拝啓 冒険者様 お助けを〜れっつ村おこし〜
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:UMA
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月30日〜06月04日
リプレイ公開日:2008年06月05日
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●オープニング
「私の祖父であり、この村の代表でもあるヨーゼフ・レイナは歓喜に震えていました。
それと同時に、憤っていました。
それに加え、焦燥を抱いてもいました。
理由はそれぞれに存在しています。
まずは歓喜です。
寂れていく一方だったこの村に、少しずつ活気が戻りつつあるのです。それは、とある冒険者の方々のお陰でした。彼らが寄せてくれた様々なアイディアによって作成された新しいパンが、まだ試作段階ながら話題になっているのです。
パンは通常、そのままで食べるか、スープに浸して食べます。質の高い材料で、質の高い製作過程を経て作られたパンは、それだけでも十分においしいのです。
最近はそれを『ありきたりなもの』と切り捨てる風潮が目立っていました。そんな人達が、蜂蜜パンやチーズパンの試作品を一口食べた瞬間『これは革命だ!』と叫んだ事は、この上ない喜びでした。
ただ、良い事ばかりではありません。そのパンについて、別の村から苦情が寄せられたのです。
その手紙の差出人は、『リヴァーレ』と言う村の代表者の方でした。『リヴァーレ』は、この村とパリのほぼ中間に位置する地域にある、私達の村よりも遥かに栄えている村です。農作物も沢山出荷しており、食品加工もパンや干し肉を軸に、とても活発に作られてるようです。
そんな村の村長パウル・オストワルト様から寄せられた手紙の内容は……『あんなパンは邪道だ。正当なパンで勝負しろ。この恥知らずのロクデナシが』と言うものでした。
この方は、祖父の古くからの知人です。何かにつけて、二人は対立してきたと言います。対立と言っても、私が見る限り、憎しみの構図はありません。競争相手と言った方が適切かもしれません。お互いついムキになって悪態をつくので、周りからは誤解されがちですが、険悪な仲ではないと思っています。
ただ、今回は事情が違うようです。『リヴァーレ』にしてみれば、私達のパンが売れる事で、自分たちの村のパンが売れなくなる可能性があるので、それを危惧しているのかもしれません。話によると、試作したパンを移動販売形式で配っている子に対して、苦言を呈しに来る人もいると聞きます。私はまだ遭遇した事はありませんが……
こちらとしても、村の存続が掛かっていると言う状況です。何より、冒険者の方々が真摯に考え出してくれたパンに対しての言いがかりに屈する訳には行きません。祖父も、『リヴァーレ』に直接殴り込もうとせんばかりに憤っていました。
しかし、その怒りは別の事件によって焦燥へと変わりました。
村の子供が一人、行方不明になってしまったのです。目撃者もおらず、何故突然いなくなってしまったのかわからないまま、既に丸一日が経過しました。頭に血が上った祖父は『リヴァーレの連中の仕業だ!』なんて言っていますが、それは違うと思います。
その子――――アルノー・ハマンは、今村の中で流行っている『昆虫レース』のチャンピオンでした。ですが、先日別の子にその座を奪われ、泣いて悔しがっていたそうです。その悔しさから、村を出てしまったのではないかとも言われていますが、私はそうとも思えません。あの子は、そんな弱い子ではないのです。
このように、現在私達の村では依然として問題が山積みです。パンの売り込みもしなければならないし、『リヴァーレ』の人達にもわかってもらわなければなりませんし、何よりアルノーを探してあげなければなりません。
どうか、お力添えを宜しくお願い致します」
ミリィ・レイナ
現在の村のデータ
・人口
男115人、女85人、計200人。世帯数70。
・民族
人間100%
・年齢分布
20歳以下10%、20〜40歳40%、40〜60歳40%、60歳〜10%
・位置
パリから半日ほど歩いた所
・面積
15平方km
・地目別面積
山林75%、原野20%、宅地3%、畑2%
・家畜
ヤギ、ニワトリ、ウサギ、ウシなどの基本的な動物が少数。
・作物
農作物はライ麦を中心に、小麦、西洋ナシ、リンゴ、豆類、キノコ、タマネギ、レタスなどが作られている。量は少なめ。
・産業
豆やチーズ、洋ナシ、リンゴなどを乗せたパンや、蜂蜜をかけたパンを製作、販売中。
試作段階ながら、既に近隣で話題になっている。祭りの日には、形状と中身の組み合わせで
メッセージを表すメッセージパンを販売する予定。
・催事
現在、森林で採集できる昆虫を用いた『昆虫レース』が試験的に行われている。
子供を中心に早くも賑わいを見せている。時節柄に合わせたお祭りも計画中。
・備考
村長の孫娘は美人。
海には面していない。
モンスターは今のところ出現していない。
●リプレイ本文
●少年の行方
「アルノー君ー!」
森林捜索隊の声が、青空の元に響き渡る。ラテリカ・ラートベル(ea1641)、ミカエル・テルセーロ(ea1674)、ジャン・シュヴァリエ(eb8302)、リーマ・アベツ(ec4801)の4人、そしてペットのポプリとレーチェは、村に着いたその足で、それぞれの特性を生かし捜索を行っていた。だが、今の所手掛かりらしき物は発見されていない。
「修道院の方たちも、見ていないそうです」
ここへ向かう途中にリヴァーレと修道院に寄っていたシャクリローゼ・ライラ(ea2762)も合流したものの、探索は暗礁に乗り上げていた。
そして、日が傾きかけた時刻。
「皆様、あれを」
空中のシャクリローゼが、ある物を発見し、その場へ赴く。全員がそれを追った。
そこには――――
「遺跡!?」
大樹に侵食された石造りの建築物。大きさはさほどでもなく、祠のような様相を呈している。
「まさか、アルノー君はここ入ったですか?」
ラテリカがそう呟く中、ミカエルが率先して扉に手をかける。
「ダメです。開きません」
「と言う事は、アルノー君も入れない・・・・どうします?」
「ラテリカは、アルノー君の捜索を優先すべきと思うです」
「ですね。入り口が閉ざされている以上、森林を探した方が建設的です」
どこかで膝を抱えて震えているかもしれない少年の救出。それだけが、現在の彼らの行動理念だった。
一方、昼下がりのリヴァーレ。
「・・・・となると、子供が辿り着けそうな範囲は、既にこの村も含まれている事になるな」
その酒場では、レティシア・シャンテヒルト(ea6215)とエイジ・シドリ(eb1875)が、今後の行動方針を話し合っていた。
「ええ。先にシャクリローゼの知り合いが調査してるって話だから、エイジはここで彼女と合流。いい?」
「了解だ。それが終わり次第、探索と村の観察もしておこう」
レティシアが先に酒場を出る。それから数分と経たない内に、隅の方から二人組のくだを巻く声が聞こえて来た。昼間には余り見かけない光景だ。
「よう、荒れているな」
もし彼らがパン職人で、不満を口にしているのなら――――そう思ったエイジは接触を試みた。もし当たりなら、同調して情報を引き出す事も可能だ。実際、思惑通りに事が運び、幾つかの情報を得る事に成功した。
その傍ら――――
「・・・・?」
全身を黒いローブで覆った何者かが、微かに口元を吊り上げたまま席を立ち、酒場を後にした。
アルノー・ハマン。彼がカール・ハマンの弟である事、そして失踪前後にカール作成の蜂蜜パンが数個消えていた事を知った冒険者達は、2つの可能性を検証した。
一つは、蜂蜜を使って昆虫をおびき寄せる事。そしてもう一つ――――
「村長に取り次いで欲しいのだけど。これ紹介状ね」
その可能性を考慮した結果、レティシアは村長の家の前を訪れ、門の前にいた村役場の人間と掛け合っていた。
そして、対面許可が下りたその時。
「こ、こらっ!」
レティシアの足元をすり抜けるように、村長の家に入っていく小さな人影が一つ。それを感じた刹那、レティシアの顔に安堵の色が浮かんだ。
「おにいちゃんをいじめるなっ! おにいちゃんのパンはおいしいんだっ!」
持っているいるパンを懸命に掲げながら泣き喚く少年の顔は、皆で作成した似顔絵とほぼ一致していた。
「村長。お話があります」
困惑する村長に話しかけ、場の収集を図る。ついでに村同士のトップ会談の流れに持って行こうと、頭の中をフル回転させて言葉を捜した。
しかし、それより先に言うべき言葉が一つ。
「良く頑張った。でも、黙って家を出てはダメ。ちゃんと叱られて来なさい」
アルノーの頭をそっと撫で、そう呟いた。
「アルノー!」
村に戻ったアルノーに、カールが駆け寄る。彼を探していた村人、そして冒険者達は、一様に笑顔でそれを迎えていた。
「本当に良かった。皆様、このご恩は・・・・」
満面の笑みで何度も頷いていた村長のヨーゼフだったが――――レティシアの隣に立っていた老人を見るや否や、途端にその顔は激昂へと変貌した。
「久しいな。ヨーゼフ」
「パウル! 貴様何しに!」
そのまま掴みかかる勢いで駆け寄り、睨む。
「そうか・・・・やはり貴様らの仕業だったか。私の村が再建する事がそこまで妬ましいかっ!」
「何の事だ? 儂にわかるように言って貰いたいものだな」
「おのれ! 今日と言う今日は決着を・・・・」
一方的な非難と、あからさまな挑発。反発は重なると、相応の衝撃を生む。
しかし、それを阻止すべく、ミカエルが穏やかに微笑みながら一歩前に出た。
「子供の前ですし、ここは穏便に」
その表情と言葉に、激昂したヨーゼフの顔色が徐々に落ち着きを取り戻していく。鮮やかな仲介だった。
「人は思ってる以上に敏感です。揉め事のある村には、来るのを避けるものですよ」
「むう、確かにそれは避けたい」
そして、それにジャンが続く。
「どうですか? ここは一つ、健全なやり方で決着をつけると言うのは」
●正しき構図は
翌日、早朝。
リヴァーレの若者数十名が、ぞろぞろと村へと入って来る。
彼らの目的は一つ。村対抗『炎の3本勝負』と銘打たれた本日の催しに参加する為だ。
勝負は、移動売店でそれぞれの村のパンの売り上げを競う『パン売り競争』、子供限定『昆虫レース』、くじ引きで決まったカップルでパンを作る『カップルコンクール』の3つで行われる。
「公平をきたす為、私はリヴァーレ側の売り子を行います。慣れていないようですし」
リーマがまるごとウサギさんに身を包み、リヴァーレの荷馬車の前に立つ。それに対峙するのは、同じくまるごとウサギを着たラテリカだ。
ほんわかした空気のまま勝負開始。
「えとえと、おつり・・・・わわっ」
慣れない移動販売を懸命にこなすラテリカ達と、休憩中にお茶を振る舞っているリーマ達を、エイジは思案顔で眺めていた。
「どうしたの?」
「妙だと思わないか? 連中、確か『正統なパンで勝負しろ』と言う旨の手紙を寄越した筈だが」
その指摘に、レティシャとジャンが同時に視線をリヴァーレ側のパンに移す。そこには、ラテリカ側同様、風変わりなパンが並んでいた。
「村で売っているパンも、変わり種の物が多かった」
実際、酒場で会ったパン職人の話も、落ち合ったジェイミー・アリエスタの報告も、その通りの物だった。
「自分達の事を棚に上げた言いがかりではないとしたら・・・・」
「何かありますね」
そんな呟きが漏れる中、パン売り競争が終了。結果は――――より斬新なパンを売ったラテリカ達に軍配が上がった。互いに健闘を称え合うウサギ達に、リヴァーレ側の売り子の一人が近付く。クレーム・・・・そう思い身構えたリーマに――――ウサギの人形が差し出された。お茶のお礼、と言う事らしい。
「とても、言いがかりを付ける人達とは思えないですね」
その呟きに、ラテリカがコクリと頷いた。
2戦目――――昆虫レース。
「よし、頑張れアルノー! やったー!」
アルノーは、元チャンピオンの意地を見せ、兄の応援もあり完勝。しかし他の子供が敗れ、トータルでは敗北となった。
そして、3戦目。
「さあ、勝負の行方はこのカプコンに委ねられました。実況は私レティシア・シャンテヒルトでお送りします」
ラテリカの奏でる竪琴の音色をBGMに、くじ引きが行われる。結果――――
「頑張りましょう、ライラさん」
「はい!」
ジャン×シャクリローゼ組。
「あの・・・・何かすいません」
「悪いのはクジ運だ。止むを得まい」
ミカエル×セイジ組。
そしてミリィ×アルノー組の3組が、リヴァーレの3組と競う事となった。
「なお、この種目のみ、優勝商品として『愛の3点セット』が送られます。では、始め」
真剣勝負の最中――――今ひとつ集中していない者が一人。
「あっと、アルノー君、何やら向こうのペアの少女が気になる様子。これは初恋?」
しかし。
「ふん」
アルノーの視線に気づいた少女は、少し大げさにそっぽを向いた。
「甘酸っぱいですね。パリに知れ渡るカップルのラテリカさんから見れば彼らはまだまだ素人さんでしょうか」
「え、ええー?」
誓いの指輪をした指が音色を若干狂わせた所で、生地の作成が終了。
そして、焼きあがったパンの出来は――――
「これは・・・・なんと美しい!」
審査員がそう唸ったのは、一つの生地の上に繊細にこねられた小さな生地を幾重にも重ねたパンだった。
「優勝は、ジャン・シュヴァリエ&シャクリローゼ・ライラのペア!」
村人の喝采を浴びる中、2人は照れくさそうに微笑み、それに応えた。
夕刻。
「今回は負けだ。が、次はこうは行かん」
「ふん。せいぜい腕を磨くんだな」
負けたとは言え、日常では味わえない興奮と刺激に満足した様子のリヴァーレの村人達が、ぞろぞろと帰っていく。
その波から、一人の少女が抜け出し、少年の前に向かった。
「・・・・ばいばい」
素っ気なくもそう言い残し、パタパタと戻っていく。アルノーはその様子を呆然と眺めていた。
今回訪れたリヴァーレの村人の中に、クレーマーはいなかった。話を聞いてみても、そのような行為を行う村人に心当たりはないと言う。
冒険者一行が疑念を抱える中、ミリィが朗らかな笑顔で土産物を抱えて来た。
「本当にありがとうございました。試作品ですが、これをお持ち帰りください」
「ありがとうございます。けれど、わたくしたちはもう暫く調査を行いますので」
「調査?」
「色々と気になる事があるんです。僕とライラさんは修道院に向かいます」
帽子で耳を隠し、ジャンが唱える。調査するのは、あの遺跡やこの村にまつわる記録や伝説だ。
「では、僕は森の地質を調べましょう。皆さん、手伝って頂けますか?」
ミカエルの言葉に、残りの全員が頷いた。
こうして――――冒険者一行は、村の発展の為にそれぞれ残りの期間を過ごした。
確かな手応えと、幾つかの謎を残して。