小さな町の収穫祭り−闘牛士募集−

■ショートシナリオ&プロモート


担当:うのじ

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月20日〜10月25日

リプレイ公開日:2005年10月29日

●オープニング

 広場には、色とりどりの飾りが準備されていた。
 広場の先には、柵で四角く整えられた大きな舞台ができあがっていた。
 いま、この町は、祭りの前なのだ。
 小さな町とはいえ、収穫祭ともなれば気合いははいるものだ。
 準備をしている人々の足取りも軽く、笑い声も聞こえてくる。
「早く祭りが始まらないかな」
「そんなに急ぐなよ。祭りは逃げたりなんかしないから、な?」
 準備をしている親子の会話もどこか楽しげだ。


 楽しげな喧騒を、一人の男がダッシュで横切る。
「イスパニアから来てくれた方だね。そっちの準備はどうだい?」
 作業中の一人が気が声をかける。
 声をかけられても答える余裕がない彼は、目的地の家まで一直線で駆け抜け、中に飛び込んだ。
 中に待っていたのは、三人の男。
「みんな、聞いてくれ! じつは‥‥」
「なんだってーーーーーーーーー?!」

 衝撃的な知らせを聞き、しばらく固まっていた三人だったが、何とか動きを取り戻した。
「どういうことだ? 説明してくれ」
「‥‥ああ、じつは‥‥」
 飛び込んできた男が言ったのは、こういう事だ。
 イスパニアからの呼ばれた一団のうち、先発隊である自分たち4人以外の者を迎えにいくと、船の様子がおかしい。
 詳しく聞いてみると、船に酔ったのか、水があわなかったのか一団は倒れてしまったそうで、そのうえ、隙をついて闘牛士にも逃げられてしまい、もう祭りに参加するどころではなくなってしまったらしい。

「舞台はどうしょう? もう完成してるよな?」
「今更、中止って、この町にも悪いよ」
「何日か待ってもらうか?」
「それはできないだろう。領主から前金をもらっている」
「うーん‥‥そうだ、闘牛は?」
「‥‥あいつらは元気だな」
「じゃあ、俺達が戦う?」
「‥‥おいおい、俺達が戦ったら、闘牛士がやばいときに助ける役は一体誰がやるんだ?」
「ああ、たしかに」
「‥‥どうする?」
「腕が立って、闘牛をしてくれる命知らずか‥‥‥」

 ひとしきり悩んだ4人は、冒険者ギルドに出向いた。
 そして、闘牛士募集を掲げたのだった。

●今回の参加者

 ea0604 龍星 美星(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6865 ヴォルグ・シルヴァール(35歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea8936 メロディ・ブルー(22歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2504 磐 猛賢(28歳・♂・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●祭りの前に
 色とりどりの飾られた町は、小さいながらも興奮に満ちていた。
 収穫を祝う祭りは、例え小さくても、町にとっては大きなイベントなのだ。
 祭りの目玉の一つであるイスパニアの闘牛を行う舞台も、同じである。
 舞台には、冒険に憧れる男の子や、興奮の期待満ちた大人達が詰めかけ、始まりを今か今かと待ちわびていた。

 ここは、女性の控え室。
 闘牛士の控え室は、男女で別れて用意されていたのだ。
「つまり、こういう布をひらひらさせながら、サッと華麗に避けて刺すネ」
 龍星美星(ea0604)が実演つきで説明をする。
 彼女は、イスパニアから来た旅団から、闘牛のやり方を聞いてきたのだ。
「ふ〜ん。‥‥避けるのってちょっと苦手だな」
 あまり興味がないような答えをしたのは、メロディ・ブルー(ea8936)だ。
「衣装も借りてきたけど、メロディも着てみるアルカ?」
 そう言いながら、美星は、服を取り出した。
 先ほど、質問とお願いついでに、借りてきたのだ。
「派手な服だねー。でも、これを着るのも楽しいかも」
 先ほどとはうってかわって、変わった服を楽しそうに眺めるメロディ。
「うーん‥‥胸がきついネ」
 さっそく着替えはじめ、そして衣装と格闘している美星。
 メロディは、着替えに苦心している美星を観ながら、つい、自分と比べてしまう。
「う、‥‥やっぱり僕はいいかな? ‥‥‥鎧を着たいし」
「ふー。やっと着れたネ」
 ようやく着替えが完了した美星を観て、呟いた。
「いいもん、僕だって、旦那さまに頼んで‥‥‥」
 なぜかいじけるメロディであった。

 一方、男性用の控え室は、平穏だった。
 来るべき試合に備えて、それぞれが静かに、身体を動かしていた。
 ヴォルグ・シルヴァール(ea6865)は、実際の試合でどう動くのかをシミュレーションしているのだろう、ただ、まっすぐ、槍を前に突き出している。
 相手が、突進してくる牛ならば、それが有効だと確信しているようだ。
 一方、磐猛賢(eb2504)のほうは、普段通りの型をなぞっている。
 常日頃と同じ通りに、型を、静かに、繰り返していた。
 方法は違えど、二人は同じように神経を集中させ、試合に臨むのだった。


●華麗に舞い刺す天女
 闘牛の第1戦目に登場したのは、美星だ。
 美星の登場に、応援の声があがる。
「おねーちゃん、がんばってー」
「まけるなー」
 そして、応援だけではない、なぜか、観客の一部の男性からは歓声もあがった。
 そんな応援に答えながらも、目は真剣な美星。
 仕切られた柵の向こうでは、闘牛のほうも、準備が出来ているようだった。
 雄牛を見据えて、約束を思い出す。
 美星は、闘牛士について質問したときに、ある約束をしたのだ。
「弱肉強食は世の習い! アタシを倒せばお前は生き残れる! アタシも全力で戦う、オマエも命を勝ち取る為に戦うネ! 正々堂々の勝負アル!」
 美星の宣言と同時に、開かれた柵。
 雄牛は、一直線に突撃をしかける。
 迎え撃つ美星は、華麗に装飾されたレイピアを右手にもちつつも、左手に持った赤い布を正面にかざし、雄牛を引き寄せる。
 突撃を避けた美星は、すれ違いざまに自らのオーラで強化したレイピアを突き立てる。
 軽やかに避け続けているようにみえるが、相手は、一撃で重傷を思わせるような突撃である。必死でかわし、軽傷を与え続ける美星。
 徐々に雄牛の動きが弱くなり、もう突撃が命中することはないだろう、と言うとき、美星は、レイピアを地面に突き刺し、蹴りの構えを見せた。
「今アル! 龍星鳥爪撃!」
 冷静に、一撃、一撃と、奥義を繰り出す美星。
 やがて、雄牛は動きを止め、ドウと地面に倒れた。
 そして、わき起こる歓声。
「恨みは無かったアル‥‥」
 倒れた雄牛に合掌し、その後、美星は右腕を大きくあげた。


●散る心意気! 決死の闘士
 第2戦目に出てきたのはヴォルグ。
 ヴォルグも、闘牛士の格好を真似ていた。
 衣装は自前のため派手ではないが、左手にローブを持ち、はためかしている。
 右手に持っているのは剣ではなく、槍だ。
(「力にはそれなりに自信はあるつもりだが、戦闘技術は駆け出しもいいところだからな。‥‥せめて派手に散ってやるか!」)
 どこか達観した眼差しのヴォルグは柵を挟んで反対側にいる雄牛に向き直ると、大きく槍を突きつける。
「シュワザード、参る」
 ヴォルグは、大きく息を吸うと、柵が開けられるのをじっと待った。
 柵が開けられ、雄牛が突撃を仕掛けようとする‥‥が、正面に突きつけられた槍が、それを邪魔をする。
 しばらく続いた硬直状態だが、雄牛が隙をついて、角を突きだしてきた。
 そこへヴォルグのローブが雄牛の頭に被せられる。
 被せられたローブを振り落とそうと頭を振りながら繰り出された角の一撃は、突撃ほどの威力はないものの、ヴォルグの身体を捕らえ、地面に叩きつける。
 決して浅い傷ではないが、ヴォルグはすぐ立ち上がると、再び槍を構える。
 そして、そのころには、対する雄牛も距離を取っていた。
 必殺の突撃を行うべく、頭を低く構える雄牛。
 迎え撃つヴォルグは、両手で持った槍を深く引き、突撃にあわせた一撃を放てるよう構えた。
 そして、放たれた雄牛の突撃に、ヴォルグは槍の攻撃を併せきることが出来なかった。
 吹き飛ばされるヴォルグの横に、すとんと、槍が突き刺さる。
 倒れたヴォルグになおも向かう雄牛。
 そこへカラフルな衣装を着た人が舞台へ飛び込み、雄牛の注意を引きつける。
 ヴォルグは、その隙に救出された。


●少林寺の名を背負う僧
 第3戦目に登場したのは、猛賢。
 彼は、旅装束にロングロッドという、質実剛健な出で立ちだった。
 猛賢は、舞台の中央に立つと、手にしたロッドを回転させながら、気合いを入れる。
 さながら演舞のような動きに、歓声を上げる観客達。
「おにーちゃんもがんばってー」
「おおー、なんかすげー」
 一連の動作が終わり、もう一度構える猛賢。
 見据えている先は、柵の向こう側に控えている雄牛だ。
 その雄牛は、茶褐色の毛皮に被われており、ただの雄牛ではない。
 普通を超えた頑丈な体躯、そして、長く鋭い2本の角を持っている。
 柵が空けられる。
 やはり、戦いの火蓋をきったのは、雄牛の突撃からだった。
 猛賢は、低く構えてくる雄牛にたいして、先ほどの美星よりも、心持ち余裕のある回避を行う。
 すれ違いざまに繰り出されるのは、ロッド。
 そして、ロッドの攻撃は雄牛の脚に集中していた。
 この戦いは根比べとなった。
 猛賢が集中力を切らすか、雄牛の脚が耐えきれなくなるか。
 この根比べ、勝ったのは猛賢だった。
 耐えきれなくなり、雄牛が対にひざをつく。
 それを確認した猛賢は、構えを解く。
「これ以上は必要ないだろう。もう勝負はついた。私の勝ちだ」
 猛賢は、そう言うと、ふぅと大きく息をついた。
 今まで見守っていた観客は、やっと気がついたかのように、舞台から退場する猛賢に、大きな拍手を送ったのだった。


●狂わしき旋律の戦乙女
 四番目に出てきたのは、川の鎧を着た女性だった。
 メロディだ。
 観客からどよめきがおこる。
 メロディ自身よりも大きなクレイモアを構えるその姿に。
 観客のどよめきを聞いたメロディは、まったく‥‥、と頬を膨らませる。
「レディに歓声送らないで、どよめきだけなんて、まったく、失礼しちゃうよね」
 でも、と続けるメロディ。 
「旦那さまのために、がんばっちゃおうかな」
 そして、神経を集中させ、オーラを練り、雄牛の登場を静かに待つ。
 しばらくすると、準備が整い、柵が開けられた。
 突撃してくる雄牛。そして、まったく動かないメロディ。
 雄牛の一撃をぎりぎりまで引きつけ、あえて喰らうことで、自らの急所をはずす。
 吹き飛ばされながらも、メロディは、交錯するタイミングで手にしたクレイモアを相手に力の限り叩きつける。
 しかし、その一撃は、空を斬った。ぎりぎりのところでかわされたのだ。
 地面に叩きつけられるメロディ。
「‥‥このぉ」
 メロディは、なんとか立ち上がりながら、クレイモアをもう一度構えた。

「‥‥やばいな」
 戦いを観ていた猛賢が言う。
「ああ、やばいな」
 ヴォルグも同じ意見だった。
 二人は応援にきていたのだ。
 今回の戦いは、一撃必殺同士の危険な戦いではあったが、二人が言ったのは別の意味のやばさ。
「‥‥狂化してる」
「止めないとまずい」
「どっちを?」
「両方だろう。出来れば周りに気がつかれる前にメロディを止めたい」
 二人は、お互いに頷きあうと、舞台に乗り込んだ。
「怪我は大丈夫なのか?」
「ああ、あっと言う間に治してくれたからな」
 そして、駆け出す二人。

 吹き飛ばされたメロディに、救出班が準備に入る。
 そして起こる観客からのどよめき
「おお! 助けに来たぞ」
「最後はみんなで戦うの?」
「負けるなー」
 予定外の事態に慌てる救出班とは対照的に、よく理解してない観客は普通に声援を送る。
 そんな中、メロディに向かって、雄牛がもう一度突撃を仕掛けた。
 今度も動かないメロディは、反撃の一撃に全てを賭ける。
 ギリギリまで引きつけて、致命傷を避ける。
 それでも、2撃目の突撃は、骨がきしんだ。
 同時に振り下ろされる渾身の一撃。
 完璧なタイミングで、全体重を乗せた一撃は、見事に命中し、そのただの一撃で、雄牛が地面に崩れた。
 静寂の後、大歓声がわき起こった。
 歓声に答えようとしたが、身体がうまく言うことをきかずに、よろめいてしまうメロディ。
 そんなメロディを猛賢が支え、上からパサッとヴォルグがローブを掛ける。
「みんなー、メロディに拍手アルネー」
 絶妙のタイミングで言った美星の台詞に、もう一度大きな拍手がわき起こった。
 満身創痍の勝者とその仲間に惜しげもない拍手を送る観客たち。
 予定外のことに首を傾げる救出班たち。

 今日、大きく盛り上がった祭りは、夜遅くまで続いていく。