霞春 〜シフール施療院〜

■ショートシナリオ


担当:UMA

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月12日〜05月17日

リプレイ公開日:2009年05月19日

●オープニング

 まだ陽が昇って間もない時間。
 普段はのどかな『ヴィオレ』の二階に、緊張した空気が漂っている。
「ほ、本当に良いんですか?」
 その空気の中、部屋の主であるルディ・セバスチャンは、眼前の男性達に恐縮した面持ちで何度もそう確認していた。

 ジーザス教[白]の教会からの援助。
 突然ルディを訪れた男性達からのその申し出は、まさに青天の霹靂だった。
 とは言え、脈絡のない話ではない。
 シフール施療院建設に向け、ルディとその仲間達は幾度となく教会に赴き、また寄付も行っていた。
 その努力が実を結んだ格好だ。
「はい。我々と致しましても、シフールの施療院と言う新たな試みに是非協力したいと言う事です」
 教会からの使者として訪れた男性の一人が穏やかに告げる。
 年齢は外見からは伺い知れないが、声には若さがあった。
「でも、僕ジーザス教の信者じゃ‥‥」
「構いません。我々の使命は『聖なる母』の御心のままに、弱者を救済する事。その使命と貴方がたの目標が一致している以上、協力は必然なのです」
「あ、ありがとうございます!」
 ルディは全身を使い、その頭を下げた。
 資金援助額は、シフール飛脚と同じ額と言う提案だ。
 これを受理した時点で、建設費の半分以上と維持費の給付がなされる事となる。
 建設とは言え、既にある空き家を病院に改装するので、それほど大きな額ではない。
 残りはこれまでに貯めた金額でどうにかなりそうだ。
 建設後も、教会と飛脚が協力してくれるのなら、十分立ち行く目処は立つ。
「ただ、一つ協力して欲しい事が」
 教会の使者が指定したその内容は――――簡単な応急手当で良いので、自分で出来る治療法を一般人に伝授して欲しい、との事だった。
 ノルマンに限った話ではないが、一般人の間では医療に関する知識が不足している。
 民間療法と称した様々な治療方法が試される一方、迷信も多く、有効な手段となり得ていないそうだ。
「それなら、計画の中に入ってるから大丈夫です」
「そうでしたか。では、一度視察を行わせて下さい。一応記録をとっておく必要があるのです」
 幾ら寄付などの実績があるとは言え、いい加減な治療方法を教える施療院では支持は出来ない。
 その名目がある為、体裁上最低一度は治療の視察を行う必要があるそうだ。
 とは言え、実際の治療風景は施療院がまだ完成していない以上、難しい。
 そこで、応急手当を一般人に伝授する様子を視察させて欲しい、と言う事のようだ。
「わかりました。僕の一存で決められない事もあるから、改めて連絡します」
「はい。では、宜しくお願いします」
 教会の使者達はルディに一礼し、彼の部屋を後にした。
 そして、暫くの沈黙の後――――
「やった‥‥リーナ、リタ、やったよ! これでシフールの施療院が建てられる!」
 ルディは興奮を抑えきれず、部屋の中を飛び回る。
 そして、毎日水をやっている素焼きの植木鉢にもその興奮を伝えようとした。
 すると、その隣にずっと置いてあった『小さな石』の形状が変わっている事に気付く。
 砕けているのだ。
 壊した覚えもないだけに、ルディは驚きを隠せなかった。

 ――――ノエルの輝石

 去年の年末、冒険者の厚意で貰った、不思議な力があると言う石だ。
 その時は何でも『沢山のお金を呼び込む金運向上の石』と言う噂が流れていたが‥‥
「もしかして、もう役割を終えた‥‥のかな」
 毎日水を浴び、成長する芽のように。
 努力を重ねる事で、いずれ形となるもの。
 それは必然であるべきなのだが、全ての努力が報われる訳ではない。
 だとすれば、この石もまた、施療院建設の為に力を貸してくれたのかもしれない。
「ありがとう」
 ルディは砕けたその石にも、深々と頭を下げた。
「ルディー! ごはんできたよー!」
 宿の娘カタリーナの元気な声が一階から聞こえて来る。
 ルディは何時ものように返事をし、窓の外に飛び出した。
 一面に広がる、まだ霞がかった春の空。
 揺蕩うような日差しと共に、暖かな風がルディの全身を淡く覆った。
 そして今日も――――夢の続きが始まる。


 Chapitre 6. 〜霞春〜

●今回の参加者

 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5977 リディエール・アンティロープ(22歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb8302 ジャン・シュヴァリエ(19歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec0290 エルディン・アトワイト(34歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec4988 レリアンナ・エトリゾーレ(21歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

 春の柔らかな日差しが窓を介し、荘厳な光となって輪郭を映し出す。
 その光景に、エルディン・アトワイト(ec0290)は目を細め、静かに時を待っていた。
「待たせてしまったかね、エルディン・アトワイト」
 そんな彼に掛けられた声は、重厚且つ明瞭。
 この場所――――パリ郊外の森の中に構える『フォレ教会』で最も権威ある司祭、サヴァン・プラティニの姿を確認し、エルディンは深々と頭を垂れた。
「いえ。お久し振りです、サヴァン殿」
 そして、満面の笑顔で再会を祝った。
 彼らが顔を合わせるのは、初めてではない。
 以前エルディンが寄付を行った際、一度対面していたのだ。
「この度は、施療院への援助をお申し出て頂いた事への感謝を告げるべく、馳せ参じた次第です」
「全ては『聖なる母』の御心のままに。共に祈ろうではないか。新たなる救済への道を祝して」
「はい」
 エルディンはサヴァンと共に祈りを捧げた。
「ところで、講習の準備は進んでいるかね」
 援助の条件として、教会が提示した『応急手当講習会の実施』。
 このサヴァンは視察には訪れないが、教会から二名ほど使者を送る予定だと言う。
「それは勿論。実りあるものとなる筈です」
 エルディンの淀みない返答に、サヴァンは満足げに数度頷いた。


 その頃――――
「ここがパストラルか‥‥良い所だね♪」
 パリから50km南に下った地点にある『パストラル』と言う村を、ジャン・シュヴァリエ(eb8302)とレリアンナ・エトリゾーレ(ec4988)が二人で訪れていた。
 ジャンの愛馬ロルカの巨体に相乗りしていた二人は、村の郊外にその足を下ろす。
「レリさん、手を」
「あら? ありがとうございますわ」
 ジャンの手を取り、レリアンナは既に数度訪れているその地を再度踏みしめた。
 二人がまず向かったのは、村長宅だ。
 レリアンナの紹介をきっかけに、ジャンとパストラルの村長が握手を交わす。
 二人が今回この村を訪れた最大の目的は――――羊乳の卸売許可を依頼する事にある。
 身体に良い羊乳を、ジャンのお店や施療院で取り扱う為だ。
 ジャンはリヴァーレと提携関係にある村『恋花の郷』に、自分の店『アリス亭』を開いており、そこで正式に羊乳を取り扱いたい意向を村長に訴えた。
「それはもう。こちらとしても、ありがたい申し出です」
 既にレリアンナはこの村において顔の利く存在となっており、話は円滑に進んだ。
「後は流通方法ですね」
「そう言えば、薬草についても輸送方法の問題がありましたわ」
 ジャンの言葉に、レリアンナが残存していた問題を思い出す。
 現在、このパストラルにはシフール施療院の第二薬草園を構えさせて貰っている。
 そこで育てた薬草を、施療院まで運ぶ方法がまだ決まっていなかったのだ。
 結構大量の薬草になるので、ルディが一人で運ぶのは現実的ではない。
「それなら、クロフォードを訪ねると良い。奴は行商人に顔が利く」
「あら、それは随分都合の良い‥‥こほん、助かりますわ」
「羊を飼ってるから、羊毛や皮を買いに来る行商人とは繋がりが深いんですね」
 ジャンがうんうんと頷く中、羊ののどかな鳴き声が聞こえて来た。
 

 二日後――――リヴァーレ内、施療院建設予定地。
 エルディンが講習の会場となる場所の探索から戻って来ると、その敷地の傍にある大地を耕す馬の姿と、馬上に乗る男性の姿があった。
「お帰りなさいませ。首尾は如何でした?」
 リディエール・アンティロープ(eb5977)は愛馬グロリアの手綱を握りながら、エルディンに微笑を向ける。
 グロリアには馬鍬が装備されており、その直ぐ上ではルディが興味深そうにそれを眺めていた。
「良い所が借りられました」
「良かった!」
「吉報でしたね」
 喜ぶルディにそう唱えると同時に、リディエールは馬上から降り、額に滲む汗をひよこのハンカチーフで拭った。
 ラテリカ・ラートベル(ea1641)が貸してくれた物だ。
 彼女は現在、応急手当講習の用意をする為、村の飲食店『セボン』に篭りっきりだ。
「大分畑らしくなりましたね」
「レリアンナさんが色々調べてくれたようで、良い肥料も手配できました」
 ルディは薬草園全般について、リディエールに全幅の信頼を寄せて委任している。
 リディエールもそれを受け、少しでも質の高いものにしようと、その涼しい顔とは対照的に強い情熱を注いでいた。
 まずは、自身の薬草園から持参した薬草の苗を近日中に植える事になっている。
 鉄の武器による怪我に利くとされるアグリモニー。
 頭痛や鬱血に効果のあるレモン・バーム。
 腹痛に利くルリハコベ。
『神聖な薬草』ことバーベイン。
 有名なものから、やや手に入り難いものまで、今後も種類は増やしていく予定だ。
「では、私はこれから講習用の道具や施療院用のベッドを運ぶ準備をしに行きますので」
「力仕事を押し付ける形になってしまって、申し訳ありません」
「ゴメンね。僕もシフールだから、力仕事は中々‥‥」
「いえいえ。これでも神聖騎士ですから」
 力こぶを作りおどけるエルディンに、ルディとリディエールは恐縮しながら苦笑した。


 そして早くも最終日――――講習会当日。
 会場には、かなりの人数が講習を受けに訪れていた。
 ミケやワンダをはじめ、宿屋『ヴィオレ』に張ってある広告を見て来た者や、パストラルの村民、そしてシフール飛脚や翻訳の姿も見える。
 教会の使者も既に訪れていた。
 そんな中――――講師となるラテリカが教卓の前に立ち、こほんと咳をする。
「えと、応急手当の御説明をさせて頂くラテリカなのです。宜しくお願いしますです」
 そして、ぺこりとお辞儀し――――ゴン、と教卓に頭をぶつけてしまった!
「は、はわわっ」
 頭を抑えるラテリカに、受講者からドッと笑いの声があがる。
 開始から僅か数秒で、場は大いに和んだ。
「‥‥では予定変更しまして、まず頭ぶつけた時の手当てをご説明するですねー」
 涙を浮かべつつ、ラテリカは講習を開始した。
 講習内容は、大きく分けて三つだ。
 応急手当の概念と必要性、重要性に関する説明。
 手当てや滋養の際に使用する道具や薬草の解説。
 そして、負傷の種類別対処の実践訓練だ。
 応急手当と言うのは、医療の専門家が処置する前に行う『取り敢えず』の治療。
 だが、この『取り敢えず』が、予後に与える影響は大きい。
 ラテリカはこの説明をする為、事前に医療に明るい知人の元を訪れていた。
 施療院建設に関して相談している、元医師の人達だ。
 既に老齢の者ばかりと言う事もあり、ラテリカを出迎える顔はまるで孫を心待ちにしていたかのようだった。
 彼らが最も力を入れて助言したのは『応急手当を怖がらない事』。
 自分が自分に施す場合はまだしも、他人に対して施す場合、『本当にこれで良いのか?』と言う懸念が責任として生まれる。
 それが邪魔をして、中々踏み込めない者も多いとの事だった。
「それでも‥‥勇気持って、ゆっくりでもやってみるが大事なのです」
 ラテリカは言われた通り、その事を強調して説明した。
 そして、出血が多い、傷が深いなど重傷の場合は、必ず教会や診察所などの専門機関に向かう事も併せて唱えた。

 次は、道具及び薬草の解説だ。
 まず、負傷箇所を覆う布や傷を洗う水を必ず清潔にする事。
 その為には、一度熱して消毒するのが好ましい。
 布は沸騰したお湯につけ、水は一度温めてから冷ましたものを常時樽などに溜めておく事を、実践を交え、ラテリカは熱心に指導した。
「優しく洗わないと痛むですから、労るよにそっと‥‥はわ!」
 実際に煮沸消毒したばかりの布を、ラテリカは誤って本当に肌につけてしまった!
「こう言う時は、直ぐに冷やす事が大事です」
 そんなラテリカに、リディエールがすかさずアイスコフィンで凍らせた布を渡す。
「ありがとうございますですよー。えと、予定変更して、火傷の手当てを先に説明するです」
「ラテリカさん、逞しいおー」
「慌てているようで、冷静に対処してるよね」
 最前列に座るミケとワンダが感心しながら聞いている。
 彼らの他のシフールの受講者も、皆前列で熱心にラテリカの説明を聞いていた。

 そして、次は負傷対処の実践訓練。
「それでは、三人一組になって下さーい!」
 ジャンが大声で指示を出し、他の冒険者達も受講者の輪に加わる。
 講師役はラテリカだが、他の冒険者達も事前にリディエールの用意した写本やラテリカの指導によって知識を得ており、手伝いをする上では不足はない。
 まずは、包帯や三角巾と言う、余り民間人が使う事のない医療道具に使い方について取り扱う。
 シフール用の小さな道具も各種用意しており、シフールの受講者達は目を輝かせそれを眺めていた。
 包帯の巻き方、三角巾の利用方法、骨折の際の副木の宛がい方などを、実際に体験して貰いながら説明して行く。
「あ、耳は敏感なので優しく‥‥いてててて!」
「うわっ! 耳が動いた! ピクピクって!」
 エルディンの悲鳴が聞こえたり、それを見た受講者が悲鳴を上げたりしつつ、和やかに体験学習は進む。
 その様子を、教会の使者は一部始終、克明にメモしていた。

 実践訓練も終わり、それぞれに応急手当の正しい知識が備わった所で、最後は薬草と羊乳を使った料理を振舞う。
「羊乳はとても身体に良く、暖める事で甘みを増し、より清潔になりますわ」
 まず、暖めた羊乳をレリアンナとジャンが配る。
 牧畜者の間では、熱した石で羊乳を暖めるのが通例となっているのだ。
 シフールも特別に用意した小さな器に入った羊乳に満足げだ。
「これなら、施療院でも出せそうだね」
 ジャンは大きな手応えを感じていた。
「次は、羊乳にハーブを混ぜた物です。風味が良くなっているので、飲みやすいですよ」
 今度はリディエールが、羊乳にフェンネルを加えた物を出す。
 フェンネルは風味付けに加え、胃腸に良いと言う効果を持っており、羊乳とは相性が良い。
 リディエールの爽やかな笑みもあってか、特に女性に高評価を得た。
 そして――――
「お待たせしましたですよー」
 ラテリカが用意した、ハーブを使った料理がどんどん机に並べられていく。
 ポリジの若葉を煮詰めて作ったスープ。
 キャラウェイの種子を香味に使ったパン。
 バジルソースをかけた肉料理。
 香りと健康を損なわないよう工夫されたそれらの料理は、ラテリカがリディエールに助言を仰ぎつつ、四日間かけて作ったものだ。
「このスープ、癖はあるけどおいしいおー!」
「うわー、凄い良い香り。パンってこんな美味しかったんだね」
 ミケとワンダ、更に他の受講者もこぞって舌鼓を打ち、本来は敬遠されがちな薬草入りの料理を堪能している。
 料理を食べている最中も、冒険者達の活動は続く。
 リディエールは料理用の薬草の選び方を丁寧に論じ、レリアンナは羊乳の保存方法を教えて回っていた。
 ジャンとエルディン、そしてルディはシフール施療院に関する説明を行い、ラテリカはどんどん次の料理を運んでいた。
 それでも、用意した料理はあっと言う間に完食。
「おそまつさまでしたー」
 ラテリカのそのお辞儀をもって、無事講習会は終了となった。


 大成功の後幕を下ろした会場を片付け、冒険者一行は施療院予定地に戻る事にした。
 五日前まではただの民家だったそこは、早くも施療院の様相を呈し始めている。
 まず重要となる間取りに関しては、ジャンが中心となって決定した。
 民間の間取りを出来るだけそのまま利用するようにし、広い居間をベッド部屋に、それ以外の部屋を診察室、炊事場、食堂兼談話室、事務室とする事となった。
 ベッド部屋は個室と共用部屋の二つを用意し、幼児用のベッドを3段重ねにして、より多くのベッドを置けるようにした。
 設計図はジャンが、測量はエルディンが主に行い、正式な施工図の下地となる資料を作成してある。
 その資料には、それぞれの部屋の名称が記してあった。
 例えば、共用ベッド部屋は『はばたきの部屋』。
 個室は『とまりぎの部屋』。
 診察室は『望みの部屋』、などと決定した。
 
 施療院を作る上で特に冒険者達が重要視したのは、シフール達の価値観だ。
 それを調べる為、予めシフール達に『快適に住める家とは?』と言う質問をしていた。
 その結果は、冒険者達の持っていたイメージと近いものだった。
『自然』に近い形で羽を休める場所。
 風が通り、木々の匂いのする場所。
 即ち――――シフールにとっての家だ。
 それを踏まえ、シフールの生活する場所として、森と空を前面に打ち出した内装にする事となった。
 実際に木の枝を内部に取り付ける方法を模索したり、壁紙や壁細工、シフール用の出入り口や遊具など、様々な物の作成予定を立てたりしている。
 壁紙に使用する塗料は、植物油などシフールの身体に悪影響を及ぼさない物を、リディエールがジャパンを中心に探し回り、入手していた。
 看板のデザインも彼がデザインを担当している。
 壁細工は伝統工芸的な物を頼みたいと言う意向で、下絵のみ作成し、後は職人を探して貰っている状態だ。
 この職人は、エルディンの案により宿屋『ヴィオレ』のシフール専用部屋を作った人達に頼んでみる事になっている。
 また、ベッドの持ち運びもエルディンが中心となって行っている。
 大分前にいらない子供用のベッドを引き取る約束をしていたが、ようやく実際にそれを引き取る事が出来た。
 この持ち運びの際に頑張ったのは、実はレリアンナ。
 彼女は見た目とは違い、結構体力があったのだ。
 その精力的な様子に、他の冒険者達は驚きを禁じえなかったとか。
 そう言った用意を着々と重ねつつ、施療院は徐々に完成へと近付き始めている。
「それじゃ、預かった物を届けに行ってくる!」
 その施療院予定地を、ルディは飛び立った。
 彼が預かった物とは、セナールの森にいるリタへの贈り物だ。
 強めの発作が出てしまい、寝込んでいたのだ。
 それを受け、ラテリカがパンと花を、リディエールが一輪の野花を添えた手紙をルディに託した。
 ルディもまた、贈り物を用意している。
 砕けた『ノエルの輝石』の欠片だ。
 冒険者一人一人にも、この欠片を持って貰っている。
 既に効果は消えたのかもしれないが、お守りのようなものだった。
「大丈夫だよね、リタ」
 そう呟き、ルディはセナールの森に飛び込む。



 無意識に抱くのは――――懇願。
 君の家がもう直ぐできる。
 そこで、皆と一緒に笑って暮らそう。
 妹のリーナと、一緒に良くなろう。
 だから。

 だから――――



「‥‥ごめんくださーい」
 ルディは、森の中の彼らの住処を訪れた。 
 二階の窓から入ると、直ぐにヘンゼルの背中が見えた。
 そして、その後ろに、リタの姿がある。
 リタは――――



「あ‥‥良かった」
 穏やかな顔で、小さく手を振ってくれた。