【聖人探索】埋もれぬもの
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:うのじ
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月08日〜09月13日
リプレイ公開日:2005年09月16日
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●オープニング
――それはオクスフォード候の乱の開戦前まで遡る。
「王、ご報告が」
メレアガンス候との戦端が開かれる直前のアーサー王を、宮廷図書館長エリファス・ウッドマンが呼び止めた。
軍議などで多忙のただ中にあるアーサー王への報告。火急を要し、且つ重要な内容だと踏んだアーサーは、人払いをして彼を自室へと招いた。
「聖杯に関する文献調査の結果が盗まれただと!?」
「王妃様の誘拐未遂と同時期に‥‥確認したところ、盗まれたのは解読の終わった『聖人』と『聖壁』の所在の部分で、全てではありません」
エリファスはメイドンカースルで円卓の騎士と冒険者達が手に入れた石版の欠片やスクロール片の解読を進めており、もうすぐ全ての解読が終わるというところだった。
「二度に渡るグィネヴィアの誘拐未遂は、私達の目を引き付ける囮だったという事か‥‥」
「一概にそうとは言い切れませんが、王妃様の誘拐を知っており、それに乗じたのは事実です。他のものに一切手を付けていないところを見ると、メレアガンス候の手の者ではなく専門家の仕業でしょう」
「メレアガンス候の裏に控えるモルゴースの手の者の仕業という事か‥‥」
しかし、メレアガンス候との開戦が間近に迫った今、アーサーは円卓の騎士を調査に割く事ができず、エリファスには引き続き文献の解読を進め、キャメロット城の警備を強化する手段しか講じられなかった。
――そして、メレアガンス候をその手で処刑し、オクスフォードの街を取り戻した今、新たな聖杯探索の号令が発せられるのだった。
聖杯探索の号令が発せられたのを聞いた冒険者ガルドは、早速、ギルドで探索の賛同者を募った。
目的地はキャメロットから2日のところにあった教会。土砂に埋もれてしまったため、現在は廃墟と化しているが、この教会の奥にあった絵、それが文献によると聖壁の可能性があるというのだ。
彼は、一度その場所に行ったことがあったため、これ以上無い適任者だった。
ガルドの呼びかけに集まったメンバーは8人。
彼らは綿密な打ち合わせをし、意気揚々と出発をした。
ところがである。
出発をしたはずの冒険者たちの死体が発見されたのだ。
死体は、深い霧の中にあり、彼らの手にあるはずの愛用の武器は跳ね飛ばされたかのように落ちていた。
唯一死体がなかったのは、旅のクレリックを自称した男だった。
亡くなった冒険者たちの似顔絵を見た門兵の話では、同じ顔の男たちがたしかに出発したと言う。
しかし、死体が発見されたのは門の中だ。
考えられるのは一つしかなかった。
ガルドとその仲間は殺害された。
そして何者かに取って代わられたのだ。
残酷な知らせは、ガルドの妻の元にも届けられた。
ランと言う名のまだ若い女性だった。
ランは、知らせを聞くとうっすらと涙を浮かべたが、歯を食いしばり、きっぱりと言った。
「お願いです。夫の仇を取って下さい。そして、夫が探していた物を、無事に探してあげて下さい。あの人の意志が埋もれたままにならないように」
ランは、蓄えの中から依頼料をギルドに渡した。
ギルドは、聖杯探索の依頼は国王からの依頼でもあるから、と受け取りを断ったが、彼女は聞かなかった。
彼女は、依頼料と共に、一本の変わった形をした短剣を取り出した。
「これは、夫が私にくれたものです。不思議な力があって、私を護ってくれると言っていました。‥‥どうせなら、あの人が持っていて護って貰いたかった‥‥‥。この短剣も持っていってください。そして、依頼を受けて下さる方に貸してあげて下さい。その方が無事に帰ってこれるように」
●リプレイ本文
●警戒する夜
星が降るように美しい晴れた夜、一行は野営をしていた。
聖壁探索を良しと思わない者からの襲撃を避けるために、見張りをしていたエルネスト・ナルセス(ea6004)は、今夜までの事を振り返っていた。
敵に追いつこうとしていたが、今まで追いつけずにいる。
しかし、追いつけなかったものの収穫はあった。
スティーヴン・ハースト(ea0341)が、この野営地の跡を発見したおかげで、一行は、相手と同じ場所に向かっている確信を持つことができたのだ。
そして、街で情報収集をしていたグループと合流し、情報を交換する事もできた。
先ほどまでシルリィ・フローベル(eb3468)は、友人と調査した内容について説明していた。
依頼主であるランに、夫ガルドの日記を見せて貰うことができ、その中にあった冒険日記のおかげで、教会の場所を詳しく知ることができたのである。
そして、ランから短剣を預かってきていた。
持ち主を護ると言われていたその魔法の短剣は、受けながす事を目的としている短剣だった。文字通り、護るための武器だったのだ。
「でも、自称・旅のクレリックのことはわからなかった」
軽く首を振りながら、シルリィは報告を終えた。
「その、自称・旅のクレリックのことだが、似顔絵を貰ってきた」
シルリィの報告を受けて、同じく情報収集をしてきたヴァレリア・フェイスロッド(ea3573)が、一枚の絵を取り出し、続ける。
「とはいえ、相手が幻術や変装を使うなら、意味がないかもしれんが」
ヴァレリアが持ってきた似顔絵はよく描けているが、旅のクレリックという感じを受けるだけだった。強いて言うなら、多少怪しいかも知れない程度。そのため、変装ではないか、と思ったのだ。
「幻術や変装の事ですが、少しおかしな点がありました」
ゆっくりと、しかし、はっきりと言ったのは、レザード・リグラス(eb1171)だ。
「門兵に聞いたのですが、彼らの変装は、身長がおかしかったそうです。ドワーフのようだった、と言っていました。普通の変装ではないような気がします」
バチッと燃える木が音を鳴らす。
エルネストは、思考を中断し、自分が仕掛けた罠をもう一度確認すると、交代の相手を起こした。
「‥‥交代の‥‥時間ね」
起こされた忌野貞子(eb3114)は、持ってきたスコップを杖代わりに立ち上がり、周囲を見渡した。
引継を終え、横になったエルネストは、コマドリのペンダントにキスをし、一言呟いてから目を閉じた。
「‥‥ミイラ取りがミイラにならないように、心掛けるか」
●朽ちた教会
目的地までは何事もなく到着することができた。
土砂が寄せられて、教会の入り口が半分開けられていた。
「あーあ、先にお客さんが来てるみたいだな。しかし、作業が雑なのが気にいらねぇな」
マレス・イースディン(eb1384)は、軽口を叩きながらも、腰の剣を確かめた。
「入り口周辺には、いないようだ。中にいるのは確実だろう。大勢の足跡があった」
スティーヴンが警戒をしながら様子を探って帰ってきた。
「中では、やはり発掘作業中なのかの。作業の音が聞こえるとよいのじゃが」
ザンガ・ダンガ(ea7228)が答えると、レザードが目を閉じ、音に集中にした。
「音は、‥聞こえますね。近くまで行けばよく聞こえると思います」
耳をすませながら、一行は静かに近づいていく。
そして、徐々に音が聞こえてきた。
普通では聞き漏らしてしまうような音だったが、確かに聞こえたのだ。
シルリィは音と会話する魔法を使い、小さな音に慎重に話しかける。
『いったい、君はどこからきたの?』
はやる気持ちを抑えて、静かに音からの返事を待つ。
『僕は、下のほう。あの建物の地下から来たんだよ。スコップと土から生まれたよ』
建物の中へ入り、地下へ向かう。
地下に続く道は、土砂が片づけられていたため、すぐに分かった。
「おかしな匂いがするな。気をつけたほうがよいだろう」
ヴァレリアが、走りながら警告をだす。
一行が、地下への階段を抜けると、広い空間があった。
そこでは、一人のクレリック風の男と、7人のドワーフを思わせる背丈の男がまっていた。
「早かったな。俺達が聖壁を見つけてからくれば良かったのにな。お前達が死なずにすんだんだ」
クレリック風の男がそう言うと、残りの男たちは、持っていたスコップを放り投げると冒険者たちに有無を言わさずに攻撃を仕掛けてきた。
戦闘の開始はエルネストの魔法だった。
エルネストは素早く魔法を唱えると、水の塊を生みだし、一人の男にぶつける。
続けて、今度は貞子が、同じく水の塊を、別の男にぶつける。
二人の男は吹き飛ばされるものの、無傷で再び立ち上がる。
ザンガは、剣で敵を斬りつけると、相手は予想以上に大きな悲鳴を上げた。
ザンガが手にしていた剣は、聖剣「アルマス」。デビルスレイヤーの名を持つ剣だった。
「やはり、デビルじゃったか」
ザンガの声に、ちっと、舌打ちをしたのはクレリック風の男だった。
「魔法の武器を持ってきたか。しょうがない。変身を解いて、真剣に戦え」
命令を受け、残りの男たちの姿が揺らめき、異形のモノになっていく。
その姿は、もはや人ではなく、大きな獣、醜悪な鼠の様な姿のそれは、まさにデビルだった。
「見とれている時ではあるまい」
ヴァレリアは、変身を解いてる最中の敵に向かって突撃を仕掛ける。
彼女が手にしている剣も、また魔力を帯びていたため、相手に十分の打撃を与えることができた。
ヴァレリアは、そのまま、2匹を同時に相手をし、背後からの相手にも的確に対応していく。
スティーヴンも、ヴァレリアに続くが、彼が手にしている武器は、魔法の剣ではあるものの、突撃と重量を利用した彼の戦い方と短剣の相性はあわず、若干不利な戦いを強いられていた。
そして、自らのオーラで全身を強化したマレスがやや遅れて参戦した。
デビルたちは、体勢を立て直すと、尻尾を鞭のように使い、攻撃を繰り出す。
冒険者たちは、尻尾にからめ取られないように気をつけながらの戦闘になったが、それぞれの魔法で強化された武器による攻撃に、魔法の援護を加え、次第に優位な戦いになっていく。
エルネストのスクロールによる電撃が一閃し、ひるんだ相手の懐に入り込んだスティーヴンが、全体重を乗せた一撃を繰り出す。
クレリック風の男は、全身に黒い光りを漂わせると、ザンガに向かって、黒い光りを放った。黒い光りに打ち据えられ、傷を負うザンガ。それでも、目の前のデビルに向かって斬りつける。聖剣の力により増幅される攻撃は的確に致命傷を負わせた。
貞子は、今の魔法ではダメージを与えることはできないものの、衝撃を与えることに専念した。衝撃だけでも、相手の体勢が崩れれば、戦士はそこを見逃さない。マレスの剣が、敵の身体を強烈に捉える。
クレリック風の男は、今度はマレスに向かって、魔法を放った。黒い光りが一瞬マレスの全身を包みこむと、手にした剣からオーラの輝きが消えた。マレスは目の前のデビルに斬りかかるが、オーラの輝きが消えた剣は、デビル相手に攻撃が効かなくなってしまった。
負傷したザンガを確実に癒やすため、シルリィはポーションをザンガに渡す。マレスの攻撃が相手に効かなくなってしまい、早急に援護が必要だからだ。傷を癒やしたザンガは、マレスに襲い掛かっているデビルに突撃した。
レザードが魔法を唱えると、敵のデビルがクレリック風の男に向かって攻撃を始めた。統率がとれていたはずの攻撃が止む。反撃の隙を見つけたヴァレリアが、手にした木剣で敵を倒す。残された最後の敵であるクレリック風の男も、味方であるデビルからの攻撃を不意にうけ、スティーヴンの攻撃がだめ押しとなり、倒れ果てた。
●埋もれぬもの
「もう、大丈夫かな?」
戦闘が終わり、シルリィは、地下の広場を見渡し、罠が無いかと足場も確認した。
「壁には何もないけど、聖壁は一体どこに‥‥あ、みんな、足下!」
「‥‥あ」
床は、土に埋もれていたが、何かが描いてあるように見えた。
「‥‥観るには、土をどかさないとダメね‥‥。スコ‥ップ、重い‥わ」
「おらおら、土いじりといえば俺っちら、ドワーフの専売特許。素人さんはどいてどいて」
貞子が手にしたスコップで、弱々しく土をどかそうとしたが、マレスが押しのけ、元気よくスコップを動かす。
しばらくすると、全貌が見えてきた。
長い年月によって、損なわれてしまってはいるが、それでもその大きさと壮大さは観る者を驚嘆させるものだった。
「獣の絵じゃろうか。‥‥しかし、四肢を拘束されておる。これでは動けまいて。‥‥この字は、ラテン語かの?」
「ああ、古いラテン語だな。‥‥クエスティングビースト、と書いて有るな。単語、いや名詞か?」
ザンガの呟きにエルネストが答えた。
ギルドに帰り、事の次第を報告した。
ヴァレリアがきちんと写しを取っていたため、依頼は大成功だったと言えるだろう。
ギルドで、無事の帰還を歓迎された一行だが、スティーヴンだけは、一人別の場所へ赴いていた。
「この短剣のおかげでガルド卿の敵討ちは果たせました。これからは卿の形見としてあなたを護ってくれることでしょう」
ランのもとへ、夫の形見である短剣を返しに、そして報告に来たのだ。
ランは、感謝を言った後、差し出された短剣をスティーヴンに押し戻した。
「あの人の思いは、二つありました。‥‥そのもう一つは、人を幸せにすること。お願いです。あなたを愛する人に悲しい思いをさせないために、その短剣を受け取ってください。決して、愛する者を残して倒れないでください。あの人が果たせなかった思いを、あなたが、果たせますように」