氷刹の血潮

■ショートシナリオ


担当:Urodora

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:11 G 38 C

参加人数:9人

サポート参加人数:4人

冒険期間:01月29日〜02月06日

リプレイ公開日:2007年02月06日

●オープニング

●これまでの経緯

 聖夜の襲撃事件から約一月。無事生還した国王ウラジミールは、不在のキエフで仕組まれた祭り、それに騒いだ反乱分子の一部を一掃することに成功した。
 その騒動の一端、市中で内乱を起こすべく活動していた銀狐兵団小隊長、ニコライ・イヴァノヴィチは、冒険者の活躍によって捕縛される。
 彼が何者の手によって動いていたかは、明らかにはされてはいないが、その裏に王に敵対する者の意思が働いていたのは確かだろう。
 しかし「聖夜の黒狐狩り」とも称されるイヴァンの離反騒動を狂言として見るもの多く、何者かの手による尻尾切りではなかったのか? との意見が現在は主流となっている。 その後、ウラジミールは次の手を打つべく密かに準備を始める。 
 そして怪僧ラスプーチンがそれを利用したように、彼もまた冒険者ギルドに目をつける。その思惑がなんであれ、今また吹雪の予兆は迫りつつあった。
 
  ★★★

 『氷刹の血潮』

●本営

 風に旗は舞う。
 黒に銀の狐が縫いこまれたその旗は、ロシア王国の一翼を担う銀狐兵団の旗印。
 その銀狐兵団の本営に一人の男が訪れた。
「お久しぶりです。ブラーギン小隊長」
 部屋に招かれたのは大柄な人間の男だ。歳は四十を過ぎたころだろうか、浅黒い精悍顔。けれど、どこか抜けたような感じのするのは、きっとまばらに生えた不精髭と人の良さそうな眼差しせいかも知れない。
「半年ぶりですかな、ウィトゲフト参謀。しかし私をお呼びとは、また珍しい。もしや、幕僚内の頭でっかちどもの相手に疲れて、また剣を握りたいというご相談とか?」
 ウィトゲフトと呼ばれたハーフエルフの青年は、やや吊りあがった鋭利な目を細めると苦笑いを浮かべる。
「お偉方にもそれなりに考えと言うものがありますから。前線は懲り懲りですよ。昔はあなたにしごかれたものですね、懐かしい。と、積もる話はまた後にして、今回の話は極秘と言うほどではありませんが、国王経由の命を受けまして」
「国王様からですか、色々と大変ですな」
「そこで小隊長のお知恵をお借りしようと・・・・」
 何やら話しだす二人。
 その背で、雪混じりの風が窓を叩いていた。

 ●兵舎

 銀狐兵団宿舎。
 ドアを叩く、青年が一人。
「ボリス・ラドノフ。入ります」
 最近、よく呼ばれるな。
 そう思いつつ銀狐兵団一般員ボリスは、小隊長であるブラーギンの部屋を訪れた。
迎えたブラーギンは、椅子にかけるようすすめた後、切り出した。
「ボリスか。イヴァンの件ご苦労だった」
「いえ、私一人の力ではありません」
「そうだな、お前は何もしていなかった。そういう報告もある」
「・・・・酷いです。隊長」
 しょぼくれたボリスにブラーギンは笑って言う。 
「冗談だよ、冗談。さて、今回もお前に任務を与える」
「また俺、いえ私ですか!」
「文句でもあるのかな? そうか命令違反で減給か、独り身のお前だ財布が少し軽くなったところで別に支障はないだろう」
 痛いところを突かれたボリスは、またもやどんよりした。
「そんなに暗くなるな、もしかしたら良い出会いがあるかもしれんぞ。何せ、今回も冒険者絡みだ。冒険者の女は気が強いのが多いそうだし、年上好きのお前にはちょうどよかろう」
「拒否権ないもんなあ・・・・はいはい、やればいいんでしょう。まったく部下使いが荒い」 
 と、こっそりと呟いたそれを聞きのがすブラーギンではない。
「何か言ったかね、ボリス団員」
「いえ、早速準備を」
 不承不承、命令を受けるボリスであった。
 あまり意味のない説明をすると、ボリスは20代前半の男である。しかし、若い女性に興味は無い。25より下は子供で、35あたりからが良いという熟女好きである。それと依頼に何の関係があるかと言われても困るのだが。
 こうして、銀狐兵団一般員のボリスはとある依頼に同行する事となった。

●ギルド

 珍しく仕事をしている中年ギルド員は、緊急で入った依頼の依頼人の名を見、どこかで見たのに思い出したくても思い出せない。そんなくすぐったい気分の中にいる。
「トリスタ・マクシモア」
 ・・・・聞いたことのある名前。
 数分ほど唸った結果。
「そうだ! うちのギルドマスターの息子だよ! 確か宮仕えで騎士だったよな。とりあえず内容はどれどれ」

 ルゲル掃討戦
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、作戦の趣旨を説明する。
 キエフより徒歩で三日程度の距離にある開拓村が蛮族の襲撃を受け壊滅した。
 銀狐兵団は一軍をもってこれを掃討する予定であったが、諸事情により延期。
 進軍してくる敵を防ぐための防衛線と陣地を一時的に構築。
 君たちにはその陣に到着後、計画されている掃討作戦の遊撃部隊として動いてもらう。 
 戦況は、こちらが有利とはいえ油断は禁物だ。
 なお、今回の依頼目的は冒険者の実力把握である。己に恥ずかしい戦いはしないように。

 「地域地図」
  ルゲル掃討戦 天候・晴
 ■■■■‖■■■■■■■■
 ×××▲☆××××1××▲
 ××▲×‖×▲××▲××▲
 ××××‖=☆=○===陣
  ××▲3‖××▲××××▲
 ××■■‖××2××××▲
 ■■■■‖■■■■■■■■
        進行方向→
「表示記号」
☆  推定、敵軍布陣 
○  銀狐部隊
■  遮蔽物・障害物(主に森林)
=‖ 道
×  雪原
▲  丘 (登頂可能)
数字 配置可能位置

「索敵報告」
 敵総数20強 蛮族、主にエルフを中心とする混成2部隊、各部隊の人数12程度。
 自軍は、銀狐兵団半個小隊一部隊、総数15程度。 

 ○ウィトゲフトの作戦あれこれ

 今回は主に三つのシーンで進行していきます。なお、冒険者の集団を一部隊としてみます。
 では、その三つ、作戦選択→集団戦術→個別戦闘。 各自について簡単ですが説明を。

 1、作戦選択
 簡単にいうと配置位置の決定と部隊移動についてとなります。
 位置や移動については遊撃部隊ですので、皆さんの自由性に任せますが、作戦参謀からの推奨配置位置は1のようです。理由は本隊が挟撃される可能性を減らすこと、陣地を奇襲されるのを防ぐためらしいです。そのあたりは戦略しだいだと思います。

 2、集団戦術
 これは部隊としての戦術を見るものです、集団戦闘は、よほどの実力差が無い限り一人の英雄によって勝敗は決しません。よって各自の能力をいかした連携戦術を構築したほうが勝率はあがると思います。具体例としては、集団攻撃魔法後に、騎兵による中央突破で分断、各個撃破などですが、そのあたりは皆さんの戦術センスに期待します。

 3、個別戦闘
 集団戦術後の戦闘になります。ただし、前の段階で苦戦するか楽勝かが決まるともいえます。例え不利でも、ここで阿修羅のごとき働きをすれば、挽回できるかもしれませんね。

 多少複雑ですので、まとめると

 1、地図を見てどこに布陣して、どう行動するか決める。
 2、敵部隊と対した場合に、部隊としてどのような戦法をとるか決める。
 3、自分が敵をぶったおす方法を決める。

 布陣を決めるのが面倒な場合は自動的に1で決定されます。
 それでは、貴方に神の加護とご武運を。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8769 ユラ・ティアナ(31歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb0882 シオン・アークライト(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb2488 理 瞳(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2918 所所楽 柳(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb5856 アーデルハイト・シュトラウス(22歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb9649 モケ・カン(33歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

アド・フィックス(eb1085)/ 所所楽 杏(eb1561)/ ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)/ レオーネ・オレアリス(eb4668

●リプレイ本文

●野営

「うむ、よきに計らえ」
 何を計らうのかは知らないが、デュラン・ハイアット(ea0042)は一人、野営テントの中で特別あつらえた一画にいる。
「相変わらず、目立つことをしているのね。毛皮を敷くなんて」
 見知った顔であるアーデルハイト・シュトラウス(eb5856)はデュランの奇異な行動を見物しに来たあと、冷ややかに言った。
「まあ、デュランさんはこういう人だし」
 一緒についてきたユラ・ティアナ(ea8769)も呆れつつも、納得している。相変わらずデュランは俺様ワールドの住人のようである。
 とりあえず、これ以上触れると長くなりそうなので、他を見るとしよう。
 所所楽柳(eb2918)とボリスは色々あってそれなりに懇意のようである。
「柳さん、あの麗しい杏というおねーさまは??」
「あの人? お友達だよ。ほら、僕独り身じゃないでしょ」
 ちなみに麗しいおねーさまとは、柳の母親の杏のようだ。柳は自分の母親を紹介してどうするつもりなのだろう? まあ、それはいいとしてその横で何か変な人が怪しい行動をしている気が・・・・。
「明日ハレニナレナレテルテル坊主」
 てるてる坊主はいい、しかしなぜヒゲオヤジのてるてる坊主というか、逆さまにつけてない? 大雪になるよ。そういう彼女は、華国生まれの武道家の理瞳(eb2488)・・・・あまり真っ当なタイプではない気がヒシヒシとする、直感だ。
 と、ここまでは楽しい仲間たちを紹介してみたが、あとのメンバーは比較的良識派な雰囲気がする。よって、つっこみどころが少ないので後に回そう。
 あ、まだいた。
「ひゃーーはははは! 食らいやがれ!」
 と叫びながら 自作雪だるまに雪玉にぶつけているのはモケ・カン(eb9649)である。モケはよく見るとチンピラ風味の駆け出し君の匂いがするチャレンジャー冒険者だ。厳しいギルド員の仕事斡旋だと、仕事に行って即教会行きなど、ちょっと悲しい気分になる可能性もあるので、気をつけたほうが良いかもしれない。 
 
 では、ひとまず。布陣へと進もう。

●悪鬼と羅刹の衝突

 布陣は作戦案の通りと決定したようだ。本隊との調整後、戦闘は始まる。

「それでは私も偵察に参ります」
 ジークリンデ・ケリン(eb3225)、その上品そうな雰囲気とは裏腹に、世界でも有数の魔術師の一人のようだ。ウィザードというと色々タイプはあるが、普段は物静かだが怒らすと怖いタイプなのだろうか。そういう所をデュランは少し見習ったほうが良い気もする。彼も違う意味で、世界に名高い魔術師の気もしないでもないが・・・・。
偵察も兼ねて丘へ向かった数人、それとは別に伏兵としてシオン・アークライト(eb0882)、瞳などが伏せる。
「アカラサマナ棒立チヨリ慎ミガアリマス」
 そういって雪穴を掘り出す、瞳。・・・・なぜか笑えるのはなぜだろう。
「そうね、風は無いけれど寒いには違いないし、私は森へ行くわ、おいでテュール 」
 シオンは、心持ちダークぽい感じが魅力的な女騎士である、そして同性愛嗜好。男女どちらが本命なのかは不明だが、相方らしき者はいないようだ。いや、あまり深く突っ込むと泥沼が怖いので大人しくしておこう。
 そういえば同性愛というキーワードをなぜか最近良くみる気がする、多分気のせいだろう、別に好みじゃないよ薔薇とか百合。
 それはいいとして比較する相手が
「俺デスカ」
 ということもあって、三分増しに見える気もしないでもないけれど。
 その様子を冷ややかに見つめている男が一人、名をエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)、いじりずらい空気を纏っている。余計な事を言うと何を言われるか戦々恐々だ。向けてくる視線が冷ややかな気がするので、眼を合わせないようにしよう。 
 そんな雪の中、馬がいななく。
「準備は大丈夫? 馬の扱いならこの中の誰よりも私は自信はあったりするかも」
「そう、頼もしいわね。いつでも行けるわ」
 ユラの問いかけに、ローラントに騎乗したアーデルハイトは頷くのだった。
 

 敵集団の移動は予想通りの展開だ、銀狐本隊を挟撃すべく移動を始める敵部隊。
 索敵中のジークリンデにはその様子が手に取るように分かるが、なぜか腑に落ちない。
(数が予想より少ないですね)
 敵の数は、彼女が把握した範囲内では10人に満たない。この状態で一撃を加えても問題はないだろう、だが・・・・いや迷ったところで粉砕すればいいだけだ。
 達人を超えし者。大魔女の力を今こそお見せしましょう、燃え尽きてしまいなさい。
 蠢く人影を見、彼女は微笑み意思を統一する。
「空から睥睨するのも悪くないな、人がまるで塵のようだ。さあ諸君、王の登場だ!」
 あまり詳しい説明する必要はない、デュランは隠れるつもりなど無く堂々と飛行している。彼を止めるのは色々と大変そうなので、やりたいようにやらせておいたほうが無難だ、囮役としては適任でもある。
「柳さん、そろそろ合図をしても」
 丘の上で宙に浮いているウィザード二人をなんとなく眺めていた柳に、ボリスは当初の目的を思い出させる。
「そうだった。けれど、もう少しひきつけたほうが良いかな」
 柳の視界には、ただ一直線。何の意図も感じられず向かってくる集団が見える。
(けれど、こんなに単純で良いのか? 浪漫も何も無い)
 愛用の笛を仕舞い、彼女が合図の手袋を落とす。
 落ちていくそれが風に吹かれ踊った。
 身構える、冒険者たち、それが地に落ちた瞬間、視界は雪に覆われる、これは火炎の爆裂? 確かに滅びの火球が集団を襲った・・・・だが。
(そんな)
 ジークリンデの瞳に写ったのは、ほぼ無傷のエルフたち数人。大多数は火炎により吹き飛んだ、しかし彼らは吹き荒ぶそこに立っている。
 熱風に溶ける雪は水と化す、獄炎は大地で爆発した、だが吹き飛ぶはずのそれを阻んだものは、氷の鏡。
 彼らは氷の術師たち。凍てついた鏡はあらゆる魔法を阻むだろう、精霊の力を借りるものである限り。例え、どのような魔術師であろうとも理に逆らうことはできぬ、それが力の源であるかぎり。
 そして、返ってきたのは、氷の嵐の返礼だった。

 多少の誤算はあったとはいえ戦況は有利に運んでいる。
 ジークリンデを含む、ウィザードの魔法により敵の陣形はすでに崩れた。  
 走り出した騎兵アーデルハイトの撹乱、ユラは騎乗から連射をしつつ掃討。テュールを引き連れたシオン、雪穴から飛び出した瞳にモケも加わって残った敵と戦いを始める。

 戦いはこのまま終わる・・・・かに見えた。

 それに気付いたのは、フライングブルームに乗って、周囲を探っていたエルンストだった。明らかに相対していた集団とは違う方向からやってくる少数の騎馬集団、それはすでにジークリンデの魔法の死角に入っている。
 振りかぶった大刀の血拭う暇もなく、続けざまに斬りつけるシオン。集団の司令と思しき戦士の前には残る一人。
「命が惜しいならそこをどきなさい・・・・。ふふっ、そう言ってみただけでどっちにしろ斬るけどね」
 刃を向けたシオンの言葉は本気なのか冗談なのか分からない。きっと本気だろう。
 風貌、雰囲気、物腰からシリアスだと判断した。そう見えて実は天然なら意外性たっぷりだが、それはまた違う話である。彼女連れてきた獰猛な獣もテュールも敵を襲っている。その周辺に立つのは回った毒に痺れた物体。狙った獲物を逃がさない彼女、瞳の打つ手刀にまた一人動きを止めている。

 前線はすでに乱戦となっている。
 続けざまに連射される矢、彼を狙ったそれは、ほとんど落ちてゆく。
「王は矢を避けない。矢が王を避けるのだよ」
 デュランの得意げな顔、だがそれとは裏腹に死闘は演じられている。
 何度目だろう、矢筒から取り出した矢をつがえては撃つ。愛馬とともに受ける鏃。撃っっては撃ち返される馬上の戦い。
 ユラは思った。デビルにも折れなかった心、この程度折れるわけないわよ、やれるならやってみなさいよできるものなら、ね。
 引き絞った弦を離すと矢が放たれ、それに呼応してまた矢が来た。
 体勢を立て直して、再度突撃したアーデルハイトの撹乱により、敵の援軍の足並みは崩れてかけている。
「もう、後がないわよ」
「うひゃひゃ、もう後がないない、勝ったも同然だ」
 指揮官を追い詰めたシオンの背後にモケがいる。どうやら安全圏から高みの見物のようだ、なかなか狡猾というか、小悪党というか・・・・モケはこの乱戦のどさくさに紛れて、倒した敵の装備を奪おうとして失敗していた、良い性格している。
 シオンの挑発に襲い掛かった敵、そこへ彼女の刀がゆっくりと振られた。

 乱戦は収束に向かっている。その最中、エルンストは自分の目的を果たしていた。
「言え、黒髪のエルフが接触した部族。そしてオークに奪われた『杖』の話を聞いた事がないか?」
 息も絶え絶えのエルフは、切れ切れに言葉を続ける。
「けっ、なんでお前にそんなことを教えてやらねえとだめなんだよ」
 それを聞いたエルンストは表情一つ変えず、実力行使に出る。痛みは素早く確実に。
「げぼ・・・・このやろう、そんなに知りたいなら教えてやるぜ。どこの部族かは知らんが蛮族とも馴れ合わない、かなり古い部族がオークに襲われたらしい、杖については知らん。だが、シードルという若造が行方不明になっているという話は耳にした。ああ、噂だ、噂だ、本当かどうかなんてしらねーよ、この・・・・」
 そこまで聞くと、エルンストは止めを刺した。
 ちなみに、他のギルド員の取り扱った依頼に関係している事柄は、たいてい管轄外になる場合が多く適切な記録がされるとは限らない。そのあたりは扱うギルド員にもよるかもしれない。だが、必ずしも情報が通じるとは限らないので、固有情報を元に行動する場合はその点を注意して欲しい。

「ふう、なんとか護りきった」
 丘の駆け下りた柳は、舞うように炎笛を振り、倒れた敵を見たあと息をつくと手に持った笛に眼をやった。戦うこと・・・・か。もしかして、僕はあまりそれが好みではないのかもしれない。
「柳さん? 何真面目な顔してるんですか」
 いつもと雰囲気が違う柳に、不思議な感じがしてボリスは聞いた。
「酷いな。僕はいつでも真面目だよ」
「またまた。そういえば、なんとなく杏お姉さまと柳さんって似てません?」
「な、急に何を」
 驚く柳にボリスは続ける。
「今度、是非お茶でも、お願いします」
「あ、でも杏嬢は忙しいからね」
 その言葉に、がっくり来ているボリス。紹介したのは誰でもない、柳。君だぞ、君。
    
 こうして戦いは一応の決着がついた。
 防衛線を張った冒険者の足止めにより、本隊は敵軍を見事撃破。
 冒険者の戦闘も完全に満足といえるものではなかったが、ほぼ力を誇示することはできたといえるだろう。
 なお、戦闘中と後。怪我をしたものはポーションを使って回復をした。回復しきれなかった、所持していなかった者はそのまま陣へと退却することになる。
 

●狐の天幕
 
 陣に戻った彼らは休息を兼ねて、慰労会に招待された。その喧騒を抜け出して歩く女が一人。彼女が外へでようとした時、また一人の女と出会う。 
「色々大変だったわね」
 アーデルハイトは、出会ったジークリンデに何の気なしに声をかけた。
「予測の想定外の出来事。それには大魔女とはいえ対応は出来ません」
「魔法というものも案外、不便なものね」
「どちらにせよ。終わったことです」
 去っていくジークリンデを見送るとアーデルハイトも天幕を後にした。

「雪フレフレ」
 瞳は、テルテル坊主では飽き足らず、何か藁で出来た人形のようなものを貼り付けている。多分頭文字に『呪い』とかついていそうな気がする。
「ねえ、それって何? かなり禍々しいのだけど」
 通りかかったユラの質問に瞳は
「幸福ノお守りデス」
 そうですか色々・・・・幸せになってください。 
「なんだ、その呪いの人形は? うはは、吹きとんでしまえ!」
 デュランのいかづちと風に呪いの藁人形は、吹きとびました。
「ショック、デス」
 いや、多分持ってないほうが幸せになれると思う。

「この旗、どうしようかしら」
 シオンは敵の軍旗? どちらかというとのぼりのようなものを見つつ困惑している。
「おみやげにもって帰るには、センスが無さ過ぎるわよね。でも、喜ぶかな、喜ぶわけないわよね・・・・」
 それにしても、誰にもって帰るお土産なのだろうか? プライベートだしね。色々あるのだろう。
「良かったら、俺が持って帰ろうか?」
 エルンストが何の気なしにそう言った、必要ないもの全く要らないというタイプに見えるのだが、旗をどうするのだろう。後日談だが、その旗は銀狐の倉庫に今は眠っていると聞く。
「ああ、うめーうめー。今回も儲けたぜ、うへへ」
 モケは今日も元気です。たらふく食べ物を食べて動けないくらい。

 かくして、冒険者の実力を示す。その任務は見事に果たした。
 これによって国王ウラジミールは冒険者ギルドの実力をきっと重視することになるだろう。
 それが何を意味しているかは今だ定かではないが、一つの歴史が動いたの事実である。


●浄罪の雪

 雪が降るたび全てを呑み込んで行く。
 静寂が澄み渡るその地、そこにあるのは終わった時の欠片だけだ。
 いずれ、君たちがまたこの地に立つ時、何を思うのだろうか。戦いは何も残さない、いや、戦うことに意味を求めることが無意味なことなのかもしれない。
 それでも人は戦う、そこに残るものが生と死を巻き込んだものだとしても。
 凍てついた空と雪。その中に骸が散乱している。きっとこれは勝利なのだろう、勝つことが目的なのだから。
 青年は傷口から滾った血を落とした。
 赤の温もりに溶けた雪は哀しみも喜び受け取って、いつかまた新たな命を育むかもしれない。
 吹く風が冷たい。果て無き銀の世界の中、どこで笛の音が聞こえる。
 きっと彼女の奏でる音だ。その音を聞くたび、胸が痛いのはなぜだ。
 握った剣、その手に残るものは、いつでも後悔なのかもしれない。
 けれど、もう振り返ることはできない、振り返ったところで何も変わらないから。
 行こう。まだやることがある。
 彼は進みだす、供に戦ったものが待つ場所へと。

 戦いは終った。

 ひと時の安らぎにこの大地は眠るだろう。
 繰り返される殺戮の鼓動、その連続に伏したものたちにも雪は分け隔てなく降り注ぎ。 
 白い棺が地を静かに覆っていった。


 了