●リプレイ本文
●冒険その前に
朝。
銀狐兵団一般団員、ボリス・ラドノフ(20歳・男)は走っていた。
(やべー、初任務なのに遅刻かよ)
内心そう思いつつ、猛スピードで駆けおりる。すると、おもっいきり。
滑った。
そう、それが彼と彼女の運命の出会いだったのである。
「うわぁー」
「? な、なんだ」
物凄い勢いで、ボリスが滑った先には、てぶくろ魔人?
ではなく、まるごとてぶくろに身を包んだジュラ・オ・コネル(eb5763)が酒場から出てくるところであった。
勢いあまってぶつかる二人、そこに愛は生まれ・・・・ない。
★閑話休題★
「今回、同行するボリス・ラドノフです。皆さんよろしくお願いします」
ということで、なんとかその場に間に合ったボリスは、挨拶をする。
「シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)です。気軽にシシルとお呼びください」
ペコリと礼をする彼女、一見大人しそうなシシル。
しかし、その背後で手を振る栗鼠モードふわふわ手袋に変化した怪しい生物はなんなのだろう?
それがちょっと可愛いので萌えである。
「僕は、所所楽柳(eb2918)だ、よろしく」
どうやらジャパンのお嬢さんのようだ。男装が映えそうである。着物が似合う女性は好みだ。ぜひ、鉄笛で一曲披露して欲しい。
「ミーはカッパの磧箭(eb5634)で御座るよ〜、コールミー「かわや」で御座る」
素朴な疑問だが、河童の皿は真冬に凍らないのだろうか。ともかく、厳選された防寒着群で固めた箭は、もこもこである。
「私はオリガ・アルトゥール(eb5706)そしてこの子は娘のエリヴィラです」
「はじめまして」
紹介されたエリヴィラ・アルトゥール(eb6853)は、母親と一緒で嬉しそうだ。しかし随分若い母親だ、血のつながりはきっとないのだろう。あったらきっとオリガは、おば・・・・まだお姉さんである。
「アーデルハイト・シュトラウス(eb5856)よ。宜しくお願いね」
冷静そうに見える彼女、だがその実態は大雑把のような気もしないでもない。シュトラウスということはシュトラウス家の生まれなのだろうか。どのシュトラウス家かは分からないが。
「ロイ・ファクト(eb5887)だ、よろしく頼む」
そっけなく言う、ロイ。そのとなりにはエリヴィラ、不穏だ。何か不穏な空気が二人を包む、雪のロマンス? 神のお告だ。
こうして、七人・・・・あれ、もう一人誰かいた気がする。
あ!? てぶくろ。彼女はジュラ・・・・略。
こうして、八人の冒険者は揃った。
なお、先ほどからてぶくろと呼称されているものは、ジュラ愛用「まるごとてぶくろ」という皮手袋(左)模写全身防寒着のことである。
彼女はどうやらお気に入りのようだが、はたから見るとマジヤバイ。
ボリスは思う。
(大丈夫かな、この人たちで・・・・特に手袋)
「いってらっしゃいですー♪」
栗鼠のラッカー君に見送られ出発するパーティー、まあ大丈夫だろう、きっと。
●雪の道
さて、出発する前。
「壊滅した部隊の戦力構成を、良ければ教えてもらいたい」
ボリスに問いかける柳、彼は首を横にふる。
「俺、今回がはじめての任務で、詳しいことは。ただ補給部隊ですし護衛は10名程度だったと聞きます。同期の親友が一人あの部隊に・・・・」
「・・・・辛いことを聞いたかな」
「いいんです。仇をとりたくて、志願したようなものですから」
「そう、何も分からないと同じね。でもアンデッドの出現場所くらいわかるでしょう」
しんみりした中、突き放したクールさが、素敵。アーデルハイト。
「はい、だいたいのなら」
その会話をこっそり聞いていた箭の目がキラリと光る。
(新人を送り込む・・・・匂うで御座る)
彼がどこか楽しそうなのは気のせいだろうか。
そして馬車は進む。
揺られる者、周囲を警戒する者、御者のてぶくろ、様々である。
ひとまず、今回は馬車の中に注目してみよう。
車窓。
シシルの視線の先にすました感じの男がいる、名はロイ。エリヴィラといい感じの男。本人たちがそれを自覚しているかは知らないが、シシルの脳内では、すでにカップリング妄想がされているらしい。
「オリガおねーさま」
「何? シシル」
「ロイさんとお話したんですか」
オリガはこっくり頷く。
「良かった。ね、おねーさま。アンデッドって自然発生するんでしょうか?」
「そういえば、そういう話はあまり聞いたことはないですね」
「怪しいです、限りなく」
「ここで考えたところで、答えはでないですよ。とりあえずのんびりしましょう」
雪の中を走る馬車、そろそろ陽も落ちるころのようである。
●野営
任務を楽しんでいるような雰囲気もする面々。
そのメンバー構成、てぶくろ、ラブラブ、カッパに妄想。
ちょっと小粋な仲間たちでは、いたしかたあるまい。
野営ということで、見張り、その点はぬかりがないようだ。
彼らは、馬車を中心に警戒している。
「母さん」
「あら、エリヴィラ」
「・・・・さっきはどうも」
それはアルトゥール母娘&ロイ、そして見つめる影一つ。
(エリたん、ふぁいとー)
旗振りシシルである。
そこへ見張りの交代で通りがかるアーデルハイト
「こんなところで、何してるの」
「しー」
その視線の先には、なんだか、ぎごちなく歓談する三人の姿がある。
「そう、そういうことね」
どうやら理解したらしい。
「シシル嬢、なぜこの寒いのに樽の陰?」
「しー」
さらに、柳もそちらを見る。
「そういうことか」
樽の陰からしばし覗く怪しい三人であった。
そのころ、馬車の中では
「Missジュラ、それはイカサマで御座るよ!」
「しらない」
「まあまあ、二人とも」
箭はボリスの気を解すため、楽しいゲームをしているらしい。
「そんなことより、ボリス殿。このパーティーで気になる女の子は居るで御座るか?」
ボリスはちょっと考えていたようだが、恥ずかしそうに
「え、俺は・・・・。その、オリガさんが」
「Madamアルトゥール!!」
どうやら、ボリスは年上好きのようだ、運命の女神はてぶくろではなかった。
「子持ちとは、渋い趣味で御座るな」
「そ、そうですか」
「Missジュラなど、ちょうど・・・・」
といったあと、てぶくろジュラを見て箭は思った。これはだめで御座る。
「??」
箭の視線を受けたジュラは自分の状態に違和感をもっていないらしい、ある意味立派である。
「そういえば、今回は突破重視でお願いします。前回、無意味に戦って余計な犠牲をだしたのもありますし、本隊の物資もそろそろ危険な状況のようです」
「けど、なぜ今の時期にわざわざ派兵したんだ。普通に雪だし寒い」
ジュラの言うことにも一理ある。
「俺は下っ端ですからそこまでは、ただ王命であれば兵は動くしかありません。とはいえ今回は王国顧問殿の横槍のようで、うちの隊長なんて『あのエロ髭オヤジめ、誰をたぶらかしたんだ』と物凄い剣幕でした」
「ラスプーチン殿も、色々裏で大変そうで御座るな」
「ですね、俺はああいうタイプ、正直苦手です」
そんな風に、真面目な会話をしていると
「みんな、見張りの交代だよ」
迎えにきたエリヴィラの声。
楽しいひと時は過ぎる、楽しい後は当然・・・・。
●雪上戦
舞う粉雪。
音もなく積もる雪の先に影。
索敵にたつユニコーンの乙女から報が知らされたのは、太陽が中天に射したころだ。
死体の進軍を前に、二人のウィザードは号令のあと、氷結の嵐を巻き起こして叩きつけた。
「どうです?」
「オリガおねーさま、続けましょう」
続けざまにシシルの詠唱、それが終わる瞬間、オリガの直感が何かを知らせる。
「シシル! 呪文を止めなさい」
しかし、時すでに遅い。凍氷の風が大地を走るが、暫時、轟音ともに氷の嵐巻き戻ると矛先に変えて容赦なく馬車を襲った。
跳ね返された嵐に襲われたのは、ほぼ全員。
この暴風はきっとストームだろう、ストームにはアイスブリザードをそのまま反射する力がある。
冷えた体、痛みにたえながらもオリガは言う。
「・・・・シシル、ブリザードは禁止です」
「はい、おねーさま」
愛馬のヌムに乗ったエリヴィラは、嵐に不意をつかれ何が起きたか理解できなかった。
転げ落ちた彼女の周囲には雪中から現れたズゥンビと思われるのが四体。
そのエリヴィラをロイは横目で探る、時間にして数分、しかし彼の周りにも群がるズゥンビ、受けを狙って刃を振るが、まだ。
距離は遠い。
「あっちが先かしら」
やや吹き飛び馬上で体勢を直した、アーデルハイトの前にもズゥンビ、彼女のもつ亡霊殺しの剣ならば脅威ではない、しかし馬車に群がる敵を倒さねば、突破も無理だろう。
彼女は敵を振り払い、駆ける。
柳は自分の懸念が当たったことを身で感じていた。フレイムエリベイションに包まれた彼女が見たものは、馬車を襲う黒い何か、どこかで見覚えがある姿。
(あれは、忍? なぜこんなところに)
飛び掛る影は二つ、飛ぶ刃、交差する残影。
視線の先の短刀に一人小太刀を構える柳、その状況を覆したのは
蹴り一発、叩き落ちる影。
「Miss所所楽、大丈夫で御座るか」
「助かった」
箭と柳は人影と戦いはじめる。
ジュラとボリスもまた、影二人、ズゥンビたちと対峙している。
「てぶくろさん、こいつは」
「アンデッド。どっちも黒っぽいからアンデッド、倒せば同じ」
でっかい長斧を振りかぶると滑るように突進するジュラ、それに続いて剣を振るボリス。
戦いは続く。
アーデルハイトが加勢に駆けつけたことで、馬車周辺のズゥンビは一掃され状況は有利に動いてる。
一方。
体勢を立て直したエリヴィラ、彼女の愛刀もまた亡霊殺し、ズゥンビごときは敵ではない、軽く数匹粉砕するが、数が多すぎ移動もままならない、そこへ道を開き駆け込むロイ。
「背中合わせで戦うなんて、何かいいよね」
「・・・・足でまといになるなよ」
素直じゃない。エリヴィラはそう感じつつもロイが助けにきたことを知って、嬉しかった。
「でも、これってちょっと危機かも」
「問題ないだろ、俺とおまえがいれば」
彼らの周りには、いつのまにか数にして十数匹、鎧を着込んだものやら魔法使い風のズゥンビの姿も見える。
「行くぞ」
「頑張る」
二人は太刀を振るう。
馬車の周りには凍りついた氷柱の群れが立ち並ぶ、状況は冒険者有利だ。
「私が、切り込むわ。頼むわよ」
アーデルハイトは、ローラントを駆ると前方にたつ肉の壁へ先陣を切り剣を振るう。
突破口は開けた。
「これで最後っと」
落ちる首、柳の太刀筋に最後のズゥンビもその動きを止める。
「ふふ、あとミーに任せるで御座る。秘策あり」
意味ありげな言葉を告げるなり、馬車の後方に飛び出すと、追いすがるズゥンビを引きつけ蹴りながら走っていく箭。
馬車は雪上を動き出す。
その姿を見、残るメンバーもそれぞれ馬車を追いかける。
前方に敵はすでに無く。ズゥンビと忍びの影もあらかた消えて、馬車は前線を突破した。
時同じく
少し離れた小高い丘。
彼らの奮闘を見つめていた騎影。
影の主たちは、馬車が突破していくのを見ると、いずこかへと走り去ってゆく。
そのちょっと前
「えいえい、ふーこの銀色の硬い」
「てぶくろさん、それ俺の元仲間」
なんだか、ジュラが可愛いと思ったボリスであった。
●エピローグ
箭の囮作戦も効を奏し、馬車は追撃を振り切り無事突破した。傷をある程度負ったもので、回復手段があるものは回復する。その後、ひとまず補給物資届けたパーティーは帰り道、箭を拾うことになるのだが。
「寒い、寒いで御座る。さ、皿が凍る・・・・で御座る」
と、悶える箭、自業自得である。
毛皮の帽子よりエチゴヤ販促品の方が性能が良い、それはきっとエチゴヤマジックだろう。
箭と合流後、掃討戦を行った彼らは、一度野営を張った。
そんな夜のひと時。
エリヴィラとロイが何事か話している。
「ね、ロイさん」
「なんだ」
「助けにきてくれて、ありがとう」
ロイは、困ったようにエリヴィラを見たあと、彼女のふわふわ帽子にポンと手をやった。
「あまり無茶はするなよ」
「分かった」
その二人を、オリガとシシルは遠くから眺めている。
(あの子ったら一丁前に青春してますね。でも、私まだお祖母さんには若いです)
(よし、エリたん。そのままがばっと)
・・・・シシルたん、妄想行きすぎ。
てぶくろとカッパも、なにやら話しているようだ。
「今回の作戦はいったい何の裏があったので御座ろう」
「僕が思うのは、兵団の力を弱める意図かな」
「で御座るな、しかしロシアはこれからどうなるので御座ろう、ちょっと楽しみで御座る」
「そうだね」
夜は更ける。
雪上の夜。
夜闇に笛の音が響く。
雪に埋った兜を拾うと、ボリスはそっと払った。
「仇は取ったよ」
呟くボリスの視線の先に、月に照らされ葬送の音色を奏でる彼女の姿。
「柳さん」
「ボリスさんか、今日は綺麗な月夜だね」
「笛、ありがとうございます」
胸に兜を抱きボリスは言った。
「いや、雪だけが墓標では、きっと寂しいだろうと思って」
「俺、あいつに何もできなくて・・・・」
一瞬、共に過した日々が彼の脳裏に閃いた。
「柳さん。少し、肩貸してもらえますか」
柳は無言で頷いた。
ボリスは手を柳の肩におき、胸の兜を強く抱く。
泣きはしない。戦士が涙を流す時は、今では無いから。
柳はボリスの震えを感じ、笛を吹きはじめる。
音はきっと眠る死者にも届くだろう、その悲しくも美しい調べは。
ユニコーンに乗って一人笛の音を聞いていたアーデルハイトは、ふとおもった。
(如何にも最近物騒な話が続くわね。仕事に困らないのは良いけど、大丈夫かしら色々と)
●館
館に影は二つ。
「主従」
「イレーネか」
「ただいま戻りました」
「例の件はどうなっておる」
「見事、イヴァン殿が遂行。口を封じたもよう」
「狐はどうだ」
「冒険者に阻まれ多少予定は狂いましたが、作戦随員の半数ほどは削り。私の落ち度です」
「風のイレーネの名が泣くぞ。まあ、よい。次の晩餐の贄は、黒狐だな」
「裏切り者はいらぬと仰せで」
「役に立たぬ駒は、はやめに切り捨てるに限る」
「御意」
「聖夜祭が楽しみだ」
了