クッポーと窮極の弓矢をプロデュース!

■ショートシナリオ


担当:UMA

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 32 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月04日〜09月11日

リプレイ公開日:2009年09月11日

●オープニング

『アイドル射撃手inらぶりーうさぎさん・クッポーのドキドキワクワク射撃ショー!!!』

 大歓声の中、その幕を閉じた伝説の企画から2ヶ月以上の時が流れ――――
 アトラトル街には、平穏な日々が戻ってきた。
 あの企画が与えた影響は大きく、観光協会の面々は己の不甲斐なさを恥じ、企画力をつける為、積極的に他の街へ視察に赴くなど、これまでとは違った動きが見られるようになった。
 そして、その主役を担ったクッポーはと言うと。
「‥‥フゥ」
 山に篭り、ほぼ毎日矢を射る練習に明け暮れていた。
 たまに別の町や村へ赴き、アイドル射撃手としての活動もしっかりこなしつつ、この2ヶ月は毎日努力を惜しまずに修練に励んでいる。
 勿論、たかがか2ヶ月で何が変わると言うわけでもない。
 それでも、的を射たり、山の中の動物を射たり、木の実を射たりして、禁欲的な日々を過ごしていた。

 そんなある日の事。
「それでは駄目だ、少年」
 突如何者かに話しかけられ、クッポーは驚きの余り真上に矢を飛ばしてしまう。
 しかし直ぐに不敵なようで愛らしい表情に戻し、毅然とした佇まいで声のした方に振り向いた。
「射撃の途中に茶々を入れるその愚行、万死に値する所だが‥‥その根拠、聞いておこうか」
「ふむ。中々話のわかる子と見受けた。良いだろう、付いてくるが良い」
 いきなりそう促し、背を向けたその人物は――――クッポーよりも一回り小さいドワーフのお爺さんだった。
 頭髪はなく、眉と髭が異様に伸びており、華国の仙人の模範例のような外見の男性だ。
 眉と髭に隠れ、表情は一切読めないが、口調は厳格と言うわけではなく、寧ろ好々爺とした雰囲気がある。
 クッポーは言われるがままにその老翁の背中を追った。
 山のどんどん奥の方へと進んで行く事――――1時間。
「着いたぞ」
 息一つ切らさず、休憩一つ取らず荒道を歩き倒した老翁に対し、クッポーは膝に笑顔を作りつつ、涼しい顔でその到着点にある丸太造りの建物を見つめた。
 築何年かはその外見からはわからない。傷んだ様子はなく、様式美に溢れた造りの建物だ。
「ワシの名はベップ・パブリィ。この家の管理をしておる」
「フン。この家は別荘、と言った所か」
 クッポーの問いに、ベップは首を横に振り、その美しい建物を眺めた。
「ここは、弓矢を作る場所だ」
 弓と言うのは、他の武器同様、職人が時間と手間をかけて作る事が多い。
 矢も、一見大量生産されそうな風合いがあるが、余程の粗製品でない限り、職人がしっかり作っている。
 その為、通常は職人が複数集って弓屋を街中に設けるのだが、中には1人でコツコツ作業したがる者もいる。
「クックック。その変わり者が、この俺に何の用だ」
「言わずともわかろう」
 ベップが不敵に微笑――――んでいるようだが、髭で口元が見えないので外見では判別できない。
「その弓では駄目だ。その矢では駄目だ。少年、おんしにその弓矢はまるで合っていない」
 その言に、クッポーは眉をひそめる。
 とは言え、それは紛れもない事実だった。
 クッポーが使う弓は、その体型と筋力には全く合わないサイズの、巨大なライトロングボウ。
 矢もそのサイズには合っていない安物だ。
「おんしがその弓に執着しているのは、使い込み様でわかる。が、それでは修練の意味がない。弓も泣いておるぞ」
「‥‥」
 クッポーは眉間に皺を作り、その手の弓を見つめる。
 今でも油断すると重さで潰されるその弓は、彼にとって――――初めて自分で買った弓だった。 
 ただ、逆に言えばそれ以上の物でもない。特に形見や宝物と言う訳ではないのだ。
「少年、おんしは飛躍すべきなのだ。おんしだけの新たな弓を手に入れてな」
「それを、貴様が作ると言うのか」
「プルルル」
 ベップは奇妙な笑い声をあげ、のっさのっさと丸太作りの階段を上がり、家の扉を開けた。
「‥‥」
 そこには、無言で主の帰りを迎える青年が待ち構えており、クッポーの姿を確認すると軽く会釈をした。
「弟子のスロリーだ。ワシの手伝いをさせている。喉の病で口が利けないが、気を使う必要はない」
「ククク。ごきげんよう」
 クッポーは不遜のようでラブリーな笑顔を浮かべ、握手を求めた。
「‥‥」
 スロリーはその姿に最初は驚き、次に少し恥ずかしそうに、そして何処か嬉しそうにその手を握った。
「さて。まず最初に聞いておきたい事がある。現在のこの世界における、弓矢の役割だ」
 そのスロリーに茶菓子の養子をさせ、ベップは自分用の椅子に座る。クッポーは床に座した。
「弓矢は元々、動物を狩る為に作られた物だ。兎や鹿などの、獰猛さなど欠片もない温和な動物を逃さないよう、確実に仕留める為の武器だった。食料を確保する為のな」
 運ばれてきたお茶をすすりつつ、続ける。
「それが、今では戦争の道具として使われている。尤も、これは多くの武器に言える事。憂うほどの事ではない」
「何が言いたい?」
 痺れを切らしたクッポーに、ベップは諌めるでもなく、何処か挑発的に髭をさすった。
「今、弓矢は滅びの危機を迎えている」
 その声に――――クッポーは目尻が引きつるのを感じた。
「弓使いは、単独での戦闘は極めて困難だ。支援に回る事を余儀なくされる。だが、支援としての役割も、ウィザードやバードの使う精霊魔法の方が遥かに有用だ」
 例えば、バードの使うムーンアロー。
 指定する事で、確実に敵を打ち抜く事が出来る優れた攻撃魔法だ。
 その前では、弓矢の精度など形無しと言える。
「このままでは、弓矢は取り残される。無論、それを使う者もな」
 ベップのその言葉は、決して大げさではない。
 実際、弓矢と言う武器は確実にその方向に進んでいる。他の武器と比べ、使用者も武器の種類も明らかに少なくなってきているのだ。
 その悲観的な内容に、クッポーは――――いつものように、キュートなようで不敵な笑みを浮かべた。
「そのような事にはならない。その為に、このアイドル射撃手が生誕したのだからな」
「プルルル。言いおるわ。気に入ったぞ少年!」
 ベップは眉が外れて飛んで行きそうな勢いで笑い出した。
「ワシと共に抵抗するか! 時代と逆流し、この狩りの道具を再び戦場へと戻すか!」
「クックック。やぶさかでない、と言っておこうか」
 この日。
 弓使いの聖戦が、その幕を開けた――――

●今回の参加者

 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb8302 ジャン・シュヴァリエ(19歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec4441 エラテリス・エトリゾーレ(24歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ec5382 レオ・シュタイネル(25歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ec5385 桃代 龍牙(36歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

「はう〜、か、かわいい〜〜!」
 窮極の弓矢の作成――――
 その助力を依頼したクッポーの元に集結した冒険者は5名。
 その中の1人、アーシャ・イクティノス(eb6702)は、クッポーを見た瞬間に飛びついて頭をナデナデしまくっていた。
「ククク‥‥この俺の深遠な魅力を解する貴様、中々に見所があるな」
 されるがままのクッポーを尻目に、他の4名は山奥にあるベップの作業場で一息ついている。
 その中にあって、桃代龍牙(ec5385)はベップと熱い議論を交わしていた。
「弓が魔法に劣ると言うのは間違いだ。弓には弓の役割や良さってのがあるんだから」
 一通り話を聞いていた龍牙は、依頼を受けるに辺り、まずこの主張をすべきと考えていた。
 遠距離攻撃用魔法と弓矢。
 便利と言われるのは魔法だが、実際の所はそうとは限らない。
 ムーンアローやファイアーボムと言った、頻繁に使用される攻撃魔法に関しても、失敗すると自らや味方に大きな損害を与える事になる。
 そして何より、魔法には詠唱と言うタイムラグがある。
 それを高速化で補うと、今度は数を打てなくなる。
 つまり、魔法は魔法で欠点はあり、弓矢に全ての点で勝る訳ではない、と言う事だ。
「ふむ。言っとる事は無論理解できる。実際、ワシも全て劣っているとは思っとらんよ。だが――――」
 実際のところ、弓矢の需要は確実に減っている。
 その理由は、利用価値の問題以上に、コストの面が挙げられているらしい。
 矢は一本だと安価でも、それを何百本と使えば、それなりにお金が掛かる。
 また、余程の腕がないと、フルアーマーの戦士を矢で射落とすのは難しい。有効威力の確保と言う点で、制御の難しい魔法以上に敷居が高いのだ。
 そして何より――――弓矢は魔法より地味、という事で、戦争をショーとでも勘違いしているお偉いさんの受けが良くないらしい。
「困ったもんだな」
「うむ。だからこそ、あのような者に弓の魅力を伝えて欲しいのだ」
 ベップの視線に、アーシャやジャン・シュヴァリエ(eb8302)からナデナデされているクッポーの姿が映る。
 つまり、クッポーは弓矢の伝道師としての役割を期待されているらしい。
 アイドル射撃手と言う立場上、最も向いている事なのかもしれない。
「話は大体わかった。それじゃ、色々試作してみるとしようか」
 龍牙は一瞬スロリーをチラッと横目で眺め、ベップと握手を交わした。



 弓と言う非常に繊細なその武器は、初期設計が非常に殊更大きな意味を持つ。
 それが狂えば、一気に駄作となってしまうのだ。
 そして同時に、使い手との相性も非常に重要となってくる。
「よし、じゃ、次行ってみっか」
 と言う訳で、レオ・シュタイネル(ec5382)は、まずクッポーの基礎的な運動能力と射撃手としてのタイプを把握すべく、一日使って様々なテストを試みた。
 その一方で、ジャンが中心となって身体測定も行う。
 紐を使った各部位の測定の他、倉庫にあった巨大な壷に水を張り、そこにクッポーを突っ込んで、その零れた水で体重の測定を行う。
「話には聞いてたけど‥‥クッポーさん、本当可愛いね♪」
「クックック。この俺の一切の無駄のない肉体、とくと測定する事だな‥‥ぶくぶくぶく」
 嬉々としつつ測定するジャンに、クッポーは特に不満なく従い、言われるがまま裸になり、冷水の中に使って溺れていた。
 一方、小屋ではアーシャと龍牙、そしてエラテリス・エトリゾーレ(ec4441)がそれぞれ持ってきた弓をベップとスロリーに見せ、どんな弓矢が作れるかを検討している。
「ああ、確かにあの時の弓だ。懐かしいな」
 エラテリスが持ってきたのは、龍牙やレオもその探索に参加していた魔弓『上弦の月』と『下弦の月』。
 騎射大会の商品としてクッポーが提供し、その大会で優勝したエラテリスが見事手にした、色々と馴染みのある弓だ。
「クッポーさんが扱うには、これでも少し重いかもしれませんね」
 アーシャは、レミエラ等でかなり軽量化されたフェアリーボウを見せる。レオのテストの際にこれをクッポーに使わせたが、結構重心がブレていた。
「そうだよね。クッポーさんに合う弓なら、ち‥‥そ、そんなに大きくなくっても良いんじゃない、かな?」
 エラテリスの発言中、クッポーとレオが小屋に戻ってきた。慌てて表現を変えつつ、エラテリスはニッコリ笑ってクッポーを迎える。
「お、お、おかえりなさい☆ クッポーさんはどんな弓がい、い、良いのかな?」
「この俺が理想を語るならば、今宵だけで終わる事のないサーガとなる所だが‥‥簡潔に言えば、この俺にふさわしい弓と言う事だ」
 非常に抽象的な表現をエンジェルボイスで宣うクッポーに対し、レオは嘆息しつつその頭を軽く小突く。
「取り敢えず、能力的には威力重視より俊敏性重視が良いっぽいな。本当は、影に紛れるスナイパー型が良いと思うんだけど‥‥」
 今日一日費やしたテストの結果――――レオの目には、クッポーの射撃の腕は実はそれほど悪くないのでは、と言うように映った。
 これまでは、体に合わないサイズの弓を使っていた事で、バランスがまるで保てていなかったのだ。
 尤も、その影響で今もフォームは余り良くない。無駄に力が入りまくっている。
 それを無くせば、一応一人前の射撃手になれる‥‥かも、と言う結論に至っていた。
 だが、問題もある。
「本人が目立ちたいんだってさ」
 レオの嘆息に、アーシャとエラテリスは同時に頷く。
「それでこそ、アイドル射撃手だね♪」
「クッポーさんには、華やかな舞台が似合うと思うよ☆」
 と言う訳で、能力上は華やかさとは無縁のタイプを目指すべきなのだが――――アイドル射撃手としての責任感からか、クッポーは茨の道を選んだ。
「立派です。こんな子が、敢えて難しい方の射撃手目指すなんて‥‥しっかりしているのですね〜」
 クッポーを子供と勘違いしているアーシャが感嘆を漏らす中、レオは小さく溜息を吐いていた。


 取り敢えず、方向性は決定。
 それに伴い、冒険者達はそれぞれの意見を交換し合い、クッポーの理想とする弓矢の材料を模索する事となった。
「ふむふむ。ふむ〜」
 アーシャはマッパムンディとノルマン王国博物誌を熟読しつつ、よさげな素材を探している。
 箔が付くような、有名モンスターの素材をと考えていた。
「伝説の一つ二つあるような素材が良いよね。カッコいいから」 
 その本を覗き見しながら、ジャンも同調を口にする。
 ただ、ジャンの場合は箔付けだけでなく、かなり斬新なコンセプトを打ち出していた。
 それは――――愛をもたらし平和を生む弓矢。
 敵を傷付けるのではなく、時に魅了し、時に感動させ、戦意を無くさせるような、そんな弓をクッポーに持って欲しいと考えている。
「歌で世界を救うとか、そんな感じの伝説をクッポーさんには期待してます♪」
 その意見を、クッポーはいたく気に入っており、採用の可能盛大となっていた。
「と、なると‥‥威力はそんなに必要ないな。軽い方が良いか」
 レオはそれに合わせ、小屋に転がっていた幾つかの弓をクッポーに使わせ、適性の重さを探している。
 現状では、短弓の中でも更に軽い物が良さそうだ。
 そうなると、レミエラの世話になる必要が出てくる。
「レミエラだったら、私のを一つあげます」
 と言うアーシャの申し出により、レミエラの装着も視野に入れる事が可能となった。
 また、弓への意見が集中する中、エラテリスが矢についての案を提唱。
「光を発する矢って出来ないかな? 着矢しても、ライトみたいに暫く光るっての」
「良いね。流星みたいにキラキラ光る矢だったら、クッポーさんに似合ってる」
 ジャンの後押しもあり、その意見も採用。
 スロリーがどんどん意見をメモしていく。
「ちょっと普通の弓とは違うけど、こう言うのもあるって事で試してくれるか?」
 暫くベップと共に作業室に篭っていた龍牙が、機械仕掛けの弓を見せる。
 滑車を使用し、非力な者でも強い弦を引ける、非常に高性能な弓だ。
 ただ――――
「機械とやらに頼るのは本意ではない。その技術は俺よりアトラトル街の連中にくれてやれ」
 と言うクッポーの意向により、機械仕掛けを使用しない方向で行く事となった。
「そうか。じゃ、礫みたいな、その場にある物も武器に出来る弓はどうだ? ヤギの腸を弦に使えば可能だ」
「へえ。面白いですね」
 ジャンが思わず感嘆の声を上げる。
 実際、ヤギの腸は楽器の弦にも使用される素材で、強度も十分高い。
「ククク。興味深い素材だな」
 と言う事で、山羊の腸は素材の候補の一つとなった。
 龍牙の持ってきたハープボウのように、楽器として使える武器にも出来るかも知れない。
「でも、折角ですからドラゴンの髭くらいのインパクトは欲しいですよね」
「賛成です。あと、ジャイアントパイソンの皮とか一角蜥蜴の角とかガヴィッドウッドの枝とかジャイアントオウルの羽とかドラゴンの鱗とか。は〜、素敵です」 
 アーシャは寝っころがりながらジャンに同意し、素材候補を次々挙げていく。
「取り敢えず、理想の重さと大きさは大体わかったから、図面を引いてみる。スロリー、ベップさん、手伝って」
「おう。設計図があると言うのは後々助かるからの」
 スロリーはコクコク頷き、2人の後を追った。


 依頼開始から6日目の昼下がり――――狩りの時間。
「いっけ〜っ!」
 アルテミスの瞳を指に嵌めたアーシャは持参したフェアリーボウを使い、兎や鹿、そして鳥をも仕留めて行く。
「アーシャん、凄い!」
「ふっふっふ〜、私、弓も結構いけるんですよ」
 ジャンが拍手する中、アーシャは不適に微笑みつつ、獲物を手押し車の荷台に積んだ。
 山小屋ではあるが、長期間篭る作業場と言う事もあり、ベップの小屋にはサバイバル用の道具が結構置かれている。
 手押し車もその中の一つだ。
 とは言え、実際にはかなり傷んだ箇所もあり、龍牙がちょちょいと手直ししてようやく使い物になったのだが。
「では、レオさんのエリアに行きましょう」
 運搬係を勤めるアーシャは、手押し車を共にだーっと山道を駆け出した。
 後ろから付いて行こうとするジャンだったが――――その視界に荷台から落ちた一本の矢が入り、立ち止まる。
「‥‥」
 ジャンは矢を掴み、その尖った先端をじっと見つめていた。
 愛と平和。
 この、禍々しさすら覚える矢という武器に、それは果たして相応しいものなのか?
 テーマを掲げたジャン自身、半信半疑の部分はあった。
 それでも――――目の前で傷つき斃れていく者達を目の当たりにしてきたジャンは、夢を見ずにはいられなかった。
 

 同時刻――――
 エラテリスはルッテと言う街にいた。
 最近親交を深めている、フィロメーラ・シリックと言う冒険家に意見を求める為だ。
「光る矢、光る矢‥‥うーん、聞いた事ないですね」
「何か材料になりそうな物でも良いんだけどな☆」
「それなら、ライトニングバニーの牙とか、サンダーバードの羽とか、ムーンドラゴンの鱗とか‥‥そんな所じゃない?」
 フィロメーラの上司、デュオニュースの言葉に、エラテリスは頷きつつメモを取っていた。
「実際に光るかどうかは知らないから、責任は持てないけどね」
「うん、わかったよ☆ 色々教えてくれてありがとう☆」
 と言う訳で、新たな材料候補が追加。
 徐々に方向性は定まってきた。


 そして、夕刻。
「大猟でしたね〜。クッポーさんもちゃんと狩れましたし。偉いです」
「ククク。自然の驚異も、このクッポーにかかれば赤子の手を捻るが如く」
 自身の矢が(たまたま)捕らえた野鼠を大事そうに抱え、アーシャと談笑するクッポーから離れる事数百メートル。
 レオは草むらに身を潜めていた。
 標的はジャイアントオウル。夜行性なのでまだ動きを見せず、半開きの目のまま羽を休めているようだ。
「‥‥」
 今、レオの視界には、ジャイアントオウルのある一箇所しか映っていない。
 そして――――矢は放たれる。
 空気を裂くように、ブレる事無く伸びた軌道は、ジャイアントオウルの留まる枝の僅か下――――羽の一部をこする様に突き進んだ。
 ジャイアントオウルは動かない。目も見開かない。そのままの顔で、優雅に夜を待っている。
 レオはその射撃に満足し、小さく息を吐いた。
 幾ら最近モンスターの採食が盛んとは言え、ジャイアントオウルは大き過ぎる。運ぶのも食べるのも一苦労だ。
 つまり、矢の材料の候補の一つを採取する事が目的だったのだ。
 ひらひらと地面に落ちた羽を拾い、レオはアーシャ達の待つ場所へと走った。


 小屋で寝泊りする最後の夜。
「よし。バジリック風味のウサギのロースト、完成」
 龍牙が薄い木の板に『持っていってくれ』と記すと、スロリーはコクリと頷き、皿を食卓に運ぶ。
 この他にも、採集した山菜や獣肉の数々が鮮やかに姿を変え、ズラッと並んでいる。
「いっただっきまーす☆」
 真っ先にエラテリスが幸せそうに舌鼓を打ち、最後の食事会が始まった。
 そして、それらの豪華料理を食べながら、冒険者達は弓矢の材料の総纏めを行う。
 弓の大きさは、短弓サイズ。ただし重さはかなり軽め。
 弦は、ドラゴンの髭と言う意見も出たが、実用的とはいい難く、ヤギの腸で決定した。
 ただ、ここからは未確定。
 弓の胴となる部分は、出来れば有名モンスターの一部を使用したいと言う意向で話は纏まったが、具体的にどれにするかは決まっていない。
 候補に挙がった幾つかのモンスターを倒し、材料を採取した後、全て試してみる事になった。
 矢についても同様だ。
 そして、ジャンが提唱した『愛と平和』のコンセプトに関しては――――
「マジックアイテムと組み合わせれば、不可能ではないかもしれん」
 と言うベップの言葉通り、一度検証する事となった。
 その効果に加え、レミエラによる『流れ星の矢』や、エラテリスの得た情報などで、光を放つ矢とする事が決定。
 これも、詳細は次回に持ち越しとなる。
 こうして、様々な検討を重ねた結果、方向性は定まった。
 アイドル射撃主クッポーの、世界に一つだけの派手で美しい弓矢。
 それは、アイドルならではの、個性溢れる一品となりそうだ。
「あ、あの‥‥」
 そんな中、一通り食べ終えたエラテリスがおずおずと挙手する。
「おかわりか?」
「う、ううん。えっと‥‥」
 龍牙の問いに首を横に振ったエラテリスは、自身の『上弦の月』と『下弦の月』を取り出し、ベップへ向けて力なく笑った。
「このふたつの弓、ひとつに‥‥なんて、あ、あはは、無理だよね‥‥」
「‥‥出来るぞい?」
「え☆」
 と言う訳で、新たな弓がもう一つ誕生する可能性を残し――――今回の集いはその幕を閉じた。


 尚、野鼠は流石に食材にはしなかったとの事。