クッポー、弓を求め搭へ

■ショートシナリオ


担当:UMA

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月04日〜02月09日

リプレイ公開日:2009年02月11日

●オープニング

 パリから20kmほど離れた場所に、アトラトル街と言う小さな街がある事をご存知だろうか。
 そこでは、何かしらの祭りが近くなると、その祭りに人を沢山集める為、大掛かりなイベントを開いて街をアピールすると言う風習のようなものが存在している。
 今回も、バレンタインデーと言う非常に盛り上がりを見せる祭りを前に、それに関連する催しを開き、多くの観光客を集めようと、アトラトル街の観光協会では様々なアイディアが出された。
 その光景に関しては、割愛させて頂こう。
 結果だけお伝えすると――――
「恋の矢よ貴方に届け! ドキドキ愛撃ち大会ーっ!!」
 男女で矢を打ち合いと言う催しに決定した。
 どう言う意味かさっぱりわからない人もいると思うので、ここで解説しておこう。
 例えば、揺れる吊橋に2人の男女が一緒に乗ったとしよう。
 心理的にドキドキせざるを得ない状況下で身体を寄せ合う2人は、それを刺激とし、恋を芽生えさせると言う。
 要はその射撃編だ。
 中々恋に発展しない2人で撃ち合い、ドキドキするも良し。
 倦怠期のカップルや夫婦が刺激を求めて撃ち合うも良し。
 バレンタインを前にした素晴らしい恋愛企画!
 多角的な集客が望める、グレートなアイディア――――アトラトル街の観光協会役員は皆そう思っていた。
 しかし、結果としてその催しは失敗に終わった。
 何故なら――――
「いや、死ぬし」
 偶々通りかかった流離の旅人マインゴススの忌憚ない意見に、役員全員が膝を折り、顔を覆って号泣した。
 彼らは重要な事を忘れていたのだ。
 大抵の人は、矢で撃ち合って死にたくはないと言う事を――――


 と言う訳で、催しが不発に終わり寂れた街をどうにかする為、アトラトル街のアイドル射撃手クッポーは珍しい弓を見つける旅に出かけていた。
 アイドル射撃手がレアな弓を持ってキューピッドの仮装をし、バレンタインデーで賑わう街を練り歩く。
 それならば、かなりの注目が集まるだろうと言うのが、アトラトル街観光協会の総意だ。
 クッポーにしても、この企画には乗り気だった。
「ククク、丁度良い。この俺に見合う弓をそろそろこの手にする時期だ」
 と言う訳で、現在クッポーは世にも珍しい弓を探す為、様々な地域の酒場を闊歩していた。
 その果てに辿り着いたのが、パリの郊外にある『シャレード』と言う酒場だった。
 そこのマスターから、クッポーは二つの弓の話を聞いた。
 一つは『上弦の月』、もう一つは『下弦の月』と呼ばれる弓で、それぞれに特性を持っているようだ。
『上弦の月』はパリから30kmほど北にある『エアリアルの搭』に、『下弦の月』はパリから30kmほど南にある『アガレスの洞窟』にあるとの事だ。
「両方ともモンスターがいる訳ではないが、自然の驚異とその弓を隠した者が仕掛けたと言う罠が厄介でな。ま、行ってみりゃわかるが‥‥」
 言われるまでもなく、クッポーはまずエアリアルの搭に足を運んだ。
「搭など問題にもならないな。問題はそこにある弓が、この俺に相応しい武器かどうかだ」
 しかし、結果として全く先に進めないままおめおめと引き下がる事になる。
『エアリアルの搭』は全8階から成る搭で、8階の中央には『糸の道』と呼ばれる非常に細い道がある。
 上弦の月はその道の先にあるのだが、もし糸の道を踏み外して落ちると、吹き抜けとなっているので、1階まで落ちていってしまうのだ。
 ならば、飛行能力のあるシフールなら‥‥と言いたい所だが、その搭の8階は外壁もなく、常に強風が吹いている。
 しかも風向きは常に変動しており、並のシフールでは近付く事もままならないだろう。
 また、搭には数々の罠が仕掛けられている。
 それを解除しない事には、8階まで辿り着く事も出来ない。
 搭の外部はやはり風が強く、壁をよじ登る事も出来ないだろう。
 何より、問題はその罠。
「言い忘れてたが、あの搭にはジャパンの変態罠師『駿河木馬』氏とノルマンの陰険罠師『メイデン・ギロチン』嬢が仕掛けた『命に別状はないが異様に腹が立つ罠』が多数仕掛けてあるんだ。気をつけな」
 全身オナモミまみれで泣きながら再訪したクッポーに、酒場『シャレード』のマスターはポーカーフェイスで告げた。

 翌日、パリの冒険者ギルドに『エアリアルの搭』攻略の依頼が出された。


 尚、エアリアルの搭のデータは以下の通り。


●外壁
 煉瓦(レンガ)
●高さ
 30m
●階数
 8階建て
●場所
 パリから30kmほど北の森の中
●罠
・1階
 オナモミトラップ
・2階
 泥トラップ
・3階
 スタンダードトラップ
・4階
 アルコールトラップ
・5階
 ふかふかトラップ
・6階
 宝箱トラップ
・7階
 G・トラップ
・8階
 糸の道

●今回の参加者

 ea1628 三笠 明信(28歳・♂・パラディン・ジャイアント・ジャパン)
 ea2004 クリス・ラインハルト(28歳・♀・バード・人間・ロシア王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ec4441 エラテリス・エトリゾーレ(24歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ec5382 レオ・シュタイネル(25歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ec5385 桃代 龍牙(36歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

「ようやく着いたですねー」
 クリス・ラインハルト(ea2004)が楽しげに呟く中、風の巻く音がそれぞれの耳に届く。
「外からの侵入は無理っぽいなー」
 風の届かない距離でババ・ヤガーの空飛ぶ木臼に乗り、上空から偵察していたレオ・シュタイネル(ec5382)が降りてくる。
 まるで竜巻のように風が渦巻いているその搭は、あくまでも外部からの侵入は拒み続けているようだ。
「仮想『地獄の要塞群』には格好の搭ですね。早速行きましょうか」
「マッピングし易い塔だと良いけどな」
 三笠明信(ea1628)と桃代龍牙(ec5385)が率先して搭の入り口に向かう中、エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)とオラース・カノーヴァ(ea3486)の足取りは重い。
 普段元気一杯のエラテリスだが、実は高い所が苦手。
 それでも、依頼人のクッポーとは顔見知りの為、協力を申し出たのだ。
 一方のオラースは、長年の悲願が塵となった為、モチベーションが上がらずにいた。
「‥‥」
 従来鋭い筈の眼光は、どこか悲しげに笑顔のクリスに向けられている。
「オラースさんとまたこうやって冒険出来るなんて夢みたいです!」
「‥‥ああ」
 オラースの長い髪が風になびく中、エアリアルの搭は新たな6人の侵入者を歓迎するように、高らかな風の音を轟かせていた。


 〜La tour Aerial〜


 既に1階の情報は、冒険者達には伝わっている。
 オナモミトラップと呼ばれる、オナモミで構成された罠だ。
「ここは私にお任せなのです!」
「ボクもここならがんばれるよ☆」
 クリスとエラテリスが率先して前に出た。
 塔はレンガと土で構成された空間で、茶色の壁面に囲まれた細い道が搭の外壁に接する形で続いている。
 クリスが先頭に立ち、その道をつかつか進んでいくと――――曲がり角の付近に床にオナモミが散布しているのが発見された。
「いよいよですねー。対策は万全なのです」
 クリスはここに来るまでに、既に対オナモミ用の装備を整えていた。
 革製の装備で身を固め、トワイライト・マントで身体を包み、頭にはエチゴヤカツラを被っている。
 エラテリスも皮兜を被り、身体は毛布でぐるぐる巻きにしていた。
「それじゃ行っきまーす!」
「全力疾走だよ☆」
 2人は同時に曲がり角から先の道を駆け抜ける。
 すると――――早速眼前に落とし穴が!
「とーっ☆」
 エラテリスは苦もなくそれを飛び越えた。
 クリスは――――飛距離が足りず落ちた。
「あ〜れ〜」
 そして、その下には体積30立方メートルの穴の約半分を埋め尽くすくらいのオナモミが詰まっている。
「随分使い古された罠だな。量以外は」
「大丈夫ですか?」
 龍牙が落とし穴を眺める中、明信がその巨体を駆使して手を伸ばし、クリスを救出する。
 幸い、装備は万全だったので、ダメージは殆どなかった。
 一方、エラテリスは天井から降ってくるオナモミもかわし、あっと言う間に2階への階段の前に到着。
 全ての罠が既に露見している状態なので、他の冒険者達は悠々と後に続いた。


 2階。
 ここからの情報はないので、まずは慎重に辺りを見回す。
 中央部は吹き抜けだが、それ以外の部分は壁と天井に囲まれているので、昼間でも薄暗い。
 幸いランタンを灯す程ではないが、夜間の攻略は厳しそうだ。
 そんな中を進んでいくと、一行の進行方向が途中で壁に遮られる。
 尤も、その壁はレンガではない。土で作られた物だ。
「よし、横向きにウォールホールだ。ひいらぎ、頼む」
「たのむー」
 龍牙は自身の妖精にウォールホールの使用を促した。
 壁に1mの穴が開き――――そこから水分大目の泥が大量に流れ込んで来る!
「うわっ! 汚っ!」
 慌ててその場を離れた龍牙だったが、身体は泥だらけに。
 その一方、後ろで待機していた面々は明信の空飛ぶ絨毯やレオの空飛ぶ木臼でどうにか回避した。
「龍牙さんが巨漢で助かりましたよ」
「そう思うなら、お礼にハグの一つでもして欲しいな」
 結果的に蓋の役割を果たした龍牙に対し、明信は穏和に拒否の姿勢を示した。
 どうやら、土壁の奥に大量の泥が詰め込まれていたらしい。
 壁の上部に改めて穴を空け、絨毯と木臼で移動する。
 その後は然程問題はなく、程なくして階段が見えてきた。


 3階。 
 クリスを先頭に階段を上がって行くと、彼女に対しいきなり天井から何かが落ちてくる!
「危ねぇ!」
 オラースが、クリスの直ぐ後ろからロングスピアを突き出し、それを受け止める。
 槍に刺さったのは――――桶だった。
「はうっ。オラースさん、ありがとうございますです」
「良いって事よ。つーか何だこりゃ?」
「天井から桶か‥‥よし、この階は俺が引き受けた!」
 それに感じ取るものがあったのか、レオは指をポキポキならして3階のフロアを見通した。
 世の中には『お約束』と言うものが存在する。
 全く意外性のない、極めてスタンダードなもの。
 この3階の罠は、どうやらそう言ったものばかりらしい。
 レオが慎重に進む中、その後ろでは龍牙が丹念にマッピングしている。
「ん、これは‥‥」
 突き当りを右に進んでいくと、あからさまに怪しい扉が現れた。
 レオはまずその扉にゆっくり近付き、軽く拳で叩く。
 扉のトラップは、開けた途端上から油などが入った桶が降って来る、或いは矢が飛んで来る、開けた先にメドゥーサがいる、などと言うものがお約束だ。
 取手に刃物が仕掛けられている、触れると混乱などの状態に陥る魔法が掛かっている、などと言うのもある。
「じゃ、皆は扉の見えない所まで下がってて」
 レオは盗賊の手袋をはめ、取手を念入りに確認した上で、扉を盾にするような形で押して行った。
 そして、隙間が見えると同時に背後に飛ぶ。
 その数拍後――――レオの眼前にオナモミが大量に入った箱が天井から落ちて来た。
「‥‥こう言うの、なんて言うんだっけ」
 お約束の一つである。
 その後も落とし穴や引っ掛け用の紐など極めて基本的な罠が並んでいたが、レオは全て回避に成功した。
 更に、階段の手前には宝箱が。
 冒険者達は結構な額のお金を手に入れた!
「でも、時間が掛かっちゃったな‥‥もっと鍛えないと」
 1日目の攻略はここまでとなった。
 

 2日目――――4階。
 この階を訪れた瞬間、冒険者達はその主題に気がついた。
「参りましたね‥‥お酒ですか」
 酒は戒律によって禁止されている明信が悩ましげに呟く中、龍牙はどこか満足げにその様子を眺めている。
 とはいえ、彼自身も酒には弱い。
「火でアルコール飛ばしても良いか? まぁ中は暑くなるけど、男は薄着になれば良いだけだしな」
「止めとけ。女どものデリケートなお肌に大敵ってなもんだ。なぁ、クリス」
 火の精霊リンをつれたオラースの言葉に、クリスは苦笑交じりに頷く。
「それじゃ、火気厳禁! って事だね☆ お酒に弱い人はハーブの束を口に入れて、布で口を塞ぐと良いよ☆」
 この階はエラテリスが中心となって進む事になった。
 階全体に漂うアルコール臭に明信と龍牙が苦戦する中、どうにか階段のある小部屋まで辿り着いたが――――なんと階段は酒で浸されていた。
 階段は一旦下がってその後上に上る構造になっているのだが、その前半部分に酒が溜まっているのだ。
 空を飛んで回避する事も出来ない。
「お酒の中に仕掛けがないかな?」
 エラテリスは酒の池を凝視し、その中に何かないかを探す。
「あっ、何かあったよ☆」
 酒で浸された階段を囲むレンガの壁の下部に、突起物がある事に気が付き、それを杖で押してみる。
 すると――――そこからレンガが抜け、隣の部屋に酒が流れていった。
 そこだけ外れやすくなっていたようだ。
 エラテリスの活躍により、この階は問題なく攻略する事が出来た。


 5階。
 この階は他とは全く構造が違い、階段までを遮る壁がない。
 代わりに、暖かそうな布団が敷かれたベッドが幾つも置かれている。
 普通に宿として利用できそうなエリアだ。
 だが、問題はそのベッドの上に乗っているもの。
「う‥‥これは」
 クリスがふらふら〜っと導かれるように近づいたベッドには、ふかふかのまるごとシリーズが多数置かれている。
「思わず着てみたくなる物ばかりなのです‥‥」
「止めといた方が良いって。こう言うのは罠のていば‥‥ん?」
 レオの視界に『これで貴方も鉄の心に! 精神修養108の秘密』と書かれた本が置かれたベッドが入る。
「うう‥‥っ」
 その他にも、世界各国の名所を記した地図、7種類の味が楽しめると書かれた保存食、『筋肉図鑑』と書かれた分厚い本など、それぞれのベッドに違うものが置かれている。
 まるで、侵入者の嗜好に合わせているかのように。
「あからさまな罠だな。くだらねェ、とっとと行くぞ」
 オラースは一人目もくれず階段を目指す。が――――
「オラースさん、これ着てみませんかー?」
 若干目の据わったクリスが『まるごとすのーまん』を持ちながらゆらりと立ち上がる。
「なっ、何言ってやがる」
「そのお髭がとってもマッチすると思うのですー」
 クリスは何かに目覚めてしまった!
 明信、エラテリス、レオ、龍牙も己の嗜好に合った物が置いてあるベッドに腰掛ける。
 ベッドの布団はまるで巨大な鳥の羽のようにふかふかだ。
 全員の身体が、その誘惑に揺れる。
 この日は全員その階で眠る事に――――
「そ、それはダメなのです!」
 流石にハッとなったクリスは、メロディーで誘惑を断ち切ろうとする。
「メロディーなんかに負けるかあっ!」
 しかし、レオが何故かメロディーに抵抗を覚える。
 過去に何かあったらしい。
「じゃ、これで」
 そこで、龍牙が取り出したのは、迷茶「ムーンロード」。
 とあるお茶会で配布された茶葉で、気付け効果があるようだ。
 あらかじめ用意していた水を暖め、煎じて飲む。
「ぶはっ!」
 全員が一斉に吹いた。
 まるで○○と××を△△して、そのまま口に入れたような苦味が全身を泡立たせる。
 しかし、結果的に全員の怠惰感は吹っ飛んだ。


 6階。
 見渡す限り、宝箱。
 そんな階だった。
「‥‥開けなきゃいいだけの話じゃねェか」
 オラースを先頭に、一同はサラっと進む。
 この階の宝箱には凝りに凝った罠が山ほど仕掛けてあり、中には開けると突如塔内が暗闇で覆われたり、悪臭のするガスが入っていたりしたのだが――――


 7階。
 この階は、前の2階とは違い、階段を上った瞬間から細い通路が迷路状に続いている。
 一同は手分けして最終階への階段を探す事にした。
 そして、5分後――――
「はわわわわわっ!?」
 クリスの絶叫が、狭い道を伝うようにして響き渡る。
 同時に、他の冒険者達も目の前の惨状に顔をしかめていた。
『G』と称されるその生き物。
 必死で生きる彼らだが、どうにも他の種族との相性がよろしくないのか、生理的嫌悪感を抱かずにはいられない者が多い。
 だが、普通の『G』であれば、慣れでどうにかできる部分もない事はない。
 実際、明信やオラースは特に問題としないだけの経験を持っている。
 黒い悪魔と称されるそれらを見ても、耐えられる者はいるだろう。
 例えそれが体長1mを超えるサイズであっても、モンスターと割り切って退治する者もいるくらい、冒険者と言うのは因果な商売なのだから。
 んが、しかし。
 中には、割り切れない事もあるのだ。
 ここで一つ、例え話をしよう。
 蝗害、と言うものをご存知だろうか。
 飛蝗の大群が凄まじい数飛び回り、田や畑に壊滅的な被害を出すというアレだ。
 そう、アレだ。
「い、一時撤退ーーーっ!」
 冒険者達は直ぐさま6階へと戻った。
「シャドウバインディングでは到底間に合わない数なのです‥‥」
 クリスが半眼で息を切らす中、全員が顔をしかめている。
 虫には耐性のある明信ですら。
「くうっ‥‥思わず叩いちゃったぜ、これで」
 レオの手には、襲撃してきた黒い悪魔をなぎ払う為に使用した血染めのハリセンが握られている。
 所々に赤いシミがあるそのハリセンには、別の色のシミが多数出来ていた。
 無論、もう使える筈もない。人として使ってはいけない方の兵器になってしまった。
「ボクも虫は平気な方だけど、あれはお手上げだよ」
 余り元気のない様子でエラテリスが項垂れる。
「焼くしかねェだろ。階ごと」
 オラースの言葉に、全員がコクリと頷いた。

 7階、炎上――――

 厳かに行われたその儀式は、丸一日を使って念入りに行われた。
 レンガの焦げる臭いと煙、そして何処か香ばしくそれでいて余り経験のない変な臭いを充満させない為、龍牙が妖精に命じて壁に穴を開けた。
 凄まじい風の音が響く中、レオは残り火に血染めのハリセンを放る。
 必要以上に良く燃えていた。


 8階。
 いよいよ最後の階層となるその中央には『糸の道』が伸びており、その先に魔弓「上弦の弓」が置かれている。
 冒険者達は、苦労の末にそれを手にする事に成功した。
 ――――本来、ここが一番の見せ所の筈だった。
 具体的には、クリスがムーンフィールドで風を防げるか試したが無理だったり、龍牙の妖精ひいらぎが下の階からウォールホールを試みようしたが丁度弓の真下が酷い状況になっていたり、レオが縄ひょうを命綱代わりに素早く駆け抜けようとしたが一瞬で吹っ飛ばされたり‥‥など悪戦苦闘しつつ、最終的には明信がほふく前身で進み、どうにかゲットしたのだ。
 が、全員既に精神を疲労し切っていたので、余り冒険者達の記憶には余り残っていなかった。
「でもでも、折角手に入れたのですから、試し撃ちくらい良いですよねー」
 何かを吹っ切る勢いで、クリスがレオから借りた矢を壁に向けて放つ。
「クックック、どうやら首尾よく手に入れたらし‥‥うにゃっ!?」
 その矢はクリスの魔力を吸い取ると、先端に衝撃波をまとい、攻撃範囲をかなり広げた状態で飛んで行き――――偶々搭を訪れてきたクッポーに直撃した。
 魔弓「上弦の弓」。
 放った矢に衝撃波を付随させると言う弓のようだ。
「あ、ごめんなさいなのです」
「あちゃー。大丈夫か? ポッキー」
「クッ‥‥ぽ〜」
 クッポーは完全に目を回していた。


 その後、冒険者達はクッポーに弓を渡し、解散。
 全員身を清めに走ったとか。
 尚、レオはクッポーと共にアトラトル街を訪問。
 アホな企画を立てた観光協会にラブ・スプーンを譲渡し、まともな企画の立案を促した。
「俺なら、大事な人に矢なんか向けない。絶対、だ」
「そうですよね。もっと普通のベタなので良いんですよね」
 と言う訳で、ラブ・スプーンを渡して告白する集団見合パーティーを行った結果、見事に成功。観光客が増加した。
「ありがとうございます! ああっ、なんと言う救世主!」
 と言う訳で、レオはアトラトル街に青空をもたらした愛の神『蒼穹のクピードー』として讃えられるとなった。