♯少年冒険隊♭ スケルツォ♪
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■ショートシナリオ
担当:Urodora
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 36 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:01月10日〜01月15日
リプレイ公開日:2007年01月18日
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●オープニング
●手紙
夢を忘れてしまいそうな貴方へ
明日を感じなくなってどれくらいたちました
意味を問わなくなって、いくつ歩いたか憶えていますか
見つけたかったものは、胸に残っているでしょうか
探すことより忘れることをおぼえ、全てを何かのせいにして歩く
貴方の探していたはずの夢、それが今どこを目指しているのか
確かめてください
●プレリュード
空の向こう、明日はどこにつながっているのだろうか。
思い出はいつか薄れるけれど、誓いはきっと胸に残る。
その誓いさえ忘れてしまった時、人は大人になるのかもしれない。
変えられない過去があっても、生き方を決めることはできるはず。
その選択に悲しみや痛みが伴うとして、前に進むこと、それが確かめるということだから。
ボクは泣かない、君ともう一度会うまでは・・・・。
さよならを交わすたび、人は出会いをみつける。その出会いの先、見出した未来に駆ける少年は、夢という名もない明日に向かって走り続ける。
道は遠い、それでもいつか大空に羽ばたく日まで。
キエフから少し離れた村に一人の少年が住んでいる。
癖のある赤毛が特徴で、どこか弱々しくて頼りない感じのする小柄な人間の少年だ。
彼の名前は、アレクセイ。みんなからはアレクと呼ばれている。 アレクは冒険者を目指している。その理由はささやかな誓い。
何かを守るための力が欲しいから。
力に善悪はない、力は振るうものの心と意思で変わるもの。
教えられた力の意味と愛、それをアレクが問うのはまだ先のことかもしれない。
例えその意味を問うことで、探していたものの価値を知ることになるとしても、アレクは追いかけるだけで精一杯なのだ。
現実の厳しさはいつでも夢を破る、けれど夢は今を変える力。
だからこそ、夢を忘れることは悲しいことなのかもしれない。
積もった雪に残る足跡。
それをながめ、ハーフエルフの少年は感じる。
降る雪はいつかその跡を消すけれど、残った記憶はずっと心を苛み続ける。
彼は、そっと息を吐いた。
凍りつくような寒さの中ゆらぐ白いもや。
求めるものが何かなんて、どうでもいい。今がよければそれでいい。
しかし、その答えが空しさと諦めの結晶であることに、その少年、ジルも気づいていた。
「ねえ、ジル」
屈託の無い微笑みを向け、赤毛の少年アレクは言った。
「なんだよ」
「この前はありがとう」
「・・・・俺は何もしてないぞ」
「ううん、ボク一人じゃ何もできなかったよ」
見下ろす先、寒さに頬を赤くしたアレクを見て、ジルは思った。
なぜ、あんな目に遭っているのに笑っていられるのだろうか。
その事件の発端は、たいしたことではない。冒険という名のままごとだ。
だが、それに誘った自分とは関係がないところで、アレクは危険な目にあっていたのに彼は何もできなかった。
「俺じゃなくて、助けてもらった奴に礼を言えよ」
「でも、みんなすぐ帰っちゃったんだ。ちゃんとお礼したかったな」
ふわふわの帽子をかぶったアレクは、首に巻いたマフラーのきつさに手をやる。
「そっか、冒険者だしな、色々忙しいんだろう」
「そうだよね。ボクもがんばらないと」
いくつかの軌跡を描き放たれる想い。傷つき、傷つけた先にあるその不確かな形をした意思は、迷いという名でいずれ彼らを貫くかもしれない。だが、今はまだ。雪は穢れなく降り積もり太陽は冬の情景を照らし出していた。
二人の少年は進む、その目的地へと。
●キエフにて
ニーナ・ニームは風魔法使いでエルフの少女である。両親を早くに亡くした彼女の親代わりをつとめたのはその祖父だ。そして彼女の祖父はキエフにも小さいながら家をもつ、アレクとジルの二人がキエフにあるニーナの祖父の家を訪れた理由。それは表向きキエフの見学だったのだが。
「アレク、ジル。キエフにようこそ♪」
「ひさしぶり! ニーナ」
走りよってきたニーナに抱きつかれたアレクは勢いに押され雪溜まりに転げた、雪塗れになったアレクとニーナ、二人は楽しそうに暴れている。
「あいかわらず、バカみたいに元気だな。お前たち」
「ジルもあいかわらず、天邪鬼さんデス」
「はいはい、どうせ俺は根暗さんですよ。でもやっぱすごいねキエフは建物が大きいぜ。それより例の話は?」
そのジルの問いが意味していたのは・・・・。
●ギルド
「いやあ、新年っていいねえ。仕事が少ないし、給料泥棒最高!」
いつもの中年ギルド員は、いつもようにさぼっている。
なんとなくこの男をギルド員強化合宿に出したほうがいい気もするのだが、それはそれとして、彼の新年最初のお客は小さな女の子だった。
「ということは、お嬢ちゃん。遺跡の探索に一緒に行く冒険者を探しているって?」
「ビシバシ、ガツガツでガンガンな人たちを募集です」
「はぁ、まあ募集はしてみるよ」
こうしてギルドに依頼が舞い込んだ。
育成情報あれこれ
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この依頼は、三人の冒険者志望の少年たちと一緒に遺跡探検をするのが目的となります。
三人の人物像は以下です。
■アレクセイ・マシモノフ 人・12歳・♂
資質的には戦士系です。人を疑うことをあまり知りません、素直で直情型です。
■ジル・ベルティーニ ハーフエルフ・16歳・♂
それなりの実力をもつレンジャー。
深刻な感情を内に秘めつつ道化を演じるひねた青少年です。
■ニーナ・ニーム エルフ・10歳・♀
風魔法使いの女の子。ウインドスラッシュ・レジストコールドが使えます。
脳内はお花畑の幼児気分・・・・。
この依頼は【悪魔の門】と関連しています。
あちらは純粋に調査ですが、こちらは探検ですので、少年たちに冒険というものの本質を体験させるのが
目的となります。この遺跡についてはまだよく分かっていませんので、あまり深入りしないほうが
良いかもしれませんね。
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●リプレイ本文
●オーヴァーチュア
雪の綺麗な日だった。
そのきらめきは、遠い記憶をなぜか思い浮かべさせる。
光の欠片を探して旅に出たはず青年もいつしか老人になり過去に思いを寄せる。
その破片が美しければ美しいほど、人は生きた証を感じるのかもしれない。
だが、それはまだ遠い先のこと、この場に集った彼らにとって今はまだ。
語るべきものでは無い。
「はじめまして、ボクはアレク。こっちはジルで、この子はニーナ」
アレクは面識が無い二人、セシリア・ティレット(eb4721)とクロエ・アズナヴール(eb9405)に挨拶をする。
「セシリアです。皆さんセシリーと気軽に呼んで下さいね」
「よろしく」
どちらも女性ということで、アレクはちょっとはにかんでいる。
そういえば困ったさんが一人。サイーラ・イズ・ラハル(eb6993)は相変わらず言葉が通じないようだ。
『あ、サイーラさん。俺ロシアに来る前は旅してたから、いろんな国の言葉も分かるし、通訳するよ』
『あら、ジル君。気が利くわね。よろしく頼むわよ』
とはいえ、そろそろ言語を覚えたほうがいい気もしないでもないが、こうしてジルの通訳によって会話は通じるようになったらしい。
なお、キール・マーガッヅ(eb5663)、リディア・ヴィクトーリヤ(eb5874)、イルコフスキー・ネフコス(eb8684)とサイーラの四人はアレクたちとすでに面識がある。
「キールさん」
「ジルか」
なんとなく気恥ずかしい気持ちを抱えながらジルは、キールに話しかける。
「大変だろうけど、頼むね」
それを聞くと、キールは何も言わず頷くのだった。
「リディアさん!」
「あら、元気ですね。アレク君」
アレクはリディアの元にやって来た。
「うん、これからのことを考えるとボク」
リディアは、その様子を微笑ましくも思いつつ
「アレク君、冒険者は力だけではなく知識もしっかりと身に付けなければいけません。たまには勉強もしましょうね」
「えー」
「そうデス、アレクはバカなのです」
・・・・結構ニーナは、辛辣のようだ。
「ひどいなあ」
「バカとかいっちゃだめだよ。三人とも久しぶり、この前は大変だったけど、今回も頑張っていこうね。諦めない決意はとても素晴らしいことだから」
「イルイル!」
ニーナはお気に入りのイルコフスキーが現れたので駆け寄り、愛用の杖でゴツゴツしている。災難なのか役得なのか微妙だ。
「じゃあ、いくデス」
ニーナが杖を掲げ、道を指す。
彼らはこうして冒険の旅へ出発した。
●野営
目的の遺跡に着く前、彼らは準備を兼ねて野営をしている。
クロエとリディアはあれこれと、少年たちに指示し、キールは偵察と称して罠を仕掛けへ向かった。
そんな中。
「ねえ、アレク君?」
「何、セシリーお姉ちゃん」
「色々あったみたいだけれど、良かったらお話して欲しいです」
アレクとセシリーは休息中、これまでの出来事を話しているようだ。
「えーとね・・・・プースキンが追われて、黒い僧侶が出てきて、ボクたちはネズミ退治に行ったんだよ。そしたらまた黒い僧侶が出てきて、ドッカーンだった」
あまり要領を得ない説明だ。セシリーはにこやかに聞いている。
「その続きは、おいらが話すよ」
「イルイル!」
ついにアレクにまでそう呼ばれるようになったらしい。
「そうですね、お願いします」
「おいらも聞いた部分があるのだけどね」
イルコフスキーは、かいつまんで詳細をセシリーに話した。最初の出来事について前に聞いたことをそのまま話したが。
そろそろ夕陽も落ちるころ、お腹も空いてきた。
「あ、そういえば、お料理しなきゃ」
「セシリーお姉ちゃんできるの?」
「お姉ちゃんに任せなさい、できます」
「わーい」
「でも、当然お手伝いが必要です」
アレクをじっと見る、セシリー。
「ボ、ボク?」
自分を指差すアレク、その様子を見ていたリディアが
「あら、アレク君。冒険者はなんでも出来て当たり前ですよ」
「な、なら、リディアさんが作るとか」
「真打ちは最後に登場するものです」
リディアはあまり料理が得意ではない気もするが。
「じゃ、ニーナは」
ニーナは、すやすやと寝ている。
「・・・・分かった手伝うよ」
「それではお水を汲んできてください」
こうしてセシリーとアレクの手料理が食卓に上る。
味は、まあまあだった。
「サイーラさん。何してるの?」
サイーラの夕餉の演奏後、やってきたアレクは化粧落としに興味を持ったようだ。
『女の嗜みってやつかしら。大人の女は色々大変なのよ』
「ふーん、ボクにはよく分からないや」
『そのうち分かるわよ、そういえば、アレク君の野営の見張りは?』
「最後だよクロエさんといっしょ、だから今は寝ておけって」
その言葉にサイーラの瞳が輝く、彼女の見張りは二番目だ。
『じゃ、お姉ちゃんと一緒に寝ようか』
「え・・・・うん、いいよ」
ちょっと照れているがアレクは案外素直に応じた。あと5年たったら、色々危険なセリフのような気もするが。まだ、深い意味はないだろう。こうしてアレクはサイーラと一緒に寝ることになったそうだ。めでたし、めでたし。
通訳していたジルがどう思ったかって、それは・・・・秘密。
焚き火。
寝ぼけ眼でアレクは起きた。すでに準備を終えたクロエは遅れてきた彼に、強く言う。
「遅い。危険は待ってはくれませんよ」
「ごめんなさい」
「まあ、いいでしょう」
炎のはぜる音と、寝息だけが闇の中に響いている。
「アレク君は、何故冒険者になろうと思ったのですか?」
クロエは何気なく問いかける。聞いたアレクはきょとんとしていたが
「ボクね、何かを守れる力が欲しかった。大好きだった友達に何もできなかったんだ」
「友達?」
「ジルやニーナよりも、ずっとずっと前からの友達。きっと元気だと思う」
「そうですか・・・・もしかしてその剣はアレク君のですか?」
クロエはアレクの腰に吊ってある小さな短剣を差していった。
「うん、ボクはジルのように弓も使えないし、ニーナみたいに頭もよくないから」
小さな短剣を握りしめた少年は、そう言って寂しそうに笑った。
それを見つめていたクロエは立ち上がると、焚き火を背に剣を抜き一度振った。
「私も修行中の身です。ですが、君に教えられる程度の腕はあります」
それはほんの少しの短い時間。
けれど、アレクにとって初めて教えてもらった剣の使い方だった。
●遺跡へ
朝だ。
彼らは、遺跡への道を進む。
『アレク君は、素直すぎるわ。世の中いい人ばかりじゃないのよ、嘘つきもたくさんいるし』
「そうなの、サイーラさん」
『私とかね』
例えば、朝からお化粧ばっちり、とかね。
ここからは、一時的にリディア先生の質疑応答の時間。
「皆さん、遺跡に入る前に聞いておきたいことはありますか」
「先生、遺跡ってどんなところですか?」
「はい、アレク君。たいてい遺跡、特にこのような未開の遺跡は罠など仕掛けられています。よって何かを見つけても慌てずに、まず罠などが無いかをしっかりと確かめるのが大事です。そしてアイテムにも気をつけましょう、呪いのアイテムなどもよくありますから」
「せんせー、遺跡のキケンってなんなのデス」
「はい、ニーナちゃん。遺跡というと、中には凶悪な魔物や悪魔を封印している物もあります。ですがそう言う場合、大体壁画や古代魔法語等でその旨を警告しているものです。よって可能な限りその方面に教養の深い冒険者の方と潜るのがベストですね」
「先生、行き遅れってなんですか?」
「はい、ジル君。行き遅れとは、私の様に気が付けば年中魔術の研究に没頭する様になってしまい、婚期を逃した・・・・ジル君は後で生活指導室にいらっしゃい」
生活指導室は遺跡にあるのだろうか?
そんなこんなで道中。一つのアクシデント? が起きる。
「ジル。俺の代わりに前へ行け」
「キールさん?」
「任せたぞ」
言葉少なげに、キールはジルに調査を命じた。
雪の道、枯れた木々の中を歩くジル。少し進むと微妙な違和感を感じる。
罠、ジルは慎重にそれに近づくと、視認する。やはり罠だ、狩猟用の罠だろうか? 猟師が設置したまま解除を忘れたのかもしれない。
ジルは罠に近寄ると、真剣な表情で解除を始めた。
しばらくして、戻ってきたジルは言った。
「キールさん、これ」
「やったな」
差し出したそれを見たキールは、ジルの肩を叩いて歩き出した。
戻ったジルを暖かく迎えるパーティーの仲間たち、彼の心の閉ざしている氷もいつか解けるのかもしれない。
そして現れる島。
あるものとっては見慣れた光景、あるものにとっては新しい風景。
孤島に眠る迷宮へとアレクたちは足を踏み入れるのだった。
●地下迷宮
暗闇が辺りを包む、ランタンの明かりとリディアのインフラビジョンで問題なく彼らは進む。
「アレク君は、あれだけのことがあっても冒険者を目指すのかい?」
イルコフスキーは、先行するキールの存在を隠すかのように、彼らに話しかけていた。
「それがボクの願いだから」
その問いに、アレクは誰に言い聞かせるでもなくそう呟いた。
『あら、そんなに堅いことばかり言ってると疲れるわよ』
「え、サ、サイーラさん」
後ろからアレクに抱きつくサイーラ、赤くなるアレク。・・・・昨日何かあったのか、しかし、これ以上は倫理守備部隊が登場するので深く追求できない。いやもうちょっと聞こう。好奇心が。
「サイーラさんの、が、背中に・・・・その」
ようするにサイーラの胸が当たってるのだろう。大事がなくて良かった。
その様子を見ていたイルコフスキーは、またもや思った。おいらには何がいいのか、全然分からないよ。
そんなアレクたちの様子を横に、ジルはクロエに聞いた。
「クロエさんは、ハーフエルフに生まれて幸せでしたか?」
ジルの問いに、クロエは答えるべき何かを探す。
「私は、運命という舞台で仕組まれる喜劇、そしてそこで演じられる生というもの。その筋書きに逆らうのを辞めた気もします。それが幸せかどうかは分からない。ただ過去がどうであれ、私はここにいます。そして君もそこにいるのです」
「難しいことを言うんですね」
「大人は、答えをぼやかす方法だけは憶えるものだから。きっと君も・・・・いずれは道に迷い、傷つくこともあるでしょう。けれど、道化を演じるうちに本当の道化となってはいけませんよ」
「・・・・努力します」
「いい返事です。時間はたくさんあります。悩むことも必要でしょう」
飄々とした感じ、とらえどころない空気をまとったクロエは、そう言うとジルの背中を静かに押した。
「さあ、君たちの舞台。その第一歩ですよ」
彼らは進みだした。
その先にあるのが定められた運命だとしても。
●運命の舞台
セシリア・ティレットは、アレクを庇い剣を構えて男の前に立つ。それを見た男は肩をすくめると、嘲るように笑って言った。
「偶然というのは恐ろしいな、お前たちとここで会うとは」
あれから、アレクたちは探検を続けた、キールの誘導、リディアの魔法、セシリーのアイテムもあり、強敵らしい敵と会わずに大した難もなく進む彼ら。少しずつ冒険者としての自信をつける途中、懐かしい面々と再会をはたしたアレクたち。そして今回の冒険も無事終りを告げるかと思われた帰り道。
針は三度回る。
影から出でた四足の獣にニーナを攫われ人質に取られた彼らは否応なく、その男と対峙することとなる。道の先に立った男、二頭の牙もつ獣を使役するは。
黒の僧侶。
咆哮が暗闇を切る。
「ちょうどいい、遊んでやろう」
暗き衣、フードの奥から聞こえるくぐもった声、そう言うなり男は奥へと向かった。轟く咆哮に追う冒険者たち、走る先に開けた玄室。
その中央に黒の僧侶は居た。
「ようこそ、悪魔の門へ。そしてついに私の念願が叶うとき。滅びよ、全て滅びよ。濁った血の獣どもめ、匂うな、そこにもいるだろう、腐った半人。無様だな、ああ無様だ。汚れた交わりの末に生まれた価値のないものどもめ、消えろ、今すぐ消え去るがいい」
男は前に立つ冒険者の存在など無視し一人狂気に蝕まれている。その言葉を聞いたジルはただうなだれた。キールは刃のような舌鋒からジルを守るように前に立つが矢は放てない。
握った束、動くに動けぬ、セシリーは悔しさを滲ませる。
目の前にいるのに何もできないなんて。
その緊張を破ったのは、サイーラだった。
サイーラはニーナを捕獲した獣に幻覚の魔法を仕掛ける。これは賭けだろう。だが、きっとこの状況を打開できるのは、自分しかいないはずだ。
失敗することは許されない。
あえて黒の僧侶ではなく獣を狙った彼女の判断は。
正しかった。
暴れだした獣を見、動揺を隠せない僧侶へクロエが切りかかる。守るようにもう一頭が彼女を襲う、それを見て走り出したセシリーはニーナを抱きかかえる。
その間憎しみに塗れる男は、狂ったように喚くが突然。
「つまらん。そろそろ時間だな、楽しかったよお前たち。もう会うこともないだろう、さようなら堕ちた半人どもめ」
僧侶は壁の向こうに消えていく、飛んだキールの矢とともに・・・・。
●旅の始まり
その後、残った獣を退治した彼ら。
泣きそうなニーナをイルコフスキーは何も言わず治療している。
「ごめん、イルイル」
「冒険と無謀は違うものだよ、一人で歩くなんて命を大事にしないと」
「・・・・」
やって来たリディア。何も言わずニーナを抱きかかえると強く尻を叩く、呆然とするニーナは泣き出した。
「冒険は遊びではありません。二度は無いのですよ」
イルコフスキーは泣いているニーナ見て思う、もう少ししたらあやせばいいかな。
セシリーの横にやってきたアレクは、彼女の手をそっと握った。
「お姉ちゃん」
「アレク君か、私もまだまだですね」
「ちがうよ、ボクなんて何もできなかったから。ね、元気だして」
少年が笑った、セシリーもつられて笑う。そう命ある限り冒険は終りではない。
震えているジル。
「ジル」
「キールさん」
キールは彼の頭上近辺に手をやり、試すように一瞬間を空けたあと。無造作に頭を撫でた。
「昔は俺も人の手が怖かった事がある。だが、それが全てではないと思えるようになれ。簡単ではないが、信じられる奴らもたくさんいる」
黙って彼に撫でられるジル。いつかきっと分かる日も来るかも知れない。
そして見送りの日、リディアはアレクに言った。
「子供の内は一生懸命遊んで色んな事を学んでください。大人になっても人を信じる事、優しくする心は忘れないで、例え何度も踏み躙られ、裏切られようとも・・・・」
「リディアさん?」
「いえ、大人の感傷です。頑張って自分たちの道を進むのですよ」
これより遠い道のりを進む、少年たちの冒険が始まる。
了