不幸物語最終章2「愛のプロポーズ大作戦」

■ショートシナリオ


担当:UMA

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月28日〜06月02日

リプレイ公開日:2009年06月05日

●オープニング

 パリの近郊にマルシャンスと言う街がある。
 その街では、つい先日一つの大きな作業が終焉を迎えていた。
 それは――――街一番の巨大なからくり屋敷『シャトー・デ・リューズ』の完成だ。
 ノルマン1不幸な男マックス・クロイツァーが建設に関わりながら、無事完成した事に、街の住民は驚きを隠せずにいた。
「ごめんくださいましーっ! 完成おめでとうございますーっ!」
 その取材にと、フローライト・ミカヅキが石材加工店『ボッシュ』に突撃を試みる。
 現在、マックスは婚約者であるマルレーネの家で居候などしているのだが、一日の殆どの時間をこの店で過ごしていると言う。
 彼女の予見通り、マックスはそこにいた。
「やあ、こんにちは。取材かい? さあ、何でも聞いてくれ」
 大きな仕事を経て成長しナイスガイと化したマックスは、フローライトの質問に一つ一つ丁寧に答えた。
 彼曰く――――からくり屋敷『シャトー・デ・リューズ』に仕掛けられたからくりは、現代の技術の粋を集めた世界最高水準のものだという。
「‥‥ありがとうございましたーっ。では、次の話題に映りますねーっ」
「ははは、せっかちだな。次は何だい?」
「マルレーネさんとはいつ結婚されるのですかーっ?」
 フローライトの質問に――――ナイスガイマックスは沈黙のまま、膝から崩れ落ちた。
「あ、あれ? 何か聞いてはいけない事を効いた雰囲気にーっ?」
 ナイスガイ化が解けたマックスは、身体を支える四肢をわなわなと震わせ、大きく息を吐く。
「それが‥‥」
 マックス曰く。
 この大きな仕事の報酬を結婚資金にと思っていたが、毎日のように何かしらの不幸で屋敷の何かしらが壊れた結果、報酬はその補填に全て充てられてしまい、手元には全く残らなかったらしい。
「それはお気の毒ですーっ。と言うか、良く今日まで生きて来られましたねーっ」
「言うな。それは言わない約束なんだ」
 誰と約束しているのかは不明だが、マックスは首を振ってフローライトを諌めた。
「それにしても、残念ですねーっ。マルレーネさんは超苦手な家事を頑張って克服してまで、マックスさんとの結婚に備えているのですが」
「え? マルレーネは料理は得意な筈じゃ」
「ところがですねーっ、かくかくしかじかだったのですーっ」
 フローライトは以前マルレーネにカミングアウトされた事実をマックスに教えた(参照:不幸物語最終章1「春の花嫁修業」)。
「む‥‥? だが、以前冒険者の女の子と一緒に料理を作った事があったんだが」
「なんとーっ!? それは事実なのですかーっ!?」
「あ、ああ。確か‥‥」
 マックスは回想を始めた。
『お昼ごはん、マルレーネさんと作ったです。お召し上がりください♪』(参照:まさかの大抜擢に各方面から驚きの声が)
 確かに、そう言う事実があったようだ。
「これは驚きの展開! まさかまさかの『マルレーネさん悪女説』浮上ですよーっ!」
「悪女‥‥?」
「実は料理できないのーと告白しておいて、本当の本当は料理が出来て、出来ない振りをしてカマトトぶると言う、嘘に嘘を重ねた2重作戦! 悪女ですねーっ、凄いですねーっ!」
「‥‥何故そんな策略を張り巡らす必要がある。俺はマルレーネが料理できようが出来まいが、どっちでも良いんだぞ?」
「本人はそう思っていないのですよーっ。これは驚異的な新事実です! 早速酒場に‥‥」
「嘘を広めるなーっ!」
 石材加工店『ボッシュ』の玄関先に、凄まじい砂埃が巻き起こる。
 マルレーネが激走してきたようだ。
「あ、マルレーネさん。では、真相はいかにーっ?」
「あの時は‥‥私はその、配置? とか、味見? とか、そう言うのを担当‥‥うう」
 つまり、冒険者の方が気を使って一緒に『作った』と言う事にしてくれたらしい。
 感謝である。
「じゃ、マックス。これ今日の弁当。また後でね」
「あ、ありがとう」
 今度は本当に手作りらしく、多少拙いものの、とても愛情の篭った弁当がマックスに届けられた。
 それを眺めながら、マックスは憂鬱な表情を浮かべる。
「ふう‥‥」
「どうかしましたかーっ?」
 婚約者となって、もう直ぐ1年が経とうとしている。
 それなのに、結婚資金すらまともに貯蓄できないでいる自分に、マックスは絶望していた。
「くそ‥‥俺はどうしてこう情けないんだ」
 そう独白し俯くマックスに、フローライトは――――特に何も言わずトコトコと去っていった。
「せめて何か慰めの言葉くらいさあ‥‥あーっ! もーっ!」
 大きな仕事をして男を挙げた筈のマックスは、子供のように悶え苦しんでいた。 
「あ、あの‥‥マックスさん?」
 そんなマックスの姿を、来店者が訝しげに眺めている。
 それは、からくり屋敷の仕事の話を持って来た男だった。

「実は、困った事になりまして」
 男は深刻な表情で、来店の理由を述べた。
 その内容はと言うと――――からくり屋敷『シャトー・デ・リューズ』が、乗っ取られたと言うものだった。
「石像にレイスが宿ったり、ポルターガイストが毎晩どんちゃ騒ぎしたり、リザードマンが別のからくりを仕掛けたり‥‥もうメチャクチャで」
「う‥‥すいません」
 特に自分が何をした訳ではないのだが、マックスは何となく自分の所為かなーと感じ、謝ってしまった。
「いえ、貴方の責任と言う訳ではないので。ただ、からくり設計者の1人と言う事で、お願いを」
「は、はあ」
 そのお願いと言うのは――――からくり屋敷に突入して、乗っ取った連中を追い出して欲しい、と言うものだった。
 からくりの仕組みを知っている彼であれば、突破も可能と言う期待からの依頼だ。
「危険な任務ですので、報酬は100Gを用意し」
「やります!」
 全てを聞く前に、マックスはその依頼を受けた。


 その日の夕方。
 マックスは、街から離れたグレートウォール跡地を訪れていた。
 数多くの者が採掘を試みた事で、壁は随分ボロボロになっている。
 ここが、彼にとって出発点だった。
 その場所へ訪れたのは――――何となく、そうすべきなのだと感じたからだ。
 原点を見つめる事で、見えてくるものがある。
『マックス殿』
 そんなマックスの傍らに、巨大な白鷲が舞い降りる。
 ホワイトイーグルのエッちゃんことブラン・エクレールだ。
『マルレーネ殿が心配していた。早々に戻るが良い』
「‥‥わかった」
 ちなみに、マックスはテレパシーも使えなければ関連アイテムも装備していない。
 何となく通じるのだ。
『話はマルレーネ殿に聞いた。我で良ければ、何時でも力を貸そう』
「ありがとう。済まないな、心配をかけて」
『気にする事はあるまい』
 マックスがここに来た訳。
 それは、自分の原点を見直す為だ。
 初めは、自分で全てをすべきだと思っていた。
 そうする事が、マルレーネへの愛の証だとも思った。
 だが、そうではない。
 自分がすべき事は、自分が信用する者の力を借りてでも、結婚資金を得て、マルレーネにプロポーズをする事だ。
『ふむ、良い顔をしている』
「な、何だ? 藪から棒に」
『ふふふ。さあ、我が背に乗るが良い』
 言われるがまま、マックスはホワイトイーグルの背に乗った。
 そして、茜色の空に飛び込む。
 まるで――――炎の中に突入するかのように。
 

●今回の参加者

 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 ea9311 エルマ・リジア(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ジラルティーデ・ガブリエ(ea3692

●リプレイ本文

 雷雲を頭上に、冒険者達はからくり屋敷『シャトー・デ・リューズ』の門まで足を運んだ。
 その屋敷の広大さに、一同は思わず息を呑む。それくらい、この屋敷は今脅威となっていた。
 その恐ろしさは、冒険者全員に依頼主から配られた『聖遺物箱』にも現れている。
 一応、重要アイテムはこれの中に入れて管理せよ、と言う名目ではあるが、何となく『これやっから死んでも文句言うな』的なニュアンスのように思えてならない。
 そう言った背景もあり、念の為、まずはレティシアの知人でナイトのジラルティーデ・ガブリエが偵察を行う事になった。
 その結果、彼は入り口〜第二エリアまでの進入に成功し、そこまでの情報をレティシア・シャンテヒルト(ea6215)に託していた。
 ちなみにジラルティーデは次のエリアで無念のリタイアとなった模様。
 現在、施療院でぐっすり眠っている。
「と言う訳で、マックスの造ったからくりは殆ど改変されたみたい。殆ど未見のダンジョン状態ね」
 レティシアの言葉に一同頷きあう。
 そうなると、各々の経験と技術で臨機応変に切り抜けるしかない。
 そう言う訳で、役割分担。
「幽霊やポルターガイストの方は、私の方でなんとかします」
 と言う自己申告により、神聖騎士のマロース・フィリオネル(ec3138)は超常現象を一手に引き受ける事に。
「炎のトラップはお任せあれです。アイスコフィンで固めます。と言うか誰であろうが固めます」
 と言う意気込みを買い、マックスと初対面となるエルマ・リジア(ea9311)は固め役に。
「お空飛んだり遠くにいる敵の方はお任せですよー」
 と言う事で、ラテリカ・ラートベル(ea1641)は遠距離攻撃を担当する事となった。
 そしていつの間にか陰陽師となっていたレティシアは、アルテミス陰陽センサーなどを駆使した前衛での偵察役を担当する事に。
「レティシアさん‥‥バードではなくなったですか」
「ちょっと自分探しをね。ノルマンの歌姫はラテリカ、貴女に任せるから」
「はわっ!? そ、それは無理なのですよー!」
「大丈夫。貴女なら出来るの。全世界を癒す意気込みでお願い」
 そんなやり取りで場が和む中、マックスは1人深刻な表情で何度も拳で胸を叩いていた。
 息も荒い。どうやら無駄に緊張しているらしい。どうせ大した事も出来やしないのに!
 だが、これでは攻略に支障が生まれる。
 と言う訳で――――
「‥‥え? 私?」
 冒険者一同、マルレーネを同行させると言う強硬手段に打って出た。


 取り敢えず、ジラルティーデが突破したエリアまでは余裕で進入成功。
 十分に余力を残しつつ、一行はここで食事休憩を取る事にした。
 食事は、マルレーネが作った弁当だ。
 実は元々、マルレーネの参戦に関係なく弁当を作って貰うよう依頼していたのだ。
 初日にラテリカが彼女の家を訪れ、一緒に作った代物だ。
「上達なさいましたですね。愛の成せる業ですねぇ」
 そのラテリカがほくほく顔でおかずを頬張りながら呟く。マルレーネは恥ずかしそうに照れていた。
 とは言え、実際には成功分の数倍の量の食材が、正体不明の固形物と化していたりもする。
 まだまだ精度という面では修行が必要の様子だ。
 だが実は今回、その失敗作こそが重要な攻略アイテムとなる事を、マルレーネ本人は知らない。
(‥‥これもお2人の為なのです。ごめんなさいですよー)
 内心謝罪しつつ、ラテリカは自身の荷物の中をチラッと確認していた。


 和やかな休憩が終わり――――本格的なからくり屋敷攻略がついに始まる。
 その中で、マックスはマルレーネと隣接した状態で歩を進めていた。
 頭にはマロースから貰った皮兜を装備。その他、レティシアの進呈により、家内安全のお札、魔よけのお札、純潔の花の3点セットを身に付けている。
 気も大きくなると言うものだ。 
「安心しろ。マルレーネは俺が必ず守るからな」
「マックス‥‥」
「思わず凍らせてしまいたくなるくらいお熱いですね」
 エルマがうっとりと2人の様子を眺めながら歩く中、次のエリアの扉が見えてくる。
 当然、何らかの罠が仕掛けてありそうだが――――
「レティシア君、ここはまず俺がゆくよ」
 すっかりナイスガイ化したマックスが、レティシアを制してその扉を開く。
 すると――――
「ぎゃーーーっ!?」
 扉を開くと同時に、タンスがマックスめがけて突っ込んで来た!
 それだけではない。
 椅子やテーブルなど、家具全般がマックスめがけて飛んで来る。
「この気配‥‥マックスの自宅に居た、奴ら」
 レティシアが持っていた呪い返しの人形が、血涙を流している。
「はわっ!?」
 更に、ラテリカの四葉のクローバーがしおしおになっていた。
「レイスの仕業です!」
 その事実に気付いたマロースが、瞬時にホーリーを唱える。
 どうやら、家具にレイスが取り憑いているらしい。ホーリーを受けた家具は順次大人しくなる。
 それに再び乗り移られないよう、エルマ、レティシア、ラテリカは魔法で破壊を試みた。
 特にレティシアの顔は、まるで敵討ちでもしているかのように険しい。
 そんな中――――
「くっ‥‥マルレーネ、君は早く次のエリアに!」
 鼻血を流すマックスは、めげずにマルレーネの手を引っ張って突破を図る。
 そして、次のエリアへの扉に手を――――
「のわーーーっ!?」
 かけると同時に、頭上から火の点いた松明が降って来た。
 皮兜が勢い良く燃える燃える。
「マックス! 落ち着いて! ホラ、先の方に池が!」
「おおっ!」
 マルレーネの指示に従い、マックスは扉の向こうにあった池に頭から飛び込んだ。
 が。
「もえもえーーーーーっ!?」
 マックスが飛び込んだ池は油槽だったらしい。
 意味不明な叫び声と共に、凄まじい高さの炎が立ち上がった。
「消火! 消火でーす!」
「いやー! マックスがーっ!?」
 エルマがアイスブリザードを唱える中、マルレーネの慟哭が屋敷中に響いていた‥‥


 とは言え、この程度でどうにかなるマックスである筈もなく。
 エルマの消火活動とマロースのリカバーによって、黒焦げの身体も綺麗さっぱり回復した。
「死ぬかと思った‥‥」
「この程度で死ぬのなら、もうとっくにこの世の住人でない気もしますが」
 マロースが至極もっともな意見を述べる中、レティシアは部屋の中央で胸に手を当て、祈るような表情を浮かべていた。
「仇‥‥とったから。ゆっくりお休み」
 それが誰に対しての言葉なのかは、誰にもわからなかった。

 そして、何事もなかったかのように攻略は続く。
 次のエリアは――――センチビートの巣窟だった。
「えいっ。えいっ。はわっ、とと、えいっ」
 ラテリカは背中にどーっと汗を掻きつつも、迫り来る巨大百足をムーンアローで撃破して行く。
「こう言う方々は冷気に弱い筈です」
 エルマのアイスコフィンは特に有効だったようで、あっという間に殲滅と相成った。
「貴女達、良くこんなの相手に‥‥」
 見た目的にかなーり厳しい状況下で、マルレーネは身を竦ませつつ感心している。
 しかしその実、彼女もこの戦闘に多大な貢献をしていた。
 センチビートの大半は、ムーンアローやアイスコフィンであっさり仕留められていたが、その多くは既に弱った状態だった。
 実は――――このからくり屋敷に、何者かがこっそり逆トラップを仕掛けていたのだ!
 その罠を『食した』結果、センチビートは極端に衰弱してしまったらしい。
 罠を張ったのは冒険者の中の1人だったのだが、方法が方法だけに、ここでは敢えて名前は伏せさせて貰う。
(効果絶大だったですよー‥‥)
 そんな心の声でお察し願いたい。
 

 攻略は更に続く。
「‥‥?」
 レティシアが扉を開いたその先に見えたのは、闇。
 これまでは壁にランタンが掛かっていたのだが、この部屋にはそれがない。
 エルマが急いで前のエリアに戻り、自身のランタンに火をつけようとしたが――――
「あれ。つきませんね」
 壊れていた為、使えなかった。
 だが、その理由を不審に思うものはいない。全員1人の男をチラ見し、そう言うものだと納得するのみ。
 そんな訳で、光源はエルマの連れてきた妖精、ファルファリーナのライトで確保する事となった。
「それじゃ、お願いです」
「です〜♪」
 ファルファリーナはとことこと扉の向こうの闇に向け歩き、光を発する。
 すると、その瞬間。
 ぬおっ、と何者かの顔が浮かび上がった!
「きゃあああああ!?」
 マルレーネが驚愕の悲鳴を上げると同時に、冒険者一同は身構える。
 その顔は――――本来、この国にはいない筈のリザードマンだった。
 どうやら月道を渡ってやって来たらしい。
「‥‥」
 だが、そのリザードマンに戦意はない。
 寧ろ、救いを求めるような目をしていた。


 リザードマンが月道を通り、この地に赴いたのは一月ほど前。
 居心地の良い場所を探し、この屋敷に辿り着いた。
 中で炎を焚き、暖を確保。
 それなりに居心地の良い空間を作っていた。
 だが――――
『突然現れたその人間は、我々の住処を奪い、悠々自適な生活を始めたのだ』
 テレパシーによってリザードマンの言葉を聞いた冒険者達は、一様に眉をひそめた。
 モンスターに支配されたと思われたこの屋敷だったが、実は人間が乗っ取っていたのだ!
『何者かから逃げる為に匿ってくれと最初は言っていたが、徐々に高圧的になり、今はポルターガイストに合の手を入れさせて歌い、色々な物にレイスを憑かせて楽しみ‥‥享楽の限りを尽くしているのだ』 
「それは‥‥大変ですね」
「世の中には風変わりな人間がいるものです」
 エルマとマロースをはじめ、冒険者達が皆リザードマンに同情する中、マックスは1人顔を曇らせていた。
『部屋を暗くしないと落ち着けないこんな生活はもう嫌だ。頼む、どうか奴を退治してくれ! 奴は‥‥』
「随分とお喋りが過ぎるな、トカゲ野郎」
 リザードマンの背後に、突如現れる人影。
 それは、この屋敷の支配者――――クラウディウス・ボッシュその人だった。
「師匠‥‥本当にもう、何やってんですか‥‥」
 マックスの顔に驚愕の色はない。リザードマンの話から、何となく予想していたからだ。
 彼が知る上であのような非常識な行為を行う人間は2人。その中の1人だったと言うだけの事だ。
「俺がこの屋敷を支配した理由を述べよう」
 呆れるマックスを尻目に、クラウディウスは切々とここ数ヶ月の自身の奮闘とか葛藤を語り出したが、諸事情により要約。
 つまるところ、嫁さんから逃げ返ってきたら、弟子が何か大きな仕事をしていたので、気に食わなかったらしい。
 加えて、若くて美人のマルレーネと結婚するマックスが、心底憎らしい、との事だ。
「おのれ、自分だけ良い思いしやがってぇぇぇ」
 要は嫉妬である。
 これまで幾度となく本人を悩ませてきたマックスの不幸。
 だが、その集大成は――――彼を師事した事なのかもしれない。
「マックス。ここは貴方がどうにかしなさい」
 そんな中、レティシアは頭を抑えつつ、一本のノミを手渡す。
 もう1人の非常識人が作った、非常識な武器だ。
「弟子は師匠を越えて、初めて一人前の男になれるもの。今がその時よ」
「‥‥わかった」
 そのノミを受け取ったマックスは、悲壮な決意を胸に、嫉妬の鬼と化しているクラウディウスと向き合った。
「マックス‥‥」
「大丈夫だ。師匠にケンカで勝った事はないけど‥‥今日は勝つ!」
 マルレーネの不安そうな顔に、マックスは笑顔でそう宣言した。
 そして。
「師匠! 今日俺は、貴方を越え――――」
 マックスの声が、何かが崩壊する騒音でかき消される。
 彼らの真上――――天井が急に崩れ出したのだ!
「危ない!」
 その破片から身を呈してマルレーネを守ったマックスは次の瞬間、思わず目を疑う。
 そこには、友であるブラン・エクレールの姿があった――――が、問題はそこではない。
 その背に乗っている女性の姿こそが問題だった。
「師匠の‥‥奥さん?」
「久しぶり。元気だったか」
「え、ええ」
 マックスは、事態が飲み込めずに混乱していた。 
 その傍らで、ラテリカがとても複雑な表情をしていたのだが、それにマックスが気付く事はなかった。
 尚、クラウディウスはエッちゃんの下敷きになっていたりする。
「ウチの馬鹿が迷惑をかけたようで、すまない。これから『再教育』するから、暫く店は君が守ってやってくれ」
「は、はあ」
「ふむ、大分逞しくなったな。結婚式には呼んでくれ。では」
 一応返事するマックスに満足し、奥方はエッちゃんの下の伴侶を抱え、再び空へと舞って行った。
 ちなみに――――このホワイトイーグルは、レティシアの意向で屋敷上空のパトロールを行っていた。
 もの凄い殺気を感じた先で、奥方と遭遇し、話を聞き、ここまで運んで来たらしい。
 と言う訳で、ミッション終了。
「マックスさんの奥様‥‥凄い方なのですね」
 ラテリカが冷や汗混じりにそう呟く中、気が付けば外の雷雲は消えていた――――


 依頼は果たされたものの、マックスにはまだ大事な案件が残っていた。
 例えば、破壊された屋敷の修理費で報酬額が殆ど取られると言ういつものアレ。
 しかし今回は、エルマが自身の報酬を全額マックスに寄与すると言う慈悲を見せ、事なきを得た。
「良いのか? 初対面の俺に、そんな‥‥」
「その代わり、マルレーネさんを幸せにしてあげて下さいね」
 と言う訳で、マックスはいよいよ最終目的へと向かう事となった。
 
 そう。プロポーズだ。

 その特訓の為、残りの期間をレティシアと共に過ごす。
「君の墓石は‥‥俺が作るさっ!」
「ダメ、きゅんきゅんしない」
「女心はわからん‥‥」
 そんな過程を得つつ――――星の見える夜の事。
「で、話って何?」
 マックスはマルレーネを連れ、グレートウォール跡地を訪れていた。


 今から約1年前。
 マックスはこの場所で、多くの冒険者に囲まれる中、マルレーネと婚約した。
 それからと言うものの、不甲斐ない所ばかりを見せていた。
 今回の屋敷攻略を経ても、印象はそう変わらないだろう。
 それでも良いか、と思い始めたのは、実はつい先日の事だった。
「マルレーネ」
 大事なのは『自分らしく』。
 ラテリカ、レティシア、エルマ、マロースの4人は、そう教えてくれた。
 ならば、下手に飾らず、自分の思いをそのまま伝えるだけ。
 そんな決意を込め、マックスは用意して貰っていた妖精の粉を自分には振りかけず、空に放った。
「俺は――――」
 美しい粉が月夜の下で舞う中、マックスは自分の言葉で、マルレーネに結婚を申し込んだ。
 そして、マルレーネも自然な笑顔で、その言葉を受理した。
 それは、2人だけの大切な言葉達。
 もし、それが公になるとすれば、それは――――

 神の見守る、その場所で。