盗賊撲滅運動勃発!
|
■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月16日〜01月21日
リプレイ公開日:2009年01月24日
|
●オープニング
年が明けると、何かが変わる――――と言う訳ではない。
変わるとすれば、それは人の心。
そんな些細な切欠でも、タイミング次第では煽動となる事もある。
リアン街はまさに今、そんな状態だった。
「今こそ、我らが一つになる時!」
「おうさ!」
「この街を蹂躙せし盗賊どもを一掃し、健全なる日常を奪還せん!」
「おうさ! おうさ!」
早朝、まだ太陽が昇る前に、リアン街のとある広場で決起集会が開かれている。
この街には盗賊が数多く潜伏しており、その餌食となった者は数知れない。
そんな被害者達には共通の特徴があった。
いずれも経済的に豊かな富裕層なのだ。
中には余り流行っていない店が犠牲になる事もある。
だが、そう言う場合は大抵、何処かに財産を隠していたり、別の仕事で上手く行っていたりする。
その為、これまでは盗賊の被害にあっても、本格的に対策を立てようと言う者は殆どいなかった。
しかし――――その傾向が、最近徐々に変わりつつある。
それは、リアン街の商人ギルドと鍛冶師ギルドが二ヶ月ほど前に冒険者の協力の中で盗賊対策を施してからだ。
防犯意識を持った者が増え、見回りも毎日行うようになった事で、犯罪件数は一時激減した。
ただ、それ以降は寧ろ増えているのだ。
それは、対策が破られていると言う訳ではないらしい。
対策を怠っている家が狙われてしまったのだ。
と言うのも、富豪しか狙わないと言う噂は街民の間で密やかに伝わっており、余りお金を持たない連中や店は危機感を持っていなかったのだ。
にも拘らず、その法則は破られ、見境なく盗賊被害が発生した事で、街全体は急激にその危機感を増幅させていた。
「しかし、どうすれば良いのか全くわからないのである!」
「おうさ!」
「そこで、今日は皆で一緒に考えようではないか!」
「おうさ! おうさ!」
こうして、余り発展性を帯びていない決起集会は寒空の下で進行していった。
同日、午後――――
「さ〜む〜い〜」
リアン街を席巻している盗賊カルラは、リアン街のとある飲食店のテーブルでガタガタ震えていた。
属している結社での緊急の話し合いにも参加せず、料理が来るのをひたすら待っている。
「はーいお待ちどう」
届けられた皿を、カルラは目を輝かせて受け取る。
ミルクを大量に使ったスープ。
彼女の数多い好物の一つだ。
「いーねー、やっぱ冬はスープだねー。この前食べた鍋も美味しかったけど」
「鍋なんてやってるお店あるの?」
「パリの宿屋にね‥‥あー、うまー」
目を線にしてスープを堪能するカルラを、店員の女性は満足げに眺めていた。
「ところでニーナちゃん」
ちなみに、カルラは盗賊としての彼女の暗号名のようなものだ。
一般人として暮らしている時は、ニーナと言う名前を使っている。
こちらは親が付けたらしき名前。
どっちが本当の名前かと言う区別は、カルラの頭の中にはない。
「あにー? あのガキどもの面倒見るのはヤだかんね」
「あらそう? 皆貴女に懐いてるんだけど」
「あいつら遠慮ってのを知らないんだもん。この前はパリの宿でかくれんぼして、食料の貯蔵庫なんかに隠れたもんだから中の材料ぐちゃぐちゃになって、宿のおねーさん気絶してた」
店員の女性はあー‥‥と唸りつつ苦笑いしていた。
「いつかまた遊んであげてね。で、話ってのはそれじゃなくて。盗賊の事」
スープをすくっていたカルラの手が、ピタッと止まる。
「前は裕福なとこだけ狙われてたんだけど、最近は見境なしみたいでね。つい最近も知り合いの酒場がお金取られたって。どうしたものかしら」
「‥‥」
「ニーナちゃん?」
店員の声に、カルラはハッと我に返った。
「ああ。防犯ね。それなら商人ギルドにでも聞けば? 最近張り切ってるみたいだし」
「そう言えば、一度そう言う呼び掛けがあったような。ありがと、そうしてみるね」
店員はカルラに手を振り、奥に戻った。
その様子をぼーっと眺めつつ、カルラは目を細める。
ニーナと呼ばれている時間には余り見せない表情。
「‥‥お金? そんな物盗る奴、ウチにはいないぞ?」
そして、富裕層やお宝を隠し持っている者以外から盗む者も。
カルラは確信し、飲食店を出た。
そして、金緑石の短剣が眠る懐に手を入れ、力を込める。
「私達以外の盗賊がこの街を汚してる、って事か」
それは、この街の盗賊の流儀に反する行為。
だがそれ以上に、カルラには気に入らない事があった。
何の節度もなく、ただ奪うだけのその行為。その思想。その強欲。
「ムカつくなー‥‥どうしよっかな」
その足は、結社のアジトには向いていなかった。
一方、決起集会のあった広場では――――
「もーぜんっぜんわっかんないので、冒険者の方々に捜索依頼を出すぞー!」
「おうさ!」
「ついでに戦って倒して貰うぞーっ!」
「おうさおうさおうさーっ!」
何かそう言う感じの結論になった。
●リプレイ本文
リアン街郊外――――とある織物屋の対面に建つ民家の屋根の上。
そこに、二つの人影があった。
風になびく髪を押さえながら、二人はその織物屋に入って行く集団を伺っている。
「連中に何の用だ?」
その背後――――僅か数mの位置に、リスター・ストーム(ea6536)は立っていた。
「別に用などありませんよ。見ているだけです」
リスターに背中を見せている二人の内の一人が、静かに告げる。
男声だった。
「大方、様子を探ってるんだろうが‥‥邪魔はするな。お前達に手を出す予定はねえ」
「へっ、偉そーに」
もう一人が女性の声で悪態を吐くと同時に、リスターは目を細める。
だが声は荒げない。殺気も一切放たない。
その必要もないのだから当然だ。
「止めておきましょう。彼と事を構える必要はないようです」
「そう言うこった。ま、馴れ合う気もないみたいだから、ここはお互い無干渉って事にしねえか?」
「良いですよ。元よりそのつもりですしね」
「おい、勝手に‥‥」
女の方が不平を訴える中、男の方はその頭を押さえるようにして諌めている。
たまに見える二人の横顔は、仮面で覆われていた。
「交渉成立だな。じゃ、そこをどきな」
これ以上ここにいる意味はない。
リスターは皮肉げな笑みを浮かべつつ、二人の横を素通りして屋根の上から身を投じた。
その三日前。
商人ギルドの依頼を受けた冒険者達は、表立って動く集団と、裏側で動く集団の二つに分かれていた。
表側の仕事を請け負ったエイジ・シドリ(eb1875)、ローガン・カーティス(eb3087)、シャルウィード・ハミルトン(eb5413)の三人は、綿密な話し合いをした上で、商人ギルドや衛兵詰め所等に聞き込みを行っている。
目的は、最近の盗賊の手口と、以前のそれを再調査する事だ。
「‥‥やはり、腑に落ちない」
以前この街を訪れ、防犯対策を施したローガンは、見回りを行っているギルドの人間や自警団の話を聞き、疑念を深めていた。
明らかに、犯行の性質は変化している。
「上手く盗めなくなったから、狙いやすいとこに目標を変えた‥‥って話じゃないのか?」
突出した戦闘力を有しているシャルウィードは、他二名の護衛を担当。ローガンと並行する傍ら一般論を述べる。
確かにその可能性はないとは言い切れない。
「対象が変わり過ぎている。それに、あっさりと目標を変えるくらいなら、そもそも信念とも言えるような偏った盗み方はしないだろう」
「まー、確かに極端っちゃ極端だよな。どっちにしても捕まえてみりゃはっきりする事だけどさ」
シャルウィードが指を鳴らして微笑む中、エイジがそこに合流する。
彼は最近被害にあった家や店を訪れ、まだ痕跡が残っている所から使用道具、手口を割り出す作業に着手していた。
「犯行現場がそのまま保存されていた家はなかったが、話は聞けた。やはり傾向は変わっているようだ」
エイジの集めた情報によると、盗みに入られた建築物全て、あらゆる家具に引っ掻き回した痕跡があったと言う。
机の引き出しは全て開けられ、積んでいた羊皮紙はばら撒かれ、花瓶は割られていて――――と言う状況だったようだ。
盗んだ事を示す印などのような自己主張の証や足跡は流石になく、盗まれた物は金銭から宝石などの金目の物まで、一般的に盗賊の標的として認識される物全般だ。
「もう少し調べてみよう。活動時間、範囲、手口‥‥傾向を確認し、分析した上で、予想通りと言う結論であれば‥‥」
「例の件を実行、か」
ローガンとエイジが今後の確認をし合う中、シャルウィードは欠伸をかみ殺していた。
翌日。
シャルウィード、エイジ、ローガンの三人は、同じように調査を行っていた。
しかし、前日の調査から既に一つの結論を得ていたりする。
あれから更に調べた結果、犯行時刻、手口共に傾向が変化している事がわかった。
まとめると――――これまでは夜のみ、しかも盗まれた本人が気付くのに暫く時間が掛かるほど、犯行現場は綺麗だったと言う。
それが、標的の傾向が変わったと同時に、犯行時刻はバラバラ、手口は荒々しくなっていると言う。
ここまで極端ならば、別の盗賊の仕業だと判断するのが妥当だ。
では、その結論が出たにも拘らず、何故調査を続けているのか?
それには理由があった。
これは『餌』なのだ。
そしてもう一つ――――
「お待たせしました」
街頭を歩いていた三人に、艶やかな化粧をした女性が加わる。
ジャパンの女性で、鮮やかな黒髪が風になびく様は、リアン街の通行人を振り向かせるほどの器量だ。
「あー‥‥えっと、今度は売れたか?」
シャルウィードの問いに、女性は首を横に振る。
「慣れないゲルマン語で交渉したのですが‥‥この金塊には余り価値がないのでしょうか」
そして、その言と共に、包んでいた荷物を取り出す。
そこから出てきた石は、金色に光り輝いていた。
「いや、そんな事はないんじゃないか? 少なく見積もっても10Gは下らない筈だが」
エイジの言葉に、ローガンも同意を示す。
それを聞いた女性は控えめに微笑む。
「それを聞いて安心しました。では、次のお店を探します」
「私達も同行しよう。交渉はどんな姿勢で行っている?」
「はい、それはもう一歩も譲らない構えで‥‥」
話しながら、四人は中央街を標準速度で歩いて行く――――
同時刻。
その四人から一定の距離を置いたところに、ヒューゴ・メリクリウス(eb3916)がいた。
四人が表立って動く事で、それに対しての偵察を行いに盗賊がやって来る可能性がある。
また、偵察でなくとも、女性――――尾上彬(eb8664)が人遁の術で変装した姿で所持している、『金塊』に見せかけた『愚者の石』を狙いに盗賊が寄って来るかもしれない。
その偵察者を尾行すれば、労せずにアジトを突き止める事が出来るだろう。
二種類の餌を混ぜた二重尾行と言う形だ。
これを成功させるには、三つの要素が必要となる。
一つは、当然偵察者が現れる事。
商人ギルドが依頼を出しているので、察知する事は容易く、既に冒険者が動いている事を盗賊達が把握している可能性は極めて高い。
よって、可能性としては高いと言える。
二つ目は、ヒューゴが偵察者に気付かれる事なく尾行を続ける事。
インビジブルを使用する手もあるが、直観力の鋭い相手にはやや分の悪いこの魔法は、行動を制限されると言う負の要素もある。
専門家に対しての尾行には使い辛い。
それも考慮し、ヒューゴは自力での追尾を行う予定でいた。
気配を絶つ能力には優れているので、気付かれる恐れは少ない。
リアン街の地理も、ある程度頭には入っている。
後は、標的を待つのみだ。
そして――――三つ目は、盗賊の判別だ。
盗みを行っているのが以前とは別の盗賊である可能性が極めて高い中、今回の依頼で捕らえるべきは後者。
無論、全ての盗賊が駆除されれば、一般人にとってはありがたい事だ。
しかし、藪をつついて大蛇が出てくる可能性は否定できない。
まず、明らかに犯行レベルの劣る『最近活発な方の』盗賊を駆除するのが、現在の状況を好転させ、尚且つ安全に事を運ぶ上で最も効率的だ。
ヒューゴは時を待つ。
そして――――
(‥‥来ましたか)
陽が徐々に傾いて来ている時間帯。
ヒューゴの視界に、不自然に気配を消した男の姿が入った。
その日の夜。
リスターは夜のリアン街を漂うように歩いていた。
目的は、見回りと警備体制の確認。
夜と言う時間を選んだのは、盗賊にとって最も活動しやすい時間だから。
(‥‥と、盗みに美学を持てない三流は考える)
リスターはリリスマスクで覆われた顔に笑みを浮かべる。
状況から、この街で積極的に盗みを働く盗賊が変わったのは明らか。
それも、明らかな劣化だった。
だが、それは『同一の集団』の中での変化なのか、『別の質の低い集団』が新たに現れたのかは定かではない。
もしかしたら、同集団の中から派閥が分かれた可能性もある。
分け前の少ない足手まといだけで徒党を組み、大元とは別の行動を行う。可能性は十分ある。
これは重要で、もし前者であれば、仮にアジトを発見したとしても、必ずしも踏み込む事が得策とはならない。
以前からいた、質の高い盗賊がそこに屯っているならば、厄介な事になりかねないからだ。
リスターは集中を深める。
以前の手口は兎も角、今動いている盗賊は明らかに三流。
だからこそ、その手の低俗な盗賊がいかにも狙いそうな家の付近を見回っている。
この状況でもまだ防犯意識の薄い、それなりに金のある家。
美学のない盗賊が狙うなら――――
(‥‥だろうな)
やはり、そう言う家だった。
物音こそ立てないものの、僅かな気配が民家から出ていく何者かの姿がリスターの視界に移る。
無論、住人の可能性もあるのだが、それは直ぐに消える。
足音を立てずに走り去る理由は、住民であれば皆無だろう。
リスターは舌を出すような心境で、それを追った。
そして――――二日後。
冒険者達はとある場所を訪れていた。
ヒューゴとリスターが別々の手口で発見したアジト――――それは、郊外にある織物屋。
表はただの織物屋だが、その実は盗賊が屯する隠れ家となっている。
アジトに関しては二人が既に一日がかりで調べており、出入りする盗賊は身のこなしや佇まいから、特筆すべき能力を有した者はいなかった。
この事から、以前の盗賊とは『全く別の集団』である可能性が極めて高い事が判明。
しかし念には念をと、アジトを襲撃する前にローガンは一案を投じていた。
被害にあった家の場所から、連中の活動範囲を予測し、その範囲内にある盗みに入りそうな家の者と交渉し、空き家にして貰っていたのだ。
そこには餌として、金と酒を自然な保管場所に置いておいた。
今日この家が一日中留守になると言う事も、情報屋を使ってそれとなく最寄りの酒場に流している。
案の定、この日の午後にその家に乗り込んだ盗賊連中は、ローガンとエイジが提供した全ての酒類を持ち帰り、今頃は酒盛りをしている事だろう。
「そこまでする必要もなかったんじゃないか?」
両の手を念入りに回しながら、シャルウィードが余裕の笑みを浮かべている。
実際、もしかなりの腕の盗賊が複数いたとしても、戦闘で彼女に傷を付ける事すら困難だろう。
「そうかもしれないが、取り逃がす可能性を極力低くしたい。バイブレーションセンサーで人数も調べておこう」
ローガンは引き締まった表情で答え、魔法を施行する。動くものの数は12のようだ。
「やれやれ、遅れちまったな」
そこにリスターが合流。
「待ち人には会えたのか?」
彬の微笑みつつの問いに、リスターは笑みだけを返した。
それを確認し、彬は視線を織物屋の入り口に向ける。
「さて、まずは罠の確認から行うとしよう。エイジ、ヒューゴ、手伝ってくれ」
「了解した」
「さっさとやってしまいましょうか」
アジトに仕掛けられていた罠は、彼らにとっては何と言う事もない平凡なものだった。
膝の高さに張られた、一本の糸のみ。無論、これに触れれば鳴子のような物が音を経て、侵入者がわかると言うものだ。
中から聞こえる騒ぎ声にも集中力を乱す事なく、全員がそれを跨ぐ。
そして、明かりの漏れる奥の方に赴き、彬が春花の術を使用。レミエラの効果で5m先まで効果が生まれるその香が、盗賊の集まる部屋に漂う――――
「‥‥全員息を止めろ!」
盗賊の誰かがそれを叫んだ瞬間が、戦闘開始の合図だった。
まずシャルウィードが一文字を手に特攻。
慌てて対応する盗賊達は、それでも彼女にナイフを投擲し、戦闘体制を作る。
それを首の動きだけで回避したシャルウィードは、一文字を抜いて構えを取る。
その圧に、酒で思考力が低下している盗賊達であっても、直感が働いた。
それは――――死。
「死にたい奴から掛かってきな!」
シャルウィードの咆哮に――――応える者はいない。
全部で十余名いた盗賊の内、五名は即座に逃げを打った。
ある者は窓から、ある者は逃走用に仕込んでいたと思しき壁の抜け穴から脱出を図る。
しかし、それを取り逃がす程、冒険者達のツメは甘くない。
「行動、判断、おつむの回り。何もかも遅い」
抜け穴から出て来た二人の盗賊を、リスターが見下すように呟く。
それに激昂したのか、盗賊は懐から短剣を取り出し――――
「‥‥それも遅いな」
盗賊達が腕を伸ばしきる前に、そしてその呟きが全て空気に触れる前に、リスターのスタンアタックは二人の意識を奪った。
一方、窓から逃げようとした盗賊三人の内一人は、飛んだ刹那にエイジが建物内から放った縄ひょうの縄に足を取られ、そのまま落下。
更に、エイジは荷物の中から適当な物を投げ、それが盗賊の後頭部に直撃し、そのまま倒れる。
残りの一人はどうにか逃げようとするも、暗闇に紛れて待ち構えていたヒューゴに足を掛けられ、転倒。
此の間、僅か一分弱。
残りの盗賊は、まだ部屋にいるが‥‥
「うぃ〜、ひっく」
「ぐおーっ」
泥酔状態の者三名、春花の術で爆睡中の者四名。
捕り物は終了した。
「味気ねぇなあ‥‥せめて毒とか警戒させるくらいの事させろよ」
シャルウィードが不満げに、気持ち良さげに眠る盗賊の頭を小突く。
実際、普通の状態ならもう少し対応も素早かっただろうし、抵抗も出来たのだろう。
しかし、酒+眠りの術によって、彼らの戦闘力は大半が削られていた。
「火を使わずに済んだのは良い事だ。それに、まだ‥‥」
ローガンは警戒を崩さず、辺りを見回す。
建物の外で倒れているのは――――
「一人足りないな」
同時に、エイジも呟く。
懸念が一瞬広がるが、それは杞憂だった。
「ひぃぃ、お助けを」
残りの一人は、既に起き上がっていて、その目の前にいた彬に命乞いをしていた。
その手に絡まった数珠を掲げて、拝むように。
「ん‥‥あれは俺が投げた物か。妙な使われ方をされたな」
「先に妙な使い方をしたからじゃないですか? 仏教徒がいたら『何と言う罰当たりな』と言われる所ですね」
エイジの言葉に、ヒューゴが笑いながら呟く。彬も失笑気味に破顔した。
「生憎、俺は修験だが‥‥まあ良いか。その代わり、知ってる事は全部喋れよ」
暗闇が支配する時間、なんとも脱力した空気が織物屋の周辺には漂っていた。
それを別の建物の屋根の上から遠巻きに見ていたカルラは、満面の笑みを浮かべている。
彼女にとって、何の信念もなく盗みを働く盗賊は、同属どころか侮蔑の対象。
それを排除した冒険者達に対し、カルラは実は感謝すら覚えていた。
何故なら――――彼女自身、この街を守る為に動き回っているのだから。
「さーて、帰って寝よっかな」
月明かりすらない闇夜を駆け、少女はその場を離れるのだった。