第三回まるごとオールスターズ武闘大会

■イベントシナリオ


担当:UMA

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:17人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月01日〜03月01日

リプレイ公開日:2009年03月08日

●オープニング

 閃きの光が銀音を奏で、同時に布の擦れる音、皮の摩擦の臭いが刹那の中に消える。
 鮮やかに空気を裂いたウェルキンゲトリクスの剣は、獲物を捉える事が叶わなかった事を嘆くように、哀哭の影を映し出している。
 静寂は一瞬。
 再び標的に噛み付かんと放たれる無間の斬撃は、幾重にも風を重ねるように、その衝撃を広げていく。
 が――――
「‥‥くっ!」
 その全てが空を切る。
 その剣技と剣圧は、見るものの舌を巻く出来。
 であるにも拘らず、子供が舞い落ちる枯葉を掴もうとしているかの如く、剣は要領を得ないままに風を巻き続けている。
 徒労は焦燥を生み――――剣先を鈍らせる。
 それまでは、空気の繋ぎ目を切るかのような洗礼された斬劇だったが、徐々に摩擦が増えていく。
 剣を滑らせる速度が落ちる。
 剣を振るう筋力が消耗し、動力が低下する。
 結果――――鋭さが影を潜め、剣の軌道は波を打った。
 それを見越したかのように、リズムの雑音の間隙を縫い、短剣が突き出される。
 瞬きすらも致命傷となる、高速の攻防。
 その結末は、喉元の短剣を絶望の眼差しで見つめる、はくちょうさんの降伏のポーズによってもたらされた――――


「それまで!」
 観客のいない武道会場に、区切りの為の声が響く。
 はくちょうさんはそれと同時に膝を突き、その翼を追ってしゃがみ込んだ。
「参った‥‥完敗だ」
「体力ないなー、お前。でもま、頑張った方か」
 それを見下ろすきたきつねさんは、その愛らしいまんまる具合とは裏腹に、荒々しい所作で短剣を放り投げる。
 その短剣がきたきつねさんの真上を回転しながら舞う中、勝敗を裁いた男は感嘆とも辛苦とも取れない表情で、俯き気味に嘆息した。
 この武道会場は、パリから20kmほど離れた所にある『ルッテ』と言う街の一角にある施設。
 そして、この会場は現在『まるごとオールスターズ武闘大会』と言う大会の開催に使用されている。
 まるごとシリーズを着て闘うというシンプルなこの催しは、過去二回の大会共に成功を収め、街の財政を助成する効果をもたらした。
 現在は、第三回まるごとオールスターズ武闘大会の開催準備が着々と行われている最中だ。
 しかし、幾つかの問題が発生している。
 まず、2大会連続で出場していたえんじぇるさんが、職業詐称によって出場停止処分に。
 そして、第二回大会で急激なレベルアップを果たしたどらごんさんは、修行元の化物養成機関『龍の穴』が何らかのアレを注入したとか何とかで、こちらも無期限の出場停止処分に。
 有力候補が次々と出場を果たせなくなっているのだ。
 そして今――――若手有望株のはくちょうさんが、外部から訪れたきたきつねさんによって完敗を喫し、自信喪失状態に陥っている所だ。
「第一回、第二回共に街の外の人間が優勝を手にした。今度こそは‥‥と思っていたのだが、やはり難しいというのか」
 この場で唯一まるごとを着ていない男――――ルッテ街の長、アウグスト・バーゴップは何度も首を左右に振り、嘆いた。
 地元のチャンピオンを――――その一念で、彼は街内の猛者達に猛特訓を促した。
 しかし、有望株筆頭のはくちょうさんが、まるごとシリーズを求めて遠くの街から足を運んだと言う少女に勝負を挑まれ、完敗。
 現実は厳しい。
「じゃ、約束通り、このまるごとは頂くぞ」
 放り投げた短剣を見る事もなくキャッチし、きたきつねさんはほくそ笑む。
「無論だ。本戦には参加しないのかね?」
「んー、偶々これ持ってなかっただけだしなー。どうせ在り来たりの商品しか出ないんだろ?」
「いや、新シリーズのまるごとを用意している。目玉にとな」
 第三回大会にして、初の新まるごと贈呈。
 加えて今回はオープン参加となっており、より多くの者に間口を広げている。
 それも、全ては街の者のモチベーションを上げる為だった。
「ホント!? じゃ出よっと!」
 だがその賞品もまた、外部に流出する事になりそうだ。
 第三回まるごとオールスターズ武闘大会。
 開催――――間近。



●データ
◆武道会場
 試合場内は縦10m×横10m。100人ほど動員できる観客席付き。

◆賞品
 優勝    チャンピオンシールド
 準優勝  名剣「デル」
 ベスト4  ポーション4点セット
 敢闘賞  まるごとしろわしさん(3名)

◆試合ルール
・相手を殺す事、観客へ向けて攻撃する事は一切禁止
・必ずまるごとシリーズを着用する事
・ファンサービスも必ず行う事
・己の技量を見せる事にこそ意義があり、相手を敬う心を忘れない事
・審判には逆らわない事
・トーナメント戦で、参加人数は制限なし
・まるごとシリーズは無料レンタル可
・武器、魔法の使用を許可する
・勝敗は場外、気絶、審判の判断、降参によって決定
・職業詐称、ドーピングは禁止
・消費アイテムの使用は禁止
・場外負けを防止するアイテムの使用は禁止
・怪我は大会終了後に運営委員が回復を行うので、後には残らない

 
◆出場者予定表(現時点)
・きたきつねさん  不詳 女  人間    不詳        Lv.28 ?型
・ぺがさすさん   14歳 男  人間    神聖騎士      Lv.10 流星型
・きのこさん     17歳 男  パラ    バード      Lv.06 姫の護衛型
・きゃんさーさん  23歳 男  人間    ファイター     Lv.24 死顔型
・おおがまさん   32歳 男? エルフ  ナイト        Lv.18 死神型
・みいらさん     18歳 女  人間    レンジャー     Lv.08 隠れ型
・りすさん      不詳 男  人間    アイドル射撃手  Lv.03 ?型

◆レンタル可能なまるごとシリーズ一覧
・まるごとトナカイさん
・まるごとメリーさん
・まるごとホエール
・まるごとおうまさん
・まるごとわんこ
・まるごとあざらしくん
・まるごとすくろーる(文字、無地)
・まるごとすのーまん
・まるごとたーとる
・まるごとどんきー
・まるごとふるあーまー
・まるごとおさるさん
・まるごときたきつね
・まるごとたいがー
・まるごとたぬきさん
・まるごとだいなそあ
・まるごとぐりふぉんさん
・まるごとおばけさん
・まるごとりすさん

●今回の参加者

アハメス・パミ(ea3641)/ 円 巴(ea3738)/ リアナ・レジーネス(eb1421)/ アニエス・グラン・クリュ(eb2949)/ メグレズ・ファウンテン(eb5451)/ アーシャ・イクティノス(eb6702)/ エルディン・アトワイト(ec0290)/ ミシェル・サラン(ec2332)/ マロース・フィリオネル(ec3138)/ 琉 瑞香(ec3981)/ ラムセス・ミンス(ec4491)/ リーマ・アベツ(ec4801)/ レリアンナ・エトリゾーレ(ec4988)/ レオ・シュタイネル(ec5382)/ ソペリエ・メハイエ(ec5570)/ リーナ・ラリック(ec6094)/ 文月 太一(ec6164

●リプレイ本文

 穏やかな蒼天の下、『第三回まるごとオールスターズ武闘大会』は開幕の日を迎えた。
 が、天候とは対照的に、運営委員会は当日も慌しい。
「1日で全カード消化? 何でそんな事になっちゃたの?」
「仕方ないんだよ。この日だけしか会場押さえられないってんだから」
「でもなあ、宿とか商店街の連中が暴動とか起こす可能性も‥‥」
 と言う訳で、色々揉めに揉める中、カードが組まれて行く。
 今回の参加者は、街の者が12名、街外の者が20名。過去最多の計32名での開催となった。
 よって、決勝まで残った者は1日で5試合消化しなくてはならない。
「体力が大きく勝敗を分ける事になりそうですね」
 まるごとすふぃんくすの上からその時の賞品であるバタフライドレスを着こなした格好で会場入りしたアハメス・パミが、会場入りしながらポツリと呟く。
 前大会ベスト4の猛者である彼女は、今回は不参加。解説役を引き受ける事にしていた。
 だが、その前にもう一つ。
「では、第三回大会の開催を祝して、演武など披露させて頂きます」
 会場中が注目する中、アハメスはマントで身を包み、試合場に降り、インプを模した毛糸の人形を放り投げる。
 その人形は観客の視線を浴びる中、何事もなく最高到達点に達し、そしてアハメスの鼻先に落ちて――――消えた。
「何だー!?」
 子供達が驚く中、アハメスのマントがひらりと翻る。
 同時に、ついさっきまで人形を形成していた毛糸が、まるで雪のように霧散し、アハメスの周りに舞い降りた。
「うおー! すげー!」
 会場は一気にヒートアップ。
 アハメスが一礼し、運営係がその毛糸を片付けたところで、1回戦の第1試合が早速始まった。

 てのりたいがーさん(レリアンナ・エトリゾーレ) vs きのこさん

「失礼しますわ」
 きのこさんが会場で待つ中、たいがーさんは北風のマントを着け、観客席の中にいた。
 そして、そこからおもむろにダッシュし、解説席を踏み台にして試合場に飛び降りる!
「まるごとファンのみなさま、ごめんあそばせですわ!」
 その一見無鉄砲とも言うべき大胆なパフォーマンスに、会場は騒然となるが――――
 ぐきっ!
「うっ‥‥!? 足が!?」
 案の定、たいがーさんは足をやってしまった。
「えっと‥‥試合、出来る?」
「だ、だいじょうぶ‥‥ですわ」
 脂汗をダラダラ流しつつ、たいがーさんはマントを脱ぎ、木刀を持つ。
 その愛らしい姿とは対照的な、情熱の炎を漲らせ。
「よ、ようし! 全力には全力で答えるのが流儀!」
 きのこさんは本気になった!
「はじめっ!」 
「とおーっ!」
 開始と同時に木の棒を持って突進するきのこさん。
 迎え撃つたいがーさん。
 結果は――――
「ぶべらっ!?」
 きのこさんの顔面をたいがーさんの木刀が捉え、勝負あり。
「きのこさんは慎重さと判断力と根本的な戦闘力に欠けていましたね」
 アハメスが敗因を述べる中、たいがーさんは息を切らしながら勝ち名乗りを受けていた。

 1回戦、第2試合。
 ぶらうんぐりふぉんさん(ソペリエ・メハイエ) vs きたきつねさん

 きたきつねさんが腕組みして待つ中、グリフォンが会場の上空を待っている。
「グリフォンにぐりふぉんさんが乗ってるぞー!」
 そのグリフォンが静かに会場に舞い降りる中、その背中に乗ったぐりふぉんさんは静かに所定の位置に付いた。
「はじめっ!」
 始まりと同時に、ぐりふぉんさんはブロッケンシールドを使用し、分身を作った。
「前に走りなさい」
 そして、分身を前に出し、自身もその横に並び、かく乱しながら接近を試みる。
 が――――相手が悪かった。
 きたきつねさんは、本大会で1、2を争う身軽さの持ち主。
 威圧と数的優位で追い込もうとしても、10m四方の会場を自由に動き回るきたきつねさんを捉えられない。
 そして、6分が経過し、分身が消えると同時に――――
「そりゃっ!」
 きたきつねさんが不規則な動きでぐりふぉんさんを襲う!
「トウシェ!」
 ぐりふぉんさんはその攻撃を体で受け止めつつ、振り下ろしの一撃で対抗。
 だが、その振り下ろしの隙をつかれ、避けられる。
「‥‥!」
 そして、そのまま足を払われ、ぐりふぉんさんは宙を舞い――――場外に落ちた。
 勝負あり。
「‥‥良き経験をありがとう」
 ぐりふぉんさんは勝者であるきたきつねさんを称え、会場を後にした。

 
 1回戦、第3試合。
 ふどうのわんこさん(リーナ・ラリック) vs ゆみひくりすさん

「お、先生。御久し振りです」
 ゆみひくりすさんが大歓声に迎えられて会場入りする中、エルディン・アトワイトがその勇姿を感慨深げに出迎える。
「私も先生に倣って、りすとなる予定です。先生の愛らしさには及びませんが」
「当然だ。この俺と初戦で当たらなかったその武運、大事にするんだな」
「はい。では先生も頑張って下さい」
 エルディンはゆみひくりすさんを撫で撫でし、満足げな表情で踵を返す。
「あ、エルディンさん発見! なんかおごって〜」
 そこに突如、彼が後見人となっているハーフエルフの女性アーシャ・イクティノスが現れる。
 そして、にっこりと微笑みながら流星のような勢いで抱き付いた。と言うか激突した。
「ぐはっ! 腰が、腰の骨がぁー! リカバー!」
 そのタックルにエルディンが悶絶する最中、会場ではわんこさんがオカリナを演奏し、ノスタルジー溢れる旋律で会場を暖かく包み込んでいる。
 だが、わんこさんは内心焦っていた。
 どうも荷物の中に余計な物が入っていたようで、身動きが取れない。
 これは致命的だった。
(ああ、何と言う失敗を‥‥私は負け犬になってしまうのでしょうか)
 それでもどうにか不安を表に出さず、目の前に現れたゆみひくりすさんを睨む。
「ククク。この魔弓『上弦の月』の最初の獲物になるその光栄、身をもっ」
「はじめっ!」
 ゆみひくりすさんの口上が終わる前に試合開始。
 動きの取れないわんこさんは、一か八かそれと同時にローリンググラビティーの詠唱を試みる。
 距離を取られたらその時点でアウト。相手は弓使いなのだ。
 斯くして――――
「はうーっ!?」
 完璧に効いた。
 ゆみひくりすさんはなす術もないまま宙を舞い、そして落下。
 コロコロと転がって場外に落ちた。
「‥‥勝ってしまいました」
 本人も吃驚の完勝。
「りすさんは自身の武器と言動に酔い過ぎましたね」
「‥‥うわーん!」
 アハメスがもっともな評価を下す中、わんこさんはオカリナで明るい音色を奏で、ゆみひくりすさんは泣きながら会場を後にした。

 1回戦はこの後も順調に消化され、残りの冒険者は皆2回戦へと駒を進めた。



 2回戦、第1試合。
 てのりたいがーさん(レリアンナ・エトリゾーレ) vs メリーナイトさん(アニエス・グラン・クリュ)

 メリーさんが試合会場で待つ中、たいがーさんは申し訳なさそうに足を引きずりながら会場入りする。
 先ほど痛めた足は回復していない。
 自身の魔法以外での回復は、敗北するまでは許されないのだ。
「見ての通り、たいがーさんは試合をできる体調ではない。よって、メリーさんの不戦勝とする!」
 審判の判断によって、この試合は戦わずして決着となった。
「残念です。大丈夫ですか?」
「はい。羊使いとして、今後は陰ながらメリー様を応援致しますわ」
 二人はがっちり握手を交わす。
 そしてたいがーさんが見守る中、メリーさんは試合場中央にてでんぐり返りを行い、両手を挙げてパフォーマンス。
 会場は暖かい拍手に包まれた。


 2回戦、第2試合。
 ころころあざらしさん(マロース・フィリオネル) vs ぽにーりすさん(リーマ・アベツ)

 まず先にパフォーマンスを見せたのはぽにーりすさんだった。
 会場入りの最中、空飛ぶ絨毯に乗り、観客席の直ぐ上を飛び回る。
「あのりすさん、しっぽがふたつあるぞー!」
 風になびくぽにーりすさんの髪に、子供達は大喜びだ。
 そのぽにーりすさんが所定の位置に付いた所で試合開始。
「はじめっ!」
 まずはぽにーりすさんがストーンを詠唱。高速で発動したその魔法は、ころころあざらしさんを確実に捕らえる。
「‥‥あら」
 が、石化したのはあざらしさんの皮だった!
 その隙に、あざらしさんはコアギュレイトを唱え、ぽにーりすさんを拘束。そのまま抱え、会場の外に出し、勝負あり。
「これは、中々面白い展開でしたね」
 アハメスが満足げに頷く中、あざらしさんの皮はどんどん石化していく。
「あざらしさん、石になっちゃうの?」
 子供達が心配そうに見守る中、あざらしさんはもぞもぞと身体を動かし始めた。
 そして――――石化中の皮の中からマロースが姿を現した!
「アザラシさんの中から綺麗な女の人が出てきた!」
 子供達が驚く中、マロースはクリエイトハンドを使用し、その手に骨付き肉を取り出す。
「皮の中からお肉が出てきたぞー!」
「あの石で焼いたんだ!」
 そのパフォーマンスに会場が大いに沸く。
 そんな中、マロースはぽにーりすさんにメンタルリカバーを掛け、健闘を讃えあった。


 2回戦、第3試合。
 りす仮面さん(アーシャ・イクティノス) vs 魔法淑女りすディーナさん(エルディーナ・アトワイト)

「えっと〜‥‥まさか私の後見人が女性だったとは、露知らずです」
 マスカレードで目を覆ったりす仮面さんは、眼前の『女性』に対し、目を丸くしていた。
 禁断の指輪を指に嵌め、魔法少女のローブを着こなし、箒にまたがって空中から降りてきた魔法淑女の登場に会場中が賑わう中、当の本人は薔薇を咥えて麗しのポーズを観客に披露している。
「私は貴女の後見人ではありません。魔法淑女りすディーナです」
 もう何か色々混じりすぎて訳がわからなくなっていた。
「もう『型破りな神聖騎士』では許されない気がしますよ?」
「いや、そう言われると少しばかり気が重くなるのですが」
 魔法淑女りすディーナさんが若干素に戻ったところで、試合開始。
「隙あり! とーっ!」
 開始と同時にりす仮面さんは突撃。魔法淑女りすディーナさんは緩慢な反応でそれを受け、そのまま場外にすっ飛んでいった。
 勝負あり。
「よくわかりませんが、いつもより身軽になった分いつもより多めに飛ばされたのかもしれません」
 アハメスの言葉に会場中が納得する中、りす仮面さんは場外で倒れる魔法淑女りすディーナさんに複雑な表情で近づく。
「あの〜、もしかしてわざと負けてくれました?」
「そんな事ありません。私の完敗です。みんなー、期待に応えられなくてごめんなさーい!」
 手負いの魔法淑女は観客席に笑顔を振りまきつつ手を振っていた。
「エルディンさん、どこに向かおうとしてるのかわからないです‥‥」


 2回戦、第4試合。
 うごけるわんこさん(リーナ・ラリック) vs れおんとくん(レオ・シュタイネル)

「さー、ようやく出番だ!」
 この時を待っていたと言わんばかりに、まるごとらいおんさんに身を包んだレオが馬に乗って会場入りする。
 弓を片手に一周するその姿は、半人半馬のケンタウロスのようだ。
 いや、半人半獅子のレオントケンタウロスか。
「今回は動けます。勝負です」
 一回戦での失敗から、今回はバックパックを持たずに会場に入ったわんこさんも、やる気をみなぎらせている。
 そして、試合開始――――
「はじ‥‥」
 その号令が終わる前に、れおんとくんは凄まじい速度で距離をとった。
 今回は距離を詰める事が可能なわんこさんだが、スピードの次元が違う。
 彼女も本大会参加者の中では決して遅い方ではないが、れおんとくんはそれを凌駕する速さで距離をとり、魔弓「ウィリアム」を構えた。
 その弦には2本の弓が宛がわれている。
「行けっ!」
 れおんとくんの放った矢は、2本ともわんこさんの耳を射抜いた!
「くっ!」
 わんこさんはその衝撃にバランスを崩し、倒れこむ。
 同時に、れおんとくんは距離を詰め、わんこさんの真上に飛び、射撃。その矢で尻尾を地面に釘付けにした。
 再びふどうのわんこさんとなった彼女の眼前には、空が映るのみ――――
「‥‥参りました」
 倒れ込む彼女の頭には、悲しい旋律が鳴り響いていた。


 2回戦、第5試合。
 ほうろうすふぃんくすくん(ラムセス・ミンス) vs ぶらっくいーぐるさん(円 巴)

「すふぃんくすび〜む」
 すふぃんくすくんの穏やかな掛け声と共に、サンレーザーがぶらっくいーぐるさんを襲う。
 それをどうにか回避したぶらっくいーぐるさんは、両翼を羽ばたかせ、ソニックブームを打ち出す。
「すふぃんくすが〜ど」
 すふぃんくすくんがそれを両手で防御すると同時に、ぶらっくいーぐるさんは間合いを詰め、フェイントを交えた斬撃を繰り出す。
 回避の術なく、すふぃんくすくんはそれを受けた。
 だが、まだ終わらない。
「すふぃんくすぱ〜んち」
 気の抜けるような掛け声とは裏腹に、巨体から繰り出される拳が、ぶらっくいーぐるさんを襲う。
 幸いにしてカウンターとはなっていないので、威力増幅とはならないものの、その衝撃はガードしたいーぐるさんを数m後方まで吹き飛ばした。
 が――――同時にすふぃんくすくんは気付く。
 先ほど発したすふぃんくすび〜むによって、次の試合の為場外で待機していたきたきつねさんの尻尾が燃えている事に!
「た、たいへんデス、きつねさんが燃えてるデス〜!?」
 しかし、当の本人は全く気付いておらず、他のまるごとさん達と熱く語り合っている。
 が、流石に焦げ臭いにおいと煙が立ち込めた事で、周りが気付きだした。
「な、何事だー!?」
「すふぃんくす雨乞いデス〜」
 すふぃんくすくんは慌ててウェザーコントロールを唱えるが、今日は晴天。雨を降らすには至らなかった。
 しかも隙満載。
「しまったデス!」
 獲物を狙う鷹の爪によって、すふぃんくすくんの巨体は倒されてしまった。
「無念デス〜」
 勝負あり。
 ぶらっくいーぐるさんが剣を収め去り行く中、次の試合に出場するリアナ・レジーネスが現れる。

 2回戦、第6試合。
 ふわふわおばけさん(リアナ・レジーネス) vs きたきつねさん

「見ての通り、きたきつねさんは燃えてしまったので、ふわふわおばけさんの不戦勝とする!」
 幸い、脱いでしまえば問題なく、火傷もしなかったのだが、きたきつねさんの中から出てきた少女は涙目で勝ち名乗りを受けるふわふわおばけさんを睨んでいた。

 2回戦、第7試合。
 きょしんへいさん(メグレズ・ファウンテン) vs しんぴのだいぶつさん(琉 瑞香)

「だいぶつさんが空を飛んでるぞー!」
 天馬が翼を優雅に広げ、会場上空を待っている。
 その背には、無我の杖を両手に一本ずつ持っただいぶつさんが、祈りを捧げるような表情で腰を据えていた。
 天馬が降り立つと同時に、会場は一気にヒートアップ。
 だが、それも直ぐに次の衝撃がかき消す。
「破っ!」
 軍馬に乗ったまま会場入りし、虚空にソードボンバーを繰り出すきょしんへいさんに、会場中が息を呑んだ。
「はじめっ!」
 大会屈指のパワーファイター vs 僧兵。
 その接点は一瞬だった。
 開始と同時にレジストマジックを使用したきょしんへいさんは、だいぶつさんのコアギュレイトの効果を打ち消し、そのまま突進する。
「妙刃、水月!」
 敏捷に劣るだいぶつさんは、きょしんへいさんの繰り出した振り下ろしになす術もなく切り裂かれ、勝負あり。
 だいぶつさんはまっぷたつとなり、中からムスッとした顔をした女性――――瑞香が現れた。
 その瑞香が嘆息する中、きょしんへいさんは愛剣テンペストを天に掲げ、堂々と勝ち名乗りを上げる。
「大いなる主よ、御照覧あれ」
 その姿に、会場中は優勝候補の到来を予感した。

 2回戦、第8試合。
 ぽんぽこたぬきさん(文月 太一) vs みにいーぐるさん(ミシェル・サラン)

 2回戦最後となる試合に、前回大会出場経験を持つみにいーぐるさんは落ち着いた様子で挑んでいた。
 一方、初出場のぽんぽこたぬきさんは、入場と同時に大きな声援を受けている。
「あははは! たぬきさんがペットに逃げられた!」
「いいぞぺがさすー! にげろー!」
 天馬に乗って颯爽と登場する予定でいたたぬきさんが、その天馬に逃げられ追いかけている様を、子供達は大喜びで眺めている。
 また、その外見がそのままたぬきなので、本物のたぬきが登場したと思っている子供も多いようだ。
「みんな、ありがと〜。応援してね」
 それに対し、太一は満面の笑顔で応えている。
 子供達は皆たぬきさんの応援に回ったようだ。
 だが、先に所定の位置で構えるみにいーぐるさんには焦燥はない。
 何故なら、彼女には確固たる目的があるからだ。
 それは、前回大会の雪辱。
「この勝負、負けられないわ」
 その小さな体に闘志を漲らせ、試合開始を待つ。
「はじめっ!」
 たぬきさんが所定の位置に付き、合図が発せられたと同時に、みにいーぐるさんは素早く宙に舞った。
 基本、規定により場外を防ぐアイテムの使用は禁止されているが、シフールの飛行や魔法による浮遊は認められている。
 シフールという小さな体を補うのは、この飛行能力だ。
「さあ、来い!」
 それに対し、たぬきさんは相手の攻撃を待ち、受け流しつつの急所攻撃を狙っていた。
 彼が持ちうる全ての能力をかけての作戦だ。
 だが――――
「行くわよ!」
 みにいーぐるさんは、空を旋回した後、ちょうど太陽の光にその身を隠したと同時に滑空した!
「うっ‥‥!」
 一瞬目がくらんだたぬきさんに対し、みにいーぐるさんはその背後に回る。
 そして、その首筋めがけてクリエイトウォーターを唱えた!
「わ!」
 たぬきさんはみるみる内にずぶずぶになって行く。
 まるで泥の船に乗って、船ごと海に沈んだかのように――――
「寒いでしょ。次はその着ているまるごとさんを凍らせるわよ?」
 みにいーぐるさんの言葉に、たぬきさんは敗北を悟った。


 日の位置が下がっていく中、僅かな休憩期間を挟み、3回戦が始まる。
 先に所定の位置についていたれおんとくんの視界に、2人のメリーさんが映った。
 1人は今から戦いに赴くメリーナイトさん。もう1人は、その彼女の周りをくるくる飛び回るミニメリーさんだ。
「応援お願いしまーす」
「まーす☆」
 会場はその愛らしさに、休憩の間落ち着いた雰囲気を一変させ、子供を中心に声援を絞り上げていた。
「宜しくお願いします」
「あ、こっちこそ」
 メリーさんが所定の位置で恭しく一礼し、それを見たれおんとくんも頭を垂れる。
 この所作に、ルッテ街の長アウグストが何度も大きく頷く。
 大会の意義がそこに現れていたからだ。
 3回戦第1試合はそんな騎士道精神に則った雰囲気で幕をあげた。
 
 メリーナイトさん(アニエス・グラン・クリュ) vs れおんとくん(レオ・シュタイネル)

 共に小柄ではあるが、その戦闘傾向は両者大きく異なる。
 メリーさんはブランシュ騎士団黒分隊の公式武器であるシルヴァンエペによる残撃。つまりは接近戦中心だ。
 一方のれおんとくんは魔弓「ウィリアム」による射撃。遠レンジでの攻撃が主体となる。
 よって、距離の取り合いが大きな焦点となる。
 メリーさんは体力で圧倒的優位に立っている一方、素早さに関してはれおんとくんが格段に上。
 また、弓による攻撃は数に限度がある。
 つまり、メリーさんは長期戦に、れおんとくんは短期決戦に持って行きたいところだ。
 とは言え、これは『まるごとオールスターズ武闘大会』。
 慎重に相手の出方を伺うと言う、見た目地味な闘いは2人の本意ではない。
「行きます!」
 メリーさんは敢えてれおんとくんの懐を狙い、踏み込む!
 直線的に走る一方、その目はれおんとくんの挙動、或いは呼吸まで念入りに観察していた。
 そして、どの方向に避けるかを読み、れおんとくんが左に飛ぶのと同時に追撃。
「わっと!」
 シルヴァンエペの薙ぎ払いが、れおんとくんのたてがみを掠める。間一髪で交わした。
 だが、れおんとくんが体勢を整える前に、再び切り返しが襲う!
「くそっ!」
 れおんとくんは身を翻しつつ、それを弓の胴部で受けた。
 剣と弓の鍔迫り合いに、会場は極限まで盛り上がる。
 本日一番の声援が両者に降り注いだ。
 その大声援の中、拮抗は崩れる。
 力で優位に立つメリーさんが、一気に押し込んだのだ。
 れおんとくんは会場の隅まで押し込まれ、あと数歩で場外負けと言うところまで追い込まれ――――
「一か八か、上手くいってくれよ!」
 自ら脱力し、メリーさんの押し込みを受け流した。
「わわわっ!」
 メリーさんは勢い余って、巴投げを受ける要領で場外へ落下。
 れおんとくんは――――背中から倒れこみながらも、場内に残った。
 勝負あり。
「あ、危なかった〜‥‥」 
 れおんとくんが安堵の表情で勝ち名乗りを受ける中、メリーさんは清清しい表情で勝者を讃える拍手を送っている。
 アウグストはそれを見て、やはり頷いていた。

 3回戦、第2試合。
 りす仮面さん(アーシャ・イクティノス) vs ころころあざらしさん(マロース・フィリオネル)

「と〜!」
 りす仮面さんの鞭が、あざらしさんの足元を的確に捉える。
 盾で防戦していたあざらしさんだったが、軌道の読みにくい鞭は防御しにくく、まして足元だと跳ね返す事は難しい。
 あざらしさんは防御を諦め、コアギュレイトでの拘束を試みるが――――詠唱する前に、絡められた足が一気にすくわれた。
「それ、行っけ〜」
 そして、りす仮面さんはそのまま一気に鞭をフルスイング。あざらしさんは引きずられる‥‥と言うよりコロコロ転がり、場外に落ちてしまった。
 勝負あり。
「やはり、転がりやすいと言うのは不利なのかもしれませんね」
 アハメスが解説を締める中、りす仮面さんは観客席に投げキッスを贈って自らの勝利を祝っていた。

 3回戦、第3試合
 ぶらっくいーぐるさん(円 巴) vs ふわふわおばけさん(リアナ・レジーネス)

「ぶらっくいーぐるが来たぞ!」
「お、俺は渋いお姉さんが大好きだー!」
 大人の男性からの声援を受け、ぶらっくいーぐるさんが入場する。
 その冷淡な表情とは裏腹に、彼女は入場時に『キュ♪』と言う可愛らしい足音が鳴るレミエラを用い、パフォーマンスを行っていた。
 そのぶらっくいーぐるさんが所定の位置に付くと同時に、奇妙な物体がくるくる回りながら宙を待いながら、会場に出現する。
「何だあれー!」
「おばけだ! まだよるじゃないのにおばけがでた!」
 子供たちが大騒ぎする中、おばけさんはゆらゆらと揺れながら、ぬいぐるみが置かれた場外に降り立つ。
 すると――――
「よく御出でになりました」
 そのぬいぐるみが突然喋り、おばけさんを迎えたではないか!
「うわー! うわー!」
 この怪奇現象に子供達は大喜びだ。
 そんな中、試合は始まる。
「はじめっ!」
 号令と同時に、おばけさんは会場の隅まで一気に移動し、距離をとる。
 接近戦主体のぶらっくいーぐるさんはそれをさせまいと、追走。
 速度は僅かにおばけさんが上だが、背走に近いおばけさんと真っ直ぐ走るぶらっくいーぐるさんでは、後者の方が速かった。
「ならば‥‥これで!」
 おばけさんは詰められる前にスモークフィールドのスクロールを使用し、ぶらっくいーぐるさんの視界を奪う。
「これはまた、解説泣かせな魔法ですね」
 アハメスが淡々と呟く中、会場中が煙に包まれる。
 その煙の中、試合場に閃光と轟音が響いた。
「‥‥っ」
 今度は強烈な打撃音が数度響く。
 そして、まだ煙が立ち込める中、敗北を認める声が上がった。
「お見事です。この煙の中でこれだけ正確に打ち込めるとは」
「目にばかり頼っている訳ではない。それだけの事だ」
 勝者――――ぶらっくいーぐるさん。

 3回戦、第4試合
 きょしんへいさん(メグレズ・ファウンテン) vs みにいーぐるさん(ミシェル・サラン)

 余りに絶望的な体格の差。
 それでも、みにいーぐるさんに諦観の念はない。
 むしろ、機動力の差を生かし、きょしんへいさんを苦しめていた。
「行けるわ!」
 きょしんへいさんのリーチですら届かない範囲から一気に距離を詰めてクリエイトウォーターによる水攻撃。
 そして瞬時に逃げると言う方法で、きょしんへいさんをぐじゅぐじゅの状態にまでしていた。
 しかし、きょしんへいさんの豪腕は脅威。
 みにいーぐるさんはまずその武器を凍らせ、無力化させようと試み――――成功する。
 だが、その攻撃は余り意味を成さなかった。
 何故なら――――
「破っ!」
 きょしんへいさんは氷で覆われた剣をそのまま全力で振ってきたのだ!
「なっ!?」
 その斬撃自体は、みにいーぐるさんには届かない。
 しかし、氷によって面積が増したその塊が規格外の力で振られた事で、剣圧が風となってみにいーぐるさんを襲った!
 軽量のみにいーぐるさんは羽ばたく間も無く、場外まで飛ばされ、観客席の下の壁に衝突。
 勝負あり。
「‥‥敗者は大人しく去るべき、ね」
 悔しさを滲ませながら、みにいーぐるさんはインビジビリティリングで姿を消し、人知れず会場を後にした。


 徐々に日が傾き、会場が茜色に染まり始める。
 そんな中、準決勝第1試合に望むりす仮面さんの姿が試合場に現れると、観客は騒然とし始めた。
 武器である鞭を握るもう一方の手に、ロウソクが握られていたのだ。
 そして顔にはマスカレード。どう見ても女王様だ。
 それまでの子供達の声援は消え、大人の男性が一気にヒートアップした。
「私にひざまずきなさい!」
 そんな中、りす仮面さんは対峙するれおんとくんを見下ろし、鞭をしならせ地面を叩く。
「は〜、一度言ってみたかったんです〜」
 などと心中でうっとりするりす仮面さんに、場外で見届けていたエルディンは思わず顔を覆った。
「アーシャ‥‥貴女こそ何処へ向かおうとしているのか‥‥」
 そんなこんなで、準決勝第1試合開始。

 りす仮面さん(アーシャ・イクティノス) vs れおんとくん(レオ・シュタイネル)

 勝負は、意外とあっけなく付いた。
 と言うのも――――
「くそっ、足がもう‥‥」
 1日で3試合と言う過密日程の中で、れおんとくんの体力は限界を迎えていたのだ。
 特に前の試合では、相当な消耗を強いられた。
 それでもこの大会にかける意気込みから、最後の意地を見せ、距離をとる。
「これを撃ち抜けば、勝機はある!」
 が――――れおんとくんの放った2本の矢は、りす仮面さんを捉える事はできなかった。
 下半身が安定せず、照準がぶれたのだ。
 絶望の中、れおんとくんの視界には、女王様の接近する顔が映り――――次の瞬間、彼は床に倒れていた。
 勝負あり。
「くっそ〜。今度こそは優勝って思ってたのに!」
 大健闘を見せたれおんとくんだったが、ここであえなくその夢は費えた。
 同時に、女王キャラに弱いと言う妙なジンクスが生まれてしまった!
「そんなの嫌だーっ!」
 獅子の咆哮が、夕日に照らし出される会場にこだまする――――

 準決勝、第2試合。
 ぶらっくいーぐるさん(円 巴) vs きょしんへいさん(メグレズ・ファウンテン)

「ほう‥‥」
 既に数度の攻撃を試みたぶらっくいーぐるさんは、感嘆の声を漏らす。
 彼女の繰り出すフェイントを交えた斬撃は、きょしんへいさんの剣によって全て封じられた。
「ならば次の攻撃も受けられるか? それが可能ならば、敗北を認めるとしよう」
 ぶらっくいーぐるさんは呼吸を整え、飛鳥剣を下段に構える。
 そして、目を見開くと同時に、その剣を上空に向けて振り上げた!
「高成れ【飛鳥】!」
 同時に、剣から翼のような形のソニックブームが発生し、きょしんへいさんを襲う。
 響く衝撃音。
 会場中が息を飲む中――――きょしんへいさんは、両手をクロスさせた格好で、その場に立っていた。
「防いだ‥‥いや、耐えたのか」
 そう呟き、ぶらっくいーぐるさんさんは踵を返す。そして、そのまま場外まで歩いて行った。
「あれを耐えられたのなら、認めるしかないだろう」
 孤高のぶらっくいーぐるさんは、その誇りを胸に、自らの意思で会場を後にした。
「これもまた、一つの美学と言ったところなのでしょう。潔し」
 アハメスの言葉を聞いた会場は、ぶらっくいーぐるさんの背中を拍手で見送った。


 総勢32名による一夜決戦、『第三回まるごとオールスターズ武闘大会』。
 その決勝に残った2名は、試合場の中心で握手を交わしていた。
 相手を讃えあい、熱く、そして華やかに技量を競う。
 そしてそれを観客は心の底から楽しむ。
 それこそが、この大会の意義であり、根底である。
「今回も地元から優勝者はでなかったが‥‥素晴らしい大会だった。勝者のみならず、礼を重んじる者、小さき身体で闘志を燃やす者、趣向を凝らして観客を楽しませる者にも、それぞれ拍手を贈って欲しい」
 決勝戦を前に、アウグストは満足げにそう告げた。
 そして、彼が試合場を降りたところで、最後の試合が始まる。
『きょしんへいさん』ことメグレズ・ファウンテンと、『りす仮面さん』ことアーシャ・イクティノス。
 双方の瞳には、賞品や名誉ではなく、相手の顔のみが映っている。
 共に抜群の体力を備えたもの同士。今回の大会形式では、それが一番の強みだったのかもしれない。
 後は、優勝への執念、意地、そして運。
 勝利の女神が微笑む方に、栄光は贈られるだろう。
「はじめっ!」
 夕日が沈み始めたその刻、はじまりを告げる号令が高らかに響いた。



 敢闘賞――――アニエス・グラン・クリュ、ミシェル・サラン、マロース・フィリオネル

 第3位――――レオ・シュタイネル、円 巴

 第2位――――アーシャ・イクティノス

 そして、第三回まるごとオールスターズ武闘大会優勝者――――


 メグレズ・ファウンテン