●リプレイ本文
●涼しげな出発
夏はもう終わりに近づき、涼しくなりつつある街道。
冒険者一行は、依頼の目的地へ向かい街道を進んでいた。そして、目立っていた。
なぜ、目立っているか。その原因は、含み笑いをしている老人、カメノフ・セーニン(eb3349)にあった。
「むほほほほ」
「どうしたんだ、爺さん。暑さにやられて変になったか?」
イクス・アーヴェイン(eb0266)の言葉はゲルマン語だが、カメノフはゲルマン語も理解できた。
「違うのじゃよ。出発の時に、おじいちゃ〜ん頑張ってアルよ、ぎゅって、抱きしめられてしまってのぉ。もてる男は辛いわい」
彼は出発前に抱きつかれたことで、浮かれまくっていたのだ。
そして、カメノフは、怪しいふらふらした動作で、小声で何か言い、最後に、ほれ、ぴらっとな、と気合いを入れる。
すると、忌野貞子(eb3114)の制服が、何かに掴まれ、一瞬だけスカートがめくれた。
貞子に、スゥっとした目で見つめられると、カメノフはとぼける。
「いやいや、風じゃよ風、のう、イクス?」
「‥‥‥そう」
とくに追求せず、一言だけ答える貞子のうっすらとした笑顔を向けられたカメノフは、ゾクリと寒気を感じた気がした。
一方、スカートめくりの現場を見てしまったイクスには、背後から、殺意にも似た視線が突き刺さっていた。
アズリア・バルナック(eb2045)の視線である。
「ねぇ、早く行こうよー」
少し先を歩いていたクララ・ディスローション(ea3006)が、一行を急かした。
夏はもう終わりに近づき、涼しくなりつつある街道。
なぜか、二人の男は汗をかいていた。
●倉庫の中で
到着した一行は、バリーズ商会の倉庫の管理人と一緒に、さっそく倉庫の中の確認を始めた。
「ねぇねぇ、この箱の中には何が入っているの?」
熱心に質問をするクララに、管理人は一つ一つと答えていく。
「はい。この箱の中は貝殻ですね」
「‥‥この箱は、ウズラですね」
管理人の答えを聞きながら、レオパルド・キャッスル(eb3351)は、ジャイアントである自分が動けるスペースを確保していた。
「俺が自由に動ける大きさの倉庫でよかったぜ」
箱を移動させていると、リゼル・シーハート(ea0787)が近づいてきた。
「これを持ってきたんだけど、俺じゃ重くて使えないから、使ってくれないか?」
そう言い、リゼルは、Gパニッシャー・インセクトスレイヤーを渡した。
「昆虫に効果的な武器か」
レオパルドが、受け取り、手にした、ちょうどその時。
「ねぇ、この箱はー?」
クララが少し小さめの箱を指して質問した。
「えーと、この箱はゴ‥‥、薬に使う乾物だそうです」
レオパルドは手の中のGパニッシャーが煌めいたように感じた。
「いっぱいあるねぇ。なるほど、なるほど、壊しちゃいけないものばかりなんだね。‥‥メモメモ」
そう言いながらメモを取るクララ。
しばらく倉庫の案内が進むと、レオパルドが管理人に尋ねた。
「乾物があるってことは、水は気をつけた方がいいのか?」
「はい。そうして貰えるとうれしいです」
「じゃあ、乾物の箱は、俺が一カ所にまとめておくよ」
「‥‥それなら、私の魔法は、まとめたところに、行かないようにするわ」
「私の解毒剤、床の真ん中に置いておくね」
「そもそも、サソリってのは、どういう生き物なんだ? 説明してくれ」
いつの間にか、しっかり戦闘モードに入っているのだった。
●サソリ登場
「‥‥来たわ」
今まで俯いていた貞子が、顔を上げ、呟いた。
「見つけたのかの?」
カメノフが魔法の準備を始める。
「‥‥ええ。そうね、見つけたのよ」
なんとも不思議な答えをする貞子。
その時、トラップを仕掛けようと遠くにいたクララの声が聞こえた。
「いたー。サソリって、尻尾のついたカニだったんだねっ! だれか、来てー」
見ると、エチゴヤ印のマントで、バサバサとクララの姿があった。
「おう、今行く」
重厚な鎧で身を固めたレオパルドが応援に駆けつける。
「こいつがサソリか。確かにカニに似てるな。しかし、やっかいそうな相手だ」
クララの前に立ち、サソリと対峙したレオパルドは、そのサソリの動きに目を見張った。
サソリは、ゆらりゆらりと尻尾を揺らし、その動きはまるで、鎧の隙間を狙う熟練した戦士の動きだったのだ。
レオパルドは、鎧に任せた防御に頼るのはやめ、慎重に構え、一番危険と言われていた尻尾の部分をGパニッシャーで叩きつぶす。
尻尾がなくとも、はさみで攻撃してきたサソリの一撃を、鎧ではじき、レオパルドは、続けざまに、今度は大きな足で踏みつける。
「一匹目」
「こっちにもいましたわ」
ごちそうを見つけたかのような声を出したのは、アズリアだった。
サソリとアズリアはすでに高揚し、戦闘状態に入っていた。
慌ててリゼルが近づき、魔法の歌の準備をはじめる。
ずっと考えていた興奮を押さえるように呼びかける歌を始めようと思ったとき、あることに気が付く。
(「サソリ、いや、昆虫に、精神はあるのかな?」)
動物には効果があるが、昆虫に効果があるかは不明だった。
とっさの判断で、呪文を中断したリゼルは、マントでサソリを捕らえる行動に切り替えた。
シュっと、サソリの尻尾が、アズリアを襲う。
何とか捕らえようとしていた隙をつかれた形だ。
間一髪のアズリアを、イクスが守るように立ち、ガードする。
よけいなことをするな、と抗議するアズリアだが言葉が通じないためか、まったく気にしないイクス。
「冒険始めてから骨戦士にオーガに今度はスコーピオン‥‥まったくついてないぜ‥‥」
愚痴りながらも、アズリアをきっちり守るイクスだった。
アズリアとイクスのほうに気を取られていたサソリに、後ろかマントが被せらる。
「これで、二匹目。二匹目は捕獲かな」
リゼルが自分のマントをかけ、逃げられないように重石を置こうとした時、
「ふっふっふっふ」
響いてくる不敵な笑い声。
「虫風情がこのわたくしにたてつくなどいい根性ですわね!」
アズリアが、マント越しにげしげしげしと踏みつぶす。
牙、ではなく尻尾を剥いたサソリに天誅を下したのだ。
「あ」
あまりの行動に呆然とするしかないイクスとリゼルだった。
「こっちにも、来たわね」
目の来たサソリを前に、呟き魔法の準備をする貞子。
カメノフも同じく魔法の準備をする。
貞子の魔法が先に完成し、水の塊がサソリの横を打つ。
砂漠育ちのため水になれていないのか、びくっと体を一瞬、止めるサソリ。
そこにカメノフの魔法も完成する。
見えない何かが、動きを止めていたサソリを捕らえ、持ち上げ、準備してあった箱に丁重に入れる。
すかさず蓋をしめるカメノフ。
「一匹は捕獲完了じゃな。さて、他のサソリもこううまく行けばいいがの」
●メロディーが必要でした
「本当にありがとう。それに、冒険者ギルドだけじゃなく、酒場でまで人員を募集してくれたんだってね。助かったよ。サソリを捕まえてくれたおかげで、安心して倉庫を使うことが出来る」
バリーズ商会のガレスが倉庫に到着したときには、サソリは捕らえられた後だった。
礼を言うガレスに、レオパルドが答えた。
「退治したのもあったけどな。しかし、ほんとにこんな物が喰えるのかね? 殻しかないじゃないか」
潰れたサソリの屍骸をつまみ上げながら言うレオパルドに、クララが続いた。
「ねぇねぇ、ガレスさん、サソリってどうやって料理するの?」
「揚げ物にするみたいだけど、よく知らないんだ」
「むぅ。じゃあ、どんな味がするの?」
「いや、私も食べたことがないんだよ。ちょっと怖くてね」
「むぅ‥‥私、食べてみたいなぁ」
「いや、あ、それは、ちょっと」
じーっと見つめるクララに、見つめられて困るガレス。
それを見ていた貞子が、カメノフに尋ねた。
「‥‥酒場。そう酒場で、可愛い女の子募集してたけど、私って‥可愛い‥?」
「お、おお、危険な香りがするがかわいいのう」
少しびくっとしながら答えるカメノフ。
「そう、可愛いんだね‥‥うふふふ」
貞子は、かわいいと答えたカメノフを、ぎゅっと抱きしめた。
「ぬおっ! うほほほ、貞子ちゃん、もっとギュっとしてくれんかのぉ。幸せじゃわい。できれば、ぱ、ぱふぱふも‥‥」
幸せなのか、不幸なのか、恍惚としながらも少しだけ歯をガタガタと鳴らすカメノフ。
その一方、捕らえたサソリを前にして、仁王立ちしている女性が一人。
「わたくしの美しさの前にこのようなものは食さなくてもよいのでしょうがまぁ‥‥頂くとしましょう」
「やめておきなよ、せっかく捕まえたんだから、依頼人に返してあげたほうが喜ばれると思うよ」
生のままのサソリを掴もうとしていたアズリアを、リゼルが止める。
「しかし、我が美貌のためには」
動きを止めたものの、まだ未練がある様子のアズリア。
「それに、今以上精力をつけてどうするんだい?」
呆れたようにいうリゼルに、今度はアズリアが鋭く反応した。
「せ、精力とは、何を考えているのだ。美貌のためだと言っているではないか。ま、まったく‥‥」
一人、顔を真っ赤にして怒り出すアズリアを見て、イクスが軽く笑った。
「イ、イクスまで、そんなことを考えていたのか! そういうふしだらな考えだから‥‥」
今度はイクスに怒りだし、バンバンとイクスを叩き始めるアズリア。
イクスは、誤解を解こうとするが、残念ながら、今は通訳をしてくれる人がいなかった。
一方、イクスに助けられた形になったリゼルは、苦笑しながら眺めていたが、しばらくたってから、そろそろイクスを助けてあげようかと、準備を始めた。
準備するのは、魔法の歌。
サソリに使うはずだった興奮を抑えるように呼びかける歌を。