女性の命は大切に

■ショートシナリオ&プロモート


担当:UMA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:4人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月20日〜05月25日

リプレイ公開日:2008年05月28日

●オープニング

 さて。
 ここはノルマン王国の首都、パリ。
 セーヌ川の上流地帯を中心に、多くの冒険者達が集い、この都で腕を磨いている。
 そんな冒険者達の生活の中心とも言えるのが、冒険者ギルドだ。お仕事を斡旋してくれるこの組織があるからこそ、冒険者は定期的に収入が得られる。当然、数多の冒険者がいる大都市のパリにも、しっかり存在している。
 そんなパリの冒険者ギルドで働いている従業員は、中々バラエティに富んでいたりする。強面で周りの女性から怖がられている独身のオッサンや、優しくてドジな女性など、統一感は殆どないといって良い。
 そんな従業員の中には、秘密を持っている人間もいる。
 それは、とても小さな秘密だった。
 だが、当の本人にとっては、かけがえのないもの。
 決して、代わりは利かない存在――――


 その日、ギルドには沢山の女性が押し掛けていた。
 普段はむさ苦しいその場所が、華やかに彩られている‥‥かと言うと、そう言った雰囲気ではない。むしろ通常時以上の殺伐とした空気が漂っている。
「ちょっと聞いてよ! あいつらときたら本当フザケてんのよ!」
「市民をなんだと思ってるのかしら、あの役立たずどもはっ! きぃーっ!」
 冒険者は、一般人から一定の距離を置かれている。それは尊敬の念と言うよりは畏怖に近い。様々な仕事を請け負う冒険者と言う職業は、良くも悪くも変わり者の坩堝だ。まして、中には平気で人を傷付ける者もいる。距離を置かれて当然の存在だ。
 だが、この場においてはその例は該当しそうにもない。
「お、落ち着いてください〜」
 ギルドの女性従業員フィーネ・プラティンスが必死で女性の群れを諌めている。その甲斐あってか、騒動は多少鎮静化した。
「理由を言って頂けると、非常に助かりますのです」
 普段はトラブル処理を行っている強面の従業員が丁度外出していた為、フィーネが理由を聞いていた。
「理由も何も、あの官憲どもったら! ぶほーっ!」
 女性群の代表者らしき恰幅のいいマダムが奇声交じりに行った説明を要約すると、こうだ。
 ここ最近、この界隈に盗賊が現れている。それも、ただの盗賊ではない。女性の髪をこっそり抜き、それを頂いて行くと言う非常に困った盗人らしい。
「私なんてねえ、もう三回もやられたのよ!」
「私もよ! もう恥ずかしくて買い物にも行けないったら!」
 髪の毛を数本抜かれただけでどうしてそうなるのかは、誰にもわからない。それ以前に、もっと恥ずかしがる箇所が他に幾つもある‥‥のだが、ここではそれについては触れないでおこう。
 兎に角、髪泥棒が現れたと言う事だ。憤る彼女たちは、町の警らにその髪泥棒をひっ捕らえるよう要請した。しかし、一向に取り合って貰えず、ここへなだれ込んできたらしい。
「あいつら、調子に乗ってるのよ! 聞いてよ、この前も‥‥」
 豪雨のように捲くし立てるマダム達に気圧され、フィーネの身体が徐々に沈んでいく。
 その喧騒の傍らで、十代後半と思しき女性が今にも噴出しそうな顔のまま項垂れていた。その女性が、冒険者の一人に声を掛ける。
「あたしね、何となく犯人わかるんだ」
 彼女――――カタリーナ・メルカは、堂々と宣言した。
「きっと、犯人はモテない男よ。おまじないの為にやってるんじゃないかな」
 現在この町では、想い人の髪の毛と自分の髪の毛を結んで燃やすと、その異性と結ばれると言うおまじないが流行っていると言う。その女性が推理するには、全くモテない男が片っ端から女性の髪の毛を拝借し、そのおまじないをしているのではないか、と言う事らしい。
「でも、何もそこまでしなくても‥‥ねえ」
 どうにか笑いをかみ殺しながら、女性は同意を求めてきた。
 しかし、確定は出来ない。どこにも確証はないからだ。
「きっと犯人はあいつよ! 警らのトルステンよ!」
「そう言えばあの男、女と仲良くなるなんて子孫繁栄の為の儀式でしかない、とかいつも言ってるわね」
「だから取り合わないのよ! 自分が犯人だから! 間違いないわ!」
 マダム達はマダム達で、犯人を女性の権威を貶めているらしきトルステンと言う官憲だと断定したらしく、ギルドの内部で決起集会を開き出した。尚、フィーネは既に制圧され、その波に飲み込まれている。掛け声と共に無理やり拳を突き上げさせられているその姿は、不憫でならない。
「そんな訳で、私達『麗しの婦人会』は、冒険者に犯人の拿捕を依頼するわっ」
「え? は、はぁ。正式な依頼でしたら、お手続きの方を‥‥」
 フィーネが手続きの用意をする前に、自称『麗しの婦人会』の方々は地響きを上げて退去して行った。
 猛獣の群れが町に放たる中、冒険者達は気付く。その間隙を縫うようにして、一人の幼い少女がギルドの前でポツンと立っている事に。
「儀式‥‥」
 小さな声。無表情で、それでいて何らかの強い意志を感じる大きな目が印象的な女の子だ。
「髪の毛は‥‥儀式に‥‥」
 少女はそう呟きつつ、つかつかとギルドに入って来る。冒険者達は彼女に近付こうとしたが――――
「あ、あら! ダメよこんな所に子供が来ちゃ! 早くお家に帰りなさい!」
 カタリーナが半ば強引に返してしまった為、それ以上の話を聞く事が出来なかった。
 儀式。少女は確かにそう言っていた。呪いの儀式に髪の毛を使用すると言う話は、古今東西珍しいものではない。とは言え、フラッと現れた少女の言葉をいきなり鵜呑みにするのも、得策とは言い難いだろう。何より、儀式と言う言葉の意味をちゃんと理解しているかどうかも怪しい。
 幾つか提示された情報と推測。その中に果たして答えはあるのだろうか?
 そして、その答えに実りはあるのだろうか?
 冒険者達は顔を見合わせ、全員同時に頷き――――事の成行きを生暖かく見守る事にした。
「ええっ!? 受けてくださいよぅ!」
 フィーネの涙ながらの訴えに、果たして名乗り出る者は――――

●今回の参加者

 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7900 諫早 似鳥(38歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 eb1875 エイジ・シドリ(28歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3087 ローガン・カーティス(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

セレスト・グラン・クリュ(eb3537)/ 早瀬 さより(eb5456)/ エフェリア・シドリ(ec1862

●リプレイ本文

●報告会
 依頼を受けた日の夜。酒場の個室にて、各々の情報収集の成果についての報告を行った。
 まず、疑わしき人物についての整理。
 最重要人物として挙げられるのは、官憲のトリステン。女性に対し特殊な思想を抱いている人間だ。
 次に、カタリーナ・メルカ。いきなり犯人像を語り出す、少女を半ば強引に帰すなど、やや不審な点が目立つ。
 そして、そのカタリーナに帰るよう促された、謎の少女。
 以上が、主な容疑者だ。
「疑わしき者はもう一人いるわ。この依頼書の執筆者‥‥そう、そこの貴方」
「え?」
 レティシア・シャンテヒルト(ea6215)のビシッ! と突き出された指は、あさっての方向に向けられている。報告会に参加するよう言われてやって来たフィーネ・プラティンスは、呆然とその様子を眺めていた。
「依頼書を書いた人間の捏造という線も捨てられないのよ。何事にも絶対は‥‥」
「いいから、早く報告しなさいな」
「‥‥これからが大事なのに」
 諫早似鳥(ea7900)に促され、レティシアは渋々報告を始めた。
 彼女の役割は、被害者を装ってエイジ・シドリ(eb1875)の妹エフェリア・シドリと共に官憲の詰め所に行き、様子を探りつつ、捜査の要請を行う事だった。その為の偽装工作が頭に施されている為、髪型が少々乱れている。
 その結果――――要請は予想通りあっさりと棄却された。そこでレティシアらは他の警ら員に彼に関する情報を聞き、犯行に及ぶ事が可能か否かを検証した。
 結論は――――
「あの男、単なる女嫌いのようね。女に触れるのもダメみたい。犯人からは除外」
「世の中には理解し難い人間がいるんだな」
 真顔でそう呟き、エイジは何度もかぶりを振った。
「と言う訳で、国家の陰謀と言う線が浮上」
「しないからな」
 エイジの呟きに、レティシアは無言で笑みを浮かべて見せた。
「ま、冗談はここまでにしておいて。そっちはどうだったの?」
 エイジが脱力するのを微妙に楽しみつつ、促す。
「俺の方は、中々面白い収穫があった」
 彼の担当は、カタリーナ・メルカへの尋問だった。
 最も重視した点は、彼女がギルドに来た少女を帰した事。ただ、それを直接聞く事はせず、誘導尋問の形式を取った。名前、その場にいた理由、被害にあったかどうか、そして……身内の有無。最後の質問は、少女との関係を暗に測るものだった。
 その結果――――
「カタリーナ・メルカは例の少女について、何か知っていると見ていいだろう。身内ではないようだが」
 そんな感触を得た。なお、カタリーナには少女の似顔絵作成にも協力を仰いでおり、現在エフェリアと共に別室にいる。
「と言ってもねえ。まじない目的なら、あの子らは無関係なんじゃないの?」
 突然似鳥が割り込んでくる。
 彼女が銀貨片手に集めた情報によると、カタリーナの言っていた『おまじない』は、子供を中心に自然と流行り出したもので、誰かが意図的に……と言うものではないらしい。つまり、隠れ蓑ではない。ただ、女性が被害者である以上、おまじないが目的なら女性は容疑者から外れる事になる。
「まじないが目的なら、な」
「悪戯目的の犯行も考慮するのかい? だとしたら、特定は困難って事になるねえ」
 しかし、経験豊かな冒険者達の顔には落胆はない。
 その代わり、約一名疲弊し切っている者が一人。『麗しの婦人会』代表宅で情報収集を行うと言う厳しい役割を担ったローガン・カーティス(eb3087)だ。
「だ、大丈夫か?」
「‥‥問題ない‥‥」
 完全に大丈夫ではない状態のローガンが得てきた情報は、4つ。
 まず被害状況。身体的特徴に関しては、身長の高い数人だけは被害にあっていない。更に、場所はギルドの周辺500m以内の範囲、時間帯は朝から夕方にかけて、と言う共通項が見つかった。そしてまじないに関しては、似鳥の話した内容と同じだった。
「‥‥儀式に関しては‥‥聞いた事はない‥‥と言う事だ」
 そこまで伝え、ローガンはテーブルに突っ伏した。凶暴な主婦から情報を聞き出すのは、とてつもない精神的負担を要する。10分ごとに休憩と銘打って席を離れ、フレイムエリベイションを使用し、ようやく任務完遂と相成ったくらいだ。
「恐らく様々な脱線や誘惑、精神汚染を制する為に全精力をつぎ込んだのだろう。良くやってくれた。後は任せておけ」
「‥‥ああ。暫く休ませて貰う」
 ローガンは有益な情報と引き換えに、力尽きた。
「ああ‥‥ローガン様、貴方の犠牲は無駄にはしません」
 その骸(寝てるだけ)に花を手向けつつ、フィーネがむせび泣く。
「ところであんた、この辺に出入りしてる、もしくはあんたの知ってる非モテな男っている?」
 その様子をジト目で眺めつつ、似鳥はフィーネに問い掛ける。素直に答えてくれると言う期待は余りなかったが――――フィーネは特にうそぶく様子もなくサラっと答えた。
「今日は出てましたけど、トラブル処理担当の『ゲロルド・シュトックハウゼン』と言う者がおりますぅ」
「名前からして非モテだねえ」
「寡黙な人なのですが、容姿が強面過ぎてぇ」
「その男が犯人と言う可能性は?」
「そんな事したらクビですから、あり得ませんよぅ」
 状況としては十分に容疑者とはなり得るが、確かにリスクが大き過ぎる。いずれにしても、想像の域は出なかった。
「なら、おびき出すまで」
 力強いエイジのその言葉に、ローガンも含め全員が顔を上げた。
「囮を使って、犯人を誘い出す。そこを捕まえれば万事解決だ」
「それが一番確実だろうね」
「問題は囮を誰がするかなんだが‥‥」
 そう呟く本人に、視線が集中した。
「‥‥俺、か?」
 能力、状況、都合、そして――――ある種の好奇心。
 様々な思惑の中、囮作戦はその封を切った。

●おっとりと‥‥
 流すように結われた髪。
 いかにも女性と言った水色の服。
 色白で、どこか艶やかな肌。
 完璧なまでに美麗を極めたその姿に、その化粧を施した似鳥は――――ひたすら笑い倒していた。
「笑い過ぎ」
 レティシアが呆れ気味に呟く中、似鳥はようやく落ち着きを取り戻し、鬘と借り衣装で包まれたエイジの身だしなみを整えた。
「しっかし、見事なまでのクールビューティーだね。ほれ、感想は?」
 辺津鏡が映し出す己の姿を、エイジはまじまじと見つめる。
「悪くはない。が、所詮は仮初の姿。真の美少女とは比ぶべくもない」
「‥‥ちっ。目覚めなかったか」
 そんなやり取りもありつつ、囮捜査は実行された。
 犯行時刻や場所は、情報で得た傾向を元に、日中のギルド周辺に絞り込んだ。
 囮役のエイジが練り歩き、そこに近付こうとする者をレティシア、似鳥、ローガンがそれぞれ注意深くチェックすると言う手筈だ。囮の周辺に人が多過ぎると警戒される恐れもあるので、ローガンはやや遠目から警戒を行っていた。なお、前衛のレティシアが似鳥、そしてエイジにテレパシーで随時連絡を送る事で、警戒すべき人物に集中し易い環境を整えていた。
 1日目――――進展なし。
 2日目――――進展なし。
 そして、3日目。
「来たっ!」
 敢えて壁に顔を向け、髪の毛を抜きやすい体勢で待っていたエイジに、若い男が近付いていく。その挙動は明らかに怪しい。ふわふわヘアバンドで子供を装いつつ警戒態勢を固めていた似鳥の足元から、俊敏な動作で忍犬の小紋太が跳び付き――――
「かーのじょ。暇だったら俺と‥‥うぎゃあっ!?」
 ナンパ男に噛み付いた。
『私の推理が正しければ、あれは犯人じゃない。けれど、ああ言う軽薄な行為は是正すべきなので問題ない』
 レティシアが冷静に指摘する中、ナンパ男は泣きながら走り去って行く。
 その様子を呆然と眺めていたエイジの鬘に、不意に手が伸びた。
「‥‥ん?」
 プツン、と言う音と共に、作り物の髪が一本奪われる。次の瞬間、エイジはその視界に――――妹のエフェリアが作成した絵とほぼ一致する顔をはっきり収めた。

●真相
 少女の名前は、リーゼロッテ・シュトックハウゼン。
 母親を亡くして2年になる。
 悲しみに暮れた日々は徐々に薄れ、心優しい父の元ですくすくと育っていた。
 しかし、彼女にはひとつ悩みがあった。
 父親が、女性に恐れられていると言う事実だ。
 何とかしてあげたい。子供心に、リーゼロッテはそう思うようになっていた。

「で、お父さんが町の女性と仲良くなれるように、と思ったんだってさ」
 翌日。ギルドに赴いたカタリーナ・メルカが苦笑交じりに真相を語ってくれた。彼女はリーゼロッテの事を昔から知っており、今回の件に関しても最初からわかっていたようだ。リーゼロッテのいじらしい行為を邪魔して欲しくなかったので、ギルドに赴き、別の犯人像を提示して、少女から疑惑の目を逸らそうとしていたらしい。ちなみに、儀式と言うのは、過去にトルステンがそう言っていたのを聞いて鵜呑みにしたとの事だ。
 その話を聞いたローガンは、緩みそうになる頬に敢えて力を込め、諭すような視線をリーゼロッテに送る。
「悪質な動機でなくて何よりだ。が、反省はすべきだな」
「良いじゃないか。ほのぼのとしていて」
「エイジは甘い」
 美少女に寛大な仲間をどかし、レティシアが前に出る。
「発想は悪くないけど、やり方は問題。髪の毛が必要なら、お願いして貰えば良い。わかった?」
 リーゼロッテはコクリ、と頷いた。
「よし」
 あんたも甘い気がするけどね、と言った面持ちで似鳥が見つめる中、レティシアは少女の髪を優しく撫でていた。
「私も、これ以上咎める気はない。ゲロルド殿、良い娘さんを持ったな。大事にすると良い」
「かたじけない。囮捜査の費用は俺が持つ」
 凶悪な笑みでそう答える。顔は怖いが、性格は決して悪くないようだ。
「ところで、主婦の方々に事情を説明しに行かないとならないのですが」
 そんなフィーネの言葉に、冒険者達は顔を見合わせ、全員同時に頷き――――事の成行きを生暖かく見守る事にした。
「ええっ!? 一緒に来てくださいよぅ!」
 フィーネの涙ながらの訴えに、果たして名乗り出る者は――――いなかったとさ。