せめて、安住の地へ

■ショートシナリオ&プロモート


担当:UMA

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 85 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月04日〜06月12日

リプレイ公開日:2008年06月10日

●オープニング

 マルク・アンドレは、苦渋の決断を迫られていた。
 その理由は、自身がその人生をかけて手がけていた事業の失敗にある。
 パリから徒歩で二日かかる位置にあるこの町は、かつて特色の何もない平凡な町だった。そんな町にどうにか目玉となるものを作りたいと願っていた彼は、町の周りに何か使えそうな場所はないかと、年中歩き倒して探し回った。そこで見つけたのが、モンスターを安全に観察する事が出来る地帯だった。そこに『モンスターパーク』と呼ばれるスポットを作り、観光の目玉としたマルク・アンドレは、その事業に命を懸けてきた。
 しかし、結果的にその経営はうまく行かなかった。モンスターパークは来週、閉鎖される。
 それに伴い、その場所にいたモンスターは駆除される事になった。
 これまで、その一帯に生息している彼らが人間を襲ったと言う例は一度もない。だが、客の何人かが、禁止されているにもかかわらず、餌を与えてしまったと言う報告があり、味をしめたモンスターが集団で人里に下りてくる可能性を危惧する声が高まっていたのだ。それを考慮した結果、町内の役員達は、モンスターの殲滅を決定したらしい。
 しかし。
 マルク・アンドレにとって、この決定は納得のいくものではなかった。
 モンスターパークの存在は、少なからず、この町の経済に貢献していた。それはつまり、モンスターパークにいるモンスター達の貢献と同義だ。それを、もう必要なくなったからと言って駆除すると言う方針には、到底従えない。何より、モンスターパークに命を懸けていた彼にとって、そこの住民であるモンスター達は、仲間だったのだ。
「どうします‥‥?」
 マルクと同様、モンスターパークの経営に順力し続けてきたマリー・ナッケが力なく呟く。彼女もまた、役員の決定には納得しておらず、何度も異論を唱えてきた。しかし、その決定を独力で覆すだけの力も、時間も残っていなかった。
「反対運動を行ってくれている人もいます。彼らと協力すれば‥‥」
「いや。無理だろう」
 かつてモンスターパークの常連客の一人に、キースリング・フリードリッヒと言う男がいた。彼はモンスターに対して尋常ではない愛情を抱いていた。経営がうまく行かなかった要因の一つに、彼の薀蓄が他の客にとってはうるさくて仕方がなかった、と言う事もあったのだが、今となってはそれも昔の話。モンスターを殺したくないと言う一点で共通している以上、今は味方と言える存在だ。しかし、彼や他の反対組がどれだけ頑張ったところで、決定は覆らないだろう。
「では、諦めるしかないのですか?」
「手はある。難しいだろうがな」
 マルクはポツリと呟き、その重い腰を上げた。
「冒険者に頼んで、モンスターを別の場所に運んで貰う」
 共に生きる事は、もう叶わない。
 ならばせめて、安住の地へ。
 願いはそれだけだった。


 尚、モンスターパークのデータは以下の通りである。

 ・場所
  町から2kmほど離れた山のふもと
 ・面積
  1.5平方km
 ・地目別面積
  平原40%、山林35%、岩場20%、廃墟5%、川0.3%
 ・生息モンスター
  フィールドドラゴン × 1(平原)体重400kg
  ドンキー × 8 (平原)体重200kg
  モア × 2(平原)体重150kg
  ホーンリザード × 6(岩場)体重6kg
  エイプ × 4(岩場)体重200kg
  ウルフ × 6(山林)体重40kg
  ジャイアントオウル × 2(山林)体重30kg
  ペリグリン × 4(山林〜廃墟)体重1kg
  ジャイアントラット × 8 (廃墟)体重30kg

 ・備考
  モンスターパーク内のモンスターは大人しく、自分から攻撃は仕掛けてこない。
  ただし、捕縛の為に攻撃的な姿勢をとれば、自衛の為に牙を剥く。
  モンスターを運ぶ場所は、モンスターパークから40km離れた、同じような環境の場所。
  マリー・ナッケに言いつける事で四輪馬車×1台の使用が可能。ただし、載積量は一度に1500kgまで。
  収納可能面積は2m×3.5m。
  移動する道のりは余り足場が良くなく、勾配もあるため、馬車の移動速度は平均で時速10kmとする。
  なおこの速度は、荷物を積んだ状態で移動場所まで行き、荷物を積んでいない状態で
  モンスターパークに帰ってきた場合の平均である。

●今回の参加者

 eb0346 デニム・シュタインバーグ(22歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3759 鳳 令明(25歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 ec4154 元 馬祖(37歳・♀・ウィザード・パラ・華仙教大国)
 ec4801 リーマ・アベツ(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

クァイ・エーフォメンス(eb7692)/ セイル・ファースト(eb8642

●リプレイ本文

●少し過激なお引越し
 初日にも拘らず、冒険者達は既に行動を始めていた。
 この依頼は時間との勝負。一分一秒を惜しむ為、迅速に作業を行う事にしたのだ。
 鳳令明(eb3759)とクァイ・エーフォメンス(eb7692)は、モンスターの寸法や形状に適した木製の檻や仕切りを作っている。
 そして、リーマ・アベツ(ec4801)は比較的大人しいドンキーを餌で集め、テレパシーのスクロールで説得を試みていた。
『ウィザードのリーマと申します。少しよろしいでしょうか?』
 このままここにいると、貴方達の身に危険が及ぶ――――その旨を、懇切丁寧に伝えた。
「わかって頂けました。では馬車への誘導をお願いします」
 安堵の表情を浮かべたリーマがそう告げると、元馬祖(ec4154)は頷きつつドンキー達を申請済の荷馬車へと誘導した。
 そして、馬車の前で待っていたデニム・シュタインバーグ(eb0346)に彼らを託す。
「では、宜しくお願いします」
「了解しました。それにしても、リーマさんがテレパシーのスクロールを持っていて助かりましたね」
「ですね」
「それじゃ、行きましょうか」
 ドンキーのサイズでは、一度に八匹全てを馬車に乗せるのは不可能。しかし、まだ比較的小さいドンキーを乗せ、定期的に荷台に餌を撒けば、残りは勝手についてきてくれる。一往復でドンキーは全て運び終える事ができた。
 そして、その日は同じく平原にいたモアの運搬にも成功した。
 
 翌日。
「うっ‥‥!」
 リーマ・アベツの悲鳴に、冒険者達が緊張感をまとう。檻と仕切りを作り終えた鳳が悲鳴の上がった山林地帯に駆けつけると、そこには警戒心を露にし、低い鳴き声を上げるウルフの群れと、元に背中を支えられたリーマの姿があった。
「リーマどの!」
「大丈夫です。掠った程度ですから」
 気丈に振舞いつつ、リーマはリカバーポーションを一つ使用した。事実、それで全快する程度の怪我ではあった。
「ウルフは獰猛なのじゃ。気をつけるのじゃ〜」
「大丈夫ですか?」
 そこにデニムも駆けつける。
「ここは僕達に任せて、リーマさん達はペリグリンをお願いします」
 テレパシーによる説得が失敗した今、これ以上リーマがウルフと対峙するのは危険だ。
「わかりました。ここはお任せします」
 元とリーマがその場を離れる中、デニムと鳳がそれぞれの鞭を構える。殺傷能力が比較的低く、捕縛には向いている武器だ。
「さて、ぱっぱと片付けるのじゃ」
「数が多いですから、それに越した事はありません‥‥ね!」
 先手必勝。デニムは躊躇せずにウルフの群れに飛び込んだ。
 ウルフは敏捷性が高く、機動力に長けたアニマルだ。しかし、それは直線的な動きに特化している。つまり、一人が正面から突っ込んで注意を引きつけ、もう一人がその側面を叩けば、そう後れを取る事はない。
 群れの一匹がデニムの突進に備え足を屈めた刹那、群れの右に回った鳳が鞭をしならせる。空気を裂く音と共に、金鞭がウルフの側頭部を捕らえた。大きく頭を揺らされたそのウルフに、デニムが追い討ちの一撃を叩きつける。ウルフは完全に意識を刈られ、足元から崩れた。
 その動揺は群れにすぐ伝染する。デニムに対し最初に対応しようとしたそのウルフは、どうやらこの群れのボスだったようだ。ボスがやられた事で、一気にウルフの戦意は低下した。
 この時点で、勝負は決した。

 気絶させたウルフを鳳とデニムが檻の中に入れる中、リーマと元はペリグリンの捕縛と説得に当たっていた。
 猛禽類故にやや凶暴な面を持つ彼らは、通常の状態では説得は難しい。よって、クァイが作っておいた鳥用の檻の中に肉を入れ、その入り口を紐付きのつっかえ棒で開けておき、ペリグリンが入ったら、紐を引き、檻に閉じ込めると言う罠を張った。
 結果――――成功。捕縛したペリグリンにテレパシーで事情を伝え、仲間を集めて貰い、まとめて説得する事が出来た。

 そしてその夜、助勢を要請しておいたキースリングが到着。
「ジャイアントオウルは夜行性だから夜に活発に動きます。餌で釣るならその時間帯が良いでしょう。彼らの好物はネズミです。そもそもジャイアントオウルと言うのは、樹洞に巣を作る事が多く、抱卵はメスのみが行って‥‥」
 彼が延々と話を続ける中、一行は夜の森へと赴いた。リーマがバイブレーションセンサーで居場所を探り、夜闇の指輪を用いてそれを特定し、テレパシーで説得を試みる。だが――――
「駄目です。説得に応じてくれません」
「おりに任せるのじゃ」
 魔法の指輪を装着した鳳が、淡いピンクの光に包まれる。そして、自分の四倍ほどあるモンスターに近付き、そっと耳打ちした。
『新天地にはジャイアントラットも向かうのじゃ〜』
 ジャイアントラット――――巨大なネズミ。
 ジャイアントオウルは丸い目を更に丸くし、肯定の意思を表明した。

 更に、説得と運搬は続く。
 ホーンリザードの説得に成功し、残りはエイプ――――
「っと!」
 岩場を探索していたデニムの死角から、そのエイプの長い腕が伸びてくる。間一髪で交わしたデニムに、飛んでいた鳳がそっと近付いた。
「不意打ちとは、中々頭の回る猿なのじゃ〜」
「と言う事は、説得にも耳を傾けてくれそうですね」 
「なら、おりに任せておくのじゃ。万が一攻撃されたら、援護よろしくなのじゃ〜」
「了解しました」
 鳳がエイプに向かって飛び立つ中、デニムはホイップを握る手に力を込めた。

 その頃、リーマと元は廃墟にいた。
『待ってください!』
 逃げ回るジャイアントラットを、リーマが追いかける。普段ジャイアントオウルの脅威に怯えていた彼らは、他のモンスター以上に臆病になっているようだ。
『話を聞いてください。私たちは敵では‥‥』
 さすがに疲労の色を濃くしたリーマの横を、鮮やかなスピードで元が追い越す。そして、逃げるジャイアントラットの前に回りこみ、にっこりと微笑んだ。逃げ道を塞がれたジャイアントラットは、渋々と言った感じながら、リーマのテレパシーに耳を傾ける。
「元さんは素早いですね。助かります」
「いえ、そんな事は‥‥」
 元が照れ臭そうに頬を掻く中、廃墟の上空から二人を呼ぶ声が聞こえてきた。

●そして、最終日
 まだ日が昇って間もない時間。冒険者一行は、最後の一頭と共に、もう何度も足を運んだモンスター達の新天地へと向かっていた。
 最後となったフィールドドラゴンは、予め見せて貰っていたクァイのドラゴンよりも一回り大きかったものの、かなり穏やかな性格で、説得は簡単だった。
「すいません。少し止まって貰えますか?」
 そのドラゴンの背に乗っていたデニムが停止を訴える。言葉は通じない筈なのだが、その六本の足は言われた通りにピタリと止まった。
「さすが、竜の歩みを止めし者ですね」
 リーマの言葉に、デニムは照れた笑みを浮かべた。しかし、すぐに真面目な顔に戻る。
「あの、役員達の下見ですが‥‥」
「それなら大丈夫じゃろ? もうあそこは物抜けの空じゃ」
 鳳の言う通り、既に全てのモンスターはモンスターパーク跡地からは脱出している。この時点で依頼は達成されたと言って良い。
「ええ。でも‥‥」
 だが、デニムはもう一つ、すべき事があると訴えた。

 その日の夕刻――――
「逃げた、だと?」
 モンスターパークの跡地に来ていた役員達は、マルクの説明にあからさまな嫌悪感を示していた。
「は、はい。私達が今朝見に行ったら、跡形もなく」
 勿論、これは真実ではない。
 だが、それをそのまま伝えると言う事は、役員達に表立って楯突いた事を意味する。そうなれば、彼らはこの町では暮らしてはいけない。それだけならまだしも、協力した冒険者達の今後にも支障を来たす可能性がある。そう判断し、敢えて虚実を述べたのだ。
「フン。よくも抜け抜けとそのような戯言を。どうせ逃がしたのだろう」
 しかし、その嘘は呆気なく看破される。役員の一人がつかつかと二人に歩み寄り、獰猛な肉食獣のような目で睨み付けて来た。
「マルク。お前は確かにこの町の力となった。だが、このような不誠実な行動を犯した以上、今後この町で商売が出来るとは思うな」
 終わった――――二人はそう痛感した。
「揉め事ですか?」
 絶望の淵にいたマルクの耳に、依頼を受けてくれた冒険者の一人であるデニムの声が届いた。
 一瞬、強烈な不安が彼を襲う。実は、これは全て役員達が仕組んだシナリオではないのかと。本当は既に仲間達は彼らの手によって処分されているのではないかと――――
「失礼。僕はデニム・シュタインバーグと言う者です。実は今朝方、この方角から大量のモンスターが移動していたので、訳ありかと思い伺ったのですが」
 しかし、そんな懸念をデニムはウインクひとつで消し飛ばした。同時に、強い目の光が訴える。これから先、自分が何を言っても狼狽るな――――と。
「そ、そうですか。いやお恥ずかしい。実は‥‥」
 今のデニムは軽装ではない。その手に聖騎士の槍と聖騎士の盾を構え、その身をブリガンダイン、クリムゾン・サーコートで包んでいる。誰が見ても、立派な騎士だ。その外見に気圧され、役員達は遜った物言いで説明を始めた。
「‥‥事情はわかりました。ご安心下さい。彼らはもうこの地には赴かないでしょう」
 デニムの台詞に、役員達が色めき立つ。彼らはこう解釈した。
「では、貴方が処分を?」 
「処分。その言い方は少々語弊があります」
 そして、デニムも敢えてそれを否定せず、むしろ後押しするような言い方で、彼らを誘導した。
 しかし、実際は役員達の認識は誤っている。
「彼らはもう、安住の地へ向かいました。誰の手にも届かない、安らかな地へ」
 安住の地。
 それは、決して天に召された者の行き着く場所ではない。
 それを知るマルクとマリーは、顔を覆いつつ、深々と頭を垂れた。
 もう二度と共に過ごす事のない、仲間達の未来を想い――――