愚かなる誤解 −夢のマンドラゴラ−

■ショートシナリオ&プロモート


担当:うのじ

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月03日〜10月08日

リプレイ公開日:2005年10月14日

●オープニング

 薄暗い部屋の中に男が二人。
 一人は、やせ形の背の大きな男で、ローブを身にまとっている。
 もう一人は、青年で、まっすぐな瞳が特徴的な、金髪碧眼の男。
「遅い。悪人どもからの、犯罪認可を求める文がまったく届いて来ない! 本当に、悪滅私隊の宣伝をしてきたのか?」
 ローブの男の、イライラした言葉に、若い男が答えを濁す。
「うーん、多分ね。もしかしたら、いろいろ誤解があったりするのかも知れないけど、まぁ、きっと大丈夫だろう」
「‥‥むぅ」
 なにやら考え込むローブの男。
「‥‥たしかに、我が組織について誤解があるやもしれん。人をまとめるときに必要な物は、一つ目にカリスマ、二つ目に知名度、三つ目に金が必要だからな。我々に欠けているものは三つ目、金。つまり、資金力!」
「一つ目と二つ目がスルーされているのが気になるが‥‥」
「ほう、わしにカリスマがないと? はっ、冗談がうまい。‥‥‥まぁ、それはともかく、カネよ、カネ。悪の組織にとって、カネを集める方法といえば、なんですか? それは、ヤク。薬です」
「ヤクって、そういうのはダメだろ。人間をダメにするやつだろ? ダメだよ、それは」
 若い男のツッコミを無視し、自問自答、自己完結し続けるローブ男はさらに続けた。
「ヤクの密売はカネになる。我々はこれから、ヤクの密売を行い、資金力をゲットし、組織的にパーフェクトになる! これは決定事項である!」
 そしておもむろに、汚れた鉢を取り出すと、若い男に手渡した。
「これはな、マンドラゴラの鉢よ。しばらく自宅で栽培して増やしなさい。1つ10Gはくだらないしろものよ」
「‥‥マンドラゴラって、聞いたことあるぞ。ヤクって、本当の薬じゃないか、それは」
「何か問題でも?」
「‥‥いや、問題はない。いいことだしな。がんばってみるよ」

 後日。
「ぎぃぅゃーーーーー!!!」
 言葉にならない悲鳴が、周囲に響きわたる。
「どうしました?」
「大丈夫ですか、アルベルト様」 
 悲鳴を聞きつけ屋敷の者が、慌てて駆けつける。
「‥‥あ、ああ、大丈夫だ。栽培してるキノコが急に叫んだんだ。しかし、すごいうるさいな。栽培は、別荘ですることにするよ」
 アルベルトと呼ばれた若者は、未だ耳に残る叫び声を振り払うように頭をぶるぶると振ると立ち上がり、心配して集まった者たちに、笑顔をみせるのであった。

 さらに後日。
「ぎぃぅぇぁーーーーーー!!!」
「ごぅぇぉぁーーーーーー!!!」
「ぎぉぁゃぇーーーーーー!!!」
 森の中の小屋から響く叫び声の数々。
 あまりにうるさい叫び声に、アルベルトは小屋に近づくことすら出来なくなっていた。
「‥‥‥増やしすぎた」
 うなだれるアルベルト。

 そして、さらに後日。
「あ、アルベルトさん。お久しぶりです」
「こんにちは。お願いに来ました」
 冒険者ギルドの受付に声をかけられ、礼儀正しくお辞儀をしたアルベルトは早速、依頼内容を説明した。
「部屋の壁、床、天井までびっしりと生息しているマンドラゴラ‥‥育ちすぎたマンドラゴラの除去、ですか?」
「危険な依頼ですね。分かりました」
「危険?」
「ええ、あの叫び声は致死性のものですから」
「え? いや、叫び声はうるさいけど、死ぬような事はないですよ?」
「はい?」
 会話が噛み合わない。
 アルベルトの話を聞いてみると、不思議な点があった。
 まずは、毒々しい色をしたキノコだ、という点。
 そして、叫び声をあげはするものの、ただうるさいだけだ、という点。
 受付が知っているマンドラゴラとは、少し違うように思えた。
「うーん、マンドラゴラではない可能性もあると、付け加えておきますね」
 悩みながらも、依頼を何とかまとめる受付。
「違う可能性?」
 その言葉にアルベルトは一瞬立ちくらみを起こした。
「あ、いや、その可能性があるって言うだけですから」
 慌ててフォローする受付だったが、効果がなかった。
「‥‥‥いえ、じゃあ、その方向でおねがいします」
 それだけは口にすると、ショックを受けた足取りで、帰っていくアルベルト。
 そんな、アルベルトを見送りった後、手続きに入る受付。
「アルベルトさんのお家かぁ。やっぱりお金持ちなのかな?」
 独り言を言いながら、手続きをしていると、同僚が顔をつっこんできた。
「何? 狙ってるの?」
「え? いや、そういうわけじゃないんだけど」
 しどろもどろになる受付。
「ふーん、まぁ、いいじゃない。依頼内容にちょっと足しちゃいなさいよ。『依頼人に女っ気がないか探って下さい』って」
「だめだよ、そんなことは。あ、ちょっと、勝手に足さないでーーー」

●今回の参加者

 ea7977 フラグリット・プラタリッサ(30歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb0410 シーラ・ムーンフェイテ(36歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb0697 大鷺 那由多(37歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb3512 ケイン・コーシェス(37歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●爽やかな出立日和
 良く晴れた日の朝。
 最高のピクニック日和だ。
 最高の天気に恵まれ、やる気に満ちているというのに、依頼人の顔色は優れなかった。
「うーん、いい天気だ。よろしく頼むよ」
 そう言い、依頼人の肩をポンと叩いたのは大鷺那由多(eb0697)だ。
「よろしくお願いしますね。お疲れでしたら、元気がでる魔法というものもございますよ?」
 フラグリット・プラタリッサ(ea7977)も続いた。
「あ、いえ、大丈夫です。僕はアルベルトと言います。このたびはお世話になります。よろしくお願いします」
 二人の女性に気を使わせてしまったためか、アルベルトは元気の様子を取り繕うと、深々と頭を下げた。
「こちらこそよろしくな」
 頭を下げ返したケイン・コーシェス(eb3512)が右手を差し出すと、慌てて応じたアルベルトだったが、ケインの力強い握手に、思わず顔をしかめる。
「さて、出発だ。準備はいいな?」
 シーラ・ムーンフェイテ(eb0410)が、皆に尋ねる。
「テントや掃除用具はきちんと揃っていますかしら?」
 フラグリットの質問に、アルベルトは大きく頷いた。
「あたしたちの分もあるとうれしいんだけど」
 那由多の言葉にも、大きく頷くアルベルト。
「よし、じゃあ、出発だ」
 準備が整っている事を確認し、シーラの号令をうけ、一行は街を出発した。

「そういえば、そのキノコ。どこで手に入れたんだ? まさか、どこかの道端の露店や怪しげなフードをかぶった売人から高値で買ったとかじゃないだろうな?」
 道中、それぞれの自己紹介も終わり、目的地に歩きながらの雑談をしていたときに、シーラが軽い口調でアルベルトに尋ねた。
「えっと、友人‥‥いや、知り合いに貰ったんですよ。‥‥確かに怪しげなフードはかぶってるな、あいつ。あ、でも高値ではないです。貰い物なので無料です」
「ふーん。そうか、ならいいんだけどよ。変なのに騙されたんじゃなければ」
「たしかにマンドラゴラは簡単に手に入る物ではございませんね。そう言った詐欺行為が行われているなら、ゆゆしいきことでしたけれど、今回は違ったのですね。よかったです」
 と、フラグリット。
「詐欺行為だって?」
 フラグリットの言葉に反応したのはケインだった。
「もし、詐欺行為があったなら、ここにいるアルベルト氏が見逃すはずがない。正義を行うために、山賊退治の依頼をする人なんだ。悪を滅ぼす部隊を組織して、な!」
「そうなのですか? 私利私欲のためではなく正義を行うために私財をなげうって?」
 ケインの言葉に、目を輝かせるフラグリット。
「もちろんだ!」
 即答したのはケイン。
「すばらしいですわね。もしそうなら、詐欺なんて見逃せませんわ」
 素直に感動したフラグリットとケインの熱意に何も言えなくなっているアルベルト。その様子を那由多は楽しそうに見物していたのだが、シーラが助け船が入った。
「まぁ、今回は違うみたいだから、大丈夫だろ」
「それはそうだが‥‥」
「それもそうですわね‥‥」
 クールダウンした二人にアルベルトが口を出す。
「心配してくださって、ありがとうございます。でも、詐欺とかは良くないですよね。無くなって欲しいと思います」
 アルベルトの返事に、ケインもうなずく。
「そうだな。今回は違ってよかった。そうだ。今後、悪滅し隊は詐欺の撲滅に動くのだろうか?」
「え? ‥‥そうですね。それもいいかもしれませんね。山賊がまた暴れているという話を聞いたのですが、被害からすると、詐欺の方が大きいでしょうか」
「そうか。‥‥まぁ、じっくり考えてくれ! 今後、悪滅し隊がどのように正義を広めていくか、楽しみにしているからな!」
 ケインがバンっとアルベルトの背中を叩と、アルベルトは勢いに負けよろめく。
「大丈夫かね、こんな正義の味方なんて‥‥」
 ぼそりとシーラが呟いた。


●薄暗いじめじめの中で
 昼過ぎだというのに、何故か薄暗いのは、森の中だからだろうか。
 森の中の静かな小屋の前に一行は到着した。
「ここかな? 静かな所だね」
 那由多はそう言いながら、アルベルトに確認を取る。
「はい、ここです。静かで雰囲気がいいところだったのですが‥‥」
「まぁ、がんばってお掃除すればいいじゃないか。さて、耳栓しよう。もしかしたら本物かもしれないしね」
 耳に詰め物をしながらの那由多に、シーラが答える。
「そうだな。念には念を入れて万全の準備で取りかかった方がいいだろう」
 準備を整えた一行が、小屋に足を踏み入れるたとき、大きな叫び声が上がった。
「ぎぃぃやぁぁぁぁ」
「どりゅごりゃぁあぁ」
「うごりぃぁゃぁぁぉ」
 思わず、顔をしかめる一行。
「この叫び声、やっぱりスクリーマー?」
「‥‥そうですね。そうだと思います。みなさん、安心して下さい。スクリーマーは、非常にうるさいですが、害はないですから。普通に掃除していけば大丈夫です」
 那由多の推測に、正解の保証を与えたのはフラグリットだった。
 植物に詳しい彼女のおかげで、簡単に相手の正体を知る事ができた一行だが、うるさいものはうるさい。
 掃除に励むものの、あまりのうるささにやる気が無くなってくる。
 そんなときは、フラグリットの魔法で燃える心を取り戻し、また掃除に励むのだった。

 それぞれが手分けをして掃除していたが、一番掃除がうまかったのはシーラだった。
 身の軽さと、豊富な知識、そして華麗なる掃除の技を持つシーラは、床、壁、天井と、様々な所に生えているキノコをざくざくと刈っていった。
「ぐぉぅぇぁーーーーーー!!!」
「ぎぁがぉぁーーーーーー!!!」
「ぎゃらりぇーーーーーー!!!」
 叫び声に負けずに、順調なシーラだったが、フラグリットの様子がおかしい事に気がついた。
 慌てて何か言っているようだ。
(「なんて言っているんだ?‥あ‥ない‥あぶ‥‥あぶな‥い‥‥あぶない!」)
 フラグリットの唇を読んだシーラは、すぐに周囲を警戒すると、近くに緑色の塊があった。
 緑色をした塊をシーラが見つけたことがわかったフラグリットは、ほっとした表情をみせ、言葉を続ける。
(「猛毒のカビです‥‥か、なるほど、気をつけよう」)

 小屋には腐った木の切り株や腐葉土が敷き詰められており、じめじめした人間には居心地の良くない所だった。
「わざわざ、育ちやすい環境を作ったのか。しかし、こんな所に人間がいたら、一週間で病気になるな」
 軽く呆れたケインは、那由多を呼ぶ。
「この切り株を運ぶのを手伝ってくれ」
「まったく‥‥しかたがないね」
 こんな会話を、ジェスチャーでしているのだった。
「ぎゃぁおぁーーーーーー!!!」
「ごうぇぉぁーーーーーー!!!」
「ぐぉぁゃぇーーーーーー!!!」
 二人もまた、叫び声に負けずに作業を続けているのだ。


●静かな星空の中で
「今日はお疲れさまでした」
 皆を労をねぎらうアルベルトにシーラが答える。
「いや、あんたもよく頑張っていたよ。予定通り、明日には終わるだろう」
「まぁ、明日に備えて、食事だな。保存食でも、軽く料理したほうが、美味しいだろ」
 ケインが、いつものように食事の準備を始める。
「‥‥」
「フラグリット、どうかしたのか?」
「ええ。‥‥保存食を‥‥二日分忘れてきてしまいました」
 困ったように言うフラグリット。
「それは仕方がないな。‥‥そういえば、さっきのキノコ食べれないのかな。そうしたら、多少、保存食が足りなくてもごまかせるだろ?」
 ケインの提案にフラグリットが申し訳なさそうに答える。
「‥‥食べることは大丈夫です。美味しいかはともかく」
「じゃあ、大丈夫だ。安心してまかせてくれよ」
 ケインがきっぱりと答えると、フラグリットは頭を下げた。

 少し色がどぎつい夕飯を食べているとき、シーラがアルベルトに尋ねた。
「ところで、マンドラゴラをどうするつもりだったんだ? あんなに増やしては、想う女性も別荘に招待できないだろ‥‥どんな女性でも、あのような部屋は嫌がられるぞ」
 苦笑いを浮かべるシーラ。
「いえ、女性を呼ぶとかじゃないんですよ。えーと、笑わないで下さいよ? 実は、この前、ケインさんが言っていた悪滅し隊ですけど、その活動資金に出来れば、と思ったんです。マンドラゴラって高い薬になるって聞いたことがあったんで」
「そういうことか。そのために小屋を一つ使ったのか。普通、こういう所は思い人を誘う場所だろう? もったいないな」
「いや、そういうのはちょっと。でも、偽物でしたから、確かにもったいないですね」
 お互いに苦笑いのシーラとアルベルト。
「まぁ、今回は残念だったね。気を落とさないで」
 話を聞いていた那由多が、アルベルトにお酒を勧める
「あ、すいません。ありがとうございま‥‥」
 お酒を勧めた後、そのまま、アルベルトにピトとくっついた那由多。
「ん? どうかしたのかい?」
「い、いえ。何でもないです」
 アルベルトの顔が赤くなっているのは、たき火の光りのせいだろうか。
「そう? なんだか、熱っぽいくないかい?」
 顔をのぞき込んだ那由多の手がアルベルトの頬に触れるか触れないかのところで、アルベルトはいきなり立ち上がった。
「ひ、火に当たりすぎたんだと思います。すこし、冷ましてきますね」
 そう言い、慌てて立ち去るアルベルト。
 那由多は、シーラの方を向き、苦笑いを浮かべた。
「‥‥ちょっとやりすぎちゃったかな?」

 アルベルトが避難した先では、フラグリットが空を見上げていた。
「こんばんは、アルベルトさん。食事はもういいんですか?」
 視線を空から下ろすしたフラグリットがアルベルトに声をかけた。
「あ、すいません。ゆっくりしてるところを邪魔してしまって」
「いえ、いいんですよ。‥‥夜空を眺めるのは好きなんです。アルベルトさんもどうですか?」
 再び、空を見上げるフラグリット。
「空ですか‥‥」
 釣られてアルベルトも空を見上げる。
 しばらく無言の時間が流れる。
「‥‥‥そういえば、アルベルトさんは、星、好きですか?」
「星、ですか? 綺麗だ、とは思いますけど」
「綺麗なだけではないですよ。例えば‥‥あの星。そう、あの星です。あの星を見られたものは良縁が舞い込むって話ですわ」
「良縁ですか。素敵なお話ですね。本当に、そうなったらいいですね」
 しんみりと語るアルベルト。
「あら?アルベルトさんは良縁をほしいのですか?」
 微笑みながら尋ねるフラグリット。
「そうですね。なかなか難しいものですから。‥‥今夜は月も綺麗ですね」
「‥‥そうですね」


●爽やかな帰還日和
「うーん。やっぱり綺麗な方が気分がいいね」
 那由多が朝の体操をしながら呟いた。
 朝の体操も、気分がのっているのか今日が一番力が入っている。
 そろそろみんなが起き出す時間だろう。
 最後に大きく深呼吸をする、那由多。
 木漏れ日の中の森の小屋は、本来の明るさ、すがすがしさを取り戻していた。

「みなさん、ありがとうございました」
 本来の明るさ、すがすがしさを取り戻したのは、小屋だけではなかったようだ。
 依頼人であるアルベルトも、すがすがしい笑顔をしていた。
「これでもう安心だな」
 ケインが笑顔で答えた。
「はい、心配をかけましたけど、もう大丈夫です。ありがとうございました」
 二度目の感謝の言葉をいったアルベルトは、ケインに右手を差し出した。
 がしっと、お互いに力強い握手を交わす。
「さて、出発だ。準備はいいな?」
 シーラが確認すると、皆が頷いた。
「よし、じゃあ、出発だ」
 シーラの号令をうけ、一行は森を後にしたのだった。