疾風の狐炎

■ショートシナリオ


担当:Urodora

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 9 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:02月23日〜03月01日

リプレイ公開日:2007年03月05日

●オープニング

●書簡

 拝啓 親愛なるわが同胞よ

 急な手紙を許して欲しい、だが、伝えなければならないことがある。
 何者かの手によって君の命が狙われているのだ。いきなりのことだ、信じるも信じないの自由だ、けれど忠告をしたことだけ憶えていて欲しい。

 「貴方の善良なる忠告者より」

●館

 艶やかな黒髪を腰まで伸ばしたその女は、部屋の中央の丸テーブルにカップを置くと、周囲の豪奢な調度品に眼をやった。
 無駄ね、形あるものはいずれ滅びるのに・・・・。
 心の中でそう呟いた彼女は部屋の主がやって来るのを待つ。どれくらい待っただろう、溜息を二つほどつきたくなるほど、それくらいの間が過ぎた後だ。扉を開いて入ってきたのはでっぷりと太った男であった。
「君が、噂に聞く風のイレーネか?」
 不躾な視線を男は彼女に向けて話しかける。慣れたとは言え貴族の上から物を話す態度は気に喰わない。彼女はそう感じつつも答えた。
「そう呼ぶ方も・・・・。此度は仕事のお話と聞き参上致しました」
「まあ、かけたまえ。早速用件へと入る。君も知っていると思うが、我がロシアは八つの公国に分かれている」
「はい」
「その公国の主である大公を含め、主要な貴族の下に昨今怪文書が届いているのだ。内容のついては、よくある偽善者を装った忠告だな、その真偽はどうであれ。だが・・・・」
「だが?」
「まあ、文書については良いのだ。君に頼みたいのは、その文書に乗じてある男を襲って欲しい」
 貴族はそう言うと脂ぎった顔に笑みを浮かべて女を見た。
 その様子から直感で彼女は理解した。これは体の良い捨て駒として使う気だろう・・・・。 しかし、彼女はあえて微笑んで返す
「分かりました。お引き受けしましょう。ただし、それなりの報酬を支払っていただきます」
 
 今また疾風は、静かに奔りはじめた。

●警備隊

 銀狐兵団一般団員ボリス・ラドノフは、バレンタインも独り身で寂しく過ごしたことなどすっかり忘れ、キエフの街を歩いている。最近は変な任務にも呼ばれなくなった彼、なんとなく寂しいような気持ちでいたのだが・・・・。 次の日、そんなボリスを待っていたのは
「警備! 俺たち軍隊じゃないですか」
「そうだ、軍隊が警備をするのは当然だろう? うん、違うか」
「そ、そうですけど。なんで、あんな奴の」
 ボリスは驚いた、悪名高いある貴族の屋敷を守備するように命令されたからだ。その貴族の悪行については明らかにされてはいないが、誘拐して生き血を啜る、美少年・美少女ばかり使用人として連れてきて、帰ってきたものはいない。そんな噂と謎のベールに包まれている。
「人格に貴賎はあろうが、身分には逆らえんってことだ、組織なんての窮屈なもんだからな上の命令に服従、服従。長いものには巻かれるのが処世術だぞ。それに例の貴族はとある大公のお気に入りらしい、このさいとり入って出世を目指したらどうだ」
 小隊長であるブラーギンのにやけた髭面に、ボリスの困惑する顔。
「に、任務なら仕方ありません」
「素直でよろしい。分かっていると思うが、最近の怪文書に関わる騒動で兵団から人員は割けない」
「はい、大人しくギルドに行ってきます。ギルドへの道は暗記しました」
「それなりに強い奴を連れてこいよ。相手は最近よく聞く風の旅団らしい。予告して襲ってくるとは面白い奴らだな」
「あの得体の知れない傭兵団ですか? って隊長・・・・何か楽しんでないですか」
「可愛い部下は崖から突き落とせってな、まあ骨折くらいで済むと良いな」
「・・・・おぼえてろよ、あとで復讐してやる・・・・」
 その呟きを聞きのがすブラーギンではない。 
「何か言ったかね、ボリス団員」
「いえ、何も」
 こうして、またもやボリスは任務に借り出された。

●ギルド

「ってことは、貴族の屋敷、それを警備をするってことかな?」
 最近奥様に、サボリをこっぴどくしかられた中年ギルド員は、それに懲りて珍しく真面目に業務をしている。
「そういうことです。ただ屋敷の中には入れてくれないようです。屋敷は門が二つあるのでそこで足止めをするのが主な任務になります」
 それを聞いたギルド員は
「しかし、それじゃ門を突破されたら、終りじゃないのかい? 屋敷の守備は良いのかい」
「はい、あくまでも協力することが大事なのであって、死守するのが目的ではありません。権力者のお遊び、盤の上のゲームというものは軍人の俺には理解できないですし、したくもありません。とにかく行動する意思さえ見せれば義理は果たせるということのようです」
 なんとなく不満そうな青年の表情を伺いつつギルド員は続ける。
「まあ、死なない程度に守れということだな。で、何か他には?」
 その青年、ボリスが話した内容をまとめると。

 敵は風の旅団と呼ばれる、主に忍者を中心とした傭兵団である。束ねるの女ウィザードでかなりの実力らしい。今回、襲ってくる日時を予告した上で襲撃してくるらしい。そこに何の意図があるかは分からないが、襲撃人数は10数人程度と予測される。
 門は二つ、正門と通用門だ。塀はあるが相手が忍者のため役に立つかどうかは疑問ではある。ただし、任務は門を守ることなので気にする必要ない。
 正門と通用門まで距離は、庭先を走っても数分程度はかかるようだ。
 なお、屋敷の建物内部に入ることは何があっても厳禁とされているので、注意するように。
 警告を破ったものの命の保障は無い。 

 ここまで言うと青年はギルド員に恥ずかしそうに言った。
「あの、なるべくなら年上のお姉さん優先で・・・・」
 ボリス・ラドノフ。相変わらず、懲りない男のようである。 

●今回の参加者

 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb1118 キルト・マーガッヅ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5195 ルカ・インテリジェンス(37歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5604 皇 茗花(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb5856 アーデルハイト・シュトラウス(22歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb5887 ロイ・ファクト(34歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 eb6853 エリヴィラ・アルトゥール(18歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb8684 イルコフスキー・ネフコス(36歳・♂・クレリック・パラ・ロシア王国)

●サポート参加者

キドナス・マーガッヅ(eb1591)/ 水神 観月(eb1825)/ 所所楽 柳(eb2918)/ ユーリィ・マーガッヅ(ec0860

●リプレイ本文

●疾風

 音は蒼き光のごとき走り、荒ぶ世界に迸るのが応えなら立つ背にあるは
「ここは任せてもらいますわ」
 瞬時に言葉を紡ぎ抗うのが定めとしても
「面白い。名を聞いておきましょう、消え行く者へのせめてもの手向け」
「キルト・マーガッヅ(eb1118)ですわ。はじめまして。そして、さようなら」
 銀色の髪のエルフの科白、紫の錦糸に彩られたローブを羽織った黒髪の女はそれを聞き微笑んで返す。
「私は風、風のイレーネ。立ち塞がる物全て薙ぎ倒し彼方に帰すのみ。いや、言葉はいらない。どちらが真の使い手なのか、ただそれだけです」
 唱えた響きは二重に轟く。攻め手は孤高に頂きに登り、守は繋がる糸にて地に立つ。
「ゆきます」
 ・・・・疾風が哭いた。

●回顧

 ──時は戻る。

 ギルドでパーティーと合流したボリスは、キルトにたくさん付き人がいることに驚きつつも、その一人である旧知の間柄でもある柳の「キミの好み基準って外見? それとも暦?」の問いに。
「見かけに決まってますよ。だって実年齢ならシシルさんもエリヴィラさんも、俺の許容範囲じゃないですか」
 名指しにされたシシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)とエリヴィラ・アルトゥール(eb6853)は何事かとこちらを向いた。ちなみにシシルはエルフでエリヴィラはハーフエルフである。シシルはそれとなく近寄ってきたあと、その話を聞いて
「エリたんには、あそこに仏頂面の人がいますしね」
 彼女の指摘している人物はロイ・ファクト(eb5887)という男である。エリヴィラとはハート半分以上、満タンではない間柄、いつ正式にラヴMAXになるのかは今だ不明である。
「毎度、気楽な人達ね。油断は怪我の元よ」
 一連の場面を少し離れたところから冷静に見つめていたのはアーデルハイト・シュトラウス(eb5856)。そのクールさとは裏腹に意外と悩み多き乙女でもある。  
「俺はお姉さま好きです、はい」
「ボリスさん。愛は偏ってるだけじゃだめだよ、もしかして身近な所にいるボリスさんを愛してくれている人のことを見落としてないかな?」
 パラの白クレリックであるイルコフスキー・ネフコス(eb8684)は、白の教徒らしく愛を説いてみたのだが。
「といっても軍人ですからね、あんまり出会いが無いわけで・・・・え、渋い・傷だらけの天使発見☆」
「な、なに軍人君、その瞳の星は、近寄ってこないで」
 ボリスの視線の先に居たのは、最近復帰した工作傭兵のルカ・インテリジェンス(eb5195)。ルカはボリスの25歳以上許容範囲より年上のようだ・・・・ご愁傷さまかも。
「まったく、困ったものだな」
 そういいつつも、楽しそうに眺めていた皇茗花(eb5604)が締める。今回はまるご装着の人はいなかったようで、色々平和のようだ。
 ということで、キルトのお付きであるキドナスと、ユーリィの説教を見送りに一行は館へと向かうこととなった。
 そして、たどり着いた館。
「そういえば、言い忘れていましたが今回は消耗品はこちらが持ちますので、後で使った分は報告してくださいね」
 そのボリスの言葉を後ろに黒塗りの壁、扉という扉を全て打ちつけてある館は、一見すると廃墟も同然である。手入れがしてある庭が人がいることを匂わせてはいるとはいえ、枯れた蔦の絡まった門を動かすだけでも一苦労だ。
 その門を通り抜けた先には、大きな鋲が打ちつけてある玄関扉とおぼしきものが威圧しつつ迎える。
 場所が本当にここなのか? ボリスに向かった問うものもいたが
「はい、間違いありません。庭は広いので、そこで野営をしても構わないそうです。建物に入るなと注意されましたけれど、どうやら見てのとおり中には簡単入りたくても入れないようですね。まあ、何をしているかは知らないほうが良いということなのでしょう・・・・」
 一瞬、ボリスの表情にも疑念が浮かんだがすぐ戻り。
「では、皆さんが先ほど言っていたような体制で警備するとしましょう、俺は夜ですよね。よろしくお願いします、ルカお姉様とイルコフスキーさん」
 そして、昼間なのでやる気がなさそうに索敵用の準備をするルカ。入念に周囲を調査したキルトと茗花がボリスに襲撃者と警備環境についての質問をする。
「ものすごく大雑把なのですが、とりあえず建物の中に入るなだけしか俺も受けていないわけで・・・・あの様子ですし、よほど大暴れしないかぎり大丈夫じゃないかな。襲撃してくる人数は10数人です。警告文にあります」
「風の旅団の詳細について知りたいです。あと隊長さんの話とか」
 シシルの問いに
「風の旅団は最近よく聞く傭兵団で、俺も前にあげた情報以上のことは知りません。ただ予告して襲ってくるなんて何なのでしょうね? ってシシルさんは、また隊長を疑ってるんですねー宮仕えってのは大変、大変。あの人は個人は良い人だと思いますよ、部下使いは荒いけど・・・・」
 
 では始まった警備、その様子を少し見てみよう。 

 『シシル・ロイ・エリヴィラ』

(相変わらず、二人とも堅いですね。私も抜けるとよいかな、それとも二人で見回りにいかせるとか)
 何やら班分けという理由を元に、カップリングされている二人をシシルは色々妄想をめぐらせつつ見ている。とあるお節介人の助言もそれに貢献はしているが、ここではあえて触れない。
「シシルさん、何ニヤニヤしてるの」
「エリたんとロイさんは休息中は一緒のテントー」
 先ほどまで、過去の風魔法使いとの戦いに対して、自分ではどうすることも出来ない巡りあわせをちょっと感じて落胆していたシシルだった。けれどエリ&ロイがテントで一緒に気がつき妙に嬉しそうである。
「な、なんで! や、やだ」
 動揺しているエリヴィラ。
「別に、俺はいいぞ。ただ暴れるなよ、狭い」
 動じていないロイ、何か面白い二人だ。
「テントーテントー♪」
 シシルの言葉に黙るエリヴィラであった。とりあえず、警備はきちんとやった。
 テントの詳細については、本人たちに聞くとよいだろう。
 

『アーデルハイト・皇・キルト』

 比較的地味目が揃ったこの警備班。なんというか無口そうなのが大半である。
 唯一積極的に話をしそうなキルトは、ワンちゃんラブ☆ウィザードという称号をもつところからして多分天然キャラと推測されるので、他の二人とは方向性が違う気もする。
「寒いわね」
 警備中アーデルハイトが、最初に発した言葉はそれである。 
「ですわね、それにしてもこんな趣味の悪い・・・・あ、ごめんなさい。館に住んでる人なんていらっしゃるのでしょうか? 私には信じられないですわ」
「キルト殿。世の中には物好きがいる。私も現に」
 といって茗花は一瞬、まるごとシリーズを思い浮かべたが頭を振ると
「なんでもない、ちょっと仕掛けをしてくる」
「気をつけて」
 アーデルハイトの声を後に照れ隠しなのか茗花は庭へ水を撒きに向った。


 『ボリス・ルカ・イルコフ』

「今宵も月が綺麗ね」
 昇った月を見てルカが言った。
「月よりも、ルカさんのほう」
「二人とも、そんなところでボーっとしてないで、ちゃんと警備しないと」
 ボリスの気取った発言は、イルコフスキーに遮られる。
「・・・・せっかく」
 ちょっと、くやしそうなボリスを見て、
「ボリスさん、何か固執しすぎるとたいてい失敗しちゃうよ。もっと愛は広く捉えないととね」
「やです、年上がいいんです」
 優しく諭すイルコフスキーの言うことは正しい。だがボリスの偏執を変えることは簡単にはできないようだ。
「しかし、敵がヤーパンレンジャーねえ。自爆特攻とかしてくるのかしら」
 ルカのいうヤーパンレンジャーとは忍者のことのようだ。なお、捕捉だがヤーパンとはジャパンの呼び方の一つのようである。

 そして、襲撃予告の三日目がやってきた。

 泣き叫ぶような声にそれは聞こえる。ただ風の音とするには悲痛に満ちたもののような気がする。空は鉛色に染まり、重苦しい雲が頭上を覆っている。
 立ち上がった女は長い金色の髪に手をやった後、天に目をやると握った拳に少しだけ力を込めて思い出す。だが、今はためらって後悔する時ではない。まだ水の魔術士として負けてたわけではないから・・・・。
 振り返った先に二人の戦士がいる。心の扉を開くのは簡単なことではない、愛は優しいけれど残酷でもある。それでも、彼らには幸せになって欲しいと彼女は思う。
 風が吹き抜けた、どこからだろう。何かの音が聞こえる。 
「二人とも! 警戒音です」
 シシルの声の後、彼らの守る門を影が襲った。

 二本の剣がきらめくと、血が舞う。走りざまに刃を振り抜くロイへ襲い掛かるのは影たち、軽症とは言え、彼も無傷では無い。
 シシルをエリヴィラが保護する間、門など無視して現れた忍びとロイは切り結んでいた。
 剣技においてロイの技量は忍者を圧倒しているが、その数と術を使い地道に削ってくる
(危険か、そろそろ合流するべきだな)
 斬撃を受け流し続けざまにその勢いを利用して一人切り伏したロイは、視線で門を伺った。 

「シシルさん」
「エリたん危ない」
 振り上げた剣を叩きつけると地に響く、避けた忍者は背後に回りエリヴィラを狙うがシシルの魔法により吹き飛ばされた。
「あれがこちらのリーダー格のようですね」
 シシルの視線の先に一人纏った雰囲気が違う忍者、無言で立ったそれは数人の配下と共に、エリヴィラたちに切りかかった。


「どうやら、こっちが本命のようね」
 アーデルハイトの前に、ローブを羽織った何者かが率いる忍者たちがいる。
「一応みんなには知らせておいた、鍋を叩いたのだが、きっと分かると思う」
「あら茗花さん、面白いですわ、鍋で知らせるなんて」
 のんびりした様子で話す彼女たち、図太いのかもしれない。
「さあ、来なさい。シュトラウス家の誇りに賭けて、ここは通さない」
 アーデルハイトはそう言うと、剣の切っ先を向けた。


「あらら、見事敵襲らしいわね。さて、どちらに向かうのが良いかしら。全く真昼に堂々と襲って来るなんて私にたいする嫌がらせ?」
 ちょっとテンションが落ちている、ルカが愚痴る中、
「おいらは、シシルさんたちのほうへ行くよ。回復役が必要だと思うから」
「俺はって、こっちにもいません?」
 ボリスの視線の先に人影があった。
「二人、舐められたものね。ここは軍人君と私で十分かな」
「ですね、イルコフスキーさんは、援護に向かってください。俺も銀狐兵団の正規兵ですからね、そう簡単に遅れは取りません。ご心配なく」
「分かった、任せたね」
 イルコフスキーはそれを聞くと走り出した。

  
 息が苦しい。炎が綺麗だ。刃の輝きも美しいけれど。
(水は清き流れにて全て浄化するもの。あなた達をそれに抗うですね。私は悲しいです)
「シシルさん、危ない」
 エリヴィラの剣が忍者の一人を斬る、だが、続けて襲う忍者たち。
 それを見て合流すべく、向かっていたロイは突っ込み衝撃を受けながしつつも、集中攻撃を受ける。乱舞する白刃にさすがのロイもその全てを受けきり回避するのは不可能だ。
 ふ、馬鹿だな。だが、守ることに理由なんて必要ない。
 どこか冷静なまま彼は襲い来るそれを見ていた。
 赤い世界が視界に・・・・・・。
「ふーぎりぎり間に合った。無理すると怪我しちゃうよ。ロイさん」 
 忍者の短剣はほぼ止まる。走ってきたイルコフスキーの作り出した結界がロイを覆っていた。
 

「ルカさーん」
「軍人君、離れてよ。私戦士じゃないから接近戦は出来ないの、ほら敵がくる」 
「俺が貴方のナイトになります」
 なんだか、違う意味で修羅場な気もするが、ルカのスリープとボリスの連携によりほぼ・・・・って
「なんで、眠ってる奴に攻撃するのよ」
「え、寝てたんですか、てっきり倒れたのかと」
 ボリスのいらぬお節介により忍者の一人は起きて不利と悟ったのか、門のほうへ走り出す。
「・・・・軍人君」
「はい、おねーさま」
「失格」
「うう」
 ボリス・ラドノフ。色々とダメ男である。

 
「まだ立ちますか、無駄に命を散らさずとも・・・・」
 倒れたアーデルハイトと茗花は立ち上がり、門を守るように立った。
 血に染まった剣を握るアーデルハイト、彼女たちにとって忍者はさほど強力と言えなかった・・・・だが、この術士は。
「二度は言わない、退け。引き裂かれたくなければ」
 術士のその言葉を聞いて
「言ったはずよ、私の誇りにかけてここは通さないと」
「立場が違ったら貴殿もどかないだろう。それと同じだ」
 アーデルハイトと茗花は顔見合わせる。
「そうですか、ならば」
 術士が門に進もうとした時。
「ふ、不意打ちなんてずるいですわ。せっかく同じ風の術士、色々仲良くしようと思っていましたのに」
 立ち上がった、キルトはそう言うと笑った。

●疾風

 唱えた響きは二重に轟く。攻め手は孤高に頂きに登り、守は繋がる糸にて地に立つ。
「ゆきます」
 ・・・・疾風が哭いた
 二組の風と風が抗い、踊り、吹き泣いた。荒々しく猛々しく嵐はぶつかり合うと轟音と暴風が雪を巻き込み奔りだす。
 そして。
「風に対するは風。キルトと言いましたね、その名前憶えておきます。貴方に免じてここは退きましょう。早くその二人の傷を治しあげなさい。合図を」
 イレーネの合図に、甲高い笛の音が響く
 キルトのストームとイレーネのストーム、その重なった部分は、見事に中和された。
「逃げるつもりですの?」
「無駄な自信は、命を落とします。例えば」
 イレーネの言葉の後、キルトの顔に軽い痛みが走り血が流れる。
「まだ私の相手には早い」
 去っていくイレーネを見つつ
「お返しですわ」
 キルトはそう呟いた。
 
●エピローグ

 こうして依頼の目的は達成した。
 捕虜となった忍者は頑として口を割らない、ルカのリシーブメモリーで分かったことは忍者が団長であるイレーネに命令を受けた記憶だ。
 その帰り道、エリヴィラは
「ロイさん、あ、あの一緒に食事とかどうかな」
「ああ、いいぞ」
「じゃ、最近あたしがよく行くとこにしよ」
 ロイの手を引いて水竜亭という酒場にエリヴィラは行ったようだ。シシルや他のメンバーがそれを追跡したかは定かではない。 
 彼らの話はここで終わる・・・・が。

 【館】

「イレーネか、とりあえず成功おめでとう」
「座興のようなものです」
「これで、より強い不信が貴族たちに渦巻くだろう」
「死体を守るために自ら筋書きを作り、犠牲まで強いるとは、貴族とは面白い方たち」
「事実とは存在するだけで身を守る力になる。それにプライドばかり高い軍を踊らせる楽しみもあった」
「どちらにせよ、約束の報酬は頂きます。犠牲を払い条件は果たしました」
「金のためなら何でもやるか?」
「それが傭兵というものです」
「よかろう、信念など信じる者よりは裏切るまい、それよりもその手の傷は」
「戦傷です。ささやかな」

 ・・・・その二日後、ある貴族の死が報告された。

  
 了