♯少年冒険隊♭ カプリス♪
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■ショートシナリオ
担当:Urodora
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 39 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月19日〜02月22日
リプレイ公開日:2007年03月01日
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●オープニング
●変われないこと
いつか彼らがこの日を忘れてしまっても、誰かに憶えていて欲しい。
駆けて行ったその季節の証だけでも刻んでおきたい。冬の足音はもう半ばだ。春がやってくるのもそれほど遠い先のことではないだろう。
切れ切れの記憶。繋ぎ合わせた想い出はいつも残酷で、その破片は彼が彼であることを再確認させる。けれど、思い出さないほうが良い。彼は弱いから。
「ねえ、ジル。真面目な顔してどうしたの?」
「ん、ああ。なんでもない」
太陽に照らされた少年は輝き、その笑顔は眩しい。だから彼は耐えられないのかもしれない。
「行こうよ、せっかくのキエフだよ」
それでも今はこれで良いと彼は思う。彼の名はジル・ベルティーニ、みんなのジルだ。
変われないことは誰にだってあるだろう、変わりたい気持ちと同じくらいに。
希望の未来と遡る過去、鏡合わせの二つは重なってキエフの街を歩く。
強さを欲しい思ったところで、簡単に強くなれるわけなんて無い。それは選ばれた人だけが持つきらめきだから。
雑踏の中、子供たちの季節が静かに過ぎてゆく。
時は経ちまた月日は巡る。いつか彼らが大人になり陽射し翳るその日が来ても、この時間を誰かに憶えていて欲しい。
●プレリュード
繋いだ手を重ねて さあ行こう!
きっとどこにだって冒険があるから
明日の向こうにあるのが未来 進む先にある夢
失うことなんてまだ怖くない
寂しい気持ちが奏でるバラード吹き飛ばし
走りだそう
言葉なんてきっと必要ない
「ね、冒険って何?」
癖のかかった赤毛の少年は、隣を歩くハーフエルフの少年に聞いた。
「冒険、何の?」
「わかんない。ニーナのお祖父ちゃんがいってた。君らは何のために冒険するのか? だって。力の意味と同じなのかな」
「ここは、なぜなに先生の質問コーナー行きだな」
「うん、でも普段何してるんだろうね。先生」
「図書館で本とデートじゃないの、あの人行き遅れだし」
おどけつつ、ハーフエルフの少年は言った。
「そうなのかあ、美人なのにもったいないね。そういえば、ニーナは?」
「さあ、どこだろうな。目を離した隙に道にでも迷ったのかな。あいつ、ああ見えて結構強いから大丈夫だろ」
彼のいうニーナとはくしゃっとつぶれた三角帽をかぶり、ちょっとねじれた変な杖をぶんぶん振り回す、まんまるの瞳のちっちゃな魔法使いの女の子。そして、赤毛の少年はへなちょこ戦士のアレク、隣のやや背の高い細身の少年はレンジャーのジル、三人合わせて少年冒険隊。
冒険隊は、またもやキエフにあるニーナの祖父の家にやってきていた。どこにそんな資金的余裕があるのか気になるが、ニーナの祖父は小金持ちだったりもするので、旅費はそこから出ているらしい。
「あ! ニーナ。たぶんギルドだよ」
アレクは何か思い出したのか手を叩くと言った。
「なんで? また悪魔の門に行くのか、オフの時までマッドさんに会いたくないぞ」
「マッドさんって?」
「ミスター・アハハウフフ(仮名)さん」
ジルはアレクの顔見つめて真顔で言う。それを聞いたアレクは一瞬、動きを止めたあと
「え、う、、アフウフ、な、なに、それ」
なんとか笑いをこらえるアレク。
「多分、黒の僧侶のことだろ。みんな言ってたぞ。しかし、あいつは何のためにあそこに来てるんだろうな」
まったく動じていないジル、アレクはそれが不思議のようだ。
「って、ジルおかしくないの?」
「別にー俺って、ほらクールだしさ」
「ぶ、・・・・自分でいってて悲しくない」
またもや吹き出しそうなアレク、それを聞いたジルは右手をアレクの髪の毛にやり、くしゃくしゃにしつつ
「お前、結構言うようになったな、かわいくねー。ちょっと前まで『ボクは負けない』とか太陽見て誓ってただろふつーに」
「ボク、かわいくないモン。今でもお日様とお友達デス」
「・・・・ちんちんくりんの真似はやめなさい。それでなんでギルド?」
「えーと、あのね」
感じる心のままに世界を見ていた。
戻ることなき日々、特別だったあの日、夢見る明日が遠くなったとしても。
いこう! 理由なんていらない。笑顔があればそれでいいから
●ギルド
「ふわぁぁ、今日は暇だな。合宿は人が集まるのかね・・・・」
中年ギルド員は正式にさぼっていた。まあ、給料はちゃんと出るので問題はない。
そんな午後、訪れたのは小さな女の子だった。
「こんにちわー」
中年は、そのちっちゃな女の子をどこかで見たことがあるような気がした。確か、聖夜祭のレース、その次の仕事だったような。
「ん・・・・お嬢ちゃん、どっかで一回見たよな。えーといつだっけ」
「報告書名『♯少年冒険隊♭ スケルツォ♪』を参照せよデス」
「とても明快かつ事務的な説明をありがとう。で、今日はギルドに何の用なんだい? お嬢ちゃん」
「ニーナデス。うちのお祖父ちゃんが依頼していた。キエフ案内をして欲しいので来たデス」
「ああ、ニーナ・ニームちゃんだね。そうそう、あの依頼を受けた奴らなら・・・・」
ということで、依頼されていたキエフ案内が行われることとなった。
キエフ案内
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●目的
キエフにやってきた少年冒険隊を案内します。
キエフの名所案内なんてどうでしょう、もしくは彼らに冒険者としての心得を教えましょう。
特にアレクは剣技を教えてあげると喜びます。
案内&一緒に遊ぶ、訓練、自分ができると思うことをしてください。
●場所
キエフです。彼らはニーナの祖父の家にやってきたようです。
●用意したほうが良いもの
あまり気にしなくていいです。そこらはお任せ。
依頼料の他に使った食事代+おこずかいなどは、ニーナの祖父がくれるので
豪遊はできないけれど、そこそこ遊べるらしい。
お食事所は、裏通りにある水竜亭という酒場のセットメニューが一部で密かなブームらしい?
行ってみたらいかが。
●関連事項
少年冒険隊の関連シナリオです。興味のある方は報告書
「願いの意味」「♯少年冒険隊♭ マーチ♪」」「♯少年冒険隊♭ スケルツォ♪」
の参照必携です。知らない場合は、今回は目的が目的ですのでつまらないと思います。
さらにこのシナリオは「少年冒険隊&悪魔の門」と微妙にリンクしています。
といっても、キエフに戻ってくる冒険者と同じ時期に彼らがやってくる程度ですが。
●その他
この年代の子は、表向きどうであれ色々と複雑かもしれません。
もし悩みがあるとして、自分が彼らに何ができるかを考えてみると良いかも。
もしくは、自分の中に葛藤があるのならそれをはなしてあげるのも良いかもしれませんよ。
※登場人物
■アレクセイ・マシモノフ 人・12歳・♂
へなちょこファイター。人を疑うことをあまり知りません、素直で直情型です。
■ジル・ベルティーニ ハーフエルフ・16歳・♂
それなりの実力をもつレンジャー。
深刻な感情を内に秘めつつも、前向きになろうとしているひねた青少年です。
■ニーナ・ニーム エルフ・10歳・♀
風魔法使いの女の子。ウインドスラッシュ・レジストコールドが使えます。
脳内は、少しまともなお花畑のようだ・・・・。
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●リプレイ本文
●オーヴァーチュア
『それで駄目なら、手を離してしまえばいいと思った』
「クロエさん、何やってるんですかこんなところで?」
「久しぶりですね、ジル君」
「あ、何か・・・・やっぱ、普段着だと雰囲気が違いますね。大人の女って感じかも」
「誉めても何も出ませんよ。三人とも元気そうで何よりです」
クロエ・アズナヴール(eb9405)を発見したジルは手を振り駆け寄って言った。
『嘆いたからといっても、何も変わりはしない』
「キエフ案内人一号! ミュウ・リアスティ(ea3016)農業大好き」
「二号! ラッカー・マーガッヅ(eb5967)にゅー」
「三はサーガイン・サウンドブレード(ea3811)の三号。まあ、いかがです。このあたりの登場で」
「やうやうデス、案内奴隷さんたち☆」
三人を相手に色々勘違い爆裂のニーナが杖を振り回した。
『だから今は、きっと進むしかない』
「こんにちわ! ボク、アレクです。これから少しの間だけど、よろしくお願いします」
「よろしくね、アレク君。僕もキエフに来たばっかりだから詳しく案内は出来ないかも」
シフールのケリー・レッドフォレスト(eb5286)はそう言うと、アレクの帽子の上に乗った。
「はじめまして、わたくし、メイユ・ブリッド(eb5422)と申します、皆さんよろしく。そしてこちらのシードラは」
ガオー・ガオー、彼女のペットのウォータードラゴンパピーのシードラ君は、がおがおしている。
「・・・・ボ、ボクはコワクナイヨ」
「あら? じゃあ、もっと近寄ってみたらどうかしら」
アレクの様子を、メイユはちょっと楽しんでいるようにも見える。
「こ、こわくないよ」
「そう、これからはドラゴンのように強い男に目指すのよ、わたくしが必殺獣拳を伝授します。はい、レッスン、ワン、トゥー」
メイユは普通の正拳をアレクに伝授した。アレクは必殺獣拳(仮)をおぼえた、特に効果はないようだ。
その様子をロイ・ファクト(eb5887)は壁にもたれかかりながら、クールな態度で見つめている。内心は、あるハーフエルフの推定少女と依頼で一緒になれなかったことに悔しさを感じているのかもしれないが、そんな様子を微塵も見せない。
「よーし食べましょー、キエフ食べ歩きツアー決行です! ええ、それが良い。さあ、アレク君も一緒に食べましょう」
はたから聞くと少し危険な発言を発しているのは、アルトリーゼ・アルスター(ec0700)彼女の今回の目的は「食べ歩きツアー」らしい? 食い意地が関わるとアルトリーゼは性格が変わる。ワイルド・アルトリーゼに変身してしまうのだ。
こうしてキエフ案内のメンバーは揃った。
進む道がいくつ先にあっても、今という時間はここにしかない。それを後悔するくらいなら迷わず、
「じゃ、でっぱつー!」
「何それ? アレク」
「あ、ボク、いいまちがえちゃった」
「出発進行ーデス」
●IN キエフ
チリン・チリン
「いらっしゃいませー? あれラクさん」
水竜亭という酒場がある。
キエフの裏通り、ひっそりとした佇まいの中に水竜の看板を掲げている小さな酒場、そこに彼らはやってきていた。ラッカーは先日とある関係でここを訪れたばかりである。
「リュート君、こんにちはー。って、それ、エプロンですよね」
「いいところに来ました! 今忙しくて、僕は厨房にまわりますのでポチョンと一緒に給仕、頼みます」
水竜亭の店員であるリュートというパラの少年に、エプロンと変なシフールで看板娘のポチョンを半ば無理やりに押しつけられたラッカーは困惑しつつも着替えると
「じゃ、みんなご注文は何にしますかー?」
注文をとり始めた、遊びに来たのに仕事を始めるなんて、苦労症なのだろうか。
「食事は全てのエネルギーの源です。さあ、私の前に全メニューを持ってきなさい」
ワイルド・アルトリーゼは限度と言うものを知らないらしい、運んでくる食べ物を片っ端から、かなりの勢いで食べている。近寄れない雰囲気だ。
「アレク君、はーい」
「あーん、ボクのもどうぞ、ケリーさんも」
「僕は、もうお腹いっぱい」
ミュウ、アレク、ケリーは仲良く食事している
「サーガイン、下僕はゆうことを聞いて、食べさせるのデス」
「美しく素敵なお嬢さんの命令、このサーガイン光栄の極みでございます。さあ、お熱いうちにどうぞ」
ニーナとサーガインはご主人様ごっこをしているらしい。
隣では、ちょっと寡黙組のクロエやらロイは何も言わず食べている。
ジルはメイユの胸のあたりに視線でその大きさを測っているところを見つかり、表で待っていたシードラ君と遊ぶ羽目になるなど、とりあえず平和に水竜亭をあとにした一行。
「まあまあでした。だが、まだ脇が甘いですね」
店を出た瞬間、妙に真剣な表情でアルトリーゼが味について評価を下した。
彼女の欲している伝説の「味皇帝」。その称号は戦慄の味覚対決「味皇帝三番勝負」。そんなどこかで聞いたことがあるようなグルメバトルに勝利しないかぎり、その称号を得る一歩踏み出すことさえ不可能なのだ。しかし、いつそれが開催されるのかは誰も知らない。
「あれがコロッセオかあ、前に来た時はこなかったかも」
「この前、準決勝までは行ったんだけど、三位決定戦でも負けちゃった。いつかは優勝したいと思うよ」
ケリーがアレクに話しかける。
「ボクも出てみたいな」
「アレク君はそれよりも勉強しないとね。大事だよ勉強」
「う゛・・・・ボク勉強嫌い」
言葉に詰まるアレク。
「私も勉強より、畑に行ってるほうがいいかも。やっぱり冒険者は体力ないとね」
「そうそう向上心、変わりたいと思う気持ちは大事ですよー。それを思うだけで止まってしまう人は案外多いから日々の積み重ね、それがもっと大事かも」
ミュウとラッカーの言葉を聞いてアレクは
「うん、勉強は、ほどほどにがんばる」
「冒険には一見不必要な知識もあるかもしれないけど、何かの拍子で役立つことって結構あるんだよね。たとえば、美術的知識があることで、見つけた宝物の価値がわかるとかさ。ちょっとした雑学を活かして、交渉の材料にすることも可能かもしれない。なんであれ知識も必要だから、勉強もちゃんと頑張ってね」
そうケリーに諭されたアレクは、耳に痛いと思いつつもコロッセオを後にした。
「ミュは小さいけど、ニーナよりはマシ。メイは大きいっと」
ジルは、秘蔵のメモに何やら書き込んでいる。そこに掛けられた声は
「何、やってるのジル君?」
「ミ、ミュウさん」
とっさに後ろにメモを隠したが、間に合うわけも無い
「・・・・ミュって誰かなあ?」
「村娘のミ、ミーナさんですよ」
「ミューナでしょその場合。えへへ、チョップ」
ゴス、チョップが正面から入りました。
「いてー容赦ねえー」
クロエとアルトリーゼはどうなのか気になるが見ないことにしよう。
【魔境 冒険者街】
冒険者街とは冒険者が住む街である。一歩そこに足を踏み入れると、ウギャオー・シギャー・グギャー。
など、各家々から何かの叫び声が響くというある意味魔境である。たまに逃げだした元ペットのドラゴン、グリフォン、恐竜などが徘徊していることも? 依頼よりも危険な地域かも。
「いけません、また戦闘馬の暴走です。戒めのコアギュレイト!」
アレクにナンパ術を伝授するつもりだったメイユだが、先ほどから魔境の恐怖を味わっていた。
「え、なんでこんなところに凶暴そうなドラゴンが、久しぶりの冒険で私死んじゃうの、誰も守れなかった・・・・」
「仕方ありません、ロイさん実力行使です」
「ああ、分かった」
クロエとロイの不必要な緊張感を横に、ミュウの隣を通り過ぎるちっちゃなヴォルケイドラゴン。そんな怪物を連れて散歩してる人もたまにいます、取り扱いに注意しましょう。
さて、このどさくさに紛れてサーガインは
「アレクさん、こう見えても私は少しは名の知れた心優しいクレリックなのですよ。先日も、モンスターの集落が全滅させられてました、私は彼等との共存を望んでおります。そこで、貴方のような冒険者をお待ちしておりました、是非力を貸してください」
「はい、ボクでよかったら、いつでも」
アレクのホワイト真っ当オーラに返された。
「ジルさん。貴方がいるから彼等も冒険者としての形を成すと言っても過言ではないでしょう。しかし、脚光を浴びたり、貴方の想定の枠を越えるアレクさんの活躍。根は、私や黒の・・・・に近いかもしれませんね。もしも貴方が道に迷った時、御力になれるかもしれません、そしてその逆もしかり、ふふふ」
「サーガインさん、あんまりひねてるとお姉さまたちに嫌われちゃいますよ、ふふふ」
ジルは、彼の何かを知っているのだろうか(謎)
「私、死ぬかと思った」
「僕も、冒険者街ってこんなに危険なところだったんだね」
ミュウとケリーのその言葉にアレクは、
「楽しかったよね、ニーナ!」
「デスデス、ガォー」
「ほらほらニーナちゃん。見てー、えい」
ここぞとばかり、ラッカーがニーナの大好きな熊に変身した。
「くまーくまーひし」
ラッカーに抱きつくニーナ。
まあ・・・・相変わらずですね、この子たち。
●夕暮れ
夕陽に照らし出されたキエフの街はとても綺麗だった。
溶けて凍った雪の塊を蹴ると彼は言った。
「幸せを探しても、答えなんてきっとどこにもないよね」
背伸びをした影が少しだけ伸びる。河から吹く風、冷たいそれに流された黒髪を手で漉いたあと、クロエは言った。
「かもしれませんね。私達は、自らそれを選んで生まれてくるわけではありませんから。ただ、定められたまま是非もなく生まれてくるのです。そんな出来の悪い悪夢、そのキャストを演じること。それが生きるということなのかもしれませんね」
「クロエさんは、それでいいの? 自分で何も決めないで求めないで、ただ生きてるだけなの」
ジルの眼差しはいつもと違って真摯だ、クロエは少しの間、そう少しの間だけ沈黙した後、答えた。
「例えそうだとしても、私の中には生きていたいと思うほどに大切なものがまだある。そう思えるから、私は幸せなんでしょう。今、君にはかけがえの無い仲間がいる。それを大切にしなさい」
「仲間か・・・・よく分かんないな」
「君がこれから何を感じ、何を求め、何を思うのかは分かりません。けれどその舞台で躓いて何かを見失った時は、また話を聞いてあげますよ。君たちのストーリーはまだ冒頭部分なのだから」
彼女がなぜここに来て、これからどこに行くのかはクロエ自身も知らないだろう。それでも、目の前の少年を見ていると彼女の中の何かが疼く、振り返った先に過去があっても、それは遠い日々の鼓動。失ってしまったものは、きっと戻らない。それでも、劇の幕が開く限りは進むのが生きるということならば、進むだけ。
「そろそろ行きましょうか、皆待ってますよ」
クロエはそう言うと、早足に進んで行った。
「ロイさん、エリヴィラお姉ちゃんはいっしょじゃないの?」
先ほどから黙々とついて来ているだけのロイにアレクは声をかけていた。アレクが冒険者となるきっかけとなったのは、ロイともいえる。アレクにとって、彼はちょっと特別な存在でもあった。そして、エリヴィラとはロイと懇意の女性のことである。
「置いてきた」
「えー、おいてかれたんでしょ。だって悪魔の門でボクお姉ちゃんに会ったよ」
「・・・・」
「都合の悪いときは無口になるよね」
「まあ、いい。アレク、以前、強さとは何かと聞いてきたことがあったな?」
「うん、強さの意味。だよ」
「はっきり言えば、俺はその問いに明確な答えを返すことはできない。あの時言った答えも俺なりの考えの一つではあるが」
「前に進むこと、その意思を持ち続ける心のこと?」
アレクは以前ロイが話した言葉を思い出した。
「ああ、俺自身、まだその答えを求めている最中だ。俺には強さというものを知識として教えてやることは難しい。だが、力を得るための手伝いならしてやれる」
ロイはそう言うと、自らの刀に手をやった。
「剣の使い方を教えてくれるの?」
「前に進む気があるなら、少しぐらいは稽古の相手をしてやってもいい。ただし、楽ではないぞ?」
「うん、うん。ボクがんばるね、ロイさんありがとう」
無邪気に喜ぶアレクを見て、ロイは珍しく笑みを浮かべるのだった。
●伴奏曲
女がいる。
シシルという名である。
男がいる。
ラッカーという名だ。
キエフの街で再会するはずの二人、互いの影を追った。走り去ってゆく幻、すれ違う二人は出会うことなく、このまま終りを迎えるのだろうか。
「あれ、ラクさん?」
「良かった、会えたシシルさん」
ラッカーの手に青いストールが光る、手に入れたそれは彼女の瞳と同じ色。
「あの、これをこの前のカードのお返しです」
その手によりシシルに掛けられるストール。
「ありがとう、ラクさん」
楽章は一つ進む。
「ふー、やっぱり一人って寂しいかも」
雑踏の中、歩く少女の名をエリヴィラ。帰ってきてみたのは良いが落ち着かない彼女はキエフの街に一人繰り出していた。
売り子の声、人込みに疲れたエリヴィラは開けた広場に居た。その彼女に歩み寄るのは
「どうやら、生きて帰って来たようだな」
彼女の視線の先の男、にこりともせずそう言った。
「・・・・久しぶりなんだから、もうちょっと言い方ってものがあると思うよ」
「何をふくれているんだ。そんなことより、愚者の騎士はどうだった?」
ロイは乙女心というものを理解できない男である。それを聞いてエリヴィラは当然
「知らない、あたしもう帰る。ばいばい」
彼女はそういい残すと、振り返りもせず去って行った。
それを離れたところから見物していた、メンバーもここぞとばかり近寄ってきた。
「あーあーやっちゃった、ロイさん」
「私が言うのもなんですけれど、さいてー、さいてーです」
「何か、色々と拙いですね」
アレク、ミュウ、アルトリーゼに駄目だしを喰らったロイは、とりあえず何事も無かったように取り繕う。
「僕思うんですが、早く追ったほうがよいと思います」
「怒らせると後で怖いですわね、色々と」
「まあ、失恋というのも一つの経験ですかね」
ケリーとメイユの追い討ちにサーガインの止めである。さすがのロイもこれに敵わず走り出した。
吐く息は白い。
やって来た闇に街並は灯火につつまれていく。星の輝きが空にも昇るころ、走る男に振り向いた女は無言のまま立ち尽くす。歩み寄る二人。このまま照らされた影が一つに重なったとしても、月は何も言わず二人を祝福するだろう。だから夜は、奏でられる冬の吐息の伴奏を聴きながら、静かにその影を見つめていた。
了