拠点診断 〜シフール施療院〜
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■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月01日〜04月08日
リプレイ公開日:2009年04月07日
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●オープニング
すっかり春めいて来たパリの街並みに、小さな羽音が静かに響く。
それは、世にも珍しいと言われているシフールの医師の一人、ヘンゼル・アインシュタインの飛ぶ音だった。
現在、彼はシフール専用の施療院を作る場所の候補に挙がっている場所を訪れ、視察し回っている。
医師としての仕事は現在殆ど行っていない為、時間的な余裕はあるものの、候補先全てを回ると言うのは、幾ら移動力に優れるシフールとは言え、そう容易な事ではない。
それでも、ヘンゼルは一箇所一箇所丁寧に、そして念入りに見て回った。
Chapitre 5. 〜拠点診断〜
そして、はじめの視察から一ヶ月以上が経過した、ある日。
「ここで最後か‥‥」
小さな体が風に飛ばされぬよう懸命に羽を広げ、ヘンゼルはパリの中心から大分離れた市内の小さな家を出た。
これで、全ての視察は終了。
自分なりの意見をまとめ、パリの宿屋『ヴィオレ』の二階へ赴く。
そこでは、シフール施療院の発起人、ルディが薬草の整理をしていた。
もう何ヶ月も薬草集めをしてきた経験や、薬草師の冒険者からの指南によって、ルディの薬草に関する知識は人並み以上となっている。
どの草がどう言った症状に有効か、どのような使用方法が一番効果があるかといった基本的な事は大分わかって来ていた。
「あ、先生。見て見て、アルニカの花が咲いてたよ」
春になり、薬草もようやく本格的に採取出来るようになった為、ルディの表情は明るい。
その一方――――ヘンゼルは少し顔を曇らせていた。
「最近、世界的に余り情勢が良くないね。ノルマンも例外じゃないみたいだ」
「そうなの?」
「需要が増えるかもしれないね。シフールの施療院」
それは、命の守護者にとって歓迎すべき事ではない。
だが、施療院の建設時期としては、或いは最適なのかもしれない。
そのジレンマに、ヘンゼルは嘆息一つで区切りをつけた。
「仲間への召集を頼めるかな。手伝って欲しい事がある」
「え? もしかして‥‥」
「うん。頃合だ」
そもそも、それほど長い時間は彼らに残されてはいないのだ。
妹の未来。
患者の現在。
それぞれに、描いている時間軸は違えども。
一刻も早く、それぞれの大切な者に最良の環境を与えなくてはならない。
「施療院の建設場所を、決定する」
ヘンゼルは静かに宣言した。
同時にそれは、引き返す事の出来ない大きな選択を迫られる事になる。
建設場所によって、施療院の価値は大きく変動するだろう。
もしその選択に失敗すれば、患者が殆ど訪れず、文字通り幽霊屋敷となってしまう。
現在提携しているシフール飛脚とて、患者のいない施療院に融資するほど酔狂ではない。
まだ建設費用の捻出は出来ていないが、それは場所を決めてからでないと全ての費用が明らかにはならないので、問題はないだろう。
まずは場所。全てはそれからだ。
「ここは大事だね」
ルディも顔を引き締めていた。
最初は目的すらなく、友達のお目付け役として飛び出した、道なき道。
今はもう、その終着点がはっきりと見える。
まだ遥か遠くでも、これならば方向は誤らない。
ただ突き進むのみだ。
「ん? この鉢‥‥」
「あ‥‥」
ヘンゼルが視線を部屋の隅に向ける。
そこには、ルディが施療院の建設を決意して最初に冒険者ギルドへ依頼を出した時に貰った素焼きの植木鉢が置いてある。
そして――――
「どうやら、間違ってはないみたいだね。今日だ」
「うん。今日みたいだ」
二人は顔を見合わせ、小さく頷き合った。
植木鉢の土に僅かに覗く、小さな小さな緑の芽。
それは、紛れもなく、はじまりの象徴だった。
施療院建設の本格的なはじまりの――――
●シフール施療院建設 最終候補場所
1.パリ市内
・宿屋『ヴィオレ』から4kmの地点
・範囲区域内(敷地面積800平方メートル)の何処でも建設可能。空き家あり(建築面積150平方メートル、通常の診療所程度)
・土地、空き家は借家もしくは買取る事で利用可能(価格は交渉次第)。土地のみ借りても(買い取っても)良い
・教会までの最短距離5km、井戸までの最短距離1km
・近隣には多数の住宅、店、施設あり
・行政機関への申請が通るかどうかは不明
・管理者への許可は取得済み
・周辺から幼児用ベッドの調達が可能
・周囲との関係、影響に注意
・治安○、宣伝効果◎
2.パリ近郊
・宿屋『ヴィオレ』から30kmの地点
・指定の土地(敷地面積200平方メートル)に建設可能。空き家なし
・自由土地なので利用は無料
・教会までの最短距離3km、井戸までの最短距離3km(教会の傍)
・近隣には少数の住宅あり
・行政機関への申請は必要なし
・治安△、・宣伝効果○
3.パリ外「リヴァーレ」
・宿屋『ヴィオレ』から40kmの地点(パリから25km)
・村内の許可が下りた場所ならどこでも建設可能。空き家あり(建築面積120平方メートル、やや小さい診療所程度)
・土地、空き家は借家もしくは買取る事で利用可能(価格は安価)。土地のみ借りても(買い取っても)良い
・教会までの最短距離10km、井戸までの最短距離0〜1km
・村には多数の住宅、少数の店、施設あり
・村長への申請が通るかどうかは不明
・村人との関係、村への影響に注意
・治安◎、宣伝効果○
●薬草園 最終候補場所
1.施療院に隣接
・面積は施療院の敷地面積に順ずる
・基本的には一から作る必要あり
・土質はパリ市内△、パリ近隣○、リヴァーレ◎
・管理は最もし易い
・土地代は施療院の方に含まれるので無料
・盗難の可能性はその場所の治安次第
2.パリ外「パストラル」
・宿屋『ヴィオレ』から70kmの地点(パリから50km)
・村内に薬草園があり、交渉次第で一角を借用、管理委任可能
・個人の薬草取扱店との流通が可能
・土質は◎
・土地借用料金はお気持ち程度でOK
・農業や放牧が盛んな村で、羊の放牧が特に有名
・盗難の可能性はなし
※パストラルに関しては報告書「羊たちの暴走」参照(薬草園の描写は無い)
3.パリ外「その他」
・場所は自由に決めてよい
・自由土地であれば土地代無料だが土質△、治安×
・畑や既存の薬草園であれば土質◎、治安○〜◎
・利用料金は交渉次第
・その他、場所によって制約、交渉の余地あり
●リプレイ本文
発足当初から議題の一つとなっていた、施療院の建設場所。
視察と検討、そして医師ヘンゼルの意見を重ねた結果、パリ市内の一角、郊外の一角、そしてリヴァーレと言う村が最終候補地となった。
それぞれに一長一短がある中、冒険者達が重要視したのは、三つの項目だ。
まず、治安の良さ。
次に、周辺の住民。
そして最後に、費用の面だ。
治安が良く、住民の理解が得られやすい場所であれば、患者も治療に専念できるばかりか、楽しい日常を送れる可能性が高い。
自然に囲まれ、笑顔が溢れる施療院。
ラテリカ・ラートベル(ea1641)とジャン・シュヴァリエ(eb8302)は、特にそう言う雰囲気の施療院を熱望しており、ルディもまたそれに賛同していた。
それらを総合的に考慮した結果――――リヴァーレと言う選択が一番良いと言う結論に至った。
ただ、リヴァーレがシフールの施療院を受け入れる保証はない。
シフール専用の施療院と言うのは前例のない施設だ。
まして、この村にはシフールがいない。
村長の許可は勿論、住民への理解を求める行動が重要となってくる。
「さあ、まずは第一関門ですね。頑張りましょう!」
ジャンの号令と共に、ラテリカ、エルディン・アトワイト(ec0290)、リディエール・アンティロープ(eb5977)、そしてルディとヘンゼルの五人は村長パウル・オストワルトの家を尋ねた。
客間に通された冒険者達は、まずルディとヘンゼルを紹介し、次にシフール施療院の重要性、建設する理想と現実、メリットとデメリットについて偽りなく話した。
リヴァーレにとって、シフール施療院の存在がどのような恩恵と問題をもたらすのか。
説明は、ヘンゼルが理路整然と、ルディが拙くも熱く行った。
そして、次に冒険者達が各々の考えを話す。
ラテリカは大家族が住む家のような暖かい日常に溢れた施療院にしたいと。
ジャンは村全体を大きな家族にするような施療院でありたいと。
リディエールは薬草師の見解から、村の医療にも貢献できるのではないかと。
そしてエルディンは、他種族との交流やシフールの特性から生まれる村の宣伝効果を得られるだろうと。
様々な角度からの意見が、パウルに審判を委ねた。
「‥‥」
長い沈黙が続く。
そして――――
一方、そのリヴァーレから30kmほど南南西に下った場所にあるパストラルと言う村でも、施療院に関する交渉が行われていた。
エルディンから借りたセブンリーグブーツでその地を踏みしめているのは、レリアンナ・エトリゾーレ(ec4988)。
その内容は、この地の薬草園の一部貸与を検討願う、と言うものだ。
冒険者達は基本線として、施療院に隣接する場所を希望した。
持ち運びが簡単で管理がしやすく、費用も掛からないからだ。
ただ、リディエールは需要の面からも一つの薬草園では足りないと判断。ヘンゼルもそれには同意し、第二の薬草園として、このパストラルに白羽の矢が立った。
そしてその交渉役として、一度この地を訪れているレリアンナが手を上げたと言う訳だ。
「御理解賜り、ありがとうございますわ」
村長との交渉は、実に円滑に進んだ。
この村の危機を救った事のあるレリアンナの実績が実を結んだ格好だ。
また、シフール通訳・飛脚が関わっており、宣伝効果が期待できると言う点も大きかったようだ。
ただ、一つ条件が提示された。
「‥‥では、この羊乳を?」
それは、現在パストラルが最も力を注いでいる商品『おいしい羊乳』を宣伝して欲しいと言うものだ。
羊乳は身体に非常に良く、栄養価の高い飲み物として知られている。
「わかりましたわ。まずは建設予定の村でお出ししてみますわ」
乳製品を購入する予定だったレリアンナは内心満足しつつ、努めて冷静に交渉を終えた。
その後、顔見知りや薬草園の管理人の元を訪れ、挨拶を行う。
薬草園に関しては、農地の一部を貸し出す事で合意に至った。
元々空いていた箇所なので、土地代、管理代まとめて年2Gで良いとの事だ。
薬草の輸送は、今後の話し合いで決定する事になる。
大きな成果を手に、レリアンナはパストラルを離れた。
そして、最終日。
エルディンはリヴァーレの村道を一人歩いていた。
村長パウルからの返答は――――保留だった。
『君達がここに滞在する間、一人でも多くの村人に説明と説得を行って欲しい。その成果で判断させてくれ』
との事だ。
施療院の建設を村と言う集落で行う場合、村長が許可したと言うだけで全て上手く行く訳ではない。
周辺住民の意向こそが重要なのだ。
パウルはそれを踏まえ、冒険者達の行動を促したのだ。
エルディンは心中で感心しつつ、村の地図に目を通す。
パウルに促されるまでもなく、冒険者達は住民への説明を行う予定だったが、それが命題となった事で目的はより明確となった。
この六日間、冒険者達は総出で村の家一軒一軒を回り、施療院の建設に関してのお知らせを行っていた。
エルディンが今から訪れる家で、全ての世帯を回った事になる。
中には、露骨に嫌な顔をする者もいた。
だが、それは当然の事でもある。
シフールのいないこの村にとって、シフール施療院の建設は、病人の余所者を集めると言う事と同義なのだ。
余り気持ちよく思わない者がいても不思議ではない。
しかし、その数はエルディンの予想を遥かに下回っていた。
(これならば、上手くやって行けるかもしれませんね)
そんな予感が、エルディンの中に芽生えていた。
一方――――リヴァーレで最も大きい飲食店『セボン』の厨房では、ラテリカとリディエールが次々に料理を用意していた。
説明の仕上げに冒険者達が用意したのは、なんと村民全員を迎えての野外会食パーティー。
家回りの際に、パーティー開催の告知とお誘いは敢行済みだ。
「〜♪」
ラテリカはパーティー冒頭で披露する歌を作りながら、ハムとキャベツのグラタンを釜から出した。
綺麗な焼き色の付いたグラタンに満足しつつ、春野菜のサラダの隣に皿を並べる。
この他にも、レモンタルトや土産用のレモンピール入りクッキーなど、お菓子も用意してある。
「良い匂いですね。とても美味しそうです」
「ありがとうございますですよー」
ラテリカがほんわりと微笑む中、リディエールもオードブルの用意に勤しんでいる。
薄切りの堅パンに、レリアンナが購入してきたチーズ、リディエール自身が購入したジャム、そして薬草園に植える予定のハーブをペーストにして塗った物を次々と作っていた。
「いやー、凄いね。大したもんだ」
飲食店の料理人モニカが感心しながら呟く。
事情を説明した二人に対し、彼女は快く営業時間外での厨房の使用を許可していた。
本日は定休日なのだが、手伝いを買って出てくれている。
「モニカさんのお陰ですよ。感謝しています」
「なーに! って言うか、二人とも冒険者が廃業になったらウチにおいでよ。可愛いのと綺麗なのが入ったって男どもも喜ぶしさ」
「‥‥ふふ」
恩義の手前、リディエールはどちらの否定も出来ず、そのまま笑顔を保持していた。
「え、えとえと、リディエールさんは男性でいらっしゃるです」
あわあわしながらラテリカが誤解を解こうとするも、モニカは全く信じずにケタケタ笑っていた。
そんな修羅場(?)があるとは露知らず、パーティー会場となる広場では、ジャンが鼻歌混じりにテーブルを並べている。
今回のパーティーに使用する卓は、ジャンの手配で酒場の現在使っていない物を倉庫から持ち出し、綺麗に掃除して並べている。
そのほか、食器に関してもジャンが率先して用意していた。
食器は、堅くなったパンで作ったものを採用。当初の予定よりかなり安く済んだ為、エルディンが用意した多額の費用の多くは教会の寄付と薬草園の整備、安全面の強化に使用する事となった。
教会にはその寄付で馬車の借用を要請し、施療院に使用するベッドなどを運ぶ際に利用する予定だ。
「‥‥これ」
ジャンの足元に、一人の少女がお菓子の乗った皿を持ってくる。
パウルの妹の孫娘、ルイーゼだ。
「ありがと♪ 朝早くから手伝わせてごめんね」
ルイーゼは控えめに首を横に振り、トコトコと広場から離れていく。
次のお菓子を調達しに行くようだ。
野外で行われるこの会食パーティーは、ジャンの案によってお菓子やパンだけは各テーブルに乗せ、料理は各々が『セボン』に立ち寄り、自分で持ってくるようになっている。
大人数を想定しての処置だった。
「そろそろ時間ですわね」
パンの乗ったパン皿を抱えながら、レリアンナが会場に入る。
ジャンは太陽の位置を確認し、頷いた。
「皆、集まってくれると良いけど」
「大丈夫ですわ。シュヴァリエ様の懸命な想いはきっと届いておりますわ」
「だと、嬉しいな」
料理に時間を割かざるを得ないラテリカやリディエールの分、ジャンは多くの家を回っていた。
リヴァーレへの施療院建設を進言したのも、他ならぬジャンだ。
今回の依頼に対する意気込みはかなりのものがあった。
「ルディー! 誰か来てるの見えるー?」
空から来訪者を待つルディは、地上のジャンとレリアンナに首を振る。
「‥‥」
ジャンの表情から、笑みが消えた。
不安は空に、祈りは胸に。
レリアンナは十字架のネックレスを握り、天を仰ぐ。
その祈り。
その想いは――――
「あ、来た! 来たよ!」
確かに、届いた。
会場に集まったリヴァーレ村民の数――――63人。
親子連れが多く、世帯単位で言うと42組が訪れていた。
全世帯の3分の1が耳を傾けに来てくれたようだ。
この人数が多いか少ないかと言う判断は、冒険者達には出来ない。
それを行うのは――――村長のパウルだけだ。
ただ、それより何より、このパーティーをしっかり執り行う事が重要。
子供達が卓のお菓子をじっと眺める中、まずはラテリカが歌を披露する。
パーティー全体の流れを決める、とても大事なステージだ。
ラテリカは用意された木台に乗り、ぺこりと一礼した。
披露する歌は、春の到来を歓迎する、明るく暖かい歌。
それは、ラテリカがシフール施療院に対して抱く理想のイメージでもある。
♪ふわふわ雪舞う 季節は過ぎて
♪ひらひら 蝶舞う 季節に変わる
♪風の声 暖かく 水の声 涼しげに
♪鳥の声 楽しそに 雨の声 切なげに
♪みんなみんな 春を呼んでる
♪早くおいでと 歌ってる
♪さあ いっしょに歌いましょ ラララ‥‥
♪お土の中で 心の中で
♪さあ いっしょに歌いましょ ラララ‥‥
♪幸せの種 芽吹かす歌を
「素晴らしい!」
冒険者でも、ルディやヘンゼルでも、そしてパウルでもなく、村人の中から自然と拍手が生まれる。
その音は次第に大きくなり、ラテリカの小さい身体を包み込んだ。
「はわ‥‥」
ラテリカは、目頭が熱くなるのを感じながら、冒険者達の方を見る。
「流石ラッテさん♪」
「いや、素晴らしい弟子を持ったものです」
「ラテリカちゃん、最高ー!」
ジャンやエルディン、そしてジャンに招かれていたカタリーナをはじめ、彼らもまた大きな拍手を贈っていた。
ラテリカの歌をきっかけに、パーティー会場はとても柔らかい空気が漂った。
「あまあまーなお菓子 欲しい子欲しい子この指止まれ♪」
ジャンが鼻歌混じりに子供達にお菓子を配り、レリアンナもペットのレイモンドと共に、預かった洋乳入りの瓶を配っている。
「カタリーナさん、バレンタインの時はどうも。これはお礼です」
「わっ、ありがとー」
エルディンはカタリーナと談笑している。
そんな中、大人達にはリディエールの振舞う香草茶を嗜んでいた。
「香りだけでなく、食欲増進など身体にも良いお茶なんですよ。是非試してみて下さい」
多くの村民が、その香草に関して質問を行い、リディエールは懇切丁寧に対応した。
その流れから、次第に説明会に移行する。
酒も入り、村人の忌憚ない意見もどんどん寄せられた。
それに回答するのは、代表たるルディの役目だ。
ルディはヘンゼルや冒険者達と話し合った事を踏まえ、その質問に答えていた。
ルディ自身、これまでの経験から、多くの事を学んでいる。
ただ理想を語るだけのシフールは、今やもういない。
ルディの言葉は、時に詰まり、時に言い淀みながらも、確実に村人達に伝わっていた。
そして――――
「皆、聞いてくれ」
金の指輪を嵌めたパウルが、村人に向けて言葉を紡ぐ。
「皆が皆納得しているとは思わんが、儂はシフールの施療院を支持したいと思う」
その決断には、幾重もの理由があった。
関係者の一部が現在提携している村『恋花の郷』の一員である事。
村長に対しての礼を尽くした姿勢。
そして、村にもたらす恩恵。
エルディンやラテリカは、シフール飛脚と共同のこの計画が、大きな宣伝効果を生む事を訴えていた。
シフールの行動範囲と性格を考慮した場合、確かに説得力はある。
飛脚や通訳と言う後ろ盾の強さも大きい。
だが、これらはあくまでも判断材料。
パウルの心を動かしたのは――――今ここにいる村人の活力溢れる顔だった。
決して余所者に対して閉鎖的ではないと自負しているリヴァーレだが、それでも、ここまで簡単に打ち解けられるものではない。
恋花の郷を冒険者が支援していると言う話を聞いた際、パウルはどこかで懐疑的な心持ちを覚えていたものだったが――――
「どうやら、儂もまだ人生経験が浅かったようだ」
誰にも聞かせないつもりの声で、そう呟いた。
だが、その声を拾った者が一人。
「そんな事はありませんよ。私達が求めていたこの環境を作ったのは、他ならぬ貴方の人徳なのですから」
人徳は、いわばその者の歴史。
エルディンの言葉に、パウルは少し照れ臭げに微笑んだ。
シフールの施療院。
理想像でしかなかったその建物は、リヴァーレの一角、入り口の直ぐ傍にある空き家を改装して作られる事となった。
当面は家、土地共に借り、資金に余裕があれば買い取ると言う形を取った。
借用費用は年10G。
買い取り価格はこの20倍との事だ。
薬草園は、この空き家の傍にある土地を耕し、作る事になった。
そして、パストラルの薬草園も確保に成功した。
まだ全ての住民に歓迎されている訳ではない。
だが、空き家の周辺の住民は全員パーティーに出席し、説明を熱心に聞いていた。
無論、問題が発生した場合は非難の一つもするだろう。
それでも、施療院建設に対しては皆納得してくれた。
舞台は整った。
「後は、飛脚以外の資金源を確保しないとね」
ヘンゼルも今回の決定に満足げだ。
大きな前進。
だが、まだ成し遂げた訳ではない。
「リタやリーナを早く呼べるよう、頑張らないとね」
子供達と戯れていたルディは、ジャンの言葉に力強く笑い、そして頷いた。