まさかの大抜擢に各方面から驚きの声が
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■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月30日〜02月04日
リプレイ公開日:2009年02月08日
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●オープニング
唐突だが、マックス・クロイツァーは死にかけていた。
と言うか、殆ど死んでいた。
死因は凍死。若しくは圧死。
雪崩に巻き込まれたのだ。
どんな不幸でも取り除く事ができるかもしれないと言う謎のアイテムを探そうと冬の山を訪れた結果、彼の体は今雪の中に埋もれている。
(俺は……死ぬのか……いやもう死んでいるのか……嗚呼、マルレーネ……)
婚約者の名を呼ぶ傍ら、彼の脳裏には、今まで体験してきた様々な出来事が走馬灯のように浮かんでは消えている。
宝石が出てくると言う壁を掘っていたら、人面岩が発掘され、その人面岩が最近夜中にケタケタ笑い出した事。
村おこしをしていると言う『恋花の郷』と言う作った村長の石像を作る最中、5分に1度の割合で鳥のフンが頭に落ちてきた事。
ブリッグルと言う変な魔物に操られた女性シーナ・コルネリウスに告白されて以降、『マルシャンス街のスケコマシ』と言う不名誉な二つ名が付いた上、どんな良い男だと見学に来た婦女子が溜息と共に去って行く姿を44回目撃した事。
温泉旅行の帰り、師匠のクラウディウス・ボッシュが実家のカミさんを連れ戻しに行ったきり帰って来ない事。
そのクラウディウス宛てに、手紙で『まずはお前の弟子からだ』と言う謎の脅迫文が送られてきた事。
今となっては、良い思い出――――
「‥‥うおおおおおおおおっ!?」
そんなマックスが、次の瞬間、急に雪の中から掘り出される。
雪ごと掴まれたと言った方が正しいかもしれない。
それは――――過去数度に渡って彼を巣に持ち帰ろうとしていた、あのホワイトイーグルの仕業だった。
「ただいま‥‥」
「おかえり。首尾はどうでした?」
ボロボロになったマックスが帰宅すると、彼の家には当たり前のようにペーターがゴロンと横になっていた。
机の上には、『第二回まるごとオールスターズ武闘大会優勝者』と刻まれたトロフィーが置かれている。
その全てが意味不明だったが、今のマックスにそんな事を気にする余裕はない。首を横に振り、半ば倒れ込むように座る。
「取り敢えず、引越しだ」
「?」
マックスの言動の意図がわからず、ペーターは首を捻っていた。
次の瞬間――――家の窓から差込んでいた光が遮断される。
首を捻ったままペーターが家を出ると、そこで彼は全長3mほどの白い鷲がわっさわっさと羽をはばたかせながら着地する瞬間を目撃した。
「‥‥飼うと?」
「いや、彼は命の恩人だ。『ブラン・エクレール』の異名を持つ彼を飼うなど、とんでもない話。暫くは俺と共に生きるらしい」
「最近思うですが、貴方どうも方向性を間違っているような気が。色々と」
何事にも動じず、何事も受け入れる。
そんな強い心を欲した結果、マックスは一日数十kgの肉を捕食する鳥と生活を共にする事となった。
と言う訳で、養う者も増え、それなりの広大な空間も必要となったマックスは、郊外に引っ越す事になった。
無論、婚約者のマルレーネにもそれを伝える。
「マックス! 無事でよかった! そして何勝手な事してるのよっ!!」
「す、すまーーーん! ぎゃああ、膝は、膝は止めてくれーーーっ!」
関節技とかいろいろ制裁はあったものの、マルレーネは渋々引越しの手伝いをしてくれる事となった。
器の広さでは、まだまだ遥かに彼女の方が上のようだ。
それでなくとも、マックスは焦りの色を隠せない。
もう随分の間、婚約者と言う関係のままでいる。
その間、彼がマルレーネに見せて来たものと言えば、頼り甲斐のなさ、甲斐性のなさ、そして金のなさ。
これでは、とてもではないが胸を張って結婚式など挙げられない。
「‥‥どうしたものか」
引越し先となった、マルシャンス街の郊外にあるやたら広い庭のあるボロ家で、マックスは眉間に皺を寄せ、今後について考えていた。
ちなみに、庭と言うよりは、広大な空き地の中にポツンと小さい家が立っているような感じだ。
その空き地の上で、ホワイトイーグルのエっちゃんは楽しそうにジャイアントクロウを狩っている。
「経済状況は破綻寸前。いつまで経っても見習い。こんな男に、何時までマルレーネが付いて来てくれるものか」
「それなら話は簡単ですよ。大きな仕事をして名を上げれば良いんです」
いつの間にか我が家の如く寝転がっていたペーターに、マックスは特に驚く事もなく、淀んだ視線を送る。
「見習いの俺にそんな仕事が舞い込んでくるとは思えんが」
「大丈夫じゃないですか? だって今、お師匠さんはいないじゃないですか」
「‥‥あ」
それはつまり、彼の仕事場である石材加工店『ボッシュ』に寄せられた仕事は、全て彼が行う事を意味する。
とは言え、店はもうだいぶ長い間休業状態。
果たしてそんな大きな仕事が舞い込んでくるものか――――
「『ボッシュ』はこちらで宜しいでしょうか? お仕事を頼みたいのですが」
数日後、あっさり来た。
内容は、マルシャンス街で1、2を誇る富豪が道楽で建てると言う『からくり屋敷』の門や壁、彫刻を作って欲しいと言うものだ。
からくり屋敷なので、普通のものではなく、何か仕掛けを作って欲しいとの事。
「抜け穴のある壁とか、回すと扉が開く石像とか、そう言う事でしょうか」
ペーターの言葉に、依頼にやってきた男は大きく頷いた。
今の所、屋敷そのものは着工しているものの、まだまだ完成には時間が掛かるとの事。
報酬は50G。かなり破格である。
何より、これだけの大きな仕事となれば、成功した際の石工としての名誉と名声は計り知れない。
「引き受けたちぇていたたきあすっ!」
噛み倒しつつ、マックスは二つ返事で仕事を引き受けた。
依頼を持ってきた男がお辞儀をして去って行く中、ペーターは珍しく思案顔を作っている。
「おっかしいですねえ。あれほどの金持ちが、何故クラウディウス氏のいない今のこの店に依頼を?」
「知らなかったんだろう。だが、これは好機だ。騙されたなどと言わせない仕事をしてみせるさ!」
マックスの瞳はメラメラと燃えている。
腑に落ちない様子のペーターだったが、考えるのを止めたのか、表情を和らげてマックスの肩に手を置いた。
「流石に一人では無理でしょうから、何人か人を集めた方が良いですよ。仕掛けを作るのだから、そう言うものを実際見た事ある人とか、あと護衛とか」
「仕事をするのに護衛が必要と言うのも情けないが、この際仕方ないな」
と言う訳で、マックスは一世一代の大仕事を前に、冒険者ギルドに依頼を出す事にした。
「良し、やるぞ俺はっ!」
「余り張り切らないほうが良いと思いますよ、貴方の場合」
ペーターの助言に、マックスはゆっくりと首を振り、何処か達観した表情で告げる。
「そんな訳には行かない。この仕事が無事に成功したら‥‥俺、結婚しようかな、って思っているんだ」
斯くして、護衛のハードルが無駄に上がるのだった。
●リプレイ本文
神々しさすら滲ませるホワイトイーグルが、その雄大な体を大地に下ろす。
それをマックス宅の直ぐ傍で待ち構えていたラテリカ・ラートベル(ea1641)は、自身のペットである愛犬ポプリやゴーレムのヴォロンテ、そして他の冒険者達のペットを背に、深々と一礼してテレパシーによる挨拶を行った。
目的は、自分達が餌でない事を主張する為だ。
『御心配なく、ノルマン随一の歌姫よ。我は友の知人とその匂いのする者を狩る事はしない』
エっちゃんは厳かにそう告げ、でっかい羽をわっさわっさと動かした。
『ありがとございますですよー。皆さんもよろしく言ってるです』
その羽ばたきでギシギシ音を立てるマックスの新居には、レティシア・シャンテヒルト(ea6215)、鳳美夕(ec0583)、乱雪華(eb5818)、シャルウィード・ハミルトン(eb5413)、桃代龍牙(ec5385)の5人が小さいテーブルを囲んでお茶をすすっていた。
床の隅には、レティシアが新居祝いにと持って来てくれた招き猫が置かれている。
「マックス、久しぶりだね〜。少しは改善した? 不幸体質」
「話は聞かせて貰ったが‥‥ま、世の中にはシリアスにお前より不幸な境遇の奴は山ほどいるからな。あんま不幸ヅラしないこった」
「護衛で依頼が出てたの、間違いじゃなかったんだなぁ‥‥。あ、初めまして、まぁよろしく」
そんな中、マックスは美夕、シャルウィード、龍牙とそれぞれ挨拶と握手を交わす。
約一名が必要以上のフィジカルコンタクトを挨拶に盛り込んでおり、マックスは冷や汗を掻きつつそれをこなした。
その様子を一通り眺めていた雪華が、思案顔で呟く。
「脅迫者がいると言うお話でしたが‥‥心当たりはないでしょうか?」
「まあ、多少は。20人くらいかな?」
「それを多少と言える貴方の環境はやっぱり考えものね‥‥」
レティシアが嘆息する中、ラテリカが室内に戻ってくる。
そこで、今後についての話し合いが行われた。
まず、護衛期間は本日を含め5日間。
身の危険に関しては、傭兵のシャルウィードが全般を担う。
「偶にあたしの方から指示出す事があるかもしんね。そん時は条件反射で従っとけ」
「了解だ」
冒険者としてのキャリアから、シャルウィードには特筆すべき危機管理能力が備わっている。
それが直感となって、彼女の脳裏を刺激するのだ。
後はその指示にマックスが従えば問題なし――――と言う訳だ。
一方、石工としての仕事は、その技術を持つ雪華が手伝う事になった。
「と言っても、それ程技術がある訳でもないのですが」
「いや、大いに助かる。宜しく頼むな」
実際、技術の有無は程度に関係なく、かなり大きな意味を持つのだ。
そして、からくりに関しては、龍牙がアイディアをまとめ、それを形にしていく作業を担う。
「護衛は戦力外だから、こっちで頑張らせて貰うとするよ」
「宜しく頼む。後は‥‥」
微妙に龍牙に対し視線を合わせず、マックスは後の3人を眺めた。
既に顔見知りの面々なので、ある程度能力も把握している。
まずは美夕と視線が合った。
「あ、先に言っとくけど、今回は不幸比べはなしね」
「そうか‥‥あのお陰で結構助かってたような気もするんだが」
「あれ、副作用とかきついんだよね。魔法支援とか、トラップ考えたりとかするよ〜」
美夕はフレイムエリベイションによる士気向上を中心に行う事となった。
「ラテリカは、からくりの着想とお食事作り担当をお引き受けするです」
「頼む。後、出来れば時間がある時にでもホワイトイーグルに話しかけてやってくれ」
「わかりました。お食事の風景‥‥は見ないよに気を付けてがんばるです」
ラテリカが冷や汗混じりに小さい拳をぐっと握る中、レティシアがゆっくりと腰を上げる。
「私は精神面の支援とトラップの想起と言う所かしらね」
「何処に行くんだ?」
「調べものとか、色々。明日には戻るから」
そう言い残し、レティシアが家を出る。
しかし直ぐに戻って来た。
「家の裏、嫌な臭いがするのだけれど」
「ああ。ホワイトイーグルが餌に困らないようにと思って、肉食動物を呼び寄せる為に魚の干し物を買っておいたんだ」
「‥‥」
レティシアは無言で目を閉じ、そのまま出て行った。
「じゃ、俺らは現場に行こう」
マックスの言葉に全員が頷いた。
建設中のからくり屋敷と訪れた一行は、まず現場の見学を行う事にした。
かなり広めの屋敷で、外周は500mほどある。
基本的に壁は石と土で作って行くが、マックスの役割は石材加工のみ。しかしこれだけの壁となると、相当な量の石を削る必要がある。
尚、からくりはあくまで趣味の産物なので、実用性は気にする必要ないとの事だ。
「それにしても、悪趣味な屋敷だよね〜」
美夕が苦笑交じりに呟く中、一向は現在製作中の屋敷の前に足を運んだ。
豪華絢爛、と言う作りではなく、割と凡庸な外観だが、窓には円状の形が幾つも並んだガラスが採用されている。
一般家庭ではまず御目に掛かれない代物だ。
「待て。お前は窓には近づくな」
シャルウィードが率先してマックスを遠ざける。
実際、ガラスを割るなんて事になれば、それはとんでもない出費だ。
「この屋敷にからくりを仕掛けるのか‥‥うん、面白そうだ」
龍牙が腕を組みながら屋敷に熱い視線を送る一方、雪華はマックスと石材についての打ち合わせを行っていた。
材料費は向こう持ちで、石像に関しては出来るだけ見栄えの良い石を使って欲しいと言う要望がある。
話し合いの結果、質の高い黒御影石を使用することにした。
問題は、からくりだ。
「敷石に色つけて、決まった順に踏まないと出口の前で落とし穴に落ちる部屋なんてどでしょか」
「天井が落ちてくる仕掛けなど如何でしょう」
「壁に掛かった絵とか外すと石化光線がびーって出てくる仕掛けとか、見た事あるよ」
ラテリカ、雪華、美夕がそれぞれ意見を出す中、龍牙はそれをペンでメモしていた。
更にこの後、ラテリカから『雨垂れで音楽が突然鳴り出す仕掛け』、雪華から『天井を突き破って空に放り出される仕掛け』、美夕から『時間単位で部屋の配置が変わる仕掛け』などの案が出された。
「それじゃ、俺はからくりの図面引くから。他にも何か思いついたら言ってね」
龍牙が巨体を揺らしながら宿に向かう。
結局、この日は見学と計画立てに費やす事となった。
翌日。
諸々の準備を終えたレティシアが厳しい顔でマックス宅を訪れた。
丸1日掛かったのは、情報収集以外にも幾つかやる事があったから。
その1つには、ペーターに依頼し、ブランのかけらを材料としたマックス用の仕事道具を作成して貰う為だ。
『神魔をも滅ぼせる道具を』
『わかりました。石など触れただけで粉も残らなくなるような物を作ってみせます』
その完成に胸を躍らせる反面、余り面白くない情報を伝える為、レティシアが家に入ると――――その玄関に彼女が昨日あげた招き猫が倒れていた。
よく見ると、断末魔の悲鳴を上げていそうな表情に変化している。
多分、何かと必死で戦って敗れたのだろう。
「‥‥」
レティシアはそっとその人形を抱き、呑気そうに寝ているマックスを蹴り起こす。
「ふがっ!?」
「良くない噂が流れているみたいよ。貴方の依頼人」
寝起きで混乱しているマックスに、レティシアが告げた言葉は――――
「賭け好きの富豪、ですか‥‥」
台車で石材を運んでいるゴーレムのヴォロンテの肩に乗るラテリカが、不安げに復唱する。
ゴーレムが運んでいるのは、壁用の石材。
壁に使用する石には特に指定はなかったので、半年以上前に突然現れたグレートウォールの欠片を再利用する事にした。
グレートウォールのある地帯から『ボッシュ』までは8kmほど。
その間の石の運搬は、ラテリカ及び雪華のゴーレムが行う事になった。
最初の運搬なので、道案内もかねてマックスも同行している。
「恐らく、この不幸男が依頼通りに完成させる事が出来るか賭けている‥‥と言った所でしょうね」
「ま、考えようによっては報酬はちゃんと出そうだし、良いんじゃねぇの?」
レティシアとシャルウィードはマックスの護衛がてら、ゴーレムの後ろを歩いていた。
「はは、考えすぎだって」
「むしろ楽観的観測なのだけれど」
その程度で済むのなら、マックスにとっては幸運とも言える。
理由はシャルウィードの言通りだ。
「ところで、マックスさんのおししょさまはどしていらっしゃるでしょか。奥さんのご実家、お訪ねしてみましょか?」
ラテリカの言葉に、マックスは首を横に振る。
「師匠の奥方はサイクロプスに腕相撲で勝ったとか言う噂が流れるようなお人だ。止めておいた方がいい」
「はわ‥‥」
物凄い何かを想像したのか、ラテリカが小刻みに震えだした。
「取り敢えず、今は自分の仕事に集中したい。師匠は自分でどうにかするだろう。大人だしな」
マックスがそう呟くまさにその時、遠く離れた何処かで誰かの断末魔の声が響いたらしいが――――それはまた別の話。
「石像の方は私のリシーブメモリーとファンタズムで具現化出来るから、それを見本に」
「壁用の加工は私も手伝えると思います」
レティシアと雪華に心強い言葉を向けられたマックスは、その口元を引き締めていた。
それから。
レティシア、美夕の魔法支援効果もあり、仕事は順調に進んでいた
夜間は冒険者全員が交代で見張りを行い、更にレティシアがメロディでマックスの睡眠を補助してくれている。
「いっぱい食べていっぱいお仕事がんばって、いっぱいマルレーネさんに良いとこ見せるですよー♪」
仕事の合間に届けられるラテリカの食事は、味覚を満足させるだけでなく、体力の増強効果もあり、サポートは万全。
飛ぶ鳥を落とす勢いで、石は加工されていく。
ちなみに、街の上空ではエっちゃんも飛ぶ鳥を屠る勢いで獲物を狩っていた。
そして――――5日目の朝。
龍牙が意気揚々とボッシュを訪れる。
「一応ざっと仕上げたから、現場に付いて来てくれる?」
「了解だ」
と言う事で、護衛のシャルウィードと共に、屋敷に向かう事となった。
すると――――
「うわああああっ! 屋敷の中に置いていた道具が勝手に動き出したーーーっ!」
なんか大事件が勃発していた。
「あーあー、お約束通りだな」
「俺を見て言わないでくれ‥‥俺が関わった所為と思わざるを得ない心境になる」
シャルウィードは『それ以外考えられねぇだろ』と言う顔でマックスを一瞥し――――そのまま待機した。
「どうにかしてやらないのか?」
「あたしの仕事はお前の護衛だ。考えるのもバカバカしいけどな、陽動の可能性もなくはないんだよ」
後頭部を掻き、呆れ顔をするシャルウィードの後ろから、雪華と美夕が現れる。
「おはようございます。どうやらお約束通りの事が起きているようですね」
「おはよ〜。相変わらずお約束なんだね」
「だからお約束って何だよっ!」
結局、美夕と雪華の2人で騒ぎを鎮圧した。
原因は、ポルターガイストの仕業だった模様。
「ポルターガイストまで呼び起こすなんて‥‥腕を上げたね、マックス」
「不幸に腕とか‥‥あるのだろうか」
美夕が笑顔でマックスの肩を叩く中、シャルウィードが無表情で呟く。
「ここ、他にもアンデッドがいるのか?」
その様子に、マックスや他の冒険者も一瞬驚きを覚える。
「いや、いないと思うけど?」
「私達が見た限りでは、その様子は確認されませんでした」
「そうか‥‥あ、悪ぃ悪ぃ」
美夕と雪華にシャルウィードはややぎこちない笑みを見せた。
その後、龍牙の指示に従い、からくりに関しての報告を行う為に責任者の元を訪れる。
既に幾つか出された案に、レティシアの『巨大桶が降って来るトラップ』と『進むごとに床が傾くトラップ』も追加。
、その中から実現可能なものを選び、からくりの仕掛けを作っていくと言う流れを説明しながら、仕掛ける予定の場所に足を運ぶ。
「歯車は銅版や木材で作成。牛の大腿骨は髄を抜いて作成。座面の保護や緩み帽子にも使えるかな。鯨の髭が入手可能なら、それを動力に使える。後は、時限装置は水車や噴水の力を利用して‥‥」
龍牙の説明に、責任者は全く意味を解していない表情で何度も頷いていた。
「図面はわかりやすいようにしてるから、その通りに作れば大丈夫。うん、良い身体してるね。実に」
責任者が青ざめた顔で龍牙に肩を抱かれる中、ラテリカが来訪。
「お昼ごはん、マルレーネさんと作ったです。お召し上がりください♪」
美夕がそれを笑顔で受け取ろうとした刹那。
「?」
突如、一同のいる区域に影が差す。
それは、天候によるものではなかった。
ホワイトイーグルが太陽を遮ったのだ。
その白鷲は――――エっちゃんではなかった。
そして、その背には何者かが乗っている。
「あらぁ、やっぱりワタシの好みの男だったわねぇ、クラウディウスくんのお弟子さん」
白鷲から飛び降りたその人物は、色々と濃い男性だった。
そして、男が何者であるか、どのような性質かをその口調から誰もが判断できた。
「これはもしや『男にとってこれだけは避けたいと思える事』の中の1つではないでしょうか」
「どう言う事だい?」
雪華の言葉に龍牙が食い付く。
「具体的には‥‥自分の恋人が同性に奪われる事。後、自分が迸る興奮を抑えられない同性に襲われ、翌朝鳥の鳴き声がする中‥‥」
「やめろーーーーっ! それ以上は聞きたくない!」
マックスが咆哮する中、ホワイトイーグルライダーのオカマはそれ以上の咆哮を上げる。
「師匠がちっともなびかない罪、弟子が償いなさーーーいっ!」
が、高レベル冒険者が犇き合うこの場所での狼藉など叶う筈もなく。
「いやあああああん」
オカマは数十秒でのされた。
「何しに来たんだ一体」
「これは‥‥まさか」
そんな中、レティシアが突如走り出す。
その意図がわからず、全員がそれを追った。
「今のが不幸の一環だとしたら、余りにも軽度。本命は‥‥」
レティシアは経験則から、あのオカマ登場はただの伏線だと判断した。
本命は――――
「遅かった、か」
「俺の家があああああっ!?」
オカマを乗せて来たホワイトイーグルによって、マックスの家が潰される事だった。
魚の干物の臭いに引き寄せられたらしいホワイトイーグルの足元には、ボロボロの木片が散布している。
それと対峙しているのは、同じく白鷲のエっちゃん。既に一戦交えているようだ。
『これから更に戦いは激化する故、下がっていたまえ、皆の衆よ』
「‥‥と、言ってるです」
ラテリカがテレパシーでエっちゃんの言葉を伝える中、マックスはいつまでも絶望の眼差しを虚空に向けていた。
その後、エっちゃんにのされた白鷲は逃亡。
不幸の呼び水となった干物は冒険者達が善意で引きとってくれた。
ちなみに、これまでの仕事はそれなりに評価されたとか。