クッポー、弓を求め洞窟へ

■ショートシナリオ


担当:UMA

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月24日〜03月29日

リプレイ公開日:2009年03月30日

●オープニング

 アトラトル街は今、大きな転機を迎えようとしている。
 1ヶ月以上前の話になるが、バレンタインデーの際にとある冒険者の助言で行った集団お見合パーティーが成功し、たくさんのカップルが街に観光に訪れるようになったのだ。
 それを受け、アトラトル街観光協会は一世一代の大勝負に出ることを決意。
 過去最大の企画を立ち上げ、一気にノルマン随一の観光名所に上り詰めようと画策している最中だ。
 ちなみに、企画名は『アイドル射撃手クッポーのドキドキワクワク射撃ショー!!!』。
 アトラトル街のアイドル射撃手として人気を博しているクッポーのほぼ丸投げの企画である。
 尤も、当の本人はこの企画をいたく気に入っており、クッポーの姿を模した人形や、名前と弓を刺繍したハンカチなど、関連グッズの企画にノリノリで参加していた。
 ショーの開催まで後2ヶ月ほど。この期間にグッズや似顔絵など、様々な彼に関する商品を売り出す予定だ。
 
 一方、当の本人であるクッポーはと言うと、現在パリの郊外にある『シャレード』と言う酒場にいる。
 1ヶ月ほど前に入手した魔弓『上弦の月』に続き、その双子的な武器となる魔弓『下弦の月』の詳しい情報を聞く為だ。
 酒場のマスターは『下弦の月』が眠ると言われている『アガレスの洞窟』について、クッポーに詳細を提示した。

 ――――アガレスの洞窟。
 それは、実に厄介な洞窟だった。
 その構造は実に入り組んでおり、その上洞窟の天井や壁、地面は魔力によって守られていると言う。
 つまり、壁を魔法で壊してショートカット、と言った行動は不可能と言うことになる。
 加えて、この洞窟は人工の扉が各フロアの階段の前に作られていて、それを特定の鍵で開けないと先に進めないようになっている。
 このアガレスの洞窟は、自然の洞穴が著名な洞窟設計職人ライムライト氏の設計によって改造されたもので、元々は盗賊から宝を守る為の贅沢な宝物庫として利用されていた。
『下弦の月』は、その中でも最高の宝物として最下層に保管されていたそうだ。
「だが困った事に、その持ち主が死んじまってな。鍵の在り処がわかんなくなっちまったんだ」
 鍵は『下弦の月』の持ち主が持っていたとの事だが、彼の死後、その手記にこのような記載が見つかったと言う。

 アガレスの洞窟の各フロアの鍵は、該当フロアの何処かに一つずつ隠してある。ここにまとめて置いておくよりスリリングだからだ

 どうやら持ち主は、もしかしたら盗まれるかも、と言う刺激を体験する為に、鍵を洞窟内に隠していたらしい。
 結果的にその刺激とやらを、もしかしたらあの世で今も楽しんでいるのかもしれない。
「変わった趣味の男だったようだが‥‥結果的に、アガレスの洞窟は攻略対象となった」
 持ち主の家族は余り彼の財産に興味がなかったようで、『下弦の月』は見つけた者が好きにして良いと公言。
 その為、多数の冒険者がアガレスの洞窟を訪れ、そして成果なく帰途したとの事だ。
 そこまで聞いたクッポーは、早速パリから30kmほど南にあるその洞窟を目指し、数時間で挫折して帰ってきた。
「言い忘れてたが、あの洞窟にはライムライト氏が教育したと言う悪戯好きの妖精やモンスターが多数いる。邪魔してくるから気を付けな」
 疲労し切った顔で再訪したクッポーに、酒場『シャレード』のマスターはポーカーフェイスで告げた。

 翌日、パリの冒険者ギルドに『アガレスの洞窟』攻略の依頼が出された。


 尚、アガレスの洞窟のデータは以下の通り。


●岩質
 魔力で守られた岩
●深さ
 12m
●階数
 1F〜B3F(フロア数4)
●場所
 パリから30kmほど南
●モンスター
・1階
 エレメンタラーフェアリー×20 作戦『みんなでいやがらせ』実行中
・B1階
 妖精×1 作戦『火ぃ使ったらあかんがな』実行中
・B2階
 ビーストマン×1 作戦『貴方達の見たいものをみせてア・ゲ・ル』実行中
・B3階
 アンデッド×1 作戦『?』実行中

●フロアの特徴
・1階
 通路幅は120cm。階段までの推定歩行距離は1000m。岩場多し。岩場には手を入れる隙間多し。
・B1階
 通路幅は120cm。階段までの推定歩行距離は800m。迷路のように入り組んでおり、灯りなしで進むのは困難。面積15平方mほどの地下湖あり。外壁に松明が10m間隔で設置されている。
・B2階
 通路幅は240cm。階段までの推定歩行距離は500m。木箱多し。扉の手前に大きな空間あり。
・B3階
 通路幅は240cm。階段までの推定歩行距離は200m。一本道。鍵の掛かった扉の先に『下弦の月』あり

●今回の参加者

 ea1628 三笠 明信(28歳・♂・パラディン・ジャイアント・ジャパン)
 ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6870 レムリィ・リセルナート(30歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ec4441 エラテリス・エトリゾーレ(24歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ec5382 レオ・シュタイネル(25歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ec5385 桃代 龍牙(36歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

ジラルティーデ・ガブリエ(ea3692

●リプレイ本文

 森林の中にひっそりとその入り口を構える、アガレスの洞窟。
 その前には、前回の依頼でエアリアルの搭に赴いた三笠明信(ea1628)、エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)、レオ・シュタイネル(ec5382)、桃代龍牙(ec5385)の姿がある。
「おお、皆様お早いお着きですな」
 そこに、スコップを担いだ英国紳士、ケイ・ロードライト(ea2499)が現れる。
 その顔立ちとスコップは明らかにミスマッチなのだが、本人はとあるドワーフに師事しており、穴掘り修行の真っ最中とあり、至って自然なつもりでいる。
 そして最後の1人、レムリィ・リセルナート(ea6870)は――――
「油断したーっ!」
 何故か蜂に追われて全力疾走していた。


 〜La Caverne Agares〜


 どうにか蜂を撒いたレムリィが爽やか笑顔で蜂の巣片手に合流する中、エラテリスはその様子を冷や汗交じりに見つめている。
「え、えーっと、それは何に使うのかな?」
「洞窟で眠ってるクマさんにあげよっかなーって思って。差し入れに」
「そうなんだ。とっても用意が良いんだね☆」
 エラテリスはボケと言う事がわからず本気にしてしまった!
「‥‥ツッコミのないボケって、おかえりのないただいまだよね‥‥」
 急に元気をなくしたレムリィを尻目に、ケイは入り口付近の壁をスコップで突付いている。
「ふふ、この壁、この手応え‥‥職人の血が騒ぐですぞっ!」
 スタート前から本来の目的を忘れていた。
「‥‥取り敢えず、先を急ぎましょうか」
 収拾が付かなくなりそうだったので、明信は早々の取掛りを打診した。


 行動や言動は兎も角、依頼へのアプローチに関しては全員真面目だった。
 道幅が狭い事を踏まえた上で、隊列は小回りの利くレムリィ、レオ、ケイ、エラテリスがこの順序で一列に並ぶ。
 その後ろに巨体の龍牙、明信が控える格好だ。
 5つの炎が洞窟を照らす中、龍牙だけは壁を左手につきながらマッピングを行っていた。
「岩が多いな。それも割れ目や隙間のある岩ばっかだ」
 龍牙の言葉通り、1Fには岩場が数多く存在していた。
 その隙間から生物が沸いて来ないか注意しつつ、調査は続く。
「この岩の隙間に隠してるのかな?」
「ふむ。同意見ですぞ」
 エラテリスは直に、ケイは手袋をし、最寄の岩の隙間に手を入れるが、そこには何もない。
 仕方なく先に進むと――――
「んー? 何か今飛んだ?」
 先頭のレムリィの視界を、一瞬何かが横切る。
「妖精‥‥ですね」
 明信の言葉通り、複数のエレメンタルフェアリーが飛び回っているようだ。
「それなら、妖精には妖精だな」
「私も連れてきていますから、派遣してみますか」
 龍牙と明信が一度戻り、各々の妖精を連れてくる。
 そして、交流を試みるよう促し、解き放った。
 鍵の在り処、罠の有無など、様々な疑問への回答を期待しながら、冒険者達はひたすらに待つ。
 
 ――――10分経過。

「だから。そこはビシッと『集団記憶喪失かよ!』ってツッコまないと」
「えええっと、こ、こうかな?」
 レムリィがエラテリスに依頼とは一切関係ない事を指南しつつ、時は流れる。

 ――――20分経過。

「この世に鞭をしならせるおねーさんより怖いヤツなんていないって」 
「しかし、普段ほんわかした婦女子が突如そうなると、寧ろ心を打たれますぞ?」
 レオとケイが依頼とは一切関係ない雑談をしつつ、時は流れる。

 ――――30分経過。

「遅いな。何やってんだよ」
「確かに‥‥」
 妖精の主である龍牙と明信が顔をしかめつつ待つ中――――ようやく彼らの妖精達が戻って来た。
 で、肝心の情報はと言うと。
「『バカな侵入者には、中間地点にある岩の隙間に鍵が隠されてるなんて絶対わからないだろなー』‥‥と言う事だそうです」
「燃やすか? あいつら」
 小馬鹿にされた一行は苛々しつつも、情報を元に中間地点を捜すことにした。
 まず扉まで一度足を運び、入り口からの距離を歩数で調査。
 そして、その中間地点を割り出し、そこにある岩に手袋をしたケイが手を入れる。
「うおおお!?」
 しかし、そこには鍵ではなく『びゅにゅりゅっ』としたものがあった。
「これは‥‥もう使えませんな」
 何となくそう感じ、ケイは手袋を捨て、予備の物を嵌め、再度調べる。
 しかし、新たな発見はなかった。
「スパイを見破り、逆に罠を張る。エレメンタルフェアリー‥‥恐ろしい子!」
 レムリィは白目になってその脅威に感嘆しつつ、荷物をもぞもぞと漁り出した。
「仕方ない。こんな事もあろうかと用意しておいたこれを使う時が来たようね」
 そして、蜂の巣を取り出し、蜜を絡め鍋で煮始めた。
「な、何が始まったんだ?」
「美味しそうだね☆」
 レオとエラテリスが後ろから見つめる中、徐々に甘い香りが洞窟内に漂い始める。
「これぞ珍味『お袋の味』。さあ妖精達、純粋だったあの頃を思い出して! 故郷のおっかさんは泣いてるよ!」
「こんな事で懐柔されますかな‥‥?」
 ケイが半信半疑で見つめる中、妖精達は粉を撒き散らしながらあっさり鍵を持ってきた。


 B1F。
「だーかーらー、あの時は『クマさんにあげるんじゃなかったのかな?』ってツッコまないと!」
「はっ?! ご、ごめんなさいだよ〜」
 レムリィとエラテリスの反省会を聞きつつ、一行はランタンの炎を頼りに迷路状の道を進む。
 幸い、外壁に松明が設置されていたので、そこに火を灯しながら先を急いだ。
 暫く歩いて行くと、かなり広い空間に出る。
 鍾乳洞を思わせる石灰岩の隆起が見える中、右側には地底湖と思しき水溜りがあった。
「取り敢えず、何か釣るか」
 そこに鍵がある可能性を考慮すると言うよりは、単にそうしたかった様で、龍牙が手際よく釣りの準備を始める。
「ボクもやってみようかな?」
 エラテリスもそれに続く。
 キャンプするには丁度良い空間なので、ここで一晩過ごす事にした。

 ――――翌日。
「釣果はどうですか?」
 引き続き釣り糸を垂らしているエラテリスと龍牙の近くに、ランタンを持った明信がゆっくりと近寄る。
 2人の傍には、妙に高級な長靴と亀の甲羅があった。
「‥‥何故これらが沈んでいたのか、余り想像したくない組み合わせですね」
 次は白骨でも釣り上げそうだった。
「うわっ!?」
 そんな中、キャンプの方からレオの声があがる。
 明信達が向かうと、そこには空中に浮かぶ鬼火の姿があった。
 エシュロンは人が集まり出した状況を気にも留めず、レオに襲い掛かる!
「っと。へへっ、不意を付かれなきゃなんて事ないさ!」
 レオは鬼火の体当たりをかわしながらランタンを置き、弓を構える。
 すると――――鬼火は急に標的を変え、明信に突進を始めた。
「これは‥‥炎に反応しているみたいですね」
 瞬時にそう判断した明信は、ランタンを置く。
 それに倣って全員がランタンを手から離すと、エシュロンはすっと奥の方に消えて行った。
「何だったんでしょうな」
 遅れて合流したケイが呟く中、やはり遅れて現れたレムリィがポン、と手を叩く。
「わかった。あれは多分、火に追いかけられた侵入者が思わず水の中に飛び込んで、その中で鍵を見つけるって言う仕掛けの一環ね」
 と、言う訳で。
「じゃ、ライト宜しく」
 龍牙がウォーターダイブを使用できるので、それで湖内の調査を行う事となった。
 結果――――無駄濡れ。
「つーか‥‥見たくない物見ただけかよ‥‥」
 陸に上がった龍牙は凹んでいた。筋肉とは対極の何かが底に沈んでいたらしい。
「おかしいなー。あ、きっと『ここはあたし達に任せて先へいけー!』的な演出が必要とか‥‥」
「ちょ、ちょっといいかな?」
 レムリィが暴走しかける中、エラテリスが恐る恐る第二の仮説を挙げる。
 それは――――
「あ、あったよ☆」
 壁に設置された松明の中に鍵がある、と言うものだ。
 また、松明があれば火を灯すのは冒険者の性。
 しかもランタンを持っていると鬼火が襲ってくる。
 怪しいとは言え、調査が難しい場所だった。
 だが、エラテリスはライトを使い、鍵を見つける事が出来た。
「お手柄ですな」
「見事です」
 ケイと明信に褒められ、エラテリスは照れ照れになっていた。


 B2F。
 通路が倍の広さになった事で、隊列を縦2列に変更し、先へ進む。
 すると、その通路の所々にあからさまに怪しい木箱が置かれていた。
「仕掛けはないっぽいけど‥‥」
「ならば突貫!」
 腕を捲って箱を調べようとするレオの後ろから、レムリィが全力で駆けて来る。
 そして、おもむろに箱の蓋に手を掛けた!
「‥‥」
 そのまま停止。
「えっとー。誰か止めてくれないと、このまま開けちゃうけど?」
『どうぞどうぞ』
 全員が同時に後退つつそう答えていた。
「くっ、なんて薄情なっ」
「え、えっと、止める暇もなかったんじゃないかな?」
「そう! それ!」
 レムリィは嬉しげにエラテリスと抱き合った。
 で。
「じゃ、みんな離れててな」
 レンジャーとしての責任として、レオが木箱を開ける事となった。
 木箱の大きさは一定しておらず、中には棺くらいの物もある。
 取り敢えず、一通り罠を調べ、問題なかった小さい箱を開けてみる。
 が、何も入っていない。
 続けざま、手当たり次第に開けていくが、結果は同じだった。
 仕方なく先に進むと――――
「‥‥あれ?」
 通路の果てに、明らかにこれまでとは異質な空間が広がっていた。
 広いスペースの空間に、多数の木箱が開かれた状態で置かれているのだが、問題はその中身だ。
 マカベウスの黄金剣、宝剣「ティワイズ」、破邪の剣、天鹿児弓、フェイルノート、エスキスエルウィンの牙、ホーリーパニッシャー‥‥
 それぞれに名の通った武器が無造作に放り投げられているのだ。
 中には、明信の身長くらいある大剣や、複雑な構造のボウガンなど、余り見ないような武器もあった。 
「もしかして、この中に依頼の弓があるんじゃないかな?」
 エラテリスが呟くと同時に、冒険者達は一斉に木箱の中を漁り始めた。
 だが、中々『下弦の月』は見つからない。
 と言うか、それぞれに自身の興味ある武器を見つけ出しては興味深そうに眺めている。
 レムリィに到っては、一心不乱に未知の武器を見つけ出し、暫し悦に浸っていた。
 ――――が。
「‥‥なあ。これって前の搭の時と似たパターンじゃねえか?」
 龍牙の指摘に、前回不参加の2人を除く3人がハッと我に返る。
「催眠か幻覚‥‥かもしれませんね」
「って事は、イリュージョンか何かを使ってるヤツがいるって事か?」
 明信とレオが回りの気配を探る。
 幻覚であれば、自身が見えないようにしている可能性もある中――――
「‥‥そこか!」
 明信が何もない空間に木箱を投げつける。
 すると、何かに激突した音がして――――次の瞬間、武器が全て安物の武器に変化した。
 そして、木箱がぶつかった場所では、美しい女性が目を回して倒れていた。
 ちなみに、下半身は大蛇。ラーミアのようだ。
 鞭を持ったその手は完全に脱力しきっている。
「ほっ‥‥」
 もしこの女性が正攻法で攻めて来ていたらと想定し、レオは思わず胸を撫で下ろした。
「これなら前の搭の時のトラップのが良かったな。俺は何であの時アレを持ち帰らなかったんだ‥‥」
 依頼が終わったら以前の搭に戻ろうと龍牙が決意する中、ラーミアすら意に介さず木箱を漁っていたレムリィが隅っこの方で鍵を発見していた。


 B3F。
 その最下層となるフロアに下る前に、冒険者達は簡単な打ち合わせをしていた。
「やはり‥‥あれが来るのでしょうか」
「まあ、迷宮のロマンだしな」
「当然よ。お約束は守られるからお約束なのよ」
 明信、龍牙、レムリィは同時に頷く。
 迷宮の華。
 それはやはり、俗に言う『ローリング・ストーン』だろう。
 巨大な丸い岩が転がってくると言う、スタンダードなトラップだ。
「成程‥‥これはようやく私の出番ですな」
 最近大人しかったケイがここに来て水を得た魚のように目を輝かせる。
「岩だろうと鋼だろうと、このスコップで彫り抜いてくれましょう!」
「とっても頼もしいよ☆」
 エラテリスの言葉に微笑を返し、紳士ケイは先陣を切って階段を下る。
 そして、暫く歩いたその時。小さな振動が全員の足を刺激した。
「ふむ‥‥これは来ますな。皆さん、念の為に階段まで戻って下され!」
 迷宮は冒険者の夢。
 その証であるかのように、遠くからゴロゴロと言う擬音が聞こえてくる。
 ゴロゴロ――――ゴゴゴゴ――――ドオオオオオ!
「むむっ!」
 全力でスコップを構える男前なケイの視界に広がったのは――――
『おめでとーーーーっ!!』
 巨大な岩に憑依した、『下弦の月』の持ち主(レイス)だった。


『‥‥無念の死を遂げて早幾年』
 岩が語る。
 レムリィがテレパシーリングでそれを皆に伝える光景は、シュールを通り越して黎明だった。
 死後、彼は迷宮を攻略する猛者を一目見たい一心でこの世に留まり、その時を待っていたらしい。
 そして、ようやく最下層まで辿り着いた一行に対し、歓迎の抱擁をせんと突進してきたそうな。
「だ、大丈夫か?」
 巨大岩に抱きつかれたケイは、思いっきり吹っ飛ばされたものの、ほぼ無傷だった。
「土と岩は友ですからな。はっはっはっ」
 そんなケイに微妙に引くレオを尻目に、岩は話を続ける。
『さあ、勇敢なる者達よ。我が『下弦の弓』をその手に収めるが良い。最後の鍵は私の中にある』
 と言う事で、ケイがスコップで岩を堀り進める。
 どうやって中に入れたのかは兎も角、鍵は見つかった。
 斯くして、最後の扉が開くと――――そこには台座があり、その上に『下弦の弓』が仰々しく立てかけられていた。
「よっしゃ! それじゃ早速試し撃ちだ!」
 レオが楽しげに弓を掴み、矢を添える。
 そして――――
「クックック、どうやら首尾よく手に入れたらし‥‥はにゃっ!?」
 その矢はレオの魔力を吸い取り、放たれると同時に不規則に揺れ、何本もの矢の残像をまといながら飛んで行き――――洞窟を潜って来たクッポーに直撃した。
 魔弓「下弦の弓」。
 放った矢が標準までの直線を軸に凄まじく揺れ、敵を幻惑すると言う弓のようだ。
「うわ、また‥‥大丈夫か?」
「ぽわ〜」
 クッポーは完全に目を回していた。
「でもま、これで全部集まったんだよな? じゃ折角だから俺が射撃ショーの特訓に付き合ってやるよ」
 そう言いつつ、レオはクッポーを引きずりながら部屋を出る。
「いいか? 弓矢は腕次第では仲間まで傷付ける危険な武器だ。これから君がすべき事は‥‥」
 そして、気絶中のクッポーに射撃手としての教えを説きながら、洞窟を後にした。
 残された冒険者は、それを呆然と見送る。
「『上弦の月』と『下弦の月』。揃ったらどうなるのでしょうな」
 そんなケイの呟きが聞こえているのか、いないのか。
 清らかな満月が、ノルマンの大地を静かに照らしていた。