不測の事態 〜れっつ村おこし〜

■ショートシナリオ


担当:UMA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月14日〜08月21日

リプレイ公開日:2009年08月21日

●オープニング

 恋花祭も無事終わり、恋花の郷には再び平穏な日々が戻って来た。
 とは言え、村おこしはまだまだ継続中。平穏ではあるものの、村人達は忙しない日常を送っている。
 先日、無事開校した学校では、常勤教師のマリー・ナッケが毎日子供達に様々な事を教えており、飲食店では昼食用に出される安価で盛り沢山のランチメニューが人気を博している。
 宿屋や酒場には、少しずつだが人間以外の種族も訪れるようになり、村人達は村の発展を実感しつつ、心からの持てなしを行っていた。
 その代償として、観光客がゴミの投げ捨てを行うなど、やや衛生状態に問題が発生しているが、それはどんな発展途上の集落でも起こる事態。
 村が順調に発展を見せている証拠でもあった。
 そんな、とある日の朝。
「ピクニックに?」
 冒険者の家の1つで、馬車屋を営んでいる『アリス亭』の受付を行っているミリィを、教師マリーが尋ねていた。
「はい。学校で文字を教える事も大事ですが、やはり子供達にはお日様の下で沢山学んで欲しい事がありますので」
 マリーはかつて、モンスターパークと言う変わった観光名所で働いていた経歴がある。
 そこでは、大人しいモンスター達を安全な場所から見学する事が出来、多くの子供達が喜んで訪れていた。
 モンスターは流石にマズイが、動物や植物などと触れ合う事は、生きて行く上で大きな財産となる。
 その為、『アリス亭』の馬車を借り、少し遠出する事を考えたのだ。
 そして、肝心の行き先については――――森、と言う事だけは決定していると言う。
「実は、冒険者の家の記録館に送られて来た本を、教材として使わせて貰ったんですが‥‥」
 現在、学校には沢山の本が寄贈されている。
 だが、難しい本が多いので、現時点では子供達が読む事は出来ない。
 そこで、この村とも関わりの深い冒険者が記したと言う冒険記を借り、それを使わせて貰ったのだ。
 その中には森の精霊が登場しており、子供達の興味はそこに向けられた――――と言うわけだ。
「良いですね。森林浴も出来ますし、皆でパンを焼いて持って行っても良いですね」
 ミリィの言葉に、マリーは両手を合わせ同意の笑顔を浮かべる。 
「ただ、まだ行き先が特定できなくて。馬車とは言え、余り遠くには行けませんし‥‥」
 2人して首を捻っていると――――『アリス亭』のお土産品を覗いていた少女が、ついーっと近付いてくる。
「それでしたら、ラフェクレールの森がお勧めですよ」
 その少女が言うには、パリの郊外にピクニックには打って付けの森があるという。
 ただ、若干モンスターが生息しているので、注意は必要との事だ。
「それじゃ、冒険者の皆さんに来て貰いましょう」
 マリーの提案に、ミリィも首肯する。
「良いピクニックになると良いですねっ! ところで、この羊乳、発育に効果はありますかっ!? 主に胸囲の辺りにっ!」
 そんな少女の真剣な問いかけに、ミリィは首を捻りつつ苦笑していた。

 
 一方――――恋花の郷、牧場予定地。
 放牧場となるそこには、牧草の緑が一面に広がっており、柵に囲まれた中には仔馬や山羊がポツポツ点在している。
 仔馬は大分成長してきており、そろそろ馬車を引いてみても良いのでは、と言う大きさになってきた。
 出来れば羊も飼いたいところだが、現状ではまだいない。
 既に施設も完成し、後はもう少し動物が増えれば、いつでも牧場として成立する状態になって来ている。
 だが――――そんな牧場で問題が1つ発生していた。
「おう、どうだった?」
 牧場の管理を引き受けている中年の男が問い掛けると、小屋の中から困った顔の女の子が出てくる。
 この牧場で働く、リズ・フレイユと言う15歳の人間の女性だ。
 尚、酒場のマスター、ミルトンの娘でもある。
 こんがりと焼けた肌が健康的で、髪も短く、ボーイッシュな雰囲気そのままに、やや荒々しく首を横に振る。
「ダメだね。全然食べないよ。どうしちゃったんだろ」
 リズが嘆息する理由は、牧場で預かっている馬にあった。
 全ての馬が、ここ数日全く餌を食べなくなってしまったのだ。
 その体調はかなり悪く、動きも緩慢になっている。
「原因がわかれば良いんだがなあ。何しろ、この村には獣医はいないもんなあ」
「リヴァーレの新しい施療院はシフール専門だし‥‥あーもう、どうしよう」
 牧場で働くとは言え、まだ知識も経験も不足しているリズは、頭を掻き毟って苦悩を顕にしていた。



◆現在の村のデータ
 
 ●村力
  848
 (現在の村の総合判定値。隣の村の『リヴァーレ』を1000とする)
 ●村おこし進行状況
 ・牧場の馬が食欲不振。原因を捜索中
 ・学校完成。現在ピクニック計画中
 ・牧場を開拓中(90%)
 ・パン職人学校を建設中(95%)
 ・パン職人の卵が村を訪問中
 ・村の衛生状態が悪化し、ゴミが増加。対策を立案中
 ・宿屋、酒場、飲食店は好調営業中。若干酒場の治安が悪化?
 ・ダンスユニット『フルール・ド・アムール』がスランプ中
 ・村の鼓笛隊が村歌の製作に着手
 ・リヴァーレとの間に1日2度馬車が往復中
 ・冒険者の家を提供中
 ・山林地帯に『魔力を帯びた』遺跡あり。
 
 ●人口
  男196人、女143人、計339人。世帯数129。
 ●位置
  パリから50km南
 ●面積
  15平方km
 ●地目別面積
  山林75%、原野12%、牧場8%、宅地3%、畑2%。海には面していない

●今回の参加者

 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea3000 ジェイラン・マルフィー(26歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 eb5314 パール・エスタナトレーヒ(17歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb8302 ジャン・シュヴァリエ(19歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec4252 エレイン・アンフィニー(25歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ec4988 レリアンナ・エトリゾーレ(21歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

「発展途上の村は活気があっていいじゃん」
 食欲不振の馬をどうにかして欲しい――――
 そんな依頼に応えたジェイラン・マルフィー(ea3000)が恋花の郷に抱いた第一印象は、その一言に尽きた。
 村長の孫娘であるミリィはそんな有志に対し、礼を尽くして歓迎。牧場までの案内を買って出た。
「お世話になります」
「気を使う事ないじゃん。おいらにとっても、商売の販路拡大に繋がるかもしれないし」
「そうなれば良いですね。あ、着きました」
 話を交わしながら歩いた先に見えるのは、背の低い草が一面に広がる牧場。
 柵で囲まれたその場所には、割と立派な小屋が構えられ、その隣には馬小屋も隣接されている。
 間仕切りは柱のみで、屋根と足場も木材によって作られており、一般的な馬小屋と相違ない。
 そして、その小屋の前には既にミカエル・テルセーロ(ea1674)、パール・エスタナトレーヒ(eb5314)、レリアンナ・エトリゾーレ(ec4988)、ラテリカ・ラートベル(ea1641)、陰守森写歩朗(eb7208)、そしてジャン・シュヴァリエ(eb8302)の姿があった。
「こんにちはじゃん。現状を教えて貰えると嬉しいじゃん」
「あ、こんにちは。わかりました、説明しますね」
 ジャンは若干戸惑いつつ、ここまで調べた事についての説明を始めた。
 まず最初にこの牧場を訪れたのは、ミカエル。
 リズをはじめ、関係者一同に日頃の感謝を述べつつ、牧場内に異変がないかを確認する為、歩き回っていた。
 一方、その間に森写歩朗とジャンが訪れ、森写歩朗の所持していた医療・薬草に関する本で同じ症例がないかを確認。
 更に、そこへパールとレリアンナが合流し、ミカエルと共に馬の目、口、頬周り、呼吸、そして排泄物などのチェックを行った。
 そして、ゴミ拾いと調査を兼ねて周囲を歩いていたラテリカが先程戻り、今に至る。
「現状と致しましては、夏バテ説が最有力かと思いますわ」
「私もそう思いまーす。目の下にクマもありますし、寝不足みたいですねー」
 レリアンナとパールの報告に、ジェイランは頷きつつ、馬の様子を確認する。
「担当者の人に質問じゃん。症状は何時ごろから?」
「多分、半月くらい前かな?」
「後、普段与えてる餌も教えて欲しいじゃん」
「了解。こっち来て」
 リズに案内され、ジェイランは隣接する小屋の方に向かった。
 その後ろでは、ミカエルが念入りに馬を観察している。パールもシフールならではの視点で、耳や腹まで細部に渡りチェックしていた。
「取り敢えず、流行病のような兆候はないですねー」
「頬の周りは正常みたいですね。レリアンナさん、便はゆるくなかったですか?」
「その傾向は見受けられましたわ。若干、ですが」
 パール、ミカエル、レリアンナの見立てによれば、深刻な病状ではない。それは幸いだった。
「後は本人‥‥馬自身に尋ねてみましょうか」
「あ、僕も通訳できますよ」
「ラテリカもテレパシーでお尋ねしてみますね」
 と言う訳で、森写歩朗とジャン、ラテリカの3人が、それぞれの馬に症状を問診する事にした。
 ジャンは自身の店の馬、森写歩朗は定期馬車の馬を担当。
 一方ラテリカは仔馬達に話しかけてみる。
『ぽんぽんは痛いですか?』
『あのねー、いたくない』
『ご飯、美味しくないですか?』
『あのねー、ふつう。でもねー、なんかたべたくない』
 馬自身、自分が病気である事は余り認識していない様子だ。
 牧場の周辺におかしな部分は見当たらない。
 村全体の問題となっているゴミを誤って食べた可能性もあったが、腹痛がないのであれば、除外して良いだろう。
「餌は特に問題ないじゃん」
 そこに、ジェイランが帰還。
 以上の診察を踏まえた結果――――
「どうやら、夏バテのようですね」
 ミカエルが代表し、その結論を牧場の関係者に告げた。
「はぁ‥‥そんな事も気付けないなんてなあ。我ながら情けない」
 リズの落胆に、ミカエルは柔らかく微笑む。
「リズ、馬は繊細な生き物なんです」
「繊細?」
「そう。夏バテの原因は暑さ。それは、皆で知恵を出せば直ぐ解決する。でも、お世話してくれる君が元気がないと、心配でまた元気がなくなるかもしれないよ?」
 ミカエルの言葉に、リズは何かを悟ったように顔を上げる。
「そっか。人間と同じなんだ」
「うん。色々学ぶ事はあるし、僕もそうだけど‥‥まずはマッサージでもしてみよっか。人間も、疲れたらそうして貰うと嬉しいよね?」
 ミカエルの提案に、リズは深く頷いた。


 その後――――まずは、念の為に異物誤飲の線をしっかり確認すべく、ゴミ拾いがてらの調査が実施された。
 例えば、ナイフの欠片のように、太陽光を反射させる物があれば、それだけで馬は取り乱してしまう。
 レリアンナを中心に、冒険者達や警備隊が牧場周辺を念入りに清掃した。
 そして、その翌日。
「しっふしふ〜。今日もお世話ありがとうございまーす。ちょっと集まってくださーい」
 早朝に牧場を訪れたパールが、ペットの馬であるイザヤの前に牧場関係者を呼ぶ。
 その積荷には、実に数十kgの岩塩が搭載されていた。
「これから、全部の馬を川に連れて行って、全身洗います。その間、移動しながら体調を調整する為の餌作りを説明しますねー」
 パールの説明を受け、牧場関係者数名は早速馬をロープで繋ぎ、村の外れにある大きめの川に連れて行くことにした。
 そして、川でしっかり水洗いした後、馬を小屋に戻して、餌作りに取り掛かった。
 まず、食用や薬用に取ってあったタンポポと、パン工房から大麦を分けて貰い、それを岩塩と混ぜる。
 大麦は馬の餌としては良く使用されるもので、そこに塩分を混ぜる事で、発汗によって失われた塩分の回復を行う事ができる。
 タンポポも肝機能の回復を促す作用があり、薬草と同等の効果がある。ただ、食欲のない時に単体で食べさせるのは難しい。
「では、甘味を加えてみましょう」
 森写歩朗は自身も馬を飼っている経験上、馬が甘い物を好む事を知っていた。
 そこで、修道院から蜂蜜を分けて貰い、それを少し付けてみると――――恐る恐るだが、馬が寄って来た。
 甘味には体力回復の採用もあるので、疲労時には摂取したがるようだ。
「後は、暑さ対策ですね」
「そうですねー。馬は寒さはともかく、暑さには余り耐性がないみたいですから」
 と言う訳で、パールから川への水浴びを定期的にさせる事が提案された。
 また、現在食欲を失っている馬に対しては、森写歩朗がスクロールで作った氷を利用し、小屋の熱を逃がして、居心地の良い環境を作る事で体力の回復を促す。
 飲み水にお酒を混ぜたり、餌を柔らかくする等、食欲増進の工夫も幾つか検討しつつ、様子を見る事にした。
 有事の際は、森写歩朗が厚意で進呈したテレパシーリングを使い、馬に直接聞く事が出来るようになったので、ある程度対処もし易くなった。
「岩塩の残りは預けますので、夏の間は定期的に与えてください。蒼草だけだと水分が多くて、お腹に負担が掛かりますから」
「了解した。色々済まないな」
 牧場の管理者がパールに礼を言う傍ら、ミカエルはリズに数枚の羊皮紙を手渡していた。
「これは‥‥?」
「牧場の生き物によく見られる病気と症状、その対策をまとめたもの。皆さんに協力して貰って、昨日の内に書いておいたんだ」
「凄‥‥こんなに病気ってあるのか」
「何か異変があっても、これを見れば対処できるよ。だから、安心して」
 ミカエルはにっこり微笑む。
 その目は、うっすらと充血していた。
 牧場の責任者として、従業員との信頼関係を確固たるものにする為、寝る間も惜しんで書き記したのだ。
「あ、ありがとう‥‥」
 そんなミカエルを、リズは熱の篭った視線でじーっと見つめていた。
「何だ? 夏も終わりだってのに、リズにゃ今頃春が来たか?」
「ばっ! なな何言ってんだよ!」
 牧場関係者にからかわれるリズの初々しい反応に、皆の笑い声がこだました。
 

 馬の体調回復を待つ間、冒険者達はそれぞれの行動に勤しむ。
 レリアンナは、羊の飼育を希望している牧場関係者に、パストラルと言う村との橋渡し役を申し出た。
 お店で羊乳を扱うジャンも、それに同調。羊を飼うなら出資をするくらいの心積もりで、計画への参加を希望した。
 一方――――
「はわ‥‥それは困りましたですね」
 ラテリカは、ダンスユニット『フルール・ド・アムール』と村の鼓笛隊の悩みを同時に聞いていた。
 何でも、F・D・Aの方は、この所ずっとスランプ続きだとか。
 一方、鼓笛隊の方は、来る夏祭りに向けて村歌の作成を行っているが、全く歌詞が出て来ないとの事だ。
 自身の家に助けを求めにやって来たハンナと、鼓笛隊のリーダーであるジョルジュを前に、ラテリカはちょこんと座りつつ、解決策を練った。
 共通しているのは、双方共にある程度の上達を見せていると言う事。
 一定以上の能力が備わると、理想が高くなる。
 それは志としては立派だが、時として型に嵌める悪因にもなる。今がまさにそうだ。
「頭でっかちにならずに、心で感じた事、『好き』な事、そのまま踊りや歌詞にして、気持ちを伝えてみるはどでしょか」 
 そう言う時は、原点に立ち返るのが一番良い。ラテリカは自身の経験を踏まえ、そう助言した。
「どしても楽しくない時は、お休みしても良い思います」
「そっかー。休んでも良いんだ」
「うむ! 我らが顧問がそう仰るのなら、休暇を取るとしよう!」
「‥‥こもん?」
 いつの間にか、そう言う事になっていたらしい。
 こうして、村の音楽・舞踊隊の悩みは無事解決した。


 その3日後――――馬も無事回復。
 改めて、村の学校では、予定していたピクニックに向かう事となった。
 行き先は無論、ラフェクレールの森。
 護衛として、また引率として参加した冒険者は、ジャンとレリアンナの他、ミカエル、ラテリカ、森写歩朗の5名。
 馬車の御者は森写歩朗が勤め、荷台には子供達とジャンが乗って、後の4人が自身のペットに跨りつつ周囲を固める格好で移動した。
「変わった虫、いるかな?」
「そですね。格好良い虫さんも居るですけれど、危ない虫さんも居るですから、気を付けましょうですね」
「はーい!」
 移動中は、アルノーとラテリカの会話をきっかけに、森に関する質問が集中。
 ジャンとラテリカが、それに優しく答えていた。
 また、精霊についての話も弾む。
「くろしゅちゃん、わたしね、ティアナって言うの」
「いうの〜?」
「喉乾いたな」
「では、ハリー様にお水を」
 妖精クロシュや精霊カミュとも接しつつ――――滞りなく目的地に到着。
 村の緑とはまた違った、独特の植物が数多く茂るその森に、子供達は一目散に馬車を降りて行った。
「こら! 勝手に奥に行っちゃダメだぞっ!」
 ジャンが教師口調で諌めるも、子供達は構わずはしゃぎ回っている。ルイーゼですら、表情こそ変えないが、珍しく躍動的だ。
「レイモンド、皆をお願いしますわ」
「わうっ!」
 その子供達の後を、レイモンドが追う。
 念の為、ミカエルとレリアンナ本人もそれに続いた。
 その様子に苦笑しつつ、ジャン、ラテリカ、森写歩朗の3人は森の開けた場所に布を敷き、食事の準備を始める。
 ジャンは、グウィドの壷から冷やしたハーブ茶を人数分用意。
 弁当は森写歩朗が用意しており、普段余り村では出されないメニューがズラリと野原に並んだ。
 そして、その弁当には、今回村で起こった問題の対策の一環として、なるべくゴミが出ないような工夫がされてある。
 串には棒状の野菜などを使用しているのだ。
 これは、ラテリカの発案だった。
「お店でお出しする時は、容器持参の方にお安くするも良い思うですよ」
「良いですね。飲食店のオーナーに話しておきましょう。後は地道にゴミ拾いでしょうか」
「あ、それについては僕にも一案あって‥‥」
 森写歩朗が頷く傍らで、ジャンも呼応する。 
 その案とは――――宝の山キャンペーン。
 一定以上ゴミを拾い、それを提出すると、素敵な小品と交換出来るという企画だ。
 小品は各店が出し合えば良いし、もしかしたらゴミの中に使える品、売れる品もあるかもしれない。
「ゴミが宝になれば良いんじゃないか、って思ってね」
「成程。それなら、私も協力しますよ」
「心強いです♪」
 店を持つ者同士、森写歩朗とジャンは協力体制を築いた。
 山積する問題は、冒険者の知恵と行動力により、徐々に消化されていく。
 だが――――新たな問題は遠慮なく訪れた。
「大変だーっ!」
 アルノーのその声に、森写歩朗がまず反応する。
 次いで、ジャン、ラテリカも表情を変えた。
 転びそうになりながら駆け寄ってくるアルノーだったが、幸い負傷した様子は見られない。
 その表情にも、危機感や焦燥感はなかった。
「何があったの?」
 ジャンはハーブ茶を差し出し、アルノーに問う。
 喉を潤した後、アルノーはその目を大きく見開いて、興奮気味に話した。
「あのね――――」


「‥‥祠が?」
 その日の夕方。
 子供達を家に送り届けた冒険者達と教師マリーは、村長宅を訪れ、事の顛末を説明していた。
 ラフェクレールの森でアルノー達が見つけた物。
 それは、月を表す紋様が彫られた祠だった。
 道から外れた、木々に囲まれた場所にあった為、もしここに観光や調査に訪れた者がいたとしても、見つける事は困難だっただろう。
「はい。実はその祠に、この村の『あの遺跡』と良く似た記号が」
「‥‥」
 ジャンの報告に対し、村長ヨーゼフは思案顔を作る。
 子供達もいた事から、今回は殆ど調査らしい調査は出来なかった。
 今の所、詳細は不明だ。
「わかった。取り敢えず、村の者にはその森に近付かないように言っておこう」
「ですね。万が一、という事もありますから」
「念の為、修道院にある聖水で身を清めておくと良い。ところで‥‥その花も何かの発見物かね?」
 ヨーゼフの問いに、ジャンは手にしていたカモミールの花を胸の高さに持ち上げ、苦笑する。
「これは森で個人的に摘んだだけです。綺麗な花だから‥‥」
 あの人に似合うかと思って――――その言葉は、ジャンの胸の中にだけ、切なげに紡がれた。


 同時刻。
「あ、オーナー」
「いつもすいません。様子を見に来ました」
 自身の代理販売店を、森写歩朗は笑顔で訪れていた。
 特に売り上げに対しての執着はないが、店を構えた以上は顔を出すくらいはしておきたい。
 その程度の認識だったのだが――――
「実は先日、変わった物を預かってしまって。拾い物なので、適当に売ってくれと」
「変わった物?」
 店員は頷き、その預かった品を持って来た。
 それは、小さな緋色の石が埋め込まれた、銀色の指輪だった。
 それだけなら特に珍しくもないのだが、その指輪には何らかの文字列が刻み込まれている。
「これは‥‥」
 森写歩朗はその指輪を訝しげに受け取り、じっと眺めた――――