退治の始末

■ショートシナリオ&プロモート


担当:Urodora

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月13日〜10月18日

リプレイ公開日:2006年10月20日

●オープニング

●序
 木々に埋もれた洞窟の奥にそれはいる。
 剣をもった男たちは、暗がりを進むと先にある獣の香りと対して叫んだ。
「これで終りだ」
 振る剣にゆれる灯り、吹く風に乗った鮮血の匂いがあたりにゆっくりと満ちた。
 しばし時は経ち、全ておさまったころだろうか。 
 彼らは異変に気づいた。
 暗い口の向こう、見えるはずのないその姿に。

●ギルドにて
「ということで、君たちに後始末をして欲しいわけだ」
 ギルドは、依頼を達成して報酬をもらうところである。 
 だが、時にはその依頼をしくじる冒険者もいるものだ。
 ギルドにはギルドなりの事情もあるのだろう。
 しかし、そのような失敗した依頼は、曲がりくねった道のようなもので、出口につくまで努力が必要となることも多い。
 だから、請けたがる物好きも少ないわけだが、ここで引いてはギルド員として二流。
 彼はなんとか頼み込む。
「頼むよ。簡単にいうと、へたを打ったゴブリン退治をなんとかしてくれということ。
 数にして数匹、たいして手間を取る仕事ではないと思う。報酬は多少はずむ。
 受けてくれないだろうか、ね、お願い」
 弱気なギルド員の視線が熱い。ちょっと可哀想な気もする。
 
 依頼は、どうやらよくあるゴブリン退治のようだ。
 けれど、なぜかギルド員の目は泳いでいるようにも見えるのは気のせいだろうか。
 何か事情があるのかも知れない。

 さて、このゴブリン退治を請けるか否か?
 選択は、あなたたち冒険者の心の中にある。

●今回の参加者

 eb5300 サシャ・ラ・ファイエット(18歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5422 メイユ・ブリッド(35歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5584 レイブン・シュルト(34歳・♂・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb5763 ジュラ・オ・コネル(23歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5797 泡 小麟(26歳・♀・武道家・河童・華仙教大国)
 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb7509 ガリーナ・デリャンスカヤ(48歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb7784 黒宍 蝶鹿(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

クル・リリン(ea8121

●リプレイ本文

●冒険・・・・その前に

 書類を片したギルド員の前に少女が現れた。
「何か隠していませんか? さっき私たちの目をまともに見てなかったです。
 ほら、私の目をしっかり見てください、この依頼ほんとにそれだけですか?
 何か隠しているなら、話しちゃった方がすっきりしますよ」
 彼女はルンルン・フレール(eb5885)うら若き夢みがちな乙女。
 ルンルンは彼の手をそっと握り、にこやかな笑みと真っ直ぐな視線でみつめる。
 動揺するギルド員だが、なんとか返す。
「お嬢ちゃん。あの依頼はただのゴブリン退治だよ。単純明快、他に何もありゃしない」
「本当ですか?」
「ああ、神に誓って」
 ルンルンは、何事か考えていたようだが、手を離すといった。
「分かりました。でも、嘘つきは悪い子ですよ? その時は分かってますよね」
 
 一方そのころ

「言葉が通じなくたって、仲間たちの心があれば大丈夫。
 愛と勇気でこの依頼も成功よ、明日という希望の炎に向かって駆け出すの!!」
 何やら熱く気を吐いてる泡小麟(eb5797)緑が眩しい河童である。
 それを神妙そうな面持ちで見ているのは、ジャパン出身の忍者。
 黒宍蝶鹿(eb7784)。抜け忍である蝶鹿は、事情からいまだこの地の言語を理解できない。
 その蝶鹿が今回無事依頼に参加できたのは、小麟と他のメンバー、サシャ・ラ・ファイエット(eb5300)メイユ・ブリッド(eb5422)が連れたペガサスの通訳のおかげだ。
「申し訳ない。手数をおかけする」
 蝶鹿の言葉にサシャは
「困ったときはおたがいさまですわ」
 優しく返すのだった。


●道行く半ば

 レイブン・シュルト(eb5584)は観察していた。
「なあ、あれって」
 レイブンは、となりで黙々と子猫の相手をしているジュラ・オ・コネル(eb5763)に聞く。
「分からない。でも、楽しそうだね」
 彼らの視線の先にあるものは、お花畑で談笑している一部メンバーの姿。
 それを横目で眺め、若さにちょっと嫉妬しつつも、まだまだ自分も現役と一人意気込むのはガリーナ・デリャンスカヤ(eb7509)。カールのかかった金髪、鋭くつりあがっている瞳の持ち主である。
 齢を重ねても美しさは衰えてはいない。

 ここで乙女の聖地。お花畑に目を移そう。

「ルンルンさん、お会いしたかったわ」
「私も、サシャさん」
 ひしっと手を握りしめる二人、咲く花をバックにメルヘン溢れんばかり、どうやら二人はお友達らしい。
「あら、わたくしも混ぜてくれません」
 そこへ色気と気品、ともに満ちた淑女がペガサスを引きつれあらわれる。
「ええ、メイユさんもご一緒にどうぞ」
 微笑むサシャ、それから和やかなお話会が始まった。
「そうだ、サシャさんにこれを」
 ひとしきり語ったあと、ルンルンはサシャに一輪の白い押し花を差し出す。
「なにかしら?」
「贈り物です。そのお花の花言葉は『愛の誠実』」
「愛ですの・・・・わ、わたくし」
 なぜか動揺するサシャ、それを見たメイユは少し意地悪そうに。
「サシャさん、顔が赤いですね。もしかして恋?」
「え、あ、そ、その」
 あたふたしはじめるサシャ、それを見たルンルンの。
「冒険者だけど女の子、恋だってお洒落だってしたいですよね」  
 にっこりフォローに、サシャはこくこくとうなずいた。
「そうそうお洒落といえば、イギリスで流行の新しい褌ファッションが」
 メイユが言葉を次に続けようとしたところで、いななくペガサス。
 その鳴き声を聞き、お花畑に接近する緑の流星が一つ。
「それがゴブリンね。さあ退治するわよ!!」
 指差した先には、天かける馬。
 どう見ても違うが、泡小麟びしっとペガサスに狙いをさだめる。
「皆、そいつから離れて、四足ゴブリン覚悟」
 平和? だったはずの場所にただならぬ空気。
「乱心されたか」
 緑の前に立ちはだかるのは黒。闇夜に生きる忍び、黒宍蝶鹿。
 対峙する二人、散る花が舞うお花畑に駈ける影。
 彼女の戻らぬ過去の先にあるのは、冥府への道か。

 さらに様子を観察していたレイブン。
「止めなくて良いのだろうか?」
 その問いに、ジュラはちらっと視線をやったあと。
「怪我さえしなければ」
 といって、子猫をあやす。
 しかし、堪りかねたのか罵声が飛んだ。
「あんたたち、何やってんの。まったくこれだから、いい。あたしたちはこれから冒険に行くのよ分かる。
 ぼ・う・け・ん、ピクニックに行くわけじゃないのよ。ほら、分かったらさっさと行くわよ」
 ガリーナの一喝でしょんぼりした一部メンバーを引き連れ、一行は村へと急ぐのだった。

●村にて

 ゴブリン退治について情報収集をはじめる彼ら。
 それぞれ情報を集めたところで、一度まとめるため話し合うことになった。
 サシャは、クル・リリンからもらった手紙を読み上げ、依頼に怪しい点があることを告げた。
 蝶鹿はギルド員の態度に不信を感じていたことを語る。
 メイユは昔話について触れた、時代についてはそれほど前ではないらしい。
 ルンルンの洞窟についての報告にガリーナは胸をときめかせた。
 そして最後にジュラの森についての探索の報告。
「僕らは貢ぎ物かも」
 黒髪がふわりと風に揺れる。一瞬、間のあとジュラのこぼしたその言葉。
 それが何を意味しているのか、皆どこかで感じている。
 けれど、泡小麟とレイブンの迷うことなき決意に前進することを決めるのだった。

●洞窟
 
 口開ける穴ぐらは向こう、森の息遣いを感じる。
 けれど、知る者は少なく、水は多くを語らない。洞窟を前に立つ二人の少女に迫るものは一つ。

「おかしいです」
 ルンルンの怪訝そうな顔。
「ええ、変ですわ」
 答えるサシャ、ブレスセンサーと水霊に対する問い。
 それらが示したもの。
 生命体の反応がほとんどない。生物らしきものはここ数日通っていない。
「きな臭いわね」
 ガリーナが首をひねる。
「とはいえ、このまま帰るわけにもいかないだろう」
 レイブンは暗闇の口を睨みいう。立ち止ったところで何も変わるわけではないのだ。
「じゃいこう。たいまつが必要だろ。僕がもってるから」
 うっかりしていたパーティーの面々だが、ジュラのおかげで難なく洞窟を探索することとなった。 
   
 浮かぶ灯りの中、それをみつけたの蝶鹿だった。
 広い空間に数体の小鬼。どうやら敵のようだ。
「あれは! 」
 蝶鹿の声に何事か? とっさに散開して戦闘態勢をとる。
 放つ魔力と飛ぶ青白き残影。ガリーナのグラビティーキャノンとルンルンの矢が標的に向かって飛ぶ。
 !? すり抜ける矢と魔法。
 一瞬の虚、時既に遅い。襲いくるのは先頭にたつレイブン。
 違和感、彼がはじめに感じたのはそれだった。
 いつのまにか一人、周りをゴブリンに囲まれている状況。仲間は? 動揺するレイブンは、とっさに一番近くの敵に剣を向け振る。振られた剣、なんとか避けるが軽く傷つく、ジュラは体勢を立て直した。
 レイブンの様子がおかしい。
 同士討ち。もしかして、これで前の冒険者も・・・・。
 続く斬撃がジュラを襲う。
 その時、レイブンの足元に一筋のきらめきが飛び寸前で剣は止まる。放たれたのは後詰、蝶鹿からの手裏剣による牽制だった。
「少しの我慢です」 
 暴れるレイブンを見た、メイユはコアギュレイトで戒める。

 その時だった。

「次の研究材料はお前たちか? 生きがよさそうでなによりだ」
 奥から歩みでるのは、黒いローブを羽織った壮年の男。
「あんた何。この洞窟の主か何かなわけ?」
 登場した男に声高に問うガリーナ。
 内心洞窟に刻まれている変わった文様に心ときめかしているが、今はそんなことを聞いている状況ではない。
「よくぞ聞いた。私は偉大なる研究を受け継ぐものである。
 ここは幻影の徴が残る地。その術式を用いロシアの地に混迷・・・・」 
 その口上の途中。彼の前に突如立ちはだかる緑色の物体。
「はぁ〜〜〜戦いの舞。さあ、黒ゴブリン覚悟!!」
 決してゴブリンではないが、このさいそれはいいことにしよう。 
 男は、目の前で変な生物が妙にくねくねくしている姿を見て驚愕した。確か遠く華国に住むという河童? なぜこんなところに。だが、河童ごときに悪魔の崇拝者たる自分が、負けるわけがない。
「時間の無駄だ、お前たちの相手は・・・・」 
 の言葉に背後から現れたのは、一つの木偶。
 梢より生み出されたゴーレムの拳は赤に染まっている。
「それでは第二幕といくかね? 可愛い獲物たち」
 男の歪んだ微笑みが向けられた。
 
 状況的には不利。レイブンの魔法が解けるまでは耐える必要もある。
 サシャは暗い洞窟に転びそうになりながら、ぼんやりとした灯りの向こうにそれを見た。
 そのあと、何事か蝶鹿とルンルンにささやく。
 前衛ではジュラのかく乱と、泡のトリッキーな姿勢からの打の連撃。
 だが、決定打にはならない。
 男はその様子に満足していた。遊びは終りだ、自分で決着をつけるか。
 彼が前にでようとした時だった。
 足元より突如あがる水の壁、驚き体勢を崩す彼。
 ヒュン。
 音もなく飛来した一陣の風は顔面を狙い刺さる。痛みにもだえる男、走りよる影。
 彼が蝶鹿の気配を感じた瞬間。意識も同時に途絶えた。

 幻覚と呪縛から目覚めたレイブンは、戦闘中である仲間の姿を見た。
 彼は、剣を抜くと刃にオーラの輝きを宿して走る。 
 駆け寄るレイブンにジュラの援護、剣が振るわれるたび木片があたりに散る。
 レイブンの復活をみたガリーナは叫んだ。
「避けて!」
 キャノンの射線にあったのは、立ち尽くす木造の命。打音に続けて戒めの呪が襲う。
 メイユのコアギュレイトだ。
 哀れゴーレムは立ち尽くすだけ。
「さあ、ゴブリンこれで終りよ!! ケリチョンパ」
 ワン・ツー・スリー。尻から流れる華麗な頭突き、そしてとどめに蹴りのケリチョンパ。
 見事なまでに、アホっぽいそのポーズをバックにゴーレムは砕け散ったのだった。

 ●エピローグ

 村に戻った彼らは事の結末を話した。
 村人はどうやら事情を理解していなかったが、ゴブリンの脅威が去ったことを喜んだ。
 黒幕と思われる男は、あのあと自ら命を絶った。
 遺跡が何なのか、一体何のために研究していたのか、そもそもこの依頼は何のためだったのか?
真実は闇へと消えた。
 先に調査に来ていたパーティーは、みな遺骸となって発見されている。
 彼らはゴブリンを退治したあと、襲われたらしい。
 ガリーナは、あのあと洞窟にこもって思う存分調査をした。
 その結果、洞窟になんらかの魔力があることが分かった。

 サシャは思う。
 物語の結末は幸せだったのだろうか。
 彼女の手には洞窟の奥、並んだの墓でみつけた古ぼけたペンダント。
 それは遠い昔、愛を誓った二人の想いの残滓なのかもしれない。
「どうかしたのですか?」
「あら、蝶鹿さん。そういえば、蝶鹿さんはどうしてジャパンからロシアに?」
 サシャのふとした問いに蝶鹿は過去へ意識を伸ばす。帰れぬ地、捨てた記憶を手繰り寄せる。
 その時、風が吹いた。
 吹く風はサシャの胸元から一輪の白い花を飛ばす『愛の誠実』その名をもつ花は飛び風に流れて踊った。
 きっと今はいない二人も愛を貫いたのだろう。サシャは、自らの想いを花にそっと重ねる。
「二人とも、帰りますよー」
 遠くペガサスを引き連れたメイユの声が聞こえる。
 サシャは逸話の証をそっと手放す。
 輝き落ちるペンダントは、なぜか喜んでいるように見えた。
  
「暇だな」
 ギルド員は、一息ついた。
 とりあえず茶でも淹れるか。そう思い椅子から立ち上がった彼の前に立ちふさがる影。
「嘘つきは、悪い子ですよね」
「危険なわりに安い仕事だった」
 にこやかなルンルン、机にショートソードを突き刺すジュラ、さらに背後で輝く緑の炎。
「悪の栄えた、ためしなし。あなたがゴブリンだったのね!! ケリチョンパ」
 最悪の状況に、逃げようとする彼の退路をたったのは、柄に手をかけるナイトの姿。
「助けたい。けれど、俺も被害者なんだ」
 ギルド員は硬直した。やはり悪いことはできないものだ。
 さる筋からの話とはいえ、この手の仕事を受けるのは、もうやめよう。

 その後、彼の財布の中身が激減していたのはいうまでもない。