風車の折れた日 〜死の魔女〜

■ショートシナリオ


担当:UMA

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月09日〜09月14日

リプレイ公開日:2009年09月17日

●オープニング

 キリキリ、キリキリ。

 歯車の軋む音が聞こえる度に、男達は歓声を上げていた。
 その中心にいる彼もまた、同じく拳を突き上げている。
 もう直ぐ、もう直ぐだ、と。

 キリキリ、キリキリ。

 その音は、心地よく胸の鼓動と共振する。
 高鳴りだ。
 夢の具現。
 希望の頂。
 咆哮までもう直ぐだ。

 キリキリ、キリキリ。

 そして――――
 
 風車は、廻る。
 



−風車の折れた日−




 死の魔女、ルファーの逃亡は続いている。
 だが、そんな彼女は未だに贖罪を続けていた。
 何が正しいのか、そうでないのか。
 或いは、その定義すらも関心がないのか。
 葛藤は表に出す事無く、ルファーは今日も『死を目前に控えた者』の願いを叶えている。
「風車塔‥‥確かに、この場所にそれはある。が、観光ってんなら、余り奨励は出来ねぇな」
 パリ郊外にある小さな酒場『シャレード』を訪れたルファーは、そこのマスターから『とある情報』を入手した。
 それは――――風車塔のある場所。
 パリより南西に50kmほど離れた地域にある荒地に、その施設は存在していると言う。
 ただ、その風車塔、ここ数年は余り良い印象を与えていない。
 管理がずさんだった事もあり、少し前までは盗賊団『ジズー』の根城となっていたくらいだ。
 そして今――――その風車塔には、『ジズー』のメンバーは一人もいない。
 皆、モンスターに惨殺された。
 現在、この風車塔には、風精龍ウイバーンとその部下達が住み着いている。
 今も尚、風車塔内には盗賊達の血痕がこびりついている事だろう。
 立派だった羽根も、既にウイバーンによって折られているらしい。
 建設当初は地域のシンボルとして輝いていた風車塔は、最早この世にはない。
 見る影もない廃墟と化している。
 だが、その前から、既に――――
「観光ではありません。私は、それを壊しに行かなくてはならないのです」
「壊す? 嬢ちゃん、土地の責任者か何かかい?」
「いえ‥‥御忠告、ありがとうございました」
 ルファーは素性を明かす事無く、『シャレード』を出て行った。
 その背中を見送るマスターは、嘆息しつつ、先日とある富豪の使い者に手渡されたビラの一枚をカウンターの内側から取り出す。
『この絵の少女を捕まえた者に、500Gの賞金を与える』
 そこに描かれた絵と、今まさに店を後にした少女の顔は、ほぼ一致していた。
「こんな年端も行かねぇ子を‥‥えげつねぇな」
 懇意にしている富豪の別の顔に、マスターは嘆くばかりだった。




 尚、風車塔のデータは以下の通りである。

●外壁
 煉瓦(レンガ)
●高さ
 15m
●階数
 4階建て
●羽
 4枚(直径25m)
●内部
・1階
 床面積50平方m 扉、窓あり 中央部に4階まで突き抜ける螺旋階段あり
・2階
 床面積42平方m 窓なし
・3階
 床面積36平方m 窓あり
・4階
 床面積30平方m 風車の手入れを行う為の出入り口あり
●役割
 揚水:
 羽根が風力によって回転し、その力を上部の歯車によって主軸に伝導させ、
 主軸の歯車を回転させる。その力で主軸下部の水車を回し、水を汲み上げる。

●今回の参加者

 ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea9907 エイジス・レーヴァティン(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec0290 エルディン・アトワイト(34歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec2307 カメリア・リード(30歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

アズライール・スルーシ(ea6605)/ ラピス・ブリューナク(ec4459

●リプレイ本文

 マート・セレスティア(ea3852)は、荷物をエルディンの連れて来ていた馬に一旦預け、単身でパリの郊外にある酒場『シャレード』を訪れていた。
 目的としては、風車塔に関する情報の更なる収集。
 柄の部分に『951 9 13』と記された『ウォーハンマー』を見つけるには、出来れば風車塔の構造に関する詳細な情報が欲しい。
 と言う訳で、マートは早速マスターに風車塔について尋ねてみたが――――地図などの役に立ちそうな資料は残っていないとの事だった。
「すまねぇな」
「ううん、いいよ」
 マートは笑顔を見せつつ、その酒場でこの日の食事を摂っていた。
 その最中、何気なく店内を見渡していたが――――壁に貼られた一枚の手配書に、思わず目を留める。
 その手配書に描かれていた人物が、ルファーだったからだ。
 これまでに二度、ルファーの手助けをしてきたマートは、ルファーが追われている事については知っている。
 でなければ、今頃食べていた物を噴き出していたかもしれない。
「なんで、ルファー姉ちゃんをここまで目の敵にするんだろうな」
 その代わり――――思わずそう呟いた。
 

 風車塔、1F――――
「さて。問題はここからですな」
 身嗜みを整えるかのようにゴートスレイヤーを鞘に収めたケイ・ロードライト(ea2499)の足元には、レイスによって操られていた盗賊の死体が転がっている。
 既に、この階に居たレイスは全てエルディン・アトワイト(ec0290)のピュアリファイによって浄化されていた。
 レイスとの戦闘経験があるケイとエイジス・レーヴァティン(ea9907)が憑依された盗賊達をなぎ倒し、カメリア・リード(ec2307)がライトニングサンダーボルトで援護し、エルディンが浄化すると言う作戦は功を奏し、怪我人を出す事無く攻略に成功。
 最後のレイスを浄化し終えたエルディンも、まだ魔力には余裕があった。
「それじゃ、次の階に行こうか」
 エイジスの言葉に頷き、冒険者達は周囲を警戒しつつ、2Fへ続く階段を上る。
 その中に、ルファーの姿はない。
 戦闘力の極めて低いルファーは、モンスターを駆逐するまで、荷物番がてら近くにある風車守の家にいる。
 また、風車塔の周りにはモンスターの逃亡対策として、冒険者の連れてきている戦闘力を有したペットが数体待機している。
 態勢は万全だ。
「2階にはどのモンスターがいるのでしょうね」
 怪談を上りつつ、エルディンが呟く。
「3階‥‥もとい、2階には窓がないのでしたな。となると、残りのレイスやグレイオズ辺りが居そうな気がしますぞ」
 ケイは予めエルディンから聞いていた風車塔の概要を確認しながら呟く。
 この風車塔に巣食うモンスターは、ボスのウイバーンをはじめ、ウィル・オ・ザ・ウィスプ、トッドローリィ、グレイオーズの四種。
 その内、トッドローリィとグレイオーズはエイジスが闘った事があり、そのエイジスの知人であるラピス・ブリューナクがのウイバーンとウィル・オ・ザ・ウィスプについて事前にレクチャーしてくれていたので、全てのモンスターに関するある程度の情報は揃っている。
「ウイバーンはとても素早い、のです。魔法的な麻痺毒を持っていると言われています」
 カメリアも、ウイバーンに関する知識を有しており、心配げに呟く。
 この毒に手持ちの解毒剤が効くかどうかわからないので、不安要素は少なくない。
「まあ、何が出てきても倒すだけ――――」
 エイジスが言葉を続けようとした刹那。
 直ぐにその解答は明らかとなる。
 緑色の外皮。
 巨大な翼。
 後肢には鋭い鉤爪が鈍く光り、その下には毒針付の長い尾が垂れている。
「思いの外、早いお出ましとなりましたな」
 ケイは階段を素早く上りきり、背筋を伸ばした姿勢で剣を抜く。
 それに他の3人も続いた。
 この塔の現在の主、ウイバーンと対峙する為に。


「この娘の知り合いが尋ねてくるとはなぁ」
 自身が貼り付けた手配書と対峙しつつ、酒場のマスターが嘆息交じりに呟く。
「おいら何回か、姉ちゃんと会った事あるんだ。こんな事されるような人じゃないぞ」
 マートは頷きつつ、自分がそのルファーから依頼を受けて動いている事を話した。
 マスターは神妙な面持ちのまま、自身の直ぐ近くにも張ってあった手配書に視線を送る。
「俺もこんな物張りたかねぇんだが‥‥」
 こう言った、情報を扱う酒場と言うのは、顧客との信頼関係を崩す事が許されないのだ。
「大人気ねぇこった」
「うん、出来れば姉ちゃんと和解して欲しいんだけどね。おいらには相手が何処にいるかわからないんだ」
 そのマートの言葉に、マスターは手配書から視線を動かし、若干その目を細める。
「それを聞きたいのか?」
 マートは心の底から溜息を吐きつつ――――頷いて見せた。


 ウイバーンの放つ真空の刃に、古くなった風車塔の壁が悲鳴をあげる中――――四人の冒険者達はそれぞれに小さく息を吐いた。
 想定内の敵とは言え、その速度はやはり脅威。
 強大な身体を器用に使い、時に宙を舞い、時に這うようにして斬撃や魔法から逃れるウイバーンに対し、エイジスは密かに感心していた。
 そして、大地の槍を一度放り投げ、スカルダガーに持ち返る。
 一方、ケイはオーラを帯びたゴートスレイヤーをショートソードに握り直し、正面に構える。
 2人は言葉を交わさず、目でそれぞれの意思を確認した。
 エルディンによるグットラックの効果か――――2人の頭は冴え渡っている。
「行くよ」
 静かに呟いたエイジスの身体が一瞬沈み、膨大な瞬発力を爆発させ、瞬時にウイバーンとの距離を詰める。
 その間、他の誰もが瞬きすらしていない。
 しかしそれでも――――ウイバーンはいち早く反応し、壁を這うように逃れていく。
 だが、それはこの数分の戦闘で折込み済み。槍だとその重さで若干体重移動が遅れる所だが、ダガーならば付いて行ける。
 エイジスの身体が速度を落とさないままほぼ直角に曲がり、回避しようとしたウイバーンを捉える。
「危ない!」
 そう叫んだのは、エルディンだった。
 エイジスからは死角になっていた場所から、ウイバーンの長い尾がその背中を襲う!
 が――――尾の毒針は金属音と共に跳ねる。
 ケイがショートソードで防いだのだ。
「今ですぞ!」
 エイジスは頷きながら、ウイバーンの左翼へダガーを放った。
 その刃が羽根を貫通し、壁に刺さると同時に、今度はケイがショートソードを右翼へと投げつける。
 壁に釘付けにされたウイバーンが吼える中――――
「受け取って下さい!」
「えいっ!」
 エルディンが槍を、カメリアが剣を、それぞれエイジスとケイへ向けて床を這わせるように投げる。
 自身の武器を掴んだ2人は、磔のままのウイバーンに向け、突進する!
 その瞬間――――風車塔内に強力な竜巻が発生した。
「トルネード!」
 同時に真上へと巻き上げられるが――――ここは室内。
 天井までの高さは、たかだか数メートルだ。
「なんのこれしき!」
「行くよー!」
 ケイとエイジスは天井を両足で蹴り、斜め下の壁際にいるウイバーンへ向けて――――落下速度で威力を増した斬撃と突き下ろしを浴びせた。

 
 翌日。
「姉ちゃん、遅れてごめんよ」
「いえ‥‥またお会い出来て嬉しいです」
 合流したマートが風車守の家に足を運ぶと、そこには風車塔の図面を引くカメリアをはじめとした冒険者全員の姿があった。
「これで、大体完成です」
 ふう、と大きく息を吐き、カメリアが筆を置く。
 塔内では支援を担当していた彼女だが、ここからは大きな役割を担っていた。
 その一つが、風車塔の図面の作成だ。
「中のモンスターは粗方片付いています。まだウィスプだけは見かけていませんが」
 エルディンがマートに説明する通り、既にウイバーンをはじめとしたモンスターは倒し切り、四階まで制圧する事に成功していた。
 塔の入り口には、エイジスの連れて来たシナモンを待機させているので、再び集合する事もないと思われる。
「すごいや。怪我はしなかったの?」
「擦り傷、切り傷程度ですかな。それもエルディン殿のリカバーでたちまち全快でしたぞ」
 ケイは紳士然とした口調で笑っていたが――――そう簡単な敵ではなかった。
 やはり、事前に敵の情報を知る事が出来ていたのは大きい。
 ウイバーンの毒針には細心の注意を持ってケア出来たし、グレイオーズを事前に発見する事も出来た。
 トッドローリィにしても、その素早さを知らなかったら、対処に苦労していたかもしれない。
「それじゃ、ウォーハンマーは?」
「今から探す所。大体の目星は付いてるしね」
 エイジスの返事に対し、マートはダウジングペンデュラムを取り出し、ニコッと笑った。
 そして、今しがた完成した図面を地図に見立て、使用してみる――――が。
「うーん、駄目みたいだ」
 振り子は動かなかった。
「であれば、各々の推測を下に、人海戦術といきましょう」
「はい」
 と言うわけで、ルファーも加わり、ウォーハンマーの探索が始まった。
 ケイは隠し部屋を探す為に一階の床をコツコツ叩き、マートは引き続きダウジングを続行。
 エイジスは風車の軸などを見て回り、エルディンは土台となる礎石の周囲を探しながら、時折箒に乗って上の階に足を運んだ。
 カメリアとルファーは二〜三階の壁をくまなく確認し、ボーダーコリーのクォーツも一緒になって探索を行った。
 だが、盗賊の住処だった事もあり、宝石が幾つか見つかる一方、中々目的物は発見できない。
 加えて、冒険者達にはもう一つ大事な仕事がある。
 それは、風車塔の解体。その準備も着々と行っていた。
 これだけの規模の建築物を壊すには、相当な準備が必要。
 その為に、まずは図面を引き、構造上何処を破壊すればどこに負荷が掛かるのか、と言う事を分析して、途中で塔が崩れてこないよう、最も効率の良い壊し方を模索する事となった。
 その中心にいるのが、設計の専門知識を有するカメリア。
 また、ある程度の設計知識を持っているケイも補佐に回り、図面にその破壊順序が書き込まれていく。
 

 そして――――依頼最終日。
「じゃ、遠慮なくやっちゃうよ?」
「はい。お願いします」
 ルファーの言葉に頷き、エイジスはまず南東1Fの柱をバーストアタックで突き下ろした。
 その後も、それぞれの武器やケイが持参したスコップ、或いは楔を使い、どんどん破壊していく。
 ケイの用意した道具で武器を手入れしつつ、解体は順調に進むその一方、全員の表情は晴れない。
 ウォーハンマーがまだ見つかっていないからだ。
 ここ数日の探索の結果、結局それらしい物は見つからなかった。
 とは言え、盗賊などが出入りしている以上、持ち出された可能性もある。
 今日中に見つけられる保証がない以上、解体を優先せざるを得なかった。
「皆さん、ご苦労様です。もう大丈夫ですよ」
 エルディンが図面を眺めながら、解体作業中のケイ、マート、エイジスに声をかける。
 既に風車塔は至る所が破壊され、かろうじて立つ力のバランスを保っている状態にまでなっていた。
 後は、カメリアのストームで一気に仕上げるのみ。
 ただ、それでこの依頼は完了、とはしない。
 塔の近くには、エルディンが大金を積んで付近の教会から借りてきた荷馬車がある。
 この荷台に瓦礫を積み、撤去する手筈となっている。
 跡形もなく、と言う条件を満たすには、残骸をも消去する必要があるからだ。
 ここまでの用意は完璧。
 だが、やはりウォーハンマーが見つからない事が、全員の心残りだった。
「‥‥」
 エルディンは思案顔で塔を眺める。
 作業に使っていたその道具が、基礎工事の際に作られる定礎の傍にあると言う推理は、理に叶っている筈だ。
 だが、実際にはそれらの近くにはない。
 かと言って、金銭的価値のないハンマーを盗賊が持ち出す可能性も薄い。
 何かが足りない。
 エルディンは考える。
 それは、そのウォーハンマーに記されていると言う数字。
『951 9 13』
 これは、恐らく風車塔の建築記念日。
 それに依頼人は携わっていた。
 ならば、このハンマーは記念品と言う事になる。
 何故持ち帰らなかったのか?
 そもそも、何故依頼人は、こんな依頼を――――
「!」
 そこまで追求した事が、エルディンの脳にある映像を見せた。
 風車塔の完成に大喜びする、若かりし日の依頼人。
 完成予定日、ハンマーにその日付を彫り、喜びを噛み締めた事だろう。
 その日付は、何処で彫ったのか?
 例えば――――
「皆さん! 塔の周りの、開けた場所を探してみてください!」
 そう。
 完成した後、数字を彫ったのは恐らく――――皆で集まって、完成を祝うその席。
 塔を眺めながら、地べたに座って酒でも呑み、皆で喜びを分かち合うその場所。
 そこに置き忘れていたとしたら――――
 そして――――
「‥‥ありました」
 見つけたのは、カメリアだった。
 既に錆に腐食され、触れただけで折れそうなハンマーは、塔の直ぐ傍の荒地に無造作に転がっていた。
『神聖暦951年 9月13日』
 丁度53年前のこの日から、ずっと。


 立派な、立派な風車。
 どんな人達が、どんな想いで作ったでしょう。
 ゆっくりと回る羽根は、どれだけ、力強く美しく、お日様に映えた事でしょう――――


「では、行きます」
 そんな過去の情景に想いを馳せ、カメリアはストームを唱えた。
 暴風は瞬く間に塔を飲み込み、その壁を、床を、歯車を、そして風車を、瓦礫へと変えて行く。
 それは、風車が起こした最後の風。
 この地に長年そびえた象徴の、最後の雄叫びだった。
「依頼人は耐えられなかったのでしょう。風車の荒れ果てた姿に」
 ならば、自分の生がある内に――――
「それが、依頼人が最期に下した結論。最後の目標だったのですね」
 エルディンの言葉にルファーは小さく頷き、塔の最期を見届けている。
「では、ルファー殿。貴女は‥‥何を、何処を目指しているのですか?」
 冒険者一同は、ルファーの過去をマートから聞いていた。
 だが、今のルファーの行動には、終着点がない。
 死に行く者の願いを聞き入れて、果たしてどうなるのか?
 それでルファー自身が、或いは娘の魂が浮かばれるのか。
 エイジスは、富豪に対して言いたい事があると憤っていた。
『肉体は滅んでも、魂は消えない』
 今の富豪のやり方は、娘を悲しませるだけだと。
 ならば、ルファーは?
 今のルファーの贖罪を、娘の魂はどう思うのだろうか?
「‥‥」
 風車塔の石塊が滝のように地面へと吸い込まれていく中、ルファーは呟く。
「私は‥‥」
 死への餞を作る事で、過去の自分の過ちを赦して貰いたい?
 死への怖れを取り除いてあげる事で、自分の心的外傷を癒したい?
 自分自身への問い掛けの後、ルファーは確かな答えを出した。
「リーゼロッテ様の笑顔を思い出したい、です」

 その日は、果たして――――