検証「神魔を滅ぼせる石工道具は作れるか」
|
■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月20日〜03月25日
リプレイ公開日:2009年03月27日
|
●オープニング
夢。
誰しもがそれを持っている訳ではないし、誰もがそれを果たせる訳でもない。
時にそれは人生の堕落における弁解となり、また人を傷つけ、押しのける免罪符となる。
全てが煌びやかな訳ではないのだ。
にも拘らず、夢を追う者は数知れない。
格好を付けたいからなのかもしれない。
或いは、そうする事で自身の生を主張したいだけなのかもしれない。
それでも、夢を抱き、夢を追い、夢に殉ずるその生き様は、崇高に映り、人の心を満たして止まない。
では、鍛治師にとっての夢とは何だろう?
無論、人それぞれと言えば其れまで。
とは言え、鍛治師ならではの夢はある。
伝説の武具を作る事。
何よりも固い石を打つ事。
王族の部屋に飾られる美術品を創る事。
多くの鍛治師は、こう言った夢を持ち、炎の前に自らを晒す。
「‥‥フフ」
それは、マルシャンス街で稀代の腕を持つ鍛治師アポロニウスの弟子、ペーターも同じ。
彼は今、悪魔に魅入られたような表情で、自らの夢――――と言うか野望に身を焦がしている。
現在、マルシャンス街では、外周500mを誇る巨大なからくり屋敷建設の話題で持ちきりだ。
そんな中、ペーターの親友であるマックス・クロイツァーはその巨大プロジェクトの一員として馬車馬のように働いている。
たまに黒色の雹に見舞われたり、作った石像が急に浮遊して触れただけで鎧を破壊する殺傷力を持った化け物になったり、狙い済ましたかのように局地的に発生した竜巻に直撃してパリまで飛ばされたり、色々ありながらも頑張っている。
ちなみに現在マックスは家を持たない状態なので、ずっと泊り込みで働いている。
彼の婚約者であるマルレーネは、そんなノルマン1の不幸男に甲斐甲斐しくも弁当など届けているらしい。
何処が不幸だと各方面からクレームを受けつつも、一生懸命働いているようだ。
ペーターは、そんな状況に少なからず焦りを覚えていた。
このままでは――――親友に置いていかれるのではないか。
石工として名を馳せたマックスに、鍛治師としてはまだ若輩者の自分は相手にされなくなるのではないか!
そんな思いが、ペーターを未踏の地に誘っているのだ。
「と言う訳で師匠。僕はこれから神魔をも滅ぼす石工道具を作る為の材料を揃える旅に出ます」
「‥‥なんぞ?」
師匠アポロニウスが意味を解する間もなく、ペーターは旅立った。
未だかつて、誰も目指した事のない未踏の頂を目指す旅。
その冒険は辛く厳しいものとなった。
、数多の障害。数多の敵。彼の身体は容赦なく蝕まれて行く。
「これが噂のシャンゼリゼ名物デコレーション・チーズケーキですか。ほう‥‥この濃厚なチーズの中にもどこか草原を思わせる爽やかな味わい‥‥絶妙な甘味‥‥これは中々」
また、強大な疲労感と孤独感が苛み、精神を削り取る。
「ふむ、ルッテ街名物まるごと展示会ですか。これは和みますね」
更には、大自然の驚異が容赦なく襲い掛かり、翻弄され続ける。
「ふう‥‥大分暖かくなったとは言え、秘湯と言うものは癒されますねー」
そして――――ペーターは帰ってきた。
夥しい数の試練を乗り越え、一回りも二周りも大きくなって。
「辛い旅でした。何度もくじけそうになりました。が、僕はついに突き止めたのです。この世に現存する全てのものを粉と化す事の出来る、究極の石工道具の制作方法を。いや、禁術を!」
師匠であるアポロニウスは、土産の炭焼きチーズパンをはむはむ頬張りながら、エチゴヤグッズで身を固めるペーターの力説を聞いていた。
「どうやら、ここに記された2つの鉱石『オリハルクン』『アダマンタルト』と、ブランの欠片を合成する事で、『アルティメット・ミックスアップ』が発生し、伝説と奇跡の狭間で揺れ動く空前絶後の石工道具が生まれるようです」
「さよけ」
「未だかつて誰も踏み込んだ事のないこの領域。辿り着くのは結局、この僕と言う事になりそうですね。師匠、お先です」
「‥‥」
「どうやら、僕はもう師匠の過去の栄光が霞んで見える世界に赴くようです。王族貴族が頭を下げて僕に依頼しに来るのでしょう。その折には師匠、きちんとした敬語を使って下さいね。僕に」
「‥‥‥‥ふぅふ〜」
師匠アポロニウスは耐えていた。
もうずっと耐えていた。
正確には、数年前から耐えていた。
色々と、それはもう色々と耐え忍んできた。
が、もう限界だった。
「少しは‥‥‥‥真面目に生きんかいこのクソ弟子があああああああっ!!」
「僕はクソではありません。師匠、迅速な訂正を」
「他に何か言う事ないんかい! もうワシ目玉飛び出るくらい怒っとろうもん! 怒っとろうもおおおん!!」
マルシャンス街髄一の鍛治屋に悲痛な怒号が響く中、その建物が影に染まる。
雲が太陽を遮ったのではない。
巨大な白鷲が舞っているのだ。
「師匠、知り合いが尋ねて来たので僕が出ます。ちゃんとお留守番できますか?」
「ボケ老人扱いするなあっ! 貴様をクソ呼ばわりしたのは正気の上でじゃい!」
ご立腹のアポロニウスに背を向け、ペーターが外に出る。
すると、その彼の眼前に白鷲が優雅に舞い降りた。
その大きさ、実に3m。
通常はモンスターとして恐れられているホワイトイーグルだが、この街では今や守護神として崇める者もいるくらい、高貴な存在として認知されている。
『御久し振りですね。マックスは息災ですか?』
ペーターはテレパシーリングを装備し、その大白鷲に話し掛けた。
『我が認めた男だ。そう簡単に屈する事などあるまいよ』
どうやらマックスの仕事は順調らしい。あくまで本人基準では、だが。
『斯く言う其方は随分と疲れているようだが。顔色が良くない』
『そんな事はありませんよ。これから2つの鉱石を見つけに旅立つので、少々いきり立っているんです』
ブラン・エクレールの異名を持つ白鷲は、そんなペーターに対し、首を傾げてその顔を覗き込む。
『無理はしない方が良い、とだけは言わせて貰おう。其方が倒れれば、我が友も良い顔はすまい』
『御心配には及びませんよ。それより、お聞きしたい事があるんですが』
ペーターはこれから探そうとしていた鉱石について、ホワイトイーグルに聞いてみた。
すると――――その双方とも、彼の知識の範囲内に収まっていた。
どちらの鉱石も、『パチパチ山』と言う鉱山で僅かながら採取できるとの事だ。
だが、その鉱山はかなり遠く、しかも現在スフィンクスの使いの妖精が住み着いており、謎掛けに答えないと採掘させてくれないらしい。
『厄介ですね。どうしたものか』
『必要ならば、この背を貸す事もやぶさかではないが?』
大白鷲のエッちゃんは羽を広げてそう提言する。
ペーターは暫し思案顔を作り、そしてそのままの顔で尋ねる。
『あと6人乗せる事は?』
『二度に分けるならば問題はない』
つまりは、そう言う事だった。
『では、お言葉に甘えさせて頂きましょう。崇高なる白鷲に感謝を』
●リプレイ本文
ブラン・エクレールの白羽が風を切り、その背に乗せた冒険者達を彼の地へといざなう。
雲間から差し込む光を浴び、まるで神の使いのような様相を呈している白鷲は、優雅に鉱山『パチパチ山』の入り口付近へと舞い降りた。
「実に貴重な体験を貰いましたぞ」
錬金術師フレイ・フォーゲル(eb3227)は、風で乱れたその長髪を直しながら、白鷲の背をゆっくり降り立った。
既に先行組であるペーター、クァイ・エーフォメンス(eb7692)、春日龍樹(ec4355)が待ち構えている中、フレイに続きアハメス・パミ(ea3641)、ローガン・カーティス(eb3087)、ヒューゴ・メリクリウス(eb3916)もその地に足を着ける。
これで総勢7名、今回の調査隊が全員揃った。
『改めて御礼申し上げる。ところでブラン・エクレール、今回の探索対象となる鉱石について、詳しく御教授願えないだろうか』
ローガンがテレパシーリングを用いて尋ねると、白鷲はその巨体を屈める様に羽を休め、静かに答えを紡いだ。
エっちゃんの話によると。
『オリハルクン』『アダマンタルト』と言う名称は、いわゆる俗称・愛称と言った類のものらしい。
それぞれ、大変希少価値が高い『あの鉱石』なのではないか‥‥と目されていたものの、実際には別の石であると判明し、それを揶揄する意味でこう呼ばれているとの事なのだ。
以降、この2つの鉱石は詐欺の常套品となり、市場から締め出された結果、本当に希少価値の高い鉱石となってしまった。
『ありがとう。では、その2つの石の外見についてお聞きしたい。これとは別物だろうか?』
ローガンがダイアモンドを掲げながら質問する。だが、白鷲は首肯しなかった。
『オリハルクン』は黄金色を帯びた半透明の石、『アダマンタルト』が薄く銀色に輝く石でと言うことだ。
「特徴的にはトパーズやシトリン、ムーンストーン、或いはクリソベリル辺りが近いですな」
フィシオログスと言う古代の鉱石に関する寓話が記された研究書を眺めながら、該当しそうな石を並べ立てる。鉱石に詳しいローガンも同意していた。
「オリハルクンにアダマンタルトか‥‥なんか胡乱な名前だな」
ポツリと呟いた龍樹だったが、それ以上は特に追及する気もなく、欠伸を噛み殺しながら保存食を数えている。
「何にしても、山にある鉱石を片っ端から調べればわかるんじゃない?」
「そうですね。それにはまず、スフィンクスの使いをやらをどうにかする必要があるようですが」
クァイとヒューゴの言葉に、それまでは沈黙を保っていたペーターが力強く頷く。
「宜しくお願いしますね。あ、件の鉱石以外はご自由にどうぞ」
「ふむ。だが、必要な鉱石以外を持ち帰る訳にもいくまい。必要量だけ採取したら、後は清掃して帰ろう」
ローガンの言葉に、アハメスが頷く。
「飛ぶ鳥跡を濁さず、ですね」
エっちゃんがわっさわっさと羽を広げ飛び立つ中、一同は鉱山へと向かう事にした。
鉱山の入り口は、通例通り木材で補強されており、特に変わった様子はない。
だが――――
「何かいますね」
ヒューゴがいち早く、その存在に気付く。
そして次の瞬間、それが何者であるかを全員が把握した。
何故なら――――冒険者にとっては割と御馴染みの姿だったからだ。
陽精霊ミスラ。
金色の髪をした大人しい精霊だ。
基本的には主の言葉尻を真似る程度しか言葉は操れない筈なのだが――――
「おまえら とまれ」
男の子の姿をしたそのミスラは、片言ながら自発的な言葉を発した。
とは言えアラビア語なので、理解できたのはアハメス、ローガン、ヒューゴ、龍樹の4人のみ。
他の面々には、ローガンが通訳する事になった。
「ここをとおりたいなら なぞかけにすべてこたえろ」
どうやらこのミスラがスフィンクスの使いの妖精のようだ。
大した戦闘力を有しているとは思えないものの、実力行使で突破してのろいでも掛けられたら厄介だ。
と言う訳で、一行は謎掛けに答える事にした。
「それじゃ いくぞ」
ミスラは鉱山の入り口に仁王立ちし、薄笑いを浮かべながら第一の謎掛けを仕掛けてきた!、
「『あんさつ』とかけて『かたおもい』ととく そのこころは?」
ミスラの言葉に、冒険者一同は一様に首を捻った。
「って言うか、これ俺の国の‥‥こう言うのなんて言ったっけ。小咄か?」
龍樹が思わず呟いた通り、これはジャパン独自の文化が生んだ言葉遊びだ。
「ふっ‥‥中々雅な通せんぼですね。受けて起ちますよ」
しかしペーターは余り気にしていない。
なので気にするな!
「では、各々考えてみましょうか」
「わかりました。この手の事は余り得手ではありませんが‥‥」
ヒューゴの言葉にアハメスをはじめ全員が賛同し、それぞれに答えを捻る。
ジャパン出身の龍樹、先日江戸に赴いていたフレイに期待が集まる中、まずはペーターが先陣を切った。
「出来ました。答えは‥‥『最終的には口を塞いで脅すもの』ですね?」
「ちがう おまえ ぶっそう」
ペーターは正解出来なかった!
「では、僭越ながら私が。『想いを遂げると虚しい事が多々ある』でしょうか」
アハメスの答えに、ミスラはいきなり拍手をした。
「おまえうまい でもかんがえすぎ」
「不正解でしたか」
とは言え、ミスラは満足そうだ。
「物陰から見つめる、ではないのか?」
「私もほぼ同意見ですぞ」
「うむ、どちらも忍ぶ者だな」
ローガン、フレイ、龍樹の答えに、ミスラはにっこり微笑む。
「せいかーい!」
そして何処から出したのかわからないフェアリー・ベルをちりちり鳴らした。
「こう言う出題が何問も続くの?」
クァイの言葉をローガンが約すと、ミスラはコクリと頷いた。
「まあ、日が暮れるまでには終わらせてくれれば構いませんけど」
ヒューゴが髪を触りながら呟く中、ミスラは新たな謎掛けを唱える。
「『ゆーれい』とかけて『びねつ』ととく そのこころは?」
「はい!」
ペーターは元気良く挙手し、再び率先して回答を提示した。
「精神的に参っている人が良く錯覚するもので間違いないですね」
「ぶーっ おまえ ゆがみすぎ」
ペーターは正解出来なかった!
「浮かされ頼りない者、か?」
龍樹の回答にも、ミスラは手で×印を作る。
「それなら、背筋が寒くなる、じゃないですか?」
「あるのかないのか、はっきりしない状態である点が煩わしい、ではないかと」
ヒューゴとアハメスがそれに続いた。
ローガンは前者に、フレイは後者に賛同する。
結果は――――
「どっちもせいかいー!」
見事、ダブルスタンダードを確立した。
そして、三問目。
「『どんき』とかけて『なみだ』ととく そのこころは?」
鈍器。
それは、本来の利用目的以上に特殊な使用方法がやたら有名になってしまっている物体だ。
それが果たして涙とどんな関連性を持つのか――――
「閃いた! 答えは‥‥」
ペーターは正解出来なかった!
「おまえ ひととして げすすぎ」
ミスラが不快感を示す中、冒険者達は割と直ぐに回答を示した。
「武器、あるいは凶器となり得るもの、ではないだろうか」
「双方共に重みのある、ズシンとくるものです」
ローガンとアハメスの答えに、ミスラの表情に笑顔が踊る。
「えるふのひとせーかい! けんしのひともせーかい!」
再び二通りの正解が生まれ、陽の妖精は凄く満足げだ。
「涙。女人が流すそれは男の心を打ち砕く‥‥従兄弟の台詞だ」
「中々雅な親類をお持ちのようですな」
赤面しつつの龍樹の言葉に、フレイはうんうんと頷いていた。
そして――――
「さーいしゅーうもんだーい!」
ベルをちりちり鳴らしながら、ミスラは楽しげに踊る。
ご機嫌麗しいようだ。
「『ぼうけん』とかけて『はーふえるふ』ととく。そのこころは?」
最終問題なだけあり、これまでの中では一番の難問が出される。
「架け橋、ではないか? 冒険は新たな世界、或いは交流への架け橋。ハーフエルフは2つの種族の血を受け継ぐ存在だ」
かなり悩んだ上で、ローガンが答える。
その言葉に、他の冒険者達から感嘆の声があがった。
果たして、正否は――――
「おまえ すごいな でも すこし びかしすぎかも」
「そのような事はないと思いたいが‥‥仕方ないかもしれないな」
ローガンの答えは、理想が高過ぎたのかもしれない。
「ならば『追われるもの』ではないのか? 冒険は常に追い求められ、ハーフエルフは教会に追われる‥‥余り正解であって欲しくないが」
龍樹は少し迷いながら、言葉をゆっくり紡いで行く。
「おまえは ちょっと げんじつてきすぎる かもしれない」
「そうか? だが、間違いであって良かった気もするな」
ローガンとは対照的な回答だったが、それも妖精の用意した答えではなかったようだ。
その一連の流れを受け、立ち上がったのは――――ペーターだ。
「困った事に、愉快な回答が全く思いつきません。どうしましょう」
「‥‥真面目にやる気あるの?」
クァイの冷たい視線を、ペーターはにこやかに受け止めていた。
そんな中、フレイが顎に手を乗せ、呟く。
「であれば『危険と隣り合わせ』ですな」
「同意見ですね。冒険は常に危険。ハーフエルフも、そう言う己と戦っていると言う意味で」
ヒューゴも全く同じ回答だったようだ。
アハメスは肩をすくめ、降参の意を示している。
つまり、この答えが最後の砦だ。
果たして、正解は――――
「せいかーい!」
ベルの音が鉱山の入り口にこだましていた。
難関(?)だった謎掛けを無事クリアした一行は、いよいよ鉱山内に足を運ぶ。
既に採掘はかなり進められている一方、人気はまるでない。
「みんな なぞかけ だめだったから おいだした」
ミスラが胸を張ってそう話す。
何故かついて来ていたが、特に邪険にする理由もないので、8人パーティーで採掘を行う事となった。
ランタンに火を灯しながら、薄暗い中を進んでいく。
「おまえらも なんか なぞかけ だせ」
そんな中、退屈になったのか、ミスラはせがむ様にクァイにまとわり付いていた。
「謎掛けね‥‥ジャパン様式で良かったら、幾つか知ってるけど」
クァイがミスラに構っている傍ら、フレイと龍樹がペーターと並び歩いている。
「ところでペーター殿。可能であれば、研究用に件の鉱石を少し頂戴したいのですが、可能ですかな?」
「む、余裕がありそうなら俺も頂きたいな。自分だけの一振りと言うのは稀有な材料でないと中々作れない」
2人の問い合わせに対し、ペーターは思い悩み――――次の瞬間、立ち止まる。
「どうしましたかな。無理であれば、そう言って頂いて構いませんぞ」
「いえいえ。ちょっと軽い眩暈がしただけです」
ペーターが笑って答える中、龍樹はその様子をじっと観察していた。
鉱石の探索は、それぞれがほぼ力技で行う事となった。
採掘現場に着いた一行は、おのおの用意したスコップやマトックofラックを用い、地道に削っていく。
そんな中、ローガンは鉱山内部を丁寧にマッピングしつつ、新たな採掘場を模索。
ヒューゴはリヴィールマジックを使用し、魔力を帯びた石を探していた。
また、モンスターがいる可能性も考慮し、警戒を怠らない。
「むー むー」
一方、ミスラはクァイの出した『悪人とかけて鍋底の具と解く。その心は?』と言う問題にずっと悩んでいた。
そんなこんなで、一日が経過。
結局、進展なきまま夜を迎える事に。
「ふう‥‥」
ペーターの顔に疲労が浮かぶ。
彼自身も冒険者の採掘道具を借り、懸命に掘っていた。
「風変わりな方とお見受けしましたが‥‥その情熱は偽りなきものでしたね」
そんなペーターに視線を送りながら、アハメスが呟く。
ローガンも小さく頷き、ペーターの熱意を称えた。
そんな中、龍樹はペーターの隣に擬音交じりに座り、手持ちのケーキを差し入れる。
「甘い物は摂り過ぎると体型の維持に支障が出るが、疲れた時には良いらしい」
「すいません。頂きます」
ペーターは神妙にそれを受け取り、ガツガツ頬張った。
「良い食いっぷりだな。斯く言う俺もそう言う姿を気に留めず続けた結果、坂道を転げるように‥‥」
龍樹の体型に関する昔話を、ペーターはうつらうつらとなりながら聞いていた。
その傍ら――――
「ジャパンならではの意味の重複と言うか、そう言うものがあるんですよ。それがヒントです」
「むー むー」
まだ解けていないミスラがヒューゴからヒントを貰っている。
その様子をクァイは少し楽しそうに眺めていた。
「こうさーん! まけだーっ!」
そして、ついに陥落。
ミスラは落胆しながら答えを聞いて来た。
「どちらも掬い(救い)がたい。お後がよろしいようで」
クァイの出した答えに、ミスラはあー、おー、と嬉しそうに関心している。
ジャパンの謎掛けにはちゃんと造詣があるようで、意味は理解していた。
この他にも、『藪医者とかけてロープと解く。その心は?』と言う謎掛けが出されたが、やっぱり妖精は答えられない。
クァイはそんな妖精の前で、自身の首にロープを引っ掛けて見せた。
「このように、引っかかったら命がない」
「!」
ミスラは喜んでいた。
そして、一頻り納得し、とことこと去っていく。
「ようやく満足したようだな」
ローガンが小さく息を吐きつつ呟く中、龍樹がポツリと呟く。
「なにゆえこのような山奥にいるのか、謎掛けを出してみたかったな」
翌日以降も、採掘は続く。
フレイが自前の地図をバーニングマップで燃やし、鉱石がある場所までの道のりを導こうとするが、情報不足の為上手く行かず。
幸いにしてモンスターは現れないようだが、それぞれに警戒しつつ、どんどん掘って行く。
「いつぞやのなんとかウォールを思い出しますね」
ペーターは昔の出来事に苦笑しつつ、体調が優れない中、必死で鉱石を探した。
しかし――――
結局、採掘現場から2種の鉱石が発掘される事はなかった。
「ふぅ。残念だったな」
「折角の興味深い研究対象だったのですが‥‥無念ですぞ」
「宝探しは運ですからね。いつも上手く行くとは限りません」
龍樹、フレイ、ヒューゴが声をかけるものの、ペーターは諦めきれない様子で鉱山の入り口を眺めている。
迎えに来たエっちゃんも、何処か申し訳なさそうに精悍な顔を沈めていた。
そんな折――――あのミスラが一行の前に走り寄って来る。
「見送りに来てくれたの?」
クァイが尋ねると、ミスラは首を横に振り、皮袋を差し出した。
「しょうひん!」
どうやら、謎掛け勝負の賞品らしい。
微笑ましいその姿に笑みを浮かべ、冒険者達はその皮袋の中身を覗く。
「これは‥‥もしや?」
「そのようだな」
アハメスとローガンが顔を見合わせ、不貞腐れ気味のペーターに視線を向ける。
袋の中には、陽の力を宿した指輪と――――
2つの小さな鉱石が入っていた。