ロスト・チルドレン 〜死の魔女〜
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■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 30 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:03月16日〜03月21日
リプレイ公開日:2009年03月22日
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●オープニング
雪の解けた柔らかな土に、小さな足跡が綴られていく。
その感覚は全く歪む事なく、丁寧に、丁寧にこしらえられている。
しかし、そんな跡も、少し時間が経てば、新たな足跡に上書きされ、周りと同じ形に戻る。
或いは、それは自分の人生そのものなのだ――――ルファーはそう自覚しつつも、その歩みを止める事はない。
彼女には目的がある。
それは、死を前にした者の心残りを叶えてあげる事。
彼女の行動は、それに全て集約されている。
その過程で『死の魔女』と言う二つ名が広まった事も。
その未来に輝かしい光が待ってはいないとわかっていても。
彼女はただ静かに、淡々と目的を描き続ける。
仄かにその身を暖める、過去だけを抱いて。
−ロスト・チルドレン−
ルファーには、幾つかの身体的特徴がある。
女性の人間の中にあっても小柄な部類に入るその身体。
手首に残る痣。
そして、普通の人より優れた嗅覚もまた、その一つだ。
「‥‥」
山道の途中、微かにルファーの鼻腔を刺激した、血の臭い。
それを辿り、道を外れてなだらかな荒れ野を下って行くと――――彼女の視界に、木の幹にもたれ掛かり項垂れている青年が映った。
その衣服は血で染まり、身動き一つしない。
亡骸――――そう判断してもおかしくないその身体に、ルファーはまず肉声で話しかける。
返事がない事を確認すると、今度はテレパシーを用いて思念による意思の疎通を試みた。
『私の声が聞こえるでしょうか』
反応は――――あった。
『‥‥お迎えが来た、のか?』
それを確認し、言葉を繋ぐ。
『私は彼の世からの使者ではありません。現世に息衝く者です。これから人を呼んできます』
『そうか‥‥これはテレパスか』
ルファーの言葉に、男は納得したように思念で呟き、その指を微かに動かした。
何かをしたかったのだろうが、その意思が行動として反映される事はなかった。
『人を呼ぶ必要はない‥‥。その意味も‥‥ない。俺は‥‥もう‥‥助からん』
確かに、余りにも血が流れすぎている。
ルファーもそれに気付いてはいた。
『悪いな‥‥気を使わせて』
『いえ、そんな事は』
自身の思惑を見透かされ、ルファーは少し戸惑う。
だが、彼女にはすべき事があった。
開放の為の使命と言ってもいいかもしれない。
忠実に。
そして、切実に。
『貴方の思い残しを教えて下さい。その望みを私が叶えます』
『‥‥最期の願いを聞いてくれる‥‥と言う事か?』
『そうです』
もう幾度となく発してきた、実質的な死の宣告。
しかし、目の前の血まみれの男性に対して、ルファーは微かな戸惑いを覚えていた。
『ありがたい‥‥ならば、この俺の思い残しを君に託したい』
男は消え入りそうな思念で、ルファーに告げる。
『ここから山道を‥‥下った直ぐ近くに‥‥村がある。俺の故郷‥‥そこで‥‥しっそ‥‥う‥‥じけ‥‥』
『失踪事件、ですね』
『ああ‥‥それ‥‥を‥‥かいけ‥‥つ‥‥』
解決して欲しい。
その意思表示を終え――――男性は静かに、その生涯を閉じた。
翌日早朝――――
「まさか、フランツが死ぬとは‥‥」
ルファーは山道を降り、その最寄の村の村長宅に足を運んでいた。
家には村長の他、村人が数名、神妙な面持ちでルファーの話を聞いている。
フランツと言う名の男性の死を伝えると、村長は信じ難いといった表情で頭を抱えた。
「可哀想に‥‥まだ結婚して子供が出来たばかりだと言うのに」
フランツには、最愛の妻フリーダと、生まれたばかりの男の子がいた。
まだ彼女らにはこの一報は伝わっていない。
「何故あんな正義感溢れる好青年が、儂より早く逝かねばならないのか。なんと言う世の無常よ」
嘆きつつ、村長は顔を手で覆う。
そして、その指の隙間からルファーに視線を送った。
「それで、フランツは貴女に何と?」
「はい。この村で起こっている失踪事件を解決して欲しいと」
「‥‥そうか。最期の望みがそれとはな。なんと言う正義感だ」
何度も首を左右に振り、村長は瞑目している。
そして、彼の口から失踪事件の内容が伝えられた。
――――5日前の夜。
村の子供達が六人、突然村から消えた。
それぞれ別の家庭の子供達で、いずれも友人関係にある者達だ。
行き先を告げたり、何かを示唆したりする事もなく、いきなりいなくなったらしい。
そして、その子供達を捜していたのが、フランツだった。
「恐らく、フランツは真相に限りなく近付いたのだろう。そして、犯人に殺された」
村長のその言葉は、確かに誰もが浮かべる憶測だろう。
「そして、その犯人も目星が付いている。あやつ、やはりバンパイアだったのだ」
だが、それに続く言葉は、ルファーにとって余りに意外なものだった。
村長の言う犯人とは――――かつてこの村を訪れ、暫く滞在していたと言う色白の優男の事を指していた。
今は村から少し離れた場所に佇む小屋で、ひっそり暮らしているらしい。
その男が、実はバンパイアで、今回の事件の犯人ではないかと推測しているのだ。
「中途半端に情けをかけ、村の近くに住まわせていたのが間違いだったのだ。フランツもさぞ無念だっただろう‥‥」
村長の言葉に、他の村人達も全員俯いて、肩を震わせていた。
話を聞き終わり、外に出たルファーは、その背後の村長宅からあからさまな嫌悪感を含んだ村人達の視線が向けられている事を察し、顔をしかめた。
失踪事件があったばかりなのだから、余所者に良い顔をしないのは当然――――そう思いつつも、ルファーは何処かその異常性を感じていた。
そこから逃れるように、ルファーは思考に耽る。
もし仮に。
村長の推測が全て真実で、バンパイアが犯人だとしたら、ルファーの手には負えない可能性が高い。
だが、それを全て鵜呑みにする気は、彼女にはなかった。
とは言え、可能性のひとつとしては十分成り立つ。
いずれにしても、その容疑者とは対面しなくてはならないだろう。
であれば、いざと言う時の為、ある程度の力量を持った仲間が必要となる。
ルファーは意を決し、自身の持つ金銭で腕の良い冒険者の手を貸りる事にした。
●リプレイ本文
荒涼とした大地を撫でるように通り過ぎた風を背に、三笠明信(ea1628)、エルディン・アトワイト(ec0290)の二人はルファーと共に、村から少し離れた小屋を訪れていた。
小屋は直ぐに見つかった。
木製の、お世辞にも綺麗とは言いがたい、所々傷んでいる小さな小屋だ。
「さて。一応ここから検査してみましょう。アンデッドであれば私の本分と言う事になりますが‥‥」
小屋の中に入る前に、エルディンはデティクトアンデッドの詠唱を始める。
村長の言が正しければ、小屋の中に男がいる場合、この魔法で感知する事が出来るだろう。
「ところでルファーさん。被害にあわれた方の事を詳しくお聞きして良いですか?」
「はい」
その傍ら、明信はルファーからフランツのいまわの際の様子、その場所について聞いていた。
ルファーも念入りにフランツの身体を調べた訳ではないが、出血は頭部と腹部からで、現在は村人が遺体を村に運び、埋葬していると言う事は把握している。
尚、発見したのは日中だった。
それを聞いた明信は思案顔で顎に手を当てる。
「バンパイアの被害だったなら、噛まれた跡があっても良さそうですし、日中と言うのも妙ですね‥‥」
その呟きの中、エルディンが検査を終え、一つ息を吐く。
「反応はありませんでした」
留守にしているか、別人が居座っているかでない限り、バンパイアの線は消えたという事だ。
「もし村長がバンパイアの特徴を知っているならば、バンパネーラの可能性もあります」
バンパネーラ。
他生物に噛み付き生命力を奪う事で生を成していると言う意味では、バンパイアと同じ存在だ。
外見も類似しており、しばしば間違われる事があると言う。
だが、バンパネーラは無闇に人を襲うと言う事はしない。
基本的には植物の精を吸って生きている種族だ。
「ハーフエルフ、と言う線もありますね。迫害によって追い出されたのであれば」
「その可能性は確かにあると思います」
明信は、ここに来る前に村周辺で聞き込みを行っていた。
主に『人攫い』『用心棒』と言った噂について探ってみたが、それらの言葉に引っかかる情報はなかった。
代わりに聞こえて来たのは、村長の風評。
異分子に対して徹底的に敵視し、その性質は閉鎖的である事の多い田舎の村においても際立っていると言う。
「いずれにせよ、まずは行動に移りましょう。まずは手筈通り私が」
祈りを捧げるような仕草と共に、エルディンが一歩踏み出す。
予定では、まずエルディンが旅の神父を装って小屋を訪れ、村で冷遇された事を理由に休憩を懇願する。
そして失踪事件について話を聞くと言う流れだ。
明信とルファーが見守る中、エルディンは静かにその扉を叩――――こうとして、止める。
「おっと。まずはこちらの調査もしておかないと」
エルディンは再び扉から離れ、テレパシーリングを嵌める。
そして、予め村で聞いていた、失踪したと言う子供の名前の一つを使い、交信を試みた。
もし小屋に子供達がいれば、そして生きていれば、反応がある筈だが――――
一方、村長宅。
シュネー・エーデルハイト(eb8175)は、冒険者としての身分をそのまま明かし、村長から事情を聴取していた。
バンパイアと断定した村長の言動に疑念を抱いているからだ。
「余所者にそこまで答える義務はないな」
しかし村長はにべもなくそう告げる。無論、シュネーは更に疑念を深めた。
「バンパイアだと思うに至った理由があるのなら、それを教えて頂きたい、と言うだけなのですが」
シュネーは敢えて敬語を使い、低姿勢で礼を尽くす。
だが、村長は一貫して回答を拒否した。
これが余所者に対しての彼の対応だとしても、シュネーには疑問が残る。
幾らフランツの死を伝えに来たとは言え、ルファーに対してはそれなりの対応をしているのだから。
「では、改めて出直す事にします。失礼しました」
そう言葉にはしつつも、シュネーは心中で確信していた。
この村長が何かを隠している事を。
だがその一方、核心的な悪とは思えない材料もある。
ルファーを見逃した点だ。
例えば、子供の失踪からフランツの殺害まで、全て村長、若しくは村人が何らかの目的で行った事ならば、ルファーに対して口封じを試みた筈である。
そうしなかったと言う事は――――
「ん、シュネー・エーデルハイトか。首尾はどうだった?」
思慮を巡らせていたシュネーに、エイジ・シドリ(eb1875)が声を掛ける。
エイジはフランツの妻や子供の様子を確認すべく、その家を訪ねていた。
だが、主人を亡くしたばかりと言う事もあり、結局戸を開ける事は許されなかった。
その後、村人への聞き込みを行ったものの、協力的に答えてくれる者は殆どいない。
まともに目を見て話をしてくれるのは、子供くらいだ。
「バンパイアの仕業とは思えないけど、証拠までは‥‥ね」
シュネーは首を振り、嘆息する。
「話を聞く限り、村長やその取り巻きがフランツの死を想定していた可能性はあるようだが」
「ルファーの心証はそうだったみたい。バンパイアの件といい、怪しい素振りは数知れず、ってところね」
シュネーの言葉に、エイジも首肯する。
そんな二人を、村人達は遠巻きに眺めていた。
その様子は、やはり余所者に対しての警戒心が見て取れる。
だが、その一方――――それとは違う空気も漂っていた。
(これは‥‥怯えでござるか?)
村人の様子を観察しつつそう察知したのは、ジャパンの忍者、音羽朧(ea5858)だ。
木遁の術で木に化けたり、インビジビリティリングで姿を消したりしながら、気配や物音も一切遮断し、村人を見張っている。
村の中に、彼の隠密術を見破るスキルを有する者はいない。
木の立ち並ぶ村の広場でシュネーとエイジの背中をじっと見ている数人の村民の会話を、朧はじっと聞いていた。
「あいつら、ゲルマン語は使ってるけどこの国の人間じゃねえよな。何なんだ」
「知らねえよ。何にしても、余所の国の連中には関わらない方がいいな」
どうやら、他所の国の人間に対して怯臆しているようだ。
田舎の村には異国の者を見ただけで尻込みする者は少なくない。
朧も、そう言った閉鎖的な村の性質は想定していた。
余り他者と関わらないと言う性質だ。
それは村内においても十分あり得る話で、極端な場合は隣人であっても、良くない噂があれば接したがらない傾向が見える。
そう言った事情が絡まった結果、子供の失踪は情報伝達が行き届いてない故の勇み足で、実際は子供達は失踪したのではなく、親戚の家に預けられただけではないか、と言う憶測を立てていた。
仮に、村長がフランツ殺害の犯人と断定している優男と子供達が仲良くなっていたとしたら、それを引き離す意味で一時村から子供を遠ざけると言う可能性もある。
また、子供達が単に何かに興味を持って親に無断で外泊しているかもしれない。
そういった事情が失踪事件の真相で、犯人そのものは存在しないのではないか――――
(‥‥と思っていたのでござるが)
しかし、朧の知人である円周やフィリッパ・オーギュストの情報収集の結果、その可能性は余り高くないようだ。
子供が預けられたと言う事実、子供の間で特別流行っていたものと言うのは、どうもないらしい。
その一方、朧自身がこれまで聞いてきた村人の会話の中には、興味深い内容が幾つかあった。
村民は村長に懐疑的なようだ。
子供の失踪、フランツの死を悲しむ声は数多くあり、隠蔽の気配もない。
朧は更に情報収集を続ける事にした。
シュネーが去り、暫く経った村長宅――――屋根裏部屋。
小柄な男性が、足場に穴を空け、じっとそこから下の様子を伺っている。
マート・セレスティア(ea3852)だ。
忍者にも引けを取らない隠密術を有している事、身体が小さく身軽な事から、この監視役を買って出ていた。
その成果は直ぐに現れる。
シュネーを見送った後、村長の傍に数人の武装した男性が近付いてきて、話を始めた。
「‥‥あの異国の者、儂に疑いの目を向けていたな」
声は小さかったが、マートの聴力はその声を拾う事に成功した。
「まあ良い。それより子供達の奪還が最重要課題だ」
村長の問いに、武装した男達は頷いてみせている。
「機は熟した。明日にでも向かうとしよう。フランツの件が奴の仕業だと言う噂は、既にあの小柄な女によって広まっている筈だ」
村長の声には、明らかに笑みを帯びていた。
言動の内容。そしてその笑み。
それが意味する所は、マートも何となく理解できた。
(早くみんなに知らせないと)
マートは穴から目を背け、村長が家から出るのを確認した後、速やかに脱出した。
その頃――――優男の住む小屋では。
「‥‥そう言う事だったのですか」
「意外と言えば意外、でしたね」
真相を知った明信とエルディンが、テーブルに腰掛けて頷きながら、眼前の男の話を聞いていた。
男の正体は、エルディンの予想通り、バンパネーラだった。
村長にバンパイアに対しての知識があったならば、誤解するのは必然と言えるだろう。
だが、意外だったのはその件ではない。
子供達がここにいた理由だ。
「まさか子供達が自発的に訪れていたとは‥‥」
明信の視線には、六人の子供達の怯えた姿が映っている。
その怯えは、バンパネーラに対してではない。冒険者に対してだ。
「この子等は、私を心配して尋ねてきてくれたのです」
バンパネーラの男は、物静かで優しく、それでいて強く、子供達にとっては憧れの存在となったらしい。
彼が村にいた僅かな間に懐いたようだ。
それだけではない。
子供達は、もう村には戻りたくないと訴えていると言う。
「彼らは皆、村の大人に大きな失望と恐怖を抱いています」
自分達の憧れへの迫害。
異分子への過剰な警戒と畏怖。
村長が村全体に強いたその空気は、子供達に得も知れぬ恐怖を与えていたのだろう。
「となると、ただ彼らを村に返すだけで済む問題ではない‥‥と言う事になりますね」
エルディンの言と同時に、戸を叩く音が聞こえる。
扉を開けたそこには、村で調査を行っていた四人の冒険者の姿があった。
調査によって判明した情報は、一つの方向性を打ち出していた。
まず、フランツの死について。
エイジは人間関係の縺れを可能性として考慮し、調査した結果、村長と折り合いが悪かったと言う情報を得た。
フランツは、外来者に対してもっと優しく接するべきと主張していたようだ。
更に、シュネーの心証、朧が聞いた村人の生の声、そしてマートが入手した本人の発言。
何より――――ルファーに対しての行動と言葉。
いずれをもってしても、村長が関与している可能性が極めて高いと言える。
「やっぱり、犯人をでっち上げようとしてるのかな」
マートの言葉は、最も高いと思われる可能性だ。
「‥‥恐らく」
バンパネーラの男は悲しげに呟く。
仮に――――村長がフランツの主張が気に食わず、(偶然、故意問わず)殺害した場合。
その罪をバンパネーラの男に擦り付ける事が出来れば、村の内外の異分子を同時に排除できる。
動機としては十分だ。
だが、何故そこまで余所者を嫌悪するのか。
「皆さんにお聞きしたい事があります」
全員がやりきれない顔をしている中、ルファーは一つの質問を提示した。
それは『隣人愛とは何か?』と言うものだ。
突然の質問だったが、それぞれが自身の考えを言葉にした。
エルディン曰く。
「自分自身を愛するように人を愛する事、ですね。実行には困難も伴いますが」
シュネー曰く。
「自己愛。隣人を愛する事で、隣人にも愛されるように望む心じゃないの?」
エイジ曰く。
「特に興味はないが‥‥誰かが『全てに感謝を』と言っていた気がするな」
朧曰く。
「心と行動の摩擦を良い方向に捉えようとする十人十色の心。良い意味での勘違いでござるな」
マート曰く。
「それ何? 美味しいの?」
明信曰く。
「集団生活の秩序‥‥そして防衛本能でしょうか」
それらの答えを聞き終えたルファーは、それぞれに頭を下げ、視線を子供達に移した。
子供達は、小柄なルファーやマートに何度も視線を送る。
マートが笑顔で手を振ると、子供達は驚きつつも手を振り返した。
「村長は‥‥自らの心の中にかつてあった愛情を失ってしまっているのではないでしょうか」
或いは、彼にも隣人を愛する心はあるのかもしれない。
身内と言う隣人を愛する故に、それを守ろうと余所者を排除しようとする。
だが、結果的にそれで身内を傷付け、尊い命が失われた。
恐らくは、それが現実だ。
マートが子供達と戯れる中、朧とエイジがそれぞれ腕組みしながら思案顔を作る。
「明日、村長はここへ来るようだが」
「どうするでござるか?」
エルディンはルファーの表情を眺め、微かに微笑んだ。
「諭すのであれば、協力しますよ」
ルファーは頷く。
「‥‥きっと、わかっては貰えないでしょう。それでも、やってみます」
フランツと約束した失踪事件の解決。
それは、子供を取り返すだけではない。
「皆さん、あと少しの間協力をお願いします」
ルファーの言葉に、冒険者一同全員頷いて見せた。
結果として――――彼らの推測は的中していた。
フランツが村長の取り巻きに追われている所を見ていた村民がいたのだ。
冒険者達の地道な情報収集が、そして村長への村人の不信任が招いた結果だった。
「村を守る為だ! 異なるものを排除して現状を守り抜く! フランツはそれを否定したから排除した! 何が悪い!」
その咆哮が果たして愛情によるものなのか、狂気によるものなのかは、定かではない。
結局、子供達は親の元に戻り、村長はその身分を剥奪され、牢屋に入れられる事となった。
こうして、失踪事件は解決した。
少なくとも、村にとっては。
その日の夜。
「ルファー?」
それぞれが自らの塒で一夜を過ごす中、小屋の外で月を見ていたルファーに、シュネーが声を掛ける。
ルファーの表情には陰りがあった。
「‥‥自分の為に人を愛する。それは、もしかしたらとても罪深い事なのかもしれません」
見返りを求める愛は、時に暴走する。
今回の事件は、それが極端に発揮されたケースだ。
「子供の頃のように、笑顔に笑顔を返すような純粋な愛情は、持ち続ける事はできないのでしょうか」
その言葉はシュネーに対してと言うより、自身に問い掛けているようだった。
だから、シュネーは答えはせず、重ねるように問い掛ける。
「そう思うのは、貴女もそうだから?」
「‥‥」
ルファーの口からは何も聞こえない。
ただ、申し訳なさそうなその顔だけが、月夜の下の真実となった。