の入手を目的としているヒューゴは、必然的に『ジズー』と対峙する必要があるのだ。
依頼人であるニーナの話によると、『ジズー』の特徴は、その連携にあると言う。
個人個人の能力自体は大した事はないのだが、集団での窃盗、或いは戦闘に関しては光るものがあると言う。
『ま、要は一人じゃ何も出来ないから徒党組んでるだけの鼻垂れ軍団って訳だ』
そんなニーナの言には、当を得ている点もある。
集団心理の中には、自らを器以上に大きく見せたいと言う願がある。
そして同時に、責任を分散させたいと言う欲求もある。
掻い摘めば、楽をしたいと言う心理だ。
それは、鼻垂れと呼ぶに相応しい、子供の理論。
だが、中にはそれを逆に増幅させる集団も、稀に存在している。
指揮系統が充実している場合だ。
優れた指揮官が優れた役割を生み出し、それぞれに責任を植えつけている集団は、手強い。
(さて、どうしましょうかね)
暗褐色のコートを身にまとったヒューゴは、闇に溶け込むように、風車搭のそびえるその地から完全に気配を消した。
−2日目−
その森には、少し長い名前が付いていた。
『不良トレントとやさぐれアースソウルのいる森』。
その名の通り、侵入者を無条件で攻撃するトレントと、異様に目つきの悪いアースソウルがいる森だ。
だが、それには理由があった。
心無い者による理不尽な森林伐採。
我欲の為だけに他者を蹂躙し、神から与えられし大地を我が物顔で傷つけるその行為は、森の住民の怒りを買うのは当然の事だ。
今も、その怒りが冷める事はない。
依然として、森の中には侵入者に対して敵意を抱く彼らの姿がある。
その森の入り口の手前に、齋部玲瓏(ec4507)は再び立っていた。
今年の夏、手紙を落としたシフール飛脚の依頼を受け、手紙の回収を行った数日間の事は、今も彼女の記憶に残っている。
「齋部さん、おはよ☆」
「おはよございますです‥‥ふあぁ」
『ふあ〜♪』
そんな玲瓏に、近付いて行く冒険者が2人。
この森には初めて訪れる、エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)とラテリカ・ラートベル(ea1641)だ。
更に、ラテリカに周りには妖精のクロシュが舞っている。
その上空では、玲瓏のペットである鷲の雲居と、ラテリカの隼アルディが輪を描くように飛んでいた。
3人は、施療院建設を目指すシフール、ルディ・セバスチャンの依頼を受け、この森に落ちたと噂が流れている『ノエルの輝石』の探索をしに来たのだ。
森の前にはテントが張られており、見つかるまではそこで寝泊りをする予定でいる。
テントの傍では、玲瓏の愛馬、早雲が白い息を吐いて足元の草を食べていた。
そして、白い息はもう一つ。
「朝は寒いねー」
依頼人であるルディも誘いを受け、付いて来ていた。
それぞれに初日は森に入る為の用意を行ってきているので、準備は万端だ。
玲瓏はまず自身の記憶を辿り、森の地図を作成。
森までの道、そして森周辺の平面図を白布に筆で描き、それを他の2人に渡しつつ、解説を口頭で行っていた。
更にその後、飛脚の仕事を終えたワンダと合流し、空から降ってきたと言う石についての噂を聴取。
そして、ついさっきまで、前回訪問した時との差異がないか、森の周辺の調査と確認を念入りに行っていた。
エラテリスは近隣の村で、森に関する噂の収集を行っていた。
石の事には触れず、森に落し物をしたシフールの依頼を受けたと言う事にして、変わった事がなかったか、何かを目撃しなかったか、などと言う聴取を行った。
また、森林伐採についても、その理由を教えて貰えるようお願いし回った。
そして、ラテリカはまずパリでお買い物。
森で使用する予定の小物類や、野営する際に食するクッキーやスープの材料を買い込んで、玲瓏から貰った地図を参考にこの地を訪れていた。
その道中、会った人や動物に対して、空から降って来たと言う石に関する情報を聞いてきている。
無論、動物に対してはテレパシーを使用している。
これらの行動の結果――――幾つかの事実が判明していた。
まず、森に関しては、季節による変化が顕著だった。
夏の間は青々と茂っていた木々は、微かに白い衣をまといつつも、細かい枝を剥き出しに、何処か神々しさと荒涼さを同居させた光景を作り出している。
森の外からでも、それぞれ木の幹が良く見える。
一方、『ノエルの輝石』に関する情報はと言うと、割と多くの人や動物が目撃していた。
特に、ラテリカが聞いた動物に関しては、犬、猫、鹿、狐と、いずれも森に向かって落ちていく光を見ていた。
勿論、それが『ノエルの輝石』と等号で繋がるとは限らない。
ただ単に、石が天から降って来ただけと言う可能性もあるし、別の何かと言う可能性も否定できない。
いずれにしても、何かが落ちた事は確かのようだ。
加えて、エラテリスが調査した『森林伐採の理由』。
それは、この森林の木を木材に加工し、別荘を作ろうとしていた富豪がいると言う事だった。
ただ、トレント達の抵抗もあり、現在では別荘建築の計画は頓挫していると言う。
「それでは、森に入りましょう。ラテリカさま、エトリゾーレさま、御挨拶を」
「わかりました。玲瓏さんの事、テレパシーでお伝えするです」
「元気一杯挨拶するよ☆」
直接伝わる言葉、そうでない言葉。
それがどうであれ、大事なのは心。
親愛を込めて、挨拶を。
「それじゃ、僕も」
ルディを含めた4人は、それぞれの言葉で森に住む面々への敬愛を言葉に乗せた。
すると――――
てくてくと、少年の姿をしたアースソウルが森の入り口に現れた。
−3日目−
パリから200km以上離れている『ローウェル村』の宿屋は、聖夜祭の飾り付けで煌びやかに賑わっている。
そんな中、昨日の夜ようやく目的地であるこの地に到着したジャン・シュヴァリエ(eb8302)は、この村の宿屋の一階で朝食を取りながら、宿泊客と雑談がてら、『ノエルの輝石』の情報を集めていた。
「ふあ‥‥おはよ」
そこに、欠伸が漏れる口を手で隠しながら、ハンナ・カルテッリエリが現れる。
依頼人である彼女だったが、ジャンの誘いもあり、共に調査に訪れていた。
その目的は、運命の人と出会えると言う『ノエルの輝石』を見つけ、ジャンとハンナの共通の友人であるミリィ・レイナに贈るというものだ。
内心、ジャンはちょっと複雑だったが、自分が落ち込んでいる時に励ましてくれた彼女の幸せを願い、依頼を受ける事にしたのだ。
勿論受けたからには全力で探す。
その為の助っ人も既に呼んであるが、まだ合流までには時間があるようだ。
「ハンナさん。ちょっと良いかな?」
その時間を使い、ジャンはハンナと共に村の郊外に向かった。
――――この依頼を受けるに辺り、ジャンは『ローウェル村』に関する資料を調べていた。
冒険者ギルドにあった一つの報告書を熟読したところ、この村でかつて、一人の狂信者によって村人が皆殺しにされたと言う悲惨な事件があった事を彼は知った。
その時の怨念からアンデッドが住む村になってしまっていたが、冒険者達によって迷える魂は解放され、今はもう復興の兆しを見せている。
冒険者や旅行者用の宿や、憩いの為の広場が作られ、少しずつ、人が集う場所として生まれ変わっているのだ。
そんな村の隅っこに、この村を血で染めた親子の墓がある。
普通ならば、この地で眠る事が許される筈もない二人。
しかし、この村を解放した冒険者達が作ったその墓は、荒らされる事なく、そのままの姿で静かな時を暮らしている。
「優しい人達が集まっている、って事だよね」
ジャンは墓石の前で跪き、精霊に祈りを捧げる。
ハンナもそれに習った。
この村はかつて、精霊信仰の村だった。
ウィザードであるジャンもまた、そうだ。
「‥‥さて、それじゃ聞き込みでもしましょうか」
「りょーかーい!」
ハンナが元気良く頷く中、村の遠くから高速馬車の駆ける音が聞こえてきた。
−4日目−
今日もまた、太陽が沈んで行く。
光が閉じ、闇の時間へと移行していく中、ヒューゴは自分の身体に力が宿るような感覚を覚えながら、風車搭の直ぐ傍の茂みに身を隠していた。
そこで、夕食となる保存食を一口かじる。尚、今回の依頼では保存食は依頼人のニーナから提供されていた。何でも自分の行きつけの食堂で余った物らしい。
風車搭のある集落に着いてから今に至るまで、念入りな下調べを行って来た。
風車搭にいる盗賊団『ジズー』の人数は、全部で十八名。
その中の一人が常に全盗賊の行動を管理しており、彼の命令に従い盗賊達は近隣の集落や旅人達を襲っているようだ。
一連の行動は全て統率されており、それ故にまるで騎士団にも似た規則正しい動きで散って行き、朝になると風車搭に戻って来る。
盗賊達は、主に夜に活動しているようだ。
それは、太陽の沈んでいる時間だけ盗みを行うヒューゴにとっては、非常に都合の良い事実だった。
だが、侵入する上では問題が多い。
インビジブルと忍び足の複合『ステルス』ならば、視覚的にも聴覚的にも存在を消した中で移動が可能だが、扉を開ける事でどうしても存在が把握されてしまう。
盗賊達が扉を開けるタイミングで侵入すればその問題は解決できるが、インビジブルも無敵ではない。
直感力の高い者は高確率で見抜く。
盗賊のような連中は、そう言った能力に長けている者が多く、盗賊が出て行く中、堂々と侵入するのはリスクが大きい。
とは言え、こっそりと忍び込むのも難しい。
風車搭は全部で四階。
その内部はいずれも開けた作りになっており、隠れながら侵入するには困難を極める建築物だ。
もっとも、一度訪れている事もあり、ヒューゴにとってはそれらの事実は想定の範囲内である。
その為、時間を使って侵入の方法を検討していた。
そして、既に結論は出ている。
この風車搭はかつて宿として使われており、一階にはまだその名残が僅かに合った。
その為、盗賊たちも基本的には一階を寝床としているようだ。
ステルスを使用し風車搭の壁まで近付いて聞き耳を立てて確認したので、間違いはない。
同時にそこは下っ端の共有空間と言った感じで、午後から夕方にかけては雑談が良く聞こえてきた。
つまり、盗賊団の殆どは、一階を利用している事になる。
二階は窓がなく、日の光から書物等を守るには都合が良い。
(恐らく、ここに戦利品が収納されているんでしょうね)
ヒューゴは窓のない壁を眺めつつ、そう推測していた。
つまり、一階は盗賊連中が犇いており、二階には目的の場所があると言う事だ。
ならば、導き出される答えは一つ。
上から進入するのが、最も効率的な方法だ。
万が一見つかった場合も、この風車搭に残っている人数は少ない。
逃げやすい環境はある程度整っている。
問題は侵入方法。
以前この場を訪れた時、この風車搭には四階まで外側から上がれる階段が付いていた。
風車守が風車の手入れを行う為に利用していた階段だ。
しかし、この階段がものの見事に壊されており、木製の踏み板は全て取り除かれている。
残っているのは側桁だけだ。
最も、それだけあればヒューゴには十分だった。
クライミングブーツを履き、ロープを上部の側桁に絡ませ、壁を登る。
ステルスも平行して使用しているので、姿を晒す事も、物音もなく登る事が出来た。
問題は、三階と四階、どちらからの侵入が好ましいかだ。
三階には窓があり、そこには日中羊皮紙が張ってあり、夜になると板で閉じている。
つまり今は板張り状態だ。
それでも、板に油を塗ってランタンの火で少し燃やしてやれば、外すのは容易い。
ただし、焦げ臭い匂いでバレる可能性はある。
一方、四階の場合は扉があるので、開錠してやれば良い。
ヒューゴの鍵開けスキルは達人クラス。風車搭の扉くらいなんて事はない。
侵入の難易度を考えれば、四階からの方が遥かに簡単だ。
ただ、問題は――――指令を出しているボスと言う位置付けと思しき盗賊が、どちらの階にいるかだ。
四階にいるならば、扉を開けた瞬間に察知される。
三階にいれば、板が外された時、または燃やす時の臭いで直ぐに知る事となるだろう。
運命の二択。
ヒューゴは、それでも普段通り、飄々と選択し、風車搭の風車にロープを絡めて垂らした。
そして――――三階の高さで止まり、窓の板に油を塗り、火を灯す。
永遠とも言えるような時間が流れる中、闇の中に点る橙色の光の傍で、板が黒ずんで行く。
内部に煙と臭いが充満する前に、速やかに板を外す必要がある。
ヒューゴは注意深く板の状態を観察し、そして――――火を消し、板に触れた。
板はグラグラと揺れる。
それにダガーで突き立て、ゆっくりと動かし、外そうと試みた。
寒風に晒される中、ヒューゴは十分な時間を使い、丁寧に板を外す作業を行う。
十分後。板は外れた。
殆ど物音はしなかった。
そして――――そこから見える塔内に、人の気配はない。
ヒューゴはこの日六度目のインビジブルを使用し、内部に入り、速やかに二階に下りる。
当然、そこに盗賊がいる可能性があるので、急ぎつつも注意深く。
降りたその二階には、人の気配はなかった。
(‥‥ここまでは順調ですね)
予想通り、二階は戦利品の倉庫となっており、様々な箱が置かれている。
そこには芸術品や衣服類、或いは武器や道具が仕舞われてあった。
ヒューゴはその中から石類を探し、それらを懐に仕舞う。
ここで確認作業をするのは、時間的に得策ではない。
見つかるリスクを極力減らすには、一刻も早くアイテムを回収し、脱出する必要がある。
灯りなき闇の中、ヒューゴは夜目と手触りを頼りに石を探した。
そして――――探索の結果、一つの石と巡りあった。
−5日目−
ローウェル村の郊外にある広場に、いつもとは違う光景が広がっている。
『勇敢なる猫達よ、今日も探索を宜しく頼む』
『にゃーにゃー』(任せといて下さい、ボス)
『ふにゃー』(ハイネちゃんの為にやったるでー)
広場にいるのは、大勢の猫、猫、猫。
ジャンの仲間であるケット・シーのアリス・リデルが、彼を救世主と慕うラングドシャの住猫達を引き連れて高速馬車でこの地を訪れて三日目となる今日も、『ノエルの輝石』を探索する為に猫達は村の中、村の外を問わず走り回っている。
その光景をジャンとハンナは頼もしげに眺めていた。
「それにしても凄い数‥‥よくこれだけ集まるものねえ」
「猫の手も借りたい、って言うけど、実際は猫の手こそ借りたい状況だからね」
猫は人が入れない場所も器用に入って行ける。機動力も高い。
ただし、欠点もある。
『ふぎゃーっ』(待てやネズミども!)
『うにゃにゃ』(あっちにツンツンした雌猫がいるぞ!)
好奇心旺盛故に、目的を忘れて脱線しやすいのだ。
数が多すぎる上に行動範囲が広い為、リデルの統率力だけではカバーできない部分もある。
「おーいねこー、こっちねこー」
そしてハンナも脱線していた。
「‥‥ま、良いか。楽しそうだし」
ジャンは苦笑しながら白い息を吐き、自身も石の探索の為の聞き込みを始めた。
既にここ数日で村内の噂は聞き倒している。
ただ、具体的な情報は出てこない。
調査箇所を特定できない以上、猫の行動力に頼らざるを得ない。
だが、無理やり働かせる事はなかった。
彼らはあくまで協力者。強制する訳にはいかない。
「ごろごろー。あはは」
依頼者が率先して脱線を促しているのを横目に、ジャンは捜査を続けた。
そして、午前中は特に収穫はなく、お昼に。
「はーい、お弁当食べましょー」
ハンナは馬車に沢山積んであった保存食を取り出し、それをジャンにも渡す。
現在彼女はダンスユニット『フルール・ド・アムール』の一人として活動しており、診療所の慰労などで色々な所を訪れて、ダンスを披露している。
この地でもそれを行った所、御礼にと食料をかなり頂いた。
何か発見した猫への御褒美も、それが宛がわれている。
「でも、どうせなら手料理が食べたいな。ハンナさんの」
保存食を食べながら、ジャンが照れ臭げに呟く。
「そう? 私のよりミリィのが食べたいんじゃないのー? あの子料理上手だよ」
「そうなんだ。良い奥さんになれそうだね」
「そうね。でもその為には相手がいないと」
この地に来た目的を再認識しながら、二人はまったりとした食事の時間を過ごした。
そして、午後。
『なおーん』(このような物が落ちておりました)
『御苦労。褒美の干物を受け取るが良い』
『うなー』(ありがたき幸せ)
リデルは捜索猫の中の一匹が口に咥えて来た物を受け取り、代わりに魚の煮干を与える。
そして、その発見物をジャンの元に届けた。
これまで、猫達が見つけてきたお宝の数は20を超える。
その内の半分がネズミだった。彼らには忠誠を誓う相手に獲物を届け、自己アピールする習性がある為だろう。
あと半分は、旅行者の落し物やガラクタなど。
宿の主人や落し物の主には感謝されたが、目的の物は見つかっていない。
とは言っても、『ノエルの輝石』がどう言う物なのかはわからない。
ジャンに出来る鑑定は、ミラー・オブ・トルースのスクロールを使い、その足元に水鏡を発生させ、そこに発見物を映し、魔力を秘めた物かどうかを確認する事だけだ。
もし、『ノエルの輝石』が魔力を宿した物でなければ、見極めるのは困難。
尤も、情報が余りに少ないので、その辺りは仕方ない。それっぽい物を探すしかないのだ。
そして――――今回の発見物は、初めて『それっぽい物』だった。
宝石と思しき、美しい石。
光が当たると、光の粒がキラキラと浮かぶ。
ジャンは念の為に宿に戻り、この石の持ち主がいないかを確認して貰った。
その結果、誰かの落し物と言う事はないようだ。
「どきどき、しますね」
改めて、ジャンはミラー・オブ・トルースを使用し、水鏡を発生させた。
そして、ハンナが両手を組んで見守る中、その鏡に石を映す。
すると――――
−6日目−
不良トレントとやさぐれアースソウルのいる森は、鮮やかな陽光で照らされていた。
この地に来て四日目の朝。
この日も、朝露と雪解けの水が地面に滴る中、森の捜索は行われた。
「森の中〜 今日〜もトコトコあるいてく〜 お空から〜 落ちた石どこどこ? 探してく〜 とっとこ とっとこ とっとっと♪」
『とっと〜♪』
ラテリカと妖精のクロシュがくるくる踊るように森を歩く。
そこに、エラテリスも混じり、それを玲瓏が微笑ましそうに見つめている。
歩く先で出会うアースソウル達にはクッキーやミルク、キャンディーを渡し、親睦を図った。
途中、休憩しながら玲瓏の提供した桜饅頭を皆で分けて食べる。
森の中にはとても和やかな空気が漂っていた。
――――かつてこの地を訪れ、親睦の証を渡した冒険者の事を、アースソウル達は覚えていた。
元々、アースソウルもトレントも性格は極めて穏和。
加えて、森林伐採が収まった事もあり、彼らの間に軋轢が生まれる事はなかった。
既に森に危害を加えないとわかっている者と、丸腰の三人。
攻撃的になる理由はないようだ。
特に、玲瓏の存在がかなり大きかったようで、ラテリカがテレパシーで訪問の理由を話すと、寧ろ協力的な姿勢を見せている。
『おはよございますです、トレントさん』
『おはよう。今日も探すのかね?』
森の内部にいる傷だらけのトレントに、4人はお辞儀する。それを真似、クロシュも頭をペコッと下げた。
そのトレントの枝には、ラテリカと玲瓏が用意したリボンや木の実を使った首飾りが結ばれてある。
その友好の証がいたく気に入ったようで、以前とはまるで違う穏和な顔を見せていた。
「それじゃ、クロシュは僕と空から探そっか」
ルディとクロシュは上空へ。
空では雲居とアルディが優雅に待っており、そこに合流していく小さな2つの影が徐々に小さくなっていく。
その真下で、冒険者達は捜索を続けた。
エラテリスはその行動範囲の広さから、縦横無尽に森の中を探し回る。
流石に噂の中に具体的な情報はなかったので、森の住民にラテリカがテレパシーで聞き、捜索範囲を絞っていきながら、日が暮れるまで捜索は続いた。
「ふーっ、中々見つからないね☆」
エラテリスが夕暮れの中、額に浮かぶ汗を拭く。
「夜も探しましょか? あ、でもランタン使えないでした」
「僕がライトを使えるから大丈夫だよ☆ 今日はずっと晴れだけど、明日はどうなるかわからないし、探してみよっか☆」
エラテリスの言葉に、ラテリカと玲瓏が頷く。ルディは申し訳なさそうにお礼を言って感謝を示した。
「みんな、探してますかー?」
そこに、ワンダが飛んでくる。
飛脚にとって非常に忙しい期間である聖夜祭が終わり、ようやく仕事が一段落したらしい。
「ワンダさまには、お久しゅうございます」
そのワンダと四ヶ月振りの再会となった玲瓏は、丁寧にお辞儀をして彼女を迎えた。
「お久し振りですー。鷲さんは元気ですかー?」
「はい、無病息災です。雲居が驚かせてしまった事をお詫びします」
「あはは、そんなの全然良いですよー」
ぱたぱたと飛びながら玲瓏と話をするワンダは、その後アースソウルやトレントにも挨拶をしていた。
その後、再び捜索に出る前に夕食を取る事にする。
ちなみに、今回の依頼はルディがカタリーナから使わない食材をたんまり貰っている為、冒険者達はそれを料理して食していた。
食事中に丁度日が暮れたので、ラテリカがムーンフィールドを使用し、安全を確保。
その中で、玲瓏は自分なりの『ノエルの輝石』についての見解を話していた。
「‥‥石であるとは限らないのでは、と思います。一つとも限りません」
玲瓏は、複数の噂が流れている事に着目していた。
多くの目撃者がいる以上、何かが天から降って来た事は事実である可能性が高い。
が、それが本当に石であるかと言うと、目撃者の証言だけでは断定は出来ない。
「そう言えば、具体的に見た人がいないのに、なんで『輝石』なんだろうね☆」
エラテリスも、余り普段見せない思案顔で首を捻る。
結局、結論は出さず、それっぽい物は何でも集め、玲瓏のリヴィールマジックやリヴィールポテンシャルで鑑定する事にした。
そして、ルディとワンダも交え、暫し歓談を楽しむ中――――ムーンフィールドの外に、アースソウルが現れた。
彼は木の実を五個、冒険者達の前に置き、首を傾けてニコッと笑う。
『これ、ラテリカ達にくれるですか?』
テレパシーで意思疎通をするラテリカに、アースソウルは肯定の意を示した。
『ありがとございますです。お礼にキャンディーどぞですよ♪』
「わー、ありがとう☆ 凄く嬉しいよ☆」
「‥‥」
全身で喜びを表すラテリカとエラテリスとは対照的に、玲瓏は静かに瞑目し、その木の実をそっと拾う。
「では、私からも親睦の印を」
そして、携帯していた茶色の木の実をアースソウルに見せ、ついて来るよう促し、テントの張ってある場所から移動した。
彼女が移動したのは、倒れた木々が並ぶ場所。そこで膝を屈め、木の実を埋める。
「貴方がたから頂いたこの木の実、ずっと大切に持っておりました。私の想いを添えて、森にお返しします。願わくば、芽吹く頃にまた目見えんことを」
廻り廻って、繋がる命。
繋がる心。
その木の実を埋めた、沢山の木の命が消えた場所に、再び宿る命を願い、玲瓏はそっと手を添える。
その手に、ラテリカとエラテリスがそっと自分の手を重ねた。
そこに、ルディとワンダもその小さな手を添える。クロシュはその周りをくるくる回っていたが、皆に習って手を置いた。
『我らも願おう。新たな命の誕生と、心優しきそなた方の再訪を』
その声は、テレパシーを通してラテリカだけに聞こえた。
が、全員が感じる事が出来た。
それは、森そのものの声なのだと。
−7日目−
神聖暦1003年も、この日を含め後三日。
パリの街は聖夜祭の賑わいを惜しむかのように、何処か浮き足立った雰囲気を醸し出している。
来る新たな年へ向けての期待を不安が、独特の空気を醸し出しているようだ。
そんな日の夜。
聖夜祭を『石の探索』と言う相当に地味な作業に費やしていた冒険者の面々は、その時間を巻き戻すように、パリの宿屋『ヴィオレ』を貸しきり、慰労パーティーを行っていた。
「も少しハーブを入れると、すっきりまろやかなお味になるです」
「うあ、ハーブが切れてる‥‥」
「これをどぞ。誰も怪我しなかったですので、使わなかったですよ」
「ありがとー。助かる〜」
ラテリカは宿屋の娘カタリーナの隣で、パーティー用の食事の作成を手伝っている。
その傍らでは、ルディが森で手に入れた薬草を楽しそうに区分けしていた。
食堂のテーブルでは、ジャン、ヒューゴ、エラテリス、玲瓏、更にはニーナとハンナも加わって歓談が行われている。
結局――――『ノエルの輝石』と思しき石は見つからなかった。
ヒューゴとジャンの手に入れた宝石はいずれも魔力を宿してはおらず、森ルートの三人は石らしき物を見つける事は出来なかった。
「残念ですが、仕方ないですね。ま、報酬はこの宝石でお釣りが来るくらいですから、今回のお金はお返ししますよ」
「ホント? じゃ、その分のお金は今日の飲み食い代に足しちゃおっか!」
ヒューゴはその石を拾った事にしていた。
盗品を更に盗んだ代物を依頼人に渡すのは問題があったからだ。
もしその宝石をニーナが売れば、何処かで問題が生じる可能性がある。
尤も、実際にはその可能性はゼロなのだが。
「あのー、シフール便を頂いてやって来ました」
「おいしいものたべられるってきいてやってきたのです!」
そこに、ジャンが呼んだ恋花の郷、その村と現在提携を結んでいるリヴァーレと言う村の面々、ニーナの知り合いの子供達も加わり、宿屋『ヴィオレ』は沢山の人々で賑わう事になった。
「はーい! 究極の鍋フルコース、たんと味わってくださーい!」
「すすすっごい量だよ?! これ全部食べていいのかな?!」
エラテリスが興奮を覚える中、テーブルは鍋を始め、ラテリカの作ったお魚のソテーやかぼちゃのケーキなどがぎっしり並べられていく。
「もっちろん! まだまだ作るから満腹になるまで!」
「それじゃ、遠慮なく頂くね☆ まず元気鍋☆から食べよっかな☆」
エラテリスがその名の通り元気の出る鍋の蓋を開けると、湯気が勢い良く天井へと登っていく。
「この死海鍋は僕が考えたんだ。よそってあげるから食べてみて」
「わーい! いただきまーす!」
ジャンが子供達に鍋をよそう中、ヒューゴは器用に魚の骨を取り、黙々と食べていた。
「ヒューゴ様はお魚の食べ方が大変お上手ですね」
それを玲瓏が感心しながら眺めていた。
そして、それらの光景を包み込むように、ラテリカが少し遅い聖歌を奏でる。
賑やかなパーティー。
賑やかな人達。
目指した物は見つからずとも、或いはそれ以上の物がここにはある。
「ノエルの輝石‥‥か。これだけの出会いがあった事そのものが奇跡だったのかも」
子供達の笑顔を見ながら、ジャンが感慨深げに呟く。
実際、それはそうだったのかもしれないと、誰もが心の中で首肯した。
そんな中、妖精のクロシュがぱたぱたとテーブルの上を舞っている。
賑やかなこの場を楽しむようにくるくると回って喜びを表現しているようだ。
「はーい、次の鍋到着ー!」
その真下でカタリーナが鍋の蓋を開ける。
すると、その湯気がクロシュを包み、小さな妖精は驚いてラテリカの元に飛んで行った。
「あ、ゴメン! 大丈夫?」
「だいじょぶですよー。クロシュ、大人しくしてるですよ」
「ですよー」
妖精のそんな声が場を和ませる中――――ポチャン、と言う音と共に鍋の水面が揺れた。
それは、妖精の落し物。
そして同時に、天の落し物だった。
人の目には中々見えないような、小さな小さな輝石。
一同は水面が揺れた鍋を凝視し、次の瞬間、皆で一斉に鍋のスープを小皿に取り分けた。
斯くして――――ノエルの輝石は、森の探索者の発見物として、ルディの手に渡る事となった。
――――同時刻。
「‥‥ここは一体どこなんだーーーっ! うわっ雪崩が、大声出したから雪崩がーーーーっ!」
パリから100kmほど離れた山に、とある遭難者の咆哮がこだましていた――――