マルゼルブ街 〜冒険者ララの試練〜

■ショートシナリオ


担当:UMA

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 72 C

参加人数:3人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月09日〜04月16日

リプレイ公開日:2009年04月15日

●オープニング

 ――――洞窟の中は、真っ黒と言うわけではありませんでしたが、外よりも見え難くて、とても怖かったのです。

 ですが、私たちは怯みません。

 頑張って頑張って、先へと進むのです。

 罠や宝箱といった、どきどきわくわくな物はなく、私たちはがっかりしながらも調査を進めていきます。

 すると、どうでしょう。

 なんと行き止まりに遭遇しました!

 私たちはもっとがっかりして、帰る準備を始めました。

 でも、ちょっと待ってください。

 上の方にふわふわっと何かがいるのが見えるではないですか。

 あれは何でしょうか。

 私は、それを――――



  −冒険者ララの試練 II−



「‥‥」
 無事、最初の試練となる『セナールの森』の調査を終えたララ・ティファートは、その調査を一生懸命物語にし、つい先日完成させていた。
 調査書とは別に、子供でもわかるよう、そして胸が躍るようなお話にして書き記す。
 ララが冒険者となる目的は、その物語を沢山綴り、一冊の本とするところにある。 
「どうでしょうか」
 ララは自信を持って、自らが仕上げた冒険記「セナールの森」を祖父のフーゴ・ティファートに見せていた。
 その手は、微かに震えている。
 感動で打ち震えているのだろうか?
 自身の孫が無事最初の試練を乗り越えた事、そして物語を描いた事に感涙しているのだろうか?
 答えは―――― 
「否」
 フーゴは最少の単語で全否定した。
「何故ですかっ」
「お前な‥‥この物語で一番大事なララディの登場場面で『私はそれを見る前にぴゅーっと持ち去られました』とはどう言う事じゃ!?」
「事実なのです。こう、ぴゅーっと」
「そう言う問題じゃないわい! 最大の盛り上がりどころで風が気持ち良いだの川のせせらぎが心地良いだの、運ばれてる際の描写なんぞだーれが知りたいと思うんじゃい!」
 ララは、脚色と言うものが出来ない。
 それは元来の素直さ故だった。
 しかし、物語を紡ぐ上ではどうにも都合が悪い。
 ありのままだけで物語を作ると言うのは、余りにも無謀なのだ。
「まあまあ。本来の目的は調査なんですから。その点では十分及第点でしょう?」
 頭を抱えるフーゴを、騎士エリク・フルトヴェングラーが諌める。
 フーゴを恩師と慕う彼は、近頃頻繁にティファート家を訪れていた。
 ララに冒険者としての目的を授けたのは、他ならぬ彼なのだ。
「ララさん。試練は合格です。貴女はフィールドワーカーとして、冒険者ギルドに登録される事になるでしょう」
「ありがとうございます」
 ララは表情を変えず、しかしとても嬉しそうに頭を下げた。
「全く‥‥何で冒険者なんぞに‥‥」
 ララを危険な目にあわせたくない祖父フーゴとしてはまだ納得は出来ていないようだが、既にララは冒険者ギルドへの登録申請を行っていた。
 今後は、本格的に冒険者ララ・ティファートとして活動していく事になる。
「では、早速ですが、冒険者としての最初の仕事をお願いできますか?」
「わかりました」
 エリクが突然持ち出した話に、ララはにべもなく首肯する。
「いやいやいや。ララ! おいララ!」
「何でしょうか」
 その様子を見ていたフーゴは更に頭を抱える。
「何処の世界に内容も聞かず依頼を受けるボケ冒険者がおるかっ!」
「そうですか。わかりました」
 ララは全力で孫の未来を憂う祖父から視線を外し、エリクと向き合う。
「御依頼の内容をお聞かせ願えますでしょうか」
「え、ええ。勿論」
 多少不安を覚えつつ、エリクは依頼の内容を伝えた。

 今回の調査対象は――――マルゼルブ街。
 パリ中心部から南に60kmほどの場所にある、比較的小さな街だ。
 その街の面積、地形、人口、住民の種族分布、建築物の種類と数、道や水路の整備状況、そして特産品等と言った項目を調査して欲しい、と言うものだ。
 人と触れ合い、話を聞く事が重要となってくるのが街や村の調査。
 自然調査とはかなり違う。
 ララにとっては初の体験だ。
「これなら問題はないでしょう?」
「フン」
 フーゴに一応確認を取ったエリクは、苦笑しつつララとの話を続ける。
「では、出来るだけ正確に、そして幅広い調査をお願いします」
「わかりました。頑張ります」
 ララはぐっと拳を握り、冒険者としての初めてのお仕事を快諾した。


 その日の夜。
 ララは机に向かいながら、次の冒険の舞台となる街をぽーっと空想していた。
 そんな彼女の部屋の窓の外からは、月明かりが差し込んでいる。
 不意に――――それが消えた。
 雲が隠した訳でない。
 しかし、ララには心当たりがあった。
 おもむろに立ち上がり、窓際に向かう。
『こんばんは、ララ様。今日も月が綺麗ですよ』
 ララに対して、窓の外からテレパシーで話しかけてくるその声は――――セナールの森を調査した際にララが知り合った、ララディと言う生き物だった。
 6枚の羽根を広げ、夜空に舞うその姿は、禍々しさそのもの。
 何しろ、蛇なのだ。
 だが、そんな外見とは裏腹に、このララディは言動、行動共に慎ましやかで、とても謙虚だった。
 冒険談を聞きたがる。と言う特徴を持つその生物は、無闇に他者を驚かせないよう、夜の時間に限定してララの元を訪れているのだ。
「丁度良かったです。実は‥‥」
 ララは、新たな冒険となるマルゼルブ街の調査について、ララディに語った。
『それはとても喜ばしい事です』
 新しい冒険談を聞けるとあって、ララディも嬉しそうだ。
『では、この良き日を祝し、私の知る情報をお教えしましょう』
 ララディは、ララにマルゼルブ街に関しての噂を伝えた。 
 それは――――この街に『地下街』が存在すると言う伝説だった。
 無論、地下に街がそのままある訳ではないだろう。
 だが、或いは何かが地下に存在しているのかもしれない。
 街と形容される何かが。
『街が別の顔を見せる時、その扉は開かれん、と言われています。それでは、くれぐれも御身体にお気を付けて下さいませ』
 ララディは手を振るように羽根を羽ばたかせ、夜空の向こうへと消えていった。
 冒険者ララにとっての初陣となる、今回の調査。
 中々に、一筋縄では行かないものとなりそうだ――――


 Region 2. 〜マルゼルブ街〜

●今回の参加者

 eb6508 ポーラ・モンテクッコリ(27歳・♀・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 ec4179 ルースアン・テイルストン(25歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4441 エラテリス・エトリゾーレ(24歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

高千穂 楓(ec6258

●リプレイ本文

 ノルマンの中にあって、決して大規模ではないものの、近代的な雰囲気を醸し出す街、マルゼルブ街。
 穏やかな気候と季節柄もあってか、暖かな風と麗らかな日差しが住民に多彩な恩恵を与えている。
 また、衛生面、景観共に良好で、観光客の数も安定しているようだ。
 そんな街の様子を、ルースアン・テイルストン(ec4179)は公道沿いの大きな飲食店の窓越しに、静かに眺めていた。
 傍らにはペットのボルゾイ『ロイ』が大人しく足を休めており、隣には木霊『アイリーン』が楽しげな様子で腰掛け、寛いでいる。
 テーブル間を広く取っているこの店は、ペット同伴でも可能なお店で、それ故に街で一番外来者からの支持が厚いようだ。
 この街を訪れてから数日、ルースアンはこの2体のお供と共に街を練り歩き、主に建築物と道路の様子を調査していた。
 地方の特色が最も現れる建築様式や配置等の特徴を細かに調べ、ララが持って来ていた羊皮紙にまとめる作業を繰り返している。
 この店に訪れた理由の一つが、その作業をする為だ。
 勿論、食事と休憩も兼ねての事でもあるが、更にもう一つ目的があった。
「有名な建造物や施設、ですか?」
「ええ。この街の特色が出ているような、或いは観光などで良く案内されるような」
 この飲食店は、マルゼルブ街でもかなり古い部類に入るらしい。
 そこであれば、この街独特の建物等があると期待し、ルースアンは店員に尋ねていた。
「では、少々お待ち下さい。料理長ーっ」
 その店員は一度奥に向かい、ここで最も長く働いていると言う料理長を連れて来た。
 かなり年配の男性で、白く染まった髭を人中に蓄えている。
「有名な建物ですか‥‥」
 その髭をなぞりつつ、料理長は暫し思案顔を作っていたが――――
「それなら、外れにある『アレクサンドリア植物園』などはどうでしょうか。修道院の管轄で栽培されるような薬草類だけではなく、珍しい植物を置いていますよ」
「まあ、素晴らしい。どうもありがとうございます。料理も上品で素敵なお味でした」
「でしたー♪」
 ルースアンの淑やかな笑みに、アイリーンの無邪気な笑顔が重なる。
 料理長はとても満足そうに一礼し、植物園の場所を羊皮紙に加えてくれた。


 一方――――マルゼルブ街中央にそびえる聖ヘリテージ教会には、クレリックのポーラ・モンテクッコリ(eb6508)が訪れていた。
 教会には通常、街に関する様々な記録が保管されており、街の調査を行う上では非常に有力な情報源となる。
 加えて、ポーラは更にもう一つ、ここを訪れる理由があった。
「ポーラ・モンテクッコリ‥‥ああ、ありました。これですね」
 教会で働くシスターが、教会宛てに送られた郵便物の中から、一つの封書を見つけ出した。
 宛名はポーラ。差出人は彼女の知人、高千穂楓だ。
 ポーラは生業である情報屋の伝手で、知人にパリで集められるマルゼルブ街についての情報を調査して貰っていた。
 そして、その内容をしたためた書類を楓が受け取り、代わりに送ってくれたのだ。
「ありがと。あと、この街に関する情報を調べたいんだけど、良い? 人口とか種族分布とか」
「はい、勿論です。少々お待ち下さいませ」
 シスターは慣れた様子で対応し、奥の事務用の部屋に向かう。
 それを見送ったポーラは待っている間に自身宛の封書を空け、中を確認した。
 マルゼルブ街は知名度的には決して高くはない。規模的にも、ノルマンの中心都市パリと比較した場合、かなり見劣りする。
 その為か、パリにおいて特別際立った情報は特に出回っていなかったようだ。
 ただ――――1つだけ、パリとマルゼルブ街を結ぶ、特筆すべき物が存在していた。
 それは、普通にマルゼルブ街で生活している人は知りえない、この街の裏の特産品だ。
 裏の特産品を知りたがっていたポーラはその情報に満足し、そして更に特産品そのものにも大きな興味を示す。

 ――――狂乱の果実『フォリアドゥ』。

 それが、この街からパリに密かに輸出されている裏の特産品の名だ。
 どのような形状なのか。
 どのような味なのか。
 そして、どのような由来でこう呼ばれるようになったのか。
 ポーラはまだ見ぬ特産品に思いを馳せていた。
「ふわあああああっ!?」
 しかし、その想像が吹っ飛ぶようなけたたましい悲鳴が事務室の方から上がる。
「大変! シスターメイが保管書類をひっくり返して、雪崩のように‥‥!」
「シスターメイ、貴女またそんな‥‥ちゃんと片付けなさい!」
「すいませええええん」
 ポーラと接している時はしっかりしていたシスターメイだったが、実はドジっ娘シスターだったらしい。
「出来れば迅速に‥‥は、無理そうね」
 事務室の扉を開けたポーラは、その惨状に嘆息を禁じえなかったとか。


 そんな最中、街中ではエラテリス・エトリゾーレ(ec4441)の占い屋が子供を中心に賑わいを見せている。
 占いと言うのは、地域を問わず庶民の娯楽として、或いは文化として受け入れられる傾向が強く、このマルゼルブ街においても例外ではないようだ。
「はい☆ 次は君かな?」
 エラテリスは、眼前の6〜7歳くらいの人間の男の子に向けて、神秘のタロットの束を差し出した。
 カードを一枚引いて貰って、それで占うと言う子供向けのシンプルな様式で行っている為、回転も速い。
「あ、お星さまのカードだよ☆ 夜、お星さまを見てみると、良い事があるよ☆」
「ほんとー!?」
 子供は嬉しそうに笑う。
 この笑顔も報酬の一部だが、無論それだけと言う訳には行かない。
「それじゃ、美味しいお店を教えてくれるかな☆」
「えっとねー、あっちにあるちっちゃい果物屋さんがおいしいって、友達が言ってた!」
 こうして、地元の子供だからこそ知り得る情報を集めているのだ。
 観光名所とはならないような、有名店舗と言うのも、調査対象としては中々興味深いもので、エラテリスはそれに特化した調査を行っている。
 無論、本人の食欲に起因する我欲など入り込む余地など、ある筈もない。
「ぶどうがおいしいって」
「葡萄か〜‥‥甘くて少し酸っぱくて、とっても美味しい‥‥はっ?!」
 思わず口元を拭うエラテリスを、多くの子供達がじーっと見つめていた。
 繰り返しになるが、我欲など入り込む余地はない。
 食事処や食材店と言うのは、住民の生活と密着した場であり、同時に観光客が最も重要視する施設の一つ。
 調査に力が入るのも当然なのだ。
 それはもう、ウサギさんの耳を頭につけて、より大きな耳で情報を集めなくてはならないほどに。
「おねーちゃん、その頭のなにー?」
「え?! こここれは、えっと、なな何かな、パリの流行?!」
 街の調査と言うのは、斯くも厳しいものなのである。

 
 と、優雅な午後の一時を満喫する者、神聖なる教会内で何十分も待たされた者、子供の遊び相手として振り回された者など、それぞれの役割をこなしながら、冒険者達は情報を集めていた。
 その一方――――冒険者ララ・ティファートはと言うと。
「‥‥はう」
 何をして良いのかまるでわからず、途方に暮れていた。
 フィールドワーカーとして第一歩を踏み出したものの、街の調査は始めて。
 右も左もわからない街で、右も左もわからない調査を円滑に行える筈もなく、街中をウロウロするばかりだった。


 そして――――最終日前日、宿屋内。
「それでは、本日の成果を纏めましょう」
 ルースアンの呼びかけを皮切りに、ララの部屋に集合した冒険者達は、独自に調べた情報についての報告を行った。
 これは毎日行われており、それぞれの調査結果は日単位で共有されている。
 効率としては、決して悪くはない。
 ただ、人数不足とララの情報収集能力の低さもあって、調査の行き届かない部分も少なくない。
 また、ララディが示唆した『地下街』も、その手掛かりすら見つかっていない。
『街が別の顔を見せる時』に関しては、それぞれ時間帯や日光、或いは自然現象など、幾つも案が出ているが、肝心の場所がわからない状況なので、残り1日でこれ以上の発展は難しそうだ。
「こんな所かしらね」
 ポールは本日の調査分を報告し終わり、一つ息を吐いた。
 面積、人口、種族分布に関しては、ポーラが教会と行政機関に情報提供を要求した結果、2年前の各情報をそれぞれ入手できた。
 情報としては十分だ。
 ただ、地形や建築物の数と種類、また道路や水路の調査と言う点に関しては、街の中央部と北部、東部のみの情報に留まっている。
 ルースアン、エラテリス両名の調査区域に関しては、かなり細部まで調べられており、何処に出しても文句のない情報が出揃ったが、この人数で徒歩による調査となると、1週間で全区域を回る事は物理的に不可能。
 それは初めからわかっていた事なので、ルースアンは建築物のより詳細な情報を、エラテリスは食に関する施設に特化した調査を行っていた。
 下手に全域を回ろうとしたら、殆ど上澄みだけの結果になっていただろう。
「‥‥すいません。私、何も出来ていません」
「し、仕方ないよ。ティファートさんは冒険者になったばかりなんだから」
「これから色々出来るようになりますから、そう気を落とさず」
 しゅんとするララをエラテリスが必死で励ましている。
 ララと接した機会がこれまでなかったポーラは、ララの性格をまだ把握してない為に安易に言葉を掛けられないものの、やはり心配そうにその様子を眺めている。
 何か元気付けられるものがないか――――そんな模索を脳内で行ったポーラに、一つの案が浮かんだ。
「そう言えば、例の『裏の特産品』。仕入れ場所がわかったけど、行ってみる?」
「おお! 確か果物だったよね☆」
 最も食い付きの良いエラテリスの傍らで、ララも顔を上げる。
 その表情では落ち込んでいるのか驚いているのかも余りわからないが、ポーラは構わず続けた。
「それが、意外と言うか、なんと言うか――――」


 最終日。
 冒険者一同がララを連れて訪れたのは、とても小さな果物屋だった。
 エラテリスが占いで集めた子供から教えて貰った、あの果物屋だ。
 路肩に面した陳列棚に、葡萄や桃、りんご、西洋梨、シトロン、木苺、瓜などが並んでいる。
「はー☆」
 それをエラテリスはキラキラした目で食い入るように見つめていた。
 そんな中、屋内から齢50ほどの女性店員が出てくる。
「いらっしゃい。欲しい物はあるかい?」
「『この世で一番高い果実を』」
 それに対応したのはポーラだった。
「ほう‥‥『それは何が高いのかい?』」
「『作る者の志』」
 一見、意味が良くわからないこのやり取り。
 実は『 』内は合言葉だったりする。
 狂乱の果実『フォリアドゥ』を買うには、この果物屋で合言葉を言わなくてはならないのだ。
 ポーラが情報屋として活動した結果、得られた情報だ。
「はいよ。ただし、買えるのは1つまで。他に漏らしちゃ駄目だよ」
 女性店員は山吹色の瓜のような果実をポーラに手渡し、御代を請求した。
 その額、実に60C。
 全員で15Cずつ出し合い、購入したその果実こそが『フォリアドゥ』なのだと言う。
「では、栽培している方にお話を聞きにいきましょうか」
 今度はルースアンが先頭となり、その場所へ向かう。
 そこは、なんと彼女が飲食店のシェフに教えて貰った植物園だった。
 そこで作った『フォリアドゥ』を、一部の店や業者にのみ渡していると言う。
 何故、大々的な特産品として売り出さないのか――――
「そりゃ、食べてみればわかるさ」
『フォリアドゥ』の栽培を行っている植物園の園長は、笑い声を噛み殺すように薦める。
 言われるがまま、冒険者達は購入した果実を切り分け、全員で食べる事にした。
 中身は、外側が白く、徐々に赤みを帯びた果肉が詰まっており、中央には細かい種がびっしりとある。
 桃と瓜を足したような感じだ。
 まずは同時に一口――――
「!?」
 同時に、全員が倒れる。膝を突いたりよろめいたりではなく、まるで上から押し潰されたかのような勢いで。
「いやー、毒じゃないんだけどな。なんつーか、壊滅的に『マズイ』んだよな、これ。余りにもマズイんで、逆に有名になっちまったんだ」
「最初に‥‥言って欲しかったです」
「‥‥本当に解毒の必要はないの? 考えられないんだけど」
「うう‥‥こんな味の食べ物、食べた事ないよ〜」
 ルースアンは頭を抱え、ポーラは何度もピュアリファイを唱え、エラテリスは涙ぐみながら蹲っている。
 例えるなら、新鮮な魚の肝と目玉をぐちゃぐちゃにして山羊乳に三日浸し、そこに蜂蜜を加えてトロトロにしたような味と食感だった。
「ララさん、ご無事ですか‥‥あ」
 眩暈を覚えつつ、ルースアンがララの方に視線を送ると――――ララは目を回したまま動かなくなっていた。
「ポーラさん、リカバーを!」
「あら、これは大変。瞳孔が」
「びびび病院?! 診療所はどこだったかな?!」
 冒険者達が慌てて治療を行う中、ララは遠くに水の音を聴いていた。
 静かに、静かに水の流れる音。
 それは、悠久の世界に続いているかのように、いつまでも静かに、ララの脳裏に響いていた。


・調査報告書

 調査対象:マルゼルブ街
 期日:神聖暦1004年04月09日〜04月15日
 調査項目:面積、地形、人口、種族分布、建築物数、建築物種類、道路、水路、特産品
 報告:街の面積と人口と種族分布は、ポーラさんが調べてくれました。
    人間の方々が多く、エルフの方も少しお住まいになっているようです。
    建物は、石や煉瓦で造ったお家が多くて、ちょっとかっこ良かったです。
    ルースアンさんが変わったお家を見つけてくれました。
    壁に沢山の模様を描いたお家で、ノルマンには余り見かけない様式だそうです。
    ただ、全部調べるのは無理でした。申し訳ありません。
    地形は、平べったい場所が殆どで、北側は少し傾斜が多かったです。
    道路は綺麗で、でこぼこしている所は少なく、馬車も走っていました。
    街の至る所に井戸があり、水の豊かな所でした。
    特産品は、靴と果物でした。
    靴はクローバーヒールと言うサンダルで、これからの季節にぴったりです。
    果物は‥‥記憶がありません。どうしてでしょうか。
    エラテリスさんがいっぱい走り回って、いろんなお店の食べ物を調べてくれました。
    沢山の子供達に手を振って帰って来る時、ちょっと悲しそうにしていたのが印象的です。
    ポーラさんとルースアンさんは、最後まで『地下街』について色々とお話をしていました。
    結局見つからず、残念な顔をしていて、私も少し残念に思いました。
    とても綺麗で楽しい街でしたが、私が足を引っ張ってしまい、不十分な調査となりました。
    今度はもっと頑張らないといけないと思います。

    以上。