【探求の獣探索】遙かなる杯 −獣への道−
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:うのじ
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月26日〜12月01日
リプレイ公開日:2005年12月06日
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●オープニング
「神の国アヴァロンか‥‥」
宮廷図書館長エリファス・ウッドマンより、先の聖人探索の報告を受けたアーサー・ペンドラゴンは、自室で一人ごちた。
『聖人』が今に伝える聖杯伝承によると、神の国とは『アヴァロン』の事を指していた。
アヴァロン、それはケルト神話に登場する、イギリスの遙か西、海の彼方にあるといわれている神の国だ。『聖杯』によって見出される神の国への道とは、アヴァロンへ至る道だと推測された。
「‥‥トリスタン・トリストラム、ただいま戻りました」
そこへ円卓の騎士の一人、トリスタンがやって来る。彼は『聖壁』に描かれていた、聖杯の在処を知るという蛇の頭部、豹の胴体、ライオンの尻尾、鹿の足を持つ獣『クエスティングビースト』が封じられている場所を調査してきたのだ。
その身体には戦いの痕が色濃く残っていた。
「‥‥イブスウィッチに遺跡がありました‥‥ただ」
ただ、遺跡は『聖杯騎士』と名乗る者達が護っていた。聖杯騎士達はトリスタンに手傷を負わせる程の実力の持ち主のようだ。
「かつてのイギリスの王ペリノアは、アヴァロンを目指してクエスティングビーストを追い続けたといわれている。そして今度は私達が、聖杯の在処を知るというクエスティングビーストを追うというのか‥‥まさに『探求の獣』だな」
だが、先の聖人探索では、デビルが聖人に成り代わろうとしていたり、聖壁の破壊を目論んでいた報告があった。デビルか、それともその背後にいる者もこの事に気付いているかもしれない。
そして、アーサー王より、新たな聖杯探索の号令が発せられるのだった。
薄暗い部屋の中で、一人の青年が首を傾げていた。
「世の中が動いているっていうのに、俺はなにをしてるんだろう‥‥。前に冒険者に言われたせいでついつい、街で悪さが無いか気にしてしまうんだよなぁ‥‥最近よく見かけるというのが、うますぎる儲け話を子供達に持ちかけるとか、こそ泥みたいな詐欺ばかりだし‥‥。犯人は確か、黒いローブを身にまとってる妖しい男‥‥‥」
その時、部屋の扉が開いた。
入ってきたのはやせ形の背の大きな男で、ローブを身にまとっている。
それを見た青年は、考えていた疑問をぶつけてみた。
「よう、ひさしぶり。ところで、最近、子供相手に詐欺なんて‥‥」
「詐欺? 時代はもうそれどころじゃねー!」
ローブの男は急に叫び出すと、どん、と一枚の羊皮紙を机の上に置いた。
「なんだ、これは?」
「ポエム!」
男はそう即答し、言葉を続けた。
「これをみてピンときたね。時代はポエム! キャッチーな詩を響かせるだけで市民の心はめろめろよ! 詐欺なんてしてる暇はもうありません」
大暴走する男を無視して、青年は羊皮紙を眺める。
「どれどれ‥‥ポエムっていうか‥‥おい、これをどこで手に入れたんだ?」
「ん? さっき、ぶつぶつと、イブスウィッチに行く、とか独り言を言ってた妖しい奴が落としたから拾っといた」
「どんなやつだった?」
青年の厳しい口調につられて真剣になるローブの男。
「妖しい奴だった。サーカスの団員なのか、短剣を両脚にぶら下げてて、ちょっと変わった猿を手懐けていてな、その猿、手には変のふいごをもっていました。その後、慌てた様子で何人かと合流して、どこかに行った。その時、この紙を落としたので、拾いました」
「ありがとう。これは一大事かも知れない。冒険者ギルドに伝えてくる! これ、もらうぞ」
そう言うと青年は、机から羊皮紙を鞄の中に入れ、駆け出した。
「ああ、ポエムのことは、後で聞いてやるから」
圧倒されたローブの男は、ぽかーんとした後、慌てて手を振って送り出す。
「おう、頼むぞ。いってらっしゃい」
ここは遺跡の深部。
澄んだ空気ときらびやかな壁は、凍えるほどの寒さのためだろうか。
いや、凍えるほどではない、実際の話、凍えているのだ。
数人の男は、すでに息はなく、有り得ないほどの薄着の姿で、壁にもたれかかるように崩れ落ちている。
まだ息がある者は、二人分の衣服をまとい何とか寒さをしのいでいる。
「くそっ。火の強さが足りないんじゃないのか? 全然だめだ。もっと強く!」
両脚に短剣を下げた冒険慣れしてる風の男が、異形の猿に命令する。
異形の猿は、手にしたふいごから、一生懸命に炎を作り出すが、いっこうに暖かくなる兆しを感じることは出来ないでいた。
「早くしないと、冒険者どもに追いつかれちまう。急げ! もっと火力をあげるんだ!」
大きく燃え上がる炎の影で、そっと覗いている者たちがいた。
覗いていたのは、それぞれのエレメントを司る精霊、小さな蝶のような羽を持った小人だった。
●リプレイ本文
●謎を解くための出立
ここは、イブスウィッチの遺跡。
一斉に突入した騎士や冒険者達は、いつしかそれぞれの目的の場所に別れて行った。
岩肌が露出した洞窟を、ローガン・カーティス(eb3087)が照らす。
「完全な天然の洞窟っていうわけでもなさそうだね」
先頭にいるフォーレ・ネーヴ(eb2093)が、照らし出された岩肌を見て、呟く。
「なぁ、みてみて。どんどん寒うなっとる」
藤村凪(eb3310)がふぅと、わざと白い息をはく。
「確かに寒くなってきているな」
「ほんと、みんなが防寒具持ってきてて、よかったよね」
寒さの対策はばっちりできていたが、それでも寒いものは寒かった。
「まったく。防寒具が無かったら、と考えるとぞっとする」
ヒューイ・グランツ(ea9929)が答えながら、なぜか、一行と正反対のほうに歩いていく。
「ヒューイさん、そちらではありません。こっちですよ」
ソフィア・フェイスロッド(ea5029)が優しく誘導する。
「む? ここで迷ってはいかんな‥‥」
「真ん中にいるのにはぐれるなんて、器用やなぁ。すごいわ」
「‥‥いや、器用といわれてもな。これでも、困っているのだよ。治せるものなら治したい」
「そうなん? もったいない」
和気藹々と話しながらも、どこか真剣な一行。
先についているはずと言われる敵たちが罠を仕掛けているかもしれない。
ソフィアからの情報で、先の聖壁探索で悪魔が妨害に現れたことを知っている一行は慎重に進んでいく。
●炎のデビルへの挑戦
「みんな、気をつけて」
フォーレが指にはめた指輪の異変に気がついた。
指輪の中の石の蝶が羽ばたいている。つまり、近くにデビルがいるのだ。
息を殺し、耳を澄ます。
フォーレが忍び足で先行すると、先には、立っている男が一人と、異形の猿が一匹おり、猿は通路に炎を吹き付けていた。そして、足下には倒れてる男が数人。
「あれがデビルだね、気をつけないと」
帰って来たフォーレが、状況を説明する。
「倒れている男達は‥‥ゾンビでしょうか?」
「うーん、そうかもしれませんわね。凍えてるだけなら、いいのですが」
「やはりデビルか。おそらく、それはグザファンだな。ふいごから火の飛ばしてくる」
「なるほど。うちもきー引き締めていかんとな」
ヒューイはシルバーアローを弓につがえ、凪も持っている魔法の刀を抜く。
「私もできるだけ協力させてもらいますわ」
ソフィアもホーリーシンボルを手に持ち、心を集中させる。
「みんな、こっちにきてくれないか? 飛び込む前に魔法の援護をかけさせてもらえると助かる」
ローガンはそう言うと、炎の力を行使し、士気を高める魔法を自分に、そして皆にかけていく。
戦いの火蓋を切ったのは、ローガンの炎だった。
ローガンの放った炎の玉は、洞窟の奥の方、相手よりかなり後方に命中する。
しかし、洞窟という閉鎖空間のため、左右に広がりきれなかった爆発はその分、前後に大きく広がる。
後ろからいきなり敵が現れ、振り向き構えたところに、逆に背後からの強烈な炎に晒される男とグザファン。
男はかなりのダメージをうけたのか、片膝を落とすが、グザファンの方は何事もなかったかのようにかまえている。
「火を使うデビルだけあって、炎は効かないというわけか」
凪が単身相手にむかって前に飛び出し攻撃をしかける。
凪の初太刀は、グザファンに命中するが、傷が浅いことが手応えでわかった。
そして、二の太刀は、グザファンにさけられた。
「うーん、ちょっと、長くかかるかもしれへんわ」
グザファンの爪がうなろうとしたとき、ソフィアの声が響いた。
「不浄は失せなさい」
グザファンの身体が白い光りにつつまると、光りの中から苦痛の声が聞こえる。
光りが消えると、痛みにこらえながら、再度、グザファンの爪が振るわれる。
凪に命中するが、こちらも、傷は浅い。
爪の攻撃はあきらめたのか、今度はふいごを口にもってくるグザファンの胸に深々と銀の矢が突き刺さった。
「させんよ!」
ヒューイの相手の弱点を狙う一撃が命中したのだ。
体勢をととのえた男に、フォーレからの投石が命中する。
「デビルには効かないけど、人間になら効くからね」
男は、フォーレをにらみつけると、腰の短剣を引き抜き、両手に一本ずつ構え、そのまま、フォーレに投げつける。
鋭く急所を狙った短剣が、二本同時に、襲い掛かる。
避けようがないとすら思える男のナイフを、フォーレは1本を完璧に回避する。
しかし、二本目は回避しきれず、肩に深々と突き刺さる。
「これでどうだ!」
銀の矢の2本目がグザファンに命中する。
ヒューイの放った銀の矢は2本とも、それぞれが深手になっていた。
魔法により神経が集中し、普段よりも、狙いが鋭くなっていたのだ。
そのヒューイにむかって、グザファンが炎を打ち出す。
異界の炎は、たった一発で相手に深い傷をあたえる。
その火力、威力は先ほどのローガンの炎とほぼ同等。
「ヒューイ!」
「ヒューイさん!」
「大丈夫、まかせて。ソフィアさんはデビルを!」
ローガンとソフィアがヒューイに駆け寄る前に、傷を負っているフォーレが、ヒューイに駆け寄る。
手にもった魔法の薬のうち一つを手渡し、お互いにそれぞれ回復をする。
男もグザファンに応援に入ったため、凪ひとりではカバーしきれないず、ソフィアも凪の回復に追われ、攻撃をする余裕もなくなっていた。
しかし、すぐに戦線に復帰したヒューイとフォーレの攻撃が男に集中させることげ、男を倒す。
残ったグザファンとの戦いは長期戦になった。
一撃の攻撃力はグザファンの方が上だった。それでも、洞窟で炎を吐く力を使いきっていたのか、徐々に弱まっていき、凪の渾身の一撃を身にうけたとき、グザファンは消滅した。
●氷れる謎への挑戦
戦闘がおわり、男たちがいたところに来ると、一行は顔をしかめる。
目の前の通路はとても長く、その先には白く凍った大きな扉がある。
しかし、それよりも、この通路が問題だった。
今までも決して寒くなかったわけではないが、この通路は、段違いに寒いのだ。
「まさに『凍え、閉ざされた』だな」
ローガンが短く言う。
「ここが、『世を構成する力』なのでしょうか? 精霊や神の魔法を使うのでしたら、先ほどの戦闘で使っていますが、まったく反応がありませんでしたし」
「おそらく『世を構成せし力』とは、火・水・風・地・陽・月の六種の精霊のことだろう。この通路の奥のほうに蝶の羽を持つ妖精達が隠れているようだな」
ソフィアの疑問に答えるローガン。
「あー、ほんとや。隠れとるわ」
「確かに隠れてるな。さて、どうやって出てきてもらうか」
目を細めて探しているソフィアをよそに、凪とヒューイも遠くの物をよく見えるようで、ローガンに同意する。
「エレメンタラーフェアリーは照れ屋で見つかると逃げるものだそうだ」
「賑やかな所に、寄ってきてくれるんじゃない? 私、歌うから、みんなで踊ろう? 身体も暖まるし」
「暖かくするなら、お酒もあるけどー」
ローガンの台詞にフォーレと凪が答える。
暖かくなるのはありがたいが、と言いながら、ヒューイが一歩前に進み出る。
「まずは、話しかけてみよう。‥‥‥精霊達よ、私の話を聞いてくれないだろうか?」
静かな洞窟にヒューイの声が響く。
「あなた達聖霊には一切危害を加えない、どうか信じて欲しい」
もう一歩踏み出すヒューイに容赦なく襲い掛かる猛烈な冷気。
「‥‥‥許されるならあなた達と共にこの遺跡を進みたい、お願いできるだろうか?」
もう一歩踏みだし、そこで歩みを止め、精霊たちの返事を待つ。
「‥‥ヒューイさん、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だと信じたいな。もしダメなら‥‥」
「ダメなら?」
「『道と道を共にする』ことになる。つまり、文字通り凍えた道、目の前の通路と同じ結果になると言うことだろう」
「凍えて‥‥死ぬ?」
「‥‥‥」
「それはあかんやん。ヒューイさん一人だけ、犠牲にはできへんし」
凪はあわてて、ヒューイの横まで通路を歩く。
ふと、遠くから覗いている妖精たちの一つと目が合う。
寒さのため、うまく動かない顔を強引に笑顔にし、優しく手を振る凪。
あわてて頭を引っ込める妖精達だったが、そろそろと顔をだしてくる。
今度はヒューイと凪だけではなく、5人全員が通路の真ん中に立って、それぞれ凍えながらも、妖精たちに暖かい笑顔をむけた。
「‥‥‥なんで、ここにいるの?」
しばらくして、小さく疑問の声が聞こえてきた。
「この先に進みたいんだ。手伝ってもらえないかな?」
「この先の人に用があるの?」
「うん、そうや」
「でも、この先の人と、きっとお話はできないよ?」
「それでもいいの」
「‥‥私たちが手伝えるの?」
「ああ、君たちにしかできないことがあるんだ」
「‥‥何をしたらいいの?」
「まず、お話しをしましょう」
「歌って踊ったりとかしよう」
「そうやね、食べるかわからんけど、食べ物もお酒もあるし」
不意に通路の先が光りだし、あふれ迫ってきた。
光りに包まれた一行は、その心地よい暖かさに癒やされ、そして光りが通り抜ける。
周りの空気が変わっていた。
人を拒むような冷気がなくなり、氷の通路のはずなのに、どこか暖かい空気になっていた。
目が慣れてくると、周りには、妖精たちが舞い、一行を祝福する。
「ありがとう、妖精さんたち」
皆も思っていたことだろう、素直に礼を言ったソフィア。
「ううん、あなたたちなら、この奥にいる人を優しくしてあげれると思うから」
妖精が通路を先導し、扉の前まで導かれる一行。
先ほどまで凍っていた扉が、静かに、厳かに開かれた。
●謎を解くための帰還
扉をくぐると、その中は、光に満ちていた。
氷なのか、クリスタルなのか、壁、床、天井、全てが光り輝いているのだ。
「奥にいる人?」
辺りを見回すと、部屋に入って左側の壁側に、女性の像が立っているのが見えた。
「あの像が、先ほど妖精が言っていた人なのでしょうか?」
「探求の獣がいるって話しだったけどね」
ソフィアが言うと、フォーレが答え、周囲を警戒しながら、像に近寄る。
「この女性はマビノギオンって言うのかな? 像の足下の床に書いてあるし」
フォーレの言葉に、ローガンが反応する。
「マビノギオン? たしかに、そう書いて有るけど、その下の絵は何かの杯の絵かな? まさか聖杯? あ、この部屋の床‥‥‥模様の用に見えるけど、これ、この国の地形じゃないか?‥‥ここはキャメロットにそっくりだ」
ローガンの推論にそれぞれが質問していき、それに答えることで、答えを煮詰めていく。
「どういうことなん?」
「分からないけど、目的地は、今いるイブスウィッチではなく‥‥」
「マビノギオンだってこと?」
「もしくは、マビノギオンに聖杯があるのか。そして、マビノギオンの場所が‥‥」
「この像の立っている場所?」
「かも」
その時、女性の像が崩れ去った。
あたかも、その結論に達するのを待っていたかのようなタイミングで。
「もどろう! このことを早く外に伝えないと」
今まで床を見ていたローガンが立ち上がり、宣言する。
「あ、まってください。像の欠片の中に、不思議な物があります!」
ソフィアが、帰ろうとする一行を呼び止める。
彼女が見つけたのは、女性の像の一部だ。
その胴の部分だけはまったく崩れずに、いや、クリスタルの箱に守られて残っていたのだ。
「もって、帰‥‥りますよね?」
ソフィアの言葉にうなずく一行。
聖杯への手がかりになるであろう謎、そして、守られていた謎の女性の胴。
一つの謎を解き明かした一行は、今度は二つの謎をもって、外に帰っていった。
しかし、世界の謎は徐々に解け始めていたのだ。