れっつ村おこし×まるごとオールスターズ
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■イベントシナリオ
担当:UMA
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:34人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月29日〜08月29日
リプレイ公開日:2009年09月06日
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●オープニング
始まりがあれば、終わりがある。
どのような楽しい時間も、いつかは過ぎてしまうもの。
美しい花もいつかは散り。
純白の雪もいつかは溶け。
栄華を極めた王朝も、いつかは滅びるように。
今年の夏もまた、終わりを迎えようとしている――――
「まるごとオールスターズ?」
鮮やかな緑が囲む、自然の中で脈々と栄えている村、恋花の郷。
その名にふさわしい色とりどりの花がその入り口の周りを飾っており、華やかな様相で数多くの観光客を迎えている。
そして、恋花の郷では、この夏の終わりに大きなイベントを控えていた。
仮装をして村中を巡り、最後に広場でパーティーを行う『仮装行列大会』だ。
公共の風紀を乱さない範囲なら、どんな仮装でも自由。
パレードさながらに村を練り歩くと言うものだ。
日頃の自分と一時の間さよならして、普段抑制している心の一部を解放すると言う、夏ならではのイベントだ。
その他にも、夏祭りと言う事で、水のウィザードを呼んで『水かけ祭り』を行う予定だ。
出店も沢山広場に集い、村全体を飾り付け、様々な出し物も予定している。
そんな一大イベントを控えた恋花の郷に、『ルッテ』と言う街から使者が訪れたのは、とある真夏日の事だった。
「はい。私達の街では、そう言う催しを定期的にしていまして‥‥あ、これパンフレットです」
ルッテ街の使者、リディア・ブラウニーから数枚の羊皮紙を受け取ったミリィ・レイナは、そこに記載されている『まるごとオールスターズ武闘大会』と言うイベントの内容に暫し目を通した。
何でも、この世界の様々な生き物を模した着ぐるみ『まるごとシリーズ』を着て、真面目に闘うと言う大会らしい。
既に5回も開催され、大盛況を博しているとか。
「業務拡大と宣伝を兼ね、最近成長著しいと噂のこの村で、何か興行が出来ればと思いまして」
「はあ‥‥」
今一つピンと来ていないミリィに対し、リディアは不敵な笑みを浮かべる。
「論より証拠。と言う訳で、我が街を代表するまるごと聖闘士のお2人に来て頂きました。その闘いを御覧になって下さい!」
そして、舞台は村長宅の前に移る。
そこで風を受けつつ対峙しているのは、最高戦績2回戦止まりのはくちょうさんと、最高戦績44秒1回戦敗退のゆみひくりすさんだった。
「あの‥‥」
「せ、戦績は問題じゃないんです。そんな彼らですら、これくらい闘えると言う事を見て貰えれば!」
などとリディアが弁明する最中、闘いは始まる。
確かに、殺伐とした戦闘とは無縁の、ほのぼのとした争いが繰り広げられており、それはそれで興味深いものだったが――――
「私達の村では、こう言う催しはちょっと‥‥」
「そうですか‥‥残念」
矢の切れたりすさんと、暑さでクラクラ状態のはくちょうさんが掴み合って迫力なき殴り合いを見せる中、リディアは嘆息を禁じえなかった。
「えっと、その代わりと言っては何ですが‥‥仮装行列なら」
「仮装行列?」
ミリィは、今後予定しているイベントについて、簡単な説明を行った。
「なるほど! それなら、まるごとの皆さんでパレードでも行けますね!」
「子供達も喜びますし」
「了解です。実行委員会は私が責任を持って説得しますね」
と言う訳で、恋花の郷とルッテのコラボレーション企画『まるごと仮装パレード』が開催される事となった。
「それじゃ、早速詳細について‥‥」
「みうー」
その企画について話し合う2人の足元から、奇妙な鳴き声がする。
そこには――――翼の生えた猫がいた。
「‥‥きゃーっ! かわいーーーっ! これも仮装ですか?」
「あ、えっと、はい。この子は猫キューピッドと言う企画で‥‥」
実はこの翼猫。シムルと言う、翼を生やした猫だった。
だが、その素性を知られる事は色々とマズイと言う事で、そのカムフラージュとして、恋愛の神を模して仮装した猫と言う事にしている。
「それじゃ、その企画も加えちゃいましょう!」
「え?」
「みう?」
と言う訳で――――パレードの参加者にペットも可能、と言う事になった。
始まりがあれば、終わりがある。
どのような楽しい時間も、いつかは過ぎてしまうもの。
だからこそ、その楽しい時間をいつまでも大切な思い出として、記憶の中に留めたい。
そんな想いが、恋花の郷に集結する――――
★イベント情報
・まるごと仮装パレード(12時〜18時)
仮装は自由。ペット参加可。12時〜18時まで列を作り、村を一回りする。
・まるごと演舞(14時〜16時)
まるごとオールスターズ武闘大会参加者による演舞。
出し物、パフォーマンスは自由だが、ガチの戦闘は禁止。寸止めなどはアリ。
・水かけ祭り(9時、12時、15時、18時)
水のウィザードや水関連のスクロールを持っている人が、村に放水を行う
・音楽祭(8〜10時、13〜15時)
広場にステージを設け、演奏と踊りを披露。飛び入り参加可、事前に話し合い可
・紙芝居「猫キューピッド伝説」(10時、14時)
村の外れの修道院前で、恋を成就させるという猫キューピッドの物語が紙芝居化!
★施設情報
・宿屋「シエル・デ・ラ・ヌア」
大勢が泊まれる宿。人間以外も歓迎
・酒場「スィランス」
寡黙なマスターのいる、渋い酒場。つまみも充実
・飲食店「アンタンデュ」
栄養満点、安価の大皿料理、村の名物、なんでもござれ
・パン工房「カールのパン屋」
パン職人カールの作るパンが並ぶ店。シャンゼリゼと提携中
・恋花牧場(予定地)
数頭の馬や山羊などがいる程度。羊も飼育予定
・恋花村校
先日開校したばかりの学校。様々な写本置いてある
・修道院
結婚式会場にもなった、小さい修道院。蜂蜜を置いてある
・中央広場
出店や各種イベントを行う場所。超広い
・記録館
冒険者が書いた依頼物語を展示
・花嫁修業塾
花嫁に必要な技術や知識を教える場。マニュアル本あり
・お土産店
ピンク基調の女の子らしい土産屋。羽の生えた猫の人形が売っている
・代理販売店
依頼人から物品を預かり、それを売るお店。色々な商品がある
・馬車屋兼軽食店「アリス亭」
馬車のレンタルやお土産、軽食を営むお店。羊乳も売っている
・各種出店
色んな食べ物を売っている
●リプレイ本文
【8:00】
百花繚乱 華やぐこの村
恋の花咲き 猫も唄う
おかえり ここは皆の村 恋花の郷
緑萌えたち 彩るこの村
風の音響き 馬も駆ける
おかえり ここは皆の村 恋花の郷
音楽祭のオープニングを飾る、村歌『おかえりの郷』の合唱が終わり、まだ早朝にも関わらず訪れた観客から盛大な拍手が沸き起こる。
その中には、浴衣姿のガブリエル・プリメーラもいた。
拍手するガブリエルと目を合わせたラテリカ・ラートベルは、鼓笛隊の先頭でペコリとお辞儀。その顔からは、微かな緊張と不安、そして誇らしさが見て取れる。
「今御贈りした村歌、ここにいる鼓笛隊の皆さんがいっしょけんめい考えて、悩んで、作った歌です。沢山の想い、込めて」
少し不安げに、でも自信も漲らせ、ラテリカは問う。
「‥‥届いたでしょか?」
その答えは、歓声となって返って来た。
「ありがとございますです!」
音楽は深い。
旋律や歌唱力だけで人を酔わせる歌もあれば、強弱、技巧で唸らす曲もある。
そう言った音楽を数多聴いて来たガブリエルだが――――
「ん、良い音」
決して音楽的に優れた所がある訳ではないその村歌の旋律を、楽しげに口元で復唱していた。
そんな中、鼓笛隊のリーダーであるジョルジュがラテリカへと近付く。
「実は渡す物があるのだ。皆で作った、ささやかなお礼だ」
「はわ‥‥?」
神聖暦1004年。
8月28日。
ノルマンの地にひっそりと在る村『恋花の郷』の特別な一日は、こうして始まった。
【9:02】
時に希望の象徴とされ、時に神秘の存在とされる、虹。
その色鮮やかな現象が見られるのは、雨上がりの一瞬だけと言うのが通説だが――――この日、恋花の郷ではその虹が頻繁に見られる事になる。
夏の風物詩、水かけ祭だ。
3時間毎に計4回行われる予定で、今がその1回目だ。
鮮やかな虹が生まれる中、水のウィザードや妖精達は、思いのままに水を放出していた。
クールな外見上、こう言った催しとは縁のなさそうなユクセル・デニズもその演者の1人。
「偶には良いものだな、こう言う余興も」
ウォーターコントロールのスクロールを用い、魚や羽の生えた猫の形を作って、見学者を驚かせている。
ユリゼ・ファルアートも同じく動物を作り、まるで虹を動物たちが歩いているように魅せていた。
「わー! いいにおいー!」
更に、ユリゼはハーブで香りをつけた水を螺旋状に放出し、観客を魅了する。
そして、リディエール・アンティロープも、ルカ、メロウと言った水妖や水妖精と共に、鮮やかな放水を行っていた。
その姿に、村の女性(と一部の男性)から歓声が上がる。
「花水木さん、柳絮さん、負けないように頑張るデス」
その傍らで、ラムセス・ミンスの指示を受けた2体の妖精も、趣向を凝らした水を作っていた。
まず、水の妖精の花水木が、桶に張った水を制御して水の玉を作る。
そしてその水球を、風の妖精の柳絮がトルネードで巻き上げ――――ラムセスがサンレーザーでそれを打つ!
霧散する水は雨のような飛沫となり、見学者の体に降り注いだ。
「壮観ですね」
丁度村を訪れたばかりのエルディン・アトワイトも、その水を頭から浴びる。
この後着替える予定なので、特に問題はなかった。
「ユリゼ‥‥こう言う事だったのですね‥‥」
そして、中には既に濡れても大丈夫な衣装を着込んでいた者もいる。サクラ・フリューゲルだ。
ユリゼの放射した水でずぶ濡れとなったサクラだったが、浴衣の下には彼女の指示で水着を着込んであった。
そんな姿を、ユリゼはとても楽しそうに眺めている。
その真上に、燦然と輝く虹。
ずぶ濡れになった者達は皆、すっきりした面持ちで、その希望を眺めていた。
【9:54】
村の広場に水が舞う中、そこから離れた修道院の中では、ライル・フォレスト、アーシャ・イクティノス、ミカエル・テルセーロの3人が割と切迫した時を迎えていた。
「もう直ぐ子供達が来ます。まずいです〜」
アーシャは焦りつつ、目の前の薄板に絵筆を走らせる。
ライルとミカエルが作成にあたったスタンドは既に完成しており、話も作りこんでいるので、後は絵だけ。
予定より話を作り込んだので、必要な絵の枚数が増えてしまったのだ。
「アーシャさん頑張ってー! あと2枚!」
ライルが応援する中、ミカエルは完成済みの絵を手に取り、その後ろに書かれた台詞に目を通す。
『私は全てを捨ててでも、貴方に付いて行きたいの!』
その文を、ミカエルの水面のような眼がじっと眺めていた。
「どうかなされましたか?」
そんなミカエルに、修道院長が近付く。
「いえ‥‥」
「猫キューピッド伝説、ですか。フフ、我々修道士には縁がないお話ですね」
「僕にも縁はありません。残念ですが‥‥」
ミカエルは、ボソリと呟く。
或いは、そう思い込む事で、自分を――――
「できました! 間に合いました〜」
「良かった♪ それじゃ、板を順番にまとめよっか。ミカエルさん、お願い」
そんなミカエルの思考は、ライルに手渡された沢山の板の重さによって、霧散した。
【10:12】
音楽祭の午前の部が終わった後も、村は大勢の観光客を呼び込み、その人ごみで連れと逸れる者も少なくない。
「全く、お姉さまは‥‥」
レリアンナ・エトリゾーレもその1人。少し目を放した隙に、共に来ていたエラテリス・エトリゾーレを見失ってしまった。
実際は、逸れたというより、距離を置かれているのだが――――レリアンナはそれを知りつつ、エラテリスを探している。
1人で祭を回るのに抵抗があったからだ。
「‥‥1人」
その事実を再認識し、若干顔をしかめたレリアンナは、とある場所へと向かうことにした。
「う、う〜ん」
一方、つい逃げてしまったエラテリスだったが、見つかった後の事を考え、一人途方に暮れていた。
お祭りは楽しみたい。でも、怖い思いはしたくない。
と言う事で、エラテリスが下した結論は――――変装だった。
まるごと仮装パレードに参加してしまえば、その必要もないのだが、まだ開始まで間がある。
それまでの間を乗り切る為、エラテリスは所持品の確認を行ったが――――いずれもピンと来ない。
と言う訳で、エラテリスは広場を訪れ、変装用の道具がないか探す事にした。
【10:48】
「おー、エラテリスさん、久しぶりやないの。覚えとらん? 一緒に演劇やったジルベール・ダリエやっちゅーの。忘れんといてな。え? 人違い? 何ゆーとんねん、そんなマスカレード付けとっても直ぐわかるわ。あ、あそこの屋台のベニエ絶品やったで。あっちの焼き栗はイマイチや。ところで、俺の連れ見いひんかったか? どうしても行きたい所あるー、ゆうて、何にも教えんと行ってもうたんよ。寂しーわー。見つけたら教えたってな。ほんじゃー」
【11:25】
徐々に太陽が真上に移動する時刻へ近付く最中。
ジルベールの恋人、ラヴィサフィア・フォルミナムは、花嫁修業塾にいた。
まだプロポーズこそされていないが、淑女たるもの、いつされても大丈夫なよう、あらゆる花嫁としての素養を身に着けておくべきと考え、この場所を訪れたのだ。
加えて、このノルマンはジルベールの故郷でもある。彼の郷土の味を知る、またとない機会だった。
既にエプロンを着用しており、やる気は十分。メモの用意も忘れていない。
「どうぞ、宜しくお願い致します」
深々と頭を垂れるラヴィサフィアに対し、その想いを正面から受け取った――――レリアンナは、困り果てていた。
フラッと見に来たこの修業塾、この日はお休みらしく、現在誰もない。仕方なく帰ろうとした際、ラヴィサフィアが来訪して来たのだ。
当然、ラヴィサフィアはそこにいる唯一の人物を、講師と思う訳で。
「良い花嫁さまになれる素質があるかはわからないんですけれど、一生懸命頑張らせて頂きますわ」
「そ、それは素晴らしい心掛けだと思いますわ」
クレリックゆえ、真摯な心がけの者を無碍に出来ないレリアンナ。
だが、料理はチーズしか作れないし、そもそも花嫁の経験などない。
「‥‥どうしましょうかしら」
どうにもなりそうになかった。
【11:52】
もう少しでまるごと仮装パレードが始まると言う中、冒険者の店『アリス亭』の前には人集りが出来ていた。
本日限定で看板を『有栖亭』としたそのお店は、普段とは全く違う、ジャパン風の飾り付けがなされている。
「うん♪ ミリィもハンナも良く似合ってる」
そのお店のオーナーであるジャン・シュヴァリエは、『着物っ娘』と『くのいち』の格好をした売り子の2人にそれぞれ拍手を送り、満足げに微笑んでいた。
「ちょ、ちょっと恥ずかしいかな‥‥」
「ミリィは良いじゃない、露出少ないし。私ホラ、太股結構出てるのよ?」
「大丈夫、健康的で良い感じ。ハンナはダンスやってるから」
ジャンの言葉に、ハンナも満更ではないようだ。
ジャパンから仕入れた様々な食材をお出しする、戦国茶店『有栖亭』。
いよいよ開店――――
【11:55】
その『有栖亭』と連携し、学校前でも結構大掛かりな屋台が出されていた。
夏と言う事で、ドライフルーツの氷漬けや、冷たい抹茶ミルクなどの甘味がメニューの中心だ。
「よし、間に合った間に合った」
ミルクたっぷりのマカロンをパン工房作っていた桃代龍牙が、大急ぎでやってくる。
「じゃ、後は宜しく」
そして、これから開始される『まるごと仮装パレード』に妖精達を参加させる予定なので、そのまま大慌てでスタート地点の広場に向かって行った。
「ありがとうござ……行ってしまいましたか」
その様子に苦笑しつつ、室川太一郎は完成した食品を屋台の下の箱に詰める。
「じゃあ、俺もそろそろ行くかね」
そして、抹茶ミルクをはじめ、幾つかの料理を作っていた来生十四郎も、作業を終え汗を拭った。
一仕事終えた後の酒が待っているのだ。
「来生さんも、ありがとうございました。本当に助かりました」
「これくらいお安い御用だ。ま、何かあったら呼んでくれ。用心棒の必要はないだろうがな」
周囲を見渡し、十四郎は顎に手をやりつつ破顔する。
悪党や盗賊などの発する特有の臭いは、まるでしなかった。
【12:08】
ユリゼ、リディエール、ユクセルの3人が景気良く水飛沫を中に舞わせる中、いよいよ『まるごと仮装パレード』が始まる。
「わー、すごい! すごーい!」
カールの弟アルノーが興奮しながら、ルイーゼの手を引いて広場へと向かうと――――そこには、沢山の動物達がいた。
ペンギンと共に歩く、ライオンさん。
そのライオンに撫で撫でされている、りすさん。
隣でその様子を楽しげに見つめている、熊――――の上に乗るわんこさん。
逆に、頭にちっちゃなドラゴンを乗せている、いーぐるさん。
いーぐるさんは3羽おり、その隣のいーぐるさんは、水飛沫が舞う方にスーッと飛んで行く。
そしてもう1羽のいーぐるさんは、その姿のままパン工房へと入って行った。
その様子を眺める河童さん。隣には白い翼を付けてくねくね踊る猫の妖精や、空中でくるくる回る妖精もいる。
ずーん、ずーんと歩くすふぃんくすさんは、小さい銀狐さんとメイドさんを従えている。
メリーさんは、ボーダーコリーと共に歩き、子供達に手を振っていた。
「あの‥‥私なんかを誘ってくれて‥‥嬉しい、です」
たいがーさんは、牧場の娘リズの乗ったユニコーンを引きながら、小さく頷く。
いずれも、周囲の子供や観光客に手を振りながら、列を作って村道を歩いていた。
その先頭では、背中に羽根を生やしたラテリカが、先程贈られたフルート「恋花の調べ」を口に添え、行進をイメージさせる音色を奏でている。
「壮観ですね‥‥見ているだけで楽しくなって来ます」
そんな行列を眺めていた勇貴美弥は、朝に十四郎から借りたテレパシーリングを使い、自分も列に加わって良いか、見学していたジャンに訪ねる。
「ええ、勿論! その格好なら、この場所では立派な仮装ですから♪」
『ジャパンの浴衣は異国では珍しいのですね。ありがとうございます』
美弥は美しい姿勢を保ちながら、浴衣姿で列に加わる。
躍動感のある澄んだ音が、青空の下に響き渡る中――――列は徐々に、その厚みを増していった。
【12:54】
圧倒的に加わる割合が多いパレードの列の中にあって、抜け出す者一名。
「び、ビックリしたよ〜」
逃亡犯ことエラテリスだ。
仮装パレードに紛れ込めば大丈夫と思いきや、そのパレードにレリアンナが参加していたのだ。
仕方なく、次の逃亡先を探す。
「う〜ん‥‥こっちが良いかな☆」
エラテリスは列の終わりを確認し、広場の方へ戻った。
【13:21】
午後の部の音楽祭は、驚きの連続となった。
ハチマキを巻いたおおがらすさんが、乱入気味にステージに立ち、竪琴を弾き始めたのだ。
「今日は思いっきり盛り上がろうぜ!」
ステップを踏み、首元の鈴も鳴らしつつ、激しくも優雅に演奏は続く。
そして、その演奏に花を添えるのは、エラテリスのライト&ダンス。
逃亡中の身でありながら、なし崩しの内に参加する事となった。
そんな中、演奏と音調は徐々にクールダウンし、今度は爽やかでメロディアスな曲調へと変貌を遂げる。
「すごいなー、雅水さん」
見学していたライルが思わず感心する中、演奏はクライマックスに突入。
最後は再び弾け、火花のような激しさで竪琴をかき鳴らし――――フィニッシュ。
麗しき薔薇を加えた室川雅水の周りには、バラの花弁が舞っていた。
【14:02】
一方、学校。
前に構えた出店は、なんと開店1時間で完売していた。
材料費がやたら掛かったので、売り上げはトントン。とは言え、太一郎には大きな手応えと満足感が残った。
「皆さん、ありがとうございました。お陰さまで完売です」
太一郎の宣言に、周囲からは自然と拍手が沸き起こっていた。
そして、そんな学校の中では、カメリア・リードが黙々と写本を熟読している。
「はぁ‥‥幸せです〜」
珍しい本に囲まれるのは、学者にとって至福の時だ。
そんなカメリアの足元に、パタパタと何かが当たる感触が。
「‥‥?」
その『何か』を追いかけて学校を出たカメリアと入れ違いで、今度は抹茶ミルクを片手に子供達が校内へ赴く。
ジャンを筆頭に冒険者達が自発的に考え、急遽執り行う事となった催しを見る為だ。
その催しとは――――
「おおかみさんだー!」
ラルフェン・シュスト、ルネ・クライン、リュシエンナ・シュスト、エレイン・アンフィニーの4人による寸劇だった。
子供達が見守る中、その劇は始まる。
2部構成のその劇は、まずおおかみさんにスポットが当たった。
第1部の内容は、意地悪ばかりするおおかみさんが、とある日に怪我をしてしまうが、怖がって誰も近寄れず、孤独の中で生死の境を彷徨うというもの。
だが、その危機を救ったのはパン屋さん。彼の悪行は、寂しさを紛らす為のものと知っていたのだ。
一命を取り留めたおおかみさんは、パン屋さんに話を聞いたうさぎさんとわんこさんの優しさにも触れ、無事改心するのだった。
そして、ここからが怒涛の第2部。
「ルネなんて大嫌い!」
「リュリュのばーか!」
なんと、おおかみさんを改心させたうさぎさんとわんこさんが大喧嘩してしまったのだ!
顔を突き付け合う迫真の演技に、子供達の中には泣き出す者も。
「‥‥ケンカはだめ」
普段クールなルイーゼも、涙目になって訴えていた。
そんな子供達の声に答えるのは、すっかり丸くなったおおかみさん。
「お前達、争いは何も生まない‥‥」
「ラルフェンは黙ってて!」
「兄様には関係ないでしょっ!」
最早演技かどうかも怪しい剣幕に、おおかみさんも頭を抱える。
そこで思い出したのが、あのパン屋。
おおかみさんは、自分に大事な事を教えてくれたあのパンを求め、雨の中をひた走った――――
【14:30】
「みうーっ」
「はわ‥‥可愛い、のです」
カメリアに抱かれたアンジュの鳴き声が響く中、本日2回目の紙芝居は佳境を迎えていた。
猫キューピッドの伝説を物語にしたこの紙芝居、そのお話はアーシャが考えた。
ある男女のカップルが、村同士の仲違いなどの障害を乗り越え、皆から祝福されて結ばれると言う一大巨編だ。
『‥‥娘を宜しく頼む』
ライル演じるヒロインの父が最後に認めるシーンでは、何人かの観客が涙を流していた。
そんな中――――
「あ‥‥」
パタパタと、突然アンジュが羽ばたき始め、カメリアの手を離れて宙を舞う。
それと同時に、紙芝居は最後の場面を迎えていた。
双方の村人から祝福される男女を見守った猫キューピッド達が、天へと帰る場面だ。
「伝説‥‥」
見学に来ていたエルディンが、ポツリと呟く。
アンジュは村中を見渡せる程の高度まで昇った後、そこにずっと居続けていた。
まるで、村を見守っているかのように。
「本当に、あるのかもしれませんね」
エルディンの呟きは、紙芝居への賛美の言葉にかき消され、静かに霧散した。
【14:50】
「こう言う催しは良いね。音楽の良さを再確認できて」
これまではずっとクルト・ベッケンバウアーと共に各施設や出店などを見学していたエレェナ・ヴルーベリだったが、吟遊詩人の性は抑えられず、参加する側へと回った。
また、午前の部ではラテリカを見守っていたガブリエルも、参加を希望。
飛び入りで歌を披露する村人達の後ろで、歌い易い演奏に徹していた。
そして――――佳境を迎えた今、参加者全員が同じステージ上に立っている。
最後を締めくくる、夏のひと時を題材にした歌を奏でる為に。
「本当は個人で披露する予定だったんだけど‥‥」
曲を作ったガブリエルが苦笑する中、演奏は始まった。
来る夏 すぎる夏
同じものは二度と来ず
同じ花も二度は咲かぬ
廻れ 廻れ ひと時を
夏よ 秋よ 冬よ 春よ
愛すべき土地に 巡っておくれ
切なく奏でられるエレェナのリュートの音色が、ガブリエルの歌声を支える。
また、同時にその艶のある声が演奏を引き立て、歌は概念を越える。
魂は共振し、誰もが聞き入っていた。
「‥‥ご清聴、ありがと」
音が止み、ガブリエルをはじめとしたステージ上の演者が頭を下げると同時に、今日一番の歓声と拍手が湧き上がる。
見学に訪れていた冒険者達も、惜しみない拍手を送っていた。
「よっしゃ、打ち上げだ! 飲みたい奴はついて来ーい!」
雅水の狼煙に、ガタイの良い見学者が多数、酒場へと向かう。
今日、酒場の明かりが消える事はなさそうだった。
【15:10】
熱気の冷めない中、まるごと仮装パレードの面々は湯気を立てつつ、宿屋1階の休憩所へと辿り着く。
リディエールが提案したその場所は、ユリゼの協力の下、氷柱が四隅に置かれ、更に上の階も冷やされているので、天国のような空気が漂っている。
「下手な戦場より過酷だったな」
いーぐるを脱いだアイン・アルシュタイトがそう呟きつつ、ドラゴンパピーに氷を与える。
「でも、楽しかったです。久しぶりに和みました」
同じく、いーぐるを着込んでいたリースフィア・エルスリードは、充実しきった顔でまるごとを脱いでいた。
日頃、戦場で常に死と向き合う者達にとって、この催しは清涼剤となったようだ。
そんな中、大きな鐘の音が聞こえて来る。
円巴はそれを聞くと直ぐに立ち上がり、いーぐるさんの格好で広場へと向かった。
「はい、皆さん! これから、まるごとオールスターズの皆さんに、出し物をして貰います!」
リディアの司会で始まった催しは――――『まるごと演舞』。
まるごとAS武闘大会の参加経験者が、演舞を披露すると言うものだ。
巴の他、その後ろからレリアンナ、ラムセス、レオ・シュタイネルの3人も登場し、待ち構えていた子供達に手を振っている。
子供達の手には、マドカさん特製クッキーが握られていた。
「では、お願いしまーす!」
その合図と同時に、メリーさんを着たレリアンナが、杖をクルクル回し、ビシッと前方に突き出す。
「ワウッ!」
同時に、足元で伏せていたコリーのレイモンドが羊を追うように走り回った。
そのレイモンドが、レオの方へと突っ込んで行く!
「おっと!」
レオはそれを宙返りしながら交わし、着地と同時に縄ひょうを放る!
「破っ!」
だが、それを巴は扇子で空中高くへと打ち返す!
そのまま巴は翼を広げ、羽ばたくと同時に衝撃波を放出!
それはラムセスの足元へと直撃し、すふぃんくすさんはずーんと倒れ落ちる。
だが、その瞬間、仰向けになったラムセスは、空へ向けてサンレーザーを放った!
それは、先程打ち返された縄ひょうへ直撃し、空中で小さな爆発を起こした。
美しく散る火の花。
「す、すげー!」
「きゃーっ! かっこいー!」
村の子供達が大喜びする中、演舞は最高の盛り上がりを見せていた。
【16:45】
戦国茶店「有栖亭」の盛況ぶりは、ちょっとした話題となっていた。
「ごめんね、エレイン。並んだ?」
その為、ジャンの顔を見に訪れたエレインは店に入るのに苦労していたが、ジャンの言葉に笑顔で対応する。
「お久しぶりの訪問になってしまいましたけれど‥‥私はやっぱり、この村が大好きですわ」
そして周囲を眺めつつ、呟く。
寸劇が終わった後、エレインは子供達から一斉に飛び付かれていた。
勿論「お帰りなさい」の意思表示。彼女もまた、この村の教師なのだ。
その子供達の対応が嬉しくて、中々目的を行動に移せなかったくらいだ。
「目的‥‥?」
「新しいパンの宣伝ですわ。カールさんに無理を言って、作って頂きました」
ニッコリ顔の柔らかく大きなパン生地に、甘いマロンジャムを入れた『ふわふわなかよしパン』。
寸劇において、うさぎさんとわんこさんを仲直りさせた、平和な一品だ。
ジャンは一つそれを貰い、試食してみる。
「‥‥美味しい」
「あら♪ 嬉しいですわ」
手を合わせて喜ぶエレインの姿に、ジャンは思わず視線を逸らす。
それは、普段の彼からすれば――――珍しい反応だった。
【17:18】
「大盛況ですね。ここまでとは思いませんでした」
オルフェ・ラディアスが目を細めて微笑する中、隣にいる『聖銀の翼』の相棒もまた、同じような表情をしていた。
ここは、アーシャの土産「アンジェリカ」。名前はつい本日決定したばっかりだ。
そこに置かれている『羽の生えた猫の人形』が売れに売れ、更に本日追加した『羽の生えた猫のペンダント』も大好評。
恋のおまじないグッズと言う点と、臨時店員として雇った数名のイケメン効果が大きかったらしい。
「愛と美男子の力は偉大なのです」
「‥‥そうですねぇ」
相棒の声色に、オルフェは若干の冷や汗を頬に滲ませる。
「すいませーん」
そんな中、サクラとユリゼの2人が店を訪れた。
「いらっしゃいませ」
「あら? あなたは‥‥エルディンさんよね?」
オルフェの隣の『女性』は、ユリゼに慎ましく微笑む。
「彼はイトコです。私はエルディーナ。ごく稀に地上へ降り立つ魔法淑女です」
「そ、そう」
取り敢えず、そう言う事で。
「恋のおまじないグッズは如何ですか? 今なら私の祝福付き。アーメン」
「それじゃ――――」
それぞれに希望の品を購入し、ユリゼとサクラは店を後にした。
その入れ替わりで、今度は十四郎と勇貴が訪れる。
カップルと言う訳ではなく、勇貴の夫が十四郎の友人、と言う間柄だ。
「これと、これをあるだけ貰おう」
「ありがとうございます」
十四郎はオルフェから受け取った商品の内、一つのペンダントを手に残し、『S・S』と彫る。
「十四郎様、何をなさって‥‥」
その行動の理由を聞こうとした勇貴は、十四郎の顔を見た瞬間、それを取り止める。
「‥‥これで、ずっと」
それ以上は言葉にせず――――十四郎は表情を崩し、勇貴と共に店を後にした。
そこに、メイドドレス「エンジェル」と猫耳帽子を身に着けた、お祭仕様のアーシャが合流。
「凄いです! 売り切れじゃないですか!」
先程のお買い上げで、多数用意していた人形とペンダントは全て売れていた。
「皆さんのご協力のお陰です。感謝感謝」
「いえいえ。では、私はもう一方の相棒と待ち合わせしているので、これで」
「白銀の双流星、ですか」
エルディーナの言葉に、オルフェは微笑みつつ頷く。
「まさか、2つのコンビが一堂に会するなんて思いませんでした」
「これも天のお導きでしょう。リディエール殿に宜しくお伝え下さい」
頷きつつ、オルフェは喧騒へと紛れていった。
【18:13】
「おねーさん、俺と水かけ祭りでも見に行かへん?」
陽の沈み行く中、突然掛けられたその声に、ラヴィサフィアはくるりと振り向く。
その顔は、満面の笑みだった。
「なんや、バレとったんか」
「ジルベールさまのお声をラヴィが間違える筈ありませんわ」
「嬉しい事ゆうてくれるわー。ほな、行こか? って言うか、昼は何処行ってたん?」
「秘密ですわ♪」
結局、あの場所に講師はいなかったが――――レリアンナからノルマンに関する様々な話を聞けたので、ラヴィサフィアは満足していた。
人間とハーフエルフの恋。
それは決して平坦な道ではない。
だが、いつか誰にでも祝福される時代が来るかもしれない。
ジーザス教[白]が普及するこの地でも、[黒]の信仰者がいるように。
滅びかけていた村が、このような変貌を遂げるように――――
【18:24】
「さあお姉さま。家に戻りますわよ」
「う、うう〜、もうちょっとだけ〜‥‥」
結局レイモンドの働きによって見つかってしまったエラテリスは、レリアンナにずりずり引きずられ、自身達の冒険者の家へと帰って行った。
そんな2人がいなくなった修道院までの道に、今度は男女2人の並び歩く影が伸びる。
「今日は楽しかったですわ」
エレインの言葉に、ジャンは一抹の寂しさを覚え、思わずその手を握る。
「?」
「エレイン、僕は‥‥」
ジャンが何かを言おうとした瞬間、その幻想的な光は終えた。
今日は、ここまで。
「ううん、何でもない。送るよ」
ジャンは首を振り、小さく微笑んだ。
いつか――――そんな想いを掌に伝えて。
【18:40】
「カップルが多いですねぇ」
「ふふ、傍からは私達もそう見えているかもしれませんよ」
浴衣姿のオルフェとリディエールが出店の飲み物を受け取る中、中央広場には多くのカップルが集結していた。
ラテリカの提唱した星空ダンスパーティーに参加する為だ。
そのラテリカは、鼓笛隊と共にフルートで優しい音楽を奏でている。
そして、その音に合わせて踊るのは――――
「‥‥綺麗、だ」
クルトとエレェナ。
普段はクールなエレェナも、そのクルトの言葉には嬉笑を隠さない。
アーシャの店で購入した人形を手渡された時と、同じ表情だった。
募る想いを口にする事は、日常では中々難しいのだが、この場所にはそれを実現する不思議な雰囲気がある。
「――――て、いる」
余りに小さいその声。だが、クルトにははっきり聞えていた。
「残念だな。2人きりなら、愛を誓い合えるのに」
エレェナが赤面してそっぽを向く其方では――――ラルフェンとルネが踊っている。
寸劇を終えた後は、リュシエンナも交えた3人で色んな所を見て回った。
噂の人形を始め、様々な物を買い、食べ、充実した時を過ごした。
ただ、やはり印象に強く残ったのは――――
「とっても可愛い狼さんだったわよ?」
「忘れてくれ」
そんなラルフェンの言葉に、ルネはクスリと微笑みつつ、身体を預ける。
その顔は、とても――――
「幸せそうでいいなあ‥‥」
兄と親友のそんな姿を遠目で見ながら、リュシエンナが呟く。
とは言え、念願だった兄のオオカミ姿が見られたので、自分なりに幸せではあった。
だが――――
「羨ましい?」
そんな声が突然聞えたので、思わず振り向く。
だがそれは、リュシエンナに向けられたものではなかった。
【18:45】
「そう言う訳ではないですけど‥‥レェナがあんなに幸せそうにしてるの、滅多に見れないですから」
「まあ、ね」
サクラの言葉に頷きつつ、ユリゼは荷物から本日購入した物を取り出す。
ユリゼが今日サクラを誘ったのには、理由があった。
「はい、これ」
先程購入した人形。
恋が叶うと言う曰く付の物だ。
「私に?」
「『いつもごめんね』と『ありがとう』を込めて」
少し戸惑いつつ、サクラはそれを受け取る。
「それでは、私も」
今度はサクラが、購入していたペンダントを手渡した。
「これで、2人とも幸せになれますね」
優しい時間。
それは、もう少しだけ続いていく――――
【18:54】
「今日はゴメンな。振り回しちまって」
レオの言葉に、ククノチは首を横に振る。
村の外れの野原で、遠くから聞える祭りの音を背に、2人は寄り添うように座っていた。
2人きりの時間はそう多く取れなかったが、そんな事は問題ではない。
レオの着る浴衣と、ククノチの指に輝く指輪が、既にお互いを約束しているから。
「今日は楽しかったな‥‥童女のように羽目を外してしまった」
「はは。可愛かったな、今日のククノチ」
そう笑いながら話すレオに、ククノチは俯く。
「すまない‥‥凄く嬉しいのだが、私はこう言う時に伝える言葉を知らない」
どうすれば伝わるだろう――――そんなククノチの逡巡は、レオの動作にかき消された。
指輪と指輪のキス。
カチッ、と言うと共に、レオはニッと笑って見せた。
想いは一つ。
心から、ありがとう。
「好きだ。レオ殿」
その声は、確かに、空まで届いた。
――――届きました。
皆さんの想い。
確かに、届きました――――