光と闇 〜れっつ村おこし〜
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■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:8人
サポート参加人数:5人
冒険期間:01月21日〜01月28日
リプレイ公開日:2009年01月29日
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●オープニング
パリから50km離れた場所にあるその村は、1年前には今にも消え入りそうな過疎地帯だった。
それが、今では『恋花の郷』と呼ばれ、雪に覆われているこの季節であっても、パリをはじめ様々な地域から観光客が押し寄せる村となったのだから、世の中何があるかわからないものである。
そんな中、『恋花の郷』村長宅では、つい先日提携契約を交わしたばかりの『リヴァーレ』と言う村との合同企画に関する話し合いが行われていた。
「わざわざ村長さんがお越し頂かなくても‥‥」
そう恐縮する『恋花の郷』村長ヨーゼフ・レイナの孫ミリィに、『リヴァーレ』村長パウル・オストワルトは穏和な笑みを浮かべ、出されたお茶を受け取る。
「フン。ふらふらで現れよって。もう足腰が立たない年齢になったか?」
「ぬかせ」
和解はしたものの、村長2人の減らず口は相変わらずだ。
それが、2人にとっての交流なのだろう――――ミリィはそう把握し、苦笑しながら場を外した。
現在、双方の村では積極的に村民の行き来を行っている。
これまで交流がなかった為、距離にして20km強にもかかわらず、多くの子供がお互いの村に一度くらいしか行った事がない。
半年ほど前に双方の村で奇妙な対抗戦が行われていたが、その時に初めて訪れた者がかなりいたくらいだ。
「協力する以上はお互いの村を知る必要がある。そこで、出来る限り双方の村を行き来しやすい環境を作りたい、と言う事だな」
ヨーゼフの言葉に、パウルがコクリと頷く。
現在、この『恋花の郷』には、定期馬車のような交通の便がない。
収穫祭や聖夜祭など、祭りの際に臨時で出して貰う程度だ。
それを改善し、子供達であっても気軽に行き来できる環境を作りたい、と言うのがパウルの主張だ。
リヴァーレには馬車を持っている村人もいるが、あくまで個人の所有物。
定期的に出す事は出来ないらしい。
「確かに、それは必要だ。だが今この村には余り経済的余裕がない」
「何故だ? パンで随分と儲かったと聞くぞ」
「その金で、学校を作っている」
現在、『恋花の郷』では幾つかの学校を建設している。
それは、子供の為の教育施設である通常の学校。
そして、パン職人を育てる為のパン職人学校。
既に建設には着手しており、同時にパン職人学校においては生徒の募集も行っている。
「ふむ‥‥ならば仕方ないな。教育は重要だ」
「出来るだけ金の掛からない方法を考えるとしよう。交通も同じくらい重要だからな」
両村長は同時にお茶をすする。
「ところで、この村は観光できる場所はどの程度ある?」
「なんだ、藪から棒に」
パウルの言葉にヨーゼフは顔をしかめ、眉間に皺を寄せる。
「早ければ来週にでも、子供達を連れてこようと思ってな。自腹を切って馬車を借りた」
「そうか。それなら‥‥」
そこまで話し、ヨーゼフは口をつぐむ。
幸い、現在の『恋花の郷』には、有志の尽力によって観光スポットはかなり多く存在している。
そして――――そこに1つ、未だ村人にとっても解明できていないものがある。
山林地帯にある遺跡だ。
半年以上前に見つかって以降、何度か調査は行ったものの、中に入ることは適っていない。
「‥‥そうだな。あれも観光名所の一つに加えてもいいかもしれないな」
「?」
ヨーゼフの言葉を、パウルは首を傾げて聞いていた。
その日の夜――――
「‥‥随分、まずい事になったな」
山林地帯の奥に佇む遺跡の前で、2人の人物が腕組みをしている。
その内の1人は全身を黒いローブで包んでいた。
「この遺跡に注目が集まらぬよう、村から人が遠ざかるように細工を施してきたが‥‥」
「明らかに事態は悪化していますね。我らがあの男を追っている間に随分と発展したものです」
黒ローブの者と対峙するのは、目を白い布で覆い隠している女性。
その耳は髪で隠れており、見えない。
「どうする? 以前のように人を雇い、パンにクレームを付けさせる手で行くか?」
「もう間に合わないでしょう。今やパリのシャンゼリゼのメニューに加わっているパンもあるのです。それより、別の方法を考えましょう」
女性は含み笑いを浮かべ、乾いた唇にそっと指を乗せた。
「神隠しの村‥‥そう呼ばれるようになれば、村は再び過疎化すると思いませんか?」
一羽の鳥が飛び立つ。
同時に、月夜の下で木々がざわめく。
大きな月に影が一つ、小さく浮かび上がった。
◆現在の村のデータ
●村力
760
(現在の村の総合判定値。隣の村の『リヴァーレ』を1000とする)
●村おこし進行状況(上記のものほど重要)
・山林地帯に『魔力を帯びていない』遺跡あり
・子供達の為の学校、パン職人学校を建設中。
・リヴァーレとの交通を整備予定。
・観光客増加中。パン職人は随時募集中。
・第二回公式昆虫レース『パルトン!2』開催予定。
・デートコース『恋の花咲く小径』で行う冬のデートイベントのアイディアを募集中。
・月に二度パリまでの移動販売を慣行中。
・村娘がダンスユニット『フルール・ド・アムール』結成。定期的に公演中。
・冒険者酒場のメニューに村発のパン『シトロン蒸しパン』『炭焼きチーズパン』が採用。
●人口
男145人、女112人、計257人。世帯数84。
●位置
パリから50km
●面積
15平方km
●地目別面積
山林75%、原野20%、宅地3%、畑2% 海には面していない
●リプレイ本文
「るんたった るんたった ゆーきのみち♪ まんまーる おつきさまに つーづいてる♪」
恋花の郷の中央広場で、ラテリカ・ラートベル(ea1641)が歌いながら雪の畝を作っている。
そこに長細い板を乗せ、その上をバランスを取りながら最後まで歩き切るというレースを行う為だ。
昆虫レースの冬編と言う事で、参加する子供達には帽子やマント、木の枝などで昆虫っぽい格好をして貰う予定だ。
恋花の郷チームとリヴァーレチームに分かれ、相手チームが歩く時は雪玉で攻撃可。
1人でも多く最後まで辿り着いた子供の多い方が勝ちと言う遊びだ。
「るんたったー るんたったー♪」
その傍らでは、エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)の呼びかけで集まった子供達が、ラテリカと共に歌いながらスノーマンを一生懸命作っている。
「あ、そっちいっちゃだめだよー☆」
エラテリスは子供達の引率がてら、自身も雪玉を転がしている。
「とても可愛らしい歌ですわ♪」
子供達に囲まれながら雪掻きをしているエレイン・アンフィニー(ec4252)も、暫しその歌声に聞き入っていた。
雪を集めて転がしているのも、催しの為の準備。
『雪像コンテスト』と名付けたそれは、各々が雪像を作成し、リヴァーレの子供達に評価して貰うと言うものだ。
テーマは『動物』。それぞれの好きな動物を雪で作るのだ。
また、沢山作ったスノーマンの一つに、恋のおまじないを描いた小さな木札を持たせている。
気がついた子供に読んで聞かせる予定だ。
「気付いてくれると嬉しですねー」
「ダメな時は、ボクが近くで踊って目を向けさせてみようかな?」
ラテリカとエラテリスが微笑み合う中、エレインは両手に白い息を吹きかけながら、とある方向に目を向ける。
「リヴァーレと言えば、両村の交通を整備したいと言う事でしたが‥‥」
その視線の遥か先にある村、リヴァーレ。
5日後に訪れる子供達は、リヴァーレ村長パウルが引率し、個人所有の馬車で来る事になっているが、できるならば毎日決まった時間に乗合馬車を運行させたい、と言うのが両村の願いだった。
「ボクはカルテッリエリさんに心当たりがないか聞いてみるつもりだよ☆」
「他のみなさんも、色々考えてる言ってたですよー」
「――――牧場を作る、ですか?」
遺跡の前で佇んでいるアーシャ・イクティノス(eb6702)が復唱すると、ミカエル・テルセーロ(ea1674)はコクリと頷いた。
「土地さえあれば、ですけど。ライラさんは春に向けて原野を開拓してみては、と仰っていました」
現在、彼らはそのシャクリローゼ・ライラ(ea2762)がリヴァーレから帰ってくるのを待ちながら、村間の交通について話し合っている。
「やっぱり馬車ですよね。実は知り合いの方に中古販売とか貸し馬車業者の見積もりをお願いしてるんですよー」
「あ、アーシャさんもですか。実は僕もなんです」
アーシャはギリアム・ギルガメッシュに、ミカエルはラファエル・クアルトに頼んで、それぞれパリや競馬村で調査を行って貰っていた。
更に、この村には何度も足を運んでいるジェイミー・アリエスタや、シャクリローゼの知人であるアイリリー・カランティエもパリで馬や馬車に関する情報を集めている。
その報告は近い内に届けられる予定だ。
「いずれにしても、馬車が走る需要を作る事が必要だと思いますよー」
2人の頭上に、パール・エスタナトレーヒ(eb5314)がゆっくりと舞い降りる。
パールの案は、荷馬車と乗合馬車を兼ねた大型馬車を1日2回往復させる、というものだ。
その際、恋花の郷からリヴァーレにはパンや日用品などを送り、リヴァーレからは酒類、魚加工品などを恋花の郷に送る。
双方の弱い部分を補う交易をその馬車で行いつつ、その荷物を届けるついでに、双方の村に用事のある者を乗せようと言うのだ。
例えば、リヴァーレから恋花の郷の学校に通うと言う事も可能だ。
「後、間に休憩所を設けたいところですね」
「成程。それなら多少年を取った馬でも大丈夫ですね」
「只今戻りましたわー」
そこに、遺跡の周りを調べていたジャン・シュヴァリエ(eb8302)と、リヴァーレから戻ったシャクリローゼが合流する。
シャクリローゼの聞き込みによると、双方の村にこの遺跡を知る者はいなかったとの事だ。
梟と鷲が周囲を監視する中、改めて全員が遺跡に目を向ける。
その外見は以前と何ら変化はない。
そんな中、初めてここを訪れたアーシャは好奇心旺盛な目でその建造物を眺めている。
「すいませーん、ちょっと水鏡の指輪を試してみたいのです」
アーシャは他の者達に許可を取り、遺跡の正面に立って指輪に念を送った。
「僕も見たいな。アーシャン、隣良い?」
「はーい」
そこにジャンも加わり、ミラーオブトルースのスクロールを広げる。
既に魔力の有無は調査済みなので、あくまでも目的は風景を楽しむと言うもの。
アーシャは膝を屈め、遺跡の最も美しく映る角度を検討していた。
「はー、ロマンチックです〜。光っていれば尚素敵なのですが」
「‥‥え?」
頬に手を当ててうっとりとしているアーシャの言葉に、シャクリローゼは驚きを露わにした。
「確かこの遺跡、魔力を帯びて‥‥」
そう。彼女が以前調べた際には、遺跡は魔力を帯びていた。
それならば、ミラーオブトルースの水鏡に映る遺跡は光って見える筈なのだが――――
「‥‥光ってませんね」
ジャンもそう呟く。
「ここ‥‥謎が多すぎますねぇ」
「再調査しますわ」
ミカエルの傍らで、シャクリローゼがリヴィールマジックの印を結ぶ。
「私は上空で観察しますねー」
パールは上空観測を行う為、遺跡の真上に飛んだ。
そんな中、シャクリローゼは魔法看破の結果に、思案顔を作る。
「‥‥魔力が消えていますわね」
半年前とは違う結果に、全員の身体に微かな緊張が走った。
「何者かの干渉があった可能性が高いですね。誰かがここを訪れてます」
ミカエルがグリーンワードで遺跡を侵食している大樹に聞いた所、その回答が得られた。
更に、バイブレーションセンサーで内部を調査。同時にパールが上空から降りてくる。
「上の方には変わった所ありませんねー。デティクトライフフォース使ってみます」
その一方、ミカエルをまとっていた茶色の淡い光が消え、その結果を彼が告げる。
「反応はありません。動く者はいない、と言う事ですね」
「生き物はいない、と言う事かな?」
ジャンの呟きを、パールが首を振って否定する。
「反応ありました‥‥っ! 何かいます!」
「外から透視してみますわ」
遺跡調査の経験があるシャクリローゼは、慎重を期してエックスレイビジョンで中を覗く。
が、薄暗い壁と床以外は何も見えなかった。
入らなければ、何もわかりそうにない。
「そーれっ」
扉は押し戸となっており、アーシャが力を加えると扉が左右に割れた。
遺跡の中は――――透視した通り特に何もない。
「キャンプ場に使うにはちょっと狭いですね。ワイン蔵に丁度良いかもです」
「地下迷宮への入り口だったら嬉しいんだけど‥‥隠し扉や階段とかないかな?」
「ありそうですよねー」
パールとジャンが談笑する中、ミカエルがその方を向いて微笑む。
「あるみたいです。地下室」
グリーンワードで大樹に聞いた結果、根っこの方がそれを認識していたようだ。
「探しましょう! 探すのです!」
興奮気味にシャクリローゼが低空飛行で床を調査し始める。全員それに続いた。
すると、やや奥めの右端の床の下から隠し階段を発見。
その奥には――――
羽の生えた猫がいた。
「お帰りなさい‥‥え? この子は‥‥?」
「例の遺跡の地下で眠ってたのを見つけて。封印されてたのかな?」
村長宅を訪れた冒険者達を迎えたミリィにジャンが説明する傍ら、アーシャが抱えているその猫は今も尚眠っている。
体温はしっかりとあり、衰弱している様子もない。
「はわ‥‥すごく可愛いです。ぎゅってしたくなるですよー」
「本当に。とても可愛いですわ」
「食べちゃいたくなるくらい可愛いね☆」
村に残っていたラテリカ、エレイン、エラテリスがそれぞれ頬を高潮させてその寝顔を覗いている。
その傍ら、ミカエルがヨーゼフと向き合っていた。
「遺跡の方は、まだ安全が確保できた訳でもないので、今回は見送りにしましょう。この子は‥‥どうします?」
「うーむ、地下に戻すのもな‥‥よし、家で預かって暫く様子を見よう」
ヨーゼフは村長の権限で、羽の生えた猫を引き取る事にした。
「ところで村長さん。ひとつ提案が」
ジャンは頬の緩んでいるヨーゼフに、『冒険者の店』の正式な店開きを要請する。
以前、収穫祭の時に作った冒険者によるお店を、日常的にこの村で経営すると言う案だ。
冒険者が出資し、土産物やこの村でしか買えないような特産品を売るというもの。
「恋のおまじないグッズとか、かわいいアクセサリーがいいですねー」
アーシャもその案には乗り気だった。
この『冒険者の店』が儲かれば、村の発展は更に広がり、乗合馬車の購入にも踏み切れる。
各冒険者が依頼していた調査の結果によると、大人の馬は安くても20〜30G、大き目の馬車に至っては、中古でもその5倍は下らない。
貸し馬車は、貴族御用達となっており、村単位で借りるのは難しいとのこと。
現実的には、双方の村が少しずつお金を溜め、安い馬と馬車を買い、牧場で馬を育てるのが一番望ましいだろう。
「経営に関しては、僕が相談に乗れると思います」
ミカエルも協力を申し出る。
ヨーゼフは――――若干の思案の後、首を縦に振った。
「後、宿屋、酒場、食堂の強化も必要だと思いまーす。ワイン作りならお手伝いできますから、頑張りましょう」
パールの言葉に、ヨーゼフは冷や汗を流しつつ頷いていた。
そして――――6日目の朝。
「ようこそ、恋花の郷へーっ!」
リヴァーレから駆け付けた馬車に乗った子供たちを、冒険者と村人達は賑やかに迎えた。
ラテリカはまるごとウサギを着用し、耳をパタパタさせている。
シャクリローゼはニットと革靴を着用したハンナ等『フルール・ド・アムール』と共に踊りを披露。
エレインは水の魔法でゲートを作成。虹が見えるそのゲートを馬車が潜って行く。
馬車が止まると、予めリヴァーレに行って子供の引率などを行っていたエラテリスとミカエルが先に下り、子供達を降ろす手伝いをした。
愛馬セライヌに乗って馬車と平行していたアーシャも、その足を休ませている。
馬車は3往復し、希望者全員を恋花の郷に運んだ。
「それでは、宜しくお願いします」
パウルが一礼し、案内役を担う冒険者達は恐縮しつつ礼を返した。
引率はラテリカとパールが担当。そこにミカエルとジャンが護衛も兼ねて同行する。
そして、パールのトルシエ、ジャンのアリス・リデル、ラテリカのポプリがそれぞれ列の前、中、後に位置取り、子供達を守る。
更に、ミカエルのユニコーン、レーチェと梟のデルはその様子を遠巻きに眺めながら周囲を警戒中。
物々しさを極力排除し、万全の体制で観光が始まる。
「みなさーん、木札はちゃんとぶらさげたですかー?」
ラテリカの問いに、リヴァーレの子供は全員元気よく頷く。
その木札とは、子供達が迷子にならないよう、事前に冒険者達が作った物だ。
アーシャが中心となり、可愛い動物型の木札を作成。
いぬ、ねこ、うさぎの3種類を、各グループの大人、子供にそれぞれぶら下げて貰い、大人は自分と同じ木札の子供を見張る、と言う手筈になっている。
名簿も作成済みだ。
「みなさま、いってらっしゃいませーっ」
総合監視役のシャクリローゼに手を振り、子供達は恋花の郷に溶け込んで行った。
そんな中、エレインは村内移動販売の売り子を行いがてら、子供達に出すシチューパンと揚げたてパンを作るカールを手伝っている。
「カールさん、休憩にしませんか?」
「あ、そうですね」
エレインはカールの体調を考慮し、頃合を見ては休憩を取るように促していた。
カールも彼女の言葉に素直に従う。
そんな彼に、エレインが湯気立つ木製の器を持って近付いた。
「野菜スープですわ。お口に合うといいのですけれど‥‥」
「頂きます! うわあ、嬉しいな」
カールはそれを子供の様に喜んだ。
「エレインさんはこれから雪像コンテストの司会なんですよね?」
「ええ。賞品も用意したので、盛り上がって欲しいですわ」
エレインの満面の笑みに、カールは温まった顔を隠すように上を向く。
「ところで、アルノーくんは元気にしておられますか?」
「ええ。学校が出来るんで、そこに通うみたいです」
その言葉に、エレインは手を合わせて破顔した。
「まあ。それなら、私の生徒になるかもしれませんわね」
「え? どう言う――――」
「――――先生に?」
「はい」
沢山の観光と遊びを堪能したその日の夜。
桶や靴下などで燃え盛る焚き木を囲み、子供達が皆で合唱する最中、ミカエルはヨーゼフに村の学校の講師となるよう申し出ていた。
「不定期で申し訳ないのですが」
「いや、有り難い事だよ。実はエレインさんにも同じお話を頂いていてね。宜しくお願いするよ」
こうして、ミカエルとエレインは恋花の郷の村校教師となった。
少しずつ、この村に根を下ろす者が増えている。
「沢山の人が帰れる家のような――――そんな場所になって来てるんじゃないかな」
猫の木札をぶらさげ、ジャンが嬉しげに呟いた。
その傍らで、逆に旅立つ者もいる。
シャクリローゼは双方の村の子供が一緒に歌う姿を、じっとその目に焼き付けていた。
帰る者。
旅立つ者。
その全てが共にある――――それこそが、この村のあるべき姿なのかもしれない。
季節と共に咲き、散って行き、そしてまた咲き誇る花のように。
「ひらり はらり 花が舞う♪ 歌えや常春の歌 手を繋ぎ舞え♪ 薄紅の花彩る ここは愛の花咲く里♪」
ミカエルの知人ガブリエル・プリメーラが伝えた歌が、ラテリカを筆頭に、星空の下で賑やかに歌われている。
「君達も一緒に歌おうよ☆ 歌った後に占いしてあげるよ☆」
中々輪に溶け込めなかったリヴァーレの一部の子供達も、エラテリスに呼ばれて少しずつ輪に加わる。
その輪は、形は少し歪だ。
ノルマン有数の歌姫の声も、歌が苦手な大人の声も、そして子供達の声も、一緒になって形成られているのだから、無理もない。
それでも、高らかに歌われるその歌に、冒険者が連れてきた動物達は皆、心地良さげに耳を傾けていた。
その広場からは少し離れている村長宅にも、その声は微かに届いていた。
「‥‥賑やかだな。子供の頃を思い出す」
「ああ」
2人の村長は、懐かしむように、そして慈しむように、目を細めてその歌に聞き入っている。
そんな中。
ヨーゼフの膝で寝息を立てていた羽の生えた猫が、ゆっくりと目を開いた――――